「おはようございます」
私は挨拶をして、事務所の中に入る。
今日はレッスンの日だ。
「……何これ」
すると、ある物が目に入った。
香水を入れるようなビン、中に入っているのは禍々しい色の液体。事務所にこんな物を持ってくる人物なんて、一人しかいない。
「あれ、美波ちゃんだー。おはよー」
「お、おはよう……じゃない! 志希ちゃん、これ何なの!?」
私は慌ててそう尋ねる。
それに対し、志希ちゃんは「どこかへトリップしちゃう薬ー」と無邪気な笑顔で答えた。
その笑顔は文句無しに可愛かったが、それどころじゃない。
「もう、こんな物置いて危ないじゃない。小さい子が触ったらどうするの」
うちの事務所には、9歳の子だっているのだから、こんな危険な物は置いておけない。
「じゃあ、美波ちゃんが飲んでみてよ」
「えっ!?」
私は思わず変な声を上げてしまった。
……こんな物は飲みたくないけれど、小さい子が犠牲にならないようにしないと。
私は覚悟を決めて、ビンを手に持つ。
「ちょっとちょっと美波ちゃんストーップ!」
奇行としか思えない行動をする私を、珍しく志希ちゃんが慌てたようにして止める。
「はぁー、まさか本当に飲もうとするとは思わなかったよー。志希ちゃん不覚ー」
何だかよく分からないけれど、とにかくこれで誰かがこの薬を飲んだりすることは無さそうだ。
レッスン前からこんな事になって、疲れたなぁ。
ソファの上で脱力してると、入り口のドアが開いた。
「おはよう」
そして、プロデューサーさんが挨拶をしながら入ってくる。
「美波、今日のレッスン相手は志希なんだが……」
「ええっ!?」
プロデューサーさんは私を見つけてはいきなりそう告げる。
当の本人は、「やった〜、美波ちゃんとだー」と呑気に言っている。いや、喜んでもらえるのは嬉しいのだけれど。
「無理か?」
「いえ、大丈夫です! 志希ちゃんの面倒を見ることは嫌いでは無いですし!」
プロデューサーさんの仕事を増やすわけにもいかないし、私は志希ちゃんの事は嫌いでも苦手でもない。
寧ろ、好き、だったり……
「美波ちゃん? 何かニヤニヤしてキモいよ?」
「キモいって……」
変な事を考えていると、真顔になった志希ちゃんに罵倒を浴びせられた。志希ちゃんの言葉は相変わらず胸に刺さる。
「じゃ、またレッスン終わりにな」
「あ、はい」
プロデューサーさんは忙しいみたいで、それだけ言うと部屋を出て行った。
「……美波ちゃん」
「どうしたの?」
プロデューサーさんの姿が完全に見えなくなった時、志希ちゃんが話しかけてきた。
「今日のレッスン、よろしくねー」
「……うん! 頑張ろうね!」
「うわぁ急に態度変わったー」
気合いを入れ直す私に、ドン引きする志希ちゃん。
相変わらず辛辣な志希ちゃんだけど、私は志希ちゃんにこういう事を言われるのも嫌ではない。
……少し、傷付くけど。
「じゃ、行こうか志希ちゃん」
夕方の5時、そろそろレッスンが始まる。
私は志希ちゃんの手を引いて、レッスン室へと歩いて行った。
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しきみなみ
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4個目だぞ……w