どうもこんばんはぜんざいです。
私、思ったのです。書きたい作品が多すぎて、その分だけスレを作ると数がとんでもないことになるからどうしようと、完全に無駄だぜ? と。そして答えがこうなりました。
もういっそ全部引っくるめて自由に書いてしまえと(
終着点がここなのです。
なので、とにかくひたすらジャンルバラバラの夢小説書きます。
コメント及び感想待ちます! 小説投稿はやめてほしいんだぜ?(⊂=ω'; )
まあ簡単に言うと、私の落書きのようなものなので、他の人は感想だけということになりますね。うわあ上から目線だぁ! 恐らくコメントには感涙します、めっちゃなつきます。ビビります。
ジャンルは大まかに言えば、wt、tnpr、妖はじ、turb、krk、FT、中の人、FA、mhaです。
これからも増えるだろうと思われる模様。
2ch的なものも出てくると予想されます。
これまでの上記で『2chやだ!』「作品がやだ!」「ぜんざいがやだ!」言うからは目がつぶれないうちにご帰宅or gohome(΅΄ω΄→ ハヤク!
2ch系では顔文字や「wwww」表現が出るかと思われます。嫌な方はブラウザバック!
それでは、そしてーかーがやーくウルトラソheeeeeeeey((
文的にうるさくてすいません。
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翌日、結局雲雀くんはそのあと見掛けなかった。負けるなんてあり得ないと思うけど、万が一もあるかもしれん。
『……大丈夫やろか』
そんなことを考えながら帰る帰路。
Noside
沢田たちが黒曜に突入に突入して、ツインズから笹川京子、三浦ハルを無事解放させ、沢田が敵方のバーズを殴ったあとの事だった。
「ふふふ……今回は特別にもう一人ゲストがいるのですよ……!」
「なっ」
沢田たちに衝撃が走る。もう一人など心当たりがまったくない。流石のリボーンにも焦りの表情が伺えた。
いったい誰なんだとみんながスクリーンを食い入る様に見つめる。パッ、とスクリーンに現れた人物に、全員が目を見開いた。
「なっ! 伊達さん!」
「……なんで伊達が、ディーノがキレるぞ」
「ほっほっほ! 彼女はどうやら雲雀恭弥の……いえ、これは野暮ですねェ。とりあえず、彼女も六道さんの指名でしてね」
そこに映っていたのは呑気にふらふら歩くいおりの後ろに硫酸を持ちながら少しずつ近づいていくツインズそっくりの男だった。
「伊達先輩じゃねぇか!」
「きたねぇぞ!」
リボーンもこれを予想しておらず、誰も助けにいかせていないのだと言う。あからさまにヤバい状況に沢田の顔に冷や汗が浮かんだ。
だが。運悪くいおりは買い物の用事を思いだし、踵を返した。と言うよりなにかに気づいて振り向いた。
そこには自分に硫酸をかけようとしている一人の大きな男が。
<っうおおおおおおぅ!?>
女子とは思えない雄叫びをあげたいおりはそのあと、殴って、蹴って、突いて、足で薙いだ。そしてズドンと鳩尾に思いきり拳を突き入れる。吹き飛んで気を失った男に『やっべ、やってもた』といおりは相変わらずハイライトの無い死んだ目のまま口はそう言い足は男を転がす。
「足で転がしたーーーー!?」
「か、彼はツインズより凶悪なのに……!?」
「あっ! 伊達さんは並中強さランキング第2位だったーー!」
いおりは男の持っていた硫酸の入った瓶を見て『物騒やな』と瓶を踏み潰した。
そのあと制服を見て、風紀委員の言うとった黒曜生……やっぱ黒曜ヘルシーセンターか。と呟いて早足に家へと向かったことは、誰も知らない。
.
こっちはディーノくん……いや、前々から兄貴って呼べとか言われてたから兄貴でいっか。兄貴にもらったセグウェイをかっ飛ばして黒曜ヘルシーセンターへやって来た。風くんに「怪我しないでくださいね!? 無茶は禁物ですよ! 絶対ですよ!」とめちゃくちゃ心配されながら来た。
いやぁビビったビビった、夏休みもセグウェイ乗り回してたけど、エンジン着いとるとは。通りで重いわけだ。ちなみに時速30キロで飛ばしてきた。流石に60キロも70キロも飛ばしたらヘルメットいるやん? 30キロもたいして変わらんようにメットつけなあかん気ぃするけど。兄貴特有の手の入れ方である。
背中に棍棒がちゃんと有ることを確認してセグウェイを見つからない、そして壊されないところへ隠すように置き、ぼろぼろの黒曜センターへと駆け出した。
黒曜センターに足を踏み入れ、爆発音が鼓膜を震わせる。やはり誰かが戦っていたか。爆発音のするところへ向かった。
見えた光景は壁に寄り掛かる獄寺が壁から出てきた手に心臓部を突かれているもの。……めんどくさっ、来んかったらよかった。
とりあえずそれはヤバいだろうと白い帽子を被る眼鏡のバーコード少年の頭を棍で叩き付け、獄寺スレスレに手を突き刺している男の顔を思いっきり突く。
「っぐ」
「ぎゃっ!?」
「うおお!?」
驚いて倒れかける獄寺をガシッと支えて『大丈夫か』と声をかければ、「伊達かよ……」と傷口を押さえながら息もたえだえにこっちを見た。
.
「ってえ! なんだこの女!」
「……援軍みたいだね」
相手の黒曜生二人が棒を構えるこっちを睨む。獄寺は後ろのカーテンに持たれ、階段で足を滑らせて落ちてった。え、ちょま。
『うおっ』
「ぐっ」
獄寺を支えていたこっちも巻き込まれて落下する。相手が「ぶっざまー」とか言ってるけど知らん。『大丈夫か獄寺くん』と獄寺に声を掛けてみるも返事はない。体が動かん見たいや。えー、これ二人もこっち相手すんの? えー。
どこからともなくやって来た黄色い小鳥が「ヤラレタヤラレタ」と蔑笑する。そして校歌を歌い出した。これにはこっちもびっくりして鳥を振り返った。その奥にはもう一部屋ありそうで、誰か居そうで。気づいたときには獄寺がそこへボムを投げていた。待ってボム? ボム? 法律違反じゃね? あ、マフィアでした(遠い目)
ガラガラと崩れた壁の奥から出てきたのは、雲雀くん。……雲雀くん、つかまっとったんか……。
「元気そうじゃねーか」
「ヒャハハハ! もしかしてそこの死に損ないが助っ人かー!?」
雲雀くんはヨロ、としながら立ち上がり、「自分で出れたけど、まあいいや」と呟き、こっちを見て目を見開き、微かに微笑む。なんで微笑んだん、微笑むとこちゃうここ。
「……じゃあ、そこのザコ二匹はいただくよ」
「好きにしやがれ」
すると相手が「死に損ないがなにいってんの?」といきなり身形を変えた。ライオンチャンネル! とか怒鳴っておりますが厨二ですかそうなんですねわかります。いや、やっぱ分からん。
そしてその男子をトンファーで瞬殺した雲雀くんすごい。そのあと直ぐに白い帽子の彼を薙ぎ倒した。やぱすご。
「……う」
『重っ』
その後ふらふらと此方に寄ってきてこっちの背中にばたりと倒れた。「背負って」え、何? 背負って? しゃーないな。背負ってあげるよしゃーないな!
『よっ』
雲雀くんを背負って獄寺を脇に抱えて歩き出す。うん、重い。つか雲雀くんの腕の巻き付く力が強すぎて首絞まる絞まる。死ぬ死ぬ。
『ひ、雲雀くん絞まっとる絞まっとる首首』
「……」
無視かばかやろー!
.
雲雀くんに言われるがまま奥に進めば大量の毒蛇に絡まれる沢田が「ひいい! やめて! 助けて!」と喚いていた。雲雀くんはそれに同情するでもなくこっちの肩から身を乗り出してトンファーをぶん投げた。うおお、ば、バランスが……!
直後脇に抱えている獄寺が「伏せてください10代目!」と怒鳴って爆発物をぶん投げた。だから! バランスが! 崩れる!
「ヒバリさん! 獄寺くん! ……え、伊達さん!?」
沢田が雲雀くんをおぶり獄寺を脇に抱えて平然としているこっちを見て「どうなってんのおおお!?」と驚愕の声をあげる。そして沢田は途端に泣きそうになり「さ、三人とも……!」と呟いた。なぜか居るリボーンをちらりと見れば少し驚いているようだったが「俺はツナだけを育ててる訳じゃねーんだぞ」とドヤ顔した。待て、お前に育てられた覚えはない。風くんにはある。
雲雀くんはこっちから飛び降りて脇に抱えている獄寺を後ろから蹴り飛ばした。「いてっ」て獄寺くんが声をあげた。え、え。
「……借りは返したよ」
『……(……雲雀くん酷い)』
なんとも言えない顔をして獄寺を見ていたからか、目は口ほどにものを言うと言うからか「うるさい」と一蹴されてしまった。ん、ごめんなさい。
「これはこれは、外野がぞろぞろと。千種は何をして居るんですかね」
「へへ。メガネヤローならアニマルヤローと下の階で仲良く伸びてるぜ」
突き飛ばされた獄寺くんが得意気に言った。いやいやそれやったん雲雀くんやで。
**
まあそのあとなんやかんやあって雲雀くんが敵、六道骸と戦って勝ったかと思えば六道が自殺して、自殺したかと思えば生き返ってみんなを襲ってキレた沢田くんが六道骸を殴り飛ばして、勝って、六道骸たちが復讐者なるものに連れていかれて、医療班来て、解決。その一部始終を傍観していました伊達です。医療班には『あ、こっちは大丈夫なんで』と断った。セグウェイほったらかしにはできへんやろ。
『ただいまー』
「おかえりなさいいおりさん! !? ボロボロじゃないですか!」
『大丈夫、服だけや』
「……まったく、何をして来たのやら」
とりあえず風くんに『リボーンが、』とだけ発してみれば笑いたくなるぐらい肩を跳ねさせた。あ、やっぱり。
「ど、どこでそれを?」
『今日の戦いで、味方として居ったよ。まあ、夏祭りの時とか、去年ぐらいに一回交流があっただけや』
「ば、バラさないでくださいね……!」
『ん。風くんがそういうんやったら。いやあ、風くんに見つかりたくなくて尚且つ探し終えた人がリボーンやったとは』
「……すみません」
『怒ってへんよおおおお!』
がばっと抱き上げれば「わっ、わっ」と照れた声が耳元から聞こえてくる。
『ん¨ん¨ん¨ん¨ん¨っ! 風くんかわえぇぇぇ……』
「……(照汗)」
.
それからしばらく。昨日の日曜日の商店街の爆発事故、原因不明とか怖すぎる。とりあえず今日は学校があるので朝刊を取りにポストを覗くと……手紙と共になんかゴツい変な形した半分の指輪が入ってました。……なにこれ。あわてて家に戻って風くんに指輪を見せる。
『……風くん、これなんやと思う?』
「……これは」
真剣な顔して指輪を見つめた風くんは「……ボンゴレリング、ですね」と呟いた。手紙を見てみれば確かにこれはボンゴレリングと書いており、『夕焼のリング』と言うらしい。……夕焼ってあれ? 夕方の赤い空?
手紙には『10日後にこれを取り合う戦いをするから鍛練しといてほしい』と書かれている。え、なにこれ勝手。でも風くん知ってるっぽいし、聞いてみるか。
『風くん、ボンゴレリングってなに?』
「……ボンゴレリングとは、イタリアンマフィア、ボンゴレファミリーに伝わる伝統的な証です。初代ボンゴレファミリーの中核だった七人がボンゴレファミリーである証として後世に残したもの。そしてファミリーは代々必ず八人の中心メンバーが八つのリングを受け継ぐ掟なのです。……後継者の証ですね」
『え』
「初代ボンゴレメンバーは個性豊かなメンバーで、その特徴がリングにも刻まれています。
初代ボスは全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空だったと言われている、故にボスとなる人物のリングは『大空のリング』
そして守護者となる部下たちは大空を染め上げる天候になぞらえられました。雨のリング、嵐のリング、雲のリング、霧のリング、晴のリング、雷のリング……そして、夕焼のリング」
『……もしかしなくても、それの一人に選ばれてもーたかもしれん系?』
「……そうですね」
『……非現実的や……』
まあ、任されたからにはやらんとな。
『風くん、指導頼むわ』
「はい。怪我をしないよう力をつけていただきますからね」
『ん』
いやあ。リングがいわくつきとか相手と殺し合いするかもとか書いてある手紙は燃やしちゃえ!
ライターで手紙を燃やしながらこっちはまず学校に行くべく、棍を持って『いてきまーす』とおどけて告げる。風くんは笑って「いってらっしゃい」と送り出してくれた。本当に赤ちゃんなのかあいつは。
久々に持っていく棍にテンションが上がりつつ風くんの包容力に負けそうになった今日の朝でした。
.
学校にて。雲雀くんに呼ばれて応接室でお茶飲みながらカップのアイス食べてたら雲雀くんが日誌見ながらこっちの指輪にそっくりなものを指先でいじり出した。
『……雲雀くんもそれ貰ったんやな』
「そう。伊達、君もかい」
『ん』
食べ終わったアイスのカップをゴミ箱に放り投げ、冷えた口に茶を流し込む。そこでいきなり応接室の扉が開いた。入ってきたのは部下のロマーリオさんを連れた兄貴でした。よぉーし、無視無視ー。
「お前が雲雀恭弥……だ、な……?」
「……誰……」
「いやわりいちょっと待ってくれなんでいおりがここに居るんだ」
ディーノから全力で顔を背けながら俄関せずと言ったように茶をすする。
もおおお、無視してたのになんで声掛けるかなもおおお! 雲雀くん待たされるのめっちゃ嫌なんだよほら超不機嫌顔じゃんもおおおおおおお!
「なに、伊達の知り合いなの」
『……や、まったく知らん人や』
「……へえ。向こうはそうでもないみたいだけど」
『(消えろクソ兄貴)』
苛々しながら片足だけ貧乏揺すりをし出す。ディーノくんは涙目になりながら意図を察し口を開く。後ろのロマーリオさんが苦笑いしてますが大丈夫ですか。
「俺はツナの兄貴分でリボーンの知人、でもってそこの伊達いおりの親戚だ」
『おい余計なこと言わんでエエッちゅーの。へなちょこディーノ。クソ兄貴。ヘタレ』
「……ひでえ。まあ、今日ここに来たのは、雲の刻印のついた指輪の話がしたい」
「……ふーん、赤ん坊の。で、伊達の親戚か。伊達は後でなんで嘘ついたのか咬み殺すからね。
なら強いんでしょ、……ヘタレさん?」
「っ!?」
「僕は指輪の話なんてどーでもいいよ。あなたを咬み殺せれば……」
ディーノくんは甚大な精神への攻撃を受けてしょぼくれながらも「なるほど問題児か」とにやりと笑う。
「いいだろう、その方が話が早い」
その言葉と共に両者エモノを構えた。こっちはそそくさと家に帰って風くんと修業した。
.
そして数日、最近雲雀くんと兄貴見ーひんなー、なんて思い今日学校行ったらいたので何してたんだろうとか思いながら家で寛いでたら、なんかいきなり家にピンクの髪をした覆面の女の人が二人来て「今日は夕焼のリング戦です。今晩11時に並盛中学中庭にお越しください」と告げられた。もちろんこっちはそれを断るでもなく『うぇっす』と敬礼で返した。なんか変なものを見る目で見られた気が……。
奥に隠れていた風くんが曲がり角からひょこりと顔を覗かせ、「行きましたか?」と聞いてきた。
『おん、行った』
「ふう」
今の時期本当に会いたくないらしく彼はマフィア間と関わることを頑なに拒む。まあそれも理由が有るからなんだろうけどさ。
『……一時間前に言いに来んでもええやん……』
「開始まであと一時間ですね……」
『ちょっと着替えてくるな。……風くんは見に来るん?』
「……そうですね、見つからないように、遠目から」
『見てくれるだけ有難いわ』
ちなみに言うと、こっちは雲雀くん以外の守護者を知らない。風くんも知らないから知ってないのは当然である。
玄関を出て、セグウェイに乗りながら玄関で見送ってくれる風くんに告げた。
『いってきます』
「……いってらっしゃいです」
こっちは肩に棍の入った袋を引っ提げ、セグウェイのエンジンをつけて動き出した。
**
一方、既に学校で待機していた沢田綱吉たちが夕焼の守護者に対して口々に言葉を垂れていた。
「リボーン! 夕焼の守護者、なんやかんやでまだ教えてもらって無いんだけど!!」
「まあ待て。驚きそうな奴が来るぞ」
「だから誰なんだよおおおお!」
頭を抱える沢田を気にしつつ獄寺は「夕焼の奴に家庭教師はついてるんですか?」とリボーンに問うた。リボーンは若干眉をしかめる。相変わらず相棒である鷹のファルコに掴んでもらって浮いている青色のおしゃぶりを持つアルコバレーノ、コロネロは「俺も夕焼の守護者の家庭教師は知らねぇぞ、コラ」と口を開いた。コロネロはどうやら夕焼の守護者を知っているようである。
リボーンは珍しく難しい顔をしながら「家庭教師は付けられてねぇ」と呟く。それには山本や笹川ですら目を見開き、沢田が叫ぶ。
「家庭教師が付けられてねぇってどういうことだよ!?」
「……単純に人手不足だ。それに、ソイツに教えられるだけの実力を持ったやつを見つけられなかったんだ。こればっかりはしゃーねえ、文句は家光に言え。アイツでもいりゃ安心だったんだがな」
「んなーーーー!?」
沢田はリボーンの最後の言葉を聞き取る余裕はなく再び頭を抱えた。それを宥める山本、獄寺。笹川は極限に意味がわからんぞー! と叫んでいる。
この時リボーンの脳裏に浮かんでいたのは出会ってから揉め事をしたことのない気の合う赤色のおしゃぶりを守護するアルコバレーノ、風の姿だった。コロネロも彼がこの場に居ないことを惜しむ。風は無敵の格闘家だ、大きな大会でも連続優勝している。この場にいれば大変頼りになったであろう。
その時、校門の方からゴーと言う地面をなにかで滑る音が聞こえてきた。そして校門から顔を覗かせたのは。
『……あれ、沢田くんやん』
相変わらず死んだ魚の様な目に眼鏡を掛ける無表情な伊達いおりだった。
.
「伊達さん!? ま、まさかヒバリさんに言われて巡回とかーー!?」
『え、え』
「あの女、ヒバリと一緒にいることが多いからきっとそうっすよ!」
「待てってツナ、獄寺。決めつけはあんま良くないのな」
怯える沢田、威嚇してくる獄寺をまあまあと穏やかに宥める山本。現在進行形で笹川は「極限に伊達だなーーー!」とか叫んでるけど知らない見えない聞こえない。こちらの喧しさに相手の黒ずくめの方々も若干引いているような雰囲気をかもし出している。違うこっちはまだなにもしとらん。呆れるようにリボーンを見やればそのとなりに鷹につかんでもらって浮いてるバンダナの赤ん坊発見。おしゃぶりは水色である。え、誰。
『リボーン、これはどない言うことなん、なんで沢田らが居るん』
「そこのダメツナが大空のリング所持者だからだ」
『エッマジデ』
戸惑いぎみにこっちはきょどる沢田綱吉を見つめる。学校では噂のみ聞いていたのだが、勉強もダメ運動もダメ何をしてもダメダメを貫き通してついたあだ名が【ダメツナ】の沢田綱吉。ちょっとした有名人だが、こっちはあまり興味が無かったから度々会う程度で学校では見たことなかってんけど。まあ彼の家の前で会ったり花見の時に会ったりしてますが。そんな冴えない彼が大空のリングを所持する将来ボンゴレファミリー10代目ボスだとは……やはり風くん同様人は見かけによらないな。風くんあんな幼いのに超強い。沢田はこちらを見て「もしかして、夕焼の守護者って」と勘づき始める。それをリボーンがにやりと笑って遮った。
「コイツが夕焼のリングの守護者、伊達いおりだ」
「えええーーーー!?」
小声で沢田が「伊達さん巻き込んだなんて、ヒバリさんに咬み殺される」と呟いたのは当然こっちには聞こえず、リボーンに誰がどのリングの守護者か教えてもらう。沢田の自称右腕を名乗る獄寺隼人が『嵐の守護者』。沢田の親友で野球少年な山本武が『雨の守護者』。学校のマドンナ、笹川京子の兄でありボクシング部主将の笹川了平が『晴の守護者』。雲雀恭弥は言わずもがな『雲の守護者』。そして五歳児でリボーン曰くうざくてバカな子供のランボと言う子が『雷の守護者』。うざくてバカとかはよく知らない。最後にあの黒曜での事件の主犯、六道骸が『霧の守護者』。彼捕まったんじゃ無かったっけ。そう問えば代理で女の子、クローム髑髏と言う子が存在するらしい。
残る争奪戦は今日の夕焼と雲、そして大空だけだと言う。マジかもう終わってんのか見たかった。
「そろそろ時間ですね」
チェルベッロ機関を名乗る…そう、家に知らせに来てくれた方々がそう呟いた。彼女たちは今回審判らしく公平にジャッジするとのこと。そして争奪戦ごとにその守護者にあったステージを用意してくれるらしくその説明へと入った。
「今回は夕焼のリング争奪戦、ファミリーを叱咤し時にはピンチに切り札となる赤色、と言う使命になぞらえて地面と柵が百度の熱を持つ灼熱のステージとなっています。相手を戦闘不能にする、リングから叩き出す、降参させるかすれば勝利となります」
どうぞ、と言われ、それぞれの方向の扉が開いたので背中の袋から棍棒を取り出し、袋をリボーンに預けてセグウェイのままそのリングにあがる。すると直ぐ様「お待ちください」とチェルベッロ機関の女性に止められた。
「セグウェイに乗車ですか?」
『あかんの?』
ふむ、困ったな。このセグウェイ、どうやら兄貴の特注らしく1000度の熱にも耐え、刃物も弾き飛ばすと言うから大丈夫だと思ったんですが。
「壊れる可能性もあります、良いですか?」
『大丈夫、使わして』
「……承諾しましょう」
うぃーんとか鳴るセグウェイに乗ったまま相手と対面した。相手の女の子はどうやら俗に言うミーハーでよく相手はコイツを守護者にしたなって感じの子だ。まあ選ばれる位だし強いんだろ。男には笑いを振り巻き此方はぎりと親の仇の様に睨まれる。美少女に睨まれるとなかなか心に来るものがありますな。
「それでは。伊達いおりVSリアス・セキセスの勝負を開始します。始め!」
開始の合図と共に相手の女の子が興奮した顔で「あはっ!」と大笑いしながらレイピア構えて走ってきた。
「私と当たったからには生きて帰れないわよ!」
セグウェイを動かしてぐるんと避ける。ちょ、彼女のブーツのそこがじゅうじゅうと音を立てておりますが大丈夫でしょうか。さわったら絶対火傷する嫌やー。痛いの嫌やー。死んだ目をしつつ避け際に棍を横に持つ。案の定前に進むと彼女の腹にダメージを追わせた。
「ぐっ」
『……(効いた、やと?)』
言っちゃなんだが拍子抜けする弱さだ。よく独立暗殺部隊幹部として動けたもんだ。そこから棍で彼女の横腹を突けばレイピアを納める鞘で防がれた。そしてそのまま勢いよくレイピアを放ってきた。え、ちょ、これはしゃがむべき? いや違う。
『っらあ!』
セグウェイに乗りつつ背後に回り背中から掌抵を喰らわせる。
「いやあ!」
その衝撃で彼女は地面に手をつく。じゅうううと焼ける音共に彼女の手から焦げた匂いと煙が立ち上る。だが、彼女は再び立ち上がり、こちらに鋭い蹴りを入れた。
『ってぇ』
「よくも、よくも私の体に醜い火傷を!」
『え』
そのまま凄い速さで突かれるレイピアを捌いては避ける。だが、たったひとつ読み違えて腹を右側寄りにレイピアが貫通する。リングの外から「伊達さん!」と沢田の叫び声がした。黙れ。
『っ』
「あは、あはは!!」
狂ったように笑う彼女にこちらは歯を食い縛り、棍で彼女を突き飛ばした。たたらを踏んで尻餅をつく彼女から再び煙が上がる。此方は刺されたところが熱を持って痛い。
「痛いわよね? あはっ! どお? 刺された痛みは!」
『ホンマ頭イタイ子やな』
「は!?」
激昴した彼女は此方に向かってきた。完全に彼女は周りが見えなくなっている。どこでそうなったかは知らないが、君の好きなイケメンたちが君が引いてるのを気付けば良いのに。ちょうど背後は柵、彼女はびゅんと言わせつつレイピアを振っている。見つけた、傷を塞ぐ方法。
『来いよキチガイ』
「ふざけんじゃないわ!誰が! 誰がキチガイよ!」
ニヤ、と笑って嘲笑してやれば簡単にノってくる彼女。外からの制止も聞こえていない。味方の外野が「伊達さんなに挑発してんの!?」と言う絶叫が響くも知らんわそんなん。平平凡凡に暮らしたかったこっちの日常を訳わからん連中に壊されて意外と気が立ってるんだ。期待を裏切らず迫る彼女は高速でその細長いレイピアを振り回す。それを寸でのところで避け、彼女はそのまま後ろの柵をズパっと刻んだ。小さくなって飛んでいく柵の一つをハンカチで受け止め、そのままシャツを捲って患部に押し当てた。
『…!』
「な、なにしてんの伊達さん!」
「!?」
「伊達先輩!?」
「極限になにを!」
なにって、止血やけど。横に細長い火傷痕にならぬようぐりぐりと柵だった棒を動かす。そう、こっちはソレのせいで気付かなかった。迫る足に。
『っだ!』
「あっはははっ!」
右から蹴りを喰らい、バランスを崩して地面に倒れる。その際セグウェイが勢い付けて跳ね飛ぶ。左腕の皮膚を焼く痛みに、歯を食い縛って起き上がろうとすればガッとその左腕を踏みつけられた。途端皮膚を焼く音が大きくなる。
「私に無礼な口を聞くから左腕が使い物にならなくなるのよ!」
『それはどうやろ』
「はあ?」
まだ気付かないのか。まだ、ソレが地面に落ちていないのを。にや、と笑って踏まれてる左腕を軸に足を持ち上げ彼女の腹を蹴り飛ばす。
「いった!」
ぼきっと音がしたから肋の一つや二つ折れてるんじゃね? 飛ばされて柵に衝突した彼女はキレて睨み付けてきた。だが、残念でした。
『わり』
起き上がったこっちは棍を槍投げのように投摘して彼女の腹にぶつかる。カランと落ちる棍。腹を抑える彼女。もうすぐ、終わる。
『チェックメイト』
そう呟いたとき、彼女の上にソレが落ちた。
落ちてきたのはそう、セグウェイである。見事彼女の頭に落下して彼女は戦闘不能になりました。
「そこまで! 夕焼のリング戦勝者、伊達いおり!」
『っしゃー』
酷い火傷を負った左腕を右手で庇いながらセグウェイに乗り、リングを降りる。渡された指輪は夕焼けを象っており、ゴツかった。
『……勝ったー』
リボーンに指輪を投げ渡せば「よくやったな」と返ってきた。いやいやそれほどでもないぜよー。
『……痛い』
腹の傷も痛いし塞いだ火傷も痛いし左腕の火傷も痛い。もう左腕の火傷は消えないんじゃないかってぐらい酷い。これからは包帯巻かないとダメなやつ? 「毒手やー」とかいわなあかんやつ?
「伊達、シャマルに手当てを頼んだぞ」
『あっ別にええ。家帰ってやるから』
リボーンの気遣いを見事にぶち壊し、セグウェイに乗って家へと帰宅しようとする。隠れて影から見ていたと思われる雲雀くんも見えたので手を振っておいた。みんな雲雀くんに気付いてないんじゃね?
ふと思い出し、チェルベッロ機関に声を掛ける。
『ちょお、チェルベッロのお姉さん』
「? なんでしょう」
『もうこのあとこのリング戦に呼び出さんといてな』
「っ……それは」
『やないとこっちリング叩き潰すから』
「!? わ、分かりました」
よしよし。と満足げに頷き今度こそ家に帰る。これでもう、このあとにもしも『もう一回』があればこちらはリングを潰すから彼女たちは手が出せないだろう。
学校はしばらく休もう、腕のことで休養を取りたい。家に帰ったら風くんで癒されよう。
**
『……ただいまー』
「いおりさんっ!」
家に帰って玄関を閉めたと同時に風くんが物理的に飛んできて頭をぺちっと叩かれた。え、何事何事。
え、と風くんを右腕で受け止めて抱えるとそのままポカポカと胸の辺りを叩かれた。いやっちょ、君力強いからドスドスいってるんですが。痛い。
彼の大きな目を覗き込めば「あなたはバカですか!」と叱咤された。ごめん可愛いからそんな怖くない。
「あれほど怪我をするなと言ったでしょう! なのにあなたは……! 刺し傷はまだ仕方ないです……けど! 火傷で傷を塞いだり左腕を地面につけて火傷して蹴り飛ばすなど!」
前言撤回、やっぱりとても威圧感があって怖いです風くん。恐怖から風くんを力一杯抱き締めると怒声が止んだ。「だ、大丈夫ですか!?」と心配そうに聞こえてくるその声に頬を緩める。
『……風くん、癒して』
「その前に手当てしましょうね」
風くんは結局癒してくれなかった。冷たい。
.
それからしばらくの間腹と左腕に包帯をぐるぐる巻きにしました。んんー! エクスタシー! なんて言わない。毒手なんて言わない。包帯はあまり見られたくないなあとしみじみ思っています。だって厨二ゲフンゲフン。なので左腕の包帯を隠すため、とうらぶ切国さんをリスペクトしてぼろ布を被ることにしました。これなら顔も見られなくて便利。風くんには家にいる間は羽織るだけにしなさいと注意されました。はーい。
数日の間に再びチェルベッロ機関の女性が来て「大空の指輪戦をやるので出場願います」と言われた。が、忘れたとは言わせない。此方は指輪を地面に置き、奥から大振りのハンマーを取り出して振り下ろす準備をする。
『……これでも、やるん』
布の間から視線を飛ばせば顔を青くしながら「い、いえ」と去っていかれました。ウィナー、こっち! 奥から風くんが可哀想なものを見る目で見ていたが知らん。
そして今夜は久々のニヤ動だ。今までこっちは顔出しNGだったけど今はボロ布被ってるからね、姿を映してやりましょう。
『っちゅーわけで、顔は隠れてるけどこっちがホンマに女か判明すんでー』
<ひゃーはー!>
<男性を望むわよ!>
<女子中学生だっけ?>
<声が男性だからそんな風には思えなかったが>
『その真意は今からや。どーん』
<む、胸がある!>
<ボロ布被ってるけど大きいとわかる!>
<めろん!>
<お前みたいな中学生がいてたまるかww>
<メガネだと若干分かる!>
<女の子だった!>
<おや? 左腕に包帯が巻かれているぞ?>
<んんー?>
『エクスタシー! ってちゃうわ、ただの大きな火傷や、気にせんといてな。ちなみに胸に関してなんや言うとったやつ、前に出てこい、潰したるから跪け』
<こわっ!>
<何ヲ潰スノォ……>
<出た女傑!>
<出た女帝!>
<騎士さま!>
<白玉さま!>
<そこに痺れるぅ!>
<憧れなぁい!>
『憧れへんのかい……そろそろ時間やな、ほなまた見たってな』
<ばいちゃ!>
<恒例になりつつある『<そこに痺れる><憧れない>「憧れへんのかい」』ww>
<今度は最初から!>
生放送後、明日の準備をする。なぜなんて答えは聞かない。だって明日から学校だから。長い間休んでたな……腹はまだ痛むけどそこまでじゃないし、大丈夫だろう。久々に家を出るか。
『じゃあ風くん、こっち明日から学校やから』
「はい、わかりました。……いおりさん、学校にもボロ布を被っていくのですか?」
『ん。流石に包帯巻いとるとこ見せられへん。多分これからもずっと被る』
「……気に入ったのですね」
『ん』
ちょっと不機嫌そうにぶすくれる風くんを抱き上げて『……風くんは、かわええままやな』とそのまま抱えてリビングへとご飯を食べに向かった。その間風くんが腕のなかで抱えられてご満悦気味だった笑顔は可愛かった。
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学校に登校すれば朝一番に応接室に呼び出された。あ、怒ってますね分かります。雲雀くん激おこプンプン丸ですねいやキレてるなこれは。
『……おはよう』
「伊達」
応接室の扉をノックして勝手に開ければ椅子に座ってこちらを睨み付けてくる雲雀くん。見ての通りご立腹でした。
「伊達」
『……おん』
「火傷を二ヶ所刺傷一ヶ所、どういう考えなの」
『……傷を塞ぐために、一ヶ所火傷した。左腕の火傷は、普通にやられてもた』
「頭から被ってるそのボロ布は?」
『……見られたくないねん、察してや』
「うるさい」
むっすー、と頬を膨らませる雲雀くんに苦笑いしながらいつものようにソファに腰掛けた。布が顔の上半分をフードのように隠してしまっているからよく見えないがきっと不機嫌な顔をしてるだろう。
そう思いながら鞄を置いて寛ぐと、雲雀くんがわざわざ隣に腰を降ろした。え、向こう向こう。もいっこあるやん。
「伊達。これから僕と二人の時は被るのやめて、鬱陶しいから。羽織るのはいいけど」
『……しゃーない』
こっちの指差す抗議は無視かい。
溜め息を吐いてぱさっとフード状態になっていたそれをやめる。そして顔を晒せば隣で満足そうに笑む雲雀くんに悶えそう、可愛すぐる。だがしかし。可愛いが少し不満だ、被っちゃ駄目とか。内心むくれていると雲雀くんがいつもの顔に戻って口を開く。
「そうだ……沢田綱吉と、その群れ」
『……どないしたん』
「今行方不明になってるんだ。笹川京子やその他勢も含めてね」
『……へえ』
本当にそうなんだと言う意識ぐらいしかないが。雲雀くんはそれすらも満足そうに、凶悪に微笑み「その人物がボンゴレに関係する奴ばかりなのさ」と呟いた。咄嗟に右の中指で存在をこれでもかと主張するボンゴレリングに視線を移す。
雲雀くんはそろそろ僕らもかなと言葉を出した瞬間こっちは血の気が引いたようだった。そんなトンデモ超次元バトルに巻き込まれたらこっちはひとたまりもない。
『えー……嫌や、めんどい……』
「僕も嫌に決まってるでしょ」
むすっと再びむくれた彼はそう悪態をついたあと、嫌そうに顔を歪めた。
「……僕、最近指輪の炎がどうとかって、連日跳ね馬が学校に不法侵入してきてるんだけど」
『……兄貴が?』
「親戚なんじゃないの? どうにかして」
そう雲雀くんがぼやく。こっちはそれに首を振るしか出来なかった。やってめんどくさい。くあ、と欠伸をかます雲雀は大きなニャンコの様だ。また風紀委員の仕事を貫徹でもしたのだろうか。まったく、日本人働きすぎ。働きすぎ反対やー。
「……寝る」
『え』
そのまま雲雀くんは横に倒れてこっちの太ももを枕に寝てしまった。髪が当たってくすぐったい。何こいつめっちゃかわええ。というか今日の雲雀くんはちょっとおかしい。相当疲れているのだろうかいやそうに違いない。
そのまま一時間こっちは雲雀くんの頭をももに乗っけたまま漫画読んでました。雲雀くんが起きたときにボッシュートされました。悲しみ。
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「漫画は、不要物だよね」
『……うぃっす』
結局取り返せなかったこっちはわざわざ応接室で正座してます。雲雀君はソファに座って動いてません、こっちが雲雀くんの前で床に正座してるだけです。これなんてイジメ?
「なんで読んでたの」
『暇やったんや……』
「ばか」
唐突にばか呼ばわりされました。だからこれなんてイジメ!? って言うか平仮名みたいに聞こえた気がしてとても可愛いです。はいごめんなさい。
目を下に向けて逸らしつつ『……すまん』と謝れば「許すわけないでしょ」と持っていた漫画でかなり強く叩かれた。……痛いっす。
『……痛い』
「ばか」
『すまん』
「ばか」
『すまんて』
「ばか」
雲雀くんが迷いなくばかばか連呼してるんですがこれなんて萌え? 平仮名? むくれっつら? 美味しいだけですあざます。いただきます。
脳内は顔の表情とは裏腹に真っピンクかつドピンクですが、雲雀くんはそんなことを知る由も無い。脳内だけはこっちの秘密のお花畑である。どやぁ。……あっ、はいさーせん。
雲雀くんは溜め息を吐いてから、しばらく考えるような素振りを見せてからにやりと凶悪な笑みを顔に浮かべた。背筋がぞわりと粟立って、なんかヤバイ予感がする。
ヤバイ雰囲気を撒き散らし始めた彼から離れるべく、バッと立ち上がって雲雀くんから距離を取ろうとすれば、後ろのコーヒーテーブルで下がれない。なんやねんもう、コレ邪魔。
なんかピンチっぽい。直ぐ次の逃げ道へ視線を向ければ腰が引き寄せられいきなり勢いよく横に流れた景色。
これは本格的にヤバイぞと反射でダンッ、とソファの縁に両の手を付いた。ソファとこっちの間に居るのは言わずもがな腰を引き寄せてきた雲雀くんである。
『っぶな、』
いやほんとに危なかった。雲雀くんに衝突するとこだった。いや、なんこれ。なんなんこの状況。雲雀くんはなんかちょっと不機嫌ですけどなにコレこんなイベントはゲームでしか知らんし要らん。
機嫌が悪いようで早急に退こうと腕に力を込めて中腰から起き上がろうとすれば腰に回されている腕がグッと押さえつけてきた。がくっ、と膝が曲がって態勢を崩したものの耐えた、耐えたよ、雲雀くんの上になんて乗ってしまえば一貫の終わりである。
とか考えて雲雀くんの顔を見ればジッとその黒曜石の瞳がこちらを見つめて姿を映していた。
『……雲雀くん、今すぐ退くから、腕退けてんか』
「やだ」
君は子供か。
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雲雀くんはそこから普通に口を動かして話始めた。
とりあえず態勢をどうにかさせて腰がツラい。そう口を挟めば「力を抜けばいいよ」と遠回しに離すことを断られた。
「……漫画を読んでたのは、仕方ないから許してあげる」
『……マジでか、ありがとう雲雀くん』
「その代わり、一つ頂戴」
『……は?』
こっちの下で笑みこそ携えているものの空気は威圧感が溢れてどうにも断れない雰囲気だ。なにこの子怖い。ひく、と頬がひきつった気がする。
雲雀くんは右手の人差し指で一つ、と示すのに合わせて『……ひとつ、』とこっちはその言葉を反復する。ひとつか、まあどうせあれだろう、一戦やろうぜみたいなものだろう。少し考え込み、そのあとに渋々頷いた。
こっちを見上げてくる雲雀くんを見下ろして内容を聞く。あっやばい腰がもたない早く離して。
『で、その一つって何なん?』
「……これがいいね」
雲雀くんは右の人差し指を折り曲げ、親指のこっちの唇をなぞる。ぴしりと完全に石化するこっちににや、と凶悪な笑みを微かに浮かべる雲雀くん。
え、なに、唇を切って渡せと? 痛いから嫌だよ。こんな冗談いってる場合じゃないのは分かってますよえぇ分かってますとも。
『ま、待て雲雀くん、こう言うのはそんな風にやったらあかんやろ』
「そんな風ってなに」
『とりあえず待とうや、な? いやホンマ待って』
「君は良いって頷いたよね」
『いやせやけど、せやけどな? 戦いでもするんかとな……』
「うるさいよ」
『ぅえっ』
グッと腰を引かれて体的にいろいろ限界だったこっちはがくっと膝を崩して雲雀くんの上に落ちた。うん痛くない。いやぁ胸がクッションになって助かった。
意地になって身を起こそうとすればがっと抱き締められて困惑する。え、待って待っていおりさんのブレインオーバーヒートおおおお!!
脳内はこんなに口が回るのに現実の口は一本線を引いたまま固く閉じていて開かない。
『……雲雀くん、離してくれへんか、苦しい』
「黙って」
『うぃっす』
忘れたとは言わさないとばかりに漫画のような物体で頭を叩かれた。君ホンマ頭叩くん好きやな! 離してんか!
こういうことを初めてされればまあそんな耐性もないと言うことで顔が赤くなる訳ですよ。動く右手で顔を触れば少しだけ熱い、少しだけかよ。
もう少し抵抗すればよかったのに、と後悔するもどうしても出来なかった自分がいるのですなんでやろ、答えは聞いてない! ……それより聞きたくない! 無茶言うてすんまそん!
頭の中で某電車仮面ライダーの紫の魔人的な人が暴れまわるなか、ぐいっと体が離された。また引っ張られても困るので咄嗟にソファの縁から離してしまった手を再び設置する。
「……ねえ伊達、もらっていい?」
『もらってエエか、て……』
「遅い。もう聞かない」
『……っ』
強引にかっさらわれた。
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雲雀くんはふっと唇を離し視線を逸らして、上目遣いにこちらを見たあと「見廻り行ってくるよ、いおり」と言葉を残しこっちを押し退けて応接室を出ていった。しばらく唖然としていたこっちはソファにぼすんと座り込み、片膝を抱える。自然と溜め息が出てきた。
『……えぇ……』
僅かに赤くなってるであろう顔を隠すように片手で額を押さえてもう一度溜め息を吐く。
こっちもここまでされて雲雀くんの気持ちに気付かへんほど馬鹿と違う。どうにもならんもどかしさを抱えながら今までのことを振り返る。今までで彼はそんな素振りを見せたことがあったんか? もしかしたらこっちが鈍すぎただけなんか? そうなんか? バレンタインの時も花見に誘ってくれたときも夏祭りに誘ってくれたときも彼はこうやったんか? ……あ、決定的なんは、さっきの……俗に言う膝枕やん……。
思い返せば返すほど見つかるソレに頬が熱を持つ。めっちゃアピールされとるやん。で、耐えられんなって強行手段に出たと。え、これこっちが悪いん?
『……なんやよう分からんなってきたわ……』
とりあえず上目遣いでちょっとだけ顔が赤かった雲雀くんは可愛かった。
どないしよう、脳内がいかがわしい方向に真っピンクになってく。待て待て、そんな思考は振り払え変態になりなくなければ。
『……明日また、来るか』
そうして訳のわからなくなったこっちは応接室を鞄を持って出ていった。
そしてそのあと、雲雀くんが行方不明になったと草壁くんから教えられた。
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雲雀くんが行方不明になったと聞いて数日、こっちはまんばリスペクトのぼろ布を頭から被ってセグウェイで登校しようとしていた。
『そんじゃ、行ってくるわ』
「はい、いってらっしゃいです」
『(ガッハァ!!)』
内心吐血ものの笑顔を風くんからいただき、頭を撫でくり回して『じゃ』と家を出た。ゴー、とセグウェイが走る。
正直雲雀くんが行方不明だと聞いたときは血の気が引いた。その日一日はぼろ布被ってずっと屋上でボケッとしながらショックで空を眺めていました。
通学路を進みながら思う。前までは沢田達が何かやらかしたー、だの校庭で爆発がー、だのリング争奪戦だー、だのと騒がしかったくせに、彼らが居ないだけでとても静かだ。聞けば2-Aの沢田綱吉の他に獄寺隼人、山本武、笹川京子も行方不明。3-Aの笹川了平もだと聞く。本当にリング争奪戦に出ていた人達が居ない。恐らくランボとか言う子供も、クローム髑髏と言う女の子もだと言う。そう、あの赤ん坊、リボーンですら。
自分の右手の中指に填まる夕焼のリングを見つめ、思わず呟く。
『……一体何が起こっとるねん』
途端、ひゅるると聞き慣れない音が聞こえた。振り向くと同時にそれは直撃して、煙に包まれる。
……なんやこれ。
煙が微かに晴れ奥に見えたのは森。森の中にいるようだ。……はあ、なるほど。さっきの音がこうやって彼らをどこかに飛ばしたのか。なるほど。なるほど。納得……
『するか出来るかやるわけないやろクソが!』
「うぇっ!?」
「へ!?」
「わっ!」
「はひ!?」
「来たか」
「いおり姉!」
あまりの衝動に怒鳴ってしまえば驚きの声をあげて見つめてくる声の主たち。そう、行方不明になっていた彼らである。
沢田綱吉、笹川京子、リボーン。他にははひ! と呟いたポニーテールの女の子。見るからに大人な青年と、大きな白い帽子を被った女の子も居た。
「伊達お前、そんなキャラだったか?」
『……うっさいリボーンくん。びっくりしてん』
直ぐ様ぴょんと肩に乗ってきたリボーンくんに頭を抱えながら呟くと沢田くんが泣きそうな顔をしながら「伊達さんんんん!」と叫んだ。うおっと、びっくり。
そんな沢田くんをスルーしてポニーテールの女の子と白い帽子の女の子と青年を見た。その視線に気付いたのか三人はこちらに自己紹介してくれた。
「ハルは三浦ハルです! よろしくお願いします伊達さん!」
「私は大空のアルコバレーノのユニです、はじめまして伊達さん」
「僕はランキングフゥ太、こっちじゃはじめましてだよねいおり姉!」
一応『よろしく』と返して困惑した顔をしながらリボーンくんを見る。リボーンくんはああそうだ、知らないんだったなと事情を説明してくれた。
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どうやらこっちが当たったあれは10年バズーカと言う5分間だけ10年後の自分と入れ替わる超不思議武器の弾らしい。現在ここは10年後で、本来なら5分でもとに戻るらしいのだが今は軸が狂って元の世界に帰れないらしい。しかも、現在ボンゴレファミリーの守護者たちはこの森で軸を崩した敵対マフィアのミルフィオーレファミリーと交戦中だと言う。イコールその真っ只中と言うわけだ。
そしてもうひとつ。この世界には匣兵器と言う小さなサイコロ型の匣に死ぬ気の炎を指輪に灯して戦うと言うスタイルになっているらしい。ボンゴレにはボンゴレリングとボンゴレ匣と言うものがあり、守護者はそれで応戦中のこと。10年後の沢田たちはリングが重要になって争奪戦が始まる予感を感じたから全員リングを壊したらしい。なるほど、過去のこっちらなら持ってるから代わりに戦ってくれと。
リボーンに赤色とは違う、濃い紅色のボンゴレの紋章が入った小さな匣を渡された。
『……これが匣なん?』
「ああ、頼む伊達。戦ってやってくれ。これで勝てなければ俺たちは全滅、過去にも帰れない」
『……めんど。いけど、しゃーないなぁ』
火よ灯れー、と心の中でやる気なさげに唱えていたらボオォォと大きな音をたてて紅色の炎がボンゴレリングから出てきた。それを匣にはめ込めと言われたのでかちっと炎を注入する。中から出てきたのは、羽部分が紅色の炎に燃える小さい小鳥。
『……これ?』
「実際には匣アニマルだ。実を言うと、夕焼の炎の波動は、この世界じゃお前だけらしい。夕焼の匣の実態は、大空より謎なんだ」
『……っちゅーことは、夕焼の匣は全部こっちじゃないと開けられへん言うことか』
「そう言うことだ、形態変化(カンビオ・フォルマ)と唱えてみろ、小鳥が初代夕焼の守護者の武器になるぞ」
『……へえ。トリ、形態変化』
「(……な、名前つけないのかな?)」
沢田がそんな視線をくれていたが、構っている暇はない。ばささと羽を広げた小鳥はピカッと目眩しく輝き、ずしりとこちらの右手に重みを与えた。
『……斧』
「それが初代夕焼の守護者、大空を赤く染め浮き雲と共に流れる切り札と謡われた、アイザックの斧だ」
『デカッ』
「お前も身長以上の棒ぶんまわすだろ」
『うっさいわ』
赤いラインの入った真っ黒の斧。刃先は鈍く光り、刃渡りはおよそリボーン三人分の大きさだ。持ち手の長さはこちらと同じ大きさで、とても大きいのに、軽い。試しにと沢田に持ってもらった。瞬間彼の腕はがくんとさがって斧はズズゥンと音をたてて落ちた。
『……もしかしたら、こっちが持ったら軽くなるん?』
「夕焼属性の炎の特徴は軽化だからな」
『……へえ。じゃあこっちちょっと爆発音やらでかい音しとるとこ行ってくるな』
「気ぃつけろよ」
リボーンや沢田君たちに見送られ、こっちはセグウェイを加速させて森を駆けた。
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邪魔な木々は切り倒して進んでいけば広いところに出る。そこではリボーンくんに教えてもらった真六弔花と戦うボンゴレ’s。
ヴァリアーの方々に黒曜、そして、笹川や獄寺等の守護者たち。
林の影でおおー、壮観壮観と呟いていれば、ヴァリアー側の一人の背後から大技を喰らわせようとする名も知らぬ真六弔花の一人。
さあ今放たれるぞ! と言うところにセグウェイで突っ込んでいった。
『そーい』
そのまま飛び上がってあのでかくて綺麗な斧を振り下ろせば気付かれた相手にサッと避けられ、斧は止まることなく地を割いた。
ドガアアン、と言う大きな音にみんなの動きが止まり、こちらを見てくる。煙が晴れたとき、みんなが「あ!」「アイツ……」「ちっ」「来たな」「なっ!」とこっちを凝視してくる。少しむず痒かったので頬を掻きながらひとつ斧をぶぉんと薙ぎ、口を開いた。
『混ざらしてや』
ざわめくそこから、獄寺が「伊達じゃねぇか!」と怒鳴る。そこから、こっちが助けた一人が後ろで「ゔお゙お゙お゙お゙い! 余計なことすんじゃねえ!!!」と刀で背中を切りつけてきたので斧の持ち手で受け止め、『黙れやカス』と睨んで蹴り飛ばす。周りから歓声が聞こえたが知らない。
『……え、なに。こっち来んかった方がよかったん?』
「いやー、そんなことはないですねー。相手する人数減って大助かりですー」
『ちょお君黙っといて』
蛙のドデカイ帽子を被った緑髪の少年を黙らせたらいきなり乱闘になった。
『せぇい!』
みんなの返答も聞かずこっちも乱闘に混ざった。軽々と斧を振り回し、敵を薙ぎ払う。
すたん、と隣に着地音が聞こえたかと思ったら、手錠とトンファーを構えた雲雀くんがいつもの学ランで此方を見ていた。……え。手錠?
「……君も来たの」
『おん、さっきな。ビックリしたわ』
あのときの事などなかったかのように話し掛けてきた雲雀くんに対応していつも通りに返せば「へえ」と満足げな声が飛んでくる。
『……改めて思うわぁ……』
「なに」
『斧くそ軽い』
「……あっそ」
期待外れとでも言いたげな雲雀くんは武器を構えて駆け出す態勢に変わった。彼が駆け出す寸前に、思ったことを伝える。
『君が居ると、安心する』
彼が肩を震わせたが、見て見ぬふり。機嫌が良さそうに相手に殴りかかっていた雲雀くんを見て、相手の人が可哀想になった。
さーせん。
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それでもその告げ目はやって来る。背後がいきなり輝きだし、ばしん、と白蘭に似た男が姿を表した。ソレは、終わりを告げるようにのしのしとゆっくり歩き出す。
その様に敵味方関係無く目を見開いた。敵もどうやら知らなかったらしい。真六弔花最後の一人、GHOSTと言うようだ。
相手の真六弔花の一人、桔梗が「白蘭様……早すぎる!」と呟いていたので相当な代物だろう。全裸やし白いしキモい。
「だが奴は敵! ミルフィオーレに間違い無い! 指を見ろ! マーレリングだ!」
ヴァリアーのレヴィとか言うおっさんが怒鳴る。確かにマーレリングを付けているから真六弔花で間違いはないだろうと思うけど、うっさいなあ。
呆れた目をして彼を見ていれば、途端に隣の前髪で目が見えないティアラの男、ヴァリアーのベルフェゴールが「先手必勝♪」と嵐の炎を纏ったナイフをビュオッとGHOSTに投げ付ける。避ける気配はない、よし、当たる。
そう思ったのだが。彼のナイフはGHOSTを通り抜けた。死ぬ気の炎は纏っていない。そんなナイフは地面にさくさくさくっと刺さるだけ。
「!!」
「通り抜けた!」
「!!」
「幻覚か!?」
敵味方関係無く驚き、六道骸とその弟子、ヴァリアーのフランが「幻覚ではなく実在している」と告げる。実在しとんのに透けるん? え? マジで?
「ならば撃つべし!」
レヴィが叫びながら雷エイで攻撃する。だが、炎だけ吸いとられ、GHOSTは円形のバリアの中から無数の触手の様なものを放出させ、ミルフィオーレ、ボンゴレめがけて飛んでくる。
一人、真六弔花の女の子、ブルーベルに触手がベトンと張り付いた。次の瞬間にはブルーベルは骨と皮だけになり地に伏せる。
「なにっ」
「味方を!」
六道骸とバジルが声をあげた。まるで生命力を吸いとられたかのように萎んだ彼女。雷エイやXANXUSの憤怒の炎のこもった銃撃も炎を吸いとられて力を無くす。どうやら炎だけを吸収するらしい、なんと怖い。すると雲雀くんが自身のボンゴレリングを見て「リングの炎が……」と呟いた。見てみれば、確かにリングから炎が漏れだしている。ここまでするのか馬鹿野郎。
早いとこ、結論はGHOSTには炎の攻撃が効かないのだ。無敵か!? 無敵なのか!?
『っ』
向かってくる触手を飛んで避けて宙で一息着けば再びこっちめがけて飛んでくる触手。何も言わなくても狙われている。ふざけんな狙うな。死ぬ気の炎を吸われてこっちは疲弊してんだよ!
『ちっ』
被っていたボロ布を触手の前にバサッと投げ付けだんっと地面に降りる。こっちの愛しのボロ布が!
なんやねん、なんでこっち狙われとん!? 悪どく舌打ちしてひらひらと落ちてくる触手が既に離れたボロ布を既に諦め、逃げる。だってこっちだけ向かってくる触手の量が明らかに違う。なんなん、なんなんこれ!
投げ捨てていたセグウェイに飛び乗りエンジンをドルルと掛ける。そこでも迫ってくる触手を必死に避ける。
「GHOSTは極限に伊達を狙ってるぞ!!」
「伊達って誰だよ! うししっ」
「白いボロ布を極限に被った……うおお!? 伊達! ボロ布はどうした!?」
『捨てた言うて! 回避につこたわボケ!』
「!?」
なんこれ! なんこれ! なんでこっちばっかり狙われとん!?
.
結局そのあとハイパーモードとかした沢田がやって来てGHOSTを倒してくれた、と言うか死ぬ気の零地点突破改なるものでGHOSTを逆にズボッと吸い込んだ。GHOSTは死ぬ気の炎の塊だったらしい。……確かに実態ですね分かります。
そのあと白蘭登場。此方の大将沢田と敵の大将白蘭の衝突。そのあとユニが不思議な球体に包まれながら飛んできた。聞くに、マーレとボンゴレの二つの大空に大空のおしゃぶりを持つユニが共鳴して引っ張られてきたらしい。
そのあとボンゴレリングが真の姿に変わって宝石のようなもののついたまた一風変わったゴツい指輪になった。そのあとユニが命を掛けておしゃぶり状態だったアルコバレーノを復活させ、死んでしまったユニとγに悲しみ、ユニを道具扱いする白蘭を沢田がXバーナーなるもので消し飛ばし、戦いは終結した。
まあ、言いたいのは要するに、こっちらが勝ったと言うことだ。
って言うか、風くん死んどったん!? 風くんが!? あの風くんが!? 待っとって風くん復活したら抱き上げたる!
「か、勝ったぜ!」
「うおお!」
「沢田殿! やりましたね!」
「勝ったぞーー!」
「ツナくん!」
「ツナさん!」
獄寺と山本、笹川兄妹に三浦、バジルが沢田に向かって駆け出す。ふらりと倒れそうになった沢田を獄寺と山本が受け止めて、いつの間にか彼の近くにいたリボーンが「よくやったなツナ」と珍しく沢田を褒める。
だが、沢田は「γと……ユニが……」と悲しそうに呟く。おしゃぶりの散らばるそこでγの弟である太猿と野猿が「姫……アニキ!」「こんなのってありかよー!」と泣いている。沢田はそれを見て顔をしかめ、告げる。
「γとユニだけじゃない……この戦いは多くの人が傷付きすぎたよ……」
多くの人。こっちは今日未来に来たからそれに当てはまる人がどうなのかは知らん。けど、早めに来た沢田や山本たちはそれをひしひしと感じているに違いない。だが、そこに不穏な音が響く。ガスッと何かを蹴る音だ。見てみればヴァリアーの方々が残った真六弔花の桔梗を殺そうとしていた。
「ちょっ、何してるの!? もうこれ以上の犠牲者は要らないよ!」
ぼろぼろの沢田が蹴り飛ばした本人、レヴィが「こんなカスを庇ってどうする気だ、コイツらは殺ししかできぬ怪物だぞ!」と渇を入れる。ここら辺は興味が無いので先程から鋭い視線を送ってくる雲雀くんにうぃーんとセグウェイに乗車しながら駆け寄った。
『雲雀くん、久しぶりやな』
「……ホントにね」
腕を組んでぷいっとそっぽを向く雲雀くんの可愛さに鼻血が出そうになりながらも必死に耐えて苦笑いすれば彼は溜め息を吐いて「おぶって。数日戦いっぱなしなの。疲れた」とひょいと背中に回って飛び乗ってきた。許可を取れ許可を。
『……お前な』
「なに」
『なんも』
「僕は疲れてるんだよ」
『はいはい』
呆れて乾いた笑いしか出なかったが、「大アリに決まってんだろ! コラ!」と言う怒鳴り声で意識がそちらへ向いた。
.
雲雀くんをおぶるためセグウェイからおりて彼を背負い直し、声の方を見る。そこには光輝く球体が。光を失い、そこから姿を表した赤ん坊にこっちは絶句する。……風くんとリボーンくんとコロネロくんの他にまだおったんかい。
「よくやったな沢田! コラ!」
コロネロくんが大空のおしゃぶりを片手に沢田を労う。やはりコロネロの首にもその青いおしゃぶりが下がっていた。
「コロネロがいる! ……てことは!」
「アルコバレーノが……」
「ついに復活したのか!」
「赤ちゃんがいっぱい!」
「どこのベイビーちゃんですか!?」
「あれがトゥリニセッテの一角のおしゃぶりを持ちトゥリニセッテを監視する役目を持つ、最強の赤ん坊、『アルコバレーノ』
リボーンの旧くからの知り合いでもあるわ」
アルコバレーノを知らない笹川京子と三浦ハルに獄寺の姉、ビアンキがアルコバレーノについて説明する。
アルコバレーノなんて知らなかったこっちはそれを聞いてふんふんなるほどとうなずく。背後から呆れた視線を頂いた。雲雀くん酷い。
不意に風くんの姿を見つけたこっちは『風くーん』と彼の名前を呼んでみる。背中の雲雀くんが「え」と呟いて驚いていたのは聞き逃さない。
「いおりさんっ! 無事でしたか!」
『おん、無事無事ー。さっき来たばっかやから』
そう告げれば風くんからエンジェルスマイルを送られて鼻血が今度こそ出そうになった、君はこっちに亡くなれと言うのか。だがしかし、今は背中に雲雀くんがいるのである。鼻血なんか出したら殴られてしまうに決まってる。
リボーンがこっちに向かって「知り合いか?」と聞いてきた。
『……まあ、』
ここに来て過去の風くんから口止めされていたのを思いだし、煮えきらない態度でリボーンくんに返せば怪訝な顔をされたが、気にしてないように彼は前を向いて「てめーらおせーぞ」と呟いていた。
アルコバレーノに聞けば事情は全て分かっているらしい。風くんが長々と教えてくれる。
「ユニは白蘭が倒された場合、世界にどの様な影響が起きるのかも我々に教えてくれました。白蘭が倒された今、持ち主を失ったマーレリングは無効化されました。それにより白蘭がマーレリングによって引き起こした出来事は全て……全パラレルワールドのあらゆる過去に遡り抹消されるのです」
「つまり白蘭のやった悪事は昔のこともきれいさっぱり跡形もなくなくなるんだぜコラ!!」
「え!? それって、ミルフィオーレに殺された人たちや山本のお父さんも!?」
「恐らく死んだこと自体がなかったことになるだろうな」
わあああ! と喜びを全身で表す彼らにこっちは絶句する。え、山本くんのお父さん殺されとったん? え、そんな精神状態で戦ってたん!? 最近の子怖い。
よっと雲雀くんを背負い直せば、みんなが「過去に帰ろう!」と騒ぎ出す。ようやく過去に帰れるらしい。あぁ安心安心。
『……雲雀くん、聞いとった?』
「過去に帰るんでしょ」
『せやな。……あー、疲れた』
「僕の方が疲れてる」
『はいはい』
.
今、雲雀くんのアジトに来ています。いやあ、和室って落ち着くなあ。
なぜここに来ているかと言うと、雲雀くんが最後に見に来たかったらしい。10年後の雲雀くんが並盛風紀委員を中心とした風紀財団に作らせたらしい。スペックがやばい。広い畳の和室では雲雀くんの帰りを待っていた草壁くんが正座して鎮座していた。……10年後やのにリーゼンとくわえ草は変わらんのか……。
去り際、草壁くんが「恭さん! いおりさん! お気をつけて!」と言っていたので、後ろ手に手を振って雲雀くんのアジトから出た。出てからやっとなぜ雲雀くんはここに来たのか、その心理に気が付き笑いが漏れる。彼の背中を見ながらやっぱり人の子なんやなぁ、っておもった。
「……何笑ってるの」
『いや、なんもない』
「……ふん」
ふい、と拗ねた様にそっぽを向く雲雀くんが可愛くて仕方無い。表面では苦笑いして彼の隣を歩く。
彼が行方不明になってから、なにか足りないと思っていた。それが埋まった様に思える。……寂しかったのか、こっちは。燻っていた違和感の答えを見つけて、満足そうに少しだけ微笑んだ。ねえ見た? 今ちょっと、普段仕事しない表情筋が働いてくれたよわーい。
『……過去に戻ったら、きみはどないする?』
「……いつも通りに動くだけだよ……ねえ、いおり」
『なんや、恭弥くん』
名前を呼んでくる雲雀くんに逆に名前を呼び返せば不満そうな顔が見えた。……不満なん?
身長ま1cmだけこっちの方が高いだけで彼の顔の位置はあまりこっちと変わらない。それにしてもなんでそんな不満そうな顔すんねん。
「くんは要らないよ」
『恭弥』
「ん」
くん付けが不満だったのかホントかわええなきみ。
サッと顔を伏せた彼は何を思ったのか背中に飛び乗ってきた。あっ、はい背負えと言うことですねわかります。
よっ、と言う声と共に彼を背負えば首に巻き付く腕。なに、また首絞めるの? とか思ってたけど杞憂でした。どうやら雲雀くんは眠かったようで、ぐるりと腕を首に巻き付け抱き込むようにして腕を枕に顔を伏せてしまった。
『……いてっ』
ぐりぐりと頭をこっちの頭に擦り付けた彼は、そのあと首筋にちくりとした痛みをくれてくれました。彼は満足げに「ん」と呟き今度こそ寝るぞ、と先程の態勢に戻った。こいつキスマーク残しよった。
『……降ろすで恭弥』
「……や、」
『よし許そう』
くぐもった声と台詞が可愛すぎて許した。恭弥の頭で首筋は見えなくなるし、まあ大丈夫でしょう。恭弥くん可愛いよ恭弥くん。
.
「よーしみんな揃ったね! そろそろ出発だが、ボンゴレ匣は未来に置いていってもらう、取り外してくれ!」
取り外した匣を地面に置き、みんながみんな匣兵器の中の動物と別れを惜しんでいたのでこっちも匣兵器からあの小鳥を呼び出し頭をひと撫でして恭弥の所に戻る。彼の匣兵器は雲のハリネズミのようだ。かわいかった。
入江正一がアルコバレーノのヴェルデとにや、と笑っていたので何かしら企んでいるに違いない。
足元辺りで頭のてっぺんでおさげにした中国少女の弟子と「達者でね、イーピン」とぺこりと二人で頭を下げ合う風くんを見てあ、二人和むとか思ってればぱっと風くんがこちらを見上げた。のでバチッと目が合う。彼はひとつ控えめかつ満面の笑みを見せ、「いおりさん」と呟いた。待って、いおりのライフはもうゼロよ。HPとMPが一気に吹き飛ばされたよ。
それを悟られまいと頭を軽く振り、しゃがみ込む。
『なんや、風くん』
「……今、10年前の私があなたの家にいるのは、今は内密に」
『おん』
質問を問えばちょいちょいとちっちゃなお手手で手招きする。だが、自分が来た方が早いと気付いたのか、とてとて駆けてきてこっちの耳に手を添えてから彼は小声でそういった。動作可愛かった。
これは流石に小声になるわ、と思いつつサムズアップしながら頷き、頭を撫で回して立ち上がった。この時風くんが恭弥に対して勝ち誇った柔らかい笑みを向けていた事など、その時彼を見てなかったこっちはわからなかった。
振り向いて恭弥を見ればとても不機嫌そうな顔をする彼に唐突過ぎて驚く。え、なんでそんな不機嫌なん?
「……そこの赤ん坊と、なに話してたの」
『……いや、ちょっとな……。多分過去に戻って、しばらく経ったら分かるで』
「……ふぅん」
ハイパー不機嫌な彼に苦笑いし、「じゃあタイムワープをはじめるよ! 別れを惜しんでたらキリがないからね! アルコバレーノは過去のマーレリングを封印してすぐにここへ戻ってくる予定だ!」と言う声で前を向く。
入江は沢田に「本当に……ありがとう」と泣きそうな顔で笑って告げた。沢田は困ったように微笑み、「さよなら」と別れを告げ、それは入江が「タイムワープスタート!」とボタンを押すまで浮かべられていた。
.
過去に戻ればこっちは恭弥と二人、応接室のソファにぼふんと落ちた。
『……戻ってきたん?』
「……そうなんじゃない?」
こっちがいつも座っとるソファの向かいにあるもうひとつのソファに落ちた恭弥はくあ、と久々にあくびを見せた。ああ、帰ってきたんや。訳のわからん世界から。「チチッ」と鳥の鳴く声が指から聞こえ、不思議に思って指を見てみれば、右の中指にはボンゴレリングと、あの小鳥があしらわれたアニマルリングがあった。……匣よりずっとコンパクトになったな、きみ……。アニマルリングをさらりと横目で流し、むすっと外を眺める恭弥に苦笑いしてソファを立つ。横目でこっちをちらりと見て再び外に視線を向けた彼を無視して隣に座った。
『……雲雀くん』
「……」
『恭弥』
「なに」
名前を呼べば直ぐ様返事が返されて、ゆっくりとこちらを向く恭弥に向き合い、『なあ』と呟く。
『前回のアレはどう受け取ったらエエんや、分からん』
「……君は僕をどう思うの」
『お前な……』
答えになってないソレに眉を寄せてから、彼の胸ぐらを掴んで引き寄せ、唇に噛み付く。痛くはない、筈だ。ぱっと離せば間近で少し赤くなって目を見開く恭弥に、にや、と笑ってついばむ様なキスを様々な角度から落とした。普通立場逆じゃね? なんて思いながらがっくがくの彼の膝を見て目を細める。震えた指で態勢が崩れまいと必死に服に掴まるから可愛い。死ぬ。相手が酸欠になり始めたので残っていた理性をかき集めて最後に舌で恭弥の唇を舐めて離れた。はぁ、と息を吐き出せば、がくがくとうつ向いて震える彼がぜぇはぁと息をきらして体内に酸素を取り込んでいるのが見える。
『……』
「はっ、はぁ、君……」
『すまん』
「ばか」
こっちを掴んでいる両手の力をぎゅっと強めてギッと水の膜の張った瞳で睨み付けてくる恭弥から目を逸らす。……いや、分かっている。今こんなことを考えるべきではないことぐらいは。分かっているが思考は回る、回ってしまった。可愛い。恭弥くん可愛いよ恭弥くん可愛い可愛い可愛い。照れ顔可愛いよ超可愛い。そんなことを脳内で繰り広げていることなどいざ知らず、彼は不機嫌そうにこちらを睨んで「こういうのって僕からするんじゃないの」と口を開いた。
『確かに、しとる時に思ったな……』
「……」
ほら見ろ、とばかりにこちらを見てぶすくれる恭弥に苦笑いした。
**
「おかえり!」
「少し地殻に影響を与えたがすべてうまくいったぜ!」
「よかった! お疲れさま!」
「お。子供のあいつらが過去へ帰った代わりに、この時代のこいつらが装置から目覚めたんだな」
10年後の世界にて。過去から帰ってきたこの時代のアルコバレーノたちと入江らが少しそんな会話をして、目覚めた彼らを見つめた。黒いスーツ姿の10年後の獄寺が「ところで」と久々に口を開く。
「ツナはどこいったんだ?」
ボンゴレファミリー10代目がいない、という山本の素朴な疑問に入江が「ああ、一足先に上にいってるよ」と答える。その端で、雲雀は伊達を睨めつけていた。実はこの時代の伊達は、ミルフィオーレのスパイとして潜み、情報をボンゴレに渡していたのだ。みんなと同じ黒いスーツを身に纏いながら頬をぽりぽりと掻く彼女は、この10年で自分より高くなった雲雀から目を逸らす。彼女もこの10年で今より少し身長は伸びたようだ、胸の方は言わずもがな。そんな彼女は、スパイ活動を雲雀に教えていなかった、絶対拒否される、それかついていくと言うに決まっていたから。
「……いおり」
『……』
「こっち向いて」
明らか不機嫌な雲雀に渋い顔をしながら向き直る伊達。雲雀はそれを見て少し満足そうに笑い、「説明して」と怒るのだった。
.
先日の未来から過去に戻ってきたときの反動で起こった地震。それのおかげか所為なのか、今日、至門中学から七人の集団転校生がやって来るようだ。
どうやら風くんは未来から記憶を受け取ったらしく、過去から帰ってきたあの日、こっぴどく叱られた。風くん怖かった。っていうかこっちに非はないやろ、いきなり10年後つれてかれてんから。
あの日のことを思い出して少しぶすくれながら今日、以前から仲良くさせてもらっている『アーデ』さんとコラボでニヤ動生放送をするのだ! わーはっはっは!
まだお姿を拝見したことはなく、どこに住んでいらっしゃるのかも分からないのでネットでアーデさんがこちらを見つけたら参加ということになっている。どうやらアーデさんはとんでもない美貌とスタイルの持ち主らしい。閲覧者談。
『うぇーいどもどもこんばんはー、白玉さんやでー。今日はコラボでアーデさん来はる予定でわりかしテンション上がりまくりな白玉さんやでー』
<アーデ姉様とコラボだとぅ!?>
<めろん同士コラボだとぅ!?>
『ちぎったるからはよ降伏しろや』
<こわっ!>
<hshs>
<久々千切る発言が来た! ……ふぅ>
<上のコメント万死だ!>
<億死だ!>
『アホ、京死やっちゅーねん。残念やなぁ』
「そんなの甘いわ、もっとよ」
『お、アーデさんおでましや。こんばんはー』
「白玉さん、こんばんは、今日は誘っていただけて嬉しいわ」
『いやいやー、受けてもらえたんが奇跡やわ』
「んなっ」
<白玉の男前さマジうらやまギルティ>
<白玉大御所っていうか超有名なんだからどこに誘い入れても受けてくれるだろ>
<アーデさんも最近注目上がりまくり>
<驚きアーデかわ>
『あれっ、こっち結構有名なっとったん?』
「気付いてなかったのね……」
<ニヤ動で知らぬ者が居ないぐらい>
<むしろそこまで行ってなんで顔出ししてないのか謎>
<むしろなんでライブ会場で歌ってないのが謎>
<白玉様もアーデさんも顔出しきゃもん!>
<アーデさん派の奴手ぇあげろー!>
<俺白玉派!>
<アーデ派>
<アーデ派>
<アーデ派>
<白玉派すくなっ!>
『おい心に今なにか刺さったんやけど、なぁ、鋼のハート貫かれてんけど、なあ。白玉さんの人気の無さよ……』
「き、気を落とす必要はないですよ!」
『アーデちゃんもう白玉さんと結婚して』
「!?」
<鋼のハート!>
<ガチィン!>
<貫かれた!>
<バキバキ!>
『いらんとこで効果音いれんな!』
「ふふっ」
『アーデちゃんかわ』
<し、白玉はかっこいい枠で人気!>
<そーもう!>
<お、俺も?>
<白玉レズ説>
<百合キタコレ>
『おらそこなんで疑問系やねん。レズでも百合でも無いわボケ! フォローするんやったら最後までしいや! 可哀想やろ!? この白玉さんが!』
「そうよ! 粛として清まりなさい!」
<はい! 粛として清まります!>
<白玉様が久々に楽しそう!>
『はあ? 楽しそうやと? 楽しいに決まっとるやろアホ!』
「ふふ」
<こう見えて白玉はリスナー大好き>
<うれぴい>
<おいやめろ照れるだろ白玉ぁ>
<アーデが微笑んだぞ! 聞いたか!?>
<聞いた!>
「心優しいわね、ってそんなとこまで聞いてなくて良いのよ!」
『』
「大変! 白玉さんが息してないわ!」
『』
<恥ずか死したか>
<したな>
<ギャップ>
『ギャップ言うた奴捻り潰す……っと、残念なことに捻り潰す前に時間来たな』
「あら、ホントだわ」
『そんじゃまた、やるかもしれんしやらんかも知れんけど、よろしゅう』
<やれよ!?>
<やってくれよ!?>
<さっきはいろいろ言ってすみませんでしたあああ!>
『よし許そう。またやるでー』
「そうね」
<やたー>
<キタ>
<コレ>
<ふううう!>
.
こっちは久々に絵を書くべくスケッチブックとシャーペンを手に机に向き合って仕事をする恭弥をばりばりとすごい勢いで機嫌よく描いていた。恭弥も気にしていないのか、いつもと変わらず日誌に鉛筆を滑らせている。
「ねえきみ、僕を被写体にしてなにか楽しいの?」
『恭弥は絵になる。姿勢は、まあ世辞でもエエとは言えへんけど、綺麗やねん』
「……ふぅん」
お互い顔をあげずにそれぞれいましていることに集中しているので顔は見てないが、なんとなく満足げな声が恭弥から飛んでくる。なにこの子超可愛い。
応接室が柔らかい雰囲気に包まれるなか、それを切り裂くような「失礼!」と言う聞き覚えのある女の子の声が扉を開ける音と共に響いた。即座にばさっと復活したボロ布のフード部分を被る。左腕の包帯も腹の包帯も取れていない、腹は別にいいとして腕の方を見せるわけにはいかない。毒手とか言われたらたまったもんちゃうわ。
「あなたが並盛中風紀委員長、雲雀恭弥」
どうしてか聞き覚えのある声が恭弥に飛んでいき、若干不機嫌そうな恭弥が「誰? 君?」と顔をあげる。どうやらその女の子は至門中学三年の鈴木アーデルハイトと言うらしく、応接室を粛清委員会に明け渡せと要求しているようだ。彼女を見ればこっちとそれほど変わらない胸を携え黒い至門中学の制服を纏っている。左の腕には粛清と書いてある腕章が。これで粛として清まりなさい! とか言ったらアーデさんやん。ちなみにこっちの第一印象は「なんやこのクソ美人とりあえず描きてぇ」である。
「粛清……委員会?」
「断るのならそれなりに」
要するに、これからは粛清委員会が風紀委員会の代わりにこの学校の治安を守るから出てけっちゅーことやな。やってることは風紀委員会と一緒か。
「……ふぅん、面白いけど……それには全委員会の許可が必要になるな」
「もう許可は取りました」
いつの間にか恭弥の頭に居座るヒバードには目もくれず、アーデルハイトは「力ずくで」と各委員会の委員長を縛り上げた写真と拇印をひらりと見せた。
「ワオ。僕がその申し出を断っても、君は諦めそうにないね」
「当然です。力ずくで納得してもらいます」
アーデルハイトさんや、それはちょっと無理ちゃうやろか。恭弥相手に力ずくって絶対骨折れる仕事やで。遠い目をしてアーデルハイトを見つめる。
胸はこちらとそんな変わらんくせになんやねん腰ほっそ。あれか? これを俗に言うスタイル抜群と言うのか? 身長はこちらより高いしなにこれ君将来スーパーモデルにでもなるん?
布の隙間から視線を送っていたが、やがてなんか面倒なことになりそうだったので絵の方に集中する。こんなもん巻き込まれたら冗談にならん。
「ところで、そこにいる白い布の物体はなんですか」
「……なんで君にそんなこと教えないといけないの」
いや、ホンマ頼むから巻き込まんといて。こっちはただのしがない美術部部員です。っていうかこっちのことをそんなことで終わらそうとする恭弥も酷い。
ホンマに関わるなオーラを撒き散らせば相手も興味が無くなったのか「……それでは」と応接室を出ていった 恭弥ははぁと溜め息をついてぼすんと椅子に腰を下ろす。「……なにあれ」と呟いてから彼はこちらを訴えかけるように見た。
『……なんや』
「布」
布被るのやめろと。渋々ぱさりと被るのをやめれば変わらずじっとこちらを見てくる恭弥、なにがご不満ですか何様僕様恭弥様。『次はなんやねん』と問えば「……布、羽織るのやめて」と更なる要求をかましてきた。他でもない恭弥の頼みだが、……ううむ、悩む。短い間だがアイデンティティぞ? これ。
どうやら痺れを切らしたらしい彼は溜め息をひとつ吐き、椅子から立ち上がってこっちに向かって来る。そして布が落ちないようにボタンで止めていたボロ布を引っ掴み、ぶちっと引き契ってばさっと遠くへ投げ捨てた。流石にこれには目を見開く。え、あ、アイデンティティが!
彼は布を剥がしたこっちを見つめて、不意に微笑む。え、なにがしたかったんきみ。
「うん」
『は?』
「君の体の方が好きだよ、僕は」
『変態か』
.
翌日、今日は昨日の絵に色を塗るぞ! とセグウェイをうぃーんとか言わせながら朝早くに学校に来たのだが、校舎にはでかでかと粛清と書かれた垂れ幕が下ろしてあった。
『……なんっやこれ。絶句もんやねんけど。記念に写真撮っとこ』
「きみ、ふざけてるの?」
スマホでぱしゃっと一枚校舎の写真を取れば、後ろから呆れたような声が返ってきた。セグウェイの上で態勢を変えればそれはそれはご立腹な恭弥くんが。あまりの怖さにヒバードがこっちの頭に乗っかってくる程度には怒ってる。
アーデルハイトさんやっちゃったなー、とか不意に屋上を見てみれば、屋上の縁に立っている黒い制服姿の女の子。あれはまさしくアーデルハイト! あ、やべ。
「……風紀を大きく乱してくれたね……」
『あっはいそすね』
ばっと駆け出す恭弥のあとをストッパーとして在るべくこっちもボロ布はためかせてセグウェイを動かした。
**
屋上にて。時間が経ったのかグラウンドに生徒が大勢集まる。そのなかで、屋上で睨み合う恭弥とアーデルハイト。……これなんてバトルマンガ? って言いたい。
屋上には沢田の守護者とアーデルハイトの他の七人の転入生が集まっていた。集団転入の時に手違いで七人と知らされていたものの、八人だったことが発覚し、恭弥はきちんと先生を咬み殺している。ちなみに沢田のクラスのかわいい女の子である。どうしてか恭弥に熱い視線を送っている様に思えるが気のせい気のせい。こっちに不思議そうな視線を送ってくれているが気のせい気のせい。
「やっと勝負する気になったのね」
「当然だよ、きみの行動は目にあまる。ここで終わらせよう」
ちゃ、とトンファーを構えた恭弥からとんでもない殺気が放たれる。まあ常日頃一緒にいるこっちは慣れてなんとも思えていませんが。相手であるアーデルハイトがびくりと震える。そこで「ヒバリさん!」と沢田が入ってくるが無視無視。
とりあえず、殺気にやられたと思われる倒れかけのさっきから恭弥を見てこっちを見手を繰り返していた女の子をがしっと支える。
『……大丈夫か』
「あ、は、はい!」
布で顔は見えて無いように思えるが、多分それが不思議だったのだろう。「こ、声がかっこいいですねっ……!」と言われた。……おん、いつか言われるとおもっとってん、ニヤ動ではなく現実で声が男やなって。とりあえず遠い目をしながら「はははありがとさん」と伝えて彼女を立たせる。
そしてこちらの制服を真正面から見た彼女は「女の方ですか!」と驚いたように呟いた。
「私、雨宮 桜です、よろしくお願いします」
『伊達いおり、よろしゅう』
自己紹介を終え、恭弥の方に集中する。アーデルハイトは鉄扇を使うのか。ふむ、優美なり。
「また校則違反だよ、武器の携帯が認められているのは基本的に僕といおりだけだ」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが、知らん見とらん聞いとらん。
すると不意に微かにアーデルハイトから死ぬ気の炎が見えた気がした。その瞬間彼女は靴の踵のヒールで恭弥の顔めがけて蹴りあげた。オーイ、さっきから思ってましたがパンチラ多くないですかー?
ぶちっと飛んでいく恭弥の第一ボタンがこちらに飛んできて、雨宮さんがキャッチする。
『すまん、それ貸して』
「えっ」
恭弥のものだしさっさと返さないとうるさいし。手を伸ばせば彼女は渋々と言ったようにこちらにボタンを渡した。そして再び二人がトンファーと鉄扇をぶつけ合おうとしたとき、間に沢田が入ってきた。
「うっ、あ…が…う…げ……」
倒れ込んだ沢田にさすがに同情した。
.
「なにしてんの? 君」
間に割り込んで訳のわからぬまま倒れた沢田を見下ろして恭弥が呟く。アーデルハイトは「今のをくらって平気なのか!?」と驚いていた。いや、ゴキャッつってたから痛かったんじゃね? 沢田はただ慣れただけで。嫌な慣れやな。
そこでリボーン登場。沢田がリボーンくんにたいして「リ、リボーン! なにすんだよ!」と怒鳴るが、リボーンくんは聞き入れるつもりはないようで、「無意味な抗争を防ぐのはボスとして当然だぞ」と当たり前のように言い放った。……無意味な抗争? ボスとして? ……嫌な予感するわぁ。
どうやら転入生sはシモンファミリーと言う、ボンゴレのボス継承式に招待されたマフィアらしい。……ボンゴレボス継承式? ……ますます嫌な予感が。
シモンファミリーはボンゴレと深い交流があり、その時代はl世(プリーモ)の時代まで遡るようだ。今では目立たない超弱小ファミリーだとか。……リボーンくん、そんなはっきり言ってやるなよ。
……それよりも。継承式のことだ。そっちの方が大事だ重要だ大問題やろが。
リボーンはそんな心理を裏切って淡々と告げていく。
「七日後にここ日本で行われるボンゴレ継承式は、ツナが正式な10代目ボスになる、空前絶後の式典だ」
そのとたん他の守護者から歓声が上がった。もちろん笹川山本獄寺である。だがふと笹川が疑問を口にした。
「だが同じ10代目候補のヴァリアーのXANXUSを倒した時点で沢田は10代目決定したのではないのか?」
それをリボーンは「極限にわかってねーな了平は」と返す。え、リボーンくん今笹川のことめっちゃバカにせんかった?
「ボス候補であることと正式にボスになることでは天と地ほどの差があるぞ。
ボンゴレのボスの座につくということは、全世界の強大なボンゴレマフィアの指揮権を手に入れることだ。それはつまり、裏社会の支配者になることを意味する」
「ひいいっ、裏社会ー!?」
ボス決定の沢田本人がビビっとるけどどうなんリボーンくん。こんなのに任して世界大丈夫なん?
「恐ろしく大いなる力を継承される式典なんだ。マフィア界全体が興味を示し注目している。この式典にはボンゴレの重鎮たちはもちろん次期ボンゴレボスの顔を見ようと招待された全世界の強豪マフィアが海を渡りこの日本へやって来るぞ」
「なんか怖いことになってんじゃん!! じょ、冗談じゃないよーー!」
さすがに沢田に同意やわ。そんなめんどくさい世界に幹部として放り出されるとか絶対嫌やわ。
.
そこで屋上に「オイコラー! お前たち何をやっとるか!」と空気を読まないキチガイな先生の声が響きわたる。リボーンは静止も聞かず「んじゃあとでな」と飛び去り、みんなが教室へ戻り始めた。
もう屋上に残っているのは恭弥とこっちとアーデルハイトと雨宮さんだけやし。
いまだ睨み合いを続ける委員長二人に『ほら、そろそろ戻んで』と声を掛ける。やって置いてくと恭弥うっさいもん。
屋上に居るからかばさばさとボロ布がはためいた。今日風強いな。
だがしかし、聞き入れるつもりの無いような二人は「咬み殺す」「粛として清まりなさい!」と声を発してどつき合いを執行した。お前ら戦うん好きやな。……それにしてもアーデルハイトの粛として清まりなさい、アーデさんと似とるわ……。
すると低い位置からボロ布が引っ張られて視線を向ければキラキラした目でこちらを見てくる雨宮さん。ん? かわええな、何? 襲ってくれって? え、かまへんよ?
脳内がゆりっゆりに輝くのを知らず、雨宮さんは声を張り上げた。
「ファンです! サインください!!」
『……ん?』
「白玉様ですよね!? あのニヤ動の! ニヤ動リスナーで知らない人はいないです! さっきのめんどくさそうな声でわかりました! 握手してください!」
『!?』
ぴしりと固まる。そして委員長二人の方を見ると片方は不思議そうに、片方は震えている。目の前の美少女は上目遣いに目をきらきら。……堪忍して……。
『……いや、こっちは白玉「え、白玉さん?」違う……う?』
名前の聞こえた方を見るといかにも感動でうち震えてますって感じのアーデルハイト。若干目がうるんでるのは気のせいか?
「アーデよ、昨日ぶりね」
『……ワオ……』
……恭弥くん、今こっち超泣きたいすわ。思わず彼の口癖が飛び出た。
遠い目をしながら恭弥に助けを求めれば、なぜか知らないがむすっと顔を歪めて腕組んで睨んで来ました。はやく済ませて僕のところに来いと告げてるようですはいはやく済ませます。
雨宮さんと有り難く握手して、どこから出したかわからないサイン色紙にサインペンでサイン書く。アーデと分かったからとてもアーデルハイトと話しやすい。
『昨日ぶりやな。声似とったけどまさか本人やとは』
「ホントね、応接室にいたとは思わなかったわ。ボロ布被ってたからまさかとは思っていたけど」
『またコラボしょーな、昨日ホンマ楽しかったわ』
「ええ」
『またな』
彼女らに手を気持ち軽く振って恭弥のもとにいくと早速昨日と同じようにボロ布引き剥がされた。なんなん恭弥、きみ引き剥がすん大好きやん。
「背負って。疲れた」
『はいはい。そのボロ布もっとってや』
「被る」
よいしょ、と恭弥を背負って歩き出す。後ろでぱさ、と聞こえてから恭弥が頭からボロ布を被ったのだろう。
驚く粛清委員長と雨宮さんに去り際手を振ればぎゅっと恭弥に首を絞められた。はいはい関わるなってことか。苦しいちゅーねん。
「きみ、有名なの?」
『……ちょっとだけな。小学生の頃から歌ってみたり生放送してみたりしとって。知らん間に有名なっとってん……』
「……白玉で?」
『ん』
「へえ」
.
あれから数日。すでに連休に突入したのだが、誰かからからスマホに連絡が入った。
『……もしもし』
<伊達か!?>
『……せやけど、獄寺か? なんでこっちの番号知っと<うるせえ黙って聞け。……山本が何者かにやられた、今緊急手術を受けてる。現場は野球部の部室だ。……雲雀にも伝えろ!!>ブチッ……一方的ぃ』
なんで彼がこちらの番号を知ってんねんリボーンくんか? リボーンくんなんか!? いやそもそも。応接室でなんでスマホなんか持ってるんだって話ですよね。クラフィおもろいです。そもそもなんで休日も応接室おるんこっち。あ。ほら恭弥がこっちに来てます。キレてます。
「なにスマホ持ってきてるの? 不要物だよね。まあ許してあげるからくちび『ま、待て待て恭弥』……なに」
『一大事や。山本がやられたらしい。しかも野球部の部室でや。血の海らしいで。はよ行こ』
がっとこちらの顔を覗き込む恭弥に慌てて用件を伝えれば「……へえ、僕の見てないところでなにしてくれてんの」とご立腹だ。よかった。いやよくないけど。
さあさっさと行こうそして恭弥よ忘れるのださっさと忘れろふぐっ。
「…っは……。今回も貰ったし、行こうか、その部室」
『……おまえな、理由付けてソレはあかんやろ。……受けか? 受けなんかお前は……』
「うるさい口は塞ぐよ」
『もうええわぼけ』
**
その晩、家の固定電話に連絡が入った。誰だよ。
『もしもし』
<俺だ、リボーンだ>
『え、リボーンくん?』
リボーンくんの名前が出た瞬間風くんの肩かびくりと震え、飲んでいた茶を吹いた。あーあ、後で掃除せんと。
『で、なん?』
<伊達、明日ボンゴレの継承式を開く。犯人の狙いはボンゴレの至宝らしいからな。犯人は明日絶対現れる、伊達も守護者として来てくれ>
『え』
<雲雀が迎えにいくから準備してろよ>
『は』
出なあかんのかい……。
__
クラフィ様のタイトルを出させていただきました。最近ランクが100越えし、織田信長やゼウスなど超ウィザードクリア出来てホクホクです。
クラフィ最高。
.
翌日、朝起きたらスーツが届いていました。とりあえずそれにさささっと着替えて朝食を取る。
「今日は継承式ですね」
『せやな』
「私は招待されてないので行けませんが、犯人を逃がしては行けませんよ」
『おん。……もしかしたら怪我するかもな』
「なら修行が足りなかったと言うことで時間を増やしましょう」
『決定やな』
**
恭弥と共に継承式会場へとやって来ました。やはり二人とも黒のスーツです。え、下はスカートかって? 馬鹿野郎ズボンに決まってんだろ。
会場ってさ、城をひとつ貸し切りにするもんなの? え、しちゃうもんなの?
失礼ながら今日もボロ布を被っております。あ、シモンと一緒にいるボンゴレsを発見。
「珍しく自分達から来たぞ」
「ヒバリさん! 伊達さん!」
「……並盛中学(うち)の校内で並盛中学(うち)の生徒が傷つけられたんだ、犯人は咬み殺す」
『こっちは超不本意な』
笹川の「これでボンゴレの守護者が全員揃ったな! 奴等は極限に頼りになる二人だ!」という声にたいして沢田がはいっ! と返していた。……君らこっちのことそんな強いと思ってへんくせに。
「さあ継承式に乗り込むぞ」
**
継承はボンゴレI世の血の入った『罪』と言う小瓶が渡されれば完了する。血とかえげつい。
さあボスの座が沢田綱吉へと継承されるぞ、と言うところで至るところから爆発が起きた。これは、煙幕か。
目と耳が効かない。不利な状態でヴァリアーのこっちが未来で蹴り飛ばしてしまった銀髪ロング__スクアーロが「9代目は守護者に任せて大丈夫そうだなぁ!!」と怒鳴り、またあるところではキャバッローネのボスとして来ていた兄貴(ディーノ)が「来賓を守るぞ! ロマーリオ!」と動き出す。
9代目の守護者が「金庫が破られている!」とひとつ叫んだ。どうやらみんなの前で継承しようとしていた『罪』は偽物で、本物は金庫に保管していたようだ。……盗られたか。
すると、奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「七属性の炎で守るなど『罪』の場所を教えているようなもの」
そうして姿を表したのは、シモンファミリーの面々だった。
.
どうやら『罪』の中の血は、初代シモンファミリーのボスのものらしい。彼らがボンゴレに復讐するには『罪』が必要だったようだ。なぜそんなものがボンゴレの家宝なのか知らないが、こっちは話を聞かずに恭弥を背中に隠した。……何かがざわめいて仕方がない。気持ち悪い目が回る。
雨宮さんの視線は、相変わらず恭弥に対しては熱くて、甘く蕩けるようなものだが、こっちに対しては先日の尊敬の念は無く、突き刺さるように鋭い。いみわからん。
「! ……いおり」
『……なんか、嫌な予感がすんねん』
後ろ手に彼の手を握った。
不意に体の奥のざわめきが強くなってシモンを見れば爆風がこちらを襲った。だがそれは獄寺の瓜の能力SISTEMA・C・A・Iで防御。彼らは己の填めるシモンリングを語る。
大空の七属性に対をなす、大地の七属性だと。
彼らはシモンの誇りを取り戻すためにボンゴレに復讐を望むらしい。……少し捻れているようにも思えるが。
額に炎を灯した沢田が静かにシモンのボス、古里炎真に告げる。
「お前たちは、間違ってる。お前たちの辛い過去も、怒りの訳もわかった」
シモンファミリーは訳あってマフィア界からさげすまれていたらしい。ひどい迫害を受け、みんな家族を失ったと聞く。そりゃそれがボンゴレのせいならキレるわな。
「だが、人を傷付けることは、誇りを取り戻すことじゃない!」
衝撃で沢田を後ろから見つめた。彼はハイパー死ぬ気モードになると、性格が強気に変わる。話し方だってそうだ、普段はおどおどしてはっきり物事を告げられないのに。この状態になると核心をつく言葉を放つ。
だが古里は聞き入れる気もないらしく、「アーデルハイト、さがっていて。僕一人で充分だ、ツナ君と守護者を潰すのは」と冷たく告げた。
それにたいしてこちらは武器を構える。今日は斧ではなく棍棒だ。
古里が手を不意にかざす。すると笹川と獄寺が左右に引っ張られるように壁に激突し、次は恭弥とクローム髑髏が天井に叩きつけられた。……彼は、重力を操るのか。
不意に体が後ろに引っ張られる。やべ。
『……っぶね』
自分から後ろへ飛び、壁に足を着地させて怪我は防いだ。びりびりと押さえつけられるような感覚だ。
「……彼女は、強いの? アーデルハイト」
「実力はボンゴレも見れていない。未知数よ」
『っ(誰が未知数やねん)』
.
「ツナくん、信じかけてたんだよ」
古里が沢田にそういった瞬間、体は再び注を浮いて、「やめろ!」という沢田の怒鳴りと共に他の四人とぶつけられる。
ゴッと大きな音がしてこっちも含めて五人が地面に倒れ込んだ。
「みんな!」
「なぜ君にだけ攻撃してないかわかる? ツナくんには初代シモンがプリーモに受けた苦しみをしっかり味わって欲しいんだ」
「……! エンマ!」
その声と共に素早くみんなが立ち上がる。それはこっちも例外じゃなくて、恭弥の隣ですくっと立ち上がった。だが、直ぐ様重力で叩き付けられてしまう。ぶちっと何かが切れる音がして、暑いものが右の額から流れる。くそ、血ぃ出た。
そのままもっと強い重力で地面に押さえつけられる。骨が軋む、頭いたい。指でバキッと音が響く。9代目の守護者の人が「ボンゴレリングが!」と叫んでいたのでリングが割れたのか。すんませんアイザックさん指輪割れました。
それは沢田が古里に攻撃を仕掛けるまで続き、目を閉じる。頭痛い。気が付けば古里たちシモンファミリーは立ち去ろうとしていた。
「クロームちゃんも連れてくよ、デートする約束してるからねーん♪」
シモンの一人が意識を失ったクロームを横抱きにしながらそう呟く。すると、雨宮さんが「じゃあ私雲雀さん連れてく!」とこちらに駆け寄ってきた。……は? 恭弥連れてく? ……ふざけてんの? 今の発言で雨宮さんが恭弥に恋情を抱いているのが確信出来た。……無理。こっちはゆらりと立ち上がって、彼女を見据える。もっとボロ布になったそれをばさりと脱ぎ去って、睨む。
「へぇ、まだ立てるの?」
『……あー……それより君のが不快や。っざいし鬱陶しい。恭弥連れてく? は? ざけとん? 調子乗っとん? なあ? なあ? なあ!? なんとか言えやそこのカスが。なあおい』
「重傷負ってる癖に? よき私にそんなことが……キャッ!」
あくどい笑みを浮かべてこちらに近寄ってきた彼女の足首に足払いを仕掛け、倒す。そこから彼女の胸辺りを左足でダンッと踏みつける。そのまま前のめりに左肘を太ももに起き、彼女の苦しむ様を見た。
「かはっ、あっ」
『黙れやクソみてぇな雌豚、あばら貫くぞ』
「あ゙っ、ひぐっ」
足に力を入れればミシミシと軋む彼女のあばら。目に涙を浮かべ始めた彼女に額に青筋が浮かんだ気がした。
「やっ、かふっ、」
『なんや、お涙頂戴か? ざっけんなや雌豚ぁ。許しいほしいんやったら喉笛でも腹でも斬って死んで詫びるか、この場で全裸になって泣いて土下座して謝罪せえや。泣くくらいやったら靴でも何でも舐めて許しを請えよ。それかひたすら骨を折られた後に惨めに息絶えろ、なぁ、さっさと泣き喚く様を見せぇよ、泣けよ、おい聞いとんのかほらなんとか言えやおい!』
再び足をあげて、高いところからふりおろすと、小さくバキッと音が聞こえる、それがこちらに刺激を与えたのか、自然と口角が釣り上がる。それと同時に「桜っ!」と言う古里の焦った声。途端こちらは地面に叩き付けられた。あまりの恐怖で意識を飛ばした彼女を古里が重力で引き寄せ、こちらを睨んで去っていく。押さえつけのなくなった体を起こして周りを見渡す。
ディーノが、やって来た。
「キレたな」
『黙れや』
その後すぐに人が部屋に入ってくる。
「おいしっかりしろ!」
「タンカを急げ!」
「怪我人多数だ!」
そんな中、ディーノはこちらを連れて恭弥に駆け寄った。
「恭弥! 大丈夫か!?」
「寄らないで」
恭弥はそのまま立ち上がり、「平気だよ」と血が流れる顔を見せてそういった。続けて憎々しげに微かに歯を食い縛りながら告げる。
「プライド以外はね」
.
他の守護者も次々と来賓の方に助けてもらって起こされていた。その中で沢田が「……エンマ……手も足も出なかった」と呟く。
それは他の守護者の脳内に響き、例外でもなくこっちも歯を食い縛った。
それより、クロームが拐われてしまった。というかこっちがキレてしまった。もう何年もキレてなかったのに、なんてことだ。
クロームが拐われたその時、意識を失っていたらしい獄寺と笹川は「マジスか!?」「何処へ行った!」と声をあげる。
そんな彼らを放り、こっちは恭弥向かって一直線に歩き出した。
『恭弥』
「……いおり、肩貸して」
『ほら』
がしっと恭弥の腕を掴んで肩を貸せば割れた額からぱたぱたと血が垂れてくる。そんなものに興味がないかのように前を向いて、怒鳴り合いをしていた9代目とスクアーロを眺めた。
それに割り込んでリボーンが告げる。
「悪いニュースはそれだけじゃねえ。
エンマによって大空の七属性では最高位を持つボンゴレの至宝、ボンゴレリングがぶっ壊された」
9代目の守護者の抱える台には壊されたボンゴレリングが綺麗に並べられていた。ばらばらになってしまったそれを見て目を逸らす。無惨な姿に初代に土下座でもしたい気持ちだった。
もうリングはないのか……と残骸と化したそれを眺めていれば、「まだ光は消えとらんぞ」としわがれた爺の声が辺りに響く。奥から姿を現したのは、目隠しをしたお爺さんだった。……モヒカン?
9代目がじじ様と言っていたので相当歳を召した方だろう。リボーン曰く彼は彫金師タルボと言い、ボンゴレにつかえる最古の人らしい。何でも初代の時代からつかえているとか。彫金師とは金属を加工しアクセサリーを作る職人のことで、彼は相当な腕を持つようだ。すげー。
彼はボンゴレリングの前にたつと耳を傾け「おーイタタ」とリングに話し掛けた。彫金師タルボ曰く、優れたリングには魂が宿り、魂があれば感じることもあるとのこと。彼はその声を聞いてリングを作るのを生業としていると告げた。
実際リングは生まれ変わりたがっていると言っているしそうなのだろう。ボンゴレリングはまだ、死んでいない。彼が言うにガワが壊れただけのようだ。
「ボンゴレリングは次の可能性を示しておるぞ」
「次の可能性……?」
「つまりまだボンゴレリングには、修復できる見込みがあると言うことですな!!」
「そうなるのう」
修復できる、それを聞いて心がホッとして気付く。感じていた胸のざわめきは、リングが壊れる事だったのかと。彼は言う、修復と共にVer.アップをすると。
「お前たちは獣のリングを持っているようじゃの、わしに見せてくれんか」
「ケモノ……? アニマルリングのことですか?」
「そうじゃ、見せてみい」
こっちたちは各々のアニマルリングを彼に渡した。タルボは「こやつらの魂も必要じゃ」とVer.アップに必須だと告げる。彼は「もちろん奴のアレも必須じゃがな」と自分の羽織っていたローブを広げ、現れた材料の多さに目を向く。そして彼がその中から取り出したのは赤い液体の入った瓶。そして、とんでもない言葉を放った。
「ボンゴレI世の血、“罰”じゃ」
何で彼がそんなものを持っているのか知らないが、リングを作り直して貰えるらしい。罪と罰、本で読んだことのある気がしたが、内容は忘れてしまった。
彼は告げる。リングの製造に成功すればボンゴレリングは今までにない力を手に入れる。ただ、失敗すればボンゴレリングの魂を失い、もう二度と輝くことはないだろうと聞かされた。確率は五分五分。こっちたちは全員それを肯定した。恭弥も無言ではあるもののリングには愛着を持っていたから修復できるのならそれがいい。
どうするかは沢田に委ねられた。
「Ver.アップを、お願いします!!」
.
こっちらは体を休めるため、9代目に用意してもらった部屋で休息を取っていた。
恭弥があいつらとは別の部屋がいいと沢田たちのいる部屋の隣を陣取った。それについていくように部屋へ入る。怪我は手当てしてもらった。額には包帯が巻かれている。ちなみに腕と腹の火傷も見られ、「これはひどい! もっとちゃんと包帯を巻かねば!」と巻き直された。緩んでたしいっか。それと、ボロ布はもう再起不能、家に帰ったら予備を被ろう。
無言でソファに座って天井を眺める。恭弥も好きなところ(と言うか窓際の椅子)に腰をかけ、無表情で外を眺めていた。不意に、恭弥が口を開く。こっちの肩が揺れた気がした。
「……ねえ」
『なん』
「きみ、跳ね馬が言ってたように、キレたの、あれ」
『雨宮踏みつけた時んことか』
「そう」
『キレたな、数年ぶりに』
「……なんで」
『恭弥を連れてくとか言うたから』
「……」
『思ってるより、こっち君のこと好きやわ』
ぼー、と天井を眺めながらそう告げれば、照れ臭そうな声で「あっそ」と短く彼の声が飛んでくる。そしてふと気づいた。
『……まだちゃんと言うとらんな』
「…そうだね」
『……恭弥、好きやで』
「…僕も、好きだよ、いおり」
本格的に照れ臭くなって天井から恭弥とは反対方向へ顔を向けた。恭弥も恭弥で顔を背けたまま、指先で肘おきをタン、タン、とついている。そして恭弥はおもむろに口を開いた。
「僕は、もっと強くなるよ。君に守られる側は、もう飽きた。今度は守られる側じゃなくて、守る側に立ちたい」
『……ん』
「ところで、沢田たちは君たちの実力を知らないよね」
『……絶対弱い思われとるやんな』
「見返せばいいよ」
『ん』
そこで扉が開かれ、台の上に二つの手に収まる程度の小振りな岩が乗せられ、台車で姿を見せた。これが、新しいリング?
『……失敗したん?』
持ってきた付き人にそれを聞けば彼は首を左右に振って、これに死ぬ気の炎を込めてくださいと恭弥とはこっちに告げる。……なるほど、失敗するかしないかはこっちらの炎の大きさに懸かっとるわけか。
付き人がリングの岩を置いていったあと、それぞれが自分のものだと思われるソレを手に持ち、炎を灯す。
炎の大きさとは、覚悟の大きさだ。
……こっちの覚悟は、せやな……死なへんことやな。死んでしまうと覚悟どころか全てを失うし、やりたいこともできない。
そんな想いで岩を片手に炎を灯せば、一面が同時に、紅(ルージュ)と紫(バイオレット)の二つの色で覆われる。恭弥のタイミングと被ったようだ。ぴしぴしと岩に亀裂が入って、次の瞬間に岩はとある体の一部位めがけて飛んだ。
首に巻き付いたソレは、堅い金属質の細長い物体になった。
【夕焼のチョーカー Ver.X(イクス)】である。
『……チョーカー……』
首もとをこの部屋の鏡で覗けば首の右に丸いガラスのような宝石のようなものにボンゴレ10代目を指すXが象られたボンゴレの紋様、その回りには小さな羽が羽ばたき、小鳥が端に止まっていた。小さな鎖がちゃらりと音を鳴らす。恭弥は雲のブレスレットのようで、ハリネズミが象られていた。突き出た刺が痛そうだが、綺麗なものだ。
名前はVG(ボンゴレギア)と言うらしい。リングではなくなったが、これが今あるべき姿と気に止めない。
「行くよ」
『なんで』
「彼らが部屋に来る前に」
『……せやな』
沢田たちが部屋へ突入してきた直前に、こっちと恭弥は窓から外へ出た。庭を徘徊して、声が聞こえる部屋を外から盗聴する。
「シモンファミリーの討伐は、ボンゴレX世(デーチモ)とその守護者とする。ただし、リボーンも同行すること。直に船の用意だ!」
9代目の声が窓の外まで聞こえてくる。なるほど、島か。と納得してその場を二人で離れる。草壁にヘリで送ってもらおうと恭弥を見れば、既に携帯で連絡していた。
『はやっ』
.
翌日、朝起きて風くんに事情を話す。昨日は家に帰って笑顔で寄ってきた風くんはこっちの額に巻かれた包帯と着替えてある服、そして腕に抱える再起不能になったボロ布を見てとびかかって来ましたから。どう? 天才的? 暴力的? ……どっちでもエエな、うん。昨日は気絶して話せなかったことを自白した。……別になんも悪いことしとらんねんけど。
風くんはふむふむと頷き、長考してぱっと顔をあげた。
「……今回は、私もついていきます」
『!? リボーンくん居るで!?』
「もう大丈夫です。なので今回は行きます」
『でも9代目から指示』
「私には関係ありません。あなたは最近怪我ばかりです! 一体どれだけ心配させれば済むのですか!」
『うぃっす』
「意地でも行きます」
『なら一緒にいこか』
そんなこんなで風くんを頭にのせて家を出た。もちろんおニューのボロ布被ってます。その上で上機嫌に鎮座している風くん。可愛すぎか。玄関横の鏡を見て鼻血を噴出したのは言うまでもない。……あーあ、新しいボロ布が、早速赤く汚れた。
「なんでいるの!」
学校の屋上にて。なんで屋上にヘリポートが出来上がってんねんとか唖然としていたら、びっとこっちの頭の上を指差しながら声をあげる恭弥。視線的に風くんのことを言っている様子。
こっちは彼に向かって『やから言うたやろ、近い未来会うて』と告げる。風くんは風くんで恭弥を見てにこにこ。そのまま彼の頭の上にすたんと移動し居座る。身軽やなー。
「……なんでいるの」
『風くんか?』
「それ以外に何があるの」
『なんや最近怪我多いって怒られてな。今回は意地でも行く言うて』
「……今回?」
『風くんな、こっt「私はいおりさんの家に居候させて頂いていますからね、毎回毎回大切な人が怪我だらけじゃ心配でしょう?」』
「……もう知らない」
少し疲れたような顔をした彼は風くんを頭に乗っけたままヘリに乗り込んだ。恭弥も疲れる時は疲れんねんな……なんて意外に思った瞬間である。草壁くんが微笑んでいた。……きみホンマにこっちらより一個年下なん? お父さんみたいな雰囲気ばら蒔いとるけど。
.
翌日、朝起きて風くんに事情を話す。昨日は家に帰って笑顔で寄ってきた風くんはこっちの額に巻かれた包帯と着替えてある服、そして腕に抱える再起不能になったボロ布を見てとびかかって来ましたから。どう? 天才的? 暴力的? ……どっちでもエエな、うん。昨日は気絶して話せなかったことを自白した。……別になんも悪いことしとらんねんけど。
風くんはふむふむと頷き、長考してぱっと顔をあげた。
「……今回は、私もついていきます」
『!? リボーンくん居るで!?』
「もう大丈夫です。なので今回は行きます」
『でも9代目から指示』
「私には関係ありません。あなたは最近怪我ばかりです! 一体どれだけ心配させれば済むのですか!」
『うぃっす』
「意地でも行きます」
『なら一緒にいこか』
そんなこんなで風くんを頭にのせて家を出た。もちろんおニューのボロ布被ってます。その上で上機嫌に鎮座している風くん。可愛すぎか。玄関横の鏡を見て鼻血を噴出したのは言うまでもない。……あーあ、新しいボロ布が、早速赤く汚れた。
「なんでいるの!」
学校の屋上にて。なんで屋上にヘリポートが出来上がってんねんとか唖然としていたら、びっとこっちの頭の上を指差しながら声をあげる恭弥。視線的に風くんのことを言っている様子。
こっちは彼に向かって『やから言うたやろ、近い未来会うて』と告げる。風くんは風くんで恭弥を見てにこにこ。そのまま彼の頭の上にすたんと移動し居座る。身軽やなー。
「……なんでいるの」
『風くんか?』
「それ以外に何があるの」
『なんや最近怪我多いって怒られてな。今回は意地でも行く言うて』
「……今回?」
『風くんな、こっt「私はいおりさんの家に居候させて頂いていますからね、毎回毎回大切な人が怪我だらけじゃ心配でしょう?」』
「……もう知らない」
少し疲れたような顔をした彼は風くんを頭に乗っけたままヘリに乗り込んだ。恭弥も疲れる時は疲れんねんな……なんて意外に思った瞬間である。草壁くんが微笑んでいた。……きみホンマにこっちらより一個年下なん? お父さんみたいな雰囲気ばら蒔いとるけど。
.
同じものを2つ投稿してしまいました。気にしないでください。
139:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 22:19 ID:cek
現在、風くんを抱えてヘリに乗ってます。運転は草壁、ほんまに君中学生なん?
しばらくヘリに揺られれば、島が見えてきた。そこの山に沢田たちを発見する。気付いたこっちが恭弥を見れば、彼は既に草壁に指示を出していて、こちらを一度見てから扉を開ける。
「ご武運を祈ります」
草壁のそんな言葉に「うん」『おん』と返して、風くんを抱え直す。恭弥はヘリの引っ掻けに足をカン、と音を鳴らしながら乗せ、下を若干笑顔で見下ろす。こっちはその横で片手で風くんを抱えながら恭弥と同じような態勢で驚く沢田たちを眺めた。ヒバードはこっちと恭弥を交互に見ていたので『恭弥に付いたって』と笑えば了解と言うように恭弥の横でぱたぱたと羽を羽ばたかせる。飛び降りた恭弥についていくヒバードをほほえましく見てから「風くん、リーチちゃんと抱えときや」と忠告し「はい」と返事が返ってきたのに頷き、遅れてこっちも飛び降りた。スカートの中が見えるとかそんなんいっそ関係無い。
すたん、と地面に着地してヘリが去っていくのを背中で感じながら始まっていたアーデルハイトの言葉に耳を傾けた。後ろのリボーンがなぜ風が居るのかと言いたげな視線を送ってくれていますが。
……ありゃ、アーデルハイトの背中にしがみつくように立っているのは雨宮やないか。怯えたようにびくりと大袈裟に肩を揺らし、助けを求めるかのように敵である恭弥に視線を送る。どこの嫌われ系夢小説の悪女やねん。まあ案の定雨宮は恭弥に絶対零度の視線を浴びせられていましたが。
「勝負しろ雲雀恭弥」
「いい」
アーデルハイトからの挑戦を一蹴したように思えた恭弥はその最中でも雨宮に鬱陶しいからこちらを見るなオーラを撒き散らしながら言い放つ。
「以前の屋上での戦いで君と言う獣の牙の大きさは見切った。君じゃ僕を咬み殺せない」
「何!!」
あーあ。何を相手の神経を逆撫でするようなこと言うてんねん。呆れた顔して改めてアーデルハイトを眺める。……あの、そのですね、制服の前を開けるのは構わんのですけど、惜しげもなく胸を晒すんはやめてくれへんかな、心のカメラのシャッター音が鳴り止まんのですわ。そんなことを考えていれば腕に抱えていた風くんから呆れた視線をいただいた。なんやねん。
「まあだけど」
そう呟いてジッとアーデルハイトを観察する恭弥。……思うんやけど恭弥って変態なん? 時々そんなオーラ発するんやけど。あれか? 恭弥も年頃なんか? やっぱし健全な(年齢的には高校生やけど)中学生やったん? まあ別にどんな恭弥でも愛でることには変わらへんねんけどな。
「僕の欲求不満のはけ口には丁度いい肉の塊だ」
「貴様……!! 未だシモンの恐ろしさをわかっていないようだな。勝負だ、ルールは互いの誇りによって決定する」
そう告げてちゃっと大振りな刃物を構えたアーデルハイトは己の誇りを言い放つ。
「私の誇りは__【炎真率いるシモンファミリー】と、【粛清の志】!!」
言うと思った。恭弥はそれをなんでもないようにスルーして「誇りでルールを決めるのかい? 変わってるね」と茶化す。
途端、向かい風が勢いよく吹いて、髪の毛が舞い上がった。
「誇りなんて考えたことないけど……答えるのは難しくない。
【並盛中学の風紀】と【それを乱す者への鉄槌】」
言うと思った。フード部分のボロ布を被ってその言葉を聞いてしみじみ実感する。だが彼はちらりとこちらを見て口角をあげて続けた。……なんでこっち見たん……。
「それと【伊達いおり】」
.
その言葉に一同が固まる。唯一真っ先に動けたのは風くんで、こっちの腕の中で「何を言ってるんですか!!?」と某魔法先生主人公の様に眉間に皺を寄せ笑いながらツッコミを入れた。対する雨宮は絶句。
「雲雀は伊達にベタ惚れか」
「リボーン! なにを縁起でもないことを!」
『風くん今日ちょっとテンションおかしいな』
「あ、あの群れるのが嫌いなヒバリさんが……!」
「恐ろしいっすね……」
『沢田くんらにとっての恭弥ってなんなん』
釈然としない様子でこっちは前に向き直り、「やはりな……ならばルールは簡単だ」と告げるアーデルハイトに何がやはりやねんと内心ツッコミを入れた。
どうやら腕章没収戦をするらしく、文字通りお互いの腕章を先に奪った方が勝ちだ。アーデルハイトは付いてこいと崖から飛び降りスタンと着地する。どうやらそこが決戦の場らしい。
恭弥は崖の方に近づいていき、その道中何やら顔が憔悴した沢田に声を掛ける。
「小動物、今の君の顔、つまらないな。
見てて、僕の戦い」
沢田が「それって」と聞く前に恭弥はタン、と壁から飛び降りた。そこからロールを呼び出し、球針態でタンタンタンと足場を作り着地し、そして初めてVGを装着した。
「ロール、形態変化(カンビオ・フォルマ)」
辺り一面が光輝き、恭弥の姿はいつもの学ランから改造長ランへと変化していた。背中には風紀と縫い付けてあり、やはり彼には風紀に対する並々ならぬ気迫があると改めて実感できる。いや、ヒバードの毛もリーゼンになるとは思わんかったわ、流石に。
恭弥がVGを装着したあと、アーデルハイトが自ら滝に飛び込み、外部からの攻撃を一切遮断する氷の城、ダイヤモンドキャッスルを発動させヒッキーさせる。
そこからでは腕章が取れないと思ったが、彼女は水を氷として操り、自分と同等の実力を持つ氷の人形を五百体出現させた。……五百体てしゃれになっとらんがな。名をブリザードロイドと言うらしい。厨二か。
恭弥は襲いかかってきたブリザードロイドの攻撃をトンファーでいなし、そのあとVGによって頑丈になったトンファーの後ろから鋭利な鎖をじゃらりと垂らし、五体ほどを綺麗な切り口で切り刻む。鎖をトンファーに納めた恭弥はその綺麗な顔に凶悪な笑みを浮かべ、もう七体倒した。
「ブリザードロイドはあと493体、たとえ貴様と言えど体力と兵器が底をつく。私に辿り着くことなど絶対に不可能だ」
こっちも恭弥も不可能? とぴくりと眉を寄せる。アーデルハイトはアホなんやろか。彼女は相手にしてしまった者の大きさを分かっていない。
「君は相手にしてしまった者の大きさをまだ気付いていないね。
僕の腕章を賭けてしまったことに、もっと覚悟を持った方がいい」
恭弥の言葉にアーデルハイトが氷の中からなに? と眉を寄せた。
.
「風紀の二文字は何があっても譲らないよ。
……でも、誇りだから譲らないんじゃない。“譲れないから、誇り”なのさ」
恭弥のその言葉はアーデルハイトに、ではなくて、沢田に告げられたように思える。実際、沢田の顔色が少し変わった。恭弥はトンファーを構えてアーデルハイトに言葉を投げる。
「待ってなよ、すぐに咬み殺してあげる」
その言葉にアーデルハイトが「出来るものならやってみろ!」と怒鳴り、いっせいにブリザードロイドが恭弥に飛びかかった。三体の攻撃を右のトンファーで受け止め、ヒバードをこちらに寄越してからトンファーで凪ぎ払った。ぽすんとこちらのぼろ布の上に座ったヒバード。
恭弥は再びトンファーから伸びるチェーンでブリザードロイドを切り裂き、靴のそこから出てきた鋭利な針で一体の顔面に蹴りを入れて突き刺す。そのまま体を回転させ、顔を砕いてから他のブリザードロイドと衝突させる。その際空中に躍り出た彼はロールに球針態で一方向に針を伸ばさせて10体ほど一気に倒す。球針態をそのまま元のサイズに戻した恭弥は小さくなった球針態をプクプクと増殖させ、トンファーで撃ち込む。宙から放ったそれは外れることなく多くのブリザードロイドへ命中した。そのままダンッと着地する恭弥にアーデルハイトは目を見開いて息を飲み、雨宮はぽかんと口を開け、沢田は唖然、獄寺は「つ、強ぇ」と呟きリボーンくんが「加減しなくていい分伸び伸び戦っているようにすら見えるな」と観察する。
その横で驚いて目を真ん丸にする風くんを抱きながら、こっちは布の奥から微かに口角をあげて恭弥を見つめていた。その最中でもブリザードロイドの数は減っていく。恭弥容赦なし。
恐れを知らず背後からとびかかってくるブリザードロイドたちに手錠を投げ付け各部位を引きちぎった。
「ちっ、ひるむな!」
「ひーふーみー……ふあ〜ぁ、そろそろ頃合いかな」
大きなあくびをかました恭弥は再びトンファーからチェーンを伸ばし、近くの三体を刻む。そこから雲の炎の増殖でチェーンを伸ばしていき、恭弥は周りの敵を自身が回転しながら倒していき、そして__
「……!」
「嘘ぉ……」
「ぜ」
「全滅!!」
恭弥はそのあとダイアモンドキャッスルに攻撃を仕掛け始めた。だが、アーデルハイトも黙ってはいない。再びブリザードロイドを出現させた。
「いいよ別に。戦力にカウントしてないから」
「……なぜだ? 何故貴様ほどの男が、沢田綱吉などにつく」
「ついてなんかいないさ。もしもついていると言うのならば、一番の理由はいおりがいるからだろうね。
君こそもう一匹の小動物につく意味あるの?」
「……炎真は軟弱な小動物などではない、シモンの悲しみを背負う強い男だ」
「いいや小動物さ。背負うなんて不釣り合いなことしてるから悲鳴をあげている」
「!」
「くっ、確かに炎真は戦いを好みはしない! 炎真にとって仲間を失うことは何よりも辛いことだ!」
アーデルハイトの言い分を聞くと、要するに炎真の為に戦ってると言いたいのか、彼女は、彼女たちは。ただ、それは古里炎真に責任を押し付けとる言うことを気付けたらエエのに。
「君はひとつ勘違いをしているよ」
そんな彼女に恭弥は不敵に笑って見せた。
.
「小動物は時として弱いばかりの生き物ではない。でなくちゃ地球上の小動物はとっくに絶滅してるよ」
そう告げて恭弥は球針態をトンファーでダイヤモンドキャッスル向けて撃ち込み、言葉を続ける。
「小動物には小動物の生き延び方があるのさ」
その場の全員がはっとして動きを止めた。……そろそろこっちの出番やろか。風くんに目配せして腕から頭の上に移動してもらう。屈伸して伸びをして、ぱんっとボロ布を伸ばした。布の端は所々ほつれ、まんま切国のそれだ。
何が言いたいと言葉を投げるアーデルハイトに恭弥は「たとえば」と手のひらに乗るロールを見せた。
「君の氷の城を破壊するのは僕のトンファーではなく、この小動物のロールなのさ」
「なに?」
……やから球針態ぶちこんどってんな。納得。ホンマに、恭弥は頭がよお回るわ。
「君の自慢のこの城は、外からのどんな炎攻撃でも弾くようだけど、内側からの攻撃に耐えられるのかな」
そうしてぴしぴしとダイヤモンドキャッスルにひびが走る。氷の城のなかで球針態が大きくなっているのだ。ぼんっとなかで大きくなった球針態はダイヤモンドキャッスルを砕いてアーデルハイトを外に出させる。地に足をつけたアーデルハイトの頭に恭弥はトンファーを構え、「終わりだよ」と死刑宣告を告げた。
「だが炎真は必ずやシモンを復興させる。ボンゴレについたことを後悔することになるだろう」
「僕はどちらにもついていない。僕のやりたいようにやるだけだ」
「……まさに何者にもとらわれることのない浮き雲だな。結局ボンゴレ大空の雲の守護者というわけか…」
「その言われ方嫌いだな……」
そう会話をした恭弥は「まあ…確かに」とヒバードが羽ばたく空を見上げた。
「空があると、雲は自由に浮いていられるけどね。
……でもいずれ、大空でさえ、咬み殺す」
そう言葉を放った恭弥は、アーデルハイトの【粛清】とかかれた腕章を引きちぎって「とったよ」と呟き「いらない」とぽいと捨てた。かわいそうやろ、やめたりや。
そこで、雨宮が「次は私ね!」とこっちを睨んだ。だが、獄寺が「まだヴィンディチェが来てねえ!」と反論する。だが。
「ヴィンディチェにはもう言ってあるわ、私とアーデルハイトはペアバトルなのよ」
『……意地かよ』
「来なさい伊達いおり、案内してあげる」
そう言ってひゅっと観戦していた岩場から飛び降り、恭弥たちが戦っていたところから走って遠ざかり始めた。こっちもしぶしぶと言ったように崖から飛び降りようとした……でもその前に。
『……沢田』
「え、伊達先輩……?」
『見てろ』
布の奥からそれだけ告げてぱっと後ろ向きに、背中から飛び降りた。ばさばさとボロ布がはためく。奥で風くんが「ぶちかましてきてください」と口パクで言っているような気がした。
くるんと回転し、すたんと着地。そして雨宮のあとを追いかけた。辿りついたのは、海岸だった。不思議なことに地面が砂浜ではなく岩場で多少不安定。……ここか。
「ここよ」
『……』
「よくも私にあんな真似してくれたわね」
『黙れ』
布の奥からギラついた視線を送れば少し震えた雨宮。だが、それも一瞬、「黙る筋合いは無いわ」と双剣を手にした。
「言っておくけど、私はアーデルハイトより強いの」
『うざいなこのキチガイ。とっとと誇り言えや、始まらんやろ』
「キチガイじゃないわよっ。……答えてあげる、私の誇りは【シモンファミリー】と、この【双剣】と、【この世界にいること】よ!」
『……』
絶句してドン引きした目で一歩下がる。雨宮は「なんでドン引きなのよ!」とわめいた。るさいわボケ。ざざんと波が彼女とこっちの足を濡らす。
『いや、【この世界にいること】て……トリップでもしてきたんかい、アホらし』
「っ! どうせあなたもトリップでしょ!」
『いやトリップってなんやねん。どこの夢小説やっちゅー話やねん』
「……(この子、本当にトリップしてないの? ならなんで夕焼の守護者なんて原作になかった指輪を持って雲雀さんの彼女なんかしてんの!? 本来私が雲雀さんの彼女になるはずだったのに!)」
訳もわからずこっちをぎりぎりと睨んでくる彼女に溜め息を吐いてにや、と不敵に笑って見せた。
.
『……こっちの誇り、言うてへんな』
「そうね、さっさと言いなさいよ。早くしたいんでしょ?」
『……こっちの誇りは【絵の才能に恵まれたこと】と【雲雀恭弥の隣におること】や』
棍棒をびゅびゅんと手で回し、カンッと岩場に立てる。彼女はこっちの誇りを聞いたとき、いや、正確には恭弥の名前が出たときに目を吊り上げた。まあ吊り上げるだけで何もしてきて無いんやけど。
「伊達も雲雀にべた惚れか」
「当たり前でしょ、なんだと思ってたの赤ん坊」
「(他人のことでこんな自信満々なヒバリさん見たことないや……)」
「初耳ですよ雲雀恭弥! 私は認めませんからね!」
「風、お前どうしたんだ? さっきから伊達の親父みてえだぞ。それと、後でなんで伊達と来たのか、知り合いだったのか聞くからな」
「構いません、その代わりさっきの私がいおりさんの親父等と言う発言を取り消しなさい。まったく、何を言い出すのやら」
「……伊達のやつ、絵の才能に恵まれたとか言ってたけど……どうなんスかねぇ、10代目」
「いおりは絵が上手いよ、応接室に飾ってある校舎の絵、アレ、いおりが描いたやつだからね」
「えっ!? あの額縁に飾ってあるやつですか!? しゃ、写真じゃなかったんだ……」
「……マジかよ」
「確かにいおりさんびっくりするぐらい絵がお上手ですよね」
「(さっきから風のやつ、伊達のことになると喋り出すな……一体どうしちまったんだ?)」
『おまえらうるさいわ、黙れ』
喧しい、むしろ女は三人も集まって無いのになぜか姦しい外野を一喝し、睨み付けてくる雨宮を蔑んだ目で流す。嘲りを込めて彼女を見据えれば「なによその目!」とキレられた。ヒステリックは嫌いやねんけど。うるさいし。
「ルールはさっきみたいな没収戦じゃない。ただのガチンコバトルよ。相手に降参と言わせるか、戦闘不能にした方が勝ち。どう? 分かりやすいでしょ?」
『小学生の考えそうな対決やな』
「いちいちうるさいのよあんたは!!」
『お前もな。ほら、誇りを懸けて戦うんやろ』
「……私は、絶対負けないわ、炎真の為にも、シモンの為にも__」
彼女はそのあと、小声でこちらに聞こえる様にだけ呟いた。「あんたから雲雀さんを取る為にも」と。
その瞬間、戦いは開始され、彼女は「私はVGを発動させる余裕なんてあげないわよ!」と双剣を両手にこちらへやって来た。ぞっと背筋に悪寒が走って咄嗟に「形態変化(カンビオ・フォルマ)!」と叫んだ。小鳥の名前はまだ決めてない。
「でぇりゃ!」
『いっ! がっ、は……』
それと同時に彼女は双剣の柄の尾でこちらの喉を潰した。間に合った。あと一秒ほど叫ぶのが遅かったらVGを発動させられなかった。背後から彼女にたいしての殺気を感じるもこっちに向けられている訳じゃないので雨宮ご愁傷様とか思いながら彼女の腹を蹴り飛ばした。みしりと嫌な音が聞こえた気がする。
「かふっ、」
そのまま雨宮は蹴りの威力により吹っ飛び、背後の海にばしゃんと膝をついた。
.
こっちのVGは発動していた。さっきまで並中の制服を来ていたのにネギ○!の主人公が後半着ていた様なノースリーブの物を着ていた。下は短パンにニーソ。二の腕まである黒い手袋。ズボン以外まんまやん、でも背中にボンゴレの紋章入っとるんやろな。変わらずボロ布は頭から被っとるけど。
腰にはベルトポーチが巻かれた軽装。ポーチの中を見れば一本のペン。そしてそこからぶら下がるのは邪魔にならない程度の申し訳サイズなスケッチブック。このVGはあれか、ネ○ま!リスペクトなんか?スケッチブックとペンの使い方が分かってしまった。
「私のリングの属性は【大海】、海は私にぴったりなのよ!」
そう叫びながら彼女は双剣に海のような深い青色の炎を……実際海も混じっているのだろうそれを纏わせてこちらを一閃した。こっちはそれを飛び上がりつつ避けて、スケッチブックとペンを手にする。
「なっ! あいつ!?」
「…VGの機能か」
驚く声が聞こえた。そんなの関係なしにばりばりとペンを滑らせ、次の瞬間には出来上がった絵。考えが正しければ。予想通りその紙はぼんと白い煙をあげ手に収まる。
こっちが書いたもの、それは未来に行ったときに振るった斧。そのあとにまだ必要だと思うものをストックページにさらさらと絵を書いていく。こっちのVGの能力はこのスケッチブックに書いた絵は実体化すると言うものだ。もちろん幻覚ではなく本物。
『っ!』
こっちはそのまま彼女めがけて斧を振り下ろした。寸での所で避けた彼女は海を転がる。獲物を失った斧は海を縦に裂き、地面の岩場を削った。そのまま斧を引き抜き近くの彼女めがけて横一閃に薙ぎ払う。それもしゃがんで回避した彼女に舌打ちして連撃を浴びせていった。彼女も実力はそこそこあるようで、逆手に持った双剣でガンギンと必死にガードしていく。これやったらスケブのページを開き、持ち手の長いハンマーを出して叩き付けた。
「嘘っ!」
彼女は双剣でハンマーを受け止める、だがそれがダメだった様だ。左手に持つ双剣にひびが入ってしまったらしい。こっちはそのまま双剣を足場に宙を翻りダンと岩場に足をついた。
「予想外だ、彼女があそこまで出来るなんて…」
アーデルハイトがこちらの背中を見ながらそう呟いたのが分かる。リボーンも「正直俺もここまでやるとは思ってなかったぞ」と口にした。
「俺たちはまだなんだかんだで伊達の実力を知らなかったのか」
「甘いですねリボーン。彼女はまだ本気を出していませんよ」
その風くんの言葉で雨宮は顔をしかめた。まるでまだ本気じゃないの?悔しい!って感じの顔がイラつく。苛々する。
後ろを呆れたように睨んで雨宮に再び向き直り、斧とハンマーのふたつを構えながら『まだやろ』とでも言いたげな顔をして挑発した。気ぃつけなあかん。やって彼女はまだリングの能力を使っとらんから。
彼女を鼻で笑ってから攻撃を仕掛ける。夕焼の炎の特徴。それは、軽化……だけではない。正式には『重軽』、10年後のこっちめ、面白がって軽化としか教えとらんかったなアホめ。彼女にハンマーを振り下ろしてから重さを100倍にする。これが当たればひとたまりもないだろう。
命の危険を察したのか彼女は左のひびの入った方でそれをいなした。行き場を失ったハンマーはそのまま海へどぼん。しかし、それだけでは収まらなかった。どっぽぉんと半径100メートルほどミルククラウン状に海は裂けて、したの剥き出しになった岩場はとんでもない轟音を轟かせながら円形に砕かれる。ぽっかりと空いた穴がさっきのハンマーの威力をこっちらに思い知らさせた。
「夕焼の守護者はファミリーの絶対的切り札となる…それどころの話じゃねーな」
外野のそんな声を聞きながらハンマーに炎を纏わせて軽化して担ぐ。下敷きになっていたのは、可哀想なことに粉々な雨宮の双剣であった。
「大海の炎の特徴は吸収よ…? 言わばクッションみたいな役割を果たせる。なのに、粉々なんて!」
こっちは顔面蒼白な雨宮を無言で嘲笑い、ハンマーと斧を消した。…意外に脳内で消えろとか思たら消えたから驚きや。
「なんで武器を消したの? ハンデのつもり?」
雨宮が短く息を切らしながらこちらを睨む。見る人によっては確かにハンデの様に見えるのだろう。こっちの本当の戦闘スタイルを見てない人からしたら。基本的にこっちは素手か棍棒を扱う。これはまだまだ序の口なのだ。
『……』
不機嫌そうな顔で背中の竹刀袋から棍棒を取り出した。こっちはスケッチブックにしゃかしゃかと文字を書き、立体化させる。
<アホか。準備運動済んだから本気でいくねん>
ひゅひゅんと振り回せばやはりこれが一番しっくり来る。
「……準備運動だと?」
「そうです、彼女の本領は__」
遠くでそんな会話をしているとも気付かずこっちは不機嫌を露にした無表情で棍棒を振り下ろした。きんっと双剣で重みの掛かった棍棒を受け止め、こっちはそれを支えに回し蹴りを一発彼女の腹にぶちこんだ。吹き飛ぶ彼女に追い打ちを掛けるようにして、逃がすわけもなく吹っ飛ぶ方向とは逆に勢いをつけるようにもう一度蹴りを入れる。
かはっと胃の中のものを吐き出した彼女は更に浅瀬ではない、奥の方の海にばしゃんと転がった。ざざぁと波をうつ海は靴の中を水浸しにして、ボロ布の端を色濃く染める。
勝敗は戦闘不能にするか相手に降参と言わせること。彼女はどうやらこっちの喉を潰したあと、参ったと言わせるつもりもなくなぶる気だったのだろう。いいだろう、そうしてやる。
彼女の髪を引っ付かんで喉を思いきり拳で突いた。恐らくこれで喉は潰れてくれただろう。参ったとは言わせない。
座り込んでげほげほと咳き込む彼女を冷えた目で見下ろし、ハッと嘲笑する。ざまあみろ。表面では睨みつけられているものの怯えたような色がその瞳の奥に伺えた。彼女はムキになって海の水を自在に操り、手の形を作って襲ってくる。そんな大振り、誰が喰らうと……ん?
足が動かない。足元をよく見れば手の形をした海がまとわりついていて、回避の態勢が取れないようになっていた。せやった、ここ海やん。まあ出遅れである。
こっちがそれに気づいて舌打ちしたときには海の手のなかにいて、がぼっと口から空気が漏れた。
鼻に水が入って痛い、塩水が目に染みる、息が出来ない。
ぶんっとそのまま投げられて背面の崖にぶつかった。
『かはっ……』
ようやく肺に酸素を送り込めると大きく息を吸って吐く。……ちょっといおりさん、ぶちギレそうやわ。
かひゅ、と息をしている雨宮はこちらを見て、こっちの炎で潰れた喉を軽化する。そもそも、最初の喉潰しの攻撃は軽化で軽くしていたので大ダメージではない。試しに声をあ、あ、と出してみると掠れはしているものの、ちゃんと出る。
こっちは早速ダメになってしまったボロ布を脱ぎ去った。
.
「__格闘技ですから」
遠くで風くんが先程の言葉を続けた気がする。こっちは素早く彼女の元へ走り、足払いを仕掛ける。そして重力を失った彼女の右腕と右足をひっつかみ、ぐるんと回転させた。「っ!!!」と宙でぎゅんぎゅんきれいな円を描いて回転する彼女の鳩尾に『っぇやぁ!!』正拳突きをして吹き飛ばす。わーめっちゃ飛んだー。
ざばば、と水切りの様に跳ねる彼女へ、聞いているかどうか分からないが言葉を投げ付けてやった。
『げほっ……譲りたくないものがあるんやったら、それが誇りやアホ。【この世界におること】とか当たり前すぎることバカみたいにかっこつけて言いよってからに……。そんなしょーもないもんとこっちの誇りを賭けろ言うんやったら加減せんからな。侮辱でもしてみぃ、悲鳴を上げてもどつき回すぞ』
彼女のところまで言って腕組みしてそう告げた。彼女はとうとう怯えきった目をして両手をあげる。……何がしたいねん。
「こ、降参した!」
「伊達の勝ちっすね!」
騒ぐ外野、それを聞いて命の安全を確保した雨宮。……はっ、何が。
『アホ、まだ終わっとらんわ』
「……え?」
こっちは凶悪な笑みを浮かべて後ろを振り返る。沢田が顔を青くさせていたが、これはまだ勝敗が決していない。
『やって勝敗……【戦闘不能にする】か……【相手に降参と“言わせる”】か、やろ? 降参の身振りだけしても言うてへんから、まだや』
沢田に向かってそう告げれば、リボーンは「アイツは俺以上の鬼だな」とにやりと笑う。すっかり怯えきって身を震わせる彼女の前にしゃがみこみ、『よおあんな偉そうな口聞いてくれたな』と嘲笑った。
スケブにしゃかしゃかと手錠を掻いて実体化させて彼女の両手にかしゃんと掛ける。そのまま腕を持ち上げて岩場まで引き摺って行った。
「き、貴様! 桜になにをする気だ!」
『黙れカス』
怒鳴ってきたアーデルハイトに冷酷になっているであろう視線をぶつけてスケブにさらさらととある絵を描く。フェアリー○イルの楽園の塔編でジェ○ールが懲罰房へ入れられたときに吊るされていたあの拘束台。それを実体化させて彼女の手錠に吊るす部分を取り付けた。攻撃されたらたまったもんじゃないからシモンリングと片方になってしまった双剣を預かっておく。
一旦いろいろ書かねば、と手頃な椅子を実体化させてぼすんと腰をおろしてバリバリ、とリズムよく描いていく。描けたものは次々と実体化させて並べていく。鉄の処女(アイアンメイデン)、電気椅子、三角木馬、ファラリスの雄牛、昔の時代劇とかでよく見るギザギザの石の上に正座して太ももにレンガをのせる拷問具。あとは電○教師の柊有栖が持っていたような、ディーノのものとは違う鞭。
きっとこっちの顔は凶悪かつ満足げだろう。ぱしーんぱしーんと鞭を手で弾いて彼女に微笑む。
『……ほら、どうにか言うてみ、害虫』
「っ!!!……かふっ、げほっ……」
『必死に声を出して喋ろうとする様が無様やな。どれからやってほしい? あ、アイアンメイデンは気にせんでも最後やから。電気椅子の電気もクソ強い静電気がずっと流れる感じやから死にはせんで』
「伊達さんなんかスイッチ入っちゃったー!」
笑みを携えて椅子で足組んで彼女を見れば、彼女の背後の崖の上から沢田の突っ込む声が聞こえる。いやスイッチなんか入っとらんで。
『キレとるだけや』
「尚怖い!!!」
『……って、あ。……気ぃ失のうとる。……人って恐怖がキャパ振り切ると気絶するってホンマやねんな』
「気絶させちゃったよ!!!!」
『沢田うっさい』
.
「勝敗は決した」
そんな不気味な声が辺りに響いた。姿を表したのはシルクハットに包帯ぐるぐる巻きの黒いローブの男たち。恐らくあれが話に聞くヴィンディチェなのだろう。ヴィンディチェは一戦ごとに過去の記憶を見せるようだ。
彼らはインクの瓶を手に、過去の記憶へとシモンとボンゴレの守護者を誘った。
**
「南イタリアの戦局の方は……あれからどうなっている?」
イギリスの豪華な城の広間で、ボンゴレI世を中心にI世ファミリーが深刻な顔で会議をしていた。
Gと呼ばれる獄寺に似た、I世の右腕かつ初代嵐の守護者が「敵の大部分が集結している……厄介な長期戦になりそうだぜ」と意見を発した。それに山本にそっくりの雨の守護者、浅利雨月が「しかしこれ以上ここに戦力を割くことはできまい」と苦々しい顔で反論した。六道そっくりの霧の守護者D・スペードが「他に三つの抗争をしているのですからね」とI世の横でそう呟いた。
不意に、恭弥にそっくりだが口を開かない初代雲の守護者、アラウディの隣に居た頭からボロ布を被った女がI世に意見する。
「……こっちが出る」
「アイザック!?」
がたんと椅子から立ち上がった、沢田の面影のある落ち着いたイケメン、I世__ジョットが驚いたように目を見開いた。隣のアラウディが腕を組んだままアイザックと呼ばれるボロ布を被った女を凝視する。初代夕焼の守護者であるアイザックはジョットに了承を得ようとするが、ジョット、アラウディ共に止められた。
「アイザックは仮にも女だ、最前線にだすわけにはいかない」
「……元軍のトップを女扱いをするな。舐めているのか、ジョット」
「舐めてない!」
「僕も反対だよ」
「……なんでだ」
「アイザックには目に見えるとこに居てもらわないと困るし調子出ないし監禁したい」
「」
「」
「ジョットもアイザックも息して。……怪我したらと僕泣くからね、部屋から出さないからね」
「……お前の泣き顔か、それもアリだな……。よしジョット、こっち前線行って大怪我してくる。待ってろアラウディ帰ってきたら声も出ないくらい抱き潰してやる、腰を痛める覚悟をしてろ」
「……今も、腰は痛いよ」
「下品だぞお前たち。頼むぞやめてくれ。アイザック、お前は大事な戦力なんだ今前線に出るのはやめてくれ、困る。頼むホントやめて」
どうやら初代夕焼の守護者と雲の守護者は今のこっちと恭弥の関係より深いようだ。やっぱり受けと攻め逆じゃねなんて思いながらI世(プリーモ)さん苦労してんだなとかしみじみ思う。ちょっとアラウディさんがヤンデレちっくですが恭弥くんはそんなことにはならないと断言できる。多分。
そこで敵の大部分に、孤立しているファミリーがいると言う。シモンファミリーである。驚いて助けにいこうとしたI世を引き留めて代わりに自分が行くと告げたD・スペードは口に不気味な笑みを携えその部屋をあとにした。結果的に、I世はシモン・コザァートを見捨ててなど居なかったのである。
「……I世は、シモン・コザァートを見捨ててなんか、なかったんだ……」
過去を見終わった沢田が、ぽつりと呟いた。
.
がしゃんと鈴木アーデルハイトと雨宮桜の首にヴィンディチェの首輪がはめられた。
そこから流れで何者かがコザァートを罠にハメたことになるとリボーンが予測した。とたん、何かの気配を感じ、こっちは呆れたように溜め息をつき、恭弥が「そこにいる君は……誰だい?」と背後に向かってビュッ、と手錠を投げる。運良くその手前の枝に手錠がかかり、投げられた本人は「おっと、あぶねー!」とおちゃらけた声をあげた。
姿を表したのはシモンファミリーの一人、加藤ジュリーだった。なぜか拐ったクロームをくっつけて。クロームの目は生気がなく、何かの術を掛けられたように見受けられた。
アーデルハイトがジュリーを見て「炎真のことは……頼めるわね」と呟く。それに「あぁ、まかせとけ。お前はよくやったさアーデル」とジュリーが労りの言葉を投げた。それに「ジュリー……」と微かに涙ぐみ、恋情を込めた瞳でアーデルは名を呼ぶ。だが、そんな空気はジュリーの一言でぶち壊された。
「ぬふふっ、これでオレちんもきれいさっぱり、シモンに見切りをつけられる」
加藤ジュリーのそんな言葉に沢田と獄寺は「!?」と驚愕し、獄寺の肩に乗っていたリボーンはジッとジュリーを見据える。こっちは地面にほったらかしにしていた風くんを抱えて「……!? ジュリー!?」と驚きを隠さず目に涙を溜めて見開くアーデルハイトを見た。気絶している雨宮など知らん。
加藤ジュリーの正体……いや、加藤ジュリーで合っているのだろうけどその体を乗っ取っていたのは、初代霧の守護者、D・スペード。彼はもう数百年昔の人だ、なんでそんな人が現代に存在するのか謎だがシモン・コザァートを罠にハメたのは信じたくないが彼だった。ボンゴレの為だとかほざいていたが知らん。
怒りに震えて「おのれ!」とD・スペードのもとへ動こうとしたアーデルハイトはヴィンディチェの鎖を全身に巻かれて身動きが出来なくなってしまった。D・スペードは「御苦労でした、アーデルハイト」と彼女に嘲笑をかました。途端、アーデルハイトは「ジュリーを! ジュリーをどこへやった!!」と激昴してしまう。彼女も恋する女の子だったようだ。
途端、D・スペードの背後から「許さねえ!」と聞き覚えのない声が響き、D・スペードの背後から、シモンファミリーの一員である山本をやった犯人とも言う水野薫が鳩尾を貫いた。
とか思ったら今度は水野薫がD・スペードの槍に貫かれて倒れる。なんなんこの刺したり刺されたりな状況。そしてそれを見た恭弥がD・スペードへつっかかる始末。途中で山本武が乱入してきて過去を再び見た。I世はD・スペードの企みに気付いており、シモン・コザァートは殺されていなかったことがわかった。まあそこからVGを解いて芝生のある辺りで座り、ひたすら風くんを愛でt……撫でていた。風くん髪さらっさらやわ。恭弥とやっぱ似とる。リーチもかわええよな。そうして一人と二匹を愛ていたら、ぱたぱたとヒバードがこちらに飛んできて撫でていた風くんの頭に遮るようにぽすんと乗った。お前もかわええなヒバード。
気が付けばアーデルハイトたちと沢田は和解していた。沢田が古里炎真を救うと言う話になっていたようで、アーデルハイト、雨宮、水野はヴィンディチェに連れていかれた。なんまんだぶ。なんまんだぶ。
そしてことが済んでこっち来た恭弥は横で寝転がって寝た。ヒバードが恭弥の腹の上に乗って同じように睡眠を取り出す。なにこのかわええ集団、なにこのかわええ集団。大事なことだから二回言いました。風くんを寝た恭弥の腕にもたれるようにおいて、予め持ってきていA4サイズのスケッチブックにバリバリしゃかしゃかとえんぴつを滑らす。
「どいつもヘコたれてるから一度しっかり休んだ方が良さそうだな、すでに寝てる奴もいるけどな」
「あっ!!!」
「ヒバリさん……いつから!? っていうか! 伊達さん!?」
『あっ……』
「伊達先輩なのなー」
「すげえ勢いで模写してやがる……」
『いや、ちょっと……鼻血出そうで気ぃまぎらわそうと……』
「「「鼻血!?」」」
.
台本書きすいません…。
番外編【ハルのハルハルインタビュー】
今日、リボーンに呼び出しを受けた風は沢田宅へとやって来ていた。
ハル「第二十八回、今回はリボーンちゃんのお友達の赤ちゃん、風ちゃんが来てくれました!」
風「こんにちは」ペコリ
ハ「こんにちは! おめめがクリクリでキュートです! 今回はイーピンちゃんにバレないようにお忍びで来ているということですが」
風「はい、今回、リボーンが家庭教師をすると聞き、それにともないイーピンの様子を見るため日本に来たのですが、イーピンには一人で修行をするよう言っているので師匠の私としては会うわけにはいかないのです」
ハ「はひ〜、赤ちゃんなのに礼儀正しくて敬語が上手ですー!」
ツナ「礼儀正しい所はイーピンそっくりだよ! でもまさかイーピンの師匠がアルコバレーノだとは……。リボーンやコロネロみたいに普通の赤ん坊じゃないってことだよな…」
リボーン「風は最強の拳法家だぞ。でっかい大会で何度も優勝してるんだ。素手での戦闘ならアルコバレーノでもトップだぞ」
ツ「やっぱただ者じゃない〜!」
風「リボーン、まだあなたと真剣に手合わせしたことがないから分かりませんね」
リ「まーな」ニッ
ツ「なんか全然赤ん坊同士の会話じゃないし! ブゥーとかバブーとかだろ? 普通!?」
ハ「確かに内容は難解でよくわかりませんでしたが…仲が良いのはわかりました!」
風「そう言われればリボーンとは不思議と、出会った最初の頃から争い事は有りませんね」
リ「別に争う理由がねーからな。ちなみに、どれくらい風の拳が超人的かツナの消ゴムで見せてやるぞ、ここに軽く撃ってこい風」
ツ「え? 俺の消しゴム?」
風「……しかし」
リ「いいから打て」
風「……では、軽く」
シュッ!! トンッ!!!
ツ「!! んなー! 消しゴムにくっきり小さな拳の跡がー!」
リボ「拳圧だけでこんなことができちまうんだぞ」
ハ「キャー! ちっちゃいお手々のマークがキュートです! この消しゴム欲しいです!」
ツ「そ……そういうもんか?」
リ「ところでハル、風に質問はねーのか?」
ハ「はひ! あります! 風ちゃんのお顔はヒバリさんによく似ていますが兄弟でしょうか?」
ツ「きょっ、兄弟!?」
風「フフッ、兄弟ではありませんよ」
ツ「でも確かに、よく似てる! ヒバリさんの小さい時ってこんなかも……」
風「……心当たりが無いわけではないのですが、彼が嫌がります、次の質問に行きましょう」
ツ「ん……?」
ハ「はひ……?」
リ「じゃあ俺から質問だ、風と伊達はいつから知り合いになったんだ?」
風「ああそのことですか。一年ほど前に私は既に日本に来ていたのですが、泊まる宿が見つからず手頃な所はないかと質問をした方が偶然いおりさんだったのです」
ツ「知り合ったのって偶然だったんだ……」
ハ「あの布を被ったかっこいい女性ですね!」
風「でしょう? かっこいいでしょう? そうでしょうそうでしょう」
リ「お前伊達が絡むと可笑しくなるな」
風「失礼ですよリボーン。そのままいおりさんに家に住んでも構わないと言われたので、現在はいおりさんの家に居候で二人で暮らしてます」
ハル「いおりさん、親はどうしたんでしょうか?」
風「世界一周旅行だと仰っていましたよ」
すると下の道路から『待て待て待て誤解や誤解』と言う悲痛な叫び声がツナの部屋に聞こえてきた。何かがぶつかり合う音が辺りに響く。沢田たちが窓から身を乗り出せばそこには素手の白い物体とトンファーを持った雲雀。白い物体とは伊達である。
ツ「伊達さん!?」
いおり『あ、沢田やん。恭弥ちょお待って』
雲雀「やだ」ヒュカッ
い『聞き分け悪いで』
雲「……ちっ」
つ「(ヒバリさんが大人しくなったー!)」
そうしてハルのハルハルインタビューに雲雀、伊達乱入。
.
い『はー、インタビューな』
雲「僕も一回やったね」
ハ「と言うわけで風ちゃんとまとめて一緒にやっちゃいましょう!」
リ「そうだな」
ツ「大人数になったな」
ハ「伊達さんのプロフィールを教えてください!」
い『誕生日4/12、星座おひつじ座、血液型A型、身長175cm、体重56kgや』
ツ「体重まで言っちゃったよ!」
リ「こう聞くとお前身長たけぇな」
い『兄貴んとこの血ぃ引いとんちゃう? 身長だけ』
ハ「兄貴……?」
い『遠縁のディーノや』
ツ「そうだ、ディーノさんと親戚だった!」
風「彼、いおりさんにとても甘いですよね」
い『せやな、去年の誕生日セグウェイもろたし』
雲「ああ、あれ跳ね馬にもらったやつだったの」
ツ「誕生日プレゼントにセグウェイー!?」
リ「ディーノがマフィアのボスだってのもその時聞いたんだろ?」
い『せやな。いや、あいつ家豪邸やしボンボンやとはおもっとったけどマフィアのボスやったとは。あのへなちょこが』
ツ「ナチュラルに悪口だー!」
い『アイツ、こっちにマフィアやとか隠しとった理由分かるか?』
風「いえ……」
い『こっち非現実的なこと好きちゃうやん、アイツマフィアのボスとか非現実的って自覚しとったからだまっとった言う訳や』
リ「なるほどな」
ハ「難しいことは分かりませんが質問です! 伊達さんとヒバリさんはいつも一緒に居るようですが、お付き合いしているのですか?」
い『ノーコメンt』
雲「そうだよ」
ツ「伊達さんを遮ってヒバリさん即答だよ!!!!」
風「私は認めませんからね」
リ「お前は伊達の親か」
風「やめてくださいよリボーン」
ハ「ヒバリさんのスピーディな返答に驚きましたが、いつからお付き合いなされてるんですか?」
い『……』
雲「……」
ツ「顔見合わせて悩み始めた!」
リ「謎だな」
い『……いや、いつやろ』
雲「……10年後から帰ってきてから……いや、継承式のVGに炎を注入する直前かな」
ツ「(今日はヒバリさんよく喋るなぁ)」
雲「それより僕はなんであの風とか言う赤ん坊と二人で住んでたのか聞いてるんだけど。いつからなのか知らないんだけど」
い『いや、やから……おいおい頼むってトンファー構えんなて。せやな、恭弥と初めて会うたその帰りやな』
風・雲「えっ」
リ「偶然だな」
ツ「心なしか風とヒバリさんの間で火花が散ってるような気がするんだけど」
ハ「その……よ、汚れた布はどうしてですか?」
リ「華麗なスルーだな」
い『ボロつ布は左腕の包帯のカモフラージュや』
ハ「ではいおりさん、風さん、好きな食べ物はなんですか? 順番にどうぞ!」
い『ぜんざいやな』
風「麻婆豆腐です」
ツ「へー、やっぱり中華料理なんだね!」
風「ただし、昔と味覚が変わってしまい、甘口じゃないと食べれなくなってしまいました」
ハ「昔? まだスーパーヤングなのに?」
風「今の私は辛口の麻婆豆腐を食べると涙が止まらなくなるのです」
い『ちょっと風くん今から辛口の麻婆豆腐食いに行こ、早く』
リ「伊達が一眼レフとスケッチブックとえんぴつ持って食い付いたな」
雲「泣き顔が見たいなんていおり変態」
ツ「(ヒバリさんが風を超睨んでるー!)」
リ「ママンの麻婆豆腐は辛口でも美味いから食べてみろ、克服できるかもしんねーぞ。さっき頼んでおいたからな」
風「なんと……!」
ハ「大丈夫ですか風ちゃん? 汗が吹き出てますけど……っと言うことで今回はここでシーユーです!」
**
一階のテーブルにて。
風「うぅ、涙が止まりません……」
い『風くんかわええよ風くん風くん風くん風くん』カシャカシャカシャカシャカシャ
雲「……」
ツ「超連写してるー!!!」
リ「伊達のドツボにはまったみたいだな」
い『ちょっと風くんこっちおいで撫で回さして抱き上げさしてお持ち帰りさして』
リ「それは流石にキモいぞ」
い『キモないわ』キリッ☆)タラァ
雲「鼻血垂らしながら言われてもね」
ツ「いつものクールな伊達さんどこー!?」
ハ「はひ!? ツ、ツナさーん!」
.
そのあと、まあいろいろあり脳内で今喉潰れとるからしばらく生放送無理やな、治ったらなに歌おうとか考えているうちに全てが収束していた。
気がつけば家にいて、腕に抱えていた風くんに「なんで家居るん」とか聞けば「終わったのですよ」とか呆れたようにぐちぐち言われた。可愛いから許す。聞くところによるとD・スペードを倒したからそのお礼で六道骸の体とこの戦いで捕まったみんなを釈放してもらえたと聞いた。驚くぐらい無関心だったこっちはへぇとだけ呟いた。それからもう一週間が経つ。
朝登校して応接室に行けば恭弥は居らず、草壁が「委員長なら遠征で黒曜に行きました」と教えられた。あー、六道か。なら今日の持ち物検査は無くなるんか、いや、アーデルハイトが気合い入れてやるか。
『ほな』
「はい」
草壁に短く声を掛け応接室から出た。もちろんボロ布はまた新しいのを新調しました。すっかり必須アイテムとなったボロ布は目立つものの体を隠してくれるから有難いわ。以前倒した雨宮の姿はあれから見ていない。どないしたんやろか。そんなことを考えながら歩き出した。
*
廊下にいつもの白い人物が現れた。ボロ布を頭に被った長身の少女、伊達いおりである。彼女は知るよしも無いが、校内ではかなりの有名人となっていた。唯一雲雀恭弥と対等な関係を結び、咬み殺されることのないと知られている。普段彼女に人が寄らないのはそれも有るが、一番の理由はそれではない。
涼やかかつ鋭いつり目の赤と黒の入り混じった瞳はメガネのレンズを通しても褪せることなく輝いている。布がまともに隠している艶やかな黒髪は肩上ほどに短く切られて毛先が外に跳ねていた。
布に隠されているものの人よりかなり豊満かつ綺麗な丸みを帯びた柔らかげな胸は歩くたびゆさゆさと大きく揺れていく。アーデルハイトほどとは言わないが細い腰に曲線を描くヒップ、ミニスカートから見える太ももはニーハイソックスで締め付けられて絶対領域を発動させ、それらは頭から被るボロ布に隠され微かなチラリズムのおかげでとても艶めかしく見えていた。あまり開かない桜色の唇等の顔のパーツは普通より男寄りなものの色気を晒し出して、おまけに声もかなり低く、男どころか女までもに人気が高い。教員もそれには類に入れられる。
それゆえ、高嶺の花として声を掛けられることは少ないのだ。そしてもちろん、そんな彼女は誰のものにもならないことは周知の事実だった。そう思われていた。
そんな彼女は廊下を歩くだけで男子生徒から視線を集めるのは必須で、もちろん視線は感じているもののそういう風に捉えられているなど知らぬいおりは煩わしそうに眉を潜め、尚前を歩く。だが、そんな彼女の前に二、三人ほどの少女がコッとローファーを鳴らしながら立ち塞がった。いおりはちらちらと三人の少女から注がれる視線に答える。
『なんや』
そう呟けば三人は顔を赤く染めてひそひそ会話をする。あまりに長いのでいおりはいらいら、周りは三人の少女を羨ましげにハラハラと見つめている。
「サインください!!!」
彼女らが背に持っていたサイン色紙とペンを頭を下げながらバッと差し出した。それに困惑して硬直するいおり。なんのことか分かっていないらしい。廊下の角から身を隠していた雨宮は「屋上で声を出しすぎたか」と憎々しげに舌打ちする。
「白玉様ですよね、伊達先輩は!」
「私達、大ファンなんです!」
「サイン下さい!」
『…雨宮ェ』
しゃーない、と微かに口を動かして三人分のサイン色紙に自分の白玉と言う名をさらさらと滑らせ、ニヤ動上の自分の絵を書いてその少女らに渡して素早く去っていった。彼女の姿が見えなくなったらその場に居た生徒は少女たちにどういうことだと詰め寄る。少女の彼女に関する説明する声を聞いてみんなが各々の声をあげていた。
今日はあの少女たち以来声をかけられへんかったな、なんや雨宮が後ろから物陰に身を隠して視線をくれよったなとか考えながら帰宅すれば、いつもは聞こえる「おかえりなさい」が聞こえないことに気が付いた。
『風くん?』と声にしながら探していると、リビングのコーヒーテーブルに書き置きが残してあるのに気が付く。
『なんや……?
【いおりさんへ。
すみません、急用が出来てしまいました。とりあえず、フランスへ行ってきますね。しばらくしたらまた帰ります。お土産楽しみにしててくださいね。
風より】
……フランスか。やっぱ行動力凄いわ。せやんな、風くん本来の姿は大人やもんな。……アルコバレーノすげぇ。』
その手紙を折り畳んで机に戻し、一旦アルコバレーノについて風くんから以前聞いたものを纏めてみよう。
アルコバレーノ[虹の赤ん坊]、選ばれし七人(イ・プレシェルティ・セッテ)の七人が随分前に集められ、とある光を浴び呪いを受けて赤ん坊の姿にされてしまった、そして自身を見れば体の変化の他に、首には見たこともないそれぞれのおしゃぶりが下げられていたというもの。みんな、アルコバレーノになることなんて、誰一人望んでいなかったようで。マフィア最強の七人の赤ん坊なんか言われてるけど、彼らは何らかの被害者だったのだ。
さて、今日は絵を書こう。風くんが縁側でほんのりしながらリーチを膝にのせてお茶をすする感じの、ほのぼのしたものを。
なぜか若干の頭痛を覚えながら数時間かけて書き上げて、眠りについたのは深夜二時だったことから目を逸らした。
**
数日後、けろりとした顔で帰宅してきた風くん。彼は少し困ったような顔をしてソファに姿勢正しく腰を下ろした。リーチは相変わらずほのぼのとして、風くんの頭の上でさくらんぼを食している。
そして困ったような笑顔をしたので風くんが座る反対側に腰掛けた。本当に困っているような風くんはこちらに一瞥して、口を開く。雰囲気は重かった。
「……本当は恩人の貴女に、こんなことを頼みたくなど無いのですが……」
『……恩人とか、気にしなや』
「……それでは。すみませんいおりさん。私の代理になっていただけませんか?」
『……代理、ってなんなん?』
最強の“選ばれし七人”(イ・プレシェルティ・セッテ)。
運命の日の呪いにより、赤子の姿となる。
彼らは七色のおしゃぶりを持ち、
「虹」を意味する「アルコバレーノ」と呼ばれた。
そして今____“虹の呪い”を巡り、新たなる物語の幕が開く。
.
風くんは帰りの飛行機で夢を見たと言う。自分がアルコバレーノになるキッカケを作った人物、鉄の帽子の男が夢の中に現れ、他にも自分以外のアルコバレーノが出てきた。鉄の帽子の男が告げる、「虹の呪いを解きたいか」。当然それにみんながYesと答えたが、リボーンは「信用できねえ奴と話したくねぇ。勝手に呪っといて呪いを解きたいかじゃねーぞ」と反論したらしい。鉄の帽子の男はそれに対して「アルコバレーノを一人減らすつもりだ」と言葉を発した。
その一人は虹の呪いを解かれ一般人に戻る。そして今の任からも解放され晴れてもとの姿、もとの生活に戻れると言うわけだ。呪いを解かれるのは七人の中で最も強いアルコバレーノ。アルコバレーノ同士で殴り合いでもするのかと風くんは聞いたらしい。返ってきたのはYesの肯定。
だが、風くんのような拳士やリボーンのような殺し屋等の武闘派は置いといて科学者やスタントマンもアルコバレーノには存在するのだ。戦うのに不利すぎる。鉄の帽子の男はそれにも頷き、万が一二つのおしゃぶりが同時に破壊されると大問題だと言うことも教えた。そこで、彼はあるルールを提案したようだ。
各々が自分の代理を立てて戦う。
確かにこれなら科学者でも出来るだろうと言うことだ。
開催は【一週間後】。場所はアルコバレーノ全員に縁のある【日本】。詳細は追って伝えられる模様。プレゼントもあるようだ。
これが風くんに聞いた全て。リボーンやコロネロと言うアルコバレーノにも聞いたようなのでまちがいないと風くんは断言する。
『……それで、ホンマに風くんの呪い解けるん?』
「……恐らく。あまり信用はしてませんが」
『……嫌な予感はするわ。でも、それがホンマやったら風くんの呪いは解けるんやな』
「……はい」
そこまで会話をして深く考え込む。まだ声は本調子ではないが、全然大丈夫。一週間後、日本。国外じゃないなら問題はないな。なら、もう、答えは最初から一拓しかなかったそれに完全に決定した。
『……おん、やるわ、風くん』
「……いおりさんっ! 断っても構わないと言うのに! あなたは、なぜ、そうまでして!」
自分で頼んだくせに。顔を苦渋に歪ませる風くんを身を乗り出して抱き上げ、再びソファに座りながらくしゃくしゃと頭を撫でる。風くんあったか。やっぱ子供体温やな。風くんがもとの姿に戻ったら、彼の体温はどうなっているのだろう。知りたい。
『……こっちと風くんの仲や。やる言うたらやるねん。断ったら追い出すで』
「……すみません、ありがとうございます、いおりさん」
ギュッと風くんを抱き締めながら、『……もとに戻った君を見たいっちゅーのもある』と小さく呟けば、風くんは小さく微笑んで、「貴女らしい」と呟いた。
「いおりさん」
『なん』
「……ぐっ」
『え、どないしたん』
「苦しっ……」
『うおおおおお!!!!』
慌てて体を離せば風くんが目を回していた。うおおおおお!!!! すまん風くんカワエエよ! うわ待ってこれカワエエて、恭弥がこっちに「いおりの変態」とあのVSシモン戦で言っていた言葉は間違いでは無くなってしまう。耐えろ、耐えるのだいおり!
気を取り直した風くんはひょいと大窓へ移動し、こちらを振り返って告げた。
「私は少し他のアルコバレーノを偵察してきますね」
『おん、わかった』
そのままがらりと窓を開いた風くんはトンッと塀に飛び乗り、屋根に飛び乗り走っていった。身軽ぅー。
.
翌日。応接室にいけば、そこには恭弥をリボーンの代理に誘う兄貴の姿があった。
『…兄貴なにしとん』
「いおり! 良いところに! 恭弥をリボーンの代理に誘ってるんだ、手伝ってくれ! いおりも入るだろ!?」
『めんどくさそうやから断るわ』
「うそだろ!」
泣きそうになっている兄貴に蔑笑してソファに座る。ちらりと追い払えと恭弥に視線を送ると、恭弥ディーノに「一日目に答えを出してあげる」と告げて部屋から追い出した。やっぱ恭弥、こっちのことよお分かっとるわ。
「…追い払ったけど、これでいいの?」
『おん』
先程まで座っていた革張りの椅子から立ち上がり、こっちが座るソファの反対側にとさっと恭弥は座る。こくりと頷けば彼はずいっとこちらに身を乗り出し、何も言わずに深めのキスをしてから「、は…」と吐息を吐いて再び元の場所に腰を下ろした。恭弥くんホンマえろかわええ。自分からしたくせに顔赤いんがえろかわええ。めっちゃえろかわええ。大事なことなので三回言うた。ホンマえろかわええ。
『恭弥ホンマえろかわええな』
「っ、やめてくれない?」
ぱっと更に顔を赤くしてプイッと顔を背けた恭弥に苦笑いしながらフードを外す。はぁ…っと溜め息を吐けば恭弥に溜め息を吐き返された。なんやねんもう。
『…なんや』
「自覚が無いなら伝える気はないよ」
『…なんやねんお前』
腕を組み足を組みふんぞり返る恭弥に悪戦苦闘しつつソファから立ち上がって最後と言うようにキスをして舌を滑り込ませる。驚きはしているものの拒否する気は無いのか恭弥は驚くくらい無抵抗で応接室にはくちゅ、と小さく水音が響き、とりあえずここまでにするかと顔をあげて彼の口の端から垂れる唾液を舐めとった。再びばふ、と元のソファに座ると恭弥は垂れた唾液を腕で脱ぐって口の中に残ったそれをごくり飲み込む。
「…唾液多い」
『恭弥お前ホンマえろかわええなかわええよ恭弥エロいかわええ恭弥かわええ』
「かわいいだのエロいだのうるっさいよ。ほんと、立場逆なんじゃないの?」
『ほんまな』
それには度々目を遠くする。いや、恭弥が天性の受け体質なだけやねんホンマ。いおりさん悪ないもん。
『そろそろやな』
「何が?」
『兄貴が言うとったやろ。アルコバレーノの代理戦争んこと』
「ああ、なるほど」
理解したと言うように恭弥は途端に顔を微かに歪ませたが、まあ大丈夫だろう。そして次の瞬間には校庭側の窓ががらりと開いて、ぴょんと風くんが舞い込んできた。
「おや、いおりさんも居ましたか」
『ん』
「やっぱり君か」
恭弥はソファから立ち上がり、風くんが着地した執務をする方の机に向かっていった。風くんはにこにこしながら「私の頼みを聞いてくださいませんか?」と告げる。
「風か。頼みなんて話を聞かないと受けられないよ」
「そうでしたね。では、単刀直入に。雲雀恭弥、貴方には私の代理になってもらいたいのです。今回の代理戦争、優勝した暁には一人のアルコバレーノの呪いが解かれ、元の姿に戻れるとのことで」
「他にも代理は誰かいるのかい?」
「お察しの通り、いおりさんのみです」
『ん』
「へぇ、いおりも代理なんだ、だからさっき、跳ね馬の代理の誘いを断ったんだね」
『ん』
「お願いします、雲雀恭弥」
「…そうだね、構わないよ」
少し考え込むような仕草をした恭弥はすぐに了承の答えを出した。理由は簡単、強いやつと戦える。リボーンチームに入らなかったのは、そのチームに咬み殺したい人間がたくさん居るからだ。ただ、こっちがホッと息を着いたのも束の間、恭弥は「ただし」と言葉を続けた。
「君は強いの?」
「…自分で言うことでは無いのですが、いおりさんと組み手をして負けたことは一度たりともありませんね、完勝快勝です」
『おい風くん』
「なら、優勝したら僕と戦ってよ。それなら代理になってあげる。交換条件さ」
「はい、構いませんよ」
『決定やな』
チーム風が結成した瞬間だった。
そして風くんから渡されたのが、なにやらゴツい腕時計だった。一応かちゃりと腕に時計を装着しながらこれは何かと聞く。
「いおりさんの時計が『バトラーウォッチ』、雲雀恭弥のものが『ボスウォッチ』なるものです。その時計をつけていれば代理となれるようなので。
昨日の夜、尾道と言う鉄の帽子の遣いだと言う方に虹の代理戦争の具体的ルールを教えていただきました。
各アルコバレーノとその代理の方を合わせた集団を“チーム”と呼び、各チームにその時計が配られたようです。各チームごとにアルコバレーノウォッチが一本、ボスウォッチが一本、バトラーウォッチが六本の計八本。アルコバレーノウォッチはアルコバレーノが。ボスウォッチは代理の中のリーダーとなる方が。バトラーウォッチはそれ以外の代理の方が。
聞けば、ルールはとても簡単なようです。ボスウォッチとバトラーウォッチを装着した各チームの代理の方々で戦闘を行い、ボスウォッチを破壊されたチームが敗ける。時計であるのは戦闘許可時間を知らせる為。戦闘は一日一回一定時間、いつ始まるか分かりません。この時計は開始一分前と開始と終了を伝えてくれる。アルコバレーノは基本戦いには参加できませんが、戦闘許可時間中ならプレゼントプリーズと時計に向かって呟けば全ての戦闘許可時間を通して3分のみ元の姿に戻れます。まあ、言うところのバトルロワイヤルらしいのですよ。他チームと同盟も組めるようです」
風くんの説明を受けて彼の左腕に巻き付くアルコバレーノウォッチを見つめる。やっぱ小さいなあ。風くんをそのまま腕に抱えて「どうしますか? 同盟は、組みますか?」とこっちと恭弥に聞いてくる風くんに二人同時に『組まへん』「組まない」と返事をした。やっぱりか、と言うように苦笑した風くんはこっちの腕を抜け出してスタッと恭弥の頭の上に移動する。思わず素早くデジカメでその二人を撮ったこっちは悪ない。
「私はこれ以上代理を増やすつもりはありませんが、よろしいですか?」
「構わないよ、味方はいおりだけでいい。いおりだけしかいらないよ、いおり以外必要ない」
「ふふ、ただの確認ですよ雲雀恭弥。もとよりそのつもりです。代理はあなたたちだけでいい」
「気が合うね、きみ」
「そうですね」
『……』
「おや、いおりさん。そんな微妙な顔をして、どうしたのですか?」
「どうしたの、いおり」
一瞬君たちの目の色がほの暗くなったのはとても気のせいだと思いたい。特に恭弥! アラウディさんみたいなヤンデレにはならんとってや!
ちなみに今は放課後なので、もうすでに代理戦争一日目は始まっている。朝からよく戦闘が始まらんかったなと感心やわ。
そう一息ついた瞬間<ティリリ>とけたたましく時計が音を鳴らす。思わず肩をびくりと跳ねさせて時計を凝視すると<バトル開始一分前です>と機械的な音が流れた。
そのまま時計のカウントダウンが始まってしまい、少しばかり硬直する。
「さて」
「行くよ、いおり」
『え』
風くんにさっと頭にフードを被せられ、恭弥にそのまま肩を引き寄せられて応接室の窓から飛び降りた。直ぐ様校舎のどこかで爆発音。ここ二階やけど!? っちゅーか、……なるほどな。パッと棍棒を背中の袋から取り出した。
「さっきのすげえ爆発は」
「まさか沢田では!?」
「10代目んとこに急ぐぞ!」
下にいたのは野球のユニホームを着た山本、ジャージ姿の笹川、制服着崩しまくりの獄寺。彼らの行く手にすたっと着地し、「させないよ」と恭弥が呟く。
「君たちは僕たちが、咬み殺すから」
トンファーを既に構えていた恭弥を横目に布の奥から彼ら三人を緩く睨む。恭弥の頭の上にはちゃっかり風くんが正座していた。なんやお前らかわええな。
.
今思ったことを正直に口にしよう。ヒバードの上に乗ったリーチのコンビの存在感半端ないわ。とりあえずBLネタとして……ディーノ早よ来いや!!!!
こっちらの現れた時の山本、笹川、獄寺の驚愕の表情が気持ちいい。なんちゅーか、こう、被虐心を煽られると言うか、とっても虐めたい。
「伊達にヒバリ!」
「ヒバリの頭に乗ってるのは…!」
彼らが恭弥の頭に乗る風くんを見つめる。左手にトンファーを構えたままの恭弥は風くんを見てはいないものの「あの島に行ったときに自己紹介してなかったのか」と頬をむすりと微かに膨らませた。
「虹の赤ん坊(アルコバレーノ)の風(フォン)と申します。雲雀恭弥と伊達いおりには私の代理になって頂きました」
「なんだって!?」
「風の代理がヒバリと伊達!?」
なぜボンゴレの守護者が沢田のチームではないのか!? とでも言いたげな彼らの顔に少しむかっ腹が立つ。無条件であまり関わりのない人にハイわかりましたとホイホイ仲間になりにいくわけがない。顔見知り程度の仲間と深い関係の仲間、どちらをとるかなんて一目瞭然だ。
それに、恭弥も恐らくいろいろな条件が重なり、こっちが風くんのチームに居たことが決定打となりこちらのチームに入っただけのことやし。
「あなたたちが着けているのはリボーンチームのバトラーウォッチですね」
「ああ。俺たちはリボーンさんの代理だぜ」
相変わらず獄寺は不良の癖に沢田とリボーンには敬称と敬語で話してるのがギャップを誘ってくる。
恭弥は獄寺の言葉を聞き、「ってことは」と微かに上擦った声を出した。
「敵同士だね」
好戦的な笑顔でビュッと右のトンファーをぶんまわす。尾から出たチェーンが彼らを襲った。間一髪と言うようにそれをしゃがんで避けた三人は今までの経験からか素早く立ち上がり、獄寺と笹川が恭弥に吠えた。
「てめーら!! リボーンさんの代理を断って風の代理になるとは!!!」
「裏切る気か!! 仲間(ファミリー)だと思っていたのに!」
その言葉にぴくりと肩が動く。仲間と書いてファミリー、か。マフィアなんてどこの非現実だよ、と最近まで思っていた。最近はそれを受け入れ始めている自分がいる。……だが、マフィアを受け入れ始めただけで、ボンゴレファミリーの夕焼の守護者と認めた訳ではない。嫌と言うわけでも無いが、コミュニケーション能力のないこっちは人に囲まれるのが苦手だ。
恭弥は根本的なものはこっちとは少し違うけど、大々的な部分は似ている。
『アホか』
「誰がファミリーだって? 僕は群れるのが嫌いなんだ」
そう恭弥が告げた瞬間獄寺が「よく言うぜ」と微かに頬に汗を滲ませながら笑った。「風のチームだって他の代理と群れることになるだろうが」と続けた獄寺を恭弥は鼻を鳴らして嘲笑う。
「それは違うな。彼の代理はいおりと僕二人だからね。最大の理由はいおりが居たから」
「な!!」
「二人だと!?」
「君たちのチームに入らなかった理由は他にもあるけど、僕は話をしに来たんじゃない」
トンファーを好戦的に構えた恭弥に「ふざけたことを言いおって!! ならば俺が分からせてやる!」と意気揚々と眉間に皺を寄せた笹川了平がVGを発動させて黄色い炎を纏いつつ戦闘態勢に変わった。
.
「闘る気スかセンパイ!」
山本が焦ったように笹川に問い掛けた。彼はあまり成績は良くないものの、バカではない。笹川がとあることを忘れているに気がついていた。アホか。笹川に静止なんか聞かへんっちゅーて。
「俺がヒバリの曲がった根性を叩き直してやる!」
『……無理やろ』
小さい声で呟いたのだが「ちょっと」と恭弥に頭を小突かれた。今気がついたのだが、恭弥の背がこっちを少し抜かしていた。やはり成長期なんやろか。少し悔しい気もするがそれはそれで恭弥の色気が増すので良しとしよう。すると獄寺が叫んだ。
「待てっ! 守護者同士の真剣勝負なんて10代目は望んでねぇ!!!」
「……真剣勝負? こんなのゲームだよ」
『……ゲームならこれクソゲーやな』
「まあまあいおりさん。そう言わずに」
布の奥で頬をむすりと膨らませていると恭弥の頭の上にいた風くんが苦笑いを溢した。
恭弥の言葉に「何を!」と怒った笹川が「ならば真剣にさせてやる! 覚悟しろヒバリ!」と叫んだ。なんとも熱血漢のボクシングに集中する超スポーツマンである笹川らしい言葉だ。「では」とタンッと軽快な音を立てて恭弥の頭から飛び退いた風くんはこちらの腕に収まった。
恭弥のゲームと言う言葉は意外に的を射ている。だって__
「ゆくぞ!」
「その様子じゃ忘れてる」
ぶんと彼めがけて繰り出された笹川の拳。恭弥はそれを身を屈めて回避し、そのままトンファーを回転させて、笹川の腕からパキャ、と軽い音が響く。
「パキャ?」
「おしまい」
「あ」
「バカっ、バトラーウォッチを壊されちまったら代理じゃなくなるんだぞ!」
__時計が壊されれば終わりのバトルロワイヤルなのだから。
獄寺の言葉に同じ意を唱えつつ冷めた目で彼らを見つめた。
『恭弥がお前らのチームに入らんかったもうひとつの理由は』
「君達のチームには咬み殺したい相手がたくさんいるからさ」
「……!」
「ちっ」
腕の中で風くんが「やはり代理を雲雀恭弥に代理を頼んで正解でしたね。戦いに対するモチベーションと技術、現時点で彼は私が求めるものをかなり満たしている」と呟く。その言葉に少しムッとする。どうにもこっちが恭弥と同等ではなく劣っているように思えて仕方がない。まあこんなもの思うだけ無駄だとそのムッとした表情を取り払った。だが、風くんは続けざま「いおりさんももちろん負けていませんよ。実力は私と拮抗していますし、あなたのある種の威圧感は私が見てきた中でトップです。威圧感があのXANXUSよりも凄まじい方を、見たことがかったのですがね。パワーもそこら辺の男では比べ物にはならないでしょうし」と嬉しいことを言ってくれた。片手で風くんを胸の前で抱えながらもう一方の片手で布を下にグイと下げる。なかなか嬉しいことを言ってくれるな。
そのとたん、真逆の方向から荒々しい炎を感じて風くんとそちらを見る。
「炎は四つ……いや五つ……」
『……工場跡地の方向やな』
.
Noside
「んじゃ、代理戦争一日目の報告会を始めるぞ。みんながどんな戦いをしたのか、ワクワクだな♪」
並盛町にあるファーストフード店「NAMIMORIDINER」の一席にて。重苦しい雰囲気のリボーンチームのメンバーにとても面白そうだと言う感情を隠しもしないリボーンの声が響いた。
ワクワクじゃないよ! といつもならツッコミを入れるはずの沢田綱吉_ツナも見るからにテンションが低い。
そんな中口を開いたのは笹川だった。
「では俺から報告しよう。開始してまもなく、俺と獄寺と山本は落ち合い、沢田の下へ向かったのだ……。だがそこにアルコバレーノ風の代理となった雲雀と伊達が現れ、俺は応戦したのだが、敗けてしまった!!」
「え!? ヒバリさんと伊達さんが風の代理なの!?」
笹川の報告に驚いて声をあげたツナに「ん……あ……」とバツの悪そうな顔をして言葉を濁すディーノ。ディーノは二人の勧誘を任されていたのだが、あえなく撃沈してしまったと言うわけだ。
獄寺の「ちっ」と言う舌打ちに、困惑した顔のツナに、笹川が「極限にすまん!」と机に頭を打ち付けた。その反動で机が揺れて、笹川のコップが倒れて水が溢れる。
「ヒバリとダテの二人が相手じゃこっちの被害がそれだけで済むはずじゃねーな」
「あ、あぁ……」
リボーンの呟きに山本が苦笑いしながら続きを話す。伊達は風を抱えて眺めているだけで全て雲雀が自分達の相手をしていたこと。少し雲雀と戦闘になったが獄寺のVGのダイナマイト_ゼロ着火で煙幕を張り、山本の雨燕の鎮静の雨を降らせ、雲雀の動きを鈍らせて戦略的撤退に成功したこと。
「ってな訳で、逃げ切って俺達のバトラーウォッチは無事だったが、ツナを探しているうちに時間切れ、タイムオーバーだ」
しまり悪く告げてその短い黒髪をがしがしと掻く山本。獄寺は続けて「つかどーなってんだ跳ね馬ぁ! ヒバリとダテはお前がうちのチームに連れてくるんじゃなかったのかよ!」と机を思いきり叩いてディーノに怒鳴った。
ディーノは顔の前で両手をパンとあわせて「わりい!」と苦難の顔で告げる。
「恭弥が今日うちの代理になるか答えを出すっつーから期待してたんだが!」
そのままきれいな金髪を無造作に掻くディーノは「まさかその前に風チームに入って襲ってくるとは……いくらアイツでもそこまではしねーと……。想像を越えてたぜ。恭弥の説得中に入ってきたいおりに関しては即座に却下されちまった……」と失敗したなと顔を歪める。直ぐ様飛んでくる「甘ぇんだよ!」と言う獄寺の罵声を素直に飲み込んだ。
「こればっかりはヒバリ本人が決めたことだからしゃーねーな。恐らく勧誘されたのはダテが入ってきたあとだろ。ヒバリはダテにベタ惚れだからな。アイツが入るチームに着いていくに決まってる、ディーノが行った時点ではダテがどこに入るかはっきりしてなかったから答えを出すなんて言ったんだろ」
「えっ、ヒバリのやつ伊達先輩が好きなのか!?」
「伊達もヒバリが好きだしな。伊達に関しては最初から望み薄だったからな……期待はしてなかった」
「え、伊達さんに期待はしてなかったって……」
「やっぱ伊達の奴、弱ぇんスよ10代目」
苦笑いでツナに声を掛けた獄寺にリボーンは素早く「そういう意味じゃねえ」と否定した。ディーノもそこは「違うぜ獄寺」とリボーンに同意する。
「ツナもだ。俺はそういう意味で言ったんじゃねえ」
「え…?」
「でも、シモン戦の時はアイツが一番傷だらけでしたよ?」
「あれは相手が女の子だったからだろうな。ダテは行き過ぎたフェミニストだ、女に本気を出すわけがねえ。言っちまえば、ダテは恐らくボンゴレじゃヒバリと同等、いやそれ以上の実力を隠してる」
「ひっ、ヒバリさん以上!?」
リボーンの言葉にツナが飛び上がる。同じボンゴレファミリーと言えど、ツナたちに取ってあまり接点のない伊達。未来での戦いでだって最終局面でしか現在の彼女は出てこなかった。10年後の彼女でもあまり言葉を交わすことはなかった。まあ驚くほどのナイスバディだったが、声が低すぎて最初はみんな気付かなかった程。
頭からボロ布を被って姿をあまり晒さない彼女に実力を図りかねている。
「それに」
リボーンは神妙な面持ちで続けた。
.
「俺が望み薄だと言ったのは、90%の確率でダテが風のチームに入ることが予想されたからだ」
「え!?」
「きゅ、90%の確率!?」
「それはほとんど伊達が風のとこに入るってことじゃないスか!」
「ああ」
ボルサリーノの縁を指で弾いたリボーンは「なんでだか分かるか?」とディーノ含めツナに聞く。ツナは「わっ、わかるわけ無いだろ!? 俺伊達さんと会話したのシモンの島に行って伊達さんに「見とけや」って言われたぐらいだし!」と声をあげる。これに限ってはディーノも頭をもたげた。
「アイツほんっと自分のこと喋んねぇからな。ネットと違って現在じゃすげえ無口だし」
「……ネット?」
「んあ? リボーン、知らなかったのか? リボーン、ニヤニヤ動画って動画投稿サイト知らね?」
「……ああ、ツナが前に青鬼ってゲームの実況見てたな」
「いおり、あそこの一位を争う人気の大御所でさ、ハンドルネームなんだったかな……確か『白玉』だっけか?」
「え!?」
「マジスかディーノさん!」
ディーノの呟きにツナと山本が反応する。獄寺は元々そういうサイトは見ないようだし、笹川は到底知っているとは思えない。
「お、俺が見てた青鬼の実況……白玉さんのだけど……」
「俺は歌ってみた聞いてたのな!」
「お前らファンだったのかー! アイツ生放送じゃ、すげー喋るよな!」
「声すごく格好いいから男の人かと思ってたよ……」
ディーノ、ツナ、山本で盛り上がるその三人にリボーンは一人ずつ蹴りを入れて内容の軌道修正をした。
「話を戻すぞ。風がダテと知り合ったのは、俺がツナの家に来た日だ」
「っ、えぇ!?」
「つまり、ダテと風の二人は俺とツナみてえな関係ってことだな。そんなんじゃ、どっちの代理になるか、分かるだろ?」
「あ……そりゃ、風の代理になる、よね」
「しかもリング争奪戦の時、俺はダテに家庭教師をつけてなかった。だが、裏で風がダテ組手をして鍛えてたんだ、ある種のかてきょーとしてな。これらは全部風から聞いた話だが、実力は奴と拮抗し、無敵の拳法家の風を唸らせられてもまだそこが見えないらしい、それからXANXUSよりも威圧感が半端ないと来れば、もうアイツを弱いなんて言ってられねぇぞ。ダテは男相手の戦闘じゃ酷く冷酷で手加減しねえ、男の急所容赦なく狙ってくるからとりあえず気ぃつけろよ」
「ひいい!」
「ちなみにディーノは10分間俺と一緒にいて戦闘に間に合わなかったんだ」
そしてそのままツナに報告を促す。ツナは一言「父さんに負けた」と告げた。ツナの父、沢田家光はチェデフと言うボンゴレの独立諜報機関のボスだ、バジルもそこに所属している。彼らチェデフはコロネロチームについたのである。それでもツナのボスウォッチが壊されなかったのは、リボーンがコロネロチームと同盟を組んだから。
ツナは腕を枕がわりに顔を埋めて「うう……」と唸る。その様子に心配する獄寺、なんとなく分かってしまった山本、自分の気持ちに名前がいまいちつけられないツナ。
(なんなんだよ……なんなんだよこの気持ち!)
歯を噛み締めるツナに、リボーンは口もとを緩めた。
.
夜、恭弥はこっちの家に居た。しばらくは共にいた方が良いとこっちが告げたのだ。家に入るとき、背後で少し空気の温度が下がったんを感じたこっちが振り返ってみれば、恭弥ににこにこと笑みを向ける風くんと今にもトンファーを持ち出しそうなほど不機嫌になった恭弥の姿が。
とりあえずボロ布を玄関先のクローゼットに放り込み、『お前らはよ入れや』と風くんを抱えて恭弥の背を押す。
「……」
むすっとした顔の恭弥は何も言わずソファに座ってテレビを見る。そんな恭弥に苦笑いしながらキッチンに向かって今日は何を作るかと悩んでいたら風くんが「無難に炒飯でも作りましょう」とやって来た。恭弥にもそれで良いのかと聞こうとしたら、彼は一階に設置していた本棚から抜き出してきたのかHUNTER×HUNTERをソファに仰向けに寝転がって読み始めていた。お前は猫か。うーわ! くっそ! んんん! かわええなぁもう! 死ぬ!
しばらくして炒飯とスープが出来上がったので料理をダイニングテーブルに運び、恭弥に声を掛けるとすんなりやって来てくれた。
「……美味しい」
「ふふ、私が作ったんですよ」
「へえ、料理上手いんだね」
お前ら親子か。顔そっくりやし。
とりあえずそんなくだらないことを内心ぼやきながら食べるスピードの変わらない恭弥に微かに微笑む。風くんも満更では無さそうだ。とりあえず三人で完食してからリビングでのんびり過ごす。
「いおり、親は?」
『世界一周旅行中や。兄貴がマフィアやったし、自分で言うんもあれやけど、家かなりデカい名家やからそれもホンマか分からんけど』
「へえ」
恭弥はそのままうつ伏せにソファに寝転がってHUNTER×HUNTERの続きを読破しだす。『気に入ったんか』とを漫画から逸らさず告げる。まあ面白いのだろう。だってHUNTER×HUNTERのアニメも映画も見たけど面白いやん。ずずず、とソファの上で烏龍茶をすする風くんも既に二周ほど読み返す程だ。
しばらく穏やかな時間が流れたが、一巻読み終わったのか恭弥がこちらに向かって言葉を投げた。
「今日僕泊まるんでしょ?」
『おん』
「場所どうするの? 僕ソファとか嫌なんだけど」
『……せやなぁ。恭弥今夜こっちの部屋で寝たらええわ。こっちソファで寝る……多分こっち今夜寝ぇへんから、ベッドは恭弥が使ってエエよ』
「……は?」
「え?」
恭弥と風くん、二人がぽかんと目を開く。やって今日は夜通しレコーディングして歌ってみたをやって、実況の編集して、その部屋の椅子で寝ると思うし。
「……いや、レコーディングとかそういうのあとで聞くけど、僕男なんだけど」
『大丈夫や、こっちの部屋着替えとかないし。あるのは機械だけや』
「確かに、女性らしさはないですよね……」
「……いおり」
『二人してそんな可哀想な目で見るんやめてくれや頼むから』
とりあえず恭弥にこっちの部屋を案内したら「……気は進まないけど」と妥協してくれた。
こっちの部屋にはベッドにデスク、その上に三つのパネルのパソコン、タブレット、音響機器にDVDレコーダー。地面にはコンポにコピックが敷き詰められた大きなペン立てが20個程。天井に届きそうな壁を隠すような大きな本棚には全て漫画がぎっしり敷き詰められ、全体的に白と黒のシックな感じにまとめあげている。地面に散らばるヘッドフォンは手に持っておく。
「……ホントに、機械多いね」
『……まあな。隣が風くんが過ごしとる部屋や』
「へえ」
そんじゃ。と恭弥を部屋に押し込んで、風くんの部屋とは反対隣の防音室の扉を開けた。
.
まふまふさんの立ち入り禁止と逃走本能の歌詞を使わせていただきました。歌詞が間違っていたらすみません。
部屋に入って後ろ手に扉を閉めようとしたらガッと扉が開けられて驚いて振り向くと、いつもの無表情でこの室内をきょろきょろ視線を巡らせる恭弥と、恭弥の頭の上に乗って微笑む風くんがいた。
『……な、んや? え、どないしたん?』
驚いて最初に声が裏返ってしまった。風くんは「久々に歌を聞こうかと」と悪びれる様子もなく微笑みながら呟き、恭弥は「何してるのか見に来た」とだけ。……要するに、この部屋に入りたいと。……うーん。
『……しゃーないな。頼むから静かにな』
「ん」
「はい!」
微かに満足げに笑った恭弥と満面の笑みの風くんに全てを許した。いや、甘々過ぎやこっち……。
とりあえず、以前リクエストを頂いていた逃走本能と尊敬するべきまふさんの立ち入り禁止を歌わせて頂こう。
既に椅子に座った恭弥と、恭弥の膝の上にいる風くんに内心サムズアップしながらも、逃走本能を歌い出す。
『過去を<青春>と呼んで美化したって、消せやしねえな劣等感反吐が出るぜ』
今日は少し調子が良いみたいで、下がよく回る。気分がいい。
『自己投影したモニターの中の
僕は唐突なサービス終了告知で
廃棄処分 死刑執行 殺されちゃってさ 生憎と面会謝絶だ
なけなしの感情は捨てちまえよ
半端に居座るなよ 吐き気がする
反逆の狼煙だ 今こそ覚醒前夜 抗え抗え 逃走本能
神様なんていない って神に誓ったりして 叫べrockyou』
そこからはもう叫ぶようにストレス発散するように歌った。楽しくて仕方がない。棍棒振り回しているときも楽しくないと言えば嘘になるが、歌っているときも生放送するときも楽しいのだ。
『簡単に終わらせはしないぜ』
と一通り歌いきり、逃走本能はこれでよし、と一発撮りして次の曲を流す。こっちがかなり好きな曲だ。というかまふさんの病み系の曲好きやわ。
「立ち入り禁止どこまでも 出来損ないのこの僕にただひとつ 一言だけ下さい 生きていいよってさ
教えて何一つ 捨て去ってしまったこの僕に 生を受け 虐げられ 尚も命を止めたくないのだ?
痛い痛い痛い ココロが 未だ心臓なんて役割を果たすの 故に立ち入り禁止する」
歌い終えて即パソコンをイジって編集、元々の動画に合わせて二つとも投稿完了。今回は早かったなとか思ってたら椅子に座っていた恭弥が「すごかった」とだけぽつりと先程までこっちが歌っていた場所を見つめながら呟く。
『ん』
「上手かった、人気とか言われるの分かった気がする」
『ん、どーも』
「……なんかむかつく」
.
翌日、代理戦争は二日目を迎えた。朝、学校に止まってると見たことのあるフェラーリが止まっていて、嫌な予感を感じた。慌てるように廊下を走って応接室に行けば、とある書類片手に顔をしかめた恭弥が革張りの椅子で寛いでいた。
『朝、駐車場ん所に、兄貴のフェラーリあってんけど』
「その予想、間違ってないよ。跳ね馬ディーノは今日から臨時の英語教師だ」
『…まちがいなく、代理戦争やろな』
二人して面倒だと気分を落としていれば、窓からひょいと入ってきていた風くんが「まあまあ」と微笑む。確かに、恭弥にとって兄貴は初めて自分に対して師匠面してきた兄貴肌。恭弥的には鬱陶しいのだろう。こっちは貰えるもんはもらっとく主義やし、ちっさいころから仲は良かったからなぁ……。あ、一時間目が始まった。
**
Noside
キーンコーンカーンコーン、無機質な鐘の音が教室と言わず学校中に谺する。もー授業かー、とツナは席に座った。炎真に聞けばシモンファミリーがスカルの代理になってくれたと言う。良かったなぁなんて思う反面ツナはまた強敵が増えたー! と焦っていた。空席に休みだとわかるクロームに少し心配の視線を残して、がしゃーんと言う耳障りな音と共に聞こえてきた「いでっ! 滑るなーこの学校の廊下は……」と昨日聞いたばかりの声が聞こえてきた。がらりと扉が開かれ、「おーいて…初日から決まらねーぜ」と呟きながら教室に入ってくる様子に、ツナ、獄寺、山本、笹川京子は目を見開く。
「チャオ! じゃねーな、英語はハローか」
入ってきたのは伊達眼鏡を掛け、左腕の刺青をバレないようにする包帯を巻いたディーノだった。
「(ディーノさん!?)」
「新任英語教師のディーノだ! ヨロシクな!」
「ははっ! すっげ!」
「ゲッうぜー!」
守護者はそんな反応を見せるもクラスの女子は「ちょっ、何!? 超かっこいい!」「金髪……キラキラ!」と色めき立つ。男子は今朝の様子を見たのか「フェラーリ乗ってた人だ!」と声を出した。
放課後にて。ディーノに屋上に連れてこられたツナ、獄寺、山本の三人はフェンスにもたれかかるディーノに開口一番「いいアイデアだろ」と聞かされた。
「教員なら学校で代理戦争が始まってもすぐに参加できるぜ」
そのとき、屋上の影から様子をうかがう女子生徒が「獄寺くんたちは良いけどなぜダメツナごときがディーノ先生と話せるのよ!!」「不釣り合いすぎる!」「どういうコネかしら」とツナに嫉妬の視線を送っていた。それに気づいた獄寺が「テメーは目立ち過ぎんだよ! ギャラリーがいたら戦えねーだろ!」と怒鳴り付ける。それを「そりゃそーだな」と笑い飛ばしたディーノ。だが、そのとたん屋上の扉が乱暴に蹴破かれ、怒気を滲ませた雰囲気を纏いながら歩いてくる白くてボロい人影、言わずもがないおりであった。
「いっ、いおり!」
その姿に途端に焦ったような声をあげるディーノに、突然現れた色気たっぷりの女子の憧れの的の姿に女子生徒はどういう関係なのかと息を飲む。そのままディーノの前にたち、彼の頭を怒鳴りと共に拳骨で殴った。
『なんっでこんなとこにおるんやクソ兄貴!』
「いでえっ! 待ていおり話を聞け! 俺は代理戦争の」
『分かっとるわへなちょこが!』
「キャメルクラッチいたい!」
ぎしぎしとディーノの骨を軋ませる彼女に会話は分からないが怒鳴りだけ聞こえた女子生徒は「兄貴?」「って言うか伊達先輩関西弁であんなに声かっこいいんだね!」「それこそダメツナの分際でなんであそこに!」と言う声が上がる。
「仮にも俺遠縁で血つながってんの! 痛いだろ!」
『黙れや、朝から気分が最下層や』
「えぇ」
落ち込むディーノを一瞥して去ろうとしたとき、山本に不意に呼び止められた。
「先輩って白玉さんスか? ディーノさんが言ってたんすけど」
『…せやで、白玉や』
「お、俺たちファンです! 応援してます!」
「握手してください!」
すっと山本と握手して目を爛々と輝かせるツナの頭をわしわしと撫で回し、いおりは本当にディーノを殴り付ける為だけに来たらしく、屋上から去っていった。女子生徒から「ダメツナが伊達先輩に頭を!?」「知り合いだったの!?」「山本くんとも握手してたよね!」と騒いでいた。
下校時刻、恭弥はディーノと接触して戦うことを取り付けたようだ。ホテルに泊まってるからそこにこいと言われたと恭弥に教えられ、風くんを腕に抱えて夜、そのホテルへと赴く。
「ずいぶん豪華なところへ来ましたね」
『兄貴の部下が間違えて取ったんやと』
「跳ね馬は夜、ここに来ると言っていたからね」
そんな会話をしていて気付く。恭弥がなぜかディーノに執着していることに。何でだろうと疑問に思っていれば風くんはこっちの腕を抜け出して恭弥の頭の上に移り、「なぜです? ディーノにそこまでこだわるのは」とこっちの疑問を恭弥に聞いてくれた。
「あの人は初めて僕の師になったつもりの人だ、でもそんな存在、僕は要らない」
そう冷たく言い放った恭弥に布の奥で苦笑いしてチンとちょうどよくやって来たエレベーターに乗り込んだ。
最上階まで目指すエレベーター内はあまり会話がなくて、それでも少し落ち着く。だが、その階の手前でいきなり<ティリリ>と時計から音が鳴り、バトル開始一分前を告げた。……なんや、オチが読めてきた言うか……嫌な予感がする。
「始まりますね」
『ん』
「代理戦争で優勝したらって約束覚えてるかい?」
「もちろんです」
そうして最上階に到着。ぷしゅっと扉が開かれたそこを見れば、自分たちよりも体のでかい黒ずくめの男たちと一人の女が立っていた。……ヴァリアーである。
「ゔぉ゙ぉい、これから出向こうって時に……」
「ししっ! ボロ布連れたカモがネギ背負って来やがった」
「伊達を連れたヒバリが風背負ってだろ」
「まんまじゃない…」
「久しぶりね、イケボ女」
『おまえ誰やねん美人ちゃん』
「ムムッ、風」
「やあマーモン」
「これはこれで嬉しいな、ここはまるでサバンナだ」
見覚えのある子だが、適当に誰やねんと返しておいた。いや名前はちゃんと覚えてます。
とりあえず向こう側のアルコバレーノのマーモンに親近感を抱き、とても可愛らしいフォルムを抱き締めたい。もうこの際変態と呼ばれてもかまわん。
.
「あれ? ボス猿がいないね」
『奥で寝とんやろ』
「ゔお゙ぉい伊達にヒバリぃ」
「笑わせるじゃん」
パシャッ
「俺達じゃ相手にならないって言うのかぁ?」
パシャシャッ
「君たちだって役には立つさ。僕の牙の手入れ程度にはね」
バシャバシャバシャバシャ
「……いおり」
『うぇっす』
とりあえず向こうの方にも変な目で見られたのでデジカメを片付ける。壊されたらたまらんし。
とたん、風くんが恭弥の頭から飛び降りて「プレゼントプリーズ」と呟く。姿が戻った瞬間彼はヴァリアー側のでっかいおっさんを壁に蹴り飛ばし、オカマはふらふらとしてついには倒れる。前髪の長いティアラの少年のナイフをそのまま足で蹴り返した風くんはその少年の時計を破壊してふぅと息をはいた。
「っひょー、とことん規格外っ!」
「無事だろうなぁ、ベルフェゴール、リアス」
「ったりめーじゃん! アホのレヴィやカマのルッスとは出来と育ちが違うし。だって俺王子だもん」
「私も簡単にやられるたまじゃないわよスク」
だが、ベルフェゴールと呼ばれた少年は「時計は壊されちったけど」と悪びれる様子もなくスクアーロと呼ばれる銀髪ロングの声のでかいイケメンに笑った。
「終わってんじゃねーか! リアスを見習えカス王子が! だからいつまでもぺーぺーなんだ!!」
「そー言うけど相手はあの化け物だししょーがなくね?」
『リアスちゃん言うんやかわええ』パシャッ
「……ボロ布女は黙ってろぉ゙!!!」
『うぃっす』
その隣で恭弥が自分そっくりの顔を持つ青年を睨む。
「ねえ、ちょっと君。なに余計なことしてんの?」
「あなた方二人では危なっかしくて、見てられません」
『おい風くん』
呪解した風くんは恭弥そっくりのとてもイケメンさんでした。これが本来の姿なのかと思うと次から抱き上げるのに抵抗があるがもうこの際気にしない。恭弥と風くんからの色気に当てられそうないおりさんがいます。
.
Noside
「どいてくれる? 一人で出来るよ」
「おい待てヒバリぃ!」
押し退けようとする雲雀にスクアーロが声をあげた。
「ヒバリを先に倒しちまったら激レア必至のアルコバレーノとの対戦ができなくなっちまうだろうが!」
「誰が倒されるって?」
「ふくれないで。レア度の問題ですよ」
「二人で掛かってくる分にはかまわないぜぇ! 三枚ずつ六枚におろしてやる! そこのボロ布女はリアスになぶられてろ!」
スクアーロがリアスの方を見たときだった。泣きそうな彼女は拘束台に縄で腕を吊るされ、ボロ布の塊だった伊達が頭のフード部分をぱさりと落として芯のある短い鞭片手にリアスを眺めていた。
「んなっ」
「……いおりの目が輝いてたのはこういうことか」
「サディストモードのスイッチが入りましたね」
いおりが彼女にスクアーロを指差しながら『こっちのことなぶれってさ。なぶってみ、できるんやったら』といやらしい笑みを浮かべて彼女の顔を覗き込んでいた。
そこで「黙れカスザメ」と言う声と共に小さくて白い塊がスクアーロめがけて飛んでいき、オリジナルらしいナイフがリアスの腕を吊るしていた縄を切る。やっと来たな、XANXUS。とかその隣にいるマーモンを見つめながら思ういおり。そこでマーモンが風と会話をしていたのか「とにかくお前なんか大っ嫌いだ! 代理戦争に勝って呪いを解いてもとの姿に戻るのは僕さ!」と叫ぶ。
『さて。リアスの腕時計、壊しにいくか』
いおりは瞳の奥に鋭利を宿らせながら睨んでくるリアスを睨み返した。
「それは本当なのか? 白蘭がコロネロの弾にやられツナが単独で家光さんを倒しに飛んでいった? ソイツはマズイぞ……今のツナじゃ家光さんに勝てない!」
ヴァリアーVS風チームの戦いを物陰から伺う男が電話越しに呟く。相手にそっちの状況を教えてくれと伝えられ、彼は口を開いた。
「今来たところだが、すでに風チームとマーモンチームが……。! 始まった!
XANXUS・スクアーロ・リアス対風・雲雀恭弥・伊達いおりの超高速バトル!」
**
リアスに棍棒をブン回し、彼女のレイピアの攻撃を宙返りで避ける。そこで視界の端にXANXUSが銃を放ったことに気付き回避体制を取った。途端にドォン! とこの階のガラス窓が破壊され、みんながばっと距離をとる。
マーモンが「なんてハイレベルな戦いなんだ、まだ様子見だろうに目が追い付かない」と呟いていたのを聞いて冷めた目で折れた左腕を右手で押さえるリアスを見つめた。折った。彼女はリング戦から強くなっているものの、到底及ばない。弱いままだった。ちらりと見回せばこちらのチームは風くんが少しダメージを受けていて恭弥に「君口ほどじゃないね、大丈夫なの?」と皮肉を告げた。
「はい。今の攻防で、この体のサイズの勘を取り戻しました」
「?」
「?」
「んだぁ? 負け惜しみかぁ?」
『アルコバレーノがそない弱いわけないやろアホ、まだこっちも勝ったことないのに』
「なっ」
「次はミクロン単位で動けそうです」
服の裾に手を掛けながら放った風くんの言葉にスクアーロが「み、ミクロンだとぉ!?」と動揺する。リアスは歯を食い縛っていたので少し嘲笑った。バッと上着を脱ぎ去った風くんの肉体美に鼻血を出しそうになるも耐えてばっとVGを発動させて斧を構える。
「ヤロォ」
「カスが」
「面白くなってきたね」
『……』
ボロ布を再び頭から被って、風くんの行きましょうの言葉を合図にこっちはリアスの背後に移動して裏拳を繰り出す。ぱきゃ、と言う軽快な音が響いて彼女の背を蹴り飛ばし、風くんが放つであろう技から回避させる。次の瞬間には風くんの奥義である爆龍炎舞が火を吹き、スクアーロの腕時計を破壊した。
上空からXANXUSに止めをさそうとしていた風くんは急にぴたりと動きを止めて、それと同時に頭からコキンと音が聞こえた気がする。天井で退避した風くんはなぜかいきなり全身からぶしゃっと血を吹き出した。それから身を守るように布をグイと下げて目に入らないように防御する。ダンッと地面に着地した風くんは「危ないところでした」と呟いた。いきなりどうしたのか、訳がわからん。
「これで分かったろ? 武術より幻術の方が優れてる」
凛とした涼やかな声が、フロアに響きわたった。
.
「今放った奥義は、脳に特定の縛り(ルール)を作り、その縛りが破られたら肉体にダメージとなって返ってくる……バイパー・ミラージュ・R」
「ああそうさ。特別に今回は脳への縛りを教えてやるよ……。
“勝利を疑ったものは、自爆する”」
風くんの視線の先に居たのは、地面に藍色のおしゃぶりを転がさせて、自身をローブで隠した少女とも少年ともとれる子だった。XANXUSが「マーモン」と呟いたのであの赤ん坊なのだろう。顔はした半分しか見えていないが相当なクールビューティちゃんだろう。ショートカットの薄紫色の髪がフードから見えていた。
『……幻術?』
「そうだよ。バイパー・ミラージュ・Rを掛けられた者は、勝利を疑った瞬間に肉体にダメージを受けるようになるのさ。風のようにね」
『……へえ』
こちらが布の奥から尊敬の眼差しを向けてマーモンを見つめれば、マーモンはふいと照れ臭そうに顔を背けて但しと続ける。
どうやらバイパー・ミラージュ・Rは強力なぶん、対象者を絞れないようだ。だからこのフロアにいる人間全員に掛かっただろうし、味方それに自分にだって掛かってしまっていると言う。
「勝利を疑うと言う縛りは成功だったと思うよ。ボスの勝利への自信が揺らぐはず無いからね。ね、ボス」
マーモンがXANXUSの横でそう言い放てば、風くんが「勝利への自信なら雲雀恭弥といおりさんも負けていませんよ」と言い返した。まあ、負けるとか有り得んとか思っとるけど。
「(ヒバリがどこまでボスに食らいついていけるかのかが見所だな。だが、この戦い勝敗の鍵を握るのは間違いなく__アルコバレーノ同士の戦いと、伊達の働きか)」
「マーモン、たしかあなたは先程幻術の方が武術より上だと言いましたね」
「ム。不服なのかい? 風」
「いえ、面白い比べ方をすると思い感心しました。そして興味が湧きました。
『私の武術があなたの幻術より上なのか下なのか』」
「その前向きなところが嫌いさ」
「そう言わずに」
アルコバレーノの二人がざあっと砂のように消えたことに恭弥が目を見開く。スクアーロは二人が邪魔されないようにマーモンの幻術で姿を消し、一対一の勝負をする気だと言う。
とりあえず腰のベルトポーチからスケッチブックを取り出し、バイパー・ミラージュ・R対策を作った。
『恭弥』
「なに」
『飲んどけ』
出てきた丸薬を恭弥に渡してこっちも口に放り込む。これが、対策。幻術が効かないようにする薬だ。本当にこのスケッチブックは便利に思えて仕方がない。ノーリスクで思い通りの物が作れる。こくりと飲み込んだ恭弥は不思議そうにこちらを見た。
「なにこれ」
『幻術が、効かなくなる薬』
「はぁっ!?」
「幻術が効かなくなるだとぉ゙!?」
スクアーロが「お前今日初めてマーモンが幻術を使うって知ったんじゃねーのか!」と叫ぶのに対し『おん、初耳やった』と呟いてXANXUSを睨む。
『んじゃ』
「僕らもやろう、ボス猿」
「散れ、ドカス」
XANXUSと恭弥が駆け出すのと同時にこちらは距離を取って椅子に座り、スケッチブックにペンを滑らす。ストック付箋はいくらでもある。今は戦力を溜めようか。
.
こちらに三つの不思議そうな視線が突き刺さる。ちょ、なになにやめて。集中できひん。するとベルフェゴール、スクアーロ、リアナが興味深そうにとうとうやって来てしまった。
「ししっ、戦いほっぽりだしてなにお絵描きしてんだよボロ布サディスト女」
『……ひっどい言い草や、お絵描きちゃうし』
「どっからどう見ても遊んでんじゃねーか」
『VGのひとつやボケ』
試しに札束の山の絵を書いて実体化させてみれば三人から「はあ!?」と言う声が上がった。天井にまで届きそうな札束の山。これはもう必要無いなと思わず破り捨ててしまえば、それは現実の物体として実在する。ドヤッ、と顔を三人に見せればムカつくと声を揃えて告げられた。解せぬ。
『とりあえずこの金は君たちにプレゼント(気まぐれ)』
「うわ。そのスケブありゃ何でもできんじゃん!」
『但し画力に限る』
そう言い放ってフロアにボロボロの風くんと現在進行形で血を吐き出しているマーモンが再び姿を表した。
「考えることをやめなさいマーモン! 考えるほど多く血を流します!」
「あ゙っ!」
マーモンめがけて駆け出した風くんは彼女に飛び蹴りを食らわそうとしながら「今気を失わせて楽にしてあげます!」ととびかかる。それと同時に風くんの首もとにひゅんっと赤いおしゃぶりが飛んできた。それにつられるように風の体は少年のものに変化し、ひゅんひゅんともとの姿に戻っていった。
……タイムオーバー、時間切れ。風くんは解呪の時間を使いきってしまった。コロコロ、と地面を転がった風くんは膝をついたマーモンの足にぶつかり動きが止まる。
「しまった! 私としたことが!」
<風の呪解、タイムオーバー>そんな無機質な音声が、聞こえた。
.
「や…やった……。
ざまみろ風!! 勝負に負けても代理戦争で勝つのは僕だ!!」
足元に転がる風に叫ぶマーモン。そのまま彼女は「風は戦闘資格を失った! あとはお前だけだ雲雀恭弥!」と恭弥に怒鳴った。恭弥はその様子をXANXUSの攻撃を受けながら見ている。
「ボスウォッチはもらった! えい!」
『効かへんで』
マーモンが恭弥に幻術を発動させても何も起こらないことを見る前にこっちが彼女の前にたちはだって斧を構える。どうやらマーモンはこっちのことを忘れていたようだ。びくりと肩を揺らしてこちらを睨んだ。
「っ! さあボス! ボスウォッチを壊して!」
「あぁ飽きた。しねカス」
マーモンがこちらを目の前にXANXUSに叫ぶ。芯の強い人だ、マーモンと言うこの子は。
XANXUSの二挺拳銃の口径が大きく広がり、恭弥めがけてとてつもない威力のそれが放たれた。咄嗟に先程描き溜めていた絶対に貫かれない盾を恭弥の前に飛ばし、その攻撃を防がせる。XANXUSの攻撃はそのまま何も破壊することなく跳ね返り、XANXUSの頭上の天井を貫いた。
「お前! なにしたんだ!」
マーモンがこちらに怒鳴り声をあげる。それにこちらはスケッチブックのページを素早く開き、マーモンを檻に閉じ込めた。
「いらいらするなもう! さっきからなんであんなチート級の物が飛び出てくるんだよ!」
『……それがこっちのVGやからや。こっちのVGは創造力と画力がものを言うねん。それを使いこなしてやれば__』
一枚の紙をスケッチブックから千切り取ってビッと床に投げる。途端その場に現れたのは軍でも扱われる、戦車。
『__こんなことだって出来る』
カチッと戦車のとあるボタンを押して『耳塞げ!』と怒鳴ってからXANXUSめがけて大砲を撃った。これで仕留められているとは到底思えない。とりあえずスケッチブックからこっちの身の丈二倍程の大剣を取り出し炎で軽化してから、槍投げの様にぶんと投げつける。50万倍、手が離れた瞬間そう叫べば轟音と共に床が盛大に崩れた。そこで、なぜか困り顔のディーノが頬を掻きつつ登場した。
「……いおりぃ、こりゃあやり過ぎだぜ」
『XANXUSがあれぐらいでやられるとはおもってへん』
ディーノの登場にみんなが驚愕した。とりあえずこっちはさっきまで座っていた椅子に腰を掛けて疲れたので休ませていただくことにした。
.
少し寝てしまっていたらしい。大爆発でぱちりと目が覚めた。
ここより上のフロアは消し飛び、ぼろぼろなXANXUSと恭弥の二人。その時戦闘終了の合図が鳴り響く。とりあえず、引き分けやな。だが恭弥は納得できておらず、決着をつけたいとトンファーを構えた。だが、すぐに時計から代理同士の戦闘許可時間外での戦いは固く禁じられていると聞き、恭弥はひゅっと回転させたトンファーで、ボスウォッチをばきっと壊した。
みんなで一斉に口を開けて目を見開きながら恭弥を見つめる。恭弥は何でもないように壊れたボスウォッチを見せつけ、「いちぬけた」と呟いた。
「ぼ、ボスウォッチを……!! お前何したのかわかってるのか?」
「あり…え…ない…! 今までの戦いは一体なんだったんだ…」
ディーノとマーモンがそう口を動かす。風くんが鼻をすすってから控えめに「優勝したら私と戦うと言う約束はよかったのですか?」と疑問を投げたら。
「僕は戦いたいときに戦う」
『……唯我独尊やな』
「……何か言ったかい?」
『なんも言うてへん』
さっと目を逸らせばXANXUSが「だはっ! 同感!」と笑い出してこんなもの!と叫びながら憤怒の炎を時計に集める。それを見た瞬間マーモンは飛び上がり、他の幹部はXANXUSにのしかかった。
「ボォス! それはダメ!!!」
「はなせカス共!」
「嫌よXANXUS! 流石に全財産使い果たしたマーモンが可哀想!」
「時計は壊さないで! マーモンの一生のお願いなのよ!!!」
「ゔぉ゙ぉい跳ね馬ぁ! 早くヒバリをつまみ出せぇ!」
ドタバタ喜劇を巻き起こしているヴァリアーを横目に檻の方へ赴き檻を消した。プレゼントストップさせて赤ん坊の姿に戻ったマーモンの前にしゃがみこんで頭を撫でる。なんってかわええんやこの子。甘んじて受け入れてあげてますってところがまた。
「……なにさ」
『いや、全財産使い果たしたってほんま? いくらほど?』
「そうだよ、兆はあった。僕は元の姿に戻るために金を集めていたんだ……ヴァリアーリングに使ったよ」
『ん。いおりさんの気まぐれな』
スケブにさらさらと先程描いた札束の山を五、六個ほど書いて出現させ、現実のものとするために破り捨てる。ぱっと現れた金の山にマーモンは唖然とした。
「……これ、本物?」
『ん、本物。京の額の金や。やる』
「……くれるの」
『嘘は言わん』
ふよふよと浮遊して金の山を見上げるマーモンはこちらを向いて「感謝の言葉なんて言わないよ」と幻術でそれを消して少し嬉しげだった。こっちは最後にマーモンの頭を撫でてからディーノと戦うと言って聞かない恭弥の元へ行く。
『恭弥、こっち疲れてもた。風くんも、帰ろや』
「うん」
「はぁ!!!?」
ディーノが背後で大口開いて驚いているのを一瞥し、蔑笑して背負えと無言の圧力を掛けてくる恭弥をおぶった。恭弥の頭の上に風くんが飛び乗った気配がする。
『……そんじゃ、お先失礼するで』
そのまま床からタンッと飛び降りる。スケブから浮遊機を呼び出し取り付けてそのまま家へと直行した。
.
空中散歩をして、しばらくしてから風くんは報告が入った第八のアルコバレーノについてアルコバレーノ全員で話し合うために今夜は一晩空けると途中で別れた。いってらっしゃいと一言送り出してもう遅いからとっとと家に帰って寝ようということになった。面倒なので今日も恭弥は家に泊まる。途中コンビニに寄りたいと言い出したので恭弥をコンビニで下ろして天体観測。栄養ドリンク等を購入して出てきた恭弥を再び連れて帰宅する。
もう今日はいろいろあって疲れたわ。とソファに座り込んだ。電気をつける気力も無い。
新任英語教師として現れたディーノ、ヴァリアーとの代理戦争の引き分け、恭弥の自爆。本当に、いろいろとありすぎた。ヴァリアーのみんなが規格外過ぎる。マーモンかわいかったよ。
『もう、はよ寝よ』
「……」
はあと溜め息をついて立ち上がれば隣に座ってテレビを見ていた恭弥がすかさずグッとこっちの服の袖を親指と人差し指で摘まんで引っ張った。なんやこのいじらしくも可愛ええ小動物は。
とか考えてる場合じゃない。素早く脳内整理を終えて、それでも唖然として恭弥を見つめる。とりあえず中腰のこの状態も腰にクるのでもう一度座らせてもらった。
「……」
『……』
隣でむすっとこちらを見てくる恭弥の鋭い目を見つめ返して数十秒、恭弥はおもむろに全体重を乗せてぐいっと唇を寄せてくる。その表紙に自然と押し倒される形になって、珍しく今日はこちらが下だ。軽やかなリップ音を立てて離れる恭弥は目を見開いた。
『……ん?』
「ん、じゃないよ。もうちょっと警戒心を持ったらどうだい? 無防備過ぎる」
『……はぁ、風紀委員がこんなことしてええんか』
「僕も男なんだよ。……もう、僕がコンビニに寄った理由も分かってるんじゃないかい?」
がさりと栄養ドリンクの中から取り出した、恭弥の手に収まって彼が揺らす度からからと中から音を出す箱を唖然と見つめる。
僕は男、こっちは無防備過ぎる。つまり、そう言うことで。コンビニに寄ったんも、ソレ買うためで。今こっちに覆い被さっている恭弥は薄ら笑いを浮かべた。
『……あー』
言葉にならない呻き声をあげながら右腕で目を覆えばすかさずそれは外されて頭の上で固定された。こっちの上にいながらもやっぱりどこか可愛らしい顔をする恭弥の唇に吸い付いて舌を差し入れて歯列をなぞり、上顎を擽って流れてくる唾液を飲み込む。
「……っは、ぁ」
『……あー、こっち初めてやけど』
「安心しなよ、僕もだから」
再びもう一度唸って、まあエエか。もうどうにでもなれと不敵な笑みを浮かべてから恭弥の腰を片腕で引き寄せた。
**
情事後、体力の限界の所為か、ソファの上でぐっすりと眠る恭弥に服を着せてから換気扇を回す。ついでに窓を開けて網戸にした。声は最小限押さえたので大丈夫な筈……って信じたいわぁ。とりあえず恭弥からは「僕の下に居るクセに言葉で攻めてこないでくれないか」と後々言われそうだ。やって、やられっぱなしはしょうに合わへんし。
『……途中で戦闘許可時間になったな』
一応盗聴される危険性もあるので時計は外していた。もう既に終わっているであろうそれに沢田たちはどうなったやろうかと黒のTシャツと短パンを着ながら考える。スカルと言うアルコバレーノがやられてバミューダと言うヴィンディチェ引き連れた透明のおしゃぶりの赤ん坊。謎やな、とか思いながらなんの会議をしとるんやろうと今ここにいない赤色のアルコバレーノの姿を浮かべた。
黒猫のような恭弥に毛布を掛けてとりあえずこっちはタブレットからユーチューブで活動しているポッキーさんの実況動画を見ることにした。
.
それからしばらくして、目覚めた恭弥と朝食を取る。風くんはまだ帰ってきていない。朝食を腹に納めてから昨日一睡もしてないのに気が付き、自覚した途端激しい眠気が襲ってきた。
『すまん恭弥。眠いから寝るわ』
「…僕もまだ眠い」
クッションを枕代わりにしてソファに寝転ぶと、恭弥がもうひとつのソファに腰を掛けて目を閉じた。腰は痛いし体はダルいしと調子は悪いものの、気分は悪くない。なんやろ、なんちゅーかすっきりしとる言うか。そんなことを考えながら、瞼は自然に降りてきて、抗わずに睡眠を欲した。
しばらくしてからがちゃりと玄関の鍵が開けられた気がして、目を覚ます。リビングを見渡せば既に恭弥は起きていて、FAIRYTAILを手に読書をしていた。ぼうっとしたまま空を見つめていたらリビングの扉が開けられて、気の抜けた声が響く。それを聞いた途端恭弥が漫画から顔をあげて嫌そうに顔をしかめた。ディーノである。
『…兄貴か、おはよう』
「おうおはよう! もう昼前だけどな…ってうお!? なんで恭弥がここに居るんだ!?」
「貴方には関係ない」
『昨日遅かったし、こっち体力限界やったから送る暇無くてな。泊まらせた』
少し微妙な顔をしたディーノだが、彼はこっちが本当に、体力が無いことを知っている。
「ほら、家でゴロゴロしてっと不健康だぜ。飯食い行こう!」
『嫌や』
「嫌だ」
「二人揃って即答かよ!」
ショックを受けたような振る舞いをするディーノをとりあえずソファに座らせて、テレビを付ける。キッチンの昇降機からポテトチップスのLサイズの袋を持ってコーヒーテーブルの上で広げた。コの時型のソファの一角をうつ伏せに寝転がって漫画を静かに読んでいる恭弥に占拠されているが、まあ許してやろう。
庭に繋がる大窓の方からゴオと言う音が聞こえ、首をかしげる。恭弥はめんどくさそうに身を起こした。そしてディーノが「ツナか!」と笑みを浮かべて名を呼んだ。上から降りてきたのは沢田。降りてきた沢田に合わせて窓の鍵をがちゃりと開けて中に入れる。
『よお分かったな、ここが家て』
「ツナは初代ボンゴレの直列の血筋だからな。ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)のおかげで超直感ってのがあるんだ」
『そら便利やな』
わしゃと沢田の頭を撫でてから家に改めて招いた。
「で。どうしたんだ? ツナ」
「あの、実は、三人に話があって来たんです!」
「話? 急ぐのか?」
「はい! とても!」
沢田に説明を受ければ、復讐者とはアルコバレーノの成れの果てらしい。この代理戦争は次期アルコバレーノを探すための戦争で、現アルコバレーノたちに掛けられた呪いは解けるどころか、勝敗がどうであれクビになり殺されてしまう、これは名が残らぬよう二世代間に分けられ、選ばれし七人がアルコバレーノになってしまう“運命の日”もまた然りらしい。仮にアルコバレーノは生き残っても廃人になるか、ヴィン復讐者になるかのどちらか。そして復讐者かつ透明のおしゃぶりを持つバミューダはこのアルコバレーノ交替システムを無くすため代理戦争に参戦し、唯一接触の可能な優勝のタイミングで、鉄の帽子の男、チェッカーフェイスを倒そうとしている。だが、チェッカーフェイスとシステムを葬り去ると現アルコバレーノの存在も消えてしまう。アルコバレーノに残されたのは生きるか死ぬかではなく、何をして死ぬかに限られている。だが沢田は現アルコバレーノを見殺しにせず7зを維持する方法を見つけた。それはおしゃぶりの死ぬ気の炎がなくなる前に、新しい炎を注入すると言うこと。その七つの炎が今後消えぬよう第8の炎『夜の炎』の持つワープの特性を使い延々と炎をともしていられる。イコール現アルコバレーノは死なないし、今後アルコバレーノと言う被害も合わないと言う事だ。
「バミューダチームそこまで強いのか!」
『それ、エエ案やけど、先にそのバミューダ倒さんとソレは無理ちゃうか』
「その事で話があります。俺の家に行きましょう」
「おう」
『ん』
「…」
そうしてこっちらは沢田家へ移動したのだった。
沢田家に来ると、既にヴァリアーや古里達、ミルフィオーレやキャバッローネの人々が彼の家の中や収まりきらなかった人は家の外にいた。とりあえず恭弥が中に入って群れるのを嫌がったのでお隣の屋根の上で待機。まもなくして恭弥くんは寝転がって寝ましたがなにか?
こう見ると、ボンゴレの守護者のくせしてやはりボスである沢田と関わり合いがあまりなかったからか見知らぬ顔は多い。あのシモンの所に居るメガネとかリーゼンとか誰やねん。いやそれより。
沢田家の庭の塀にほと近いところにてフワフワと背中の羽で宙に浮くあのぼさぼさヘアーの方は誰かな? もしかして白蘭サンなん?
『……とりあえず、書こう』
全体的に白い風貌にまっさらな汚れを知らなさそうな白銀ともとれる綺麗な翼。これを絵に書かないで誰が美術部やっちゅーねん。持参の百均とかで売ってるスケブ片手に凄まじい速度でシャーペンを滑らせる。バリバリと音がうるさかったからか恭弥が眉を潜めながら起き上がってきた。
「……何書いてるの」
『あっこの白い人。後で許可とる。あかんかったら捨てる』
「いおりは僕だけを描けば良い」
『え、いや、そういう訳にもいかん』
「……書き上がったら見せてよね」
『ん』
再び上体を倒して睡眠を取り始める恭弥を微かに一瞥してもう一度白蘭らしき人物を観察しようとすると、彼はこっちの目の前でにこにことこちらを見ていた。
『……ビビった……』
「ホントに? そのわりに普通の顔だけど?」
『いや、驚きましたて』
「関西弁だし、やっぱり伊達サンだね。君にとっては“はじめまして”かな、知っての通り僕は白蘭だよ」
『……ども』
やはり白蘭だったのかと嘆息し、被写体として絵を描いても良いかと聞けば「もっちろん! 全然おーけーだよっ!」と後で見せてねと許可をいただいた。彼は満足したのか先程の場所に戻り、やはりにこにこしながら空中浮遊。
沢田にお守りを渡しに来たらしい笹川京子(今後は京子と呼ぼうそうしよう)やハルがクロームを連れて沢田家に訪れた。彼女たちはヴァリアーを見「はひっ、何か恐い人たちがいます!」家の中を見「バジルくんや古里くんが居る!」白蘭を見「あの人飛んでます!」こっちらを見「お隣の屋根でヒバリさんが寝てて伊達先輩が絵を書いてる!」と声をあげた。静かに見守るクロームはとても麗しゅうございます。
「だから。お願いです。一緒に戦ってください」
彼の家のリビングから、沢田綱吉の力強い言葉が聞こえた気がした。
.
前回、復讐者(ヴィンディチェ)に闇討ちを掛けられたらしい沢田はリボーンくん達アルコバレーノ達を救うための道具をあの彫金師、タルボさんに頼んでいると言う。
「ここにみんなに来てもらってることも、リボーンが知ったらきっと反対すると思う。もちろん無理にとは言いません、この戦いは危険すぎるんだ……」
そうこっちらに告げた沢田の顔は勝ち目が無いなんて思っている顔じゃなかった。自然と布に隠れた顔が微かに緩むのを感じる。隣の恭弥も少しむず痒い顔をしていた。他のみんなも口に笑みを浮かべたり、曖昧な顔をする。
「フフッ。でもツナ君は勝ち目が無いなんて顔してないよ」
そう笑みながら呟いたのは古里炎真だった。この言葉を皮切りに骸は「そのようですね、負けるつもりなど毛頭ない、そういう顔だ」と呆れた笑みを見せて一言放つ。「こーゆーときの綱吉くんて怖いんだ♪」「何を企んでやがる、ドカス」と白蘭、XANXUSも続けた。
「まだ細かく詰めてはいないけど、ひとつだけ決めてます……。
今度はこちらから仕掛けるんだ!!!!!!」
**
虹の代理戦争四日目。午後3時。「ティリリ」と『リ』ゲシュタルト崩壊を巻き起こしそうなけたたましい音で戦闘開始時間は始まった。今回の制限時間は90分。ずいぶんと長いものだなと嘆息すれば隣の恭弥がちらりとこちらを見てから視線を前に戻す。
ディーノは立ちはだかる復讐者のイェーガーと透明のおしゃぶりを持つバミューダを前に彼らのなぜ沢田がいないのかと言う質問に答えてやった。
沢田を中心に復讐者を倒す作戦を考えたのだが、やはり個性豊かすぎるメンバー故か、白蘭とXANXUS、六道骸が復讐者で一番強いイェーガーと戦いたいと物申した。沢田がそれだとバランスが悪くなるんじゃ、と横槍を入れると「断るのならやめだ、てめえとは組まん」「交渉決裂ですね」「多分僕も作戦作っても破ってイェーガークンのとこ行っちゃうな」と協調性皆無だ。沢田がディーノに助けを求めれば「お前がイェーガーと戦ったりそれ以外の復讐者に人員を均等に割く必要はない」と教えられる。
イェーガー以外の復讐者を分断出来れば勝機はあるのだ。白蘭、XANXUS、六道骸がイェーガーにつっかかってる間、年が近くて機動力もあり実力も兼ね備えた沢田、古里、バジルの遊撃隊で各個撃破でも良い。こうして作戦は決まり、相手が自分達になったのだと教える。
戦闘になった途端白蘭はイェーガーに白龍を繰り出して襲わせるも、イェーガー達復讐者が持つ第8の炎、夜の炎の特性『ワープ』でその白龍は首を斬られて倒された。
そのままワープしたイェーガーは白蘭のところにいくと思われたが、XANXUSの背後に移動する。気付いたXANXUSが舌打ちを咬まして右腕の銃を振り上げたと同時にイェーガーの腕がXANXUSの右腕を吹き飛ばした。宙を舞うXANXUSの右腕を見てスクアーロは顔を驚愕に歪ませて左手の拳銃でイェーガーが居たところを撃つも避けられる。そのまま斬り掛かったスクアーロは左腕に装着された剣を振るうもワープで避けられ背後を取られた。そのまま剣でイェーガーの拳を受け止めるも剣がやられてしまい、スクアーロは心臓を貫かれてしまう。
倒れたスクアーロに「起きろカスザメ」と短く言葉を吐いたXANXUSは飛ばされた右腕の断面を自身の怒りの炎で焼き止めて「ボス! 隊長!」駆け寄ってくるマーモンを「るせえ! 俺の事はほっとけ!」と怒鳴って一喝した。彼の皮膚には本気でキレると浮かび上がると言う9代目につけられた傷が見えており、怒り狂っている。怖きかな。
.
骸が「問題は死角となる背後へのショートワープ」と告げて、ヴェルデの幻術を本物にする機械で背後に鋼鉄のカバーを作った。白蘭の背後からぶつけられたイェーガーの攻撃はその鋼鉄のカバーに阻まれる。だが、次の瞬間イェーガーは腕だけワープさせ、白蘭の体を貫いた。ワープは全体だけではなかったらしい。盛大に血を吹き出す白蘭は「ほらXANXUSクン、今だよ」とXANXUSに指示した。
「でかしたドカス!」
そう叫んだXANXUSは左の拳銃で経口がひどくでかいそれをぶっぱした。しかし、ぶっぱするもイェーガーはそれをワープで避けてXANXUSの両足の腱を切った。倒れ込むXANXUSと白蘭に、ヴェルデが呪解してスパナたちとの合作であるG(グリーン)・モスカで応戦するも効果なし。速攻でやられてしまった。
そのまま六道の背後に飛んだイェーガーは彼の槍を折って腹へと腕を突き刺す。「浅いか」と引き抜いてもう一度刺そうとするその腕はディーノの鞭に巻かれて阻止された。なんてハイレベルな攻防だろうか。
だがしかし、腕を残してワープしたイェーガーがディーノを肩から腰に掛けて大きく切り裂く。もう一撃食らわそうとするイェーガーの腕はディーノが骸にたいして攻撃を防いだように、鎖に腕を浚われ再び阻止された。そのチェーンの先に居たのは、トンファーを握る恭弥だった。
「借りは返したよ」
ディーノに何か借りがあったらしい。未来でのことかと納得する。そのまま恭弥はイェーガーに鎖を投げ付けて仕掛ければ、イェーガーはワープするでもなくて受け止めてダメージをいなす。彼は今避けなかった。ということは、VGでの攻撃はワープで避けられないと言うこと。チャンスやな、とこちらはスケブで描いた転送機器を使い音もなくイェーガーの背後に現れ、斧で背を切り裂いた。
「ぐあっ!」
「なんだって!?」
「!!! ナイスだぞダテ!」
痛みに声をあげるイェーガーに構いもせずスケブから槍を放つ。結局は避けられたが逃がすわけにもいかない。
「! ……彼女は」
「風の代理だった、ボンゴレの二人目の最強だぞ、バミューダ」
「……雲雀恭弥はまあ対処できる……彼女のあの瞬間移動はなんだったんだ」
「あいつのボンゴレギアだ。あのボンゴレギアは想像力と画力がものを言う。絵描きのダテにはぴったりだ」
そんな会話をしているとは知らず、距離をとろうとするイェーガーに噛み付くように斧をぐるぐる目まぐるしく振り回した。刃物並みに鋭い腕をついてきたので宙返りして避けて、距離を取ったイェーガーにスケブから刀を取り出す。
『100万倍の10tや!!』
宙返りのまま刀をぶおんと投げ飛ばしながらそう叫ぶ。勢いよくかつ素早く飛んでいく刀はイェーガーめがけて飛んでいき、次の瞬間にはドオオォンと地を大きく揺らして大きく砂煙を発生させた。
ぶわ、と巻き起こる風はこちらの体を吹き飛ばしてくれる。ばさばさと激しくはためくボロ布を視界に入れながら地面まであとどれくらいだ。と呑気に考えながら宙を飛んでいればがっと体を支えられる。顔を見れば六道骸だった。
『お前か、六道』
「凄まじい攻撃でしたね、伊達いおり。こんな実力者がボンゴレにまだ居たとは」
『とりあえず離して』
支えられていた骸の腕を退けてイェーガーの方を見る。砂煙が晴れればそこには地面を大きく陥没させて刺さっている刀と、その横で膝をついているイェーガー。……攻撃の刃は届いた筈。
.
ふわっとイェーガーの肩に乗り上げたバミューダ。
「次から次へと雑魚共か」
「いいさ、今のでディーノ君は戦えなくなった」
グッと血を吹き出しながら膝をつくディーノはとても体調が悪そうだ。慌ててディーノに駆け寄り背中に背負ってXANXUSの元へ運ぶ。「あと三人だな」と呟いたイェーガーはちらりとこちらを見て、ふいと目をそらした。
スケブから某魔法先生漫画で読んだ近衛ちゃんの治癒扇を取り出して回復に当たる。漫画同様完全回復治癒は一日一回、怪我をしてから3分間。右腕と足の腱が斬られてしまったXANXUSにそれを使用する。もとに戻る右腕と足を見てマーモンが「な、治った!?」と声をあげる。彼女の頭を撫でながら「治っても体力がない、見といたって」と頼んでからディーノの方に取り掛かる。ある程度回復させてふぅと額の脂汗を拭った。
背中から聞こえるのは骸と恭弥の不一致な協力でイェーガーを追い詰めている音、途中から沢田が到着した。なぜこっちと恭弥のVGの攻撃をワープで避けなかったのか、今はなぜ避けていられているのか、疑問に思うもディーノに専念せねば。背後をちらりと一瞥して完全にディーノを治す。「ありがとな」と返ってくるディーノの言葉にどっと疲れが襲ってきた。
「驚いたぞ、お前のVGはこんなこともできるのか」
『これはこっちの知識から引っ張り出してきたやつや。テキストと絵を一緒に描けば、実現化する』
「有能だな」
話し掛けてきたリボーンくんにそうやって答えを返す。
その直後、近くからずぶりと言う肉が裂ける音が響いた。何事かと背後を見れば、何も居なくて疑問に思うも直ぐにこれは他人のものではないと感じた。一同がこちらを見て目を見開いていたのを見て自覚する。
『あ゙ぁっ!?』
そのとたんじくじくどころではなく焼けるような痛みが襲ってきて思わずガクリと膝を付いた。ボロ布さえ貫いてこっちの肩を怪我させたのはあの部分ワープで、出てきた腕を無理矢理ひっこぬく。
『っで、』
「ダテ!!! お前なに無理矢理ひっこぬいてんだ!」
「っ、いおり!」
リボーンが駆け寄ってきて、同じように左肩に刺し傷のような傷で血を垂れ流して倒れている恭弥が叫ぶ。
どうやら復讐者はバミューダに与えられた炎エネルギーを蓄えて戦っていたらしい、バミューダが肩に頻繁に乗っかるのは補給するため。気付かなかったこちらも悪いが、よく気づいてくれた沢田。そうしてイェーガーを倒したようなのだが、イェーガーは最後の力を振り絞り、無傷のこっちに傷を負わせてくれたようだ。
貫通した痛みは尋常ではなく、空いた風穴を押さえてうずくまる。
『ふぐっゔぅ』
「ダテ!」
「伊達さん!」
はあはあと荒く息を乱すこっちにリボーンは(ここまで伊達が表情を露にするのは珍しいな、それだけやべえってことか)と顔をしかめる。
恭弥も恭弥で自分だって痛いくせしてこっち見よってからに。最後の力を振り絞ってスケブに手を伸ばす。ひゅん、と出てきたのは先程と同じ治癒扇。これ、本当は一日一回やねんけど、明日の分を前借りして使うこともできる。
光出すそれに身を任せればばきばきぼきぼきと肩から聞きたくない音が聞こえてきて口を固く引き結ぶ。布をめくればそこに傷はもうなく、いつも通りの肩だ。
ダルい、体の中でなにかがぐるぐる回っているような気がしてならない。これは大きすぎる治癒扇子の力が体の中で渦巻いていると言うことか。後でどうにかせねばと落ちてくる瞼に好きにさせて、意識の糸はプツンと切れた。
.
目が覚めたらそこは病院で、一番に視界に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。
むくりと起き上がって部屋を見渡せばいつも通りに優しく微笑む風くんを見て、『終わったん?』と聞けば「はい」と返された。彼の胸元におしゃぶりはないので大方成功したのだろう。
こっちはなぜか普通の病服ではなく、黒いパジャマだ。……恭弥のものと同じだが、下は短パンだった。
……ともかくここは病室の、個室だ。とりあえずボロ布は無かったのでシーツで代用すれば「相変わらずですね」と曖昧に笑われた。
そのまま風くんを抱き上げて腕に抱えながらぽけーっとしてると隣の病室が騒がしくなって、次の瞬間にはどごおーん、と派手な音を立てながら炎がこの部屋の壁を貫き、そのまま反対側の壁すらをも破壊した。
目の前をきょとんと眺めていると炎が飛んできた反対側からビュッと鎖が飛ぶ。飛んでいった方向から「なっ、今の武器は!」と言う聞き覚えのある声が聞こえてきた。あの鎖は確か、恭弥のVG。隣は恭弥の部屋やったんか……。
ぎゅ、と風くんを抱いてシーツの奥からぼう、とそちらを風くんと一緒になって見ていればヒバードの群れを連れた黒いパジャマ姿の恭弥が「僕の眠りを妨げるものは、何人たりとも咬み殺す」と告げる。
恭弥とは反対側の部屋はヴァリアーが使っていたらしくて、沢田が「ヒバリさんもこの病院に!?」と叫びをあげる。ここは多分並盛病院やろな。っていうか恭弥、奥の壁壊してもーとるやん。
「ん、あれ、いおり」
『お、おはよう恭弥』
「ヴァリアーの隣の病室伊達さんだった! 伊達さんもこの病院にいたんだ……」
『ん。お疲れ沢田』
布の奥からひらひらと手を振れば「白玉さんから手をふってもらった!」とハイテンションになる沢田。
こちらにちょこんとやって来た数匹のヒバードの頭を撫でながら彼らのやり取りを傍観する。あ、ミルフィオーレも居る。
恭弥が貫いた反対側の壁はどうやら六道たち黒曜一味がいたようで、ヴァリアー、恭弥、ミルフィオーレ、黒曜一味でドンパチ始めよった。やめろや。
早々に傍観をやめて自身の個室にVGで作った絶対空域を張り付けて再びベッドに背を下ろす。
『……おしゃぶり無いと違和感あるなぁ風くん』
「そうですか? 私にはよく分かりませんね」
『風くんこれからどないするん?』
「……そうですね、呪いも解けましたし。私たちはこのまま年を重ねて成長するようなので、また旅に出ようかと」
『寂しなるなぁ……。よかったらでエエからこっちの家拠点にしたら?』
「良いのですか」
『かまんかまん、今更や』
わしゃわしゃと髪をなでくり回す。多分中学を卒業したらボンゴレ本部があるイタリアに飛ぶ予感もするし、穏やかな残りの日々を楽しもうではないか。
よきかなよきかな、と雲ひとつない晴天の空を窓から見上げた。
.
あれから一週間、こっちは以前とは少し違った生活を送っていた。……親が、帰ってきたのだ。
「いおりー、ボンゴレの守護者になったんですって? 名誉なことよねー」
「俺らが世界一周旅行と言う名のキャバッローネの任務に当たっとるときにそないでかいところの幹部になっとるとはな……!」
『……うっざ』
どうやら両親はキャバッローネファミリー所属だったらしい。なんだってんだよ! とか某ポケモンダイパのキャラクターみたいに言ってみてももう遅いし、はぁと溜め息を吐いた。
親は火傷とか傷とか初日はめちゃくちゃうるさかったので思いきりスルーして学校にやって来た。
そう言えば、変わったところと言えば、みっつ。ひとつは恭弥がオープンに近付いてくるようになった。
「おはよういおり」
『おはよう恭弥、お疲れ』
校門を通って下駄箱付近で恭弥と出会った。まだ関係性は明かしてはいないものの勘が超直感並みに鋭ければ気づいているやつも居るだろう。男子生徒の無躾な視線を受けながら溜め息を吐く。
二つ目はもう学校中にこっちが白玉だと言うことがバレてファンだと言う子がサインをねだりに来るようになった。そう言うのは苦手なので最近は全力で逃げている。
三つ目、それは沢田たちが見掛けたら挨拶しに来てくれることだ。
「おはようダテ」
「お、おはようございます伊達さん!」
「おはようなのな、伊達先輩!」
「っち」
『おんおはよう。っちゅーか最後の舌打ち気に入らんねんけど。なぁ、めっちゃ気に入らんねんけど。気に入らんねんけどおい獄寺』
「うるっせーよ! うぜーな!」
う、うざないわ!
内心動揺しながらもスルーして『じゃ』と先行く恭弥のあとを追う。
『……恭弥、今日見回りか?』
「そうだね、午後から」
隣を歩く恭弥に聞けば午後からだと聞く。そのまま応接室に入れば恭弥はばふ、とソファに腰を下ろした。こっちもつられて反対側のソファに座る。
そのまま無言で見つめ合うと少し笑えてきて、布の奥で口が緩んだ。
「いおり」
『なん』
「好きだよ」
『こっちも好きやで恭弥』
満足したようにふわりと微笑む恭弥に鼻血が出そうだ。慌てて鼻を手で覆ってからティッシュで押さえた。
「……なにしてるの」
『……鼻血出そう。ちょお、さっきの顔に興奮した』
「変態」
結局鼻血が出なかったのが一番の救いで、いじらしくも子供らしく可愛らしいキスをかましてきた恭弥に無理矢理攻守させて舌を滑り込ませてから口内を犯す。ぷは、と口を離せばそこから伸びる唾液はぷつりと切れた。
「……いおり、」
『ホンマかわええなぁ、恭弥』
「放せ馬鹿!」
恭弥くんは相変わらず可愛らしいです。
.
一応上記のもので完結です。ここから番外編やifが増えます。きっと。
番外編【知られる】
一人のボロ布を頭から被った少女が学校の廊下を歩けば、周りの生徒たちは割れるように道を開ける。
少女_伊達は普通より男らしい顔をしている平凡な少女だ。特段美少女と言うわけでも無いし、勉強は彼女の取ったテストの点数は平均点として扱われるし、運動も飛び抜けて言い訳でもない。彼女としては女子持久走の1000mを走りきれるような体力すら持ち合わせていなかった。所謂体力無しだ。それでも生徒は彼女を目で追う。
ただ、人柄は女子から憧れの的になるような気品と優しさを持ち合わせて心がかなり広い。以前一人の女子生徒が文化祭の時に伊達にペンキをぶちまけてしまっても「気にしなや」と怒りすらしなかった。行動が男らしいからなのだろうか。彼女に恋愛的な好意を抱く少女は多い。
顔は平凡と言えどパーツは一つ一つが綺麗なもので、布から覗くショートカットで毛先が外に跳ねた艶やかかつ綺麗な黒髪、眼鏡の奥からでも色褪せない黒に赤が混じったような切れ長な目、化粧などしていない頬は薄い小麦色で、横一線に固く結ばれた唇はリップなど塗っていないだろうに綺麗な薄い桃色。彼女は可愛いものはあまり好きではなく、制服はリボンではなくネクタイだった。可愛いものも似合うだろうにと思った生徒は数知れず。
身長は170cm程と高く、腕はすらりと長い。ミニスカートから伸びる太ももはちょうどいい具合に柔らかそうで、布からちらりと見えるふくらはぎは流石空手部だと思える程引き締まっている。腰は贅肉など知らぬようにアーデルハイト程ではないにしろ細く、
ただ、男子が目で追うのは制服のベストに収まるネクタイと揺れる伊達の制服をはち切れんばかりに圧迫しているその豊満な胸だった。
人よりかなり大きなサイズの胸は歩くたびに制服ごとたゆん、と魅惑的に揺れて視線が釘付けになってしまう。全体的にバランスの取れた肉体に恐らく形のいい美乳だろうと思われるそれは、思春期の男子生徒には目の毒だった。それがボロ布で隠され余計に妖艶に思えて、見てはいけないものを見てしまっているような感覚に陥る。幾人もの男子生徒が彼女を脳内で犯しただろうか。既に彼女が並盛最強の風紀委員長に全てを晒して繋がったことなど知るよしもない。
そんな彼女に告白などと言う無謀なことをするようなバカはいない。彼女は校内のクールイケメンかつ高嶺の花は誰も手が出せないのだ。
今、彼女に最も近いと言われている男が一人いる。だが、雲雀との関係などまだ知られていないので、それは違う。
彼女に好意を抱くことを顕著に表す少年がいるのだ。
.
ただ、その少年はいおりのことが好きでも、いおり自身名前なんて覚えていないので話すのは決まって少年から。おはよう等の会話なのだが、マフィア関連人物以外で自分から話し掛けに行かないいおりはもちろん自分からその少年に声をかけることなどない。ただ、少年が話し掛けると短い挨拶程度はするので「伊達さんが喋ってる!」と噂になっていた。
「おっ、おはよう伊達!」
『おはよう』
その日も少年はいおりに声を掛けた。友人からは彼氏確定じゃね等とつい先程言われたからか少し嬉しそうだ。それもそのはず、彼はサッカー部のエースのイケメン、例に漏れず女の子にモテていた部類だった。対するいおりは元々自身に声を掛けてくれる人が少ないので少し感激しつつ表には出さない。
そのまま少し立ち話をして、二人は別れる。もちろんその少年が彼氏確定かもしれないと言う噂はいおりの耳には一切入っていないのだ。だが、雲雀は違う。自分が居ないときに特定も出来ない男子がそんなことを噂されていることに若干の腹を立てつつも応接室以外では風紀委員長の威厳を失うわけにもいかないのでやきもきしていた。
「淵樫(フチカシ)。伊達さんもお前に気があるんじゃね?」
「やめろって! まあ、昼休みに伊達さんに告白しようとは思ってるけど」
まあ、呼び出すんじゃなくて俺が自分から伊達さんのとこ行くんだ。と照れ臭そうに告げた少年_淵樫の思考回路はこうだった。自分から伊達のクラスへ赴き、そこで告白する。そしてオーケーを貰えばそこで彼女を自分のものとして知らしめることが出来ると言う訳で。そして淵樫は、いおりの口から出る言葉がもうオーケー以外出ることはないと思っていた。
昼休み、淵樫がいおりのクラスに行くといおりは居なかった。クラスメイトに聞くと、大抵昼休みは授業が終わるとすぐに教室を出ていると言う。今回も例に漏れず。そう聞いた途端淵樫は駆け出した。早くいおりのところで告白せねば、と言う謎の使命感に駈られながら。いおりの背中を見付けたのは応接室の近くだった。ここには誰も寄り付かないのに。危ないだろう、と淵樫が「伊達!」と声を掛ける前にいおりは五回ほどノックしたあと、がらりと扉を開いて何でもないように中に入っていった。ここで少年は目を見開く。伊達が慣れた手付きで風紀委員長の居る応接室に入っていったのだ。何をしにいったのかとても気になる為、聞き耳を立てた。奥から聞こえてきた言葉に淵樫はさらに目を見開くこととなる。
『ありがと恭弥、…このぜんざいどこで買ってきたん?』
「いおりが初めて僕の絵を描いたあそこだよ、僕が買いに行った訳じゃないけど」
『ああ、やっぱりか。あそこのぜんざいうまいやんな』
「そうだね」
なんと、あの雲雀と伊達が仲良さげに下の名前を呼びながら会話をしていたのだ。しかもいおりから声を掛けている。安らいだアルトトーンの声は耳にはご褒美だが、この展開は自分にとって良いものではない。伊達は俺が好きなんじゃなかったのか!? と言う疑問を抱えてはじめて気付く。いつも伊達に声を掛けていたのは自分だったこと、伊達は自分を横切っても何も言わないこと、そして名字すら呼んでいないことに。自分など最初から眼中に無かったのだと言う決定的な答えに辿り着いた。彼女の眼中にあるのは_
「そう言えばいおり、校内でとある男子生徒が君の彼氏確定だとかふざけた噂があるんだけど」
『…そんなんあったん? 知らんかったわ……』
「どうするつもりだったの?」
『嘲笑して断るわ。「こっちは恭弥一筋や」って』
「ワオ」
_雲雀恭弥のみ。しかももう彼女の純白は雲雀に捧げたようだ。そんな深い仲の関係に、勝てるわけもない。朝自分が考えていた作戦なんてあったもんじゃない。逆にこちらがとんでもない恥を掻くところだった。淵樫は呆然自失、ふらふらした足取りで自身の教室へと戻っていった。そして数日後、伊達いおりは雲雀恭弥のものであると言う事実が並盛で騒ぎになった。
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また新しいものを書きます。三日月宗近転生沢田綱吉成り代わり。雲雀さんは女の子で幼馴染みの並盛最強の最凶。
沢田 宗近
三条大橋にて、時間遡行軍と交戦中、一緒に出陣していた薬研を庇って折れる。そして目が覚めたら赤ん坊として生まれていて、沢田宗近と名付けられる。顔は三日月宗近と変わらない。
前世の記憶はあるものの戦闘技術しか使わない。幼い頃から聡明であまり親に手をかけなかった。その代わりめちゃくちゃ甘える。
五歳の時に父の家光が連れてきた9代目に速攻懐き、夜、自分がマフィアの10代目候補だと知る。「それならば仕方がないなぁ、俺が立派なボンゴレ10代目になろう」とおじいちゃん気満載で9代目と約束して代わりにと三日月宗近と言う日本刀の写しをねだる。許可された。
雲雀恭弥(♀)と幼馴染みで、超仲良し。ヒバリの年は一つ上。
自分は美しいと自覚がある。運動は出来る。国語と歴史だけ教師も舌を巻くレベル。その他の教科がずたぼろ。
リボーンを「坊や」と呼ぶおじいちゃん。部活無所属。死ぬ気弾に当たっても意識はあるしパンイチにならない。性格は穏やかかつのほほんかつおっとりしていてどこか抜けている。
湯飲みで茶をすする姿が校内でもたびたび目撃されていて相性は「おじいちゃん」や「チカ」など。その綺麗な顔からか女子や女教諭からの支持率も高い。人当たりがよく原作のようなツナくんじゃない。朝はびっくりするほど早起き。縁側でのんびり茶をすすりすぎて遅刻することもしばしばなのでお隣さんの雲雀のバイクに乗せてもらったり。刀の勘は落ちていない。「グローブ」と「刀」を使用。グローブはめて刀を持つとか。雲雀大好き。
紺色の髪に内番の時のようなバンダナを巻く。私服はあるものの家に居るときはほとんどじんべえ着てる。身長は165cm程度。多分伸びる。
雲雀恭夜(女版雲雀恭弥)
並中最強最凶の風紀委員長に君臨する不良の頂点。宗近のお隣に住むひとつ上の幼馴染み。性格は原作通りだが、宗近には優しい。宗近が好きすぎて最近少しおかしい少女。
笹川京子を敵視している面がある。
宗近に「ボンゴレ10代目候補になった」と報告を受け、「じゃあ僕も入る。宗近の右腕になる」と渋ることなくファミリーに。
容姿は原作とあまり変わりないが身長が156cmになった巨乳。服装はシャツに学ランを羽織るもののしたは膝より少し上気味のスカート。
時々仕事を草壁に任せて宗近の部屋に入り浸ることもある。宗近の右腕にくっついていることが多い。宗近が好きすぎてちょっと怖い。
一人称僕。獄寺や山本には左腕すらもったいないと思ってるちょいヤンデレ。
上記を読んでこういうものが嫌い、苦手だと言う方はUターンです。
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俺、三日月宗近は薬研藤四郎を庇って折れた。意識が朦朧とする暗闇の中でその出来事を思い返す。いやはや、薬研はまだまだだなあ、折れてしまった俺も情けない。
そうして無意識に目を見開けばそこには明るい世界があった。
待て待て、俺は折れた筈だ、なのになぜ目が開いてあーだのうーだの声が出て小さな手足が動く? ああ、あれか、主の言っていた「転生」と言うものなのか。主が「転生して漫画の世界に行きたい」と常日頃耳が痛くなるほど叫んでいたことを思い出す。すまんなぁ主、俺が転生とやらをしてしまった。
俺を生んだ両親は沢田奈々と沢田家光。俺は前世とやらでは刀の付喪神だったから親と言うものを感じたことがなかった。そうか、この温もりが親なのかと納得しながらこの人生を謳歌してやろうと微笑み、「あなたの名前は宗近よ、沢田宗近」と聞こえてきた声になんと言う偶然なのだろうなと眠気故に降りてくる瞼をそっと閉じた。
あれから五年。五歳になった俺、沢田宗近はこの始まったばかりの人生を謳歌していた。お隣さんの雲雀恭夜と言う女の子は所謂幼馴染みと言うもので、家族ぐるみで仲が良かった。それは俺たちも例外ではない。
「宗近、なにする?」
『そうだなぁ、なにをしよう?』
「僕はなんでもいいよ」
ひょいと唐突にやって来た恭夜に笑みを浮かべて一緒に縁側に座って何をするか考える。
甚平の裾が引っ張られたかと思ったらこのままのんびりしようと恭夜が笑う。可愛らしい恭夜にそうだなぁと頷いて縁側でのんびりしていればいつもにこにこと笑顔を絶やさない母がお菓子を持ってきてくれた。
甘くて美味しい饅頭を頬張ったあとにぽけぽけしながら二人して外を見ていれば、父がおじいさんを連れてきた。
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「こんにちは宗近くん。私の名はティモッテオ、よろしくね」
『よろしくなぁ』
微笑むおじいさん_ティモッテオに笑むとバンダナを巻いた頭を優しく撫でられた。
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その夜のことだった。喉の渇きで目が覚めて階段を音も無く降りていればこんな深夜にリビングに明かりがついていた。
少し聞き耳を立てれば「やはりボンゴレの10代目は宗近くんには向いていないかもしれんな」「そうですか……」とティモッテオさんと父の会話が聞こえてきた。
そのままドアを開けて『ボンゴレ10代目とはなにかな?』と言いながら姿を表せば「宗近!? 今は夜の一時だぞ!?」と父に怒られはしたものの『喉が乾いた』と言えばすぐなくなった。
『それで、ボンゴレ10代目とはなにかな?』
「……ボンゴレとは、イタリア最大のマフィアのことだ。このティモッテオはその9代目で、今、チカにボンゴレ10代目は出来るかどうか、話し合いをしていただけだ、つってもお前には難しいか」
「君にはまだ早い話だと思うし、難しいだろう、宗近くん」
『そうか……あいわかった。俺が立派な10代目になろう!』
そう言いながら笑えば彼らは目を見開き「正気かね!?」と口を揃える。
『ああ、正気だぞ。本気の本気、大真面目だ。ボンゴレの歴史に興味が沸いた』
「この年で歴史に興味を持つとは……」
「やっぱりお前は俺の子だ!!!」
『はっはっは、俺はものじゃないぞ父さん』
ははは、と笑いながら俺が晴れて10代目候補となった夜だった。不意には、と気が付き、『その代わりに』と笑って告げる。
『写しでも贋作でも何でも良い、太刀【三日月 宗近】がほしいなぁ、きっと手に馴染む』
「お前何でそんなもん知ってんだ!?」
「ああ、構わんよ」
「9代目!?」
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「チカ! パス行ったぞ!」
『あいわかった』
あれから数年の月日が経ち、俺は中学一年生になった。長い時を重ねようとも恭夜との仲は変わらず良くて、よく俺が帰ってきたら部屋にいることもしばしば。ただひとつ変わったと言えばトンファーと言う武器を持って不良を倒して不良の頂点となり、並盛の最強の風紀委員長として君臨していることだ。可愛らしいのは相変わらずだが。
そんな俺は現在、体育の時間にバレーボールをしていた。回されたトスを飛び上がってスパイクでうち落とせばぱぁんとボールは向こうのコートに当たって大きな音を立てながら跳ね返り、得点として加算される。
「きゃああああっ!」
「チカくーん!」
「かっこいー!」
騒ぐ外野にも微笑んでチームメイトとハイタッチする。
「やっぱお前が居ると勝てるな!」
「勝利の雄神だ!」
『はっはっは! 褒めろ褒めろ、褒められると俺は喜ぶ』
「じじいかお前は!」
「沢田らしーぜ」
そんなこんなで試合は終了、体操着のままのんびりコートの外にいくとみんなからおつかれーと声を掛けられる。
「おつかれさんチカ。お前運動できるんだから野球部来いよ!」
『嬉しいことを言ってくれるなぁ山本』
「ちぇ、またかわされた」
『はっはっは!』
**
そこから放課後、俺がのんびりと帰路を辿ろうと下駄箱に居たとき、後ろから「えっ、チカくん!?」と鈴を転がしたような可愛い声が聞こえてきた。
不思議に思って振り向けば、そこには剣道部主将で三年の持田と一緒にいる笹川京子の姿が。
『おや笹川。持田さんも一緒か』
「おう沢田」
「ち、違うのチカくん、これは持田先輩に一緒に帰らないかって誘われて……」
『おぉ! そーかそーか。よきかなよきかな。仲が良いのは良いことだ』
「(き、気付いて無いのかな……? よかった……)」
にこにこと笑みを浮かべながら『またな』と手を振って玄関から出れば「おー、また明日なー」「ま、またね!」と元気よく返ってくる。それに気分を良くして家に帰れば、母さんが「今日からね! 家庭教師の方が来るのよ!」と教えていただいた。
『家庭教師か、俺は国語と歴史以外からっきしだからなぁ』
「成績が上がるまで住み込みなのよ!」
『父さんが仕事に出ているからなぁ、晩飯の時は一人増えるのか』
そんな会話をリビングでしていた時だった。突如「ちゃおっす」と幼い声が足元から聞こえてきて視線を下ろせばそこには黒いスーツとボルサリーノを被った赤ん坊がいた。
「3時間早く来ちまったが特別に見てやるぞ」と呟く赤ん坊に母が「ボク、どこの子」と聞けば。
「ん? 俺は家庭教師のリボーン」
そう答えが帰ってきた。母が「まあ!」と少し大きな声を出す。俺はしゃがみこんで『よろしくなぁ坊や』と数学のテキストを見せながら笑いかければ「わかってんじゃねーか」とリボーンはにやりと笑った。
『母さん、俺は今から勉強するぞ。後で縁側に行くからな』
「分かったわ宗近!」
元気よく階段を降りていく母さんを見送り、椅子に座って『さて』とリボーンに微笑む。
『本題はどうだ? ティモッテオさんから聞いているのではないかな?』
「その通りだぞ、宗近。俺はお前を立派なボンゴレ10代目にするためにやって来たんだ」
『おお! それでは本格的に頑張ろうか』
「お前は物分かりが良いな」
『そうだろうそうだろう』
腕を組んで制服のままにこにこと頷けば「じじくさいな」と言われた。いきなりのその言葉はなかなか心に来るな。
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「そうと決まればファミリーを探さねーとな」
リボーンのその言葉を聞いて直ぐ様恭夜のことが頭に浮かんだ。
『一人ぴったりな人物が居るぞ、坊や』
「お、本当か」
『ああ』
リボーンを肩に乗せて玄関まで行き、母さんに少し出ると伝えて外に出た。そのまま隣の家のチャイムを鳴らすと、「なに」と短く返ってきた。
『俺だ、宗近だ』
<!? ちょ、ちょっと待ってて!>
そうして待つ暇もなく玄関が開き、そこから驚いたような顔をしている恭夜が出てきた。
『やあ恭夜』
「珍しいね宗近、滅多に自分からこの家には来ないのに」
『あぁ』
「コイツかチカ」
「……なにその赤ん坊」
『俺の家庭教師だ』
そうして再び恭夜を連れて自室へと戻ってきた。
「で、なんだい宗近、わざわざ呼びに来て」
『はっはっは、いやぁ。俺がイタリアンマフィアのボンゴレファミリー10代目候補だと伝えておこうとな』
「えっ」
ぽかんとしてこちらを見つめる恭夜に笑って、『このリボーンと言う坊やは俺を立派な10代目に育て上げてくれるそうだ』と教えれば「なにそれ僕も入る」と、即答される。
リボーンも「即決だな」と恭夜に聞けば「宗近のいるところに居たいからね。だから宗近の右腕になる」と俺の右腕に引っ付いてきた。柔らかくてういやつめ。
「ファミリー一人目ゲットだな」
『ああ、恭夜が入ってくれて助かった』
「ありがとう宗近」
ぎゅむっとその大きな胸に抱き込むように恭夜に腕に巻き付かれてもはっはっはと笑う俺を見てリボーンが「鋼の理性だな」とにやりと笑ったのが見えた。
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眼鏡ボロ布の夢主(完結済み)+10年の復活のif(×ケロロ)
代理戦争が終わって慌ただしい中学生活を送ってそれから10年。
沢田綱吉は立派なボンゴレ10代目になって、こっちらはマフィア界でも沢田の守護者として名を轟かしていた。現在はイタリアを拠点として活動している。
そんなとき、風紀財団の一人からにわかには信じられない情報が舞い込んだと恭弥が渋々ながらに沢田に報告し、ボスを交えた守護者会議となった。
相変わらずこっちはボロ布を頭から被っとるで。黒のスーツも着とるけど、下は短パンである。
「えっと……ヒバリさんが財団の方からとある情報が入ったとのことで、集まってもらったんですけど……」
『……内容は? 恭弥』
「……日本の武蔵市と言うところで蛙のような見た目をした二足歩行の謎の生物を財団の極一部……数人が確認したみたいなんだよ、一応と思って報告したんだ。……武蔵市っていったら黒曜の反対に位置する並盛の隣だからね」
「っ、ユーマか!? 宇宙人か!?」
「今回ばっかはそーかもしんねーのな!!」
未知の生物か、とテンション高く椅子からガタリと立ち上がった獄寺の隣で椅子の背もたれに持たれながら頭の後ろで手を組んでいる山本がヘラッと笑った。……非現実的やわぁ、非現実許せるキャパオーバーやって。宇宙人とかユーマとか信じひん。
六道は別件で動いているためこの場におらず、騒ぐ獄寺と山本に沢田は苦笑いしてからすっと真剣な面持ちに変化した。この10年で彼は根本はそのままなのだろうが、少しだけ変わった。こう、やるときはきっちりやると言うか、ボスって感じの貫禄がある。恭弥は下につくなんて嫌なのだろうけど、それほど対立はなくなっている。
「で。今回のこの件、やっぱり財団の人が見つけたらしいから、ヒバリさんに行ってもらおうと思ってます……大丈夫ですか、ヒバリさん」
「僕は別に構わないよ。その代わり、いおりは連れていく」
『ん?』
「えっ、伊達さんって明日から休暇じゃなかったかな……」
困ったように髪を掻く沢田はばさばさとそこら辺に散らばる書類を漁り出した。そんな彼を横目に恭弥を見つめて肯定する。
『……おん』
「なら休暇中に確認するだけでも良いんじゃない?」
『……しゃーないな、構わんで。っちゅーわけやから、沢田』
「分かりました……」
若干遠い目をしながら頷く沢田は苦労人だ。獄寺と山本はからからと苦笑いだ。
「……リボーンにお兄さん貸して貰わないと……」
「えっ、あの芝生頭まだ修行してんすか10代目!?」
「……そうなんだよね」
「ホント物好きなのな!」
「お前は気楽そうで羨ましいよ山本ぉ!」
ファイト、ボス。
そんなこんなで、こっちと恭弥は日本に戻ってきた。
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並盛から恭弥のバイクに股がってしばらく。情報が確かならここ、『日向』と書かれた一軒家に居るはずなので、わざわざやって来た。
「……ここだね」
『ん』
恭弥がインターホンに手を掛けたときだった。中から「い・い・い・痛(いっ)てエエエエエエーー!」とその家から叫び声が聞こえてきた。恭弥と顔を見合わせて、一度インターホンを素早く押してから悪いと思いながらも玄関を蹴り破って「軍曹!!」「ど、どうしたの一体!」と声のするリビングに突入した。
「お水いる!? うわっ、すっごい変な汗かいて……ぎゃあああああ! どちら様ーーーー!?」
黒髪の少年がこちらを見てコップを放り投げながら悲鳴をあげる。彼の足元に居るのは緑色の二足歩行の謎の生物。……情報は確かだったのか。
緑色の蛙のような生物はぐわんぐわんと頭を回し、ぎゅりっぎゅりっと地面に顔を擦り付け、そしていきなりガバァッ! と顔をあげて何かに耐えるように声にならない悲鳴をあげた。傍らの赤髪の女の子が「やだ! 怖い〜!」と声をあげてから「どちら様!?」と叫ぶ。
「と、とうとうブラックメンが来ちゃったよおぉ〜〜!」
「えっ、嘘ぉ!」
「……そのブラックメンが何を指すのか知らないけど、そこの謎の小動物、ヤバいんじゃないの」
「そっ、そうだ! 軍曹〜!」
なんとも慌ただしいものだ。そのあとすぐに後ろから「通した通した!」と赤いの黄色いの黒いのがやって来た……なんなんここ。
「ここから先は我々の管轄、余計な手出しは無用だ! ……ん? んなあぁ!?」
「ハイハイ危ないですから下がって〜……ですぅ!? 地求(ポコペン)人がなぜ!?」
こっちらのことはいったんほっといてと告げれば本当に興味をなくしやがった。クソガエルども……。
聞くと、緑色の蛙のような生物は『虫歯』らしい。彼らはやはり宇宙人で、彼らの星では虫歯を『C・W(カリエス・ウォー)』と呼ぶらしい。……世界は、広いな。要するに、ミクロ単位の宇宙人も居るらしく、それが歯に巣くっているらしい。それを退治するために自身もミクロになるようだ。へえ。
「そ、そそ……そちらのスーツのお二方は、ど、どういったご用件で……?」
こっちらはソファに座らされ、その向かいに座ってがくがくぶるぶる震えながらこちらを見てくる一同。布の奥から恭弥を見れば、彼は肘おきに肘をついてはぁとため息を吐いた。
「……君たちは何か勘違いしているようだけど、僕らは別に宇宙人が居たからと言ってどうこうしようという為に来た訳じゃないよ」
「え……?」
「確認さ。僕の財団の一部がそこの緑色の蛙を見たと報告が入ってね。武蔵市の隣は並盛だから、凶悪な奴だったら跡形もなく咬み殺してるけど。見たところそこまで危険そうな奴じゃないから」
「じゃ、じゃあ」
「何もしないよ。まあ、隣は僕の町だから、風紀を乱せば咬み殺す。肝にでも命じておけば?」
「命じておくであります!」
聞くところによると、彼らは地球を侵略しにケロン星から来た宇宙人らしい。獄寺が見たらテンション上げてそう。
ケロロと言うらしい緑色の彼はケロロ小隊の隊長のようだ。階級は軍曹らしい。
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ちょこちょこ話を変えてスミマセン。ですがしかし。書きたいものを見つけましたのでやっていこうと思います。楓ちゃんが中学の卒業式終了すぐあとにトリップ。年齢は若返って中学一年生。見た目は身長が170cmぐらいまで小さくなったかなぐらい。
【長瀬楓 ネギま!→復活】
卒業式を終えて、寮に帰宅して、拙者は床についたはずでござる。なのになぜ一軒家の寝室で一人寝ているのだろうか。
外を見れば麻帆良の都市の面影すらなくて、いろいろと身を持って体験してきたからかここが自分のいた世界ではないと言うことはわかった。まあ確かに自分のいた世界じゃなくて寂しい気持ちも有るが、それを嘆いても仕方がない。そう考えてから拙者はもとの世界に戻れるまでこの世界を満喫しようと決めたのだった。
驚くことに拙者は中学一年生のようだ。ほうほう、これはまた面白そうな。アーティファクトも有るし、拙者が使っていた忍装束もある。恐らく瞬動も出来るだろう。前と変わらないなと思いながら始業式を控えて今日から始まるらしい学校生活を送るべく並盛中学の制服を身に纏った。
**
あれから二ヶ月ほど経って、友人が出来た。笹川京子と黒川花だ。最初は拙者の喋り方を不思議に思っていたらしいクラスも馴染んできている。
そこで少々不穏な噂を耳にした。クラスメイトに聞けば京子が沢田綱吉にパンツ一丁で告白されたらしい。それで朝から元気がなかったのかと納得するも、その噂がどうも沢田をからかうようにできていてキナ臭い。事実は事実なのだろうが、少しやり過ぎな気もする。
沢田綱吉とは、同じクラスのある意味有名な生徒である。入学以来テストは赤点、体育で沢田のいるチームはいつも負け。何をしてもダメダメで友達もいない。そんな冴えない沢田を周囲はダメツナともてはやしている。いやいや、拙者も入学以来テストは全部赤点でござるよ。
「やっぱダメツナねー、しかも変態だったなんて」
『んー……? そうでござるかな? 拙者、その心意気は良しと思うでござる』
「えー、長瀬さんったら冗談キツいわよー」
『あいあい』
周りの女の子にからからと笑われてしまう。教室に入ってきた沢田を一斉にもてはやす……と言うかからかっている男子たち。女子もそんな沢田を見て笑っている。
なんと言うか、こう、釈然としないでござるなぁ。京子の顔も少し影ってきているし、花なんて呆れてしまっていた。
慌てて出ていこうとする沢田は後ろを向くが、そこには剣道部の部員が待ち構えていた。……それはやりすぎではないかな。
そう思いながらも友人たちが引き留めにかかってきて動けない。そのまま沢田は剣道部に体育館へと連れていかれた。
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剣道大会の結果は沢田が持田の髪の毛を全て抜いて完全勝利。やはり彼にはネギ坊主に似て非なるものを感じるでござる。いやはや、持田先輩、禿げて可哀想に。
「ツナくんってスゴいね! ただ者じゃないって感じ!」
京子が沢田にそう告げたのを聞き届けて『では拙者は日直だから、そろそろおいとまするでござるよ』と告げてその場を離脱した。黒いスーツの赤ん坊の視線に気付いたからである。鼻唄を歌いながら教室に戻った。
沢田綱吉、これまた面白そうな子でござる。少し、傍観でもしてみるでござるか。
**
しばらく観察して、一年が過ぎ、拙者は二年生になった。クラスは京子と同じ、まあ沢田たちとも同じだ。挨拶して少し雑談を交わすぐらいの仲でござる。
どうやら沢田は裏の世界のボスと言っていいイタリアンマフィア、ボンゴレファミリーの10代目ボス候補らしい。帰国子女の獄寺隼人、野球部のエースの山本武を仲間に加えてワイワイ楽しげだ。並盛最強の不良兼風紀委員長の雲雀恭弥や京子の兄の笹川了平とも接触し、つい先刻ほど前に黒曜での六道骸一味との戦いが終わった所である。
黒曜の体育館の外。沢田が筋肉痛で気を失った。やれやれ、本当に……こういうところはネギ坊主とは違うでござるな。ふっと呆れた息を吐いた時だった。パン、と銃撃の音が一発鳴り、それをすかさずクナイで弾き飛ばす。……気付かれたな。次からは札を使うでござるか。
「そこに居るのは誰だ」
その問いには答えずに、拙者は天狗ノ隠簑でその場から姿を消した。今、正体がバレる訳にはいかないでござる。それにしても、あの赤ん坊……拙者の気配に気付くとはただ者ではないでござるな。
**
リボーンside
不意に感じた気配に素早く銃を撃てば何かで弾かれた。なんつー反応速度だ、ただもんじゃねーな。誰だ、と質問すればそれは答えられることなく、その相手は存在が消えたように気配を消す。手練だな、それも普通じゃねぇ。俺に気配を気付かせないとはなかなかやる。
敵意は感じなかったからツナの命を狙って居るとかではないだろう。出来れば味方に引きずり込みてーな。
.
先日、商店街の方で大規模な爆発が起こったとニュースに出ていた。実際はボンゴレ所属の最強の暗殺部隊の「ヴァリアー」の幹部の一人、スペルビ・スクアーロがバジルと言う少年を追って事故を起こしたからなのだが。その際ボンゴレリングがどうのこうの。ああ、全て尾行で得た知識でござるよ。途中からキャバッローネファミリーのボス、跳ね馬ディーノが乱入してきて一時撤退となった。
現在、山中外科医院と言う病院で怪我だらけのバジルを寝かせて、ディーノの話に耳を傾ける。どうやらスペルビ・スクアーロに取られたと思われたハーフボンゴレリングは偽物で、本物はディーノが持っていたと言う。
「ある人物からお前に渡すように頼まれてな」
「えー!? また俺に!? なんで俺なのー!?」
「そりゃーお前がボンゴレの……」
「す……すとっぷ! 家にかえって補習の勉強しなきゃ! ガンバロ!」
そういって家に逃げ帰った沢田に溜め息をつき、拙者も音もなくそのあとを追った。
短い
流石に家の中まで尾行するとぷらいばしーとやらの侵害なので、そそくさと帰宅した。何やらお父上が帰ってきたらしい。二年ぶりだとか。いや別に叫んでいたのが聞こえただけでござるよ。
**
翌日、家のポストに半分に割れた指輪が入っていた。はて、こんなものを送られることでも拙者はしたろうか?
疑問もそこそこに沢田は再び昨日の医院へと寄っていった。
そこには山本と獄寺がいて、沢田が半分の指輪を首から下げているように、デザインは違うものの半分のきれいな装飾のついた指輪を持っていた。リボーンとディーノに聞くところによると、沢田以外の六つの指輪は、次期ボンゴレボス沢田綱吉を守護するに相応しい六名に配られたようだ。
「俺以外にも指輪配られたのー!?」
「そうだぞ、ボンゴレの伝統だからな。
ボンゴレリングは初代ボンゴレファミリーの中核だった七人がボンゴレファミリーである証として後世に残したものなんだ。そしてファミリーは代々必ず七人の中心メンバーが七つのリングを受け継ぐ掟なんだ」
「それで後継者の証とかってー!?」
「10代目! ありがたき幸せっす! 身の引き締まる思いっす!」
「(めっさ喜んでるよ!)」
まあ、そういう訳らしい。とても面白そうでござる。獄寺が「嵐のリング」、山本が「雨のリング」らしい。
「なんだ……? 雨とか嵐とか……天気予報?」
「初代ボンゴレメンバーは個性豊かなメンバーでな、その特徴がリングにも刻まれているんだ。
初代ボスは全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空のようだったと言われている。故にリングは大空のリングだ。そして守護者となる部下たちは、大空を染め上げる天候になぞらえられたんだ。荒々しく吹き荒れる疾風、『嵐のリング』、全てを洗い流す恵みの村雨、『雨のリング』、明るく大空を照らす日輪、『晴のリング』、何者にもとらわれず我が道を行く浮雲、『雲のリング』、激しい一撃を秘めた雷電、『雷のリング』、実体の掴めぬ幻影、『霧のリング』……そして最後に、闇に包まれし隠密、『影のリング』」
「……あれ? 八つ? ……数がおかしくないか? リボーン」
「ああ。つい先日、ボンゴレ地下室から偶然発見されたもんだ。今年から守護者に入る。つってもお前たちの持ってるリングじゃまだ……」
「ちょ! すとーっぷ! とにかく俺は要らないから!」
次の会話が始まる前に、拙者は天井裏から姿を消した。
あのスペルビ・スクアーロが狙ったのはリング、なら近々争奪戦が始まってもおかしくはない。
……瞬動、虚空瞬動、その他もろもろ、さらに鍛練しなければ。
学校に行かず家に直帰して裏の森に入る。
忍装束に着替えた拙者はぐっと背伸びをしたあとバサッと天狗ノ隠簑を羽織った。
そのままトントンとジャンプして、虚空瞬動。ビュッと朝の心地いい風がほほを撫でてはすり抜けて、隠簑の布がバサバサとはためく。
そのまま木の枝に着地してフヒュッと瞬動、再び前方の木に足を掛けては瞬動を繰り返した。
『鈍ってはいないでござるな』
おもむろに背後へ振り返りその勢いで手裏剣を投げれば、ザクッと大きく太い木の幹の丁度中心に突き刺さる。
それを満足げに見て頷き、懐から心眼と書かれた目隠し用の布を目に巻き付けた。幸いここには自然のアスレチックがある。以前にも魔法世界で似たようなことをした。
『樹龍が居ないのが残念でござるが、あのときほど辛い戦いでもなかろう。気楽にやるでござるよ。半日耐久森林マラソン。瞬動、虚空瞬動は禁止。いやあ、懐かしいでござるなぁ』
そんなことをぼやきながら、ちらりと背後に視線を飛ばして「気配を消すのが下手でござるな」と呟き駆け出した。
**
家光side
「流石だな、甲賀中忍、長瀬 楓。気配を消した俺に気付くとは……。あれほどの実力でなんで中忍に収まってるんだ……? それにしても、下手と来たか……」
本当にさすがとしか言いようがない。僅か中学二年にしてきっちり完成させられている。技術しかり、それぞれしかり。現在の地点でボンゴレ最強かもしれない影のリングを持つ女。
……心眼とか、やべーな。ただ者じゃねえ、どこでそんな戦闘術を覚えたのか。胸に煌めく白い翼のバッチも謎だ。
.
数日後、夕暮れ時。修業もそこそこに、空腹感に襲われて帰宅するつもりなのだ。夢中になって鍛えていたからか数日何も口にしていなかってのでござるよ。
電柱の上を瞬動で掛けていれば、以前拙者の修業を覗きに来ていた男。その傍らで走る少年。
いいタイミングだ、とばっと彼らの前に飛び降りた。隠簑がバサバサとはためく。
『数日ぶりでござるな』
「!!……お前」
「何奴ですか親方様!」
彼の前に飛び出た少年に苦笑いしながら『拙者、影の守護者でござる』と告げれは「おっ、お主が!」とパアッと顔を明るくさせた。
『長瀬 楓でござる』
「バジルです!」
『で。お主と親方様とやらは、今どこに向かおうとしているのでござるか?』
親方様と呼ばれた人物は沢田の父らしく、現在ヴァリアーが雷の守護者を襲撃に来ているとの情報を得たらしい。飛び出していった沢田や雷の守護者ランボを探しているようだ。
『では、拙者も同行させてもらうでござる』
「すまん、助かる」
**
拙者達が到着した時にはすでに沢田側のファミリー数人とヴァリアーが対立していた。
その中でXANXUSと呼ばれる男が沢田を睨んで手に力を集め始めている。それを見て周囲が焦った。拙者は家光殿と視線を合わせてから糸付きの巨大な手裏剣をぶんっと投げる。
ザクッと大きな音を立てながら地面に突き刺さるそれを糸で引き戻してやれば、XANXUSの気は削げた。よし。
「待てXANXUS、そこまでだ」
家光殿が声を掛ければ一斉に視線がこちらへ向いた。
「ここからはオレが取り仕切らせてもらう」
「と、父さん!!?」
「なっ、10代目のお父様!?」
「家光……!」
「て、てめー、何しに」
そんな会話が続くなか、家光殿はひとつ、死炎印とやらが刻まれた勅命がどうのこうの。まあ言いたいのは、同じ種類のリングを持つもの同士の一対一のガチンコバトルをやろうと言うことだ。会場は並中、審判はチェルベッロ機関らしい。ヴァリアーも去り、みんなも去ろうとした。
……その前に。
『拙者はいつまで無視を食らっていればよいでござるか?』
「わあっ! な、長瀬さん!?」
「長瀬!?」
『……夕暮れだからでござるかな? 拙者の影が薄く見えるでござるよ』
ふっと自嘲気味た笑みを浮かべて羽織っている隠簑に顎を埋める。あまりにもでこざるよ……。
「ご、ごごご、ごめん! で、でもなんで長瀬さんが……!? まさか!」
「そのまさかだぞ」
『予想は当たっているでござる』
「な、長瀬さんも守護者ーー!? 長瀬さん普通の一般人でしょ!? なんでそんな服着てるのー!?」
『ござござ』
詳しい話は翌日でござる。
.
結局あのあとは何も話さず「詳しいことは明日、拙者に家に来るでござるよ」とだけ告げて『にん!』とその場を離脱した。もちろん瞬動で。
風呂上がり、拙者の世界を全て話すか、自身だけを話すか迷っていたのだが、いきなり天狗ノ隠簑が実体化し、淡く光出す。これは、以前の“最後の鍵”(グレートグランドマスターキー)の能力だった『アーティファクト強制発動』にそっくりだった。……誰かが、来るでござるか。
『……?』
若干、旧知の友人に会えるとなると、わくわくする。そしてどさりと落ちてきたのは、三人の人影。全員、クラスメイトの……
「……楓?」
「楓さん!?」
「長瀬じゃん!」
『真名、のどか殿、朝倉殿……!』
現れたのは同じ3-Aの龍宮真名(タツミヤ マナ)、宮崎のどか(ミヤザキ ノドカ)朝倉和美(アサクラ カズミ)だった。予想はやはり当たっていたか。
「楓、お前……今までどこに行っていたんだ……? フェイトがカンカンだったぞ」
『……そっちはまだ数ヵ月も経っていないでござるか、真名』
「ああ、フェイトが来てまだ二週間だ。お前は一週間前に行方不明になっている、ネギ先生にも連絡が行っていたからな、あの子も心配しているだろう」
『そうでござるか……実は拙者がこの世界に来てから既に一年半が経過しているのでござるよ』
「い、一年半ですかー……!?」
「え、じゃあこっちの世界と私たちの世界じゃ時間の流れが違うっていうの? 長瀬」
『そうみたいでこざるな』
「一応聞くがここはどこだ?」
真名の問いに答えてやり、自分が今どんな境遇に居るかも話せば三人とも興味津々で頷いた。
「……守護者か。まあ、お前程の実力なら大丈夫だろうよ」
『やれやれ、真名。油断は禁物でござるよ』
「うるさい、わかっている」
結果としては真名たちもこの家に住むことになり、明日の話は拙者達のいた世界のことも話すことに決定したでござる。にんにん。
.
今日も学校に行かず、修行をするでもなく、友人たちとのんびり過ごす。
今日、沢田たちは学校に行っているらしく、来るのは夕方になるだろう。
『暇でござるなぁ』
「じゃあ魔法世界行ったときの最終決戦の映像見る? あのあと編集して映画風に仕立てたんだよねー、全9時間! 舞踏会から夏休み最終日のイベントと決着まで! 見る? 暇潰しには持ってこいだって! 私のアーティファクトが全てを記録してたのよ!」
「……ほう」
「い、いいいいいや、で、でも……それには、私が調子に乗ってデュナミスさんに偉そうな口を聞いたところも……?」
「当たり前よ! それに、もう一回ネギくんの勇姿見れるんだけど、宮崎どうする?」
「! み、見ますー……!」
『決定でござるな』
備え付きだったDVDプレーヤーに朝倉自作のDVDをセットして上映でござる。
**
ツナside
学校も終わって、山本や獄寺くん、リボーンと長瀬さん家にやって来た。でも、いくらチャイムを鳴らしても返事がない。どうしたんだろ……。
「長瀬のやつ、居ねーのな?」
「ったく、せっかく10代目が来たっつーのに」
「いや、長瀬はいるはずだ、見ろ、開いてるぞ」
リボーンが玄関に手をかければ易々と開くドア。悪いとは思いながらも『オ邪魔シマース』と呟きながら入れば、靴が三足多いことに気が付く。誰か来てるのかななんて思いながら足を進めていった。
「なんて言うか……普通の家だね」
「そっすね……」
獄寺くんに同意を貰いながら進めば、奥から「ほう、私がザジの姉と戦っていたときは丁度お前が風のアーウェルンクスと戦う時か」『そうでござるな』「宮崎は雷で気絶しちゃってたもんね、あんたフェイトに石化の針十本以上で狙われてたでしょ、何したの」「わ、私じゃなくて、多分いどのえにっきの方だと……」「それを引き出したのも、ある種の才能さ」「へぅ」と会話が聞こえてきて、その部屋の扉を開ければ、大きなテレビに外国人の顔立ちをした少年と長瀬さんが向き合う映像。それを見てるのは長瀬さんと肌の黒い美人と骸と似たようなパイナッポーヘアの女の子、ショートカットの気弱そうな女の子だった。
『おや、来たでござるか』
「わりーな、チャイム鳴らしても出てこねぇから入っちまった」
『全然かまわんでござる』
そうして事情を話してもらった。あの三人は昨日突然やって来たらしい。
『拙者は長瀬楓、甲賀中忍でござる。実は拙者は一年半ほど前にいきなりこの見知らぬ大地に立っていてでござるな……つまり、拙者はこの世界の人間ではないのでござる』
「……多分ホントだな、疑うなよお前ら」
「分かってるよ、リボーン」
『助かるでござる。拙者、自分の世界では中学三年なのでござるが、若返ってしまったようでなぁ。
拙者の世界は魔法が存在するのでござる』
そこから一気に話してもらった。珍しく獄寺くんも大人しく、真剣に聞き入っている。そして全てを聞き終えて、自己紹介をすることになった。と言っても長瀬さんが他の人たちに俺たちのことを教えたみたいだけど。
「話は楓から聞いている、龍宮真名だ。楓とは死合いをした友人だ。向こうではスナイパーをしていた。もし頼みたいと言うならば、金さえ払ってくれれば何でもしてやることも出来るぞ? 半魔族だ、よろしくな」
「私は朝倉和美。麻帆良じゃ有名な実況者で新聞記者だよ。私たちの詳しい出来事が知りたいなら言ってね、私編集のDVD貸したげる、ちなみに新聞部ね」
「み、宮崎のどかですー……。えっと……と、図書館探検部所属です……あと、トレジャーハンターもしてます……よろしくお願いします……」
肌の黒い美人が龍宮真名、パイナッポーヘアが朝倉和美、ショートカットの気弱そうな女の子が宮崎のどか。……女の子ばっかりだ。
「あ、ねーねー聞いて聞いてー! 長瀬ってばさー、魔法世界行ったとき、私達守るためにラスボス級の敵に一人で勝負しにいったんだよ、かっこよくない!?」
「え!? あ、朝倉さん!?」
「丁度今からなんだよねー! まあ見てなって!」
朝倉さん強引だなぁ……。
.
三日月宗近転生沢田綱吉成り代わり番外編。※パラレルワールド注意※時間軸は虹の代理戦争終了直後。
**
自宅にて。いつも通り甚平を着て、縁側で恭夜と茶をすする。思い返せばいろいろあったなぁと俺が呟けば、隣に引っ付いて離れない恭夜が「じじくさいよ」と俺の右腕に抱きつく力をギュッと強めた。
その直後、どこかからランボの泣き声が聞こえてきて、ひゅるると風を切る間抜けな音が聞こえて、俺が刀を抜く前にそれは俺たち二人に着弾する。最後に聞こえたのは、獄寺の「10代目!」と叫ぶ声だった。
その刹那、ボフンと音が響き、目の前を白い煙が覆う。大方10年バズーカだろうな。
きょろきょろと見回せば、そこは俺の部屋で、でも太刀掛けが無い。はて……と首をかしげながら恭夜を見れば「……宗近の部屋なのかい……?」と怪訝そうに首をかしげている。
煙が晴れて一番に見えた人影は、俺もよく知っている……この物語の主人公、沢田綱吉。恐らく恭夜と二人、人数のせいでなにかしらの不都合が起きて白蘭の言うパラレルワールドにでも来てしまったのだろう。目を見開き、口をはくはくさせてから、「りっ、りぼおぉぉぉぉおおん!」と隣のリボーンへと叫びをあげた。うるさいと一蹴してイタタと呟く彼を横目に、リボーンは「お前は誰だ」と呟く。部屋に居たらしい獄寺や山本もこちらを一瞥した。
『ん……? 俺か? 俺はなぁ、……はて? 恭夜、俺はなんでここにいるんだ?』
「はぁ!? ふざけてんのかてめえ!」
「まあまあ、落ち着けって獄寺」
「……あの子牛の10年バズーカとやらに当たったの、わかる? 大丈夫かい? 本当に脳までおじいちゃんになったの? 僕結構困るんだけど」
『はっはっは! それもそうだなぁ、俺も困る』
「おい」
『おっと。すまん、自己紹介だったなぁ。俺は沢田 宗近、好きに爺でも何でも呼べ呼べ。そして、恐らくパラレルワールドの『沢田綱吉』だ』
「ぱっ、パラレルワールドの俺!? お前が!?」
「パラレルワールドの10代目!?」
「すげーのな!」
『あなや、そこまで驚かれるとは』
綱吉は「こんなイケメンがパラレルワールドの俺!? 明らかに何でも出来そうじゃん!」とうわあああ! と頭を抱える。だが、恭夜は綱吉に「そうでもないよ」と言い放った。
「へ?」
「宗近、朝は4時頃に自然と目が覚めて勝手に家から出て散歩みたいにほっつき歩いてるんだ。最悪三日も戻らないことも多いんだよ」
「は!? 三日!?」
「それに朝に縁側で呑気にお茶すすってるから遅刻はするわ、一日そこに居て夕方頃になって「あぁっ! 学校だ!」とか呟いてるし。なにもないところで転ぶわ授業中お茶を湯飲みで飲んでるわ僕が言わなきゃ学校まで甚平のままで行こうとするわ、国語と社会と体育以外ホントダメダメだし笑顔で刀を振り回すわ……前なんて宿題のプリントが嫌だからって庭先で細切れにしてたんだよ。無駄に顔も良いから変な女が寄ってくるし性格おじいちゃんだし言動おじいちゃんだし授業はサボって校内徘徊してるし昼時には中庭のベンチで野良猫たちと戯れながら寝てるしホントダメダメなんだよ」
『あなや、ずいぶんとボロクソに言われてしまった』
へらりと笑えば恭夜に腹をどつかれた。
.
「さっきから、パラレルの10代目のことぼろくそに行ってるけど、てめぇは誰だよ」
獄寺が不機嫌そうに恭夜を睨む。恭夜はああ、と呟いてから口を開いた。
「僕は雲雀恭夜。宗近の幼馴染みでその世界の並盛の風紀委員長をしてるよ」
「ヒッ、ヒバリさんーーー!? そっちの俺の世界じゃ女の子なの!?」
『おや、じゃあこの世界では恭夜は男か』
「なんかやだ」
『見てみたい気もするがなぁあいたたたた、いだっだだだっ! や、やめろやめろっ、痛いっ』
「なんかいらっとした」
右横腹をトンファーでぐりぐりと圧迫されて痛みに悶えていれば、獄寺が俺に問い掛けてきた。
「パラレル10代目! そっちの世界の俺はちゃんと右腕として機能してますか!?」
『ん? ……ああ、お前はよくやってくれている。山本と日々俺の左腕の座を取りあっているぞ』
「ひっ、左腕ぇ!? 右腕じゃないんですか!?」
「バカ言わないでチンピラ。宗近の右腕は僕だよ。譲らない、絶対に、チンピラにも、山本にも、絶対、誰にも、僕だけ、僕だけの、あげない、僕だけが、宗近の、ダメだよ、宗近は、僕のもがっ」
『恭夜が俺の一番最初のファミリーで右腕だ』
若干仄暗い雰囲気を出し始めて俺を見上げて腕をギリギリと抱き締めながら呟き出した恭夜の口を左手で塞いで彼らに微笑みかける。彼らは恭夜を見て若干顔を青くしていたが、分からんでもない。
「そっちのヒバリはお前に相当執心してんだな……」
『はっはっは! リボーンや、言うてくれるな。まあ俺は美しいからなぁ』
「うわあ! 言い切ったぞ俺!?」
「宗近は誰が見ても美しいからね、女性教員でさえ惚れるんだから」
「ヒバリさんがそんなこと言うなんて!?」
騒ぐ綱吉に苦笑していれば、彼ははっとして俺を見た。
「そ、そっちじゃ、京子ちゃんどうなってる宗近!」
『ん〜……よくわからんなぁ』
「笹川京子、まあ、宗近にベタ惚れだよ」
『あなや、そうなのか』
「えっ、マジかよやべーな」
「嘘ぉ!」
「この世界の彼らならともかく、なんで宗近気付かないの……。いっつも宗近挟んで僕と言い争いしてるでしょ」
『あなや』
「ほんとムカつくね。なんなの、あれ。笹川京子の奴、僕の見てる前で宗近にべたべたべたべたべたべたべたべたと鬱陶しい、いずれ宗近の見てないとこで咬み殺す」
目が完全に暗くなった恭夜を放置して『そうだ、三浦だ、そっちじゃどうなんだ?』と逆に問いかけてみた。
「ハル!? ハルは……えーっと、その……」
「ツナにベタ惚れだぞ」
『ほほう、仲良きことは美しきかな、羨ましい』
「そっちのハルは?」
『くうると言うものだな。毒舌家とでも言うか。子供が嫌い。動物が苦手。同性愛者。……俺に嫌悪感を抱いているようでな……いつもごみを見ているような目で見てくるんだ。「消えればいいのに」と言う言葉は口癖だな……流石に金的蹴りは効いた』
「そっちのハルなんか怖い! 無邪気なハルでよかった!」
「羨ましいぞ綱吉」
っと、もうそろそろ五分か……。
『そうだ、記念に写真でも撮ろうか。今後きっとないぞこんなこと』
「そうするか」
「ええ……、僕別に宗近以外どうでもいいんだけど」
「ヒバリさん!?」
最終的には記念写真を二つのカメラで撮って片方ずつ持った。
『じゃあな、頑張れよデーチモ』
「宗近もデーチモでしょ」
「宗近は宗近だよ」
『少し黙ろうな恭夜』
「宗近が言うなら、うん、わかったよ」
「(ヒバリさんめっちゃ素直ー!)じゃ、また会えたら良いな、宗近」
『ああ、またな、綱吉』
.
自分の世界に戻ってから数日、俺と恭夜とリボーンが今後ボンゴレをどう引っ張るか思案していたときだった。
ボゥンと音が鳴り響き、煙が部屋に蔓延する。奥からげほげほと咳き込む声がする。隣の恭夜は俺の腕をギュッと抱いた。
煙が晴れて見えた姿は、先日見たあの沢田綱吉。リボーンにも一度事情を話しているので「ああ、アイツが」と目をしばたかせる。
そして驚くことに綱吉の隣に居たのは、そちらの世界の雲雀恭弥。
「げほっ、げほっ、うぅ…あれっ!? 宗近!?」
『ああ、俺だ。数日ぶりだなぁ、綱吉や』
「……ちょっと。草食動物、ここどこ、なにこれ」
雲雀恭弥が不機嫌そうに綱吉を見下ろした。ヒィッ! と情けない声をあげて怯える綱吉を指差して「アレがパラレルワールドのお前なんだな」と聞いてきた。コクリと頷けば「全く似てねぇな」と呟く。
何やら綱吉が刺激したのか、雲雀恭弥がトンファーを取り出して今にも殴りかかりそうになってきた。
『これこれ、ここで暴れるのはやめろ、刀が折れる』
「その前に部屋が壊れるよ!? そっちの心配しろよ!!!」
「そっちのチカはツッコミ気質か」
「なに冷静に思案してんだよリボーン!」
「うるさい」
雲雀恭弥のトンファーが風をきる。素早くて、避ける暇もない。ああこれは直撃だなとにこにこ微笑んでいれば、いきなり黒い何かが飛び込んできて雲雀恭弥のトンファーをガィンと派手な音を立てながら弾き飛ばした。ガン、と壁にぶつかりカランカランと地面を転がるトンファー。
目の前に居たのは戦場でもあまり見れないガチギレの恭夜。彼女からは濃密な殺気が惜しげもなく晒されていて、常人なら気を失っているだろう。まあここにいる人間は全員常人じゃないが。
恭夜はストンと俺の右横に腰を降ろして、パラレルの自分を見据える。彼も「ワオ」と呟いてから軽やかに地面に腰を降ろした。胡座。
「草食動物から聞いてたけど、パラレルワールドの僕って本当に女なんだね。まさかトンファー弾き飛ばすなんて」
「宗近に手を出したら、右腕の僕が許さない。地の果てまで追って無惨な死体に仕立てて宗近の前に転がすからね」
「へぇ、僕がそんなこと言うなんてね、群れてるのかい?」
「僕だって群れるのは好きじゃない、嫌いだよ、宗近以外にはこんなことしない。まあ他校生に並中生がやられたら、まあ多分怒るんじゃないの?」
「ずいぶんそこの沢田宗近を贔屓してるね、風紀の存在も曖昧だ」
「さっきも言わなかったかい? 僕は宗近の右腕だよ。僕の全ては宗近の為にあるといっていいし、宗近がいない世界なんて生きてる価値すらないんだ。宗近は僕の中で揺るぎない絶対、そう、僕は宗近のもので宗近は僕のものだ、宗近は僕の呼吸に等しい存在だ、僕の全てだ。宗近以外どうでもいい、誰にも僕の宗近には触らせない、宗近が、誰にも、絶対に、僕は、僕の、宗近だけ、あげない、渡さない、ダメだ、そうだ、なら僕が監きnむぐっ」
『とまあこんな風に頑張ってるみたいなんだ』
完全に目からハイライトが消えたので慌てているのを動きには出さず悟られないよう恭夜の口を左手で塞いで雲雀恭弥に告げれば「……犯罪ワードが聞こえた気がしたんだけど」と表情変えずに俺に告げた。隣の綱吉は雲雀恭弥の影で完全に怯えている。
いまだギリギリと力強く恭夜のその大きなめ胸に沈むように抱き締めるられている右腕はみ指先から感覚が無くなってきた。待て待て、血が止まっている。
恭夜をガッ、と拳で少しだけ手加減して小突(?)けばハッとしたように力を緩めた。腕は離さないらしい。
「……宗近、今そっちのヒバリさん、結構力入れて殴ったの……?」
『ああ。前にもこんなことが数百回あるんだ、やさしめに小突いても戻ってこなくてなぁ』
はっはっは! 困ったものだろう? と同意を求めれば目の前の雲雀が笑い事じゃないでしょと言う顔をして綱吉が「笑い事じゃないだろ!?」と気持ちよくツッコミをしてくれた。
「……とにかく、宗近に危害を加えたら咬み殺す」
「わかったよ」
呆れたように自分を見つめる雲雀に苦笑いが浮かんだ。
.
ぼろ布主+4が銀魂にトリップして絵描き屋として食い繋いで頑張ってもとの世界に戻ろうとする話。雲雀さんと婚約。
それは唐突。自宅で相も変わらずぼろ布を被って椅子で綱吉に渡されたボンゴレの資料を片していた時だった。
つい先日に成人した。今度ディーノと飲むかとか考えて頭を横に振る。恭弥がキレるからやめておこう。
中学の時と変わらず左腕に巻き付く包帯の上から蛍光灯に反射してキラリと光るシンプルで控えめな指輪を一撫でした。あと、ちょっと。あと二週間ほど経てば、名字が伊達から雲雀になる。……まあ、そういうことになるわけだ。
ふぅと書類をバサッと乱雑に机に投げ捨てて椅子の背もたれに体重を預ける。ちなみに白玉の本名が伊達 いおりと言うことはとっくの昔に知れ渡っていた。多分あれだ、文化祭でこっちが白玉だと知っていた綱吉と山本の本願に負けておこなってしまった体育館での白玉初ライブ。あれで顔と名前が拡散したんだ。うわ改めると泣きたい。以前恭弥にプロポーズ的なものをされてしばらく経ったあと、ネットで報告したら「あぁ、ヒバヒバか、よく頑張ったね(柔笑)」「やっとか、よく頑張ったなヒバヒバ(フッ☆キラッ」「おっそ!! とりあえず私からは心からおめ! ヒバヒバよく頑張った!」「ヒバヒバめ、俺らを焦らしたな、よく頑張った!」「俺たちシララーはヒバヒバと白玉をくっつくの応援し隊だからな、素直に嬉しい。ヒバヒバよく頑張った」「今思う、ヒバヒバの顔よく知らん。ヒバヒバよく頑張った」「どうせイケメン。ヒバヒバよく頑張った」「白玉さん裏山。ヒバヒバよく頑張った」「ヒバヒバのプロポーズの現場誰か撮ってないの? というかよく頑張ったねヒバヒバ」と暖かいコメントが返ってきた。なんかヒバヒバよく頑張ったの意味のコメントがよく語尾についていた気がする。恭弥は数度こっちの雑談生放送やホラゲ枠の生放送に乱入してくることがあり本人からの希望で「ヒバリ」と言う名でやっているのだが、リスナーさんからの愛称はヒバヒバだ。なんと可愛らしいことか。
改めて指輪を眺める。どうやら恭弥特注らしくて、リングの裏にはこっちと恭弥の名前が刻まれていた。
『……ホンマ、』
あんま実感沸かない。一緒になるのが嫌なわけではない。中学時代から(それはもう、学校で露見されたときからべったりぴったり)片時も離れずに一緒に居るので、あまりもとの生活でも変わらないような気がするのだ。もちろん嬉しいことですが。
その時、パサリと自分の羽織っていたぼろ布が風もないのに揺れた。
『アンクル』にVGを変更。右足首。
次の瞬間にはもうこっちは自室には居なかった。周りを見渡せば和風な人が行き交う大通り。あれ、なにこれタイムスリップ? とか考えるも普通にバイク走ってるしホンマなんなんここ。
**
あれから数日。この世界の歴史の雑誌を図書館で借りて読んだ。ここは江戸のかぶき町、この世界には天人と言う宇宙人が存在し、天人に甘く侍に厳しく、と言う政治が回っている。官僚には天人も。以前天人を地球から追い出そうと、侍が攘夷戦争を起こしたらしい。まあ負けたが。政治が寝返ったのだ。以来攘夷志士は悪者として言われるようだ。その中でもテロとか起こすバカもいるらしいけど。……あれ、おかしいな。一回漫画で読んだこと有るような……。いや違うここはそこに似た別の何かだ。
こっちはと言うと金をスケブで作り出し、家を購入した。大通りにある一軒家だ。とりあえずなにもしないわけにはいかないので、一階で絵描きでもしようか。と言うことになり、いろいろVGを駆使して一階を改造し、まああまり人は来ないものの頑張っている。
それと、恭弥が居ない。恭弥が居ないだけでこんなに寂しいとは思わなかった。頭から被るぼろ布がこっちの震えを伝えて揺れる。
ああ、もう時間だ。と店の席を立ち、今日は終わるとするかと立ち上がった時だった。
「ここ、まだやってっか」
鼓膜を震わすなんちゅーか、恭弥とはちょっと違うとんでもないイケヴォ。恭弥もイケヴォですけど、コイツはなんかエロい。
振り向いて『まだやっとります』と告げてから相手の姿を見て微かに一時停止するも、『なんか描きましょか?』と通常通りに告げた。
そこには夕焼けをbackに背負ってキセルを手にこちらを見つめる紫が強い色の女物の着物を男結びでかなり着崩した色男がいました。いや問題はそこじゃない。そこじゃないんだ。
「あァ、この写真描いてくれ。A4で頼むぜ」
『わかりました。期限は何時ぐらいがエエですか』
「そうだなァ、三日後くれぇにまた来るぜ」
『了解っす』
写真を受け取り奥へと引っ込もうとすればグイッと布を引っ張られて「おい、名前聞き忘れてんじゃねェか」と呆れた声で言われた。確かに忘れていた。いや問題はそこじゃない。
『すんません、忘れとりました。名前伺いますけど大丈夫ですか』
「構わねえ。俺ァ、“高杉 晋助”だ」
『(たっ!?)高杉 晋助さんですね、依頼承りました』
「おう」
た か す ぎ し ん す け
そう、問題はここだった。ここだったのだ。いやそうですよね、上記の風貌に左目包帯眼帯とか高杉さんしかありえへんですよね。
ちょっと、新撰組(おまわり)さーん。ここに過激派攘夷志士が居まーす。鬼兵隊の総督がここに居まーす。すごく関わりたくないでーす。俺は全てを壊したい病に掛かったいい年した厨二がここに居まーす。
布を目深に被り直して背を向けてシャッターを閉めようとした時だった。
「客が来たのに顔も見せねぇとは、お前どんな頭してんだ」
『……こっちコミュ障なんで、目ェ見ると話せへんのですわ、勘弁したってください』
「へェ……まぁそう言うことにしといてやるよ。……ずいぶんとゴツいアンクルしてんな」
『友人から渡されたもんなんで。これらのために多くの人が血の海に沈んだとか沈まなかったとか』
「そんなに高価なもんか」
『まあ、とある、人間の命を大事にするマフィアに代々伝わる幹部の継承の証なんで、そこそこには高価やと。今代で10代目です』
「お前マフィアか」
『今はちゃいます。ただの戦闘は弱い一般人です』
いぶかしげな視線を投げられたものの納得して高杉さんは帰っていった。なんか緊張した。とりあえず銀魂の世界とかなんなんこれ、なんなんこれなんなんこれなんなんこれ!?
恭弥と風くんがとても懐かしいです帰りたい。
.
三日後、高杉さんは律儀に店にやって来た。やって来た高杉さんに絵を渡せば固まって「これ本当に絵か? 写真プリントアウトしたんじゃねぇのか」と疑われた。失敬な。
『うちにプリンターないです』
「実力かよ」
『うぃす』
高杉さんはけらけらと笑ってから「また来るぜ」と行ってしまった。……うっ、嬉しい申し出ですけどぉ、もう来ないでくださぁいっ、怖いですぅっ。ダンロンの蜜柑ちゃんのように言ってみたがキモくて吐きそうだ。蜜柑ちゃんだから出来るのだあれは。しまった、長い間黙ってしまった。
『……また』
慌ててそう告げれば高杉さんは振り返らずに片手をあげて手を振ってから行ってしまった。なんやあのエロイケメン。
それを見送ってからぱたんと戸を閉める。どかりと椅子に座ってからあああああと大きく息を吐いた。
『……恭弥』
ここにいない恭弥の名前を呼んだ。普通の紙に鉛筆を滑らせて恭弥のいつも通りのムスッとした顔を描いた。いつの間にか出てきていた夕焼小鳥がぽすりと頭の上に乗ったのが分かる。この小鳥もヒバードに似ているから不思議だ。
『せや、買い出し』
慌てて立ち上がり、扉をガラリと開けて鍵を閉めて、ついでとばかりに周囲にばれないように三重に鍵を掛けてピッキング対策を施した。
匣兵器からバイクを出していたのでそれに股がりヘルメットを被って出発した。バサバサとはためくぼろ布に隠れて、背後をつけてくる影には気づかなかった。
必要だったものを購入し終えて帰宅。異変に気付いたのはその時だった。
『なんっや、これ』
.
厳重に掛けておいた鍵はぶっ壊され、入られた形跡があった。嘘やろ。あるものないもの見てみれば金品は全て残っていたものの、下着が一枚無かった。嘘やろ。あれか、今ちまたで騒がれている下着ドロか。若い女の下着を盗んでは夜な夜なモテない男に振り撒いているあの鼠小僧の変態バージョンか。まあ捕まるやろ。そう思いVGで扉を修復して五重掛けの鍵を設置して家に入った。
そして数日後、高杉さんが再び店へと姿を見せた。隣にピンクのへそ出しセクシーな服を着た金髪美人をつれて。あれ来島また子よな。うーわめっちゃ美人や、実物めっちゃ美人や。高杉さんは頭に被っていた笠を小脇に抱えて煙管を加えながら「よう」とこちらに声をかけた。
『どうも高杉さん。隣の美人、高杉さんの彼女すか』
「なっ、なななっ、びっ、美人!?」
『はい、久々こんな美人見ましたわ』
「あ、ありがとうっす!」
「女店主、依頼だ」
『はい』
高杉さんの雰囲気がちょっと怖いものになったのでちゃんと話を聞くことにした。
「今ここで絵ぇ書くのは可能か?」
『全然』
「コイツ描いてやってくれ、前の絵をプリントアウトだっつって聞かねぇ」
「だってあんなの絶対プリントアウトっすよ! 金取り泥棒っすよ!」
『(ひどい言い草や)鉛筆でエエですか』
「頼むわ」
のんびりと一枚の白紙とバインダー、鉛筆を取りに奥へ引っ込みまた出てくれば二人してこちらを見つめてくるお二人の姿が。
『どないしました』
「てめェ左腕の包帯どうした。昔絡みで喧嘩か」
『いやこれこっちが16の時につけてもた大火傷です。見せれる様なもんやないんで包帯巻いとりますけど』
「そんでその包帯すら隠す為にボロ布頭から株ってんのか」
『こっちコミュ障なんで』
「嘘だな。いくら目を見ねえっつってもコミュ障がここまで喋れる筈ァねえ」
『あー、恥ずかしながら、コレないと不安になる言いますか、調子出んのですわ』
「ヘェ」
くすくすと鋭く目を細めて笑う高杉さんを不思議に思いながら来島さんに椅子に座ってもらい、こちらも正面に腰を掛ける。
『高杉さん、名前なんちゅーんですか』
「来島また子だ」
『来島さんすね、すんませんけどしばらく動かんといてください』
「了解っす」
また子のその合図を聞き、こちらはバリバリと鉛筆を滑らせ始めた。途中で力を込めすぎて鉛筆が折れたので『役立たんな』と一瞥もせずに勢いよく後ろに放り投げ、手元に呼びとして置いていた鉛筆を手に取りずしゃしゃとここ数年VGで鍛えた筆速でまた子を描き進めていった。
「(はえェな、手元が見えねぇ)」
「(なんかずしゃしゃとか聞こえてくるんすけど!?)」
二人が脳内でそんなことを考えているなんていざ知らず、ものの五分も経たずにまた子ちゃんを描き終えてしまう。
『とりあえず待たせるんアレなんで速攻仕上げました。雑になりましたけどそこら辺は堪忍してください。て、顔色悪いですけど、気分でも悪いんですか』
「い、いや、大丈夫っす。これ、今描いたんすよね!?」
『あっはい』
「晋助様! 見てくださいこのとんでもクオリティ! 五分っすよ五分!?」
「…女店主よォ、あんたあの絵もこんなスピードで終わらしたのか?」
『まあ』
そう頭を掻けば、唐突にヒタリと高杉さんから首もとに刀を置かれた。咄嗟に両手を上げて『高杉さん』と声を掛ける。
「おい、女店主よ。やっぱアンタ唯者じゃねーな」
『……タダの善良な一般市民です言うて』
「いや違ェな。本当にタダの善良な一般市民なら首に刀置かれて震えて泣き出すだろーよ、それに」
『それに?』
「さっきから俺は一般市民なら気絶するくれェの殺気を出してたんだ。そこの来島でさえ顔を青ざめる様な、な」
『!』
なるほど高杉さんたちは元々目的がコレだったのか。口実として絵の事を出したと。悲しいような賢い様な。いろいろと脱帽ものだ。
『ホンマ、脱帽もんやで高杉さん』
「あの殺気の中で平然と絵ぇ描いてたアンタにも脱帽だぜ俺ァ」
『いや、まぁ慣れとるんで、殺気とかには。集中し過ぎると分からんだけっちゅーか』
「慣れてるだと?」
『婚約者がそんくらいの殺気を常日頃から出しとるんですわ。多分本人無意識ですけど自然と言うか、アイツの雰囲気が殺気っちゅーか』
「んだそりゃぁ」
さて、高杉さんたちはこっちを一体どうするつもりなんやろか。