きみのための物語

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1:◆RI:2020/11/01(日) 20:49

自分のキャラの過去話、裏話
スレッドにかけない小説のような話をどこかにあげたい人はここに書き込んでみてください

正直スレ主が欲しかっただけですがご自由にどうぞ

201:◆RI:2022/06/26(日) 02:52

XX/XX

くにがおれたちをうらぎろうとしている

じかんがない、どうにかしなければ

せんそうをはじめるにはあいてがみがるすぎる

アルディアをころすなんざぜったいさせへん

あいつらをつぶすなんざぜったいさせへん

ぜったいに、おれが、あいつらを


前日までの、綺麗になった字に比べ、殴り書きのような荒々しい文字
怒りの籠ったそれは、あいつがこの日、全てを決意したであろうことを物語っていた


XX/XX

今日
これが、俺があいつらの仲間でいられる最後
ぜったいにやりとげる、ぜったいに、ぜったいに

ちょっとくるしいけど、でも、それでも








「なん、やねん、これ」

誰がそういったのだろうか、その声は、あまりにも悲痛で

読み進めていけば行くほど、この手帳には愛が溢れていて

全てが俺たちのために仕組まれて、
奴は己を裏切り者として犠牲にして、俺達を救ったのだと、理解せざるを得なかった




04/01

そういえば、そろそろ建国記念日やったっけ?
ホンマにあのクソども、アルディアの嫌がることばっかしおってからに、よりによって処刑日と重ねんなやボケ

まぁ、俺は死ぬ、日記もここまでや思うとしみじみ感じるなぁ

正直、貫徹して裏切り者として死ぬのはいやだけど、まぁ、しゃあない

最後にわざわざ嘘まで大声で叫ぶ予定やし、ちゃんと殺してくれるといいんやけど

ユースには悪い事したなぁ、まさか処刑人なんかでてくるとはおもわんかったし、あいつは優しいから、ホントのことを知ってしまったら、泣いてしまうだろう、絶対にバレないようにしなければ

まぁ、俺が完璧に演じればいい話やし、そのためにもがんばらんとなぁ

















建国記念日おめでとう、俺は、お前達を、ずっと、ずっと愛してる

202:◆RI:2022/06/26(日) 02:53

そう、最後にそう締めくくられ、この日記は終わっていた
まだ白紙が余っているというのに、もうそれ以上先を、彼が刻むことは二度と無い


全てを知った瞬間に、気づけば涙が溢れていた
泣くのなんていつぶりだろう、止まらないそれに引き摺られ、ひくりと小さく喉がなる

周りを見れば、みな同様に泣いていた

イシスは己のマフラーを握りしめ、唇を噛んでいた

サイドはただ目を見張り、呆然と涙を零していた

アルクは、しゃがみこんで、悔しそうに顔をゆがめていた、拳を握りしめ、そこから血が滴っていた

メレルは、しゃがんで蹲り、アデアの服を抱き込んで泣き叫んでいた

ユースは絶望した顔持ちで、持っていた顔布を震える手で握りしめていた

ルティアは、ただ泣いていた、何も音は発することはなく、ただ静かに声を押しころすように泣いていた

ショートは、もう既に治っていた殴られた頬に、呆然とした顔で触れ、ひとつおいて顔を歪めた、ずっと、嘘だと呟いて、そんなわけが無いと、すがりついていた


あいつは、何を考えていたのだろう

俺たちが罵倒したとき、何を考えていたのだろう
俺たちが拷問したとき、何を考えていたのだろう
俺たちが処刑したとき、何を考えていたのだろう

なぜ、死に際に、あいつは、幸せそうに、笑っていたのだろう

そう、ずっと疑問だったことが、すべて、すべて、まるでパズルのピースが埋まるように、理解出来てしまって


その日、俺たちの涙腺は枯れ果てた

203:月見里:2022/06/26(日) 08:31

『受け継がれるお面の呪い』

僕はこの赤般若(お面)を手にしたあの日から変わった。
両親を早く亡くして、親戚には引き取っては貰えずに
亡き父方の祖父の家で住んだ。
廃墟化していたその家で生き残り続けていた。


僕は月見里 双一。
学校は行ってない、自力で食べ物を探しているからそんな暇はない。
僕は、この赤般若と一緒に生きている。
話せられないけど...時より勝手に僕の身体を使って、お金を集めてくれる。木の壁に彫られた文字で赤般若のことを理解した。

『俺は、五百頭旗 牙竜だ。お前の爺さんから見てきた
武士であり霊だがな....ここでのたばり4ぬなよ? 』

『銭が少なくなってきたから知り合いから借りてきた。
安心しろ、お前の爺さんの仲間だからな。』

『そろそろ、体力つかないとな.....お前の親父みたいに強くなれよな。小僧、俺は弱者が一番嫌いだからな』

とこの赤般若は口はとても悪いが優しい霊
僕のお爺ちゃんやお父さんを知ってる事には驚いた。
何でも、僕の家系は陰陽師でよく般若の面で戦った人らしい。その赤般若をいつも見てきたのが、この霊だった。

僕にはさっぱりだけど、お爺ちゃんとお父さんもこのお面を着けて戦った強い人だと言った。
それを聞いた僕は初めて『強くなりたい』と思った。
その時だけ、赤般若から一瞬だけ...


誰も知らないだろう、とても優しい顔をした
綺麗な牙竜の表情が見えた気がした。

204:◆RI:2022/07/03(日) 04:35

ユース視点

任務が終わったあと、気まぐれで、ふと、街を出歩いた
別に何が欲しいわけでも、何が見たいわけでもなかったけれど、久しぶりにしっかりと見る街並みは、前世と同じように賑わっていて、懐かしさを感じた
ぼーっとそのまま歩いていけば、いつの間にか、大きく拡がった広場に出ていて
人が多く歩いているそこは、前世では、あいつの最後の場所だった

ふっと蘇ってくる記憶に唇をかみしめ、頭をガシガシとかく、気づかないうちに、嫌なところに来てしまった

ただの気まぐれだったし、用もない、さっさと帰ろうと足をかえそうと、した、とき


「─────」


広場の真ん中、あいつの処刑場があった場所
そこに、ポツンとたっていた奴がいて、
なぜか、目が引かれてしまって

よく見てみれば、そいつは、あの日見た相棒と同じ背丈で、

「────あであ」

そう、こえをもらしてしまった

そんなはずがない、と思っていても言葉がこぼれるのがとめられなかった

でも

そいつは、それに答えるように、こちらに振り向いて


「─────え」
風が吹いて、そいつが被っているフードがとれて

「─ゆ、す」

そいつは俺を見て、あいつと同じ桃色の目を見開いて、あいつと同じ声で、俺の名前を呼んだ

205:◆RI:2022/07/03(日) 04:35

「……っ──!!!」
ぶわりと身体中におかしな感覚が襲う

アデアだ

間違いなかった、あのひ、あのひ、俺が殺してしまった相棒が、目の前にたっていた

「───」

何かを言おうとしても、喉がひきつって、掠れた呼吸音しか出てこない、
ききたいことも言いたいことも、沢山あるのに

「……っ!!」
俺がそうやって固まっていると、呆然と俺を見ていたアデアは、思い出したかのように息を飲んで

───────逆方向を向いて走り出した

「は、…っ!!?まっ、あであっ!!」

いきなりのことに反応が遅れるが、前世で彼が俺たちの前から消える光景が、走りさろうとするアデアとかさなり、ゾッとして急いで後を追う
もう二度と、あいつを、逃がしてはダメだと思った

人混みに紛れながら走る分には、小さな体の彼は俺なんかよりも動きやすいのだろう、見失いかけることがあって必死でそれを見つけて

ひたすらに逃げていくあいつは、多分捕まる気は無い、でも、もう手放したくなくて
おれはインカムの電源を入れた


ピピッと、インカムが起動する音が鳴る
ユースからの通知であったから、任務の報告かと思って、いつものように話しかける

「はぁいこちらルティアですぅ、ユースさんどないし『あ、ああああであっ、あであがっアデアがおった!!!!!』──は?」

流れてきた声はあまりに慌てていて、かすかに聞こえる音から走っているような振動を感じる
いや、それより今なんといった?

『アデアっ、アデアが街におった!!俺の名前呼んでたから多分あいつも『覚えとる』!!!やけど俺見た瞬間に逃げて…っ、今追いかけとるからっ先生サポートしてくれ!!』

「は、はぁ!?」

まてまてまて、頭が混乱している
アデアが?この街に?というか今世に?

『っ、ルティア!!』
「っ〜〜!!!あーもう!!分かった!!何がなんでも追跡したるわ!!!」

考えても考えても思考はまとまらないから、もう放り投げてしまう、
考えるのは、あいつが帰ってきてからでいい

206:◆RI:2022/07/03(日) 04:35

「あるちゃん!!あるちゃんきこえとる!?」
ユースのGPSを伝って居場所を割り出しながら、我らが総統にインカムを繋ぐ

『なんやルティア、うるさいぞ』
冷静な低い声に窘められるが、それどころでは無いと叫ぶ

「ユースさんから連絡がきて…っっおった!!」

繋がったインカムに報告をしながらユースの周辺をモニターで探せば、何度も見たあいつの姿を見つける

『は?なんやねん、なにがおったんや』
「っアデア!!!!アデアがおった!!!」
『は』

息を飲む音がインカムから聞こえてくる

『……本気で言っとるのか』
「まじもまじ大まじやボケ!こないな嘘つかへんわ!!いまユースが追いかけとるしおれもモニターで捕捉しとる!!!」

珍しく震えている声に大声で答える、縦横無尽に逃げるあいつを必死に追いかければ追いかけるほど、懐かしい姿に目がかすみそうになる

『…ルティアとユースはそのまま追跡を!それ以外を会議室に至急集めろ!!全員のインカムを繋げ!!』
「っつ、了解っ!!」

1つ沈黙を置いた後、いつものように命令を下してきたアルディアに答えて、急いで仲間たちのインカムに手を出して、俺は声を上げた

207:◆RI:2022/07/03(日) 04:36

「っ…!」

まずい、まずい、まずい!!
ユースがおった!!うわぁまじで、まじで!?
街になんか来るんじゃなかった!
いや転生したのは知っていた、軍の噂であいつらっぽい奴らがいるということはわかっていた!でもまさかこの街にいるなんて知らなかった!!
しかもなんかルティアとか聞こえてきたし!!まさか全員おんの!?!?全員!?

必死で人混みを利用して逃げ出しながら、ぐるぐると思考を巡らせる

今世では、のんびりと1人で過ごして、平和に死んでやろうと思っていた矢先にこれだ、そう言う星の元に生まれているのか?と思うほどに、俺の運命はどうかしていると思う

アイツらにとって、俺は裏切り者である、殺したくなるのもわかるが、こちらはもう関わる気は無いし、そもそも前世で処刑されているのだ!許して欲しい!無理?ですよね!!

広場から抜け出して路地裏へ逃げる、壁をけって行き止まりを登り、錯乱させるように必死に逃げるが、相手はユースだ、寄りにもよってあいつらの中で1番動ける奴だ、しかも恐らくルティアも俺の捕捉にかんでいる、あれ、これ逃げるの不可能では????

余裕なんかないくせに無駄に回る頭に少し嫌気がさしながらも駆け出すあしを早める


遠くで、俺の名を呼ぶ声が聞こえた


「っアデア!!!!」


それはあまりに、あまりに悲痛な叫びのようで、懇願するような、縋るような声で、裏切り者に向けるべきでは無い声で

「っ、え」

想像もしていなかったその声に、つい、後ろを振り向いてしまった

「───」

そこにいたのは、さっきも見た、俺の元相棒であった、あったのだが、

その顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた

───なんで?

なんで、なんで?なんでユース泣きそうなん?追いかけてくるものだから、殺意にまみれているか怒りにまみれているか、そんな顔をしているものだと、怖いから後ろを振り向かないでおこうと思っていたのに

「あ、で、あであ、あであっ」

何度も名前を呼ばれる、その声色に、俺の喉がひくりとなったきがする

「アデア、アデア、やんな、ま、まちがってないよな…?」

いつの間にか、俺の足も、ユースの足も止まっていて、俺はその問いかけに、どう答えていいかわからなかった

「いきて、い、いきてるん、よな、おまえも、おまえも、おぼえてるん、っやんな」

必死に走っておってきたのだろう、彼は息が上がっていて、荒く呼吸をしながら、話を続けている

俺は走っていたせいであがっていた息とは別に、どんどん大きくなっていく鼓動に、は、と息を漏らす

「おっ、おれ、!……お、れ…っ…」

必死に言葉を紡いでいたユースは、何かを話出そうとして、言葉を詰まらせた、はくはくと口を動かしているが、言葉がそこから出ることはなく、酷くつらそうに顔をゆがめていた

そしてようやく、どうしてユースがそんな顔を、そんな声をしているのかを理解した

バレたのだ、俺がやったこと、その真実全て

208:◆RI:2022/07/03(日) 04:36

正直ゾッとした、何がきっかけで気づいたのかはわからなかった、いやでもこいつらの事だ、何かしら俺が見落としたものでも見つけたのだろう、あぁ、ルティアをバカにできない、己のガバガバさに嫌気がさす

そして、あのとき、俺を殺したのは、ユースであったことも思い出して

ひゅ、と喉がなった

酷く残酷なことをしたのだと、忘れていた訳では無いのだけれど、どうせバレることは無いとたかをくくって、わざと目を逸らしたその事実が、いま、目の前のユースを苦しめているのだと、わかってしまった

ずっと、真実に気づいた時からずっと、きっと彼は、苦しんだのだろう、己を責めたのだろう、今言葉が詰まっている理由だって、優しい彼は謝ろうとして、そして、謝る資格があるのか、などと考えているのだろうということも、なにもかも、手に取るようにわかってしまった


いや、彼だけではない

かつての仲間たち、俺が裏切った仲間たち

みんな、みんな






だとしたら

・・・・・
だとしても


────────────────────────

209:◆RI:2022/07/03(日) 04:37

「ユース」
あいつの声が、俺の名前を呼ぶ

「…ぁ…」
その、懐かしい声に、愛おしい声に、もう呼んでもらえるはずのなかった声に、言葉を紡げなかった俺は、顔を上げて─目を見開いた

「───」
アデアは、困ったような、でも、幸せそうな、愛おしそうに、眉をひそめながら、目を顰め、それでもくちは歪にも、歪んでいながらも、微笑んでいて

「………あで、あ」
俺は名前を呼んだ、それしか出来なかった、それしか言えなかった

「──ごめんな」


「は…?」

そう、目の前の彼は、謝った

意味がわからなかった
なんで、なんでお前が謝んねん
謝らあかんのは俺やろが、俺たちやろうが

おまえは、なんもわるくないやん


「…ばれちゃったんやんな、おれがやったこと」

そう、告げられた言葉の意味を理解するのには、少し時間がかかってしまって
それが、あの時、俺達を守るために裏切った事、その真実についてだと、やっと理解した

「あで」
「ごめんなぁ、お前優しいから、絶対にバレへんようにしたのに、俺の詰めが甘いから、そないに苦しめてもうて」

ちがう、ちがうよ、そんなの、おまえをしんじられなかったおれのせいだ
あいぼうだなんてのたまったくせに、おまえをしんじてやれなかった、おれの、

それに、くるしんだのは、おまえのほうじゃないか

おれたちにばとうされて、ごうもんされて、じんもんされて、そんげんをこわされて、ころされて

おまえのほうが、ずっとずっと、くるしかったはずだろう

「─いやー、でもほんましくじってもうたわ!なんでわかったん?バレへんように証拠隠滅頑張ってんけどなぁ」

がしがしとあたまをかきながら、問いかけてくる
さっきまでの歪んでいた顔はどこへ行ったのか、昔見た、へらへらとわらって、ただ世間話をするように

「俺嘘つくん得意やったんにさぁ、ほんまがばがばやわ、無能やなぁ」

ほんの少し下を向いて、自虐をする、口は笑っているが、その綺麗な目は、髪に隠れてわからない

「でもなぁ?ゆーす」

なまえを、よばれる
嫌な予感がした
ひどくいやなよかんがした
やめろと、こえがでた
やめてくれ
それいじょういうな、それだけは、

それだけは





「おれのことなんか、わすれてええんやで」




・・・・・
そんなことにしばられなくていい

と、そう、そうやって、

アデアは、死に際にみせた、あの顔と、そっくりな表情で、わらった

210:◆RI:2022/07/03(日) 04:37

そのことばに、おれは、あたま、あたまが、まっしろになって


気づけば、アデアを押し倒していて、逃がさないように両の手首を、己の両手で地面に縫い付けていて

「ふ、ざ、けんな、や…っ、っ!ふざけんなや!!」

驚いた顔をするアデアにむかって、ボロボロと泣きながら、叫んでいた

「ゆ、…ゆーす…?」

「ふ、ざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!」

ただ叫んだ、感情任せに捲し立てる
驚いた顔をする彼に、酷く腹が立った

「なに、な、なにが、なにがっわすれろや!!なんでそんなこというんやボケ!!!忘れられるわけないやろが!!!」

わすれられるわけがない
すてられるわけがない

「おれはっ、おれは、お前が裏切ったと思った!!俺らのことなんか捨てて、ずっと俺らのことを騙したんやと思った!!最後まで信じたかったなんて口先だけの綺麗事吐いて、最後、お前の最後の嘘も見抜けんで!!怒りに任せて!!お前の首を斬った!!俺が!!お前を殺した!!」

さけぶ、さけぶ、忘れられるわけがなかった、すべて、あの時の全て、ひとつだって忘れることは無かった、忘れていいわけがなかった

「俺はお前をころすとき!苦しんでしねばええと思った!!わざと下手に首を切って…!!苦しんで苦しんで苦しんでっ俺達を裏切ったことを後悔すればええと思った!!」

そうだ、俺はそう思ってこいつを殺した
信じていたいだなんて口走ったくせに、最後は憎しみだけで、こいつを殺した

「で、でも、でもっ、おまえ、おまえがっ!裏切ったんちゃうって知って、ぜんぶ、全部俺らの為にしたことやってわかって…っ!お前がっ俺たちを守ってくれてたって知って!おれは、お、おれはっ」

己を、殺したくて、たまらなかった

喉がきゅうとしまる、泣いているせいで、しゃくり上げるおとが、酷く忌々しくて、止まらない涙が、アデアをかすれさせるのが、はらただしくて


「ゆ…す…」
「──なんで、なんで、あのとき、わらったん、あであ」
「え…っ…」


彼の最後、俺が、剣を振り下ろした瞬間
彼は心底満足そうに、わらっていた

「……なん、で」
「…………」

アデアは答えない、沈黙が流れて、答えてくれる気がないのだろうとおもった

だけど、

211:◆RI:2022/07/03(日) 04:38

「……お前らを」

口が開かれて、愛おしそうに告げられた言葉に、息を飲んだ

「おまえらを、まもれて、よかったとおもったから」

アデアの表情は、さっきの苦しそうなほほ笑みではなく、ただ、俺を見て、穏やかに笑っていた

ほんのすこし、俺が押さえつけている手をはなさせようとしていた軽い抵抗も、まるでなかったように力を抜いて
もう逃げ出す気は無いように思えた、だけれど、なぜだか、力を抜いてはいけない気がして

今手を緩めれば、すべて、消えてしまう気がして

そしてアデアは、俺と違って、止まることなく言葉を紡ぐ

「おまえらに、ばとうされたときは、まぁ、しゃあないなっておもった、うらぎったんやったらそんくらいはあたりまえやって、というかちょっとでもしんじてくれるとおもわへんかったから、しんじたいっておまえらがいうたとき、ちょっとあせった」

しんじられたら作戦失敗してまうからな、と、わらった

「ごうもんは…ちょっといたかった、いや、ちょっとやないな、めっちゃいたかった、あたりまえやんなぁみんなおこっとったし、おれもなーんもしゃべらへんし、じんもんもこわかった、うっかりほんとのことしゃべりそうになってまった」

あぶなかったわぁ、サイドもイシスもおっかないねん、と、わらった

「しょけいのときは、──うれしかった、お前らを守り通せて、だましぬけて、さいごにアルディアが言い残すこととか聞いてくるから、一瞬、全部言いそうになった、けど、そこで言うたら全部台無しやから、徹底してやろうと思って、嘘をひたすら叫んだ、あと」


「ゆーす、ゆーすに、首切らせるん、ほんまにゆるせへんかった」

「おまえはやさしいから、そんな役割押し付けやがった国の奴ら、ぶち殺してやりたいと思って、まぁ、お前らがおるからそんなん無理なんやけど、やから、絶対バレへんように、おまえらが、おまえが、それに気づいて苦しまんように、叫んだ」

「それで、みんな怒ってくれたから、あー上手くいったってまんぞくして、───ゆだんして、くちからほんねがでたのにきづかへんかった」

「口を止める暇はなかった、しくじったと思ったけど、まぁ、それ以外は完璧なつもりやったし、もうどうにもならへんから、あきらめて、そんでしんだ」


「やから、やから、お前らは悪くないねん、ぜぇんぶ俺に操られとっただけ、俺の自殺につかわれただけ」

「ぜぇんぶ俺の、ただの、エゴやん」


歌うように、懐かしむように、それでいて諦めるように告げる
お前たちは悪くないよと、まるで子供に言い聞かせるように

「お、ま、…!まだそんなことっ」
「だってほんまやん」

微笑みながら俺の否定をかき消す

「…ほんまのことや」

俺の目を見て、はっきりと、その顔は優しく、窘めるように

「やから、お前が泣く必要はないねんて、ユース、お前は正しかった、お前は間違ってない、お前は…お前らは裏切り者を断罪しただけや、なぁんも間違ってへんよ」

「…ふざけんな、や、…間違っとるに決まっとるやろ!!!なんで、…なんでおまえはそこまでっ…!」


アデアは笑って、微笑んで、俺を、俺たちを突き放そうとする、どうして、どうして

「おれは、うらぎりものでええねん、もうおまえらに、かかわるつもりもない」

「……は…?」

いま、なんて

「…おれはもう、おまえらのところにはもどらん、おまえらがどれだけおれをゆるしても、ぜったいに」

笑っていたその顔は、その笑みをかき消し、決意を埋め込んだような顔をして

おれはその言葉に、その拒絶に、気を取られてしまって

「……おやすみ、ばいばい、ゆーす」

「あで」

アデアが持っていたそれに気が付かないまま、俺の意識は暗転した

212:◆RI:2022/07/03(日) 04:40

「………」
気を失ったユースの体を、自分の体を起こすのと同時に持ち上げ、側の壁にもたれかからせる

両手を掴まれていたから、仕掛けはあったとはいえ取り出すのに苦労したけど、護身用に持っていた仕込みの睡眠薬が役に立った、ユースが動揺していなければ気づかれていただろう、


『もうおまえらに、かかわるつもりはない』

「……」

『おまえらがおれをどれだけゆるしても、ぜったいに』

「……」

『ふざけんなや…っ!』

「………ごめん」

その場にゆっくりとしゃがんで、ユースの頬に両手を伸ばし、呟く

「ごめん、ごめん、ごめん、なぁ」

頬を撫でる、さっきまで泣いていた彼の目元は赤くなってしまっている、

おれのせいで

「っ……」

唇を噛む、少しすると、口の中に血の味が広がる、

苦しませたく、なかった、なかったからおれは、頑張ったのに、なのに、結局

「……」


「……あ、で……」
「!……」

ビクリと、聞こえてきた声に肩を揺らす、急いで顔を上げて彼の方を見る

「っ………」
「……」

ほ、と安堵の息を零す、起きた訳では無い様だ、だけど、相手はユースだ、こんな薬なんて耐性がない訳が無い、いつ目覚めるか分からない

「……」
はやく、ここから立ち去ろう、ユースの場所は、多分ルティアが見ているはずだから大丈夫、それで、それで

「………」

もっと、とおくに

────────────────────────

213:◆RI:2022/07/03(日) 04:41

─!──す!─ゆ─!

「ユース!!!」
「……っ」

聞こえてきた自分の名前を叫ぶ声に、意識が段々と覚醒してくる
あれ、自分は今まで何をしていたんだっけ、なんで眠って─!

「っあであっ!!!」
「うぉ!?」

全てを思い出してがばりと体を起き上がらせれば、近くから驚いたような声が聞こえてくる、そちらに目線を向ければ、メレルが尻餅をつくように地面に座り込んで驚いた顔でこちらを見ていた

でも、でも、それどころでは無い、急いでメレルの肩を掴み、問いただす

「め、れる、…っ!あ、あであっ!!アデアは!!!」
「い、や、まだみつかってへん、でもそんな遠くに行ってないやろうからルティアとショートがいま調べて」

見つかっていない、そう告げられた言葉に頭が真っ白になる

「っあか、あかんっ、あであっ、あであは、だめや、いま、います、いますぐおいかけっ、おいかけなっ」
「っユースちょっと落ち着け!焦りすぎや!呼吸出来てへんやろ!!」
「っ…」

そうやってメレルに肩を掴み返され叫ばれてようやく、己が過呼吸気味になっていることに気がついて、ようやく酸素を吸う、やっと回ってきた酸素のおかげで、真っ白だった脳は思考をまた開始する

「っ、は…、はっ…」
「…っなぁ、なにがあったんやユース、アデアとなにをはなしてん」
「っ…え」

そしてそう問いかけられて、疑問が浮かぶ、インカムは繋げていたはずだ、繋げていたルティアから聞いていないのか?
そう考えながらインカムに触れればその感触に違和感を覚えた

「っ…!?」
「…その様子やと気づいてへんかったんやな…俺らもインカムの通信は聞いとったんやけど、途中からなんも聞こえんなって…」

急いで取り外したインカムは、いつの間にかヒビが入っていた、どうして、いつのまに

そういえば追いかける途中でアデアが逃げるために路地裏の物を倒したり投げてよけたりしたものがたまにこちらに飛んできていた

「あんときか…!」

もう使い物にならないインカムを持った手を力強く握りしめる、バキャリと手の中で音がなり、破片が刺さったのだろう、少量の血が流れてくる

「お、おい、ユース…「もう俺たちと関わる気がないって」───は?」

ぶるぶると、握りしめた手を額にちかづけ、歯を食いしばりながら告げる

「もう、俺らのところには戻らんって、ユースが、言うた」

「……、な、ん、や、…それ」
 

214:◆rDg hoge:2022/07/03(日) 04:56

辺り一面が火に包まれて、絶叫や悲鳴や嗚咽が嫌でもこの耳に入って来る。目の前に広がる光景は死屍累々。正に地獄と呼ぶに相応しかった。
...認めたくない、あいつらの死は無駄じゃなかったって。だって、認めてしまったら。

     ゼッタイアク
目の前の全ての元凶がもっと笑ってしまうだろうから。
ふと、剣を握る手が震えている事に気付く。俺は、アイツに恐怖をしてる?怒りよりも、先に?


「 そう、君は弱い。僕は知っているよ。君は色んな人を助けて、助けられて、そんな風に生きて来た。仲間にも九死に一生を救われたりしたね。でも、逆に言えば………君は、一人では生きて行けないんだ。だから、その為に!僕がいるんだ!はは!綺麗さっぱり!ねぇねぇ、知っているかい?君ってさ、自分を強いって思ってたろ?

 ____黙れ

現実を見なよ、君は何一つ守れやしないんだ!…あぁ、そんな所が本当に可愛いね! 」


____黙れよ


「 大丈夫!僕は君の一番の理解者で!親友で!そひて倒すべき悪役なんだ!さぁ、ホップステップで踊ろうよ!!この終末感を楽しんでいこう! 」


_____絶対に、殺してやる



「 ふふふ、あぁ ...本当に君は ...一体何処まで僕の性癖に刺さるんだろうね!その髪型!その目!その口元!そのカリスマ!その服装!本当僕が夢見た英雄だ!!!さぁ!!!楽しもう! 」


______メアズ・アルマァッ!!!!


「 主人公君! ...いいや、ヒーロー!! 」

215:◆RI:2022/07/14(木) 21:46

愛しい君に、美しい恋を捧げよう

https://note.com/joyous_holly145/n/n76238f46ab9d

216:◆RI:2022/07/14(木) 21:47

この後友成に抱き抱えられながら外に出た白菊が見たものは、半壊した西園寺の屋敷とこちらを見て駆け寄ってくる友の姿
幼なじみの兄弟は自分の腕と顔を見てそれぞれ近くの物を破壊してそのまま屋敷を半壊から全壊させに行こうとし、源ノがそれを死んだ目で止めに行き
土御門や安倍はそれぞれ安否や傷を気にかけてくれた

あたたかい空間、いつもの私が知っている空間、私が居てもいいと許してくれた、私を望んでくれた場所

「おかえり、白菊」
「─ただいま、皆」

その時、なんの不安も遺憾もなく、私ははじめて笑えたのだと思う

217:◆RI:2022/07/21(木) 23:57

『お前と僕は』

1 https://i.imgur.com/lqCZQnN.jpg

2 https://i.imgur.com/KvIZ7VK.jpg

3 https://i.imgur.com/brAEgnp.jpg

4 https://i.imgur.com/wAVXKQy.jpg

5 https://i.imgur.com/bJwWH1G.jpg

6 https://i.imgur.com/eBUo8p9.jpg

7 https://i.imgur.com/RytCUG4.jpg

8 https://i.imgur.com/ay6EPCK.jpg

218:◆Qc:2022/08/03(水) 00:19

『とある場所』




「······いやぁ、なかなか面白い狂言だね······あそこの連中は絶対ここの存在に気付くことはない······か。我ながら良く出来てると思うよ······そう思わない?」
「思いませんが。······悪趣味ですよ。ヴラデク監視長の方が無干渉なだけもっとマシかも知れません」
「手厳しいなぁ。······でも、こうするしかなかったんだよね。わかるでしょ?」
「······納得はいきませんが」
「だよね。······私もそう思うよ。······まあ、あそこのお陰で『月の王』が成り立ってるから存在意義はあるでしょ」
「本当に大丈夫なんですかね······?」
「大丈夫大丈夫。何度も言うけど内部からは絶対干渉できないようにしてる。······問題なのは外世界から乗り込んでくる規格外だけ」
「規格外というと······」
「確か片方はタナトスとか言ったかな······?そいつは多分内部には干渉してこないとは思うけど······『月の王』に守られてる場所が怖いかな」
「あぁ······確か魂を布に変えるとか何とかいう存在でしたっけ······?」
「······そうだっけ?······まあともかく、まだそっちはマシなんだよ。······もう一つある。こっちは本当に何やってくるか分からない」
「タナトスと相打つ可能性はありますか?」
「相打つ可能性というか現在進行形で何かやってるみたいだよ。それでもどうにもならないみたい」
「ふむ······難儀なものですね。······まるで異民族から攻められる漢帝国みたいです」
「漢?」
「······え、ご存知でない?」
「············あぁいやわかるよわかる。とりあえず言いたいことは分かった。でもこればっかりはどうにも出来ないから······内側を中心にセキュリティ強化しようかな」
「了解しました。ではそのように伝えておきますね。······あ、『月の王』への影響はどのくらいになりそうですか?」
「え?えーっと······とりあえず大丈夫。通常通りでいいって上に言っておいて」

219:◆Qc:2022/08/04(木) 01:56

『妖幻の月族-1』


────月。
4代目の月の巫女が死んでから、時は経っていない。そう、丁度斬月が行動を起こす前の時である。
「······来客?」
『月族』の族長の一人である徊月は、『兎』による報告に首を傾げた。
「そうです。何でも『自分のことを覚えている奴が居るはず』とか言って······それ以外の事は何も喋りません」
「敵意は······ない?」
「少なくとも、表面上は」
「······そうか。ありがとう。とりあえず会ってみよう」
忙しいのにも関わらず、不思議な来客と会うという徊月。······これには、この月という場所にも関係している。
当然ながら空気もない、その上ここにある月族の建物には外部からは視認を含めた一切の干渉が出来ないようになっているのだ。どの道、それらを突破してここに来るというのは尋常ではない。
『月面大結界』維持の応援に行っている者や、地球に降りて次代の『月の巫女』を探し回っている者が粗方出払っている今、月族の地区はほとんど無人と言っても良かった。
今ここに残っている者は、待機することを命月から強制された者────徊月とその他数名しかいない。

やがて徊月は簡素な建物に足を踏み入れた。そこは、普段は『天人』や『兎』の有力者が会議前に待機をする場所として使われているのである。
たが今────ここは異質な女性の為に占領されていた。
「······」
灰色の髪をした彼女は目を閉じている。瞑想でもしているのかと思い、少しだけ動くのを躊躇われた徊月。
······しかし、ふと彼の脳裏に電流が走った。この女性の存在を、記憶の大海から拾い上げたからである。
「······張月。久しぶりだな」
女性はそこで初めて目を開いた。暗い、くすんだ目であったが······目許が少しだけ笑っていた。
「ほら、やっぱり覚えてたか······と言ってもお前だけだろうな。······徊月」
女性の名前は張月といった。そこから分かる通り、月族の一員である。
「何年ぶりだ······?月族が体系化された時に一回顔を出して以来だよな。思えばその時も······それまでの話を聞きそびれてた」
「はは······何せその時代は中国より日本が面白そうだったから」
張月は他の月族とは違い中国に行っていたらしいのである。そう言われてみれば、その格好も道家的な趣がある。
「······古参の特権だよな」
「そうだな。徊月······流石にお前には劣るが。······あぁ、折角だし土産話をしてやろう。······三国志は好きか?」

220:◆Qc:2022/08/04(木) 02:34

>>219
『妖幻の月族-2』


「······三国志?······まあ一般教養の範疇なら」
「なら流石に黄巾は知ってるか。······さて、なぞなぞだ。私は『張月』。何か気付くことは?」
張、という字を机になぞってまで強調する彼女であった。向かい合う徊月はしばらく悩んでいたようだったが、改めて張月の格好を眺めてようやく思い至る。
「張······って、黄巾の首謀者の苗字も同じ······何かやっただろ」
「ご明察。······って程でもないがまあいいさ。つまりだな······まあ何というか······儒家思想を道教思想、というか単純な欲望で破壊するのは楽しかったよ」
「··················うわぁ」
ようやく察した徊月である。
「それにしても弟達も凄かったが張角は凄い奴だったな。本当に幻術とか妖術使いこなしてるし······率いた物にもう少し頭があれば天下狙えただろうに」
「会ったのか······頭、というと?」
そう言われると色々と聞いてみたい徊月。しかし相手を優先し、最低限の相槌に留めていた。
「やっぱり賊だからか頭脳は弱いな。首領は悪くないが下が悪すぎる······お陰で簡単に取り入ることが出来た。父親の忘れ形見とか何とか言ってな」
「······で、そこで何を······?」
「幻術とか妖術とかを習った」
「は?え、陰謀とかは?」
「期待してたのか?」
純粋な興味だけで動いている人間とは恐ろしいものである。張月は確かに時代の証人にはなったようだが······時代は動かさなかったようである。

「······で、結局は?」
「どうもこうも。本拠地陥落したから雷雨に乗じて逃げてやった」
「その雷雨は······ってそれはともかく。······それだけじゃなさそうだな」
「ああ。五斗米道は知ってるか?」
「何となく。今でも続いているらしいから嫌でも耳に入る······ってまさかここでも何かやったのか······?」
一、二回で慣れる、ということはない。暫くはこのままの驚きが続くであろう。
「いや。ある役人に賄賂を払って取り入った辺りで漢中が落ちた。······まあ別にその後もついて行っても良かったんだが」
徊月は頭を抱えるのと同時に、畏怖に似た感情を覚えた。
幻や妖の術に精通するとなると、時間が無限に近い月族の身でも苦労は多い。ましてやそのような異能を持っていないのであれば。
ともかく、彼はその後の話は聞き飛ばした。道教発展に一枚噛んだとか、一時期日本に渡って陰陽道を学んだとか、その辺の話は脳が受け付けなかったのである。
「······とりあえずこれからはしばらく月でのんびりしようと思うよ。この時代でも今まで学んできた術が機能するか試してみたいんだ」
「······まぁ、気取られないようにな」
結局徊月はそれしか言えなかった。ただ、唯一彼が冷静だったのは、起こった事を命月に報告することを忘れなかった事である。
このお陰で、張月の特異性は、月中に有名となるのであった。

221:◆Qc hoge:2022/09/29(木) 01:03

『無題』



今日も今日とて怠惰な生活を送っている女性、御伽華。教職をすごい早さで解雇されたのが原因ではあるが、何故解雇されたかについてはわからない。
手元には数年は遊んで暮らせる程の退職金だけが残っている。そして生憎、華は遊んで暮らすような性格をしていない。
···そこにあるのは、虚無。色も形も何もない虚無である。

「···先生?」
そんな彼女にも、辛うじて交流はあった。
「···石鎚さ······篝ちゃん。ノックくらいしてよ」
「事前に手紙送っておいた方が良かったですかね······?」
「いや···寝かけてたからむしろよかった。おかげで目が覚めたよ」
虚空から前触れなく現れた少女が、華の意識を急速に鮮明にさせていく。冗談が通じなかった所はご愛嬌である。
······彼女の名前は石鎚篝。未だに華を『先生』と呼んでいることからも、その親愛······尊敬の情がわかる。
「······で、今日は何しに?」
「···特に用事はないですが······家に一人になったので······」
躊躇はするものの、ここに来た理由を包み隠さず言う篝。特に何もないのに来るというあたり、完全に慣れている。
「そっか。···最近どう?」
「ぼちぼち······ですね。あ、そういえばこれ······この問題分からないんですけど······」
「ぼちぼちかぁ······それで質問?嬉しいなぁ。······これはこうやってこうすれば······」
座りながらテーブルにノートを置く篝と、そのノートを見て解答例を赤ペンで書いていく華。······何となく距離が近い感じがする。
「この式が共通してるでしょ?これを文字に置き換えてコンパクトにして、因数分解した後に文字を元の式に戻せば簡単で確実だよ。時間はかかるかもしれないけどね」
「なるほど······こんな感じに······ありがとうございます」
篝はそう言った後も、そのままその場所を動かない。会話はなかった。

「······そういえば、最近冴月ちゃん達はどうしてる?」
先に空気に耐えきれなくなったのは華の方だった。大人の威厳などあったものではない。
「どうって······最近来てないんですか?」
「来てないね。······まあ、こんなになってる私に会いに来てくれる人なんて······よっぽどの物好きだよ」
「······」
華が教鞭を取っていたのは1年程度である。しかも、転任ならともかく······謎の解雇によって教員生命が中断されたのだ。ただでさえそのような文化が薄いのに、生徒が会いに来よう筈もない。
······篝と、先程話題に上った冴月を除いては。
「······篝ちゃん、無理に会いに来なくてもいいからね······?」
華はのんびりと言った。そこまで軽い調子で言える事柄ではないのは重々承知している。しかし彼女はこの生活でかなりネガティブになっていた。······少なくとも篝にとっては、今にも消えてしまいそうに見えたに違いない。
「······いえ。私は来たいから来てるんです。話をしたいから手紙を送ったり会いに来てるんです。一緒にいたいから······」
「······」
そこまで言って口を噤んだ篝に対して、華の反応はというと······赤面していた。
「······そこまで言われると、嬉しいを通り越して······恥ずかしくなってくるんだけど」
「······っ」

直後、華に負けず劣らず顔を赤くした篝は、すぐに手紙に自分を添付させ帰っていった。
······後には、僅かにかき混ぜられた空気と、珍しく頭を抱える華が残されていた。

222:◆cE hoge:2023/07/14(金) 21:40


「魔女」

 おとなは、みんな嘘ばっか。うそつき、みんな嘘つき、だからもう
 「だれも、しんじない。あおい、いがい、もうだれも」
 頭から血を流す妹を抱きしめながら、そっと頬を寄せる。誰も助けが来ない業火の中、片割れを背中に抱え割れた硝子の破片に映った自分を踏みつけた。

 訓練終わり、汗を拭い湯浴みを済ませたあとお茶を啜りながらにこにこと周りを見渡す。ここも随分と人が増えたものだ。子どもから大人まで、昔は二人だけだった訓練も今では大勢ですることも多くなった。随分と日が長くなった。そんなことを考えて目を瞑る。今日は朝から嫌にあの日のことを思い出す。

 昔から、私たちは一族に疎まれていた。一つは、双子で産まれたからという理由。二つは、二人が揃うといつも妖達が寄ってくるから。三つは、二人とも女であったから。
 父は私たちに目を向けず義務だけ果たすようにといい姿を現さない。母は、忌み子達を産んだから、そんな理由で安倍の権威を失墜しようとする者たちに私刑を下された。
 そんな中、味方となってくれる大人が一人だけいた。棗、彼はそう名乗り、なにか困ったことがあれば私たちに手を貸し、その変わりに私たちが妖達を退治した。人見知りで気が弱い葵も彼には心を許していた、それは私も同じだった。
 夏の暑い日だった。今日は朝から家が騒がしく、陽炎が燃えていた。二人で手を繋いで書物庫に籠っていると、突然父が現れ私たちの両手を力強く引っ張り外へと連れ出した。それを私たちをようやく見てくれた、必要としてくれたと勘違いし、二人ではしゃいでいると突然頬を叩かれる。
「なにを浮かれている。同じ顔で気味が悪い。この騒動を片付けろ。命を落としても」
 そういい、父は去っていった。なにを彼に期待していたのだろう。涙を堪えながら、二人で現れた敵を倒して、倒して、倒して、倒して、どれくらいたっただろうか。お互い体力も、霊力も限界を尽きた。六歳の二人が闘ったところで、鷹が知れている。そんな余計な考えが頭によぎった時だった。
 今までよりも大きい妖が現れた。
 幼い私たちはそれが今回の騒動の原因だなんて気付きもしなかった。葵の方をみて油断をしていた、その時だった。

「おねえちゃん!!!」

「…っ、あお、い?、あお…っ!」

 敵の攻撃を庇った妹が頭から大量の血を流し倒れていた。う、そ…うそ、死んじゃいや、嫌だ。

「あれ、まだ生きてたの?てっきり死んだかと」
「なつめさん、あおい、あおいが!」
「分かってるよ、死にそうなんでしょ。でもね、こっちも精一杯なんだ、強く生きなよ、じゃないとこの世界では生き残れないんだからさ、利用されて終わりだよ」
「…え、あ…いっ、いや、いやいやいやいやいやいやぁぁぁぁ!」
 そこからのことは覚えていない、気付いたらあの妖はこの手で潰していたらしい。周りには大量の瓦礫とボロボロになった刀があった。周りは業火に焼かれており、妹の息も弱まっていた。

 強くなければ、意味がない。
 弱いものは、淘汰される。

 その考えは良くも悪くも私たちを変えた。
 後から確認したが、棗はそもそも私たちをよく思っていなかったらしい。そして彼はあの騒動で命を落とした。笑える話だ。もしかしたら私が手にかけたのしれないが、記憶にないのだからなんとも言えない。
 妖達が寄り付く体質も、あの後術式と性格ごと入れ換えたあの日以来収まった。
 

223:◆cE hoge:2023/07/14(金) 21:41

「そんなことも、つい最近のことのように思えましたのに…。それにしてもなにも言わずに背後に立つなんて、御前でなければ許されませんわ」
 思い出した苦い感情にぐっと蓋をして、いつものように優しく笑顔を携える。これもあの後身に付いた生き残りの術だ。
「なにもせずとも、流れるものなのだから許しておくれ」
 思考を覗かれるのは慣れないが、そういうものだから仕方ない。どうせその他の情報に流される。
「ふふ、今師範や御前に向けている信頼は本当です。ですから心配せずとも…これで、裏切られたら、それこそ半狂乱の魔女にでもなるやもしれませんけれど」
「そんなことは起こり得ないはずだ、そのように目を配ってるのだから」
「私も、そうならないことを強く望みますわ」
 そっと視線を下げた先の湯呑みに映った自分の顔はあの日は違い、少しの笑みを携えていた。
 

224:名を捨てし者 hoge :2024/08/03(土) 05:15

とある狂信者の独白

 嗚呼、私はなんと罪深いのか。この世でもっとも高貴でやんごとないお方に恋をしてしまった。貴女に近づく、いいえ、側にいるためにはなんだっていたしましょう。この想いが決して報われなくとも。

 初めてあったとき、貴女はたしか10歳に近いお年頃でした。その完成されたお姿と言ったらなんと筆をしたためるのが正解か。すらりと伸びた手足にまだ肩くらいの髪、そして全てを見透かすかのような黄金色の瞳。鈴をならすような声。そしてまだ幼い妹君を思いやるお心。その全てに心を奪われ、私はこのお方に出会うために生まれてきたに違いないそう思っていました。ある出来事があるまでは、このお方も私に出会うために生まれてきたに違いないと烏滸がましい勘違いをしていたのです。

 貴女と出会い春が7回回ったとき、冬になっても決して枯れることなく咲き続ける神櫻の下、貴女は初めて友達と呼べる存在に出会われました。名はセラフ、アイドル兼ヒーローだそうです。争い事が嫌いな貴女はヒーローと呼べる方々との交流を持ち始めました。その頃からでしょうか。妹君の交流や初恋が始まり、貴女は安堵を浮かべる表情、そうして死ぬ時に備えた動きをし始めたのは。その時、私は恥も知らず貴女を救うため医者になろうと決心したのです。貴女のためなら何も辛くはありませんでした。

 そうしてまた6回春が巡ったある日、親友の膝の上で貴女は息を引き取りました。その後の瞳孔確認は私がしたのですから間違いありません。悲しみよりも先にこれからどすればという不安にかられました。妹君はまだ12歳、私が彼女を…あわよくば貴女の変わりをなどと思っていたのです。

「茜、先ほど言った通りもう姉はいない、それでも私についてきて欲しい」

 貴女の妹君は私の目をまっすぐ見ながらそう伝えました。あぁ、この小さい女の子に私のこの濁った感情は全てばれていたのか。私は何て烏滸がましい生き物なのか。そうして貴女に似てる彼女に強く引かれてしまうのも。頷きつつ心の中にはどす黒い感情が渦巻いてしました。貴女も、貴女も…私の手の届かない所にいて、一番になれぬのならせめて二番手にそう努力しました。妹君の番様には気付かれ、手を出さないのならと見逃していただけました。

 そうして私は、夫と出会い子どもをこさえ幸せな生涯を送ってきました。あぁ、最後に…

「しづ、きさま、らんさま…どうかこの私をその目でみとどけて…くださいまし」

 その黄金色の目に移ることが何よりも私の幸せだったのです。


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