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あかりside
あか「うー……」
私が机に突っ伏して唸っていると、友だちの唯香が声をかけてきた。
唯「どしたのよ、あかり」
あか「お姉ちゃんに彼氏ができたらしいんだけどさ、なかなか教えてくれないんだよ……」
唯「え、彼氏⁉ たしかお姉さんって柳沢って婚約者がいるんじゃなかったっけ?」
唯香にそう言われた瞬間、私はふふふと笑った。
あか「新しくできた彼氏さんが、柳沢からお姉ちゃんを奪ったんだよぉ〜!」
唯「何それ、すごっ!」
この話を初めてお姉ちゃんから聞いた時、本当にすごいと思った。あの柳沢からお姉ちゃんを奪うとか、まるでラブコメみたいだった。
唯「あかり、あれ」
唯香が指し示した方向、窓の外を見た。手を振っている子がいる。
唯「今日も来てるんだね」
あか「うん。……唯香、私帰るね」
唯「うん、バイバーイ」
教室をでて校門前に走っていくと、椚ヶ丘の女子制服を着た子が待っていた。
あか「お待たせ、海」
海「教室で話し込んでたみたいだけど、大丈夫なの?」
あか「全然平気ー」
海は私の双子の妹……と、世間的ではなっている。本当は血が繋がっていない赤の他人。柳沢の実験の被験者だったらしいんだけど、お姉ちゃんにある日、連れられて私の前に現れた。
☆
海「はじめ、まして……」
あか「……お姉ちゃん、この子誰?」
あぐ「柳沢さんのね、実験の被験者だった子なの」
柳沢がどんな実験をしていたかを私は知らない。でも、国で非公式の実験をしているということはお姉ちゃんから聞いていた。
あぐ「一応ね、私たちの妹なのよ」
あか「い、妹⁉」
私は目を白黒させた……。
☆
海「そろそろ暑くなってきたから、今日は冷しゃぶにしない?」
あか「いいね、それ!」
私たちが仲良くなるのに、そんなに時間はかからなかった。今では一応、なんでも話せる仲。
あか「ねぇ、海はさ」
海「うん?」
あか「お姉ちゃんの彼氏さんに会ったことある?」
そう聞くと、海は目を大きく見開いた。
え、何その反応……。
あか「ねぇ、どうなの?」
海「あ、会ったことはあるけど……」
あか「むぅ……。私だけ仲間はずれじゃん」
海「あ、あはは。でもその人……人か。うん、その人ね。けっこう忙しい身らしいんだ。でも、いつかは会えると思うよ」
曖昧な答えを返された。
渚side
もうすぐ夏休みになる。僕らはA組に期末テストで勝った報酬として南の島へ行くことが決まっていた。
そこで、僕らは……。
「え、私も行っていいの⁉」
そう言う海の言葉に、僕らはうなずいた。
「だ、だって私A組だし。みんなと一応は張り合ってる仲だよ⁉ それなのに……」
「海はもう、僕らの大事な仲間だよ」
すると海は顔を真っ赤にして、「そ、そうかな……」と恥ずかしそうにつぶやいた。
「あのさ、もしも私を誘うんだったらもう1人いいかな」
「それってもしかして、浅野クン?」
「違う」
カルマくんの言葉を海は即座に否定した。
「うーんと……」
そこへ雪村先生が教室に入ってきた。
「あら、海。来てたのね?」
「あ、あぐりさん。……あのさ」
そう言って海は雪村先生に近づいた。
「そうそう、海。みんながね、海も一緒に南の島にどうかなぁって」
「それはもう聞いたんだ。ただ……そこにあかりを誘ってもいいかな」
「え、あかりを⁉」
雪村先生がひどく驚いているけど、誰だろう、「あかり」って。
「うーん……」
「ね、いいでしょ。大丈夫だよ、私がすぐに馴染めたクラスだからあかりもすぐに慣れるって!」
「私の口からはなんとも言えません。決めるのはあかりよ」
「よっしゃ!」
海は1人で喜んでいるけど……。
「で、誰なの? 『あかり』って」
中村さんが聞いた。
「私の双子のお姉さんだよ」
「ふ、双子⁉」
「顔は全く似てないけどね」
海は苦笑しながら言った。
いったい、どんな人なんだろう。「あかり」って。
☆(あかりside)
夕飯の準備をしていると、ちょうど海が帰ってきた。
「ただいま〜」
「おかえり、海」
海は靴を脱いでこっちにやってきた。
「ねぇ、あかり。夏休みって予定ある?」
「ないけど……」
味噌汁の味を確かめながら答える。うん、いい出来。
「じゃあさ、あぐりさんの彼氏さんに会ってみない?」
「⁉」
いきなりの不意打ち発言に、再度味見をした味噌汁をふくところだった。