「えっ」
好きな人…
新原さんは顔を赤らめていた。
どうしよう。
『いる』って答えたら質問攻めされそうだし、『いない』って答えても…
「…さあね」
「えっ?」
俺が出した答えはこれだった。
「新原さんがいないって思うならいないし、いるって思うならいるんじゃない?」
俺は何か聞かれる前にじゃあねと手を振ってその場を去った。
そして、一人残された夢葉(新原)は、こうつぶやいた。
「…絶対いるじゃん…」
そんなことを思い出しながら、家を出た。
雨が傘に当たって音をたてる。
しばらく傘からつたたり落ちる雫を見つめながら歩いていると、前に見覚えのある姿をとらえた。
新原さんだ。(>>69、>>70参照)
どうしよう、声をかけたほうがいいだろうか。
でもそこまでしなくても…
そう考えてるうちに、足音で気づかれてしまったようで、新原さんが振り返った。
目が合うと、新原さんは途端に笑顔になった。
「陽先輩!!」
新原さんは笑顔で駆け寄ってきた。
「新原さん、おはよ」
「おはようございます!!いやぁ、まさか朝から先輩と会えるなんて思ってませんでした」
「いっつもこの道通るの?」
そう訊ねると、
「いや、いつもは別の道使ってるんですけど、今日はなんとなくこっちで行ってみようかなって」
「へー。そうなんだ」
「陽先輩はいつもこの道なんですか?」
「うん」
「じゃあ、これからこっちの道で行こうかな」
新原さんは楽しそうに笑った。
「あ……ところで先輩、彼女さんいるんですか?」
彼女、という響きを聞いて、緩莓の顔が思い浮かぶ。
いや、でも俺達はそういう関係じゃないし……
両思いなだけで…。
「…いないよ」
そう答えると、新原さんは目を丸くした。
「えっ…先輩、いないんですか」
新原さんが足を止めた。
「?…新原さん?」
不思議に思って足を止めると、新原さんはなにか決意したような顔でこっちを見つめた。
「私、陽先輩のことが好きです!付き合ってください!」
考えるよりも先に、口が動いた。
「ごめんね。俺ずっと前から好きな人がいるんだ。気持ちはすごい嬉しいよ。ありがとね」
そう言うと、新原さんはなぜか納得したような顔をした。
「…実は、なんとなく気づいてました。陽先輩は好きな人がいるって」
「え……」
「頑張ってください。応援してます!」
新原さんは、振られたのにも関わらず、明るい笑顔を浮かべてそういった。
すごく強い子だ。