ふと角を混ざった先に目を向けた。
(あれ、あんな子、いたっけ。)
そこには、長い茶色の髪を揺らす、脚の長い、背筋の伸びた少女が、優理の高校、葎花高校の制服を着ながら優雅に歩いていた。
(こんなのんびりした時間に、ここを歩いてるなんて、珍しい... 何年生だろう。昨日の入学式にいたっけ?...歩いてたら遅刻するんじゃない?知らないのかな。)
知らない人に突然話しかけることは優理にとっては特に恥ずかしいことだとは思っていない。
「あのーー!この時間なら、あのもう45分くらいだと思うんですけどぉー!歩きじゃ間に合いませんよー!駅そっちじゃないしー!!!」
その声に、振り向いた。
まさに見返り美人。端正な顔立ちに圧倒された。
そのため、彼女の表情が一瞬曇ったことに気づかなかった。
「...あら、ごめんなさい。1日遅れの入学なもので...。私、この辺の地理に詳しくないの。教えて頂けると助かります。」
「あ、いいです!いいですよ。全然。この角じゃなくて、あっちの角を曲がって〜」
「...成る程。ありがとう。助かりました。ご丁寧にどうも...。 まつもとゆうりさん、って言うんですね」
突然名前を言い当てられて戸惑った。
「え、なんで名前を!!!!」
そうすると彼女はクスクスとキツネのように笑いながらカバンのストラップを指差した。まつもとゆうりと書かれたプレートを持つたぬきのキーホルダーがぶら下がっていた。
「私ばかり名前を知ってしまうのは悪いですね。私は大地優奈(だいちゆうな)。よろしくね。」
そんなやりとりがあったあと、もう優理は例の出来事の事はどうでもよくなっていた。
そう、どうでもよく。
不気味なほどに