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「いきなりすぎない?」
「うん、いきなりだとは思ったよ。でも、あぐりさんの彼氏にさ、会ってみたくない?」
海の何か狙いをつけたような目に、私は興味をそそられる。
「たしかに、そうだけど……」
「なら決まりね」
と、あっという間に決められてしまったんだけど。
「え? ていうか、どこに行くの?」
「南の島」
どこよ、そこ。
☆(渚side)
夏休み
僕らが島に着くと、海が出迎えてくれた。
「お疲れー」
海は僕らより先に島に来ていた。えーっと、雪村先生の妹さんも一緒にいるらしいんだけど。
雪村先生が海に聞いた。
「海、あかりは?」
「それがさ、恥ずかしがってでてこないんだよ」
そう言いながら海は困った顔をして殺せんせーを見た。
「姉の彼氏が人外だって知ったら、あかり。どう思うかな」
「え、か、かかかか彼氏⁉ な、何言ってんのよ、海!」
「あれ、違うの?」
海は今度は僕らを見た。
中村さんが即座に言った。
「私たちもてっきり、雪村先生は殺せんせーと付き合ってるもんだと思ってたけど」
「え、な、何を言って⁉ ね、ねぇ、殺せんせー?」
「え、あ、え⁉」
そんな2人の様子を見て、海はにやにや笑っていた。
始めからそれが狙いだったのかな……。
「まぁ、殺せんせーのことは後回しにしておいて。みんなに紹介するよ」
海は僕らに「こっちへ来て」と言って走りだした。
「おーい、あかり。みんな来たよー」
僕らが泊まるホテルの玄関に着くと、海はそこで声を張り上げて雪村先生の妹の名前を呼んだ。
「どこに隠れてんのさ、ったく」
海はしばらくそこら辺をウロウロしていたけど、やがて。
「あ、みーっけ」
「⁉」
近くの物陰がガサガサ動き始めた。海はそこへ行き、
「ほら、早くでてきなよ」
「え、でも……」
「大丈夫だよ、みんな人間だから」
「……それどういう意味?」
海が引っ張って来た子は……。
「かわいい子じゃん!」
岡島くんが即座に言った。
たしかに、僕も見惚れてしまった……。
雪村先生に顔は似ていないけれど、黒髪のところが似ていた。ウェーブのかかった、綺麗な髪だった。
「彼女が雪村あかり。あぐりさんの妹だよ」
「はじめ、まして……」
雪村さんは頭をさげて僕らに挨拶をした。僕らもなんとなくそれにならって頭をさげた。
「え、てか磨瀬榛名じゃん!」
三村くんの言葉に僕らはハッとした。
たしかに!
「あ、えっと。前に、その名前で役者をしてました……」
「マジで⁉」
雪村さんは恥ずかしそうにコクリとうなずいた。
僕らがそれぞれ黙っていると、海はいらいらしたように声を上げた。
「あー、もう! かたっくるしいなぁ。あかり、敬語なし!」
「うぇっ⁉」
「それからみんなも、そんな離れた位置にいないでもっと近くに来てよ! なんでこんな他人行儀なのさ、みんな!」
「なんかごめん……」
僕らは2人に近づいていった。
本来、この南の島に来たのは殺せんせーを暗殺するためのはずなんだけど……、何故か僕らは一日じゅう遊びまくってしまった。もちろん、殺せんせーと雪村先生も一緒で。
「あー、遊んだ、遊んだ」
「もう、海ったらはしゃぎすぎだよ……。疲れちゃった」
「あはは」
海は持ってきた扇子で扇ぎながら、雪村さんの言葉に笑っていた。僕らもすごくはしゃぎすぎた。おかげで汗だくだ。
「でもさ、あかりも楽しかったでしょ。ついでにあぐりさんの彼氏さんにも会えたし」
「う、うん……」
雪村さんはうなずきつつ、微妙な表情をしていた。まぁ、そうだろうな。自分の身内の彼氏が人外だなんてちょっと複雑だよ。
「さて、夕飯食べた後はどうするの?」
「あ、殺せんせー暗殺の予定だけど。その前に花火大会をしようって話になってて……あ!」
僕は慌てて口をふさいだ。案の定、雪村さんはポカンとしていた。
「あん、さつ……?」
まずい、雪村さんはこのE組の事情を知らない。口を思わず滑らせてしまった僕のミスだ。
「この前、月が爆発を起こしたニュースはあかりも知ってるでしょ?」
「海!」
僕は慌てて海を制そうとした。けれど、海はかまわず続けた。
「それの犯人と言われているのが、彼。殺せんせーなの。彼は来年の3月、地球を爆破する予定で、そうならないために彼を殺すっていうのがE組に課せられた課題みたいなものらしいよ」
あぁ、全部話しちゃった……。
雪村さんは目を見開いて驚いている。
「信じられないかもしれないけど、それが事実みたいだし」
「そ、う……」
雪村さんは茫然としていた。
☆
夕飯を食べ終えると、僕らは花火大会を始めた。といっても、僕ら生徒で持ち寄った花火道具でひたすら花火をしながら遊ぶだけなんだけどね。
「あかり、ほら見て! 超きれいだよねぇ!」
海は雪村さんに花火を見せつけながら、楽しそうにしていた。いっぽうで、雪村さんは複雑な表情をしていた。
「ねぇ、雪村ちゃん。どうしちゃったの?」
中村さんが不思議そうな顔をしながら僕に聞いてきた。
「海が殺せんせーのこと、全部話しちゃったんだ」
「え、それってまずくないっ⁉ ただでさえ、あれは国家機密なのに」
うん……。
「場合によっては記憶消去もありうるかもしれないよね」
カルマくんがボソッとそんなことを言っていた。
☆(あかりside)
何か、変だ……。
「あかり?」
「え、何?」
「いや、なんか思いつめたような顔をしてたから。何かあったのかなぁって思って」
「だ、大丈夫だよ!」
変だって思うのは、あの殺せんせーとかいう謎の生物のせいだろう。そう思うことにした。
「今日は楽しかったね」
海が花火の後片付けをしながら私のほうを見て笑った。私もその笑顔にうなずいて、笑顔で返した。
「最初はちょっと緊張したけど、海の言う通り。みんな良い人たちで助かったよぉ」
「ふふっ」
あれがお姉ちゃんが受け持ってるクラス、か。
あの人たちが、自分のクラスメイトだったらどんなに楽しいだろうか。
「よし、これで終わりだ。戻ろ、あか……」
海の言葉が、そこで止まった。
「さ、下がれ、あかりっ!」
「え⁉」
海が私を引っ張って、私は海の背中にまわされた。
「⁉」
「お前、誰だっ⁉」
海の言葉に、私は海の背中越しでその人物を見た。
夏なのに、黒いマントを着ている、なんとも暑そうな格好をしている人がそこにいたのだ。