花の島に冬が来た。
大陸で買った地図を見たスミレは頬に手を当てる。
「(······国名はわからないけど、多分これがユーラシア大陸の名残だと思う。なら、ここは······)冷帯寄りの温帯、かな······」
スミレがこの島に来たときには不死身の体を生かして深海を歩いてやってきたのだ。地理的知識もあったものではない。
「(なんか、一緒に過ごす人がいると、こんな日常の気候まで感じられるんだね。凄い······)」
口の中で呟いてから、そういえば暖炉あるんだった、と思い出して、そろそろつけようかなーとそこに着いた時、
「あ、燃料無いよ······」よりによって、今さらの事実に気が付くのだ。
「ネアーっ!」
「ほいほいどうしたのー?」呼ばれたネアは直ぐにやって来る。
「暖炉に燃料がない!」
「······あー」
魔法があるではないか、と思われがちだが、『すずっと火を点けたままにする』のは相当難しい。
魔力を常に練ってなければならないし、それにずっと同じ火力のまま調節することもなかなか集中力を削る作業なのだ。
「一緒に買ってくるー?」
「そうするしかないかあ······」
大丈夫このくらいー、とネアは微笑むがわずかに申し訳なさを感じるスミレだった。
「あれ、姐さん方どこか行くんですか?」アヤメが手をこすりながらやって来る。
「ちょっと暖炉の燃料を······」スミレは苦笑する。
「あー、使わないのかと思ったら······行ってきてください、二時間なら耐えられます」
「そんなにかかるの前提なのー?うん、行ってきまーす」
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瞬間移動。
二人は大陸の街角にいた。
行き交う人々も暖かい格好をしていたり、その他にも手を繋いだりして暖をとっている。
「なら、私達も······」
「うん」
スミレとネアは互いに手を繋ぎ、寄り添いながら街を進んでいった。
>>62訂正
すずっと火を →ずっと火を
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「薪とかなら市場に行った方が早いよー」
互いにぴとっとくっつきながら街をゆくスミレとネア。
一応二人とも長袖の服を着ているのだが、それでも生地の関係で寒さはあまり防げない。
「市場市場······」
速くなる鼓動を無理やり抑えながら市場に駆け込む。
途端に色々と暖かい物の誘惑が襲いかかってくるが、アヤメを待たせているので屈してはならない。
「すいません薪くださいー」
数分後、二人は鍛冶屋の前にいた。そう、アヤメも訪れたここである。
「んー?あいよ。······で、どうした、普通薪屋に行くだろ」
「裏ルートって言うやつですよー」何気なくネアは答える。
大量の薪を空間収納魔法に片付けて代金を払った時、島を出てから二十分程度。余裕の時間だった。
「どうするー?どこか寄るー?」
「いや大丈夫。流石にくっついてても寒い······」
「うん。じゃあ帰ろうかー」
そしてネアは一瞬だけスミレを抱き締める。
戻ったか戻らないかのうちに、瞬間移動。
「ただいまー」
「·········うん」
「はーい」体を抱え込むようにして二人を迎えたアヤメは、過去最大級に赤くなっているスミレを見て苦笑する。またやったんですか、と。
アヤメの視線を避けてスミレを見つめるネアも、やはり恥ずかしそうだった。
「薪出してください、火を起こしてきます」
紙と五十本程度の薪を持ってアヤメは奥へと消えていく。
家が暖まるまで、スミレとネアは寄り添っていた。