きみのための物語

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1:◆RI:2020/11/01(日) 20:49

自分のキャラの過去話、裏話
スレッドにかけない小説のような話をどこかにあげたい人はここに書き込んでみてください

正直スレ主が欲しかっただけですがご自由にどうぞ

65:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 16:55

『超魔神性』

その昔、神々がいた。
神々は世に恵みを与え、悪を罰した。
やがて、その役目は各聖地の人間へと継承されることになり──
人はそれを、『超魔神性』と呼んだ。

「──はい、治ったよ」
「やった〜ありがとでゲス〜!」

手をかざせば、たちまち傷が塞がっていく。お礼を告げた「河童の子」は、健康な皿が乗った頭を下げて走り去った。その姿を最後まで見届ける、聖女のような、いわば『超魔神性』。

「……」

そして、傍観している私もまた超魔神性。……天音円と天音環、私たちは姉妹のはずだった。

まず超魔神性とはなにか。
第一に『神眼』、その者を見通す力。
第二に『神然』、恵を与え潤す力。
そして、第三に『神性』、継承の存。
妹、円は……全てにおいて秀でていた。

「姉さん!」
「……なに?」
「次の稽古、一緒にしない?」
「ごめん、無理」
「どうして?」
「嫌だから。それ以外に理由でもあんの?」
「姉さん──」
「──環!!」

ふいに、物陰から女が怒号とともに現れた。母親だ。継承で神性を失ったくせに、今でもこうして出張ってくる。

「あんた、なんてこと言うの!?」
「なにが?」
「ずっと見ていたら、河童の子も助けないで、挙句の果てに円にそんな風に言うなんて。あんたには優しさの欠片もないわね」
「母様、それは言いすぎでは……」
「円は優しいわね。でも、今日という今日は限界よ。大体……そんなだから、いつまでたっても比べられるのよ」

左耳から右耳へ、聞き飽きた言葉が通り抜けていく。ああ、本当に、苛苛する。円の偽善も、才能も、母親の冷えた扱いも、私になんの期待もしてないことも。生まれてこなければよかった。私は生まれつき『神性』が使えないから、何もかも不十分で、円に遠く及ばない。言ってしまえば残りカス。

「ごめんなさい」

言いたくもない謝罪を口にする。頭がどうにかなりそうだった。

──円さえいなければ。
私は否定されないのに。

66:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 17:10

『超魔神性2』

腕を切った。台所からくすねた果物ナイフで。刃をしっかり皮膚につけ、人差し指を添えて、ゆっくりゆっくり引けば、やがて綺麗な赤い線が現れる。この一連の動作は嫌いじゃないし、上手く切れると自分を褒めたくなる。そうすることで自分を肯定する。

「──」
「!」

ふいに、物音が聞こえた。驚いて背後を振り返ると、そこにいたのは母親だった。慌てて腕を隠す。

「あんたなにしてるの?」
「なにもしてないよ」
「腕を見せてみなさい」
「え、なんで……」
「見せなさいって言ってるの」
「嫌だって──」

嫌がる私の腕を、母親は掴んでその目でしっかり見た。あ、終わった……弁明しようと開いた口が言葉を紡ぐ前に、パチン!私の頬は勢いよく張られた。

「なに馬鹿なことしてんの!!」
「……」
「大体、こんなことして喜ぶなんて精神が弱いのよあんた!!」

頬が、ジンジンと、熱いのか痛いのか分からなくなる。その時私の中で、『何か』が切れた。

「ふざけんなよクソババア」
「!?」

無防備な母親の体に掴みかかる。

「私がこんなことしなきゃいけないの、お前と円のせいなんだよ。だったら最初から産んでんじゃねえ、私なんか恥なだけだろ。汚点だつてそう思うなら、神性が使えない子が嫌なら、今ここで殺しちまえよ!!」

涙がぽろぽろ出てくる。くそ、出てくるな、お願いだから。生まれてから17年、一度も涙なんて見せたことなかったのに。それが唯一の強さだと信じていたのに。母親は呆然としたまま、だんまり。

「円が、円さえいなければ──」

そう口にした瞬間、私の体は投げ飛ばされた。衝撃は肉体よりも精神を襲う。

「いい加減にしなさいよ!」

……殺さなければ。

67:◆o6:2021/04/15(木) 20:03

少女失踪事件

13年前に起こった小さな町の小さな事件。
ある夏の日、川辺で遊んでいた✕✕✕ちゃん(当時5歳)が、見知らぬ男に声をかけられそのまま誘拐された。

この事件に関しては目撃者が一人もいない。
そのため、真実を知るのは当事者2人だけだろう。


──ピコン、ピコン

また通知が鳴る。
見慣れた青い画面と大量の通知。半ば無意識、癖のように通知を開くと表示されるのはたくさんの「いいね」。もう見飽きてしまった。

ため息をつきかけた時、ふいに扉がコンコンと叩かれた。

「✕✕✕」

「はい」

生返事。

「次はこれな」
「はい」

トビラがガチャリと開いて、外から男が現れる。太って脂ぎった顔にヒゲを生やした醜悪な姿。その手には真新しい服。サテンの派手なドレスだ。

私はそれを黙って受け取ると、男は何も言わずに扉を閉める。そして、また私の活動が始まるのだ。

『フォロワーさんが買ってくれた服着てみた!かわい〜〜😍😍 みんなほんとにありがと〜❤*.(๓´͈꒳`͈๓).*❤』

──ピコン、ピコン。

68:◆o6:2021/04/15(木) 20:13


……一体いつまでこんなことを?

『✕✕✕』
『愛してる』

『こっちにおいで』
『危なくないよ』

……いつから?


──鳴りやまない通知の音を耳に、ベッドに体を埋める。短いサテンのドレスを着ているせいで足がすーすーする。

「……」

ふいに手を足に伸ばした。ふくらはぎが線に引っかかるみたいに、ザラザラした。赤い傷跡。ここでも、あの世界でも、誰も気付かない。気づいても、なにも言わない。私の商品価値は顔だから。

そんな生活を10年くらい続けてきた。フォロワーから貢がれた金はあいつへ。一度送られた服は投稿だけして売りつける。愛もなにもない。

……
…………


「お母さん……」

今どこで何をしてるの。

帰りたい。帰りたいの。もう一度ぎゅっと抱きしめて、「愛してる」って、ただ一言。それだけでいいのに──

──ピコン

またいつもの通知。でも違った。

『DM』

69:芽殖 命:2021/04/16(金) 06:49

>>68

70:◆o6:2021/04/17(土) 14:00

『幸福伝道会』

DMの送り主はそう記されていた。絵の具で塗りつぶしたような黄色の上に、刺々しい真っ赤なバラ。これがいかにも『幸福』とでも言いたげなアイコンだ。

「……」

幸福なんて曖昧な言葉の意味がよく分からない。そんなものは幼い頃、あの場所に落としてなくしてしまった。

『迷える皆様のために、幸福伝道会は幸福を授けます。お代は一切不要です。その代わり、不幸を頂きます。』

DMのやりとり欄に表示されるのは無機質な言葉の羅列。胡散臭い。そう思って、もう一度頭をベッドに伏せようとした時。新しいメッセージが更新された。

『✕✕✕さん、あなたは13年前に失踪された少女ですね。』

「──」

ほのかに薄暗い部屋の中、スマホの画面に驚く私の顔が映った。まるで覗かれているようだ。身が硬直する。

『我々、幸福伝道会はあなたのような不幸な人間をお救いいたします。』

救い、

『返事を一ついただければ、私どもは必ずあなたに幸福を授けましょう。』

幸福、

……


《愛してる》

…………


空返事。

『はい』

71:◆.s hoge:2021/06/27(日) 04:16


『( …今に始まった事ではありません
 昔話をしてあげます、…ずっと昔にあった本当の話です 』)

___

AGE 19XX… "それはもう、忘れ去られた時代"


『__人は何時でも争う事を止められなかった』

(空を舞う鉄の人影__{かつての破壊音}__永く散る火花)

『例え自分たちの争いが世界を破滅させようとしても…』

『争う相手が 人から、そうでないものに変わっても』

_____人は変わろうとしなかった


___AGE 20XX

『( 実験は失敗でした )』

『( 貴方たちは、あの荒れ果てた大地に眠る
  幾多の者たちと同じ )』

『( 自らを滅ぼすと知りながら
 それでも争う事を止められない )』

『( 卑小で 愚かな存在 )』

72:◆cE hoge:2021/06/28(月) 19:58



『箱庭の夢』

 温度も湿度も変わらない何もない真っ白部屋で眠る「元」少女。人体実験を繰り返し、遺伝子を弄られ、少女でも少年でもないあの子はどんな夢を見ているのか。そんなことを思いながら手元のタブレットに視線を移す。彼女が普段右手に着けている指輪とリンクしたデータをみて今後どうするべきかを考える。




 元孤児。
 元いた実験室が破壊され、ここの施設に移る。
 実験には協力的で特に反抗的な素振りは見せない。リジェネを前いた施設で中途半端な形で付与される。
 体温調節が難しく、主な活動時間は夜。以前昼間に活動させたが体温が上昇。そのまま熱中症のような症状ができ、回復力も下がった。
 朝から夕方まで眠る。実験の副作用かは分からないが、ロングスリーパーである。回復に体力を使うのかかなりの量の食事をする。
 感情の起伏が読み取りにくくいつも笑顔。
 過去のことを覚えていない。軽い記憶喪失の症状あり。





 タブレットから真っ白な何もない部屋に視線を向ければ、群青の瞳と目が合う。相変わらず何を考えているのか分からない表情でこちらを見つめる彼女からそっと目をそらす。

「 実験の時間だ。外へ 」

「 はぁい、了解〜 」

 人間としての情はもちろん残っている。自分がしていることが間違ってることも分かってる。けど、人類の進化のためきっとこの研究は辞めることができない。

 立ち去る研究者の背中を見つめながらため息を一つ落とす。

 懐かしい夢を見た。まだ人間だった頃の。まぁその頃から性別がうまく判別できなくなったんだけど。怪我をしたら普通の人と同じ速度で治っていったし、まだ痛みとか感情もあった気がする。

「 まぁ、よく覚えてないけど… 」

 なら今のボクは?
 何回か死のうとしてもしねない。普通の人間なら死んでる傷もすぐ治る。こんなの化け物じゃないか。自分がなに考えてるかすらもよく分からない。これはもう人間の形をした何か。

 「 人間、失格 」

『  もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。 』

 なんてね、あーあ。退屈、だなぁ…。

 今日もいつもと変わらない日々を過ごすのだろう。そんな独り言が聞こえたのか前を歩いていた研究者はまゆをよせ怪訝そうな顔でこちらを見る。

「 何か言ったか…? 」

「 んーん、なぁんにも 」


 馬鹿みたい。そんな言葉は喉につっかかり、笑顔のなかに消えていった。

73:◆RI:2021/07/01(木) 22:35

〈来世まで、愛を込めて〉

「……っ、ぅ、……」

めが、さめた
めがさめた…?わたしはねむっていた…?
…あたたかい、からだがゆれている、これは、…かかえられて…

「………おぼろ、く」
「喋るんじゃねぇ」
「…そ、ぅ、…やっ、ぱり」

かえってきたこえは、そうぞうしたとおり

「………ね、ぇ、…おぼ、ろ、くん」
「喋るんじゃねぇっつってんだよ」
「…いい、じゃな、い、…しゃべ、らせて」
「……チッ」

舌打ちが聞こえた、かなり、怒らせてしまっているらしい

「…せん、きょうは」
「………もう、何もせずとも勝てるぐらいだ、あんたが無茶したおかげでな」
「ふ、ふ、…そ、う…、それは」

無茶した甲斐があったわ、と、言葉を零せば、私を支える腕に力が入った、ぎしりと、彼の口から、歯を食いしばる音が聞こえる

「………おぼろ、くん、…」
「…うるせぇ、」
「…おぼろくん、…」
「黙れ、それ以上言うんじゃねぇ」
「…………おぼろくん、」

置いていきなさい

「…………」
「あなた、も、重症、でしょう」

ようやく、記憶が整理されてきた、そうだ、私達は戦場にいたのだ
全てを守るために、自分の正義を全うするために
大多数を相手に、我儘を通すために、刃を抜いたのだ
そして


──『ぁ゛、』
─────『──綴さんっ!!!』

私は、彼を守ったのだ、身を呈して

そこまで思い出して、ようやく、己の体が冷たくなってきている事に気がついた

74:◆RI:2021/07/01(木) 22:36

「……なんで、庇ったりしやがった」
「…じょうし、だもの、ぶかはまもらない、と」
「…ふざけんじゃねぇよ」

ぐっと、また、腕に力が入る、感覚が薄れてきた体でも、痛みがわかるくらいに

「─おぼ、ろ」
「っづ!俺は!!あんたを…っ!」


『綴さん!』


「っあんたを守るために!おれは!」

『人間兵器と呼ばれているんです、私強いですよ?』
『…怪我の心配なんて初めてされました、…ありがとう』
『あなたなら出来るでしょう?私について来れるのだから』
『……やっぱり、君は凄いね』

『──朧くん』

「……あんたは、ずっと、独りで、でも、なんでも出来て、周りからなんて呼ばれようと、ずっと戦って」
「…、…」
「だから、おれは、俺だけは、あんたを守りたかった、庇ってでも、死んででも、じゃないと」

「あんたは、ずっと、報われない」

「……おぼろくん」
「なのに、なのに、っ、よりによって、『あんた』が『俺』を庇って、守ってっ!」

『───だいじょうぶよ、おぼろくん』

「っあんな風に、笑ってっ!!平気だって痩せ我慢して!!そのまま、無茶して戦って!!」

「おれは、あんたを、守りたかったんだ、それなのに、俺の前で、死なないで、…」

あめがふる、いや、これは
目が霞んで、よく見えない、でも

「……ふ、ふふ」
「……つづり、さ」
「なん、だ、いっしょ、だったの、ね、わたし、たち」
「…は…」

己の腕に力を入れる、まるで自分のものだと思えないような、弱々しく動くその手を、流れる雨の元へ伸ばす

「…、わたし、も、わたしも、まもりたかった、の」

「はじめて、だいじに、たいせつ、に、したいと、おもったの」

『…はぁ?人間兵器って…あんたただの人間だろ』
『っおい!怪我してんじゃねーか!何でまだ前線に出ようとしてんだ!』
『はぁ…やってやるよ、あんたがそういうならな』

『─綴さん』

「…、つづ、り」
「……わたし、こわしたり、たおしたり、しか、できなかったから」

『人間兵器とかいう名前どうにか何ねーの?もっとなんかさぁ』

『そういっても…私が名乗っているものじゃあないから…』

『それにしたって、ほら、もっとさぁ……あ!』


『夜桜、とかどうよ』


「あんな、きれいなよびかた、はじめてだった」

頬を撫でる、もう、思うように動かないけど、残った力を振り絞って

「すごく、うれしかったの」

笑えているだろうか、わらえているといいな、だって、本当に、心の底から嬉しいかったの、あなたがそうよんでくれたから、わたしはやっと

「…きみが、ずっといっしょにいてくれたから、わたし、やっとにんげんになれたの」
「つづり、さん」
「………でも、ごめんね、わたし、わたしだけだと、おもってた、きみも、わたしを、まもりたかったなんて、おもいもしなかった」
「っ!しゃ、べ、んな!」

あぁ、もう、ほとんど目も見えない、朧くんは、いつもこんな世界を見ていたのだろうか

ちからが、ぬける、頬に添えた手が滑り降ちる、それを逃さないように、暖かい手が掴み取る

「綴さん!!」
「………」

ごめんね、わたしばっかり、しあわせになってしまって、守るという願いを、叶えてしまって、でも、お願い

「お、ぼろ、く」
「っ!つづりさっ」

さいごの、さいご、全ての力を振り絞って、言葉をこぼす

「──ゆるして、ほしいなぁ…」

さいごの、我儘

「─────」

喉が引くつく音が聞こえる、死ぬ時に1番長く残るものは聴覚だと言うが、どうやら本当らしい、最後の力を使い果たして、もう、なにも

「────ゆるさ、ねぇ」

「ゆるさねぇ、許さねぇ、絶対に、絶対にっ、これからも、死んでもずっと、俺はあんたを…!」

許さない

「…………………」

あぁ、…



よかった

75:◆.s hoge:2021/07/01(木) 23:11

>>71

『 俺はそうは思わん 』

__________________





『____何時かは必ず奴らは現れる』

『どれほど喪おうと 絶えることは無い』


『__あの街に再び 人間が甦り
またこの戦いが始まるのなら__』


       『 証明してみせよう 』

__________


『 …お前達になら… それが出来る筈だ 』


____AGE 20XX___

『(___人類は 再生する)』

『(___繰り返す事以外を 知らぬと言うのに)』

76:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 00:48

__________診断書


○ 今日、私は死んだ。そして生き返った。....生き返った理由は良く分からない。死んだ事に関しては分かっている ... ...事故だ。霊となって自分の肉体を見た時は吐き気を催したが吐く物が無かった。不思議な気分だ。
...取り敢えず自分の肉体を治す事に集中してみる。奇妙な事に、外傷は何も見えず心臓もハッキリと動いている様だ... ....私が今確かに生きて存在をしているからだろうか?


   _____これなら、あの時挫折した夢を叶えられるかもしれない。



○ 夢を叶えるのに数十年も経った。肝試しにと夜中子供達が来るのは良いが....本当に危ない奴等も居る。だから私は心を鬼にして追いかけ回した ...決して楽しんでいない、決して。
....建てたのは、子供達の為の病院。...人間以外にも有りとあらゆる生命への治療を行える病院 ...医者は私1人だが ...大丈夫、死ぬ事も倒れる事も無い ...やれるだけやるとしよう。




○ ...偶に人が来る程度の繁盛、現実は厳しいと言う事を知る。だが悪くない、子供の笑顔を見ると忘れていた生気と言う物を感じられる。....身体を透けて見る時はやはり諸々 意識をしてしまうが。煩悩を減らさなくては___



さて、次の患者は_____________________________



○ その子には名前が無かった。世にも珍しい、身体から金を産む事が出来るゴーレムの子供だった。...まだまだ成功する確率は低く石になる事の方が多いらしいが。...報酬はいらないと言うものの頑張って金を作ろうとするのを見ては此方の胸が痛くなる ...。
....怪我の治療だけじゃ無く体内に残っていた毒も抽出しなければならない ...がこの毒、下手をすれば他の患者に感染へと導いてしまうかもしれない。他の患者達の治療を即座に行い ...暫くこの子の貸切となった。...“ルージュ”と呼ばれるのも悪くない。今までブレシュール先生と呼ばれる事が多かったから。



○どうにも、悪い大人や親に何度も虐げられたらしい ...元々孤児だった、と言うのも聞いた。...悲惨な過去、だから私は ...退院するまでこの子に良い思い出を作ってあげようと ...努力した。この子には色んな事を教えてやらないといけないと思い...先生としても頑張った。プレゼントも送ったし おままごともしたし ...流石に変な事をやらされた時には緊張したけれど ..同時に悪く無いと思う自分がいて 悔しい。...でも、楽しい時間ばかりだ。




○...朝から元気が無い。一体何故かと聞いても答えてくれない ...メンタリズムの勉強はしていなかった、どうしようか。....使っても居なかった霊術をバルーンアートの様に扱ってみた ...怖がってまともに口を開いてくれない。失敗した。
...でも何故か、急に ...欠片をくれた。金の、欠片。 ...要らないと言ったのに無理して作ったからだろうか?顔面が蒼白に ......なので少し無理矢理にだが寝かせた。...しかし本当に綺麗だ ...宝物にしようと、考えた。 ......可能ならばこの子は未来私の助手として ... .....いいや、それよりもっと幸せに生きていけるだろう。
...そろそろあの子が来て1年になる。此処は7日間も無睡眠で頑張った ...アレを見せるべきだろう。...でもその前に先ずは睡眠を______。





○窓ガラスの割れる音で目が覚めた。

77:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 01:13

○....今思い出しても自分の非力さに腹が立つ。何とかあの子を守る事には成功したが、其れでも痛い。....塩や聖なるものが私に弱い事に判明した。無敵と思われる霊体にもやはり弱点はあった。
狙いはやはりあの子だった____聞けば、あの子の親に雇われたと言う傭兵達...命を奪う事はしなかったが私も腹が立ったので何本かの骨を折る程度に収めておいた。
あの子が心配してくれている。早くこの身体を治さなくては。







○あの子が居なくなった。







○探しても探しても見つからない、何処にいった?何故、なんで?....がむしゃらに探していた所、私はあの子が描いたらしい手紙を見つけた。

『たから、だいじにしてね。ルージュ。がんばって
すこしだけれど、がんばってつくってみたから。
けれど、むりはだめだよ?いつもむちゃばっかりし
ているようにみえたから。


わたし は、すこしここからはなれてそとをみようとおもうから。ルージュがしんぱいするひつようはないよ。みっか で、もどらないとおもうから。わたしのことはわすれて。とってもたくさんあそんでくれておしえてくれてありがとう。こころ をおしえてくれてありがとう。おせわをたくさん され たから、おんがえししたいな。またどこかでであえ る はずだから。またね。          ペット・ティラミー 』



_________時間が無い。早く助けないと。

78:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 01:24








○間に合わなかった。あの子の、亡骸が。私の、腕の中に今ある。心臓の鼓動を感じない。肌の温度を感じない。
死んだ、という事を理解したく無い。でも、でも____助けられ無かったと言う事実が重く心に響く。
...犯人は分かっていた、でも、私にはもう、その ...気力が無かった。



○生きる目的を失って数年。あの後、私は禁忌を犯した。罪を犯した。...あの子を、生き返らせた。不完全な状態で。体は不完全に大きくなり、精神も濁りが混ざった。
....何処かへ行ったらしいが、もう追う気は無い。私が何をしたいのかさえも理解が出来ない。....いっそ、自分から教会へ行き二度目の死を送ろうか。あの子の魂は ...若しかしたら私の知らない未知の地獄にあるのかもしれないから。
...そう言えば、あの子の親や傭兵達が不審死を遂げたらしい。何でも彼等の家族とその家ごと、地中へと沈んでいたらしい ...物騒だ。犯人の目的は何だろうか?




○久しぶりに来客が来た。泥に塗れた____________


○_______________


○_______________






○______今日から私は ....再び魔物として生きよう。この病院にもサヨナラだ。
....生きる目的を見付けた、それだけで私は____幸せだと思える。でも、少し ...我儘を言い 願いを叶えられるのなら。



    またあの子に会いたい。.....そうじゃなくとも、私はあの子の様な子供達を救いたい。


  __________子供に罪は無いのだから。



        ________ブレシュール・ルージュ

79:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

『イレギュラー』



「………」

ふと下を見れば、死体が転がっていた

「─あ、フェイトじゃん」
「…おう、なに、邪魔した?」
「んや!暇潰してただけだし、気にすんなって!」

その死体は人間のものであり、その血の先に居たそれは、自分と同じヴィランで、そのヴィランは自分の知り合いでもあった

撒き散らされる肉塊、内臓、血

それは日常風景であり、なんの違和感も無い光景だ

「うわ、拭けよそれ」
「えー、こまねぇんだよお前、いーじゃんこのくらい」

その日常を表すように、目の前のそいつは己に絡みついているぐちゅりとした赤いような白いような塊を払おうともせず、こちらに笑いかけなんでもないように会話をしてくる

平凡、平穏、何の変哲もない『ヴィラン(俺たち)』の日常














それを異常だと、そう感じる自分は、きっとどこかがおかしかったのだ

80:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

人間の作るものや、文化が好きだった

初めて食事をした時は感動した、好んで人間の食事をとるようになった

意味もないのに

初めて芸術を真似た時は驚いた、苦戦しながらも楽しむようになった

意味もないのに

初めてスポーツをした時は爽快だった、人間の姿になって混ざり込むようになった

意味もないのに



どれもこれも『ヴィラン(俺たち)』には必要のない行為だった

やったって意味もない、真似ているだけ、わかったつもり


それでも人間の『平凡』は楽しかったのだ


血みどろの平凡など要らなかった、死臭に塗れた平穏など要らなかった

ヴィランとして、それは異常なのだということはわかっていた


──でも、だけど

81:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

「───フェイト?」
「__あれ、わかった?結構自信あったのに、擬態」
「…い、や、…近ずいてお前の匂いするまで、わからんかった…殺しそーになった」
「あ、そう、ならよかった、いやーバレバレかと思ってちょっとヒヤッとしたー」
「…いや、いやいやいや、なに、なにしてんの、


──なんで人間の格好してんだよ」

こちらに指をさしてそう告げるそいつは、動揺しているらしい、なんだ、いつも笑ってるくせに、珍しい

「あー、どうよ、似合ってんでしょ、気に入ってんだ」
「お、まっ…!気に入ってるとかじゃねーだろ!!なんでっ」
「なぁに興奮してんだよ、擬態だつってんじゃん、スパイだよスパイ」
「は…?」
「いやーなんか人間に擬態したら思った以上に上出来でな、お上に直接スパイとして人間に混じって来いって言われた、人間が使ってる…あー、なんだっけ、あびりてぃーぶれーど?とか言うのも渡されてさー、くっそだるいわけ」

ほんの少し違うけれど、嘘を言っている訳では無い
嘘は真実を絡めるのが一番いいと言うのも、確か人間の言葉だった気がする

「…す、ぱい」
「そ、だから間違えて殺したりしねーでな、ちゃんと顔覚えろよ?」
「……おれ、それきらい」
「は?」

全く想像していなかった言葉にアホみたいな声を出してしまった、嫌いってなんだよ嫌いって


「……おれ、前のカッコのお前のがすきだった」
「───そ、悪いな」



おれは大嫌いだよ、あの姿も、あの力も
『ヴィラン』という、日常も、なにもかも


「そんじゃ、また会う時は一応敵同士な、建前だけだけど、顔覚えた?」
「……たぶん」
「うわ、信用出来ね、…あー、じゃー…」

じゃらりと、金具の擦れる音がなる

「!」
「これ、つけてたら俺な、わかった?」

舌に付けたピアス、チェーンが長くぶら下がり、その先には十字架が飾られているそれを見せて、もう一度問掛ける


「……趣味悪」
「ハハッ、お前も大概だろ」

あまりいい顔をしていないそいつに、笑って答えてやれば、そいつはようやく諦めたように下を向く


「殺したらごめん」
「いーよ、わし強いし、殺そうとしたらこっちがぶっ殺してやる」
「……うん」

82:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:34


『いやだ、いやだいやだったすけてだれかたすけてたすっ』
『殺さないで殺さないでごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!』
『いたいよぉ!たすけてよぉ!!おかあさん!!おとぉさん!!!』




「……………」


殺したらごめん、なんて




「(…なんで、人間を殺した時にも、そう思わないんだろうな)」










「───やっぱ、俺っておかしーんだろーなぁ」

83:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:34



___待てぇぇぇ!!


___待つかよーっ! ばばぁっ!


( 何時の時代でも馬鹿げた悪さは起きるもの。
鞄を引ったくった男と、中年の女性の鬼ごっこ )

「 はぁっ! はぁっ… ドロボーっ! 」


__平坦な道路沿い 時代錯誤の光景…道行く人も呆気に取られ

「 へへっ ざまぁみやがれってんだっ! 」



( 余所見はご法度 …此処は道路 )

[タッタッタッタッタッ…]____横道から飛び出す誰かに…


「うぅおあっ!?」「: おっ!? 」___[BAAAN!!!]



( ___もんどり打って転がる男 )

「 ってて … おいっ バカ野郎!
前見て歩きやがれってんだっ 」



___:えっ


( __倒れた男に叫ばれ、… その青年は こう答える )




「: な、なんでオレのこと知ってんだっ!? 」

      「は!?」

84:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:46


____はぁっ お、追い付いたよっ!

「 げっ やべぇっ! 」 [ダッ]

「: いぃっ!? お、おい!お前ぇっ… 」


( 突然、また走り出す男。___慌てるだけの青年 )

____えっ …炎神くんっ!

「: あ…? お、大屋さんじゃねぇかっ やべっ… 」


「 あいつ泥棒だよっ 捕まえてーっ! 」

「:え 」
_________



「 へぇっ… へぇ… へ、へへ…手こずらせやがって… 」

( 桟橋の下に駆け込む男… 誰も、追ってきてないか
… 見渡し、ゆっくりと鞄を開く… )


「 チッ… しけてやがら… …それにしても…
なんだったんだ? あの … バ … カ 」

: ……………


やろぉぉぉぉぉぉぉいっ!?!?!?!


「: お、おぉいうるっせーぞ?
 いちいちオレ見て叫ぶんじゃねぇ 」

85:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:59


「 な ななっ なテメッ テメッ… てて ててて 」

「: …なに言ってっかわかんねぇぞ? 」


______あゝここでひと呼吸


「 な、なんで此処が分かりやがってんでぇ!
お おれぁ走って来たんだぞっ! 」

「: おっ 奇遇だなーっ オレも走って来たんだ 」

「 あ そりゃ奇遇でハハハ… バカにすんなっ!? 」


( …呑気な笑い声が 少しだけ橋のしたで鳴る )


「: ま とにかく悪いコトは言わねぇからよ
 おとなしく… えっと、なに盗んだんだ?お前ぇ 」

「 っ… (こ、コイツ馬鹿だがちょっと怖えな…)
(… 勿体ねぇが、捕まるよりゃ…マシだぜっ!) 」


( … 鞄を、泥棒が差し出す )

「: おー それだなっ! 確かに大屋さんの… 」

「 …ひっひひ、そうだ …こ〜い〜つー だっ! 」


[ブゥンッ!]____ :あぁっ!?


( 鞄が 河に投げ飛ばされる__ )

86:炎神◆.s:2021/10/14(木) 02:10


「 (いまだっ 取って来やがれバカやろ〜っ!) 」




_______[しーん]



「 ……… あり? 」


( 暫く、走った後 … 違和感を覚えて泥棒は振り向く
…馬鹿が川に飛び込む音どころか …投げた鞄の音すらない )



_____だって川の向かい側に…



「: ひ〜 あぁっっぶねぇ〜なーもー… 」


___ その 馬鹿が その鞄を抱えて立ってたからだ




「 ……… え ? 」

( … 自分がさっきまで居たところを見る …
… … 誰も …居ない。… そして向かい側に… )


「( お おれぁ悪い夢でもみてんのかっ!?)」


「: おいっ お前ぇ! 」 「!な"?」



また 自分の目の前に現れた青年

( … 泥棒は目をぱちくりさせて青年を凝視する )



「: ……そぉいや大屋さん お前ぇも捕まえろって
 言ってたんだ … お前ぇ もう謝ったって許さねぇぞ! 」

87:炎神◆.s:2021/10/14(木) 02:31



____て、てめぇ…


「 なんなんだよぉ〜っ!? 」

( 破れかぶれの勢いに任せた拳が青年へと
向かっていく! … しかし、青年 …さらりと躱し )


(__握られる反撃の握り拳)


_____オレは…ジョー


「: 炎・神 ジョー だ! 」 

______________[DOKAAAAAAAN!!!]

88:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:06

 ――もう諦めてもいいでしょう?
 ――もう終わりにしてもいいでしょう?

 だって、私は一人で大切な人はもう居ない、帰る場所も無くなった、守りたいものは全て失った。
 大切なものを一つ失う度に、戦う理由は磨耗していく。

 もう充分足掻いたんだ、私は充分頑張った、だからここで終わっても誰も文句は言うまい。

 さぁ殺せ、と私は『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員達に視線を向けた。
 私の身体は傷だらけ、立っているのがやっとの有り様だ、さぁ早くこの苦しみを終わらせてくれ。
 
 そんな私の願いが届いたのか戦闘員の一人が光の矢を放った。光の矢は夜闇を裂いて、立ち尽くす私の足を貫いた、私はそのまま地面に頽れた。

 けれどまだ息はあった。
 
 戦闘員が私に止めを刺そうと殺到する足音が響く。


 ――これで全てが終わるはずだった。

89:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:07

「そいつから離れやがれっっっ!」


 そう、終わるはずだった、彼が現れるまでは。

 叫びながら私と戦闘員の間に割り込んだ青年は有無を言わさず戦闘員を殴り倒した、彼が私を助けようとしていることは判った、けれどもういいんだ、あなたまで死ぬ必要はない。

「私のことは良いから、あなたは逃げて、もうじき増援がくる、一人じゃ……!」

「……判った、終わるまで生きてろよ?」

「……? それはどういう……」

 その言葉の意味を問う間もなく、それは訪れた、何処からともなく大挙して押し寄せる『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員、その数は数百を優に超えているだろう。
 けれど青年は臆することなくむしろ「……燃えてきたッ!! 」と闘志を燃やす。

「私のために、あなたが傷つく必要はない……!」

「女の子を見殺しにして逃げろってか? それならここであんたと討ち死にするさ、その方がカッコいいしな!」

 そう言い放って、青年は再びチェルノボーグの戦闘員に殴り掛かった。
 青年は烈火のごとき勢いで戦闘員達に拳を叩き込んでいく、ただの人間の動きではないことは明らかだった。
 私と同じ異能者だ、だが数百の敵を相手にたった一人で何が出来る? 現に彼は無数の光の矢を受けてボロボロではないか。
 
「……もういいの、もう充分頑張ったの、お願い…だから逃げて」

「悪いがオレはまだ諦めちゃいねぇよ、諦めるのは死んでからでいい!」

「もう止めて」と絞り出した私の声など聞く耳持たんと言わんばかりに彼は戦い続けた。
 青年は何度傷付いて倒れても、不敵に笑みを浮かべて立ち上がる。
 どうして、私のためにそこまでするのか、理解不能の文字が頭の中を駆け巡る。
 けれど、そんな彼の姿が、私にはどうしようもなく眩しく見えたのだ。

90:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:08

 ――そして、長い戦いは終わった。



 青年はたった一人で全ての戦闘員を倒してしまったのだ。
 彼が決して諦めなかったから私は今生きていて、また悪夢のような日々が続くのだ。
 けれど彼ならば、彼とならば、この悪夢のような日々も乗り越えられる気がしたから。

「オレは炎神ジョー、よろしくな」

 私は差し伸べられた彼の手を取り、そして誓った、私の命はこの人のために使おうと。

91:◆.s:2021/10/18(月) 20:46



  _____ジョ… … …目覚めるのだ ジョ ……


( ……暗い 暗い闇の中で )

( 呼び声が響く …オレの名前を呼ぶ声が )


  ____おまえは … おまえは…!



( … 暗い 暗い …それだけが わかる
 けど … 声は響いてくる … 何処から だろう )



_____炎神 … ジョ…………!



   (___)



_____目覚めるんだ …炎神くん


(___?)(…頭を打たれたような 強い感覚に…)



"___誰かの …見えない、顔が雨垂れの中に映った"



____キミは行くんだ 行かなくちゃいけない



____ 行くんだ …炎神 __ジョー… 君____







______おい、起きろ〜!


______起きろって! えんがみっ!

92:◆.s:2021/10/18(月) 20:55


「  う わ あ っ っ っ ❗❗❓️  」


___飛び起きて辺りを見回す


  前に黒板

 周りに友達、下にはノート

 …芯が折れた鉛筆片手に

___あちゃー __あいつ、まただぁ ___ホンっト…


(___上を見上げれば…)



「 💢… え、ん、が、み くぅ〜〜〜んっっ 」

( ___南せんせー )



「 あ。 … っへ えへへ…  」



   廊下に立ってなさぁぁぁぁーーーーいっ


      ((((バカだなぁ…))))




___これは …1人の少年が…


「 はは… またやっちまっ …たぁ… 」




_________"強くなっていく" …おはなし。

93:◆.s:2021/10/18(月) 21:06




_______3年B組、放課後




   今度授業中に寝てたら承知しませんからねっ!



( …学校のチャイムに見送られて
とぼとぼ歩く、路地の真ん中 )


「 … はぁ〜っ …まぁたやっちまったなぁ… 」


_____少年の名前は 炎神、ジョー。 …そう、ジョー



小学三年、好きなものは運動で嫌いなものは勉強

___授業中睡眠常習犯、…いつでも誰かが世話を焼く



「 これじゃあおばちゃんにまた怒られっぞ…?
はぁ〜あ … __……んー 」



(「…公園にでも寄って帰ろ」)





_____人は彼をバカと呼んでいる

94:◆.s:2021/10/18(月) 21:18



___彼、ジョーは遊具の中でもジャングルジムが好きだ



[ト、ト、ト]____「 …っへへー! 」

( ランドセルを下ろして、足を踏み締めて…! )


[タンッ]「 とぉーっ! 」

( 掴んで、足を入れて… 昇る
掴んで、足を入れて… 昇る、昇る!
無邪気な心はそれだけの事が楽しいのだ… )


[グン]__「 よっ、と!… 」 

( …けれど、彼は少しだけ )


…少しだけ、早くなったかな…



___少しだけ、"違う"ところが、あった



( ___てっぺんに登って 高い所をを座って眺める )


「 ……… 」


( _____彼は… )



____おぉーい! …えんがみーっ


「 …っお? 」

95:◆.s:2021/10/18(月) 21:26


_____公園の入口から… 少年を呼ぶ声



「 やっぱここに居たなーっ おーい 」



____炎神と …同じほどの子供



「 …テントじゃんかぁ 」


( 彼を呼ぶ友達、…名前は"典都"
炎神少年とは仲が良く、色んな事で
よく、彼を呼びにくる …そんな子だ )


「 原っぱの方で鬼ごっこやるんだよーっ
あんまり集まってねーからさーっ お前もこいよーっ 」


____大きな声は 耳を塞いでても聞こえるほど



「 っぇ〜っ、オレ これから帰るトコだぞぉっ!
遅れたらおばちゃんに怒られちまうよぉっ! 」



「 ウソつけよ〜っ 公園に居るじゃねーかーっ 」


「ぎっ…」

96:◆.s:2021/10/18(月) 21:49



「 …わかった、行ってやっから
おばちゃんにはヒミツだぞ! 」

「 やり〜っ! 」


_______駆けていく二人





________変わることのない日常

______穏やかな平和の風景。……



( _____夕暮れ時 )


「 ーったく… もう暗いじゃんか… テントのやろ〜…!」



_______転機、そして



「 … ん? 」


_____影は … 同時に訪れる

97:◆.s:2021/10/18(月) 22:09



( …暗い筈の公園が妙に明るい
人の騒ぐような音も聞こえる )


「 …? 」


( …いつも、自分が使ってる公園でもある
その場所に 何時もはない事が起こっている
…怪しげに思った少年は、静かに公園へと近寄った )



__木が組まれて焚き火の明かりが公園を照らす
…少年よりも大きい青年が集まり、焚き火を囲って
やたらと、大きな声で騒ぎあっている


「 …(…なんだ、あれ) 」



( 妙で、異様にしか感じないその光景は、夜という
暗闇もあり 少年の心の中で小さく、恐怖に変わった

__今も 青年たちは囲う焚き火に木を投げ入れて… )



「( …あんなに…木、どっから… )」


「 おい 」

_____わ"っ⁉️

98:◆cE hoge:2021/10/19(火) 22:06


「箱庭の幸せ」

 凛と美しくそれでいて冷たく。慈悲の心も必要だが上に立つにはそれ以上に冷酷にならなければいけない。それは小さい頃からずっと言い聞かせられてきた事だ。
芸事に帝王学に武術、そして毒殺されることがないように日頃から接種する致死量ぎりぎりの毒。外で能天気に遊んでる子達をみると羨ましかった。だけどそんな弱音を吐いてる暇などない。もっともっと頑張らなければいけない。お爺様や周りの期待に答えるために。「辛い」「逃げ出したい」そんな言葉を胸にしまい笑顔を作り過ごしていた。

今日は月に一度の家族での食事会。さっさと終わればいいのに。そんなことを考えながらナイフを動かし食べ物を口に含むと土のような苦い味が広がる。最初は毒でも盛られたのかと思いそっと周りを見渡すがそんな様子もない。それに毒だとしたら痺れもなにもないのはおかしい。ただ泥のような味が口いっぱいに広がるだけ。無論周りの家族は美味しそうに食べてる。最初はその日の調子が悪かったのかと考えていたがそれが1ヶ月も続くとなるとそういうわけでもない。後日、 医師から告げられた病名は味覚障害。原因はストレスらしい。治るのは難しいとも言われた。それでもその頃にはそれを周りに隠し通せるだけの笑顔が作れた。味の感想を求められたら、匂いで察すればいい。

生活も味も、ただただ灰色な日々。そんな中一人の少女と出会った。名を初鹿 柚希。お父様が多額の出資をしている実験体。たしか自己再生能力を人為的に植え付けられ、自我を保ったまま副作用は特にない珍しい個体だと食事会で言っていた。
自分の置かれた状況も分かってるなかそっと声をかけてきた彼女はこちらに手を差し出す。その手には一つのサイコロキャラメルがあった。

「これ。あなたにあげる…、そんな顔だとしあわせもにげてくよ」
「甘いのたべるときがらくになるでしょ。ほんとはダメだけど優しい先生が頑張ったからごほうびにってくれるの。ないしょだよ」

 そういってにっと微笑む彼女は年相応の笑みを浮かべてわたしの手の中にあるキャラメルをじっとみる。どうせまずいあの味が広がるだけ。そう考えながらキャラメルを口に含む。
 
「………、あ、まい」
「でしょ、ふふっ、あんま他の子にはあげないからあなただけは特別ね」

なんで。味が。そんなことが頭の中でぐるぐる回るが目の前の少女はお構い無しに目を輝かせて私の手をとりニコニコと微笑む。まぶしすぎるその笑みにそっと目を細める。

「なんで、わたしとなかよくしようとするの?」
「おともだちになりたいから、かな…あなたは嫌?」

「そんなことない」
「…!ほんと!わたしはね、はつかゆずき、あなたのお名前は?」
「……、りょうしゅうめい」
「じゃ、しゅーめいだね!わたしのことは」

「ゆず、…ゆずきならゆず呼びでもいいでしょ」

 うん!と頷いた彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら頷く。灰色の日常に色が戻ったあの日、わたしはたった一人の友だちを守ろうと決めた。たとえどんな手を使っても。それがわたしができるこの子への贖罪だから。

 

 

99:◆.s:2021/10/22(金) 01:57

( 渾身の力を込めた拳が道化師の眉間にぶち当たるっ )

    ギ!ぃ!! やぁアァあィァァィァーッ!!!


「 やっ た__! 」

耳にぞわりと響いて背筋を凍らせるかのように
重く …不協の連なるような悲鳴… 歌姫は"油断"する。


「 (あ 当たった…?) 」

___疑問 …しかし、炎神も "止まる"。




ァー  んンンン______________


   なワケなァいですよねェァッッハ!ハー!


[ひしっ]「 い"っ 」

『 ジ ョ ー カ ー ☆ マ!ジィッッックのお時間でェす!! 』


( 突然五体満足大サービスに炎神に抱き付く道化師は__ )



[ (ピ☆エ☆ロ だァ〜い爆発音!!) !!!!!! ]

______自爆!! !!

100:◆.s:2021/10/22(金) 01:57

___ぇ …

「 えん…がみ…っ __! 」



絶望を焚き付けるように …彼を巻いて起こった
愉快なおかしな大爆発 …残る煙に 歌姫は放心する…が



____ぁ … ちィ…っ!




( 煙の中からあの、…元気な声が聞こえる
…何ともないような声が 安心を呼ぶ、あの声が )


「 ! …えんがみっ! だい…じょうぶ っ? 」


____そして …煙の中から出てくる


「 おぅっ… あんっ…のヤロー…っ
とんでもねぇヤツだ… … あぁ、オレは… 」

( …満面の笑みを 炎神は返す )


「 大じょ……



______…!!ウウウ夫でなァによりィィぃ〜〜〜ッッ!!! 』



    ____ "ジョーカー"の醜悪な笑い声


「 あ__っ? 」  ____ピィェぇ!ロ。"キィッック"!!


(__背後からの全力ドロップキックに吹っ飛ばされる炎神!!)

101:◆.s:2021/10/22(金) 01:58


「 …ぁ、が___っ 」

( …手足は 自由、だから "もがく" 歌姫。
__けれど、それは 鎖 …硬くて、首に巻かれて… )


____それを引き千切れる炎神も…


『 さァてェー、時にィ …エーット,ダレダッケ?
セィラフサン? あァなたナ!メちャいけませェんよ 』


『 ヒー、ロー。であァる以前に此処って何処でェすか?』


八百屋? (大根と人参両手に看板背負って)

空港? (旅行姿)

学校? (学生風)

それとも憩いの場ッッ!? (女装。)



       違ァう!!


『 "せェぇェんじょォう"でェすよ!"戦場!!" 』


_____背後に燃える炎が道化師の顔に影を作る

102:◆.s:2021/10/22(金) 01:58

『 "ルール!? 安全!? モラル!? ウマイ飯!?"
 そォんなモノだァれが保証してくれるんでェすかッッ!? 』

ぱっ。

____道化師が鎖から足を退け…



[がぎゃりぃっ!] 「ぅあ"…___っ」


____地に足がつく少し前で鎖を掴んで止める

…ついでに歌姫の目の前___



『 後ィろでピーヒャラ歌ァってりゃワテシが見逃ァしてくれる…
と!でも思ォいまァしたかァ!? 残念ッッ 』

『 敵は平等なァンですよ!! …そ。
 あなたがたが好ゥきなねェアハ!ハ!ハ!ハ! 』



___っや … やめろっ…!


『 !!! !!! …ァ、"!"付けるの疲ァれる。
 ま 置いといて ォォやおや。 』

103:◆.s:2021/10/22(金) 01:58

____…脚を引き摺り …地べた這ってでも…


( 近くまで …戻って来ていた炎神が必死で声を出す )

「__っ…(ぇん… がみ…!)」



「 お… オレ… と …たたかえっ…! 」

『 まァだ起きてたんですねェ、少ゥ年クン。
… ま いィでしょ。… ネ?ネ?セィラフサン? 』


[ぎりぃっ]___鎖にナイフを刺し …固定する


『 あァなたこォんなコト …言ィってませんでした?? 』


____酸欠で視界の揺らぐ歌姫など尻目に
 軽い足取りで炎神へと道化師は脚を運ぶ


「…っぐ…!」
『 ト・モ・ダ・チ だァいじ。…なんて!
なァんて綺麗な言葉ですかねェェ… …それで 』


____っ…!


[きんっ]


『 ペチャクチャ綺麗事言ってればこの少年は救えましたか?? 』


_____炎神の真横に座り… ___ナイフを背中に向ける

104:◆.s:2021/10/22(金) 01:59

「 っ…!…ぅ…__! 」

( 精一杯に、もがく もがく…けど
鎖は固く …冷たい、現実を突き付けるように )


『 言ィっときまァすが。ワテシは正しい事ォしか
しちゃいないィんでェすよ!!ワテシは__


___っだ …だまれぇっ!  『あ?』

「 … ぉ、…オレぁまだ生きてんだぁっ
勝ったみてぇに… 言うんじゃねぇーっ!!!」




_____言葉を …炎神が遮る



『 … まァ、こォーゆー事ですねェ … あァなたは結局。
他人に頼らなァいとなァんにも出来やしないィンです 』


______…ぎりっ

(___…歌姫は強く、鎖を握る)



『 だァから教えてあァげますよ …

 こ☆の ジ ョ ー カ ー 。が 』



(__…地べたで歯を食い縛る炎神)

「 (っだ…駄目だっ…!チカラが入らねぇ…っ!) 」


『 "チカラない"…"にんげェん"の … 』


『 げェぇんじつ を _____ ねぇェッッ!!! 』






_____(セラフ 覚醒に続く)

105:◆RI:2021/10/22(金) 12:31

      Canticum, haec vox in aeternum
「─────『歌よ、この声をどこまでも』」

それは声であった

鎖に繋がれ、縛り上げられていたはずの喉を無理やりに開いたその声は、ただひとつ、なんの抑揚も感情もなく、その場に落ちる雫のように響き渡った

「─ァ?」
「…せ、ら…?」

その言葉に、その場にいた2人が反応を示す、ありえない、と、違う意味を持った同じ言葉を考えながら



『──始まる、destroy、終わりの音が鳴り響いた─』


ぶわりと、空気が揺れる

歌、それは歌だった、歌のはずだった


「っぐ!?」


轟音、爆音、歌と呼ぶには、歌姫の、あの美しい歌とよぶには、それはあまりに暴力的なそれは、振動とともに地面を揺らす

カランッと、その振動によって鎖を固定していたナイフがおち、ガクンと彼女の体が崩れ落ちる

──ことはなく、ゆらりと、彼女は傾いたからだをおこし、顔を上げる

『─邪魔をしないで』

目を見開いていた、目線は1点に、うたっていた、

『異常』

それこそが、現状の彼女にあう、唯一の言葉である

106:◆RI:2021/10/22(金) 12:31

『──like an Angel─細胞の奥から、叫ぶように歌う破滅を─!』


焦点が揺らぐ、その顔に感情はなく、その瞳に色はない
ステージ上の『歌姫』とはまるで違う、ただ歌うのみの機構

『─Evil,Evil─あなたも─Evil,Evil─本当はきっと願っているんでしょ』


自身の
身体強化
状態異常回復
欠損部修復
防御力強化
攻撃力強化
リジェネ付与

対象の
身体能力低下
状態異常付与
防御力低下
攻撃力低下



「っっ──!!セラフ!!!」

ぞっと、その言葉の羅列に、あまり覚えない恐怖を感じた

たしか、セラフ入っていたはずだ、異能を発動する時のデメリットを



【わたしのいのう、うたうえばうたうほど、せいしんりょくが、なくなる、ちゅうい】


いっていた、そうだ、セラフはいっていた!
あの歌に異能が含まれているのなら、彼女の精神力は今も削られ続けている
なのに


『でも、いや、いや、嘘つきまだ、まだ』



彼女は、歌い続ける、永遠に


ガンッと、鈍い音が鳴る、それは彼女が壁にアビリティブレードを突き刺した音である、


神の純潔、そう名付けられた彼女の武器、その本質は重力操作


『足りないや─ねぇ、痛みが』






『─滅びは快感』


それを突き刺した壁が、振動によってくだけ、

─浮く

そこでようやく、彼女の人形のような無表情に口角が上がった『笑み』が見える



一瞬の隙もなく、乱れもなく、無数の瓦礫が、道化に襲いかかる


「─あ、は」


暴走
セラフ・パライバトルマリン

正常調整────────────不可

107:◆RI:2021/10/28(木) 20:08

『パライバトルマリンの煌めき』




「セラフは本当に歌が上手だね」

いつだったか、──に言われた言葉だった

優しく頭を撫でながらそう告げられて、とても幸せだったことを覚えている

歌うことが好きだった、──が褒めてくれるから、いや、ほかのことだってもちろん褒めてくれるのだけれど、

でも、自分の好きな事を褒めてくれるのはほかの何を褒められることよりも嬉しかった







アイドルになれたのは、本当にただの幸運だった

街でたまたま、話しかけられて、そういう事務所のスカウトをうけた

そこでたまたま、私の歌が絶賛されて、たまたま流れにのっただけ




はじめてヴィランに遭遇したのは、少し私が人気になってきたときの、ライブだった

大勢の人、私のファン、みんながヴィランに襲われる、それは私も例外ではなく、その時の私は、まだ逃げるしかできない群衆のひとりだった

結果としては、死人が出る前に、駆けつけたヒーローによって、事件は集結した


私は何も出来なかった

みているだけ


誰も私を責めやしなかった

むしろ、この事件がトラウマになっていないかとすら心配され、精神的治療として休みをいいわたされた

あたりまえだ、相手はヴィランで、私はただの一般人なのだから

108:◆RI:2021/10/28(木) 20:08

正直に言うと、気に食わなかった

いやだって、だって、おかしいじゃないか

私のライブに乱入して、私のファンを傷つけて、あれは笑っていたのだ

ヒーローがくるまで、その状況を、今後許しておかなければならないだなんて、絶対に嫌だ



ならば、どうしたらいいかなんて、ひとつしかないのである





「っげほっ、げほ、」

初めは酷いものだった、私の異能は戦うのにはあまり向いていないから、対応できるようにするには歌い続けるしか無かったけど、そうすれば精神力を永遠と削られる

「…っ、…」
だから、はやく、なれないと

109:◆RI:2021/10/28(木) 20:09

「あの!私と!ヒーロー活動をしていただけませんか!」
「!」
ヒーローの真似事をし始めて、だいぶたったころの握手会で、それは起きた
いつも来てくれていた人が、私の手を撮った瞬間に、そう叫ぶように告げた言葉は、私にとっては驚愕の一言だった
一応、アイドルをしていたから、ヒーローの真似事のことは公表していなかったし、そもそも私を誘ってメリットがあるのか、なんて考えていたのだけれど

「っ…!」
「───、ふふ」


その後、オフの日に握手会で告げられた場所を覗いてみれば、私を見た途端にその人はひっくりかえっていたから久しぶりに笑ってしまった



灯莉と出会って、アビリティブレードを手に入れてからは、灯莉に教わりながらも、ヒーロー活動をするようになった
まぁさすがに大きく動くことになるから、アイドルと兼任する、と言った時には色々とあったのだけど、ファンたちもお世話になった人達も、最後には応援してくれた


「やはり、あなたの歌は素晴らしいですね、セラフさん」
「…、んふ、ともり、またほめる」
「あたりまえです、すごいものはすごいと言います、それは、ファンとしてもですが、ヒーローとしてだって、あなたの歌は本当に素晴らしい」
「………」

素晴らしい、らしい、私の歌は、あまりにまっすぐ言われるから、少し目を逸らしてしまった

歌は私にとって、生きる意味で、生きる手段

わたしの、そんざいいぎ

110:◆RI:2021/10/28(木) 20:09

「駄目だよ、セラフ」
「え」

ヒーロー活動を始めて、アイドルとしても有名になって
久しぶりに、──のところに行ってみれば、一言目にそう言われた

「…なに、が?」
「むちゃしてるでしょ?」

驚愕、なんで分かったんだろう、あかりにも、しずきにもばれてなかったのに

「聞いてるよ?ヒーロー活動してるんだってね、でも無理だけはだめ」
「…うん」

──の言葉に、素直に頷くしか無かった、頭が上がらないほどお世話になったから
しゅんとしているわたしをみて、──は少しして笑って、私の頭を撫でた

「セラフは頑張り屋さんだからね、でも大丈夫、セラフならできるから、むちゃしなくても、きっと大丈夫」

──ほんとかなぁ、できるかなぁ

「できるできる、僕が保証する、セラフはすごい子だもん」

──そうかなぁ、わたし、すごくないよ

「すごいよ、セラフは、だって今まで、ずっと頑張ってきたでしょ?それはすごい事なんだよ、なかなか真似出来ないことなんだから」


「だから、がんばって、でもむりはしないで」



「お兄ちゃんのかわりに、幸せになるんだよ、セラフ」




───うん、分かった

「まかせて、おにぃ」

111:◆RI:2021/10/28(木) 20:09


おにぃは、昔から体が弱かった
いつも病室のベッドから動けなくて、それでもいつも優しくて、いつだって、だれよりも強かった



「おうえん、してる、から、ね…せらふ」



それだけ告げて冷たくなったおにぃの手をずっと握っていた



「────うん、まかせて」






「セラフさん!あたらしい仲間ですよ!」

「セラフさん、…その、技の訓練に、お付き合いしていただきたいんですが」

「こーねこちゃん、今日も元気だなぁ」

「せらふ、今宵も良き歌であったぞ」


「セラフ!お前の歌やっぱすげえな!」

112:◆RI:2021/10/28(木) 20:10

─────────歌

それは私の存在意義、私という存在の全て



「『─いま、いま、いま、誰かの声が聞こえる─』」


歓声、喝采、それが私の証、私が生きているという証明


スピーカーから流れる音、熱い照明の光、暗闇に光るサイリウム、ファンの私を呼ぶ声、それら全てに私は目を向ける

生きている、私は生きている

身体中に認識させられる『生』という感覚

その感覚に体が、心が、声が興奮に震える



─あぁ、わたし、いま、いきてる




『おうえんしてるからね、セラフ』



どこまでもどこまでも、歌え


遠い場所にいるあなたに、届くように


「おまたせ、あんこーる!」

113:鷹嶺さん◆XA:2021/10/31(日) 11:03

『BITTER END』

 
 諸悪の根源ベテリゲイーゼとの最後の戦いから半年の時が過ぎ、世界は平穏を取り戻しつつあった。 





 今日は久しぶりの雲一つない快晴、こんな日はあの頃のように外でお弁当を食べたくなる。 
 お弁当箱におにぎりと卵焼きとジョーの好きなミートボールと他にも色々詰め込んで、新調したばかりのパーカーに袖を通し、冴月は玄関の扉を開けた。 

 外は少し風が冷たいけれど穏やかな日射しが心地良い。自然と足取りも軽くなる。 

 向かう場所はそう遠くない霊園。花と木がたくさんあって何より静か、冴月のお気に入りの場所だ、もちろんお気に入りの理由はそれだけではない。 

 30分ほど歩いて霊園に着いてみれば、緑の髪の少女が一人、陽だまりのベンチで寝息を立てている。どうやら彼女も考えることは同じらしい。 
 無防備に陽光を浴びる少女の頬、アイドルなだけあって綺麗な肌だと感心しながら指でつつく、いつかの仕返しだ。 

「ん〜……あ、さつき、おはよう〜」 

「おはよう、セラフちゃん。あなたも此処に来ていたのね」 

 横たえていた体を起こし、猫のように伸びをするセラフの隣に腰を下ろす、前から思っていたことだけどこういう仕草が本当に猫みたいだ。 

「うん、いいてんきだから。さつきは?」 

「お弁当を食べに、あなたも食べる?」 

 セラフはその問いに当然とばかりに首を縦に振る、冴月はミートボールを一つ箸で掴みセラフの口へ運んだ。 

「みためどおり、おいしい」 

 それから冴月とセラフはお弁当を食べながら、世間話に花を咲かせた。 
 横目でおにぎりを頬張るセラフを見ているともう会えないジョーのことを思い出してしまう、あぁ、あれからもう半年か。 
 こうして二人並んでお弁当を食べて、セラフが乱入して灯莉に呼び出されてスコーピオンに遅いぞと怒られて、『黒き神仙』と戦って……。 
 とても辛かったけど、それと同じくらい幸せだったあの日々はもう戻っては来ない。 

「ありがとう、セラフちゃん、ジョーのためにこんな素敵な場所を見つけてくれて」 

「じょーはせかいをすくったひーろー、これくらいとうぜん」 

 セラフは胸を張って言う、実際にあれこれしてくれたのは灯莉さんだけど、お金はほとんどセラフが出したと聞いている。 

「それに、ここならだれにもじゃまされずにひなたぼっこができる」

「そうだね」

 それだけ言って冴月は立ち上がり歩き出す、色とりどりの草花に囲まれた墓碑が立ち並ぶこの霊園は、彼には似つかわしくないくらい綺麗な場所だ。
 本当に似合わないなぁ、そんなことを思いながら、冴月は一つの墓碑の前で足を止める。


「ひどいよ、ジョー。こんな世界に私を置いていくなんて」

 冴月は墓碑の前に膝をつき、冷たい墓碑に手を当てて囁く。

「ずっと一緒だ、って言ってくれたのに」

 頬を涙が伝う。

 「私の幸せはあなたにしか守れないのに――!!」

 零れ落ちる滂沱の涙を止めることはもう誰にもできなかった。


冴月ルート完

114:◆cE:2021/11/01(月) 21:56

「箱庭の友愛」

ここは、どこ…わたしは、わたし…

「…ず、ゆず!…ゆずっ!」

そんな顔しないで、泣かないで、悲しまないで。わたしは雪梅じゃないから笑顔にすることも守ることもできないの。

「なか…ない、で……しゅ…めい」

「……っ!泣いて、ませんっ!あなたがっ、ゆずが勝手にどっか行ったりするから!怒ってるんです!」

うん。分かってるよ。ずっとずっとわたしのこと、ボクじゃない「ゆず」のこと待っていてくれてたんだもんね。

「あなた意識も不明な重体だったんですよ。また、あなたを今度こそ命がなくなるかもって……わたしの唯一の友だちをまた、なくしてしまう、かもって、」

ごめんね。そうだよね。わたしたちは小さい頃からずっとお互いを守ってきた…。わたしがわたしじゃなくなってるときだって。

「あり、が…と 」

「無理して喋らなくていいんです!今はゆっくりっ」

だめ、今じゃなきゃ駄目なんだ。ずっと待たせてきたんだから。

「 しゅう、めい…ボクとわたしと……もういちど、朋友に、なって……くれる? 」

「そんな、馬鹿げた質問もう一度したら今度はぶん殴りますからね、そんな、そんな言われなくたって当たりまえじゃない!」
「今も昔も変わらずわたしはあなたのゆずの朋友…ですよ」


もういちど、最初から

115:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:17



[____ Modifying ]



  ワタシハマモルタメニウミダサレタ

 ワタシハシメイヲマモル ワタシハセカイヲマモル



[____ Modifying ]



  チカラヲモチスギタオマエタチハイズレホロビル

 ダカラワタシハオマエタチヲハイジョスル ハイジョスル


   コノセカイニオマエタチハフヨウダ


[____ Modifying ]



  コノセカイカラキエロ キエロ! イレギュラー!


      キエロ ___"エンガミジョー"。


[____ Modifying ]

[____ Modifying ]

[____ Modifying ]

116:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:23


 ハイジョスル ハイジョスル ハイジョスル__


[____ Modifying ]


 ハイジョ__ セヨ ハイジョセヨ ハイジョセヨ

     ハイジョセヨ ハイジョセヨ ハイジョセヨ!




_______歌よ




[____ Modify... ]

[____ …error ]


 __ …ジリツハンノウプログラムニイジョウヲカクニン


 "フメイナオンセイ"。__イジョウノゲンインヲトクテイ



[____…error]

117:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:30


 __サイケイサン __イジョウノゲンインハ

   アノウタゴエ アノいれぎゅらーノモノ__カ


[____…error]


[____…error]


[____…error]





 __アリえナイ タカがニんゲンノコエガ




_____この声を … 


[Error[!]]


_____ニンゲンノ … コエガ



  …ワタシハマモルタメニウミダサレタ

 ワタシハマモルタメニウミダサレタ

  ___…ソウダ … ワタしハまモるタメニうミダされタ



[___[!][!] __feed error[!] ]


[ systems checks[!]error[!]
 Modifying [!]program[!] ]

118:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:36



____…マもる __タめに うみだサれた


[____… error[!]]
[___原因を解析中]







____… そうだ まもるためにうみだされた

___…まもるためにうみだされた




__… まもるために …うみだされた


_… マチ、 … シゼン、… ニン、ゲン … ヒトビト



____ワタしハしメいヲマモル ワタシハセカイヲマモる




_____「どこまで… ___も」





…うた __ごえを



 [___[!]feed error[!]] 


[___原因を解析中 ___一時停止]





… マもり ____た… かっ__た

119:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:44



__… いつまで ___いつまでくりかえす


[___…自立反応プログラム[!]__]



_…もういい __ヒトはくりカえす ヒトはマなバナイ…!



_…だが __ それで … それをくりかえして


… __まもれなかった



__________






… いまでもワスれたこトは …なイ



… __わたしは 


____ … セラフ …


____…あなたの … ___



______… … 街並みで __…笑うあなたの…



___… かぜのおとを ___… … あなたの こえを



… … あなたのうた … もういちど ____






___ … ききたい



 … ___わたしの …てに あわせて


___ … わたしの ___はくしゅ …に __わらって




… __ … …みんなと ____いっ …しょ ___に





[ __________[ 再起動 ] ]

120:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:50


[______[ 再構築… ]]


___… …あなたの手も …随分冷たくなった


___… … みんな …みんな … 


___… … … … だから … もう


___… … … … 眠りなさい … 目を閉じろ




___… … … … …あの声がまた …聞きたい





___… … … … … あのうたが …聴きたい




________[ 再構築完了 ___起動 ]




____……荒廃した世界を 人類を再生する


____……お前たちは … 力を持ちすぎたものは




         不要だ。

121:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:52

[____ Modifying ]


___修正プログラム 最終レベル



[____ Modifying ]


____全システム チェック終了



[____ Modifying… "START" ]




       戦闘モード …起動

122:◆Qc:2021/11/13(土) 00:06

『新月』[シンゲツ]
────一度『死んだ』月族が所属する。
────彼らは元よりも強大な戦闘力を身につけている······が、再び現世に舞い戻った時、自我を擁しているかも怪しい。
────今確認されている『新月』は······ソウゲツ族の3人か······葬、想、碧······ふむ。
────心苦しい者もいるかも知れないが、他の月族にも通達する。


彼らを見つけ次第、捕縛すること。その際抵抗があれば、もう一度殺しても構わない。


──────────────────


とある街に双月はいた。······で、その彼女の目の前には、どう見ても······想月がいる。
「「······で、想月。こんな事が『カグヤ』の会議で決定されたんだけど。どうするの?」」
「······それって、議長······つまり命月さんの独断ですよね?」
「「わたしにはそう聞こえた。だから捕縛はしないよ。······それより、他の二人は?」」
「わかりません。あそこから出てきた時······いつの間にか居なくなってました」
「「そっか。······困ったな······」」
ほとんど同じタイミングで眉を寄せる双月。相変わらず不思議だな、と想月はぼんやりと考えていた。
「「······とりあえず、わたしはしばらくこの街にいる予定だから······そうだね、ここにいるといいよ。ちょっと今厄介な依頼を受けてるんだけど」」
「依頼······?」
「「雑兵を蹴散らしたり強い敵と戦う依頼······だね。もしかしたら想月にも協力してもらうかもしれないよ」」
そこで想月は自分に備わった能力を思い返した。······祈れば災害が訪れる。確かに雑魚を蹴散らすには最適かもしれない。······だが、『魂の消耗』は未だ日常を苛んでいる。ましてや戦いなどどうだろうか?······その思考を知ってか知らずか、双月は四つの目で想月を見つめる。
「「······なるべく早めに他の二人も見つける。それまで······待ってて」」
二人同時に微笑むといっそ不気味に見えた。······が、意思は伝わった。

······どれほどかかるのか想像もつかない······が、それまで。精一杯生きていこうと想月は誓うのだった。

123:◆RI:2021/11/17(水) 23:21

『いい子の秘訣』



「夢は本当にいい子だなぁ」

そう言って頭を撫でられる、その暖かい手が好きだった

「夢はいい子ね、じゃぁ今日は夢の好きな物作っちゃおうかしら」

そういって髪を梳かれる、その優しい手つきが好きだった




まま!ゆめおさらあらった!

「あら、ありがとうゆめ」

ぱぱ!ゆめテストで100点とったよ!

「お、ほんとうかい?さすが私の娘だ」





ママ、この間のコンクール、金賞だったの

「あら、そうなのねぇ」

パパ、この間の大会、優勝したんだよ

「そうかい、それで夢、今度の集まりなんだが…」




─褒められたかった、ただそれだけ

小さい頃、パパとママに褒められて、認めて貰えたことが嬉しかった


もっと頑張れば、もっと褒めてもらえるんだって思って、色んなことに目を向けた


でも、こんなのじゃだめ


パパとママ、…いや、春夏秋冬の家の人は、みんなすごい人ばっかりだった

オリンピック選手に世界的に有名なデザイナー、ハリウッドにも出る女優俳優や、政治家、社長

パパとママも、その1人

でも、私は違う

知ってる、私には、そんな才能はないって、それでも、頑張れば、努力すれば、きっと

死にものぐるいで取り組んで、死にものぐるいで努力して

そうすれば


「───え?」
「だからね?夢、私たち海外出張に行くことになったから、1人でおうちを任せたいの」

なに?それ

「本当は夢にもきて欲しいんだけど、お仕事が忙しくてね…あっちでも家に帰れそうにないの、それに海外で1人にさせるよりかは、日本にいてもらう方がまだ安全でしょう?ほら、生活だってこっちの方が慣れているし」

「一人暮らしってことになるな、安心しなさい、もちろん仕送りはするよ、たくさんね、好きなものを買うといい」

まって、まって、だってわたし、まだ

「ゆめはしっかりした子だから、きっと大丈夫よね、お料理だってお洗濯だってできるし、私の手伝いをしてくれるから、ゴミ出しなんかも分かるでしょう?」

「夢なら安心だよ、なんたって私たちの娘だからな」





「…うん、わかった、ゆめできるよ」


そう、いい子、私は2人の子供だから、できるよ


1人でご飯食べるのも寂しくないよ

1人で帰るのも寂しくないよ

1人でいるのも寂しくないよ




だから、かえってきたら、いっぱい────

124:◆RI:2021/11/18(木) 23:09

『運命になった日』

「っは゛、ぁ…っ」

口から血が溢れるのを無視して、迫る攻撃をギリギリのところでよける

「っ、げほっ」

だがそれのお陰でさらに体が重くなる、まずい、まずい

雛も凛も、俺と同様自分のところに必死で他を助ける余裕はない

夢は結界のなかに閉じ込めておいたから、外から干渉されることがないのが唯一の救いか、戦闘に集中できるのはたすかる、けど

「(っこれ…絶体絶命じゃないですかね…!)」

怪我は重症、これ以上動き回れば致命傷にだってなりうる
そもそも出血の量が不安だ、致死量に到達していないことを願うしかない

敵の数は減るどころか増援によって増える一方、もう詰みだろうとしか言えない状況に、もはや笑みさえこぼれてくる

「っにぃ!/兄様っ!」
「!」

一瞬にも満たないであろう、思考の停止
その隙を、戦場が見逃すはずがなく、目の前には既に妖魔の首魁が立っていた

「(かいひ、ふか、うけながし?むり)」

絶対的な死の感覚、脳を埋め尽くす言葉、それでも、この攻撃を免れる策は浮かんでこない

必死に体を動かそうとする俺を嘲笑うかのように、そいつは俺に向かい、刃をむける





あ、し ぬ






「っ……!!」


次の瞬間、俺を襲ったのは、敵が繰り出した一陣ではなく、暖かい、水のような


「っは」


霞んだ視界をみひらく


ももいろのかみ

くろいふく


・・・・・・・・・・・
わきばらをつらぬくそれ

あか

あか

あか


「っゆめっっっ!!!!」

うしろから、ひめいのような、こえがきこえた

それが、いもうとのどちらのほうなのか、はたまたりょうほうのこえだったのかは、わからない




ずるりと、わきばらから、てきのぶきが、ひきぬかれる

あふれるあか、あか、あか


「…ぁ……ゅ……、ゆ、……め…」

りかいできない、したくない、どうして、どうして


「……す、ぃ……れ…さ…」
「っ!!」

かぼそいこえが、あのこのこえが




「……ょ、か…、た」

べしゃりと、その言の葉を吐いた瞬間、彼女の体は、自分が作り出した血溜まりへと落ちた
なおも広がる赤色は、どうみたって、もう



ぎぎぎぎぎ、と、音が鳴る
今にも事切れてしまいそうな彼女に、トドメをさそうとする、悪意


ぶちんと、奥底の、なにかが切れる音がした

125:◆RI:2021/11/18(木) 23:09

「……、」

目が覚めると、知らない天井だった


なんて、よくありがちな導入を使うことになるとは思わなかった、なんてことを考えながら、薬品の匂いと白いカーテンから、ここが病院か、それに近いどこかなのだと理解する

なにがあったんだっけ、目覚めたばかりのぼやけたあたまは、それ以上の思考をうまくまわしてくれない


どうにか思い出そうとして考えていたら、ガラリと音がしたような気がした

「おはようゆめ〜、今日は天気がいいから、カーテン、を…」

ベッドの周りに掛けられているカーテンを開けて話しかけてきたのは、わたしのともだちだった
そちらを見やる私を見て言葉をとぎらせ目をみひらくひなたんは、色んなところに包帯を巻いていて腕なんかは折れているのか、首から支え布で吊り下げられていた

「……」
名前を呼ぼうと、口を開くも、そこから出たのはかすれた空気だけで、その時ようやく自分が人工呼吸器をつけていることに気がついた

「ゆ、──っ!ゆめ!起きたのか!?意識は!!どこか変なところはっ!?」

そんな私をみて我に返ったように駆け寄り、まくし立てるように声をかける
声が出ないからがんばって首を振って応答すれば、ほっとしたように肩を下ろすのが見えた

「っ、…あと少しで、死ぬかもしれない所だったんだ、駆けつけてくれた甘音さんが、治療できる子を手配してくれたからどうにかなったけど…ほんとに、しんでたかも、しれないんだぞ…」

どんどん語尾が小さくなっていく言葉を紡ぐ彼女と、死にかけていた、というそれでようやく、自分がなにをしたのか、何があったのかを思い出した



睡蓮さんが、危なくて、気づいたら、結界から抜け出して

そう思って、自分のお腹の方を見る、服は患者服らしいものになっていて、傷は見えない

「…傷は、残らないよ、治療してくれた子が頑張ってくれた、でもほんとに致命傷くらいの傷だったから、当分は絶対安静だぞ」

私が考えたことに気づいたのか、ひなたんは安心させるように頭を撫でてくれる、暖かいその手に、さっきまで寝ていたのに、瞼が落ちそうになる

「…いいよ、ゆめ、寝よう、大丈夫、また明日も来るよ、凛にも甘音さんにも声掛けておく」

あれ、?、すいれんさんは─?









「───ごめんな、夢、今のにぃを、夢に合わせるわけにはいかないんだ」

沈んでいく意識の中、その言葉が響いた

126:◆RI:2021/11/18(木) 23:10

それから、毎日色んな人が私の病室にきてくれた
ひなたんはもちろん、りんたんも、甘音さんも、私を治療してくれたらしいしおりちゃんも、

でも、睡蓮さんだけは、いつまで経っても、私の前に現れなかった



かたん、と、なにかおとがきこえた

その音に目を覚ませば、まだ夜中なのか、部屋はくらい、音の主を探そうと目線を動かす


「…ぁ、…」

そうしてみつけたのは、私の手を握りしめて、顔を伏せている彼の姿

「…………」

すいれんさん、と声を出そうとするが、寝起きだからか上手く出てこない
久しぶりに会えた彼は、暗闇のおかげで顔が見えない

「………なんで」

この無言をどうにか出来ないものかと思考していると、声が聞こえた

「…なんで、おれをかばったんですか」
「──」

その声は、今まで聞いたことがない声色だった、初めてであった時ですら、こんな声は聞かなかった

「……たのむから、もう、おれのまえで、けが、しないでください」

ぐ、と彼の震える感覚が手を伝ってわかる
ようやく暗闇に目が慣れてきて、彼の顔が見える

「い、やなん、ですよ、もう、あたまが、ぐちゃぐちゃ…に、なって」

声が、体が、震えている


「…あなた、が、うごかなくて、かたをゆらしても、よびかけて、も、…うごか、なくて、しぬかも、しれないって、そう、そうおもうと、…っなんだか、ずっと、じぶんじゃなくなるみたいで…!」

「……」

怯えているんだろうと、思った
こんなにも、こんなにも取り乱す彼は見たことがない、こんなにも弱々しい彼は、見たことがなかった

─そして、わかった

「…すぃ、れ…さ」

「っ」

ひゅ、と息を飲む音、びくりと揺れる肩が見える

「………こわ、ぃ、ん…で、すか」

「──は」



「…わた、し、が、しぬ、の、…こわい、ん…で、すか…?」

127:◆RI:2021/11/18(木) 23:10

声は聞こえない、でも、影の合間から見える瞳が、見開かれるのが見える

「…わた、し、が、……ゆめ、が…こわいん、です、ね」

握りしめられている手が強くなる

「…ゆめ、いきて、ます、よ、すいれん、さん」
「……ゆ、め」

漏れ出たような声が聞こえる

「…しんぱ、させ、て…ごめ、な、さ……でも、…だいじょ、ぶ、…だいじょうぶ、です」

固く握りしめられている手を、力が入らないながらも、それでもと必死に力を入れて、握り返す

「あなたの、ため、なら、…ゆめは、ずっと、ずっと、そばにいます…ずっと、ずっといきつづけ、ます」


「だから、あんしんして、ほしい、な

───すーたん」

ぽたぽたと、てがぬれるかんかくがする


はじめてみたなぁ、なんておもいながら、腕を動かして、あめがふるその顔に、手を伸ばした

128:◆cE:2021/11/18(木) 23:57


「……っ!」
 そのまま顔のわきすれすれに刀を突き立てる。やっと見つけた、わたしの憎い人。すべての元凶。何十年もころそうと考えてきた。でも、できなかった。だって、だって、彼は憎いけど、でも……もうあの計画を企てた人じゃない。その子孫になる。

「あなたには、罪はないものね…でもゆるせないの、ごめんなさいね」

 なにも知らずに箱庭で育てられたかわいい男の子。震えてなにも言えない彼の脇に刺さった刀を抜き、その場を去ろうとしたらそっと震える手で裾を引っ張られた。

「……先代が、あなたになにを、やったかしりません…!で、ですが、僕にできることなら、なんでもやります!ので、許してとはいいません、ですが、」

 先代とは違って根はいい子だとは、聞いていた。かわいいそうなこ、でも、でも、そんな同情なんかはいらない。父さんもわたしも、お父さんもお母さんも、弟だって、たかがこんなもんで浮かばれるはずがない。

「いらない、今日のことは忘れて平和にくらして。それだけでかまわない」

 そのままその場を後にし、月が照らす夜道を歩く。小さい頃から今までずっと生きる糧でどんな辛い訓練も乗り越えられたのは復讐をずっと考えてたから。

「これで、よかった…ん、だよね、ねぇ、」

 その声に答えてくれる家族はもう誰もいない。神様を嫌った日以来に流した涙は色々な感情が混ざっていた。やっぱりわたしは運ってものにも、神様ってものにもどうにも嫌われてるらしい。

「どうしたら、よかったんだろうねぇ……あーあ」

 その声は誰にも聞こえず夜の街に消えていった。

129:◆Qc:2021/11/23(火) 23:30

『新月』




月族にとって、死は終わりではない。······むしろ、新たな始まりとなる場合の方が多い。······十五月族の中でも人数は最大であるソウゲツ族、その長たる双月はそのように考えている。
人数が多いこと、それ即ち新月となる者も多いということである。双月が確認できている中でも、既に5人······その中には、五位だった壮月も含まれている。
······新月になった者は、強大な戦闘力を手に入れる代わりに自我を失う、という。だが、双月はそれも信じていない。想月と話してわかった────元通りの彼女だ。
何処から自我を失う云々の話が出たのかはわからないが、この際それは関係ない。
重要なのは、十五月族のトップがそれを信じており、······捕縛、拘禁を命じたということだ。
あぁ、嘆かわしくは当代の『月の巫女』がまだ見つかっていないことだ。あと1年早ければ────


いや、やるしかない。見つけ出して護るしかない。他の月族でも、新月となった者は誰でも。
トップと敵対したら双月でも瞬殺されるのは請け合いである。······しかし『天人』の協力は見込めない、『兎』も気まぐれな彼らが力を貸してくれるかはわからない。
······ただ、他に······協力してくれそうな者は······?




【Prologue─1】

130:鷹嶺さん◆XA:2021/11/27(土) 22:45

冴月の過去part1



 ある休日の昼下がり、鐡 冴月は翌日に迫った彼氏との初めてのデートに胸を踊らせていた。どこに行こう、何を食べよう、何を話そう、もしかしてキスとかされちゃたりして、そんなことばかり考えて勉強にも手がつかない。
 ついさっきも妹にたかがデートぐらいで浮かれすぎだと言われたばかりだ、彼氏すら居ない美月に何が分かると言いたいが、浮かれているのは冴月自身も自覚していた。
 ふと窓から空を見上げると、清々しいほどに青い空。

「気分転換か」

 そう思い立つと、冴月はカーディガンに袖を通し、ポケットに財布とスマホを突っ込むと階段を降りて暖かい日射しに吸い寄せられるように玄関扉を開けて外へ出た。
 ただの気分転換、何かをするわけではない、日向ぼっこをしている野良猫に出会えればラッキー程度の外出、行くあてもなく冴月は歩き出した。


 「こんな所まで来ちゃった」

 歩き始めて十分ほど、冴月はスーパーマーケットの前に辿り着いた、普段なら自転車で行く距離だ。
 ここまで来たのだから何か飲み物でも買って帰ろうか、そう思った時だった。
 突然の身体を押されるような感覚に思わずよろけてしまう、そして何かが身体の中に浸透していく気味の悪い感覚、なんだこれは?
 見れば周りの人達も一様に首をかしげていた、どうやら冴月に限ったことではないようだった。

 「空が、空が紅いっ!!」

 その感覚の正体を考察する間もなく何処からか誰かの声が響いた、冴月も周りの人達も先程の異常を忘れて空を見上げた、空が紅い。
 夕焼けにはまだ早すぎる、それになんだか気分が悪い、イライラしているような感じだ。
 さっきの気味の悪い感覚はこれのせい? でも紅い空とどんな因果関係が……

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 それは何の前触れもなく起こった、冴月の前方で空を見上げていた男が叫び声を上げた、男は振り返り冴月に異形に変化した右腕を振りかざした。
 冴月は呆然と見ていることしか出来なかった、男の異形の右腕によって冴月の身体は地面に叩き付けられた、理解不能、なんだこれは? わからない。

 「シネェェェ!」

 男の右腕が冴月の首を絞める、苦しい、やめて、どうして私がこんな目に会わなきゃいけないんだ!
 冴月の中にあった恐怖と混乱は理不尽への怒りへと変わりそれは憎悪へと変わった。

 「……死ぬのはお前の方だろ」

 身体の奥底から沸き上がる何か、それは凪いだ水面に落ちた小石が波紋を生むように、冴月の身体の隅々にまで駆け抜けた。
 全身が作り替えられていく、男は目を見開いていた、そう異形に変わったのは彼だけではなかったのだ。
 男が手を離そうとした刹那、冴月の身体から飛び出した金属質の棘は男の腕を貫いた。
 
 「――■■■■■■!!!!」

 声にならない悲鳴、男は地面にのたうつ。
 冴月は男のことなど最早どうでもいいと、重たい身体で立ち上がり歩き出した。

「――帰らなきゃ、美月が危ない」

131:◆Qc:2021/11/27(土) 23:52

『唯一の失敗』




震える手に、乾いた音が響いた。······決定打にしてはあまりにも味気ない音だった。
しかし、彼は喜べない。
水滴に塗れたスコープを覗けば、まるで触手のような手足を持つヴィランと、黒髪の女性が折り重なって倒れる様子が見えた。


「······························あぁ」

────杭のような雨が降っている。
痛い。酷く痛い。全身が痛い。心も身体も精神も自尊心も、何もかもが抉られてゆく。
それ程······敵ごと恋人を撃ち殺したという事実は、彼の全てを奈落へと叩き落とした。
土砂降りだった。空を見上げれば、一片の青空の気配すら感じられない、極限の灰色だった。黒でないだけまだマシだった。もし空まで黒かったら、彼は二度と上を向くことはできなかったであろう。

「■■■■■······」

一歩、二歩と踏み出す。······その時何を呟いたかは忘れてしまった。······忘れるくらいである。どうせ大した事ではあるまい。
無人のビルの屋上から飛び降りた。無傷で着地する。······そして、程なく現場にたどり着いた。
吐き気を催す程の血の泥濘、確かに恋人は死んでいた。
遠すぎた。最後の言葉すら聞けなかった。どんな表情をしていたのかもわからなかった。······ただ、一つ確かなことは、

「······おい、■■······」

普段の気障ったい振りをかなぐり捨てて、その顔に言葉を降らせる。
それほど······

「······なんで、そんな顔してるんだよ」

······死体となった彼女は、心底安心したような表情を浮かべていた。





あれから10年余りの年月が過ぎた。
その間、弟子を取ったことと、ヴィランと戦う『ヒーロー』の存在を知り、その集まりにしれっと交ざった事以外、彼はずっと孤独だった。······いや、孤独を望んでいるようにも思えた。
また修行を重ねるにつれ、彼の狙撃能力も向上した────それこそ10年前の状況を余裕で回避できる程まで。
······しかし。
それで、時を巻き戻せる筈がないのだ────




「······ようヒーロー。いや、王子様と言った方が良いか?まあいいか。······なぁ、大切な人との時間は宝だぞ。何があっても守り通せ」

10年後の自分に全てを託す。
誰かを護る誰かに、一人でも多く届ける為に。
弱すぎた自分と、もう向き合わないように────

132:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

『化け物と呼ばれた紛い物』

『お前は霜星、神代霜星、これから、そう名乗りなさい』

俺には、はじめ、名前が無かった

父には捨てられ母は死に、天涯孤独となっていた俺を見兼ねたように、父の姉……俺から見れば叔母となるあの人が、俺に名前を与えた

幾星霜の時を越え、生まれ落ちた神の依代

それが俺の名前の意味らしい、難しいことはよく分からないので、他にもなにか言われていたような気もするが、正直なところ覚えていない

結局のところ、どれだけ叔母が俺に目をかけてくれようと、結局は俺は一人孤独なわけで、神だの、妖だのといわれても、周りから見れば化け物には違いがなかった
まぁ間違ってはいないのだろう、確かに俺には、人の血など一滴たりとも交じってはいないのだ
それなのに、この見た目だけは妙に人間らしく、そしてその赤髪が、周りの人間には奇妙に思えたらしく、どこまでも中途半端な俺はどこまでいってもこどくなままだった

133:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

まぁ、そんなことは1ミリたりとも気にしたことがないのだが


呑気に飯を食いながら適当に過去を振り返る
正直散々な目にあったとは思う
村八分なぞ当たり前だし、汚れ仕事はこちらのほうへ、顔がいいからと慰め者にされたこともあった気がする、流石にその時はぶん殴ったが
今食べている飯だって、燃費が悪くて仕方がないというのに、「死なないから」という理由で何日も削られたことさえある、いや、削られたというかそもそもないにひとしかった

年月が流れて村が亡び、また次の村に行けば、前の村と同じようなことをする、なんとも愚かなものだと思ったが、まぁいつか死ぬという結末が決まっている奴らだと思えば、むしろ哀れみさえ覚え、抵抗も、文句の一つもつかなかった


まぁ、それから何とか生き延びてやったわけだ
俺を捨てた父には、どうだと胸を張ってやりたいし、俺を残して死んだ母には、立派だろうと自慢したい
正直、どちらの顔ももう覚えていないから、そんなことは叶わないのだけれど

134:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

ある日のこと、おれはとある村から外れた場所で、座り込んでいた老婦人を助けた
なんでも怪我をしたらしく、背負って彼女の家へと向かえば、心配した様子で家の外をうろついていた老人…彼女の夫がこちらを見て駆け寄ってきた

老婦人を下ろしその場を去ろうとすれば、その老夫婦はなにかお礼がしたいと、そちらも貧しいくらしであろうに、俺を家へと招き入れた

初めて、ただの人からの優しさに触れた
奇妙だろう赤髪もきにすることなく、老夫婦は俺に対して感謝のみの感情を抱いていて、それがあまりにも心地よくて、



つい、そこに何日も長居をしてしまった

135:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

目を疑った

そこに生はひとつたりとも存在しなかった

かわりにそこにあったのは、変わり果てたふたつの肉塊と、血溜まり





当たり前、だった

なぜこの夫婦はこんなに遠く、村に外れた場所にいたのか、俺がいちばんわかるはずだった

村から、除け者にされていたのだ、優しいが故に、老いているが故に

それに加えて、俺という化け物が入り浸っているという事実を、村のものたちはどう見ただろう







"きっとやつらは除け者にした俺たちにあの化け物を仕向けるつもりだ"

"殺される、殺される"

"そんなのはいやだ、どうすれば、どうすれば"



"………そうだ"



"殺される前に、殺してしまおう"

136:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

「ひ、ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「たすけて、たすけてぇ!」
「ころさないで!おねがい!!ころさないでぇ!!」

うるさい、雑音が多くて、みみがいたい
うごきまわって斬りづらい、四肢をまず落とそう、その方が楽だ
こどもは……いいだろう、この村の悪意は大人たちだけだ
血がついた、汚い、醜い、あぁ、やっぱり

嫌な色だ

血の雨が降る
血の海に浸る
あれだけ白かった服が、真っ赤に染ってしまった
……もったいない、せっかく老夫婦が洗ってくれたのに



ようやく、うるさい音がやんだ
………そうだ、忘れていた、帰らなければ

137:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

山を登り、2人が眠っている家へとはいる
眠る2人を、零さないように外へ運び、優しく土で埋めてやる

すまなかった

俺が山などに行かなければ

俺がこの家に来なければ

きっと2人で、細々と、けれど幸せに───


そこまで思って、思考を辞めた、
もう戻らないことを思ったって、意味が無いのだ
2人の墓に手を合わせる、人間の真似事だが、きっと意味はあるのだろう




それからずっと、孤独に生きた

悪を斬り、善を救う、それだけの為に生きてきた

そのためだけに俺は生き、そのためだけに、俺は死ぬのだろう

何度血を被ったかわからない
俺の髪は、人を着る度に赤く染ってゆく

神になどなれない、妖になどなれない、
ましてや、人間になど、絶対に─

138:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

幾星霜の時が流れた
時代は変わり、建物などは神秘を失った鉄の塊とかしてゆく

紛い物とはいえ、神性を少なからず持つ俺としては、なんとも生きづらい世の中へと変わっていった

まぁ死ぬことは無いのだけれど、それでも神秘が足りないのを飯で補っていたというのに、食料は底を尽き、補う物が取れない現代ではこれはかなり厄介な事柄だった

ふらりと揺れるからだをどうにか引きずりながら、少しでも神秘がある場所へと歩を進め、ふと、視界に鳥居が目に入った
長い階段にはどうにも苦戦したが、ようやく境内に踏み入れたところで─俺の体は力尽きたように地面に倒れた


ここに居る神には申し訳ないが、もう動けない、仕方がない、このまま少し神秘を受けて、動けるようになったら────








「…………………人が、倒れてる」

139:鷹嶺さん◆XA:2021/12/03(金) 23:36

冴月の過去part2

 紅い空の下、冴月は走った。
 幸運なことに一歩進むごとに重い身体にも慣れてきた、どんなに人間離れしていても自分の身体であることに変わりはない、ということだろうか。
 どうしてこんなことに、いくら考えても何も分からない、だから今は前に進むことだけを考えよう、冴月は地面を蹴った。

 街が燃えている。

 人が死んでいる。

 怪物が暴れている。

 この街に平和と呼べるものはどこにもなかった。
 それでも、自分の家族は、家族だけは助かるかも知れない。そんな淡い期待はいとも容易く打ち砕かれた。
 
「――美月、あなたもなの?」

 紅い空を見上げ立ち尽くす妹の姿。

「お姉ちゃん、助けて……」

 けれど、その姿はもはや人では無く。

「なんでこんな姿になっちゃったの……助けてよお姉ちゃん」

 背中から樹木を生やし、全身を蔦で覆われた異形であった。

「…………」

 冴月は言葉を失った、脳が凍り付いたみたいだ、こんな姿になってしまった妹に掛ける言葉など思い付くはずもなく、ただただ美月を見つめることしか出来ない。
 こんなときお父さんとお母さんなら何て声をかけるだろう、とそんなことを思った。そして冴月は気付く、両親は何処へ行った?
 最悪の事態を想像し、妹に問い掛ける。

「ねぇ美月、お父さんとお母さんは?」
 
「死んだよ」

 あぁ、想定していた返答だ、自分の家族だけは無事なんてそんな都合の良いことあるはずないか。

「そう、あなたが殺したの?」

「違うっ! わたしじゃない! わたしじゃない! わたしじゃない!」
 
 美月は狂ったように叫んだ、いや美月は狂っていた、止まらない絶叫、それに呼応するように背中に生えた樹木は枝を伸ばし、鋭く尖った槍となって吹き抜ける風のような速度で襲いかかる。人間の身体など容易く貫くだろう。
 しかし、それは相手が生身の人間ならばの話だ、身体の金属化という異能を得た冴月には掠り傷すら与えられない。

「くっ、美月やめて……」

 冴月の声は異形と化した美月には届いていない、こうなってしまえば実の姉だろうと関係ないのか。

「どうして止めてくれなかったの! お姉ちゃん! どうして!」

「お姉ちゃんのせいだ、お父さんとお母さんが死んだのは、お姉ちゃんが家に居なかったから、全部お姉ちゃんが悪いんだ」

 美月は叫ぶ、大粒の涙が頬を伝い地面を濡らす。
 冴月の元へ無数の蔦が殺到する。

「私に押し付けないでよ」

 冴月は静かに激昂していた、四肢を刃に変化させ美月の繰り出す蔦を切り裂いていく。

 もはや、美月に冴月を止める手段はなかった。
 そして怒りに身を任せ二人は激突した、金属の刃と樹木の槍が火花を散らす。

 美月の繰り出す樹木の槍は冴月の身体を貫けない、蔦の縛鎖は容易く切り裂かれる。
 けれど、冴月もまた美月を貫けない。
 冴月と美月、姉妹同士の剣戟は日が傾くまで続いた。
 しかし、その均衡は突然崩れ去った、美月の胸から鮮血が迸る、冴月は目の前にいるのが妹ということさえ理解していなかった、この時冴月はまさしく怪物であった。
 血に染まった右腕を引き抜く、美月は力無く頽れた。その姿に冴月はようやく我に帰る、けれど全てが遅かった。

「美月?」

「ごめんね、お姉ちゃん……許してくれる?」

「謝るのは私の方だよ、美月は何も悪くないんだから」

「……よかった」

 美月は微笑んでゆっくりと目を閉じた。
 
「おやすみ、美月、ごめんねダメなお姉ちゃんであなたのこと助けられなくて」

 動かなくなった美月の身体を抱き締めて、語りかける。
 

 そして、冴月は誓った、こんな私にもし次があるなら、その時は絶対に大切な人を守り抜くと。

140:◆Qc hoge:2021/12/06(月) 21:55

ふしぎなせかい
すべてがひっくりかえり
すべてがもとどおりに
とうめいだったりにじいろだったり
あるいはきんいろだったり
なんにもみえなかったり
それでも
おかしくはない
そんなせかい
ふしぎなせかい


「──楽、決着をつけに来た」

「······へえ。また来たのか······今度こそ折れるかと思っていたのに」

「······折れない身体にしたのはそっち。今度の私は、これまでの私じゃない」

「それ······ライバルとしてまた負ける奴のセリフだぞ、お前──でも」

神はいった
なにかにきづいた

「でも、その脇差は······駄目だなぁ?」

女性におそいかかる壁
ふしぎないろをした壁
でも、それは
女性からとびでた弾によって
ひっくりかえり、もどってゆく
神はめをみひらいた
たのしそうだった


女性は脇差をぬく
下からのかべをとびこえて
女性はあの銃もマジックハンドももっていなかった
もはやひつようなかった

「これだから面白い······あぁ本当に!」

神はわらう

「人間の可能性は······やはり面白い!!」

あおい剣がうかぶ
それにたいするはしろい脇差
げきとつした

脇差がかった
一瞬あと
脇差は神のどうたいを両断した
──そう、神殺し。




麗花が脇差に付着した不思議な色の血液を払うと、途端にその空間が消えていくのを感じる。
······それと同時に、彼女の身体もゆっくりと消えていく。

「······やりやがったな」
······両断したはずの楽が、いつの間にか現れていた。
「······これでいいんだろ?」
彼は挑発的な笑みを浮かべていた。まるで麗花を誘うように。······その笑みで逆上した者は数知れない。
しかし、麗花はそれでいい。これでいいのだ。


彼女は何も言わずに消えていく。······後には真っ白な脇差が遺されていた。

「······っはー······面倒だな。まったく」
もはや残滓となった麗花に、楽は触れる。そして、神たる所以の力を行使し──
地獄に落とした。

脇差は月に投げられた。




 

141:◆Qc hoge:2021/12/06(月) 21:57

『神は死なない。』
『ただ、赦し、認めるのみである。』

142:◆Qc:2021/12/20(月) 01:50

『聖王』と『月の巫女』








今からおよそ16年前。




18代目『聖王』ベルハルト・ハーツクライン······彼は無窮の空間の中にいた。······音もなく、空気もなく、場所によっては重力もない空間······そう、宇宙である。
だが彼は生きていた。······いや、むしろ健在だった。

「驚きましたね」

その摩訶不思議な人間に相対するのは、こちらも人間に見える女性であった。彼女は『月の巫女』······月の住人達をまとめあげる存在である。

「まさか単身月に乗り込んで来るとは······本当に人間は······いや、『教会』とは不思議なものです」
「······」
「蒼月、想月、葬月······時空を歪ませ、あの子たちを葬ったのも貴方達でしょう。流石の私でも怒りますよ」
「············」

二人は静寂の原野で、互いに得物を持ちながら相対している。······月。それがこのフィールドの名称である。
ベルハルトの後ろには何も無い。······対する月の巫女の後ろには、遠く遠く、うっすらと人らしき影が見える。それだけで分かるだろう。方や庇護、方や侵略。······もしくは、献身と使命。
まるで対照的であった。

「さて、流石に予想外でしたが······貴方は我々の敵です。ここで死んで貰いましょう」
「······それは此方の台詞だ。······お前達は我が名に誓って駆逐する。悪魔に滅ぼされる筋合いなど······皆無だ」




戦いは数日の間続いた。空気が無いのにも関わらず、互いに人の域を超越した攻撃を繰り出し、相手にかすり傷程度のダメージを与える。それだけ、双方共に手練ということである。
そして決着がついた。
相討ちだった。

最後には多大なエネルギーが戦場から溢れ出し──その光は地球でも観測された。
指揮者を失った月の組織はしばらく混乱することとなる。······だが、『教会』も聖王を失ったことで月と同じように弱体化した。

あれから年月が過ぎた。月は未だに次代の巫女を見出していない。······さあ、内乱など起こしている場合ではない。
更なる災厄が迫っている。

143:◆.s hoge:2021/12/23(木) 16:23



 : 裏手より火の手が …殿!


 「 敵は最早目と鼻の先に! 」

(__戦況は、もとより総崩れ 本陣へ差し迫る
 井守門左衛門の長槍を眼にすると 欣之は遂に
 床几より腰を上げた…が)

 

 「: 今更、逃れられん …手遅れよ 」



 けたたましい蹄の音はごうごうと本陣との距離を狭め
 今にも幔幕が破られ、我が身に槍が突き入れられんと
 している中で 不思議と欣之の心は落ち着いていた

 
 

144:◆.s:2021/12/24(金) 03:34



 怒号が迫ってくる、残された時は少なく
 しかし 策を打てる余力など無かった
 …命はあるまい、余裕とも取れる落ち着きは
 欣之にとっては静観から来るものだったが
 立ち上がり しかし無様に慌てず敵の方角を
 見据える欣之の姿を、家臣たちは一歩を退かず
 守る覚悟に追いやった。___誰もが、死ぬ覚悟だ


( …欣之は今、昔の記憶に思いを馳せていた

世の広さに憧れ 村を飛び出したあの日
定盛に拾われ 死に物狂いで上を目指した城の日々
戦場以上に打ちひしがれては 何度も拳を叩いた
…それでも諦められずに労を重ねた苦難の馬回り集…)


( __不意に 巳冶姫の顔が眼に浮かんだ
  最後まで、戦場へと向かう自分を引き留め
  あまつさえ定盛に懇願さえしてみせた巳冶姫を
  …ただ、残して死ぬことになる …だというのに
  おれは 巳冶姫の愛に応えてやる事も出来なかった )


( …そこまで思うと、今更巳冶姫へ詫びたいと
切に願う気持ちが心に現れた …自分は 今日、死ぬのだ
そう理解している筈だったが …自分の気持に嘘は出来ぬ)


_______思考を遮るように轟音が響く



 破れた幔幕を越え …足軽の一隊が姿を現す
 …僅かに遅れ、欣之の前に躍り出ると
 馬を降りた一騎の武者は名乗りを上げた


「:鹿沢家家臣、井守門左衛門!
 欣之義虎殿!お覚悟召されよ! 」



_____鬼の井守が欣之を見据えていた

145:◆cE hoge:2021/12/24(金) 22:46

「それはきっとはじめての色」

 昔から、目にうつるものが嫌いだった。
 お父さんもお母さんも顔がもやがかかって見えない。その色からはお姉みたいなあったかい色は見えない。くろくて、しってるこの色は嫌いって色。ぶきみ、いらない。いらないこ、なんだね、らん…。

 三歳になった日、お姉と二人きりになった。お父さんとお母さんは遠いところにいったんだって。お姉はすき。お姉もわたしのことがすき。でもらんはらんがきらい。だから、約束した。その人はらんと同じだけど違う。守ってもらわなくてもいい。嫌いならんが消えるかもって思えるから。ほら、今日だって、黒くてもやがかかって
「……らんのかお、みえないなぁ」


 「……人が倒れてる」
 その一言というか、お姉の気まぐれで住むことになる人…なのかな。嫌な色ない。これは確か後悔の色。お姉はせらふさんとか学校で忙しくて居ないことがおおい。そういう時はそうせいらんの相手をしてくれる。色んな遊びを教えてくれるし、話さなくても気が楽。表情にはでないけど、色んな色が浮かぶから、ふふ、たのし、いな。顔を洗って鏡を見つめる。相変わらず黒くてみえないけど、きっと無表情のまま、それが気味悪がれたんだっけ…あ、なに、このあっかいいろ
「……色が、増えた?」

 そうせいが、三日ぐらい帰ってこない。お姉は仕事で帰ってこれるか怪しいって言ってた。やっぱらんの相手するの疲れちゃったのかな、そんなことを思いながら縁側にお茶をもってく。
「……あ、」
 無意識に用意した二つの湯呑みを見つめる。はやく、帰ってこないかな…。そんなふと思い浮かんだ考えを振り払うように頭をふる。そうせいはここに住んでるわけでも、家族って訳じゃないのに。波打つ水面にうつる自分の顔。相変わらずはっきりは見えないけど…。そっと浮かぶ水色。
「……らん、そうせいがいなくて、さみ、しいの?」

 最近、自分がよくわからない。寂しくもなんともなかった、はずなのに。ぐるぐるもやもや。よくわからなくなって、お姉のとこにいこうとし彼の服ををぎゅっと掴む。
「行っちゃ…いや」
 
 え、なに、これ……彼の目に移るらんは、この色は、なに

146:◆Qc:2021/12/29(水) 05:32

「······悪い、駄目だった」

彼はそう言った。······その時、何を思っていたのだろうか。······いや、彼だけではない。真っ先にそれを伝えた二人──アーミチェスとシヴァ。
二人はしばらく無言だった。
雨に濡れたスコーピオンを、放心とも失望とも希望とも歓喜とも絶望とも知れない表情で見つめていた。

「······そうか」
やがて、アーミチェスが首を振りながら言った声が聞こえる。
「タランテラの白衣は毒の繊維を用いている······それでもか」
「······初耳なんだが」
「彼女と何年の付き合いだと思っている。確かにお前は恋人だろうが······こっちは18年だぞ。おい、死体はどこだ」

スコーピオンは無言で首を振った。なぜなら、
「······教えてください」
「······」
「教えてくださいよぉ、先ぱぁい!」
「死体損壊は重罪だぞ」
「軍隊来ない限りは罪じゃないですよ。さっさと教えてください。殺しますよ?」
これである。要するに、シヴァが爆発する可能性を考慮して······信頼出来る『葬儀屋』に恋人の死体を預けたのだった。

「ちぇー」
「不貞腐れるなよ。······あいつも覚悟はできていたんだろ。やってた事がやってる事だったからな」
「······覚悟か。お前が言えることか、スコーピオン?」
「正直キツいな。······あぁ」
「だろうな。しばらく休業するといい。幸い彼女は緊急時マニュアルを遺していた。しかも更新日は4日前だ」
アーミチェスは何処からか小さなノートを取り出した。······彼の言った通り、その表紙には4日前の日付が記されている。
そしてそれを躊躇なく開いて読んでいく。遠慮も何もあったものでは無い。

「随分用意がいいんですねぇ。ひょっとして分かってたのかも?」
「それはないだろう。スコーピオンが居る以上自分が殺されるなど想定外だった筈だ······いや、責めている訳じゃない。私達も油断していた。多分何度やっても同じだろうさ」
「············」
どうやら目的のページになかなかたどり着けないらしく、ほぼサイボーグの友人は紙を捲りながら口を動かす。
口調からは分かりにくいが、恋人を喪ったスコーピオンを気遣っているのは明白であった。

「そうですか。······ところでどうします?弔い合戦でもします?」
「どうやって?我々の戦力で?流石に分が悪いだろう。············いや、待て。確かに合戦になりそうだな······」
アーミチェスが丁度開いたページ、そこになんらかの情報があったらしい。······感情は違えど、······一人の人間を慕って集まった三人を繋ぎ止めるかのように、それは存在していた。

147:◆Qc:2022/01/18(火) 20:40

「人ってどうしてすぐ死にたいとか言うんだろうね。本当に死ぬ人もいるしさ」
「別にいいのでは。私は仕事になるので歓迎したいのですが」
「こっちは過労になるんだよ。······はぁ、そのメンタル羨ましいよ」
「結構簡単に身に付きますよ。一日体験でもしてみます?」
「やだよ」
「でしょうね。······」
「······うん、ところで何の用かな?『神の手』だって暇じゃないんだよ?」
「依頼が入ってまして。貴女の協力も必要なんですがね」
「はぁ」
「そんな顔しないでくださいよ。折角同じ世界に転生した縁じゃないですか」
「それとこれとは話が別だよ。そもそもただの医者に何ができるって?」
「つれないですねぇ。私は知ってるんですよ、あの能力を持ってることくらい」
「そっか。で?」
「名前はタランテラ」
「············!?」
「数日前······まぁ伏せますが、死亡」
「なんで?」
「なんでも触手のヴィランにやられたそうな」
「······」
「機械と破壊神······それと十中八九蠍も。その依頼で、死体を預かってます」
「えー······嫌だなぁ。そもそも結構失敗確率高いんだよ?」
「時間は幸いかなりあります。また二、三か月したら来ますね」
「あ、ちょっ······」

148:◆RI:2022/01/27(木) 00:29

『愛の存在証明』

「愛とは、なんなのでしょう」

少女から零された疑問、それを生涯、彼女は理解するはずは無い、そういう機能は与えられず、そういう意図は生み出されない、そうして生まれたのが、リィン・レイ・フォーティアである

少女は生まれながらにして死を待つのみの生命体だった

鉱石人形
個体名称:紅結晶

それが彼女の名前であり、リィン、という名はあとから加えられた過剰情報だ、彼女は観賞用のドール、見られる以外に価値をもたらすことはなく、与えられた愛に答える必要も無い

そういう生態のはずだった、そういう性質のはずだった
誰より、その事は少女がいちばんわかっていた

だからこそ



「リィンっっ!」

その行為は、信じられないものだったのだ

149:◆RI:2022/01/27(木) 00:30

「─────」

彼女は微笑む、命を捨てて
彼女は微笑む、寿命を捨てて


『これ、ずっとつけておいてね』
『...?雲雕様、これは...?』
『君の寿命を多少なりとも伸ばしてくれるもの、改良の余地はあるけどね』
『、──』


手渡したはずの、肌に離さず持っておけと伝えたはずの贈り物は、彼女の手がら空に投げ出されている

『ちなみに、それつけてる間、俺と君の感覚リンクされるから、君が死ぬと俺は死ぬし、俺が死んでも君は死ぬよ』
『!?!?!?』

そうだ、そういったはずだ、『浮気』がなんだと理由をつけて、唯一の繋がりを手放さないよう、雁字搦めにするように、彼女の願いを糸に紡いだ呪いに限りなく近いそれ

でも、それでも


『────あ、ありがとうございます...!』

残り10年もない命の灯火を消させないように、なんて、建前だけのそれでも、彼女は素直に受け取った、嬉しそうに頬を緩ませ、生が育まれることに歓喜した



・・・・・・・・・・・・・・
君はそれを喜んでいただろうが



なのにどうして

150:◆RI:2022/01/27(木) 00:30

「りぃーさん!!」
「りぃちゃん!!!!」

彼女はどうして自分の目の前にたっている?
彼女はどうしてそれを外している?


─彼女はどうして、血に濡れている


『感覚リンク』『寿命』『俺が死んだら』『君が死ぬならば─』


情報の海が勢いよく脳に流れ込んでくる
こんなもの、いつもなら直ぐに処理しきれるというのに、目の前の光景は、まるでスローモーションのように脳の回転速度を低下させる

理解できない
わからない
でも、だけど、それでも、そんな自分でも分かった



「───、─」

口から血を流す彼女の微笑みは、安堵からくるものだということ

その安堵は、自分に対して向けられたものだということ

そして、彼女は、自分を殺させないためだけに、喉から手が出るほど欲した寿命を投げ捨てたということ



彼女は俺の盾となった

151:◆RI:2022/01/27(木) 00:31

「く、れない、けっしょう」
「─はい、うんちょうさま」

返事はいつも通り丁寧に、だけど待とう白い服は、脇腹を中心に、じわじわと赤い花を咲かせていく
美しい、本能的にそう思う、そして同時に、感じたことの無い感情が理性を蝕む

脇腹を抑えながらも少女は微笑む、痛覚などはない、痛みなどは存在しない、ただ、儚く壊れていく

真っ白な彼女を赤く染める、パパラチア、俺のパパラチア


「ごめんなさい、うんちょうさま」

鈴のような声で彼女は紡ぐ

「─あなたさま、いがいに、こわされてしまって、ごめんなさい」

赤い花弁は散らぬことを知らず、白い真珠は塗りつぶされていく

「ごめんなさい、ごめんなさい、どうか、どうか、あぁ」

それ以上は言わないで欲しい、伝えないで欲しい、知らないフリをして欲しい

伝えてしまえば、もう終わる、この関係はもう終わる、それは、それは、君の灯火が消えることと同義で───


「いとしいあなた、ともにいきられぬことを、どうかおゆるしください」

152:◆RI:2022/01/27(木) 00:31

微笑みは絶えず、目の前に残るのは無機物たる宝石のみ

最後に伝えられたのは愛だった、自分たちがどこまで行っても理解できなかった愛だった

知らないものだ、知りえないものだ、彼女には、自分には

なのに、なのに、どうして


彼女は理解した、そのために必要な機能も性質も持たぬまま、彼女は理解し、最大限にそれを伝えた

そして自分も理解した、愛などというまやかしを、証明された、されてしまった

             ・・・
「───ずるいじゃないか、リィン」

ずるい、ずるい、ずるい

理解した、理解したのに、彼女はいない、彼女は目覚めない

愛を与える場所も、愛を告げられる相手も、愛を通じ合う事ももう、もう、もう



「、ぁァ」

声が滲む、視界がぼやける、おかしい、おかしい、こんな感覚は初めてだ、なんて疎ましい、なんて憎らしい、なんて─

─なんて、愛おしい

「っ、りぃん...!」

置いていくなんて酷いじゃないか、勝ち逃げだなんてずるいじゃないか



あいしてる、あいしている、どうか、どうか


「だれのものにもならないでくれ、──!!」


君の愛がどうか、俺だけのものでありますように

153:◆rzo.:2022/01/28(金) 08:09

ちょっとどうしてもなにか感想を伝えたくなってしまって、、

RIさんの話なんですけど、、ただたまたま読んだだけなんですが凄く感動しました。素敵なお話読ませていただきありがとうございました。

154:◆rzo.:2022/01/28(金) 08:09

もし乱入など禁止だったらすみません…

155:◆RI:2022/01/28(金) 18:37

わざわざ感想をありがとうございます〜!!!モチベに繋がりますので大変嬉しいです、乱入等は荒らし以外に規制などありませんので、よろしければまた、私、もしくはほかの皆の話を楽しんで下さいませ!

156:◆RI:2022/01/30(日) 00:46

『どこかの誰か』

https://i.imgur.com/oYeVcsi.jpg
https://i.imgur.com/Frhh7Gy.jpg

157:名を捨てし者 hoge:2022/01/30(日) 22:10

>>156
これは画像が葉っぱでは見れないようにしてあるのかな?

158:◆RI:2022/02/06(日) 02:30

「君はきっと、僕を呑み込みたいんだろうね」

「─は?」

目の前の男に告げられたそれは、微笑みながら告げるなどありえないはずの、自分の目的だった

「俗に言う『ヴィラン』というものなのかな、いや、悪と決めつける訳では無いけれど、正義だというにはいささか問題があるんじゃないかな、どうだい?ベテリー」

「─なぜ、知っている」

「なぜというと、やはり目的は間違っていないのかな?それは残念、僕はまだこの体を捨てるつもりは無いんだけどなぁ」

「っー!何故知っていると聞いている!!応えろディユ!!」

問いかけてもはぐらかすように微笑むそれに、苛立ちを覚え、叫ぶように問う

「─怒らないでおくれ、ベテリー、綺麗な顔が歪んでしまっているよ」

それでもなお、目の前のこいつは私に微笑む

「…そうだね、なぜしっているのか、というと…

なんとなく、だとしか言えないね」

「は─」

息を飲む、なにを、なにをいっている?目の前のこいつはなにをいっている

「だってきみ、僕にはじめて声をかけてきた時、すごい顔をしていたじゃないか」

そんなはずは無い、ポーカーフェイスは完璧だった、バレる要素などひとつも

「瞳、捕食者の瞳だった、笑っていた、僕を見て

次の獲物を見て、わらっていたんだろう?」


恐怖を覚えた、
目的がバレたことに?違う


その事実を知っていて、私と過ごす日々に一切のそれを悟らせなかった、そしてなおも、微笑み、その事実を世間話のように告げるこの男の異常性に、だ

生かしておくべきではないと、本能でそう思った

気がついた時にはそいつに向けて手を向け、異能を放っていた

伸ばしていない方の手で頭を抑える、息が荒い、動揺するな、と下を向きながら己に命令する

どうしようも無いこの感情は、やはり己が三次元の人間だと悟らされる

それに歯を食いしばり、やはり壊さねばと己の意思を再確認する

「─べテリー?」

ひゅ、と息を飲む

「どうしたんだい、ベテリー、気分が悪いのかな」

─なぜ

なぜ、この男は平然としている

なぜこの男は負の波動に呑まれていない

なぜ、なぜ、なぜ

「ベテリー?」

男がわたしにてをのばす

なんでもない、脅威などなにもないはずのそれが、あまりにも恐ろしく、力強く払いのける

「っ─化け物め─!」

吐き捨てるように告、気に食わないが、逃げるようにその場から立ち去る


『初めまして、ディユ・パライバトルマリン、─ベテリゲーイゼという、仲良くして貰えるかな?』
『─あぁ、もちろんだよ、よろしくベテリゲーイゼ、…ベテリーとよんでも?』


───ディユ・パライバトルマリン

私に笑みを向けたもの、私に優しさを向けたもの


私に恐怖を与えた、五次元の人間

「っ─!」

あいつの微笑みが、脳裏に焼き付いて、離れない


「げほっ…」

咳き込む、じわりと体の中で何かが蠢くような感覚がある

「…………」

赤く染まった手のひらを見つめながら、考える

『っ─化け物め─!』

「……これは、長い戦いになりそうだね」

血に汚れた手を気にすることも無く、両手を交差して握りこむ
祈る、祈る

どうか、妹が巻き込まれませんように
どうか、親友が巻き込まれませんように

「───」

どうか、『友』が、これ以上道を踏み外しませんように

「ベテリゲーイゼ、君に、光があらんことを」
どうか、君が、闇に消えてしまいませんように

159:名を捨てし者 hoge:2022/02/06(日) 03:12



『 ──────人は死んで、全てが完成する。


 今迄に積み上げて来た物...例外無く全て破滅に終わる。
   財産も名誉も権力も美貌も友情も恋愛も

    死んだら全て手放さなければいけない
      あの世には何も持っていけない 

     だからこそ最期まで役に立て 
       全ては未来への為に

          _____英雄譚より一部抜粋 』



いつまでアンタの事を覚えてるんだろうな、もしかすると私しか覚えてないかもしれない。…少なくとも、あっちにいる奴等は全員 ...アンタの声は忘れてちったみたいだね ...顔も朧気にしか思い出せてないみたいだ。
……あぁそう泣くな、私がついてんだろ?



    本当、アンタは哀れだったよな。
味方からの流れ弾に当たって死んだ…そこまでなら、憐れて死を悼まれる筈だった。…そう、"だった"よな

──────“....でも、でも ...現実ってのは、残酷だよ“


 …あぁ、そうだな。滅茶苦茶残酷だな?
 アンタが死んだのは何も悪くないってのに…
...アンタを撃った流れ弾のせいで戦闘に敗北した…
原因は誰になるかって言う責任のなすり付け合いで、出たのが...."邪魔な奴が一人いた"って結論。



理不尽な死亡だった、なのに責められるのはアンタだけ....で、最終的に親にまで責任はいって、批判の嵐。.....両親共に残念だが ...もう、アンタよりも先に獄の世界行きだ。



   同調圧力と、袋叩き。
  ………アンタが死んでも、今なお続いてるこの負の連鎖。



...さて、そんな前置きは置いといて、まだ魂だけが残ってるアンタに聞きたいんだよ
 ..良く復習は何も生まないって言うけれど、一つ生むもんがある .... ....【 爽快感 】 ...と、私は思う。


  どぉだ? ...私と一緒に、色んな奴に復讐をして
    ...悔いなく、一緒に獄へ行かね?
...ま、もしかしたらそれが世直しにもなって、半ば軽くなるかもしんないし...。



───────"...やる、やり切ってみせる、絶対にあいつ等の苦痛に歪む顔を見て ...パパやママを安心させる...そして、もう二度と私みたいな残念な人が生まれないように、思い知らせてやるんだよ... ...悪い事をすれば必ず自分に返ってくる、って!"

お〜〜、その意気その意気 ....んじゃ、宜しく頼もうか? ......大事な大事な契約主様?


    それはとあるだらけ切った悪魔と
    "正義"を誓った死者の .....物語。

                (続かないよ!)

160:◆cE hoge:2022/02/07(月) 02:17


 変わったと思う。家族から見ても他人から見ても。そんなことを告げたとしても彼は何を言ってるんだいとその考えを馬鹿げたものと一蹴するのだろう。そんなことを考えながら工夫茶を入れる。飲んでくれる彼は今日も美味しいと笑ってくれるだろうか。そんなことを考えおもわず笑みをこぼしながら、先程まで考えてた人物が現れ思わず目を見張る。

「やぁ雪、お茶も入れてくれるとは俺のこと大好きだな」
「お兄様のためじゃないことを分かってての発言ですわよね…ちょ、なに勝手にのんで!」

 自由奔放で無邪気子どもみたいといえば聞こえがいいがその中身は最悪だ。そんな彼が何か一つに執着を見せてるのだから…。ため息をつきながらお茶を一口に含む。香りは最高だが舌に広がる泥の味に少しだけ落胆を覚える。春蕾様はほめてくれるけど本当に美味しいのか…そんなことをもんもんと考えていると彼は声をかける。

「春は俺と同い年だよね…」
「あら、お兄様が世間話が出きるなんて、はじめて知りましたわ」
「最近…覚えてみるのも悪くはないかなって思ってね、ほら実験体の緊張を和らげるにも」
「嘘」
「ほんとなんだけどなぁ、次期当主候補様」
「白々しいですわね…ほんと、それで結局何を言いたいのです?」

 兄の思っていることはよく分からないが考え方は一緒なのだ。思わず舌打ちをしてしまうほどに。そんなところに血の繋がりを感じ嫌になる。ただ唯一彼と違うことは人の心があるか否かだったのだから。

「今まで人とちゃんと『会話』をするということがなかったからね、練習さ」

 そういいながら実験データを楽しそうに眺める兄を見て思う。変わったのは愛ゆえなのにそれをいったところで彼はそれを理解できない。

「こんなところで油を売ってる暇がありましたら、リーさんのところへ行っては?」
「……?なんで、紅結晶の名前がいまここで出るんだい?」
  

「失くなってから後悔してもしりませんわよ」
「馬鹿だなぁ、雪は」
「俺が紅結晶に執着してるのは壊れるまでと決まってるのに、後悔もなにもするわけないじゃないか」

 ケラケラと笑い頭を撫でてくる彼はおそらく本気でそう思っているのだろう。冷めた紅茶は泥のように苦い風味が広がる。味覚を失った理由も彼がこうなった理由も一緒だから憎むに憎めない。だから私はこの兄が嫌いなのだ。


「それでも、後悔することがないように行動はしてくださいませ、お兄様」



『最愛の憎らしい同類の君へ』

161:◆Qc:2022/02/14(月) 00:34

『――御伽先生』


少女が、手紙を書いている。
一行目、相手の名前だけを書いた、もはや紙切れのような手紙であった。
「貴女に贈ります」という声と共に、虚空へとそれを放る。


返信は早かった。彼女の能力のお陰で、相手からも即座に手紙が届く。
『どうしたの?石鎚さん···いや。篝ちゃん。
この形で連絡を取ってくるなんて、久々だね』
それを読んですぐ、二枚目に筆を走らせる。


『また兄がメール見てたらいけないので···すいません。
先生、少し質問があるんですが、時間は大丈夫でしょうか?』

『···いつもながらプライバシーも何もないね、帳くんは。
まあそれはいいかな。
時間ならたっぷりあるよ。···仕事就いてないからね。···いつも思うんだけど、どうしてまだ先生なんて呼んでくれるのか、不思議だよ』

『···だって、私にとって、御伽先生はいつまでも先生なんです。
えっと、質問なんですが···私の父について、何か知っていることはありますか?』

『···照れるよ、それ。私以外にはその論法使わないでほしいかな···
して、篝ちゃんのお父さんのこと?なんで私に···前言ってた商人さんに頼めばいいと思うんだけど』

『えっ?
いや、駄目です···最近あの人怖いんですよ···もう先生にしか頼めないんですよ』

『······篝ちゃん。明後日私の家来てね?
それはともかく、ちょっと調べたんだけど、篝ちゃんの家ってその筋では超有名な諜報組織みたいだね』

『えっ?
えっ???
初耳なんですが』

『···あー、これは···あんまり他人と関わらないが故に気付かれなかったパターンかな?一応ヒーロー組織にも有能な情報屋いたはずだけど···それとも篝ちゃんがポンコツ過ぎてその一族だと認識されなかったかな···?』

『あの、要点だけお願いします。明後日用事入れますよ?』

『はいはい。それで、その中にえげつない人がいたみたい。二つ名は「血煙」』

『煙···お父さん···?』

『お、ビンゴかな。良かった。
すぐに知れたのはこのくらいだね。これでいいかな?』

『···はい、ありがとうございます。
でも、妙なんですよね······うち、家庭崩壊してるんですよ』

『前にも言ってたね。···確かに妙だね。それほどの組織が内部崩壊するなんて···ましてや身内。なんかそういう徴候はなったんだよね?』

『···はい。』

『うーん···まあ、また何かあったら連絡してきてね。先生、頑張るから』

『はい···ありがとうございます!明後日、待っててくださいね』

『えっ?もう一回手紙送ってよ』

162:◆Qc:2022/02/14(月) 02:52

バレンタインデー チョコ貰った時の反応一覧(男性陣少ない問題)


スコーピオン
相手がタランテラ:「···毎年、ありがとな。いつもながら変な物は入ってないよな?」
それ以外:「お、ありがとうな子猫ちゃん達。ゆっくり明日以降の糧にするさ」

葬月:「チョコってマジか?···まあ貰うけどさ。ありがとな」

帳:「······あれ、チョコ?···親とか、妹以外から貰ったのは久しぶりだな。感謝しとくな」

163:◆Qc:2022/02/14(月) 02:55

>>162追記
アーミチェス:「ふむ。チョコレートか···機械の体でも消化できるか見物であるな」

164:◆RI:2022/02/14(月) 22:20

バレンタイン反応集

叢雲
対他人「え?あ、オレ嫁いるんで、無理」
対雪「…………ありがとうございます、雪さん、…………………ところで今回はどこ壊しました?」

嫁以外に貰うことは天変地異がおこっても無い、頑張る嫁は可愛いので例え度を超えたメシマズでも死ぬ気で食べるし壊れたキッチンは直す



対他人「わぁい義理チョコあざーっす、え、ほんとに義理なんで?えぇ…」
対綴「綴さんこれ焦げてますよ、え、いやいや食いますけど、いやですー、もう俺のッスよこれ」

意外と貰っているが全部義理、相棒から手作りの焦げたチョコを貰ってわざとダメ出ししつつ絶対に渡さない



対他人「うん、みんなありがとう、でも貰うのは1人だけって決めてるから…ごめんね」
対栞「しおちゃ〜ん?お呼びの頼で〜……!チョコ!俺宛?…ふふふ、だよね、…ありがとうしおちゃん、」

断りつつも丁寧さで人気を下げない徹底ぶり、彼女からのチョコは貰える前提で考えているしもちろん貰える


ジン
対シキ「お前これ何入れたん????」

何を入れたかわかったもんじゃないので毎回聞く、今年は目の色が変わる薬だった、ちなみに聞くだけ聞いて毎回普通に食べる


霜星
対他人「……ちょこれぇと、あぁ、西洋の菓子か、あぁ、ありがたく受け取ろう」
対藍「らん、らん、今日はちょこれぇととはこんなにも美味いのだな」

洋菓子に馴染みがないため楽しげ、最初の年は誰からも受け取るが、運命が嫌がれば彼女からしか受け取らないようになる



陰「……」『ありがたく受け取ろう、感謝する』
陽「は?チョコ?へーああバレンタインとかいう…!!!おれまだおひいさんにチョコもらってねーじゃん!!!ありがとな教えてくれて!!!!じゃ!!!!」

陰は丁寧に受け取り食べてくれる、陽はあの子しか眼中に無いため受け取ってくれない、ちなみにあの子もべつにチョコは用意してない



表「え、僕にチョコ?嬉しいなぁ、ありがとう、大事に貰うね」
裏「きも」

受け取る時は有象無象に見せている表なのでしっかりと受け取るし丁寧に対応するが、人が居なくなる、家に帰ると裏に切り替わりさっさと捨てる、他人のもんなんか食えるか、安全なものは親友に押し付ける、親友と並んで学園ツートップのチョコ獲得数



「まじ!?チョコもらえんの!?やった〜!めちゃくちゃ嬉しい!ありがとな!…あ!ホワイトデーまじ期待しといて!3倍にするから3倍!」

まさに模範解答、正しい反応、甘いものも好きなのも合わさってこのイベント時は機嫌がめちゃくちゃいい、親友と並んで学園ツートップのチョコ獲得数


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