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リリが食事の危機に陥ったその三日後。南街区のとある小さな診療所では。
「ない、ない、カルテが無〜い!」
15歳ほどにみえる茶髪の少女が、顔を真っ青にして叫んでいました。
少女の近くには、同年齢にみえる優しげな少年と金髪の少女があきれたような顔をして座っています。
ここは茶髪の少女、トリシアの診療所。トリシアは、魔法の力で人も動物も癒すお医者さんなのです。ここには毎日いろいろな患者がやってきます。
妖精やお人形、ドラゴンまで。トリシアはいつも大忙しです。
「もう!今日の分のカルテはどこ?レン、探すのを手伝いなさい!」
「えー!?」
レン、と呼ばれた少年は、思い切り嫌な顔をしました。彼は、トリシアの幼馴染で腕の良い魔法使いです。
「えー、じゃない!」
「分かった、分かったよ…」
トリシアに睨まれ、レンは渋々部屋の中を探し始めました。
「キャット、貴女も!」
「第二王女たるわたくしに物探しをさせるなんて何事ですか!仕方ないですわね」
もう一人の少女、キャット(本名キャスリーン)も、顔をしかめながらトリシア、レンに並んで探し始めました。
キャットは、この診療所が存在するアムリオン王国の第二王女で、トリシアの親友兼悪友です。
トリシアとレン、キャットはかつて、同じ魔法学校__月見の塔__で共に学んだ同級生でした。
「あ、あったー!良かった〜!」
トリシアはいきなり歓喜の声をあげました。どうやら探していたカルテが見つかったようです。
「全く、人騒がせな」
キャットは、そっぽを向いて鼻を鳴らしました。
>>6 誤字訂正『月見』→『星見』
>>7 ありがとうございます!
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「二人とも、ありがとう!見つかって良かっ……」
「トリシア!急患だ!」
それは突然のことでした。
トリシアが安堵した顔でレンとキャットに礼を述べているとき、いきなり診療所の扉が開いて、近所に住んでいる男性が慌てた様子で入ってきました。
背中には見知らぬ赤毛の少女が、青ざめた顔で気を失っています。
「どうしたの!?」
トリシアは緩んでいた顔を一気に険しくさせ、少女のもとに駆け寄りました。
「裏通りで倒れてるのをさっき発見したんだ!俺が来た時にはもうこの状態だった!」
「とりあえず、ベッドに寝かせよう」
レンが落ち着いた表情で男性をベッドに誘導して、赤毛の少女をベッドに寝かせました。
そしていざ、トリシアが診ようとしたとき。
「…う、ううん……」
少女から、うめき声が聞こえて来ました。
「あなた、私の声が聞こえる?」
トリシアは真剣な顔で彼女にそう呼びかけます。
すると少女が薄く目を開いて、トリシアの姿を捉えました。
そしてその視線をトリシアの後ろにいるレンやキャット、男性に移して、口を開きました。
「お腹すいた……」
「「「「…へ?」」」」
トリシアたち一同は、その少女、リリアーネの言葉に、呆気にとられ目をぱちくりさせたのでした。