貴女に沈丁花を

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227:匿名:2023/11/18(土) 01:57

「······そういえば、リリー?」
欠伸を噛み殺しつつ、ネアがリリーに話しかける。
「なんでしょう」
「イリスが起きてからでいいけど······ここに変な二人組が来なかったか聞いてくれるー?」
変な二人組。言い方が悪いが、恐らくアレクとサロメのことであろう。
「変な······まぁ、ここに誰か来るという事自体が稀でしょうしね。わかりました」
リリーは軽く頷いてみせた。何故ネア本人が聞かないのか、という疑問は彼女の中には湧いてこない。降りて来るまでの時間からして、恐らく睡眠以外の事をしていただろうし、休憩さえできればネアは戦いに行くだろう。そのくらいの事ならわかるのである。
「······寝てませんね?」
「スミレが寝かせてくれなくてさー」
「逆では?」
「······そうかもしれない」
ふぁ、と彼女はもう一つ大きな欠伸をした。油断すれば今にも寝てしまいそうである。このまま惚気談義に花を咲かせるのも悪くはないだろうが、それよりもこのままだと悪影響が出るかもしれない、とリリーが動いた。
「それはそれとして、ネア。今の力なら余裕とか思っているのかもしれませんが······寝る時はちゃんと寝ましょうね?」
諭す口調。まるで母親か師匠のようであった。ネアはそこに聳え立つ氷山のような物を幻視して、素直に引き下がる。
「うん。······何かあったら呼んでねー」
また大きな欠伸をしつつ、ひらと手を振って彼女は二階へと戻っていく。展開・投影された大規模索敵魔法はそのままに。
「······」
リリーはその地図にも似たものを見上げる。右下の一角では赤・青・緑の三点が建物らしき物を挟んで対峙している様子が見えた。青・緑は味方、赤は敵である。恐らくその二人は、孤立した機械兵を二対一の条件で葬ろうとしたのだろう。······しかし、緑の点が回り込んで側面攻撃を仕掛けようとしたらしい所で────何が起こったのか、その二つの点は何の前触れもなく消えてしまった。
「······!」
思わず、眠っているイリスを見る。起きる気配すらない。口が動かなければ眼帯の関係上片方の目許から状態を判断しなければならないが······安らかとしか言いようの無い寝顔である。
「······そろそろ私達も出た方がいいかな?」
今まで黙っていたイエローベルが不意にそう言った。
「私達、と言うと······レッドベルさんも行くんですね」
「そうなるね。······失血がどうとか言ってたけど、実の所それも何とかできるんでしょ?」
それにリリーは答えず、おもむろに座り込んでいたレッドベルの頭へ手を触れたかと思うと、
「······『ブラッドリジェネ』。複製魔法の応用ですよ」
「これは?」
「失われた血液がゆっくりと複製されていく魔法です。······多分、最終的には現在量の1.5倍くらいになるかと」
「······なるほど。ありがとう」
憔悴からかレッドベルは素直に礼を言った。そして立ち上がる。今度はふらつかずに。
「よし、行こう。シルバーベルとオレンジベルに休む時間をあげないとね」
そしてそのまま、駆け足とまではいかないものの、小走りくらいの速度で外に出ていく。イエローベルもまた、それに五秒ほど遅れて出ていくのだった。
「······回復、まだほとんどされてない筈なんですけど······」
思い込みの力は凄いですね、とリリーは独りごちる。······そう、彼女はまた一人の時間に沈んでいくこととなった。


◆Ec/.87s:2023/11/21(火) 01:24 [返信]

>>227の地の文の『恐らくアレクとサロメの事であろう』は『恐らくアレクとペレアの事であろう』の誤りです。申し訳ありません。


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