>>817
本来、この南の島に来たのは殺せんせーを暗殺するためのはずなんだけど……、何故か僕らは一日じゅう遊びまくってしまった。もちろん、殺せんせーと雪村先生も一緒で。
「あー、遊んだ、遊んだ」
「もう、海ったらはしゃぎすぎだよ……。疲れちゃった」
「あはは」
海は持ってきた扇子で扇ぎながら、雪村さんの言葉に笑っていた。僕らもすごくはしゃぎすぎた。おかげで汗だくだ。
「でもさ、あかりも楽しかったでしょ。ついでにあぐりさんの彼氏さんにも会えたし」
「う、うん……」
雪村さんはうなずきつつ、微妙な表情をしていた。まぁ、そうだろうな。自分の身内の彼氏が人外だなんてちょっと複雑だよ。
「さて、夕飯食べた後はどうするの?」
「あ、殺せんせー暗殺の予定だけど。その前に花火大会をしようって話になってて……あ!」
僕は慌てて口をふさいだ。案の定、雪村さんはポカンとしていた。
「あん、さつ……?」
まずい、雪村さんはこのE組の事情を知らない。口を思わず滑らせてしまった僕のミスだ。
「この前、月が爆発を起こしたニュースはあかりも知ってるでしょ?」
「海!」
僕は慌てて海を制そうとした。けれど、海はかまわず続けた。
「それの犯人と言われているのが、彼。殺せんせーなの。彼は来年の3月、地球を爆破する予定で、そうならないために彼を殺すっていうのがE組に課せられた課題みたいなものらしいよ」
あぁ、全部話しちゃった……。
雪村さんは目を見開いて驚いている。
「信じられないかもしれないけど、それが事実みたいだし」
「そ、う……」
雪村さんは茫然としていた。
☆
夕飯を食べ終えると、僕らは花火大会を始めた。といっても、僕ら生徒で持ち寄った花火道具でひたすら花火をしながら遊ぶだけなんだけどね。
「あかり、ほら見て! 超きれいだよねぇ!」
海は雪村さんに花火を見せつけながら、楽しそうにしていた。いっぽうで、雪村さんは複雑な表情をしていた。
「ねぇ、雪村ちゃん。どうしちゃったの?」
中村さんが不思議そうな顔をしながら僕に聞いてきた。
「海が殺せんせーのこと、全部話しちゃったんだ」
「え、それってまずくないっ⁉ ただでさえ、あれは国家機密なのに」
うん……。
「場合によっては記憶消去もありうるかもしれないよね」
カルマくんがボソッとそんなことを言っていた。
☆(あかりside)
何か、変だ……。
「あかり?」
「え、何?」
「いや、なんか思いつめたような顔をしてたから。何かあったのかなぁって思って」
「だ、大丈夫だよ!」
変だって思うのは、あの殺せんせーとかいう謎の生物のせいだろう。そう思うことにした。
「今日は楽しかったね」
海が花火の後片付けをしながら私のほうを見て笑った。私もその笑顔にうなずいて、笑顔で返した。
「最初はちょっと緊張したけど、海の言う通り。みんな良い人たちで助かったよぉ」
「ふふっ」
あれがお姉ちゃんが受け持ってるクラス、か。
あの人たちが、自分のクラスメイトだったらどんなに楽しいだろうか。
「よし、これで終わりだ。戻ろ、あか……」
海の言葉が、そこで止まった。
「さ、下がれ、あかりっ!」
「え⁉」
海が私を引っ張って、私は海の背中にまわされた。
「⁉」
「お前、誰だっ⁉」
海の言葉に、私は海の背中越しでその人物を見た。
夏なのに、黒いマントを着ている、なんとも暑そうな格好をしている人がそこにいたのだ。
渚side
海と雪村さんがいない。
「ねぇ、海たちがどこに行ったか知らない?」
「さっき、海岸のほうで花火の片づけをしているのを見たけど……」
神崎さんにお礼を言って、僕は海岸へ向かった。
「さ、下がれ、あかりっ!」
海の切羽詰まった声が聞こえた。僕は慌てて走って向かった。
「お前、誰だっ⁉」
黒いマントを羽織った人が、海と雪村さんの目の前にいた。
海は日本刀を構えながら、雪村さんを自分の後ろで守っていた。
「海、雪村さんっ!」
「⁉ 渚、来るなっ!」
騒ぎを聞きつけて、何人かがホテルからでてきた。
その、一瞬のスキをついて。
「⁉」
黒マントは海の後ろにいる雪村さんをつかまえ、反撃をしようとした海の首の後ろに手刀をくらわせると、2人をかかえてどこかへ走り去っていった……。
あまりのスピードの速さに、僕らは茫然と成り行きを見ているしかできなかった。
「今、あきらかに拉致られたよな?」
誰かの言葉に、僕はハッとした。
「お、追いかけ……」
僕が走ろうとすると、僕の手を中村さんがつかんできた。
「追いかけるって言ったって、どこに行くのよ」
「うっ……」
そうだ、黒マントが行った方向はわかるけど、どこへ行こうとしているのかはわからない。
「まずは、せんせーに言わなきゃでしょ」
中村さんは冷静に言って、ホテルへと走り始めた。
「殺せんせー!」
「おや、どうかしましたか? みなさん」
殺せんせーは雪村先生、烏間先生、ビッチ先生と一緒にお茶を飲んでいた。
こ、この異常事態のときに!
「海と雪村ちゃんが拉致されたのっ!」
中村さんの言葉に、雪村先生の顔が青ざめた。
「中村さん……。それ、本当なの?」
「目の前で、黒マントの変なヤツに拉致されたの。見間違えじゃない……」
雪村先生は青ざめた表情のままだった。殺せんせーは雪村先生の肩に手を置き、僕らの方を向いた。
「それで、犯人はどこへ?」
「わかんない……」
どうして、いきなり2人が拉致されなきゃいけなかったんだろうか。狙いはいったい……?
そのとき、僕のスマホが音を鳴らした。
こんなときに誰だろう。半ばイライラして電話にでると……。
「渚か?」
「海っ!」
まさか、電話にでてくるなんて。
僕の周りにみんなが集まってきた。烏間先生が胸ポケットからペンとメモ帳を取りだし、メモに「ハンズフリー」と書いた。僕はうなずいて画面にあるハンズフリーボタンを押した。
「無事なの?」
「ああ、なんとかな」
「雪村さんは?」
そう聞きつつ、僕は雪村先生を見た。先生は不安そうな顔を僕のスマホに向けていた。
「大丈夫。隣にいるよ。声を聞かせてあげたいところだけどさ、ちょっと今。たてこんで……⁉ おい⁉」
海の声が遠ざかる。
「やぁ、聞こえるかい?」
「⁉」
これは、犯人の声?
「うん?」
「聞こえて、います……」
「今、雪村姉妹の片割れの……海さんだっけ? 彼女に電話をかけてもらうように頼んだんだよ」
海が簡単に相手の注文に答えるものだろうか。海だったら、もっと抵抗するはずだ。
「雪村あかりさんを殺されたくなければ、私の注文に忠実に答えろと」
「⁉」
僕はスマホを握りしめた。
「お前の注文には答えただろっ⁉ 早くあかりを放せっ!」
海の声が遠くで聞こえた。犯人はその声を無視して続ける。
「今から私の指定する場所へ来なさい。時間は1時間後以内。場所はそこから離れた場所にある洋館だ」
不破さんが律と一緒に調べ始めた。すぐに発見したらしく、僕らに画面を見せてきた。
「もし、時間内に来なければ雪村海の命も、雪村あかりの命もないと思え」
そして、通話は途絶えた。