あくまでも実験

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1:伊藤整一:2019/07/22(月) 23:56

2190年2月23日のことだった。警察官のハワード・マッケインは、久しぶりに休暇を貰ったので、一日中テレビを見て過ごそうと考えた。
彼はさっとリビングへ出ると、テレビの電源を入れた。すると、ニュース番組が出てきた。

「ニュースなんて暗くなるだけだよ……」

と彼は呟いて、チャンネルを回そうとした。しかし、その時流れたニュースのせいで、リモコンを取る手が緩んでしまった。

「アメリカの科学者ダニエル・クラーク氏のチームが未来を予知する装置の作成に成功しました……」

アナウンサーが淡々と説明をし始めた。どうやら、犯罪の未然防止に役立てる積りらしい。

「へえ、死刑執行しなくて済むなら大歓迎だけどな」

いつのまにか見入っていた彼は側の封筒を見ながら呟いた。死刑執行手当だ。こんなもので心が癒えると思っているのか。お陰でどれだけ酒を煽っても、胸が荒縄で縛られるような感情は消えない。彼はため息をついた。
しばらく画面に注目していなかったから、もうアナウンサーの説明は終わっていた。つまらなそうな先生方がつまらない討論を始めていた。奴らは、

「現実的ではない」「悪用されるに違いない」「未然防止は不可能」

と夢も希望もないことを言いやがる。こいつらは夢を叶えてしまったから、夢を見ようなんて思わないんだろうな。と彼は薄く笑った。
現実に引き戻されて、嫌になったところに、突然電話がかかってきた。胸が持ち上がった。電話の音がいつになく威圧的だ。

「はいはい、今出ますよっと」

彼は呻き声を上げながら体を起こして、ゆっくり受話器を取った。そして、すぐに取り落とした。
最悪だ。相手は上司だった。すぐに来いという事らしい。彼は椅子を蹴飛ばして、準備に取り掛かった。

27:伊藤整一:2019/08/04(日) 13:57

彼が物思いに耽っている間も、外には何人かの記者が居座っていた。しかし、日付が変わって、朝になるともう居なかった。取れ高がないと確信したのだろう。この隙をついて、マッケインは署へと向かった。署長に掛け合うためだ。

署に着くと、彼が呼ぶ間も無く署長が現れた。そして、開口一番、

「悪いが君には任務から外れてもらう」

と言われたので、

「何故ですか?」

と彼は抗議した。

「昨日、君の今後の行動について予知したのだが、よくない未来が見えた。だから、三ヶ月間は余計なことをするな、考えるな」

署長の言葉を聞いて、マッケインは落胆した。自分が邪な考えを持っていたことが、知られていたからである。つまり、未来予知を利用して、生き残った犯人をリンチすることはできない。彼はトボトボ歩いて、帰宅した。

帰宅後、彼はリビングに座り込むと、力なくリモコンを握った。未来予知が使えない以上、自力で情報を得るしかない。映ったニュース番組では、運良く入院中の犯人の情報が表示されていた。彼は、その内容を復唱するかのように呟いた。

「銃撃戦に倒れたのは、元下院議員のマーク・ギルモア氏。重症。退院後に起訴する予定で、退院は三ヶ月後。ん? 三ヶ月後?」

少し、戸惑ったが、その意義を理解した彼は、手を叩いて喜んだ。署長は三ヶ月何もするなと言った。それは三ヶ月後に彼がやらかすと分かっていたからだ。つまり、三ヶ月後彼の復讐は成功するのである。理論上は。

28:伊藤整一:2019/08/04(日) 14:32

彼は復讐できると信じて、無邪気に喜んだが、署長はそこまで甘くはなかった。署長は、次の準備をしていたのである。まず、休み明けに、彼を呼び出した。そして、隙をついて彼を気絶させると、自家用車に乗せてどこかへと連れて行ってしまった。
このまま上手くいくと思った署長は、微笑したが、運の悪い事に目的地に着く前にマッケインは起きてしまった。

「署長、何をするんですか!」

彼は署長を睨みつけながら言った。声は尖っている。

「私にもどうしたらいいか、わからないんだ……」

と署長は寂しげな声で返した。その声を聞いた彼は、小さく頷いて、大人しくした。

時間が経つにつれ、車内の揺れは小さくなっていき、やがて完全になくなった。ついた場所は、薄暗い駐車場であった。

「ついたぞ、降りろ」

署長はマッケインを車から降ろすと、目隠しをして、目的地へ連れて行った。

29:伊藤整一:2019/08/04(日) 15:54

連れていかれている間、マッケインは自動ドアの開く音や、エレベーターの音を何度か聞いた。だが、視覚情報が何もない以上、自分がどこに連れていかれているのか全くわからなかった。ただ、消毒液のような匂いをずっと感じていた。エレベーターと階段とを何度か歩いたところで署長が、

「さあ、目隠しを外してやる」

と言って、マッケインの後ろに回ると目隠しを外してくれた。目の前には古びたドアがあった。周囲は真っ白で綺麗なだけに、異様だ。ドアを開けると、今まで以上に強烈な薬の臭いがした。

「一体何を?」

マッケインは尋ねた。室内は割と清潔だった上、ベッドと椅子1つづつと、見たこともない薬が並べてあるだけの部屋だったからである。違和感しかなかった。

「先生が来るまでじっとしておくんだ。いいね?」

と署長は素っ気なく言う。マッケインが先生とは何ぞやと疑問を抱く間も無く、白衣を着た高齢の男がやってきた。白衣の老人は、マッケインに質問をさせる時間すら与えず、彼の腕に強引になにかを注射した。

30:伊藤整一:2019/08/04(日) 17:29

オッスオッス今日も自演かんそうぶんいくぞ!

わっ、新展開ですね! 楽しみ! もう目が離ないよー!!!

31:伊藤整一:2019/08/04(日) 19:31

批判コメント自演なら虚しさもないんじゃないかな?

これ、三人称のくせに視点ブレブレじゃん。何人もの人間の気持ちを直接表現すんなよボキャ貧、無能。

32:ミルク抜きカフェオ↑ーレ:2019/08/04(日) 19:53

密かに読んでました 好きです(直球)
>>26の話でケニーが撃たれた後で、メディアやSNSに対する風刺が効いてて痺れました……こういう小説はあんまり葉っぱにないので何だか新鮮です。これからも応援しています。

33:匿名 hoge:2019/08/04(日) 20:05

クソ細かいとこで悪いんだけど、未来予知システムがある22世紀の割には
一般の生活が妙に現代臭いのが気になる
地の文だけどチャンネルを回すって表現は今ですらあんま使わないので余計に気になった

34:伊藤整一:2019/08/04(日) 20:38

>>32
ご高欄ありがとうございます。感激しすぎて涙が出、出ますよ…
今後も色んなことを風刺する(全方位に喧嘩売っていく)のでよろしくぅ!

>>33
ご高欄ありがとうございます。
それはですね、作者が頭共産主義者であることと、あまりちゃんと考証しなかったせいです。今後は、できる限り、考証を行います。貴重なご意見ありがとうございました。

35:伊藤整一:2019/08/05(月) 23:13

彼は意識が遠いていく中で、必死にもがいたが、気休めにもならなかった。見る見るうちに彼は動かなくなってしまった。だが、脳は起きていた。

「君はフーヴァー氏を狙う刺客を倒しに行った時、何人だったかね?」

聞いたことのない、嗄れた声が直接彼の脳に語りかけた。声の主は白衣の老人であった。即座に彼の口が勝手に動いた。催眠術のように。

「フタリです。フタリ」

彼の唇と舌がキビキビと動いていた。

「相方は誰かな」

彼はその問いに答えなかった。ずっと歯をくいしばっていた。すると、老医師はニヤリと笑って、

「相方との初対面はいつですか」

彼は答えない。歯ぎしりの音が聞こえるようになった。

「相方とは何をしていましたか」

ギリギリという音しかしない。

「相方はどんな人でしたか」

まだギリギリ言うだけだった。

「相方はどうなりましたか」

「死んだ! 殺された!」

彼は答えると同時に、腕を振り回して暴れ始めた。狂った彼を前に老医師は顔色1つ変えず、さらに注射した。そして老医師は、

「さっきまでの話は、全て嘘です。あなたは一人で行って、一人で勝ちました」

とだけ言って、出て行ってしまった。署長は後ろめたそうに、ベッドに力無く横たわる彼をチラリとみた。だが、すぐに署長は目を逸らし、手で顔を覆って、俯いた。署長の目は死んでいた。しばらく署長は立てなかった。

36:猫又◆l2:2019/08/05(月) 23:16

こんにちは、猫又と申します。
あくまでも実験、読ませていただきました。

読んでみての感想ですが、
今の所、何とも言えない。というのが正直な感想です。
逆に言ってしまえば、現状、パーフェクトで言うことがあまり無いのです。

あえて今の時点で質問のあった3個についてコメントするのであれば
「主人公がクズなのだが、それでいいのか」
→マッケインがあの性格じゃないと風刺が効かない気がします。
ちょっと国に偏見がある感じはしますが、あっさりしてるので自分は鼻に付かなかったです。

「場面切り替えや展開に難はあるか?」
見たところ難無く場面展開できていると思います。


「風刺やジョークが不快なものになっていないか」
不快ではないのですがまだよくわからい部分も多く、何とも言えない感じです。

全体的にこれからの展開によって伏線も、意味合いも変わってくるかと思います。
とりあえず小説としてはかなりの完成度と言うことは断言できますが、
また完成した時に、よければお邪魔させてもらえたらなと考えています。

こんなコメントですが、応援してます。それでは

37:伊藤整一:2019/08/05(月) 23:35

「署長、どうしたんですか? なんですか、ここは?」

その声はマッケインのものだった。署長には、合成音声に聞こえた。署長はすぐに答えられなかったが、精一杯の笑顔を作ると、

「健康診断さ。勝手に付き合わせて悪いね。さ、戻ろう」

と言って、強引に彼を引っ張り、部屋から飛び出ると、「精神科、記憶修正室」の紙が貼られたドアから逃げた。あまり勢いがすごいから、マッケインは、

「なんで走るんですか?」

と言えなかった。署長の目が真っ赤になっていたからである。

それからというもの、マッケインはすっかり穏やかになった。だが、彼を避けるものが多くなった。突然、態度が変わったから、妙な感情を抱いてしまったのかもしれない。そして、その周囲の態度が彼を傷つけた。だが、ダメージを受けたのは彼だけではない。彼が他人に白い目で見られたり、避けられるところを見るたびに、署長は胸を鷲掴みにされるような気分になっていた。

38:伊藤整一 hoge:2019/08/06(火) 00:32

>>36
ご高覧ありがとうございます。

>現状、パーフェクトで言うことがあまり無いのです。
そんな、もったいないです!

>ちょっと国に偏見がある感じはしますが、あっさりしてるので自分は鼻に付かなかったです。
安心しました。

>不快ではないのですがまだよくわからい部分も多く、何とも言えない感じです。
まだちょっと起承転結の転に入るかどうか程度なので、今後ちょっとわかってくるようになると思います。本当は序盤の時点でバレてないか気になっていたので、ホットしてます。

完結まで、この調子を維持(できればより良く)していきたい思います。今回は、感想、ありがとうございました。

39:伊藤整一 hoge:2019/08/15(木) 00:27

だが、マッケインに降りかかる災難は、同僚から向けられる白い目だけではなかった。彼の公休日に遺族がやってきたのである。葬式へ参列しないかと言うことと、ケニーの遺品を見せに来たのだ。だが、ケニーのことなど全て忘れてしまった彼にとって、ケニーは赤の他人だ。だから、遺族たちの事をキチガイとしか思えなかった。彼は、勝手に人の家で、知りもしない人間のことを話し出す遺族を邪険に扱った。すると遺族たちは絶句して、そのまま逃げるように帰ってしまった。

すでにネット上には、ケニーの話をするものは居なくなってしまったが、署内にはケニーをよく知る人が沢山いる。マッケインは彼らをいっぺんに敵に回すことになってしまった。言うまでもなく、マッケインへの周囲の対応は悪化した。避けるだけに収まらなくなった。陰口に始まり、彼に対する直接的な攻撃も行われるようになった。今までは、「ちょっと危ないけど友人思いなやつ」という評価だったのが、あっという間に「人の死を何とも思っていない冷血漢」というものに変わってしまった。

署長は、マッケインが嫌がらせにあっていることを少なからず耳にはしていたが、種明かしをしようとはしなかった。ただ、マッケインのことを申し訳なさそうな目で、チラッと見るだけであった。マッケインへの周囲の当たりが強くなるにつれて、署長は彼と目が合うたびに目をそらし、挨拶に応えることもしなくなった。

ある日、マッケインは、余りにも「ケニー」の名を聞くので、調べてみることにした。だが、遺族の発言はキチガイの妄言くらいにしか思っていなかったから、ほとんど覚えていない。周りから言われたことも、はっきりしないものばかりだった。だから、「ケニー」という名字しか当てにならなかった。

彼は早速、SNSを使って調べようとしたが、よくわからない「ケニー」という名字の芸能人の話ばかりだった。念のためにその芸能人を調べてみたが、死んだという話はなかった。今度は、キーワードを変えて調べてみたが、ページが残っていなかったり、訳のわからない口論や主張で埋め尽くされていた。ニュースサイトのアカウントならちゃんとした記録を残しているだろうと思ったが、他の投稿に埋もれていて発見できなかった。何も情報を得れなかったので、彼は端末の電源を切って、仮眠をとることにした。

40:Formidable:2019/08/17(土) 18:58

伏線回収できる気がしない……

41:Dreadnought:2019/08/19(月) 23:32

(´・ω・`) 実は書き溜めてた分を誤作動で消してしまったんじゃ。現実はうんこじゃのう。

42:新見川すみれ◆96:2019/08/19(月) 23:45

ハイ、この伊藤整一様の「あくまでも実験」を拝見させて頂いたので、早速感想を言いたいと思いますが....

今のところ、完璧過ぎて特に突っ込めるところがない....というのが本音でごぜぇやす!

主人公であるハワードだけではなく、その他の登場人物も設定や地盤がキチンとしているので、読み進めていて疑問に思うところが特に見当たりません!無駄に小煩い設定厨の私も驚くレベルのクオリティで、語彙がないんで上手く言葉で尊敬の意思を表現出来ませんが、本当に尊敬します!個人的に私は社会風刺モノやブラックジョークモノ、皮肉モノが大好きなのでよくソレ関係の小説を読ませて頂いてるのですが、今まで沢山見てきた同ジャンルの小説の中でも最高レベルに位置する文章力、引き込み力、ッス....
フィクションなのに妙なリアル感を彷彿とさせる表現力からしても、「現実風刺」というジャンルなのに偶に未来的な要素が入ってきても違和感を感じさせない組み立て力からしても、登場人物達の魅力を最大限まで引き出す応用力からしても、小説のお手本として博物館に提示したいくらいッス!

あえて言わせて貰うとすれば、理詰めっぽい、癖の強い文章の書き方ではあると思うんですけど....皮肉のスパイスが良い具合に効いているので、全然読んでいても気になりません!

私の感想はこのくらいです。今のところ言えるのは、「非常に完成度の高い小説である」。という事だけですね。ですが、今後の展開によって評価もまた変わると思いますので、またお邪魔させて貰うことになるかもしれません。

批評コメントでのスペース感謝します、それでは失礼。

43:Dreadnought:2019/08/19(月) 23:51

マッケインがケニーについて調べていることを知った署長は、事の真相を知られては困ると思い、非番の日に彼を呼び出した。マッケインは、表情こそ固かったが、武者震いして、駆け足で署長の元へ向かった。彼が挨拶すると、署長は無言で敬礼し、椅子に座ることを進めた。マッケインは、出された椅子に浅く腰掛けた。

「君は最近、ケニーという人物について、調べているね?」

と署長は尋ねた。彼ははっきりと、返事をした。彼の返事には、熱がこもっていた。署長は、彼の勢いがすごいので、何かを不安に思ったか、手汗が止まらないようだった。

「そうか。では、ケニーについて教えようか……」

署長の声は低く、ゆっくりだった。署長は、マッケインから目線をそらして、ケニーのことを説明し始めた。

「ケニーは、君と同じ、この署の警察官だったが、ある日の銃撃戦で死んだ。その銃撃戦は犯人も警官も多く、その中で彼は活躍した……だから、皆はそれを知らない君をバカにするのさ」

言い終えると、署長は彼の肩を強く叩いて、

「ま、気にするな。そのうち良くなる」

と言うと、彼を退出させた。マッケインは、どうも腑に落ちないという表情で、頭を書きながら元の場所へと戻っていった。

44:匿名:2019/08/20(火) 22:15

>>42
ありがとうございます。詳しい返信は、申し訳ありませんが後で書きます

45:Invincible:2019/08/25(日) 19:36

>>42
ちゃんと風刺になってるか心配だったので、そう言っていただけて、安心です。
ありがとうございました。

46:Invincible:2019/08/25(日) 21:05

マッケインがどうしても納得できなかった事とは、ケニーという関係のない人物のことで、自分が非難されているということだ。関係ない人のことで、執拗に攻撃するなんて、いくらなんでも短気すぎるだろう。時間が経つにつれて、その疑問は彼の脳内で膨らんでいった。

そして、ある日、ついに疑問を溜め込んでいることに堪え兼ねた彼は、署長に尋ねることにした。すると、署長は顔を蒼くして、少し頭を抱えた後に、端末をいじり始めた。署長は、「よし……あったあった」と言うと、表示されたページをマッケインに見せた。そのページには、

『携帯端末が原因か。脳過労の増加』

と書いてあった。日付は数ヶ月前のものだった。だが、マッケインは最新の記事だと思っていた。

「つまり、脳過労の増加によって、感情を抑える機能が弱まる。だからみんな、君へ過剰に怒っている……」

と署長が落ち着いた様子で言った。マッケインは一度深く頷いたが、すぐに顎に手を当てた。周囲の対応が過剰であることについては、合点が行った。しかし、彼らが感情が抑えられないなら、なぜ自分は強い感情を抱くことがないのかという疑問が生じたからである。だが、二つ目の疑問が解消されることはなかった。

47:Invincible:2019/08/26(月) 00:42

時間の流れとは非情なもので、彼の疑問に答えてくれる者が異動となってしまったのだ。それは、署長であった。任期満了による異動であった。署長は、延長を要請したが、一署長の言い分など到底認められるわけがなく、後任のアーネスト・ハウとの交代が決められた。そのため、署長は引き継ぎの際に、後任の目を見つめ、やや険しい表情で署内のややこしい事情を説明した。後任が署内の事情を把握し、うまくまとめることを期待したのである。しかし、肝心の後任は表情こそ真剣そのものでメモもとっていたが、引き継ぎが終わると、悪い冗談だと言って、せせら嗤っていた。

そして、信任のハウ署長は、署内の特別な事情のメモのうち、未来予知のメモ以外は、破り、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。

ハウ署長は早速、未来予知装置を積極的に活用することを決めた。そして、彼は未来予知装置を用いた捜査の経験がある警察官を探した。経験者にやらせた方が、遥かに確実だからである。そして彼は、ある一人の警察官に目を止めた。彼はこの捜査を二度も経験した大ベテランであったのだ。署長は即座に、メモ帳に「ハワード・マッケイン」と記した。

48:Invincible:2019/08/26(月) 22:52

ハウ署長は、着任して間もないうちから、未来予知捜査を行うことを決定した。これは、彼がせっかちであることと、自己の功績を求めた事による判断である。さらに、彼はできるだけ大きな事件を捜査させようと思った。また、現場の人間に事件まで選ばせるときっと楽な方に走るだろうと思ったのか、自分で事件を探した。しかしながら、ハウ署長は前任者から説明を受けたとはいえ、素人である。事件の選び方も杜撰なものであった。事件の規模と犯行人数、被害者数、場所、時間などの基本的な事項の調べ方は理解していたが、より踏み込んだ事項については調べ方を知らなかった。早速彼は説明書を引っ張り出したが、辞書のような分厚さと読みにくさからさっさと閉じて放り投げる。こんなものを読んでいたら先を越されると思ったのだろうか。彼はやむなくできる範囲で機械を操作することにした。

そして、一時間ほど経ったときであった。彼は突然手を叩いて歓声を上げた。他の事件とは比較にならない大事件を発見したのだ。被害者数は2名死亡、負傷者多数。犯行人数も多数、事件発生までそれほど日数もなく、発生場所も近くの病院であり、問題ない。まさに最良の事件であった。

そして、捜査にはマッケインが当てられた。ハウ署長は前任者から、マッケインは精神的ダメージを負っているからなるべく選ばないように忠告されていたが、冗談にしか聞こえなかったので無視した。
尤も、ハウ署長が忠告を無視した理由は、「忠告を悪い冗談だと感じたから」だけではない。他の警察官はケニーのことを殆ど覚えていないから、マッケインも思い出すことはないだろうと判断したという事も理由の一つだ。署長が、他の者はケニーのことを忘れたと判断した根拠は、周囲のマッケインへの攻撃が止んだことである。マッケインへの攻撃が止んだ本当の理由は、興味の対象が「ケニーの死」から「政府の緊急発表」へと変わったからなのだが。

早速、ハウ署長はマッケインを呼び出した。ハウ署長は、マッケインが来るや否や、早口で説明を始めた。マッケインは、もう三ヶ月以上も前に一度経験しただけだから、最近経験した者に回した方がいいと言ったが、そんなことは無視された。仕方なく、彼は捜査を承ったが、事件発生日を言ったところで、やや表情を曇らせた。ハウ署長は、この微妙な表情の変化を見逃さなかった。

「何か不服か?」

と問い詰めるように言った。

「いいえ。ただその日は政府の緊急発表の日ですから、万が一があればと思っただけです。すみません」

とマッケインが頭を下げると、

「お前にとっては数日後の事件よりも大昔のミサイルの方が大事なのか。そんなものは端末で見ればいいだろう。……呆れた」

と、ハウ署長はマッケインを睨みつけ、嫌味ったらしく言った。彼のマッケインへの評価は落ちたが、それでも時間がかかるから担当者を変えようとは考えなかった。

49:Invincible:2019/08/27(火) 07:36

なんか気持ち悪い構成になってるなあ

50:Invincible:2019/08/29(木) 20:17

事件当日、マッケインは、端末に政府発表のライブ動画のページを表示させると、イヤホンを両耳に入れて、動画を再生した。そして、端末をポケットに入れた。今から担当している犯行時間も場所もわかっているのだから、病院前でベンチにでも腰掛けてゆったり聞いても良いのだが、せっかちなハウ署長が、現行犯逮捕に見せかけてほしいと言ってきたので、あくまで巡回として動いているということになっている。

いつも通り、巡回をこなしていくうちに、病院がうっすら見えるようになった。時間も、丁度いいぐらいになっている。だが、マッケインは足を早める。病院での大事件の防止を任されているため、不安が隠せないのだ。少しでもタイミングを逃せばどうしようもなくなってしまう。もうすぐ本番なのだと思うと、体が硬直して、手慣れたはずの巡回も少し手間取るようになってしまった。

病院が目の前に見えるようになったところで、マッケインはイヤホンをさらに押し込んだ。先ほどまで、結論に関係のない事か、専門的すぎる内容ばかりだった政府発表が、核心をついた内容になったからだ。耳に少し力が入る。ここを聞き逃しては損をすると思ったのだ。すぐに、政府の高官が話し始めた。騒いでいた記者たちは一人残らず静かになり、張り詰めた空気が立ち込めた。

「それでは、第三次太平洋戦争において、合衆国本土上空で撃墜されたミサイルの詳細とその影響ついて発表します」

と高官が一言言っただけで、シャッター音が沢山鳴った。一度は静まり返ってた会場も、再び喧騒に包まれた。

「k国から発射されたミサイルには核弾頭は搭載されておりませんでした。よって、放射能汚染の可能性はありません……しかし」

今度は静寂に包まれた。核弾頭は搭載されていないと聞いて、記者たちは一瞬、歓喜に沸いた。だが、「しかし」という不穏な単語を聞いて、話すことはおろか、呼吸すら止めた。誰もが早く続きを言うことを望んだ。しかし、高官はもったいぶって、すぐに話そうとしない。

「おい! 早くいえよ!」

記者たちと同じく、興奮と不安に脳内を締められていたマッケインも、ポケット内の端末に向かって怒鳴った。すると、怒りが通じたのか、強く息を吸う音が聞こえた。すかさずマッケインはイヤホンに手を当てた。その時だった。突然、向かいから走ってきた男にぶつかられたのだ。イヤホンが耳から抜け、マッケインは転倒した。相手の男は、振り向いて、マッケインを睨み付けると、

「邪魔だ! 馬鹿野郎!」

と怒鳴り散らした。相手の剣幕はすごかったが、マッケインは怯まず、ただじっと相手の顔を見ていた。

51:Invincible:2019/08/30(金) 21:22

どうもその男の顔を見ていると、不思議にムカムカしてくる。そして、初めて会うはずなのに、どこか見覚えがあるからである。だが、転んで頭がぼんやりしているのと、近くではっきりと顔を見れないせいで、よくわからないでいた。
余りにもマッケインがジロジロと見てくるので、相手の男は首を傾げて、マッケインに顔を近づけた。すると、突然、呻き声あげ、顔を蒼白にして、冷や汗を垂らし、脱兎のごとくあちらの方へ駆け出した。その時、マッケインはゆっくりと立ち上がり、警棒を片手に握りしめた。そして、彼は眉間に皺を寄せ、男を凝視した。彼の脳内の、書き換えられていた記憶が元に戻ったのである。

男の足は、長い入院のせいか遅く、すぐに追いつくことができた。そして、マッケインは、男の後頭部に警棒を振り下ろす。男は悶絶し、頭を抱えて、這いつくばった。それでもマッケインは容赦せず警棒で何度も殴りつける。殴られるたびに、男は悲鳴を上げていたが、それもどんどん弱々しくなっていった。

「警官が民間人を殺そうとしているぞ!」

野次馬の一人が叫ぶ。すぐに、端末を片手に歩いていた通行人たちが一斉にマッケイン達の方をみた。そして、端末のカメラを一斉にマッケインたちの方へ向けた。しかし、マッケインは全く気にする素振りを見せず警棒を振り下ろし続けた。狙いは男の手である。男は、頭を手で覆って、必死に守っている。だから手を叩き潰して頭を直接殴ろうとしているのだ。二、三度殴りつけると、男の手は真っ赤に腫れ上がった。さらに何度か叩きつけると、鈍い音と共に男が悲鳴を上げ、手を頭から離した。このすきに、マッケインは無防備になった後頭部を、警棒が凹みそうになる程、殴りつけた。そして、男が一際大きい悲鳴を上げたところで、男は動かなくなった。マッケインは血まみれになった警棒を投げ捨てて、目を瞑った。殺された友人の為に黙祷を捧げたのだ。だが、それは長くは続かなかった。マッケインは突然殴られ、地面に打ち付けられることになったからである。マッケインを殴りつけたのは、警察官でも保安官でもなかった。どこにでもいそうな、一般人であった。彼らはマッケインを口々に罵り、リンチした。

マッケインの意識が遠のく中、政府発表をしていた高官は、一通りの発表をリピートしていた。

「……よって放射能汚染の可能性はありません。しかし……K国の開発したものと思われるウイルスが搭載されており、合衆国本土に散布されました。そのウイルスは、呼吸することにより、体内に入ると、すぐに脳内に至り、大脳辺縁系を活発化させることがわかっております。これは、人の感情、特に怒りの感情を増幅させる効果があります。また、21世紀より問題になっている脳過労の影響もあり、ウイルス本来の増幅効果以上の効果が出ていることが判明しました。今後も脳過労が進む場合は、全ての国民が感情に振り回されることになる事と思われます……」

52:Invincible:2019/08/30(金) 21:23

完。

この後、後書き的なものがあります

53:Invincible:2019/08/30(金) 21:29

後書きです。多分つまんないんで飛ばしてください。

本作は、元々ふつうのSF作品にする予定でした。未来予知装置が完成し、最初は犯罪防止に役立っても、次第に悪用される。というストーリーです。話も長編です。
ですが、後々になって、同じような作品があったような気がしたので、大幅に作風を変えることにしました。その結果が本作です。本作をご覧になって、色々考えてくださればと思います。

余談ですが、初期案から配役が変わっていないのは、主人公とケニー、初代署長、ダニエル博士だけです。また、ケニーはもっと長生きする予定でした。


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