「―お前は恋をしている。その恋は、絶対に叶わないと分かりきっている恋だ」
いきなり口調が変わったアランに戸惑いつつ
アカネは言った。
「あら、あたしが誰に恋をしてるって言ってるの?」
「お前の恋の相手は、アラジンだ」
長話はうんざりだとでも言うように、アランは
言った。アカネは頬を赤らめる。
「ち、違うわ!そんなの言いがかりよ!」
アカネは頬を赤らめたまま言った。そんな彼女に
対し、アランは不機嫌そうに顔をしかめて言った。
「私の魔法の水晶玉に誤りなどはない。お前は恋をしている、アラジンに。それは叶わない恋。アラジンにはいるのだから。愛する妻が。お前の恋は儚く散るのみ」
「だ、だけど、そうだとしても、そんなの貴方に関係ないじゃないの!それとも、何よ?貴方があたしの恋を叶えてくれるとでも言うのかしら?」
アカネはアランを睨みつつ、挑発するように言うと
彼はニヤリと悪そうな笑みを浮かべて
「ああ。よく分かったな、その通りだ。お前の姿をアラジンの愛する相手、ジャスミン王女に変えてやろう。そうすれば、アラジンはお前を愛す…」
と言ったのである。アカネは少し驚いたが
首を横に振り、大声で彼女は言った。
「そんなのあたしには必要ないわ!ジャスミンはあたしに家族のように接してくれる。アルもそうよ。あたしの良い相談相手よ。そんな二人に、嘘はつきたくないわ!あたしにはそんな偽りの魔法なんか、要らない。―もう帰って良いわよね?さよなら」
彼女はくるりとアランに背を向けて、帰ろうとした。
だが、アランは彼女の腕を強く引っ張り、引き留める。
「待て!良いのか?このまま何もせず終わってしまって。お前の恋は儚く散るのみ、それで良いのか?一瞬だけでも、愛されたくないか?自分の愛する人に、愛してもらいたくはないのか?」
アランのその、アラジンにそっくりな瞳にアカネは
引き込まれそうになる。そして、彼の言葉が
アカネの響く。
"一瞬だけでも、愛されたくないか?自分の愛する人に、愛してもらいたくはないのか? "
あたしだって、愛してもらいたい。あたしだって―。
そして、彼女は決心した。
「あたしだって、愛してもらいたい。自分の愛する人に。だから……あたしを、あたしの姿をジャスミンに変えて」
アランはニヤリと笑い、魔法の杖を取り出した。
「良かろう。お前をジャスミン王女に変えよう」
アカネは少しだけ考えた後に問う。
「貴方の魔法は、安全なの?」
「当たり前だろ?私は優しい魔法使いだからな」
そんなアランに、シュウは"嘘つけ "と言うような
表情をしていたが、本人もアカネも気付いていない。
「―さぁ、魔法をかけるぞ。準備は良いな?」
アカネは強く頷いた。
「偉大なる神よ。この哀れな女、アカネを麗しの美女、ジャスミン王女に姿を変えよ‼」
そんなことを言った後、何語かも分からない
呪文のような言葉を口にしたアランは魔法の杖を
一振りし、アカネに魔法をかけた。
雲のような煙がアカネの身体を包み込み、どんどん
姿を変えていく。アカネには戸惑っている暇すらも
なかった。瞬く間に、アカネの姿はジャスミンに
変わっていく。最後に眩しく目がくらむほどの
光が立ち込め、魔法は完成。
ジャスミン王女に姿を変えたアカネが瞬きした。
「ん……この声…あたしの声じゃないわ。ジャスミンの…本当にあたし、ジャスミンになったのね」
「そうだ。これでお前は、愛してもらえる。愛する相手に」
「で、でも…本物のジャスミンがいるわ。そうしたらすぐバレる。だって、そうでしょ?二人もいたら、おかしいもの…」
ジャスミンの声で、躊躇いがちにアカネは言う。
「心配ご無用。本物のジャスミン王女はここだ」
もう一度アランが魔法の杖を一振りすると、
本物のジャスミンがこの要塞にあるベッドに
すやすやと寝息をたてて眠っていた。アカネは
びっくりした。
「だ、大丈夫なの?まさか、死んでたり、しないわよね?」
寝息をたてているから、それはないと思ったが
念のために言ったのだった。
「そんな訳がないだろ。安心しろ、ただ眠っているだけさ。お前にかけた魔法が解ける時、彼女も眠りから覚める」
(>>27の続き)
アカネはホッと安心したように溜め息をつく。
「でも…その魔法が解ける時っていつ?この魔法はいつまで効くの?」
アカネはまたもや心配そうに問う。
「明日の日没までだ。さぁ、もう行け!甘い一時を楽しむのだ‼」
アカネは駆け出した。そして、言う。
「ありがとう、"優しい魔法使い "さん。行って来るわ!」
【第九話 甘い一時を へ続く】