早速、彼は署長と新しい任務に関して相談した。初め、署長は上機嫌だった。確かに、銀行員数人の命よりは議員一人の命を守った方が評価は高いだろう。しかし、犯人について話し始めると、態度が一変した。犯人は一人だと言ったところで、署長は机を叩いて、
「違う。三人だ。実は、密かに私も調べていたのだが、共犯者がいた。共犯者を探すのをサボったな?」
と怒鳴りつけてきた。その通り、彼は犯人一人を見つけたところで有頂天になり、共犯者を探すことを忘れていた。
そのことを正直に署長に伝えると、署長はため息ついて、何も言わずにどこかへ行ってしまった。一人残された彼はしばらく呆然としていた。
2日後、署長から突然連絡があった。犯人が多いから、動員人数を増やしてやるという事だった。さて、何人増えるだろうかと期待に胸を膨らませていたが、増えたのは一人だった。つまり二人で三人の犯罪者に向かえと言うのである。やはり、この署長は優しくなどなかった。真っ黒だ。何も楽にならない事が分かった彼は、がっくり肩を落とした。すると後ろから見知らぬ男が声をかけてきた。
「あの署長は勤労精神に満ち溢れているんじゃなくて、費用を切り詰めたいだけの守銭奴ですよ」
取りに足りない悪口であったが、彼はその一言を聴いただけで、確信した。
「君が新しい仲間だな」
(>>16のつづき)
「あっ、そうです。ジョン・ケニーと言います。よろしく」
と言って、ケニーは彼の肩を叩いて、奥の方へ行った。彼は叩かれた肩に手を置いて、奥の方をまじまじと見ていた。
その後、何度かケニーとマッケインは私的に会うようになった。話す内容は殆どが悪口だ。ケニーも、もしかしたら署長の無茶振りに悩まされていたのかもしれないなと、マッケインは思った。だから、仕事の話も、必要最小限しかしなかった。
そして、犯行当日。二人はフーヴァー議員の乗るタクシーを待ち続けていた。それも真夜中である。また、真夜中である。
「なあケニー、こうしてみると俺たちが犯人みたいだな」
マッケインは互いの服装を見ながら言った。二人とも暗闇に紛れるように地味な服装にしているが、かえって違和感しかない。
「どっちかというと変質者……かな」
とケニーが言った。確かにこんな真夜中に路上でコソコソしている男二人組などロクなものではあるまい。