>>767
LINEをしようとしたところで、千葉からいきなり通知が来た。
え、ちょっと待って!
「大丈夫か⁉」
何が?
「海から連絡があって、速水に何かあったって……」
う、海……。
まぁ、きっと彼女なりの配慮なのだろう。
「大丈夫、なんでもなかった」
そう送ると、即座に
「そうか」
………。
「ねぇ、電話してもいい?」
「いきなり⁉」
私の言葉に千葉が驚いた返事をした。けれど……。
「いいよ」
と即座に返事が来た時、私はその返事が欲しかったにもかかわらず、緊張してきた。
「じゃ、電話するね」
私はLINEで通話しようと思ったけど、普通に電話しようと思った。
しばらく、向こうから受話器が降りる音が聞こえなかった。
やがて……。
「もしもし」
という、千葉の声が聞こえた。
私は緊張して、声がでなかった。何か言わなきゃと思うたびに、何を言えばいいのかわからなくなる……。
「……速水、聞こえてるか?」
「あぅ、うん、聞こえてる、よ……」
親がいなくてよかった。いたら絶対怪しまれるもの。
「なんで急に電話なんだ?」
「………」
どう答えればいいんだろう。
声が聞きたかったから、なんて言えない。恥ずかしいし。
「速水?」
名前を呼ばれるけど、返事ができない。
息が、苦しくて。
「大丈夫か?」
「う、ん。大丈夫……」
大丈夫なのかな、私。
千葉の声が聞こえなくなった。ちょっと、不安になる。
私は壁によりかかった。冷たい壁は熱くなっている頬に心地よかった。
「今日は、悪かったな」
「どうして、謝るの?」
「……女子ってさ、いきなり男子に手を握られたら嫌だろ?」
どう答えればいいのかわからなかった。
嫌とかそういうのではなく、でも、さっき握られたとき。すごく心臓がドキドキして、息が、今みたいに苦しくなって。どうしようもなくなって。千葉の声も、遠い遠い世界にいるみたいに感じて……。
「嫌とか、そういうのじゃなくて。なんか、その……恥ずかしかったっていうか。ドキドキしたっていうか……」
「⁉」
電話の向こうでガタガタと激しい音が聞こえた。
「だ、大丈夫⁉」
「あ、ああ。平気だ……」
そ、そう……。
私はほっとした。
「私さ、今まで男子と付き合ってなんて、来なかったから……。何をどうすればいいのかとか、そういうの。よく、わからなくて……」
千葉は黙っている。
不安になるけど、心臓もドキドキして、電話の向こうに聞こえやしないかと、ひやひやしてるけど……。
千葉が私の手をとって、銃を一緒に持ってくれたとき。そのまま体を預けてしまいたいような衝動にかられた。でも、きっとそんなのは気のせいじゃないかとか。そんなことも、チラッと考えた。
私は結局、何を言いたいんだろう。
何か言わなきゃと思えば思うほど、何を言えばいいのかわからなくなる……。