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殺「にゅう……。海さん、その後のお体の調子は大丈夫ですか?」
殺せんせーは海の進路相談の紙を見ながら聞いた。
海「……そのことなんだけど、今日も病院に行かなきゃいけないから早退します」
殺「おや、そうですか……」
しばらくの間、互いに何も話さなかった。
海「……殺せんせー、私ね。この教室に来てから色々迷うんだ。現実と、理想の間でさ」
海は視線を遠くの方へ向けた。
海「私は、殺し屋。でも、他のみんなは、元はどこにでもいるような普通の中学生たち。殺しが縁で集まった人たちばかりだ。私が殺し屋として生きている間に、彼らはきっと別の世界で生きていたんだなって、毎回。思っちゃうんだ……。自分と同い年の子が、こんな幸せそうな世界で暮らしているのを、羨ましく思ったり、妬ましく思ったり……。そういう現実と、自分もそういう風になりたいなっていう理想との間で、苦しくて苦しくて、しょうがないんだ」
殺「………」
殺せんせーは黙って海の話を聞いていた。
海「私ね、未来が視えないんだ。みんなみたいに、こういう風になりたいっていう、たしかな未来が。理想と未来は全然違う。理想はこうなりたいって思うだけ、でも。未来は先の先を歩いていく。そんな気がする。どんなに未来を視ようとしても、その先が真っ暗になっちゃうんだ……」
殺「未来とは、視えるものではありませんよ。造りだすものです。あがいて、失敗して、修正して。そういうことを繰り返していくことで、未来は造られていくんです」
海「………」
海は黙った。
殺「例えば海さんの好きなものはなんですか?」
海「好きな、もの……」
海は目をつぶった。
?「何を読んでるの?」
××の声に海は顔をあげずに答えた。
海「人間失格」
?「うっわ、難しそうなの読んでるのね」
海「××さんも読む?」
?「ふぇっ! うーん、また今度ね」
海「面白いのに」
海は××の困ったような顔を見て、からからと笑った。
海「本、かな……」
殺「では、そこから連想させてください。自分の未来を」
海「……図書館司書、とか。あとは、小説家、とか……」
殺「そうですね。そうやって、未来を描いて、造りだしていくんです」
海「でも!」
海は思わず大声をあげていた。ハッとして、すぐに口をつぐんだ。
海「……ごめんなさい、なんでもありません。でもね、せんせー」
海はゆっくりと顔をあげた。
殺せんせーの目に映ったのは、悲痛に顔をゆがめた海の顔だった。
海「どんなに思い描いたとしても、叶わないものは、叶わないんだ……」
海は「失礼しました」と一言言うと、職員室をでていった。
殺「にゅう……。これは、困りましたねぇ……」
☆
渚side
職員室へ向かう途中で、海とすれ違った。僕は彼女に声をかけた。
渚「海!」
海「何、渚」
どうしても、聞いておきたいことがあった。
渚「あの、海……。海はさ、死神と会ったときどう思った?」
そう聞くと、海はビクッと体を震わせた。
海「どう、思ったって……?」
渚「えっと……」
どう言えばいいんだろうか。
答えに迷っていると、海が口を開いた。
海「死神もどき」
渚「え?」
海の口からその名前が飛びだすとは思わず、僕は驚いた。だって、彼女はよく「死神もどき」と口にした人に対して殺意を抱くから。
海「私が殺し屋になって間もない頃、殺しの世界でささやかれ始めた、私のもう一つの名前。どうして、『死神』じゃなくって、『もどき』なのかわかる?」
海の質問に僕は首を横に振った。
海「決して私が、『死神』にはなれないから」
渚「どういうこと?」
海「私が殺し屋になった理由、渚には話したよね?」
僕はうなずいた。
夏休み
海「渚、私が殺し屋になった理由はね。至極簡単なんだ。私が殺し屋になった理由、それは……殺し屋を殺すため、なんだよ」
海「そのために、私は『死神』と同じくらい。あるいはそれ以上に様々なスキルを会得し、それらのスキルを高めていった。でも、決して『死神』にはなれなかった。理由は簡単。 『死神』には持っていて、私には持ってないものがあるから」
渚「……それ、って?」
思わず、聞いていた。
海はクスッと笑うと、
海「これだけは教えてあげない。……渚」
海が真剣な顔になった。
海「殺しの世界は、この教室ほど温かなものじゃないよ。現実はもっと、残酷だから」
渚「う、ん……」
海「それから、カイから伝言。帽子、これからは肌身離さず持っておけ、だってさ。授業中も被っとけとかなんとか……」
渚「え、授業中も⁉」
海「よくわかんないけど、よろしくね。それじゃ、また明日」
渚「え、まだ授業残ってるよ⁉」
海「これから病院なんだ」
そう言ってから、海は何度か咳をした。
海「それじゃね」
渚「うん。また明日……」
海に手を振ってさよならをしてから、僕は職員室へ歩いていった。
渚「失礼します」
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ここから渚回だけど、私も好きな回だが、原作通りになるので飛ばします( ノД`)
場面は学園祭から!