2190年2月23日のことだった。警察官のハワード・マッケインは、久しぶりに休暇を貰ったので、一日中テレビを見て過ごそうと考えた。
彼はさっとリビングへ出ると、テレビの電源を入れた。すると、ニュース番組が出てきた。
「ニュースなんて暗くなるだけだよ……」
と彼は呟いて、チャンネルを回そうとした。しかし、その時流れたニュースのせいで、リモコンを取る手が緩んでしまった。
「アメリカの科学者ダニエル・クラーク氏のチームが未来を予知する装置の作成に成功しました……」
アナウンサーが淡々と説明をし始めた。どうやら、犯罪の未然防止に役立てる積りらしい。
「へえ、死刑執行しなくて済むなら大歓迎だけどな」
いつのまにか見入っていた彼は側の封筒を見ながら呟いた。死刑執行手当だ。こんなもので心が癒えると思っているのか。お陰でどれだけ酒を煽っても、胸が荒縄で縛られるような感情は消えない。彼はため息をついた。
しばらく画面に注目していなかったから、もうアナウンサーの説明は終わっていた。つまらなそうな先生方がつまらない討論を始めていた。奴らは、
「現実的ではない」「悪用されるに違いない」「未然防止は不可能」
と夢も希望もないことを言いやがる。こいつらは夢を叶えてしまったから、夢を見ようなんて思わないんだろうな。と彼は薄く笑った。
現実に引き戻されて、嫌になったところに、突然電話がかかってきた。胸が持ち上がった。電話の音がいつになく威圧的だ。
「はいはい、今出ますよっと」
彼は呻き声を上げながら体を起こして、ゆっくり受話器を取った。そして、すぐに取り落とした。
最悪だ。相手は上司だった。すぐに来いという事らしい。彼は椅子を蹴飛ばして、準備に取り掛かった。
「なんで、死刑が増えたんだろうな」
何のせいか知らないが、国家として死刑を復活させてから100年以上経つらしいが、ここ数十年爆発的に死刑が増えていて、刑務官が不足しているのだ。元々刑務官になりたがる奴が激減しているのに、死刑囚が変に増えたからだ。保安官でも手を上げてしまったので、暇そうにしている警察官がやらされているのだ。そして、自分がその「記念すべき」第一号だった。
確かに、アメリカ……というより人類は、このところ不味くなってきているから、不満が溜まるのはわかるが、迷惑な話だ。殺したくもない奴のために講習の受けさせられるのだ。殺しても殺しても減らないんだから、もう放っておけとは行かないらしい。あんまりにも死刑執行の犠牲者が多いから、全員地雷原に誘導していっぺんに片付けて仕舞えばいいのにと思ってしまう。
そんなつまらないことを考えているうちに、警察署についた。署では顔馴染みの暇人たちが、珍しく忙しそうにしていた。
「やあ、マッケイン君。良く休めたかな?」
署長が言った。マッケインは衝動的に殺意を覚えた。突然呼び出しておいて、「良く休めたかな?」なんて嫌がらせでしかない。もっとも、そんな感情はすぐに引っ込めたが。
「いまいちです」
「そうかそうか。今日は君に重大な任務があるから来てもらった。君ならやってくれると確信している」
「はい。何の任務ですか?」
「それについてだが、君、今日のニュースを見たかね? ほら、あのつまらないやつ」
マッケインの背筋が凍りついた。またややこしいことを任されるのだ。
「君に未来予知装置を用いた捜査を行って欲しい。どうだ、あり得ない任務に聞こえるだろう?」
ギョッとした。テレビではまだ完成したばかりではなかったのか。それとも、何か聞き逃したのか。
署長の説明によると、マスコミにはまだ公表されていないが、あくまで実験として一部の署に配備されたらしい。
「マスコミはうるさいから。州も政府も強引なことをしたものだ」
と署長は嬉しそうに語っていた。確かに配備されたということは実力を認められたということだから嬉しいのだろう。しかし、署長の弾んだ声を聞くたびに、行かされる者の身にもなれという彼の思いは強くなっていた。
「使い方などの資料を頂けますか?」
署長は正直言ってどうでもいい説明ばかりで肝心の取り扱いを教えていなかった。説明書の一枚二枚がなければ、危うく、かわりに始末書を突きつけられるところだった。
「ああ、忘れていた。すまないね。では、この機械について良く学んでくれ。実戦まで半月あるから安心してくれ」
というと署長はどこかへ行ってしまった。全く、無責任なものである。
半月ごときでマスターできるかは、確信できなかったが、最早彼に他の選択肢はなかった。
それからというもの、不恰好で冷たい機械の前で辞書のような説明書を読むという生活が続いた。面白みも達成感も何もない。これはこれで苦痛だった。
フィクションとはいえ妙にリアリティがあって面白そうです
更新楽しみにしています
>>4
ありがとうございます。励みになります。
10日ほどでやっと説明書を読みきることができた。彼にとって、人生最悪の読書であったことは、紛れもない事実だ。余りにも内容が複雑で、いちいちメモを取らねばならなかった為、疲労が半端ではなかったのだ。しかし、嫌々読んでいたことと、内容の複雑さ、そして未来予知理論の説明という余計なサービスのせいで最初の、
「本製品はロシア、日本などの技術者とアメリカの研究チームとの共同開発によるものです」
という一文しか覚えていない。きっと、一般向けに売るつもりがないから無駄に難解なのだろうと彼は思った。特に未来予知理論の説明なんて完全な自己満足に過ぎない。そんなことは学会なりなんなりでやればいい。
その後、彼はメモを整理する作業を終えて、暗記に取り掛かった。いちいちメモと睨めっこしたくはないのだ。
だが、虐待のような10日間の疲れのせいで、30分と経たないうちにそばの小型テレビの電源を入れてしまった。
今度は、討論番組だった。つけたと同時に男女のヒステリックな声が聞こえた。どうも、有力な死刑廃止論者の一人らしい。「討論」というよりは、どちらの陣営も感情論ばかり吐いているように見える。死刑が大嫌いになった彼も全く賛同できなかった。彼が嫌なのは、あくまでも自分が死刑執行の大役を命じられることだ。実際、彼は昔から、凶悪犯罪を起こすような糞たれ連中には一刻も早く地獄行きの片道切符を渡してやるべきだと考えている。
あまりにもうるさいから、消して仮眠を取ろうかと思った時、彼はふとリモコンを置いた。次の議題に移ったのである。「なぜ凶悪犯罪が急増したのか」というものだった。これにも一杯意見が出た。何十年も昔の戦争での放射能のせいだとか、軍需産業が停滞したからだとか、人類のおつむが悪くなったからだとか。
どれもこれも信用できなかった。もっとも、B級ドラマのような事が現実になっている事自体が、嘘のような事である以上、まともな結論など出るわけがなかった。
だが彼はこの不毛な争いに注目していた。疲れた目を擦ることもしなかった。
討論が一段落ついた頃、司会者が犯罪の件数と傾向についてまとめた表を出した。先程まで犬のように吠えていた者達も徐々に黙り始めた。
その表によれば、21世紀中盤以降犯罪が増加したが、理由のない犯行は増加どころか減少しているらしい。また、初めて犯罪が急増したのはメリーランドとヴァージニアのようだ。
21世紀中盤といえば誰もがピンとくる。朝鮮半島の方と争いがあった。その時、新型のミサイルが合衆国上空まで来たことは誰もが知っている。念には念をという事か、複数のミサイルを撃ってきたが、優秀な軍隊がほぼ全て撃墜し、迎撃網を擦り抜けた唯一のミサイルも原因不明の爆発を起こした。当初は放射能による被害が懸念されたが、破片で若干の負傷者が出たのみで、放射能濃度は若干増加しただけだった。ヒロシマやナガサキのような悲劇は起こらなかったのだ。ただし合衆国のやった原爆よりも批判されたが。
だが、それと犯罪と何の関係があるか、誰にもわからない。
一通り説明が終わるとまた討論が再開された。だが、誰も自論を曲げず、説明前と同じように吠えるだけだった。それだけ、自分の正しさに自信があるのだろうか。
彼は耳を塞ぎながら電源を消して、仮眠を取ろうと思い、片付けを始めた。すると、ドアの方から忌々しい音が聞こえた。ノックの音だ。
「エッ……なんでこんな時に!」
彼は持っていた荷物を乱暴に置いて、ドアを開けた。言うまでもなく、そこに居たのは署長だった。
「署長、一通り読み終えました。準備はできています」
彼は心の中で、早く仕事をしたのだから休暇を返してくれと懇願しながら言った。しかし、署長の返答は望んでいたものと正反対であった。
「そうかそうか。じゃあ、任務に取りかかれるな。休んでいる暇はないぞ」
とニッコリ笑って言いやがったのだ。彼は髪の毛を掻きむしって、
「分かりました……すぐにやります」
と言った。馬鹿正直に「できません」と返答して評価を下げるよりはずっとマシだ。数日の休暇より、出世コースの道の方が100倍大切だ。
彼は、所長についていくことになった。一度も見たことがない道を通った。勿論、案内された部屋も知らない。部屋に入ると、所狭しとモニターやパネルの類が並べられていた。コンピュータらしいものもある。
「マッケイン君、安心してくれ。犯人はすぐに見つかる」
「何ですか! これは」
彼は、目をキョロキョロさせながら言った。目の前の状況が把握できないのだ。すると、署長は微笑して、
「ここではすべての国民の情報を管理している。勿論、位置情報と氏名生年月日くらいまでだがね。合衆国の最高機密さ。シェリフでも大半は知らないさ」
とさらっと危険なことを言い出した。この22世紀に社会主義国のようなことをやっているのだ。悪用されかねない。
「私なんかにバラしていいんですか?」
と質問してみた。こんな危険なものを平然と教えるのだから何か裏があると思ったからだ。すると署長、得意げに笑って、
「実はね、例のオモチャを使って、君に見せても大丈夫か調べたんだよ。注意事項には違反しているが、仕方なかったんだよ」
たしかに、注意事項欄には、
『自己や他人の未来の予測について乱用しない事。また、未来を無理に変えようとしない事』
とあった。犯罪など重要事項は勝手に判別してくれるとも書いてあるから、乱用に当たるはずだ。
「でもまあ、未来を無理に変えてはいかんのに犯罪の防止とは変だと思わんか? 全く、学者というのは訳がわからん」
と戯けたように言った。署長の発言に彼は怒った。別に、冗談がつまらなかったとか、注意事項に違反したからではない。やり方を知っているなら、お前が全てやれよと思ったのである。
「はい。それで、誰が対象ですか?」
「ああ、5日後、7:00に本州最大都市のA銀行で店長と次長以下数名が殺害される。犯人は同店舗の銀行員のジョナサン・クレイグ。動機は店長、次長以下数名の不正や他の行員へのパワハラに義憤を感じたから。銃を乱射する。巻き込まれてターゲット以外も死傷する。ここまでわかっている。だから君は犯行直前に捕まえてくれ」
無茶苦茶を言うなと思いつつ、彼は了承した。
それは任務が5日後だからである。5日後だと言うので、休暇が貰えるかと期待していたのだ。しかし、あっさり裏切られた。この機械のことも含め、色々と応用的な学習をするらしい。署長は、休みを悪魔だと思っているのか。日本人じゃあるまいし、と思ったが、定時に帰してくれるというので渋々承諾した。
さて、この応用的な学習というのは何のことはなかった。次のターゲットを探すだけだった。出来るだけ簡単だが防止効果のある事件を探したため、結構時間がかかった。二人目、三人目ぐらい用意しておいてほしいものだ。
それでも、この機械がある程度優秀なお陰で3日で終わった。だが、休暇は生まれなかった。署長は、次のターゲット選別の手際が悪かったから、残りの時間で説明書を良く理解せよと言ってきたのだ。だったらお前がやれよと思わずにいられなかった。パズルのピースを埋めていくようにこの署長は暇な時間を埋めてくれるのだ。
そうして早くも事件当日となった。犯行直前に捕まえよとの指示があったから、日も登らない内から待ち伏せを強いられる事となった。何時間も待っているのに、眠気は全くない。背中はじっとりとしている。寒風が当たるたびにゾクっとする。準備不足と極秘任務であることが祟ったのだ。もう一人用意してくれていたらもっと楽で危険でもなかった。二人なら監視時間も死ぬ率も半分になるというのに。
「バカ署長……」
彼は寒風に向けてそっと呟いた。
時計を見ると事件発生まであと15分だった。いよいよかと思ったが、未だに犯人は見つからない。犯人の写真は受け取っているが、特徴が少ないせいで分かりにくいのだ。取り逃がして仕舞えば、もう終わりだ。あの機械には未来予知はできてもタイムマシンではない。
いよいよ焦りが増してきて、周囲をキョロキョロ見回したが、見当たらない。長針が12に近づくにつれて、背中が冷えてくる。
「さっさと来いよ! クソたれ!」
と彼はくしゃみをした後に言った。もう針は11をさそうとしている。遅刻でもしやがったかと彼は心の中で愚痴った。こんなにギリギリに来るなら、教えてくれたらよかったのに。彼は何度も何度も何度も足踏みをした。不規則なリズムで音もうるさくなってきている。
あんまりターゲットが来ないので、今度はイライラより不安を感じた。足踏みを止めて、ずっとそわそわしている。
すると、目の前を地味な服装をした男がサーっと通って言った。その男の息は荒かった。彼は男の通った瞬間を見逃さなかった。その男の顔は多分ターゲットと同じだ。なんという天佑だろうか。彼はこの機会を逃すまいと、
「おいっ、待て!」
と叫んで男を追いかけた。男はそれほど足が速くなかったから、すぐに追いついた。彼はやや乱暴に押し倒すと、銃口を押し付けて怒鳴った。すると男は、
「離せ、俺がやらないとダメなんだ!」
と喚き、暴れた。彼は、この男があんまり暴れるものだから、この場で撃ち殺してしまおうかと思ったが、流石にそれは忍びないと思った。だが、彼を説得することは不可能に近い。だから彼のとる行動は1つだった。
「すまない……」
と小さく詫びて男の急所を殴った。すぐに男はぐったりとしてしまった。
「全く、手こずらせやがって……」
彼は男に手錠をかけて、すぐに連行した。男がぐったりしているので、担ぐ事になったが、男が小柄で軽かったので苦労しなかった。
男に対する捜査はすぐに終わった。男が潔く認めた事、彼が必要以上に火器を所持していた事、機械の予知のおかげだった。もっとも、彼にとってはどうでもいい話だったが。
ともかく、任務を無事成功させたことで署長は上機嫌だった。別に昇進も賞与もない。死刑執行のように手当てすらない。あったのは飲み会だけだ。しかも、勝手に行きたくもない飲み会に行かされた上に、割り勘にされた事で、彼には嫌な気分しか残らなかった。
さて、逮捕から一定期間が過ぎたので犯人は裁判所の方へ身柄を引き渡されることになった。男は殺人未遂であるということになるだろうが、通常なら未遂で死刑になった判例はほぼないので、死刑にはならないだろう。問題は、未来予知による逮捕だった事だ。裁判所の人間は、今頃頭を抱えているだろう。
すでにネット上では色々な意見が交わされている。極端なものには、犯人を英雄視するものや出来るだけ残虐に殺せという意見があった。ただ、未来予知という要素が、ネット論客を少なからず悩ませる要素になっているようだ。それはテレビの論客たちも一緒だった。テレビをつけてみると、いつも以上にうるさく怒鳴りあっていたからだ。
3日後、犯人の男が裁判にかけられた。軍法会議並みのスピード裁判だなと彼は感じた。きっと犯人がすぐに認めたのだろう。
「で、どうなるんだろう?」
と彼は思わず呟いた。自分が捕まえたのにも関わらず、署長が証人として呼ばれる事になっているからだ。これも機械のおかげだ。面倒ごとはなるべく避けたい。
画面の中では既に検察側がウダウダ何かを言っていた。機械を使ったことによる予測、機械の信頼性の高さから殺人未遂とするには妥当である事、警察に呼び止められたにも関わらず走り出した事の問題性も指摘していた。そしてこれらを併せて終身刑を求刑していた。これを聞いて彼は胸を撫で下ろした。執行しなくてはならない可能性が0になった。
弁護側は、機械が絶対的に信用できるわけではない事、機械を使って事前に予測していたなら逮捕以外の方法も取れたはずだとして、無罪を主張した。
どちらの主張も尤もな用に聞こえた。だが、問題は陪審員がどう思うかだ。陪審員の多くが犯人を英雄視しているなら、甘い判決になるだろう。
果たして、判決は罰金と3年の懲役だった。罰金は警官の呼び止めを無視したこと。3年の懲役は殺人未遂について、未然に更生出来たこと、義憤によるものであることが認められて減刑されたのだ。
彼は欠伸をして動画サイトを閉じると、SNSを開いた。案の定、ネットは大荒れだった。
「はあ……すっかり悪口辞典になってやがる……」
と言って、彼は短く笑った。画面を見ると、
「俺が行ってあの野郎をあの世に送ってやる」
「陪審員も裁判官もポンコツだ。弁護士に至っては戦犯級だ。全員晒し上げろ。こいつらを許すな」
という犯人側を責めるコメントと、
「ジョナサンは22世紀の英雄。腐った銀行員を許すな」
「今度イリノイにできる汚職博物館には、反汚職を決行したジョナサンを讃えるコーナーを作るべきだ」
という銀行を責めるコメントがあった。と、いうよりも見た限りこの話題に関するコメントは、この二種類にしか振り分けられなかった。
こいつらがコンセンサスを結ぶなら、正義が何より正しいというコンセンサスしか得られないだろう。どっちも悪いなんていう東洋人的発想が出る余地などないのは昔からだが、少し激しい気がしないでもない。
ただ彼が犯人にも銀行にも怒らないのは興味がないからというだけだ。彼もアメリカ人だから、興味があれば一緒に半狂乱になっていたろう。
「あのクソ署長も汚職博物館に寄贈できないかな」
彼はネット記事を開き、戯けて言った。その記事には署長が表彰を受けたと書いてあった。そう、犯人逮捕の手柄は全て奪われてしまったのだ。あれだけ酷使しておいて、部下には飲み会という嫌がらせだけ。自分は勝利の美酒に酔いしれているのだ。殺意を通り越して呆れがきた。だからつまらない冗談が言える。
しばらくして、署長から連絡があった。彼はちょっと時間をおいてから端末を手に取った。
署長からの連絡を聞いて、彼は、もう嫌になった。また同じような任務を署長から任されたのだ。彼は端末を投げ捨てて、ふんずけた。もう、署長を着信拒否してしまおうかとも思った。今度はターゲット探しまでやらされるのである。
「お前がやれよ!」
彼は怒鳴った。捕まえるだけなら、まだましだが、探す作業もとなると前回以上も忙しさになることは明白だ。それで、手当も何もつかないのだから、やりたくなる訳がない。彼は、無駄に仕事をするアメリカ人は日系人くらいだと思っていたが、まさか自分もとは思っていなかった。
「ひょっとしたら、俺や署長の遺伝子に日本人かドイツ人のが混ざってたのかもな」
と彼は自嘲気味に言った。そして、そそくさと準備を済ませた。
翌日、早速空き時間を使って犯人の選別に走った。署長から、
「なるべく大きい事件を対象にしてくださいよ」
と釘をさされたからである。適当な事件で片付けてしまおうと企んでいたことがバレたようだ。と一瞬彼は思った。だが、すぐ違うと断定できた。署長にそんな洞察力があるわけがない。ジャンクフードばかり食べていたら肥るということすら見抜けなかった節穴ではないか。きっと、より名声を集めるために大きい事件を探させているのだろう。その貪欲さは中国人顔負けだ。
彼は機械にむかって、色々と必要事項を入力する単純作業を終えて、やっと本格的な選別に乗り出した。全米国民を監視……否、見守ってくれている例のコンピュータ室と連動しているから、楽なはずだと思ったが、これが以外と難しかった。先祖が、少子化対策だと言って馬鹿みたいに子作りをしたせいだ。それか難民が入ってきたせいだ。未来の犯罪者を探すだけでとても骨が折れる。
ある程度経ったところで、彼はいいことを思いついた。犯罪経歴のあるものを当たればいいのだ。きっと前科者の何割かはろくでなしだろうから、楽に見つかるはずだ。彼は口笛を吹いて、犯罪者履歴を漁った。
いざ犯罪者履歴を漁ってみたのはいいものの、これと言ったものは出てこなかった。釈放されているものの殆どが小物だったからだ。大物はみんな豚箱に閉じ込められている。あまりに見つからないので彼は、
「おかしい、ついこの前の裁判では、殺人未遂の男は軽い刑罰だったじゃないか!」
と言いかけたところで、口を塞いで、自分の顔を叩いた。うっかりしていた。この前の事件は未来予知装置を使っていたじゃないか。未来予知のせいで減刑されたところもあるのだ。第一、それ以前の事件ならば、実行直前に未遂になる事なんてほとんどないではないか。すっかり弱ってしまった。仕方なく彼は、普通に犯人を探すことにした。頬杖をつきながらであったが。
探し始めてから一週間。署長からの催促もしつこくなってきたところで、やっといい犯人が見つかった。無職の男で、15日後に汚職問題を有耶無耶にしたジョージ・フーヴァー議員を殺害している。動機は言うまでもなく、汚職を隠す卑怯者は生かしてはおけないと思ったから。であった。
議員の殺害ならば、大事だろうから署長も納得するだろう。彼は伸びをすると、椅子から飛び出して、署長の所へ行った。署長の答えは、勿論イエスだった。
早速、彼は署長と新しい任務に関して相談した。初め、署長は上機嫌だった。確かに、銀行員数人の命よりは議員一人の命を守った方が評価は高いだろう。しかし、犯人について話し始めると、態度が一変した。犯人は一人だと言ったところで、署長は机を叩いて、
「違う。三人だ。実は、密かに私も調べていたのだが、共犯者がいた。共犯者を探すのをサボったな?」
と怒鳴りつけてきた。その通り、彼は犯人一人を見つけたところで有頂天になり、共犯者を探すことを忘れていた。
そのことを正直に署長に伝えると、署長はため息ついて、何も言わずにどこかへ行ってしまった。一人残された彼はしばらく呆然としていた。
2日後、署長から突然連絡があった。犯人が多いから、動員人数を増やしてやるという事だった。さて、何人増えるだろうかと期待に胸を膨らませていたが、増えたのは一人だった。つまり二人で三人の犯罪者に向かえと言うのである。やはり、この署長は優しくなどなかった。真っ黒だ。何も楽にならない事が分かった彼は、がっくり肩を落とした。すると後ろから見知らぬ男が声をかけてきた。
「あの署長は勤労精神に満ち溢れているんじゃなくて、費用を切り詰めたいだけの守銭奴ですよ」
取りに足りない悪口であったが、彼はその一言を聴いただけで、確信した。
「君が新しい仲間だな」
[自分でも何書いてるのかわからなくなった。一応、プロット通りなんだが]
あと、あまりにも感想がないので、自分で感想書く。
伊藤ちゃん感想良い?
この小説すごく面白い❤キュンキュンしました! 署長かわいいーーー!新キャラどういう感じか気になるー!!!!!
致命的なミスをしていたので直しておく。誤解を招いてしまう恐れがある。
>>15について
誤 15日後に汚職問題を有耶無耶にしたジョージ・フーヴァー議員を殺害している。
正 15日後に、汚職問題を有耶無耶にしたジョージ・フーヴァー議員を殺害している。
あと自分で自分の作品にああいう感想書くとすごく虚しいな。
(>>16のつづき)
「あっ、そうです。ジョン・ケニーと言います。よろしく」
と言って、ケニーは彼の肩を叩いて、奥の方へ行った。彼は叩かれた肩に手を置いて、奥の方をまじまじと見ていた。
その後、何度かケニーとマッケインは私的に会うようになった。話す内容は殆どが悪口だ。ケニーも、もしかしたら署長の無茶振りに悩まされていたのかもしれないなと、マッケインは思った。だから、仕事の話も、必要最小限しかしなかった。
そして、犯行当日。二人はフーヴァー議員の乗るタクシーを待ち続けていた。それも真夜中である。また、真夜中である。
「なあケニー、こうしてみると俺たちが犯人みたいだな」
マッケインは互いの服装を見ながら言った。二人とも暗闇に紛れるように地味な服装にしているが、かえって違和感しかない。
「どっちかというと変質者……かな」
とケニーが言った。確かにこんな真夜中に路上でコソコソしている男二人組などロクなものではあるまい。
「大昔は電柱とかなんとか、隠れるものがいっぱいあったらしいぜ」
とマッケイン。
「なんで無くなったんだっけ?」
「酔っ払ったフロッギーが勢いそのまま地中に送ったのさ。景観を守るためだとよ。まあ、デモ行進が景観を覆い尽くしちゃったけどね。なんかそれで、みんな真似したんだ」
話しながら、二人は周囲を眺めた。歴史的建造物なんて存在しない。マンション、一軒家の類が所狭しと並んでいる。どこにも電気が灯っていて、目が痛くなった。
二人とも目を拭って、下を向いた。流石に地面にまで照明を埋め込むほど、人類は変態ではなかった。
二人はしばらく、何も話さずに議員の車を待った。例のポンコツが予想した通り、車外で殺されるかどうかはわからないが、現状そうするしかない。議員の乗ったタクシーを追いかけ回すなんて事は、署長から禁じられている。
日付が変わってから数時間経つが、未だに議員は現れない。二人とも手を擦り合わせながら、静かに待っていたが、限界が来てしまった。
「一体どこで呑んだくれて居やがるんだ!」
とケニーが吐き捨てた。マッケインが彼から乱暴な事を聞くのは初めてだ。マッケインは少し言葉に詰まってから、
「金塊を運ぶのに大忙しなんだろう」
とテキトウな冗談を言った。
「前回もこんなに待たされたんですか!?」
とケニーが鬼気迫る表情で言ってきた。彼は身体中を摩って、身震いしている。
「そうだよ。でも、ここまで寒くなかった」
とマッケインは白い息を吐きながら言った。
「前より、足元が賑やかになっているし」
と、今度は足元を指差して言った。前は殆ど黒だったが、今回は真っ白だ。雪もチラチラというどころか、ドカドカ降っている。2人は、早く来いと心から念じた。
願いが通じたのか、十分と経たないうちに、議員はやってきた。彼はタクシーからふらふらと降りてきた。2人は議員に近づいて、警察官であることと、議員の命が危ないことを伝えると、議員は、
「おう、こんな寒い中ご苦労さん」
と呑気な事言って、二人にカイロを手渡した。自身の命の危険など、耳にすら入っていなさそうだった。泥酔している議員にとってはどうでもいい事なのだろう。だが、二人にとっては大問題だ。なぜなら、この千鳥足の議員を安全に守らねばならないからだ。最早、ため息しか出なかった。
ただ、二人にとって幸福だったのは、犯人をいぶり出すために、この議員から距離を取らねばならなかった事だ。密着して守るよりはいくらか楽だ。
2人は、犯人が早く現れる事を願った。仕事は、短い方がいいからだ。すると、運がいい事に、待ち伏せ地点から五分ほど経ったところで、銃声が聞こえた。銃弾は頓珍漢な方向へすっ飛んで行った。下手くそである事は、一目瞭然だった。
2人は議員の前に立って、銃声が聞こえた方へ銃を構えた。暗くて良く見えなかったが、持参したライトで照らすと、3つの人影がぼんやり写った。2人は、人影を滅茶苦茶に撃ちのめした。だが、相手は用意周到であった。すぐさま停めてあった車の後ろに隠れたのだ。しかし、2人の目の前には、歩きにくいだけで、隠れるには物足りない雪しかなかった。素早く接近して撃つことも、隠れて撃つこともままならないのだ。二人とも、人生で初めて帯に短し襷に長しという言葉を噛みしめる事になった。人数も3対2。圧倒的に不利だった。
数分撃ち合ったのち、一人の男が絶叫した。野次馬たちは言葉を失った。咄嗟に、相棒の男はやられた仲間を抱きかかえた。撃たれたのは、ケニーだった。
マッケインは、抱きかかえたケニーに呼びかけた。だが、返事はなかった。血ばかりを流していた。
「おい、冗談だろ!?」
ケニーの返事はなかった。
「死んだふりだろ? 起きてくれ!」
ケニーの返事はなかった。彼が何を叫んでも、ケニーの口からは血しか出てこなかった。血を撒き散らして、ひどい死に様だった。この真白い雪がケニーの経帷子になった。
「フーヴァー議員、ケニーを頼みます」
マッケインは口元を震わせながら言った。そして、ケニーの亡骸を優しくフーヴァー議員に託そうとした。犯罪者3人はまだ撃ってくる。あくまで議員を殺るまで帰らないつもりのようだ。尚も銃弾がケニーの亡骸を貫く。だが、もう彼の銃槍から血は流れてこなかった。ただ肉が飛び散るだけだった。
「クソ野郎、ぶっ殺してやる」
とマッケインは叫んで、再び殺人者達を撃ち始めた。これが、さっきとは打って変わって、面白いように当たった。犯人が倒れるたびに、野次馬は歓声をあげる。だが、それはケニーへの鎮魂歌にはならないし、マッケインを慰める事にもならない。無数のカメラのフラッシュが犯人とマッケインを照らした。
やがて、全ての犯人が地に伏した。野次馬たちは、「フラー! フラー!」と叫んでいる。写真を取っているものもいる。マッケインは耳を塞ぎながら、犯人の車の方へ向かった。犯人たちを逮捕するためだ。しかし、犯人の多くは、無残な姿に成り果てていた。
のちに、ケニーと辛うじて生きながらえていた犯人は病院へ緊急搬送された。しかし、ケニーはすでに息絶えていた。だが、生きながらえていた一人の犯人は、助かってしまった。入院中であるから、逮捕されることはない。
[もっとケニーのエピソードを詰め込んだ方が良かったわ]
26:伊藤整一:2019/08/04(日) 01:46 翌日、マッケインは家にいた。本来は休みではないのだが、署長が、
「君はちょっと病んでいる。少し休みなさい」
と言ったからである。彼には、署長に反発する気力がなかったので、言われるがまま、帰宅したのだ。彼は、家に帰ってからというもの、ずっとベッドの上で体育すわりしている。何度も寝ようと、ベッドに入ったが、ついに眠れなかったのだ。
彼のベッドの上には地元新聞の切り抜き記事が置いてあった。昨日の銃撃戦についてだった。マッケインは、テープでくっ付けられたカーテンを見ながら、その記事を握り潰した。外には、記者たちがいるのだ。「銃撃戦に撃ち勝った勇敢なる警官」として取り上げようとしているのだ。先程、握り潰した記事にはケニーが「銃撃戦で殉死した悲劇の英雄」として祭り上げられていた。ネット上にはケニーの死体が投稿されていた。投稿者は、
「画像は警察官のケニー氏。合衆国からの汚職追放を目的とするテロリスト達と闘い、殉死された。私達は彼の勇敢さを敬い、残虐なテロリストを糾弾すべきです」
と言っていた。このコメントは多数の高評価を集めていた。誰もがこのコメントを讃え、そしてケニーやテロリストに言葉を送っていた。マッケインは、コメントを1つ1つ見ていくうちに、顔がどんどん紅くなっていった。終いには、端末を投げ捨てて頭を抱えた。昨日の銃撃戦の動画や画像を多くのユーザーが投稿していた。彼が思っていたよりも多くだった。そしてその全てが、ケニーを弔い、テロリストを攻撃するようなコメントを書いていた。だが、マッケインはこれらに憤りを……否、憤りしか感じなかった。共に闘おうだとか、尊敬するだとか言っているくせに、昨日の銃撃戦では、誰も助けに行かなかったし、誰も悲しんでいなかった。彼らは西部劇でも見るかのように喜んでいたではないか。ネットの上でだけ、神父牧師のように振る舞う彼らに憤りを感じるのは無理もないことだった。ただ、おかしいのは、彼以外に誰も「投稿者に対して」憤りを感じなかったことである。