*第五話 Hey why――ねぇ、どうしてそんな *
―ジャスミンは今にも溢れだしそうな涙を必死に
堪えて、自室に戻る。部屋のベッドに突っ伏して
声をあげながら泣いた。
「嘘よ、嘘だって言ってちょうだい。愛するアルと大切な侍女アカネが浮気ですって?ねぇ、冗談はよしてよ………」
独り言を呟きながら、彼女は思いきり泣いた。
溢れる涙は止まらない。
「信じてたの。彼も、彼女も。でも……裏切られた。私は、私、私は………どうすれば良いの?」
二人のことを心から信じていたジャスミンに
とって、二人の行為は酷い仕打ちだった。
二人は確かに抱き合っていた。
あの後、どうしたのだろう?キスでもしたのだろうか。
そういえば歓迎会の時も胸が当たるほど接近していた。
その時、逢い引きの約束でもしていたのだろうか。
自分の寝静まった後で……
そんなの、考えるだけで悲しい。気を張っていないと
また涙が零れ落ちそうだ。
泣いているジャスミンを心配したペットであり
友達のトラのラジャーがぺろり、とジャスミンを
舐める。
「まぁ、ラジャー。ありがとう。貴方は―私の最高の友達よ」
そう言って、ラジャーの頭をそっと撫でる。
ラジャーは気持ち良さそうな表情をした。
**
―一方、アラジンとアカネ。アラジンと抱き合った
ことにより少し落ち着きを取り戻したアカネ。
「アル、ありがとう。貴方のお陰で少し落ち着いたわ。ごめんなさい。こんな無茶なお願いをしてしまって…でも、本当に貴方が、パパにそっくりで…初めて会った時はびっくりしたわ」
にこり、と寂しげに微笑みながらアカネは言った。
アラジンはもう一度肩をポンと軽く叩き、こう言う。
「―大丈夫。もう君は一人じゃない。僕もいるし、ほら、アブーだって!それにきっとジャスミンも力になってくれるさ。王様も優しくて良い人だから、君の相談相手になってくださると思うよ。陽気なジーニーもマジックで君を励ましてくれる。僕の最高の友達なんだ!助言もしてくれるしね」
彼の必死で自分を励ます様子を見たら、何だか
おかしくて、ぷっと吹き出した。そして聞いた。
「ね、アル。ジーニーって誰?あたし、あまりよく知らないわ。でも貴方の話を聞く限り、素敵な人なんでしょうね」
「あれ?知らなかった?歓迎会の時、君は華麗な踊りを披露してくれただろ。その時、君の隣でマジックを披露してた青い魔神さ!元、ランプの魔神なんだ」
「早くちゃんと会いたいわ」
そう言って微笑むアカネを見たアラジンは安心して
胸を撫で下ろす。アカネも少し元気になってくれた
ようだ。そんな風に気が緩むのと同時に、
大事なことを思い出した。
「そういえば、ジャスミンが君を呼んでいたよ」
アカネはびっくりして目を見開く。
「まぁ、何かしら?早く行かなくちゃ!じゃあね、さっきは本当にありがとう。貴方のお陰で元気が出たわ」
ペコリとお辞儀し、ジャスミンの部屋に向かう。
(>>14の続き)
―アカネはまっすぐジャスミンの部屋に向かう。
ドアを軽くノックし、声をかける。
「ジャスミン?アルから私を呼んでると聞いたわ。何か用かしら?」
アカネはジャスミンの明るい声が聞けると思っていた。
だが、実際には
「来ないで!誰にも会いたくないの!一人にしてちょうだい…」
という必死に涙をこらえながら発している、そんな
声が返ってきた。そんな彼女を心配したアカネは
ジャスミンの力になりたいと思った。ついさっき
アラジンが自分を励ましてくれたように。
「……何かあったの?あたしで良ければ相談に乗るわ」
「もう私に構わないで」
冷たく冷淡だが、か細いジャスミンの声が聞こえる。
アカネはジャスミンをそっとしておくべきだと判断し
その場を立ち去った。
**
一方の、アラジン。一応自分もアカネを見つけたと
ジャスミンに声をかけるべきだと考え、彼女の
部屋に向かう。その途中、ジーニーとばったり会った。
ジーニーはジッとアラジンを睨む。陽気な彼には
珍しいことだ。機嫌が悪いのだろうか。
アラジンがそんなことを考えていると、ジーニーが
口を開いた。
「―アル。ちょっとお前さんの行動は良くないんじゃないか?」
いきなりのことでアラジンは意味が分からなかった。
ジーニーの言葉の意味とは?アラジンは聞いた。
「ジーニー、何のことだ?」
アラジンのそんな問い掛けに対し、信じられない
とでも言うように肩をすくめた。
「可愛い女房がいるってのに、その侍女と浮気なんかしてさ。アル、正気か?」
それを聞いたアラジンは驚いた。
「僕が浮気?アカネと?冗談はよせよ」
「抱き合ってたじゃないか、アカネと。見てたんだぜ、このジーニーちゃんはよ」
実は、あの時、ジャスミンだけではなくジーニーも
二人の抱き合う様子を見ていたようだ。
そしてジーニーも誤解していた。
【第六話 誤解を解く時 へ続く】