どうもこんばんはぜんざいです。
私、思ったのです。書きたい作品が多すぎて、その分だけスレを作ると数がとんでもないことになるからどうしようと、完全に無駄だぜ? と。そして答えがこうなりました。
もういっそ全部引っくるめて自由に書いてしまえと(
終着点がここなのです。
なので、とにかくひたすらジャンルバラバラの夢小説書きます。
コメント及び感想待ちます! 小説投稿はやめてほしいんだぜ?(⊂=ω'; )
まあ簡単に言うと、私の落書きのようなものなので、他の人は感想だけということになりますね。うわあ上から目線だぁ! 恐らくコメントには感涙します、めっちゃなつきます。ビビります。
ジャンルは大まかに言えば、wt、tnpr、妖はじ、turb、krk、FT、中の人、FA、mhaです。
これからも増えるだろうと思われる模様。
2ch的なものも出てくると予想されます。
これまでの上記で『2chやだ!』「作品がやだ!」「ぜんざいがやだ!」言うからは目がつぶれないうちにご帰宅or gohome(΅΄ω΄→ ハヤク!
2ch系では顔文字や「wwww」表現が出るかと思われます。嫌な方はブラウザバック!
それでは、そしてーかーがやーくウルトラソheeeeeeeey((
文的にうるさくてすいません。
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「てめェ、実力者だろ」
『自分で言うのもなんやけど、多分そうやないですか』
「鬼兵隊に入る気はねェか」
『無いな』
即答すれば理由を聞かれた。そんなの単純に新撰組に追っかけられるのは困るからだ。そう返せば「ちげぇねぇ」と高杉さんはカラカラと笑って刀を納めた。
「ダメもとでまた何回か勧誘に来てやるよ。贔屓にしてやるから、まァ考えててくれや」
「っす。そういうことなんで」
「また来るぜ、女店主」
『来島さんまた来てな』
「てめえ」
若干ムッとした高杉さんにフッと笑みを溢して『また』と返せば彼は返すことなく歩いていこうとする。が、ピタリと足を止めてこっちの姿を目に止めた。
「女店主……お前、名前なんだ」
『……伊達 いおりや』
「伊達か」
今度こそ彼ら二人は網笠を頭に被って行ってしまった。なんか、悪人には見えんかったけどなぁ。
そして翌日、差出人が高杉晋助の宅配便が届いて、すごく美味しそうかつ高級そうな水羊羹が送られてきたことには流石に驚いた。贔屓にってこういうことか。これは、無下には出来ひんぞ……どないしてくれるんや高杉さん。
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ワイシャツを着てそれをそのまま腕捲り。腰にジャージを結んで下はワークパンツ。まぁダボッとしたディーノが穿いてる様なズボンだ。
その上からボロ布を羽織って準備オーケー。そのままVGのスケブから恭弥の乗っていたバイク(スズキ・カタナ)を呼び出し、バイクを描いた紙を破って実体化。よし、甘味屋行ってきます。
唐突に今日はぜんざいが食べたくなった。元々この世界に来て好物であるぜんざいを食べていないのだ。江戸やねん、食わな損々。でも主人公とのエンカウント率が上がりそうやわ。既に高杉さんに会うてるし。
そんなことを考えながらバイクを走らせて甘味屋到着。店員さん(女性、顔も制服も可愛い)にぜんざいをひとつ頼んで大通りに面した外の長椅子に腰掛けた。
運ばれてきたぜんざいを満足げに食す。ここの美味い。恭弥に食わしたい。
さて帰るかと勘定をしていたときだった。
遠くからパトカーのサイレンが響いてきて、そのままパトカーから茶髪の黒制服の青年がこっちのバイクに目を付けて「借りるぜぇ!!」とさしっぱなしだった鍵を回してエンジン掛けて行ってしまった。
余程急いでたのか……新撰組大変やなぁ。……茶髪の彼が沖田だとは思いたくないな。
遠くで「見つけやしたぜェ土方しねコノヤロー!!」と聞こえてきたのは知らんぷりだ。こっちは関係無いもん。
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結局返ってきたバイクはボロボロで目が死ぬ。恐らく死んだ魚の様な目をしているであろうこっちに、沖田総悟らしい人物が(見た目だけ)申し訳なさそうにやって来た。
「すいやせーん、借りたつもりだったんですけどー、土方のヤローが避けやがったからぶっ壊れましたァ」
『(まぁまた出したらエエか……)ん、まあ新撰組やし、しゃーない』
「!? あァ、まぁ、はい」
驚いたように目を見開いて見上げてくる沖田くんにあっ、これヤバイかも。と危機を察知してグイッと頭に被った布を引っ張り、苦し紛れに沖田くんの頭を一度ぽんと叩いてから足早にその場を去った。
エンカウントして目ェつけられたら結構困るんですよね、いおりさんは傍観しとりたいんや、許せや、つか許してください頼みますマジで。
帰宅して中に入ると何やら高級そうな包みが。……どないして入ったんや高杉サァン。開けてみれば高そうな和菓子詰め合わせ。甘味屋に行く前に届けてほしかった。正味行く前に届けてほしかった。二回目やんこれ言うん。
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そして翌日、ポストにとある茶封筒が入っていた。中身を見ればこっちの隠し撮りの写真の数々それと手紙。なに、これはあれか? 高杉さんの新手の嫌がらせですか?
いやいやー、とか内心思いながら導入(笑)されていた手紙をぺらりと開く。そしてそこには!
「貴女をいつも見ている。そう、いつもいつも見ているんだ。左腕の包帯の下が見たいな、貴女の全てが知りたいよ、口調はどんな感じだい? 土佐弁? 関西弁? 標準語? 右足首のバンクルが高級そうで、足枷みたいに見えてとても綺麗だね。ところで左手の薬指の綺麗な指輪は誰から? でも俺はまだあげてないよ? ああ、安心して。大丈夫だから。分かってるよ? 無理矢理押し付けられたんでしょ? そして僕に嫉妬して欲しいんでしょ? だって君は他人を寄せ付けたくないみたいだからね。俺以外とは触れ合いたくないって事でしょ?」
……うぇぇえええぇぇえええぇぇい!
なんだこの勘違い男! なんだこの勘違い男! 大事な事だから二回言うたよ! なんだこの勘違い男! 大事な事だから三回言うたよ! こっちは恭弥一筋やっちゅーねんボケ! 誰がお前なんかに嫉妬してもらいたいねん! キッモ! キッモ!!!
『勘違い馬鹿乙(笑)ダッセキッモ』
手紙を書いた人物に嘲笑して、歩き出す。手紙をライターで燃やして炭になったからそのまま捨てた。とりあえず写真持って新撰組に行こうそうしよう超怖い。
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新たなバイクに飛び乗りブォンブォンドルルルルと音を立てながら爆走して到着した新撰組屯所前。とりあえず、『すんまっせーん』とか軽ーく言う勇気もないので『ごめんください』と控え目に扉を開けた。こっち多分めっちゃ怪しい人やと思うねん。やってボロ布頭から被っとるんやで。
は、と自嘲気味た笑みを微かに浮かべて一歩足を踏み入れれば、こっちに向かってスッ飛んでくる黒い影。人影のようにも見えるので避けるわけにもいかず、一緒になって吹き飛ばされないようにガシッとその人を片腕で支えた。左肩ゴキって言うた! ゴキ言うた!!
どうやら目を回しているようで、顔を見てみればジミーと有名な山崎退だった。え。
彼が飛んできた方向を見ればそこには今にも山崎さんぶん投げましたと言ったポーズの土方十四郎さん。
「……な、にか用か」
『今、投げはりました……?』
「いーぇぇえ!? 投げてませんけどぉ!?」
『あっはい』
土方さんは声をあげながらこちらを脅すように見てきた。とりあえずそれをスルーして『被害届出しに来ましてん』と布の奥から彼を見据える。とりあえず山崎さんは地面に捨てた。
「被害届だと?」
『……まぁ。……ストーカーにおうてまして』
「近藤さんんんんんんん!? 志村の次はボロ布さんか!! 節操ねーな!?」
『多分その人ちゃいます』
「え」
その後、土方さんの薦めで少し事情聴取されるらしく、取り調べ室へと連れていかれた。途中で沖田くんも合流しました。一度もこちらを見てくれませんなぜでしょう嫌われとるん? こっち。
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新連載的な。(銀魂沼にどっぷりハマったなんて言えへn((⊂三´ω`セイヤッ)
#3年Z組銀八先生 #普通に #ギャグを目指す #始まるのは2Zから
夢主設定。
小原 いおり(こはら いおり):女
見た目はこれまでの連載の女夢主と一緒。違いと言えば少し髪が伸びて肩につくかつかないぐらいのショートカット(毛先外ハネ)ぐらい。コミュ障。身長が172cm。極度のめんどくさがり。アニメは少年漫画系とラノベ系(両共グロ含むものもいける)、映画はグロテスクなものを好む(バイオハザードとか)、他はアニメのみ。よくスケブに鉛筆走らせてる。ゲーマー。二次元に嫁が居て三次元で歌い手さん追っかけしてるなんでもこいこい系全方位オタク。ドラマは見ない。両生類で、普段の声が男寄り。意識すればエロボ出る。オツムの出来はあまり良いとは言えないし悪いとも言えないとても平均的な人間。バイク通学。とある仕事で学校を休みすぎて二年からZ組に落とされた(実は学校側の配慮だったりする)。セーラーの上から赤と黒のナイキジャージ(上着)を着用。前のチャックは閉めない。顔も普通。ゲームと漫画の読みすぎで視力低下した眼鏡女子(生まれつき目が弱かったので進行が早い)。関西弁。あんま自分から話し掛けないし喋らない。多分ツッコミ要員になると思われる。桂や高杉とか女子に絡まれているのをクラスメイトはよく見かける、本人は受け答え。癒しは神楽と妙。一人称こっち。少しだけ太め、あんま誰も気付かない程度に太め。
**
一年の時は、まぁ仕事が忙しくてあんまり学校来れなくて、それでも理事長の配慮で進級出来た。……けどなぁ。
「その代わり、Z組だよ」
『……マジすか』
Z組とかホンマ無いわ。
この春休みを終えればこっちは2-Z組になる。噂ではZ組はとんでもない問題児どもの集まりやとか。不良とか不良とか不良とか。もうこっちなんか取って食われるてまうわボケェ。クラス替えもこの銀魂高校は無いし、最近運動してへんし、護身術になりそうなのは3歳から中学に入るまでやってた少林寺拳法ぐらい。それでもやめてしまってブランクは4年程、出た大会でぽんぽん優勝取れたあの黄金期にはもう戻れない。初段取ってもやめんかったらよかったんやろか……。
死んだ魚のような気力の無い目でボヤッと遠くを見る。ああ、学校行きたくない。成績も下がったから仕事一旦やめさせられたし、散々や……中学からやっとったもんやのに。エエもん、別のとこで同じ仕事するもん、こっちを手放したこと後悔しろ。
そんなイライラをぶちまけるようにバイオハザードシリーズを一気見。いやあ、もうほんとなんてスプラッター。爽快感がパないわ。とガラスのコップに注いでいたコーラを飲み干す。
『……あー、めんどくさっ』
さて、今日は浦島坂田船のCDの発売日やから、バイク飛ばすか。
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歌い手さんの名前が出てきます。関係者様だったり嫌や! 言う人はNGです!
昼間、バイクを飛ばしてCD買って、そのままマックででも腹を満たそうかと言うとき、ビルにある大きな液晶から「今や国民的有名漫画、週刊少年マガ○ンで連載していた『セイクリッド・ソードワールド』が突然の打ちきり! 終了を祝うかのようにアニメ映画化が決定しました! 打ちきりと引き換えのファン待望の映画化! 才能に満ち溢れた高校生作家「三日月 恭夜」のアニメ映画! アニメは視聴率が朝ドラ並みと言う異例の快挙だったソレが、映画化です! あっ、二回も言っちゃった」と大きく宣伝されていた。へえ、あれアニメ映画化するんや。DVD出たら見よかなぁ。
それぐらいの気持ちで手から下がる袋を握り直してマックへと入店した。
このあとアニメイトでも行くか。そう、とうらぶ! 待っとってや、みっちゃあああん! 伊達組ばんざあああああい!
**
そして始業式。出るのかめんどいとか思っていれば理事長に「アンタはこっちね」と引きずられ、始業式ほったらかしでZ組の教室前まで連れてこられた。「そこで待ってりゃ呼ばれるから」とだけ理事長は告げて行ってしまった。……Z組始業式出んでエエとかなにこれ夢のようやねんけどすっげー。
そしてしばらく。いつまでたっても名前が呼ばれない。中からは何かを殴る音とオマケのようについてくる野太い悲鳴、そして笑い声と怒鳴り声。なんやこれカオス。このまま帰ってエエかなエエやんな。なんて考えながら暇だったので先程からイヤホンで先日買った浦島坂田船聞いてます。埋ーまってーいくー、泣きーむーしーなノォートがー! 流石志麻さん、そのエロボに一生着いていきますまーしぃかっこエエよまーしぃ。いや、他のメンバーも好きやで? でも志麻さんが一番好き。声がダイレクトアタックしてくれました。
するといつの間にやら静かになっていて少し首をかしげると勢いよく目の前の引き戸が開いた。鬼の形相の銀髪の先生が居たので教室やっぱ間違えたかな、と無言で引き戸を閉める。だが直ぐ様再び戸が開けられイヤホン剥ぎとられた。あれ、若干涙目やんこの先生……あれ、よぉ見たら銀八先生やったわ。すんません。
「あのねぇ、さっきから数十回呼んでんの、反応してよ! 入ってこいよ!」
『……聞こえませんでしたわ』
「そりゃイヤホンつけてりゃね!? おとなしく待ってろよ!」
『……かれこれ30分待ってから着けたんやけどな……』
「すいませんでしたあああああ!」
困ったようにそう言えばスライディング土下座して来たのでそれを少しだけ鼻で笑ってからふと気付き『スカートの中覗いても短パンやで』と告げれば「ごめんなさい」と立ち上がって90度に腰を折られた。覗く気やったんやな。
ようやく教室に案内されて教卓の隣に立つ。このクラスの方々から様々な視線が突き刺さって痛いです。誰だ今こっちの顔見て鼻で笑ったやつ。あそこのアイマスク君ですね分かります。誰だこっちの胸に視線を寄越してる変態は隣の銀八先生ですね分かります。ふっつーの大きさの胸見てもおもんないやろ。
あっ、あそこの泣きボクロの眼鏡の紫髪の女の子めっちゃ美人。髪の毛可愛くポニテにしたあの子も綺麗や、前列の渦巻き眼鏡掛けたチャイナ娘も眼鏡を外せばきっと可愛い。何ここ宝庫?
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「ほら、自己紹介しろ」
『小原いおりです、よろしく』
「もうちょっとなんかないの!? 好きなことは何々ですだとかなんでこのクラスに移籍してきたのかとか」
『……このセンセめっちゃめんどい、鬱陶(うっと)い』
「お前さっきから酷くね!?」
あーうんはいはい的な感じて『じゃあ質問ある人手ぇあげて聞いてくださいー』とか適当に言ったらいっせいに手が上がった。ノリエエな。なんやこのクラス。
「小原さんは彼氏いますか!?」
『二次元嫁なら居ります、彼氏は居ません』
「あら、小原さん、あなた好きな食べ物は?」
『甘いものとインスタント』
「得意教科はなんなの?」
『国語と美術』
「なんでこのクラスに来たんだ? 問題でも起こしたのか?」
『出席日数足りんかった』
「小原さんゴリラはケツ毛ごと愛せますか!?」
『すまんなに言うとるか分からへん。あえて言うなら絶対無理』
「おい小原ァ、SMプレイか放置プレイどっちが好きでさぁ」
『やる方なら何でもエエ……ってなに言わすねんドアホ』
「マヨネーズは好きか」
『何でそのチョイスやねん、普通やわ』
「喧嘩は好きか?」
『好きか嫌いか以前にそもそもせぇへんわ喧嘩』
「第二の眼鏡アルか?」
『強いて言うなら紳士やな、チャイナの可愛子ちゃん。っていうか第二の眼鏡てなんやねん』
「小原お前スリーサイズいくつ?」
『なんでそれやねん!』
銀八先生の頭を肩に掛けていたスクバでぶん殴り『とりあえずよろしく』と死んだ目で手を振れば「ひゃふー!」「祝えー!」「ケーキアルか!」とか騒ぎ出す始末。何やこのクラス。
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※小説沿いじゃないです。……小説沿いではありませんよ!
席に着けばHRほったらかしで集まってくる2-Zに困惑する。お前ら流石に先生可哀想やで。とか思ってたら先生普通にジャンプ読んどるし。
「私神楽アル、よろしくネいおり」
『よろしく神楽』
「私志村 妙、よろしくお願いねいおりちゃん」
『よろしく妙』
「ぼ、僕は柳生九兵衛、よろしく……」
『よろしく九ちゃん、いおりでエエよ』
可愛らしい(一人美少年みたいな)子たちと早速名前呼びをして仲良くなった。ここのクラスエエ人ばっかや。
それから数日。
授業中、隣の席の沖田に「あそこのV字前髪は土方さんでぃ。カッコつけたがりだから気ぃつけな」とかいろいろ土方に仕掛ける悪戯を二人で考案したりとなかなかに楽しい。案の定沖田と一緒に土方に怒鳴られた。こっち悪ないやん、こっち悪ないやん!
昼休み、神楽と飯を食べていて神楽の飯の量の多さに驚きながら『よぉ食うんやな』と心の中で感心する。このほっそい体になんでそんな入るんや。
休み時間騒がしい周りをスルーしてなかなかにインパクトのあるエリザベスにイラストデッサンしてもエエか頼めば[可愛く描けよ]とプラカードで返事が返ってきた。エエな、そういうキャラ。乱入してきた桂もエリザベスの隣に書いてやったわ、はーっはっはっは!
帰りのSTにて、銀八先生からあーだこーだとまったく自分のためにならない話を手短に話され、解散。
「あ、いおりちゃん、今日一緒に帰らないかしら?」
「駅前のサーティツーに寄り道するアルよ! 冷たくて甘いアイス食うネ!」
『……ん、行く』
バイクやしどないするかと悩んだものの楽しげだから誘いに乗っておこう。バイクは手で押しながらいけばいい。見ればうしろで近藤が「お妙さんが行くなら俺も!」とか挙手しているがお前付いてきたら轢くぞ、いおりさん本気だぞ。このあと風紀委員の土方と沖田が近藤と共にサーティツーにやって来ました。近藤めェ。そしてなぜか土方と沖田に奢らされました。なんでやねん。
**
翌日、あまり寝れなかったが、ようやく仕事を無事終えて登校するぞ! ってところで外を見れば夜に雨でも降ったのか所々大きな水溜まりが伺える。
そんなの気にせずブォンブォンとバイクにエンジンを掛けて住宅街を走る。こっちは風になった! うぇーい。なんて若干テンションハイになりながら住宅街を走る。
そして、事件は怒ったのである。
.
高杉くん性格が少し丸くなってます。
ばしゃりと嫌な音が聞こえた。続いて「うおっ」何て言う男たちの声も。
『え……』
急ブレーキを掛けて振り返れば学ランでたむろしていた不良たちがこちらを見て「学ランがぁぁあ!」「ズボンのケツが!」と怒鳴りこちらへやって来て叫ぶ。
「どーしてくれんだ! 一張羅がずちゃ濡れじゃねーか!」
『……すんませんした』
「すんませんで済むわけねーだろーが!」
「クリーニング代寄越せ!」
『ホンマすんませんした』
「こっち見て言えコルァ!」
「慰謝料払えよ!」
「それが無理なら体で払え!」
『さーせんっしたー』
「雑!」
「目がつめてぇ!」
『黙っとれや』
「んだとコルァ!」
『二回目やん』
「うるせーよ!?」
「女だろーと関係ねぇ! やっちまえ!」
やっべ、とアクセルを握って走り出す。相手さんもバイクだったのか後ろでブオンブオンと激しいエンジン音が響く。夜よく走っとるやつやんうるさっ。とりあえず曲がり角を存分に使ってドリフト決めて華麗に撒いた。スマホの時計を見る。今何時や九時や遅刻や。ここまで来たらどーでもエエわとゆっくりとバイクを走らせていると。
「高杉ィ! 今日こそテメェをブッ倒してやるぜ!」
「……ハッ、クズが。そこら辺でくたばってろよ」
「鼻で笑ってんじゃねえ!」
「この人数じゃ流石のテメェも負けるだろーよ!」
塀の上で三十人位に囲まれてジリジリと後退している同じクラスの高杉を発見した。そこ空き地やってんな。
アイツも遅刻か、いや絡まれて学校行けなかったパターンの奴かこっちと一緒やな。可哀想に。
どうやら高杉は武器も何も持っておらず、所持しているのは通学鞄のみのようだ。いつも登下校は河上と後輩のパツキン美人ちゃんとしとった気ィするけど……。
あっ、高杉がとうとう塀ギリギリまでやって来てしまった。しゃーないな、助けてやろう。
『高杉』
「! 小原……!? なんでお前こんな時間に」
『言うとる場合か。こっち来い。飛び降りろ』
そう告げれば高杉は少し顔をしかめて躊躇ったあと、目の前の三十人を越える大勢を見てから舌打ちしてバッと塀を飛び降りてこっちのそばに来た。ここまで言えばさすがに分かっているようでバイクの後ろに跨がる。
「飛ばせ小原!」
『ん、掴まっときや』
言われなくても、とアクセルを握りびゅん、と飛ばす。咄嗟に高杉は片腕でこっちの腹を抱える様に抱き、速度に耐えた。後ろでも見てるんちゃう? そして現在時速100km越えたところ。あの不良連中の姿はみるみるうちに遠ざかる。やったね、もう大丈夫。ってところで減速してそのまま進む。このまま学校行こう。
ふうと溜め息を吐いた高杉に『お前あんなに囲まれて、前に何したんや……』と小さく呟けば「うるせェ」と返ってきた。なんや、聞こえてたんか。
「わりぃ、助かった」
『大丈夫や、こっちも逃げとったところやから』
「……は?」
『ちょうどあそこの集団みたいな不良どもに……ってあれやん。いおりさん追われてたんあの集団やん』
「馬鹿野郎なに呑気に減速してんだ飛ばせ!」
『すまん飛ばす』
そうして再びアクセルを握って、なんとか撒いて二人してぐったりしながら教室へ入ればちょうど国語だったらしく銀八先生に「お前ら二人大遅刻なってなんでそんなに疲れきってんの」とタルそうな目で告げられた。
「なになに二人で仲良くしっぽりでもしてたの」
『そんなわけ有るかボケェ!』
「黙ってろ銀八テメェ!」
二人でドカバキと銀八を蹴り踏み抜いた。ちょっとすっきり。あれから高杉とは気が合うようで今や一緒にいる時間はクラスメイトの中では一番多くなった。恐らく銀八への怒りで波長が合わさった。
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それは昼休み、課題を提出し終えた職員室の帰りだった。とりあえずついでに被写体探しでもするかとノートを小脇に抱えている。
するとそれはまぁベタなことに、曲がり角でドォンと女子生徒とぶつかった。なんちゅうベタ、漫画で黒く塗り潰すのもベタ、関係無かった。
『っ、う』
「あいたっ!」
どさりと尻餅をつく彼女にやらかしてもためっちゃテンプレやんとか考えながら『すまん』手をさしのべる。そうすると彼女は「ありがとうっす」と可愛らしい声でその可愛らしいお顔を見せてくれた。あれ、この子あれちゃう? 高杉とよくつるんどる後輩の子。
「ぶつかって申し訳ないっす! あ、あたし来島また子って言います! 一年っすよ!」
『あ……二年の小原や。ぶつかってすまん』
ずいぶんと無愛想な返しをしてしまった。が、彼女は「小原先輩ッスね……小原ァ!?」とそのつり目かつ大きな目をひんむいてこちらを凝視した。美人に見つめられると照れる。とりあえずわなわなと震える来島に小さく『……どした』と聞けばビクッと肩が震えた。……え、こっちなんかしたっけな……。
そして彼女はいきなり顔をあげてこちらに詰め寄る。
「最近晋助先輩と仲が良い女子生徒っすよね!? 一番気が合うとかで!」
『すまん知らんアイツがそれ言うたん? なぁ言うたん?』
「不良に囲まれてたところを颯爽とバイクに乗せて助けたとか!」
『いやそれ偶然居合わせただけやねんけど』
「恋人って噂もあr『すまん高杉とか正直考えられへん』即答っすか!? ぱねえっす!」
『何がぱないねんこっち高杉にかなり失礼なこと言うたぞ。確かに高杉見てくれはエエけどいおりさんはそこまでやな』
お前はどこぞのベルバブ漫画のパー子かよとか思いながら手元のノートがないことに気づく。あのノートは中学から使っているものだ、中身が知れたら……うぉう黒歴史確定なり。いやなり。ってなんやねんバカヤロー!
するとふと来島が「あ、ノート落ちてるっすよ」とサッと拾ってくれた。『お。ありが』とまで言えたが、とう、まで続かなかった。彼女が「勉強熱心っすねー」とぱらぱらとページをめくりだしたのだ。いやいやなにしてんのぉぉお!?
そして不意にピタリと停止する彼女にあちゃーと頭を抱え込む。そして彼女はこっちを見、ノートを見、そしてまたこっちを見、再びノートに目を落として「はあああああ!!?」と絶叫した。ちょ、しーっ! しーっ!
「えっ、こっ、これっ、嘘っ、えぇええぇ!? まさか御本人っすかああああ!!!??」
『ちょ、しっ、しっ。声でかいっ、御本人やからっ。静かにっ。バレるっ』
「す、すいませんっす!」
彼女は声を小さくしたが興奮は収まらないようで悶絶したように震えている。心なしかこちらを見る目がキラキラしているようにも見えた。
「すごいっす! 素直に尊敬っす!」
『……あー、おん』
予想できたであろう展開。知られればそういう目的で近付いてくるのは当然の事だった。……もうしまいや、いおりさんは死んでくる。
そして来島の発言は、きれいにこちらの予想を裏切ってくれた。
「あっ、でも色眼鏡で先輩を見るつもりはないっすから、安心してください! 仲良しな先輩後輩の仲になりたいっす」
『君は天使か』
心優しい後輩兼親友が出来ました。ちなみに内容は他言無用、今は二人だけの秘密だ。
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それから。また子とはよく遊ぶ仲になった。クラスの愚痴を聞いてもらったり聞いてあげたりいかに高杉がイケメンか聞かされたり。いおりさん男の子興味ない。
そして気がつけばやって来ていた体育祭。体操服ブルマとかマジ有り得んってことでこっちは普通にスポーツショップのア○ペンでジャージのハーパンを履いている。
基本的にいおりさんは体育祭、屋上でサボりである。だってなんだかー、だってだって何だもーん。あかん意味不明や。フェンスにもたれかかりすっかりその中毒性にやられたフリィダムロリィタを口ずさむ。フリィダームロリィーターマセた町でー。
すると屋上の扉がバァンと豪快に開けられびくりと肩を震わせる。そちらへ視線を向ければ銀八センセがくわえ煙草でこちらを見ていた。
「歌ってたとこわりーなぁ、お前今から100m走だぞ出ろよ」
『高杉か土方か桂か山崎辺りにやらしたらええやんアホやなーこっちが出るわけないやろ。あ、さっちゃんでもエエで。あの子あんたの言うこと聞くやん』
「ひでぇなお前は」
『うっせぇよ黙れよ』
「無駄にイケボで言わないでくんない?」
そういった銀八の横を通り抜けて『しゃーないな』と階段を降りる。もちろん向かう先は応接室だ。誰が体育祭なんか出るか。
ざまあ銀八。ざまあ先程名前を挙げた男子生徒。
.
トリップもの。浦島坂田船→銀魂
歌い手様なのでご本人様や関係者様はスルーしてください。こう言うのが嫌な方もスルーおねしゃす。批判等は受け付けません。だってこれはぜんざいの自己満足だもの。
**
うらたぬきside
気が付けばそこにいた。隣には坂田が居て、周囲を見渡し呆然。
見慣れぬ古風な大通り、着物や袴姿の人々、空に浮く宇宙船、そして化け物のような恐らく天人と呼ばれる生き物。
明らかにここは銀魂の世界だった。
「えもがっ!?」
「しっ!」
大通りのど真ん中で叫べば目立つだろうが。と声にはせず坂田の口を片手で塞いでずるずると端へ寄せる。
ぷはっと息を吐いた坂田は小声で「ここどこ!? やっぱ銀魂か!?」とおろおろと慌てる。お前が慌てるせいで俺慌てらんねぇだろ落ち着け餅つけ。
「さかたんの言う通りここは銀魂だろーな」
「銀さん居るかな」
「ちっげーだろ! ……俺らはここに来る前何してた? 誰といた?」
「え、浦島坂田船の四人でレコーディング……ああっ!」
「そーだよきっと志麻さんとセンラさんも居るんだよここに!」
他の二人も居ることを願ってから自分達の身なりを見れば、あれだ、千本桜の時にフユカさんにイラストで書いてもらった時の服装だ。確かにぴったりだもんなぁ。と言うか。
「顔もイラストのままじゃん!」
「やっべーすっげー!」
「財布も有るし……あ、通帳もあるから多分金もこっちに来てるな」
「便利だな」
やまだぬき、スマホ、財布。俺の所持品はこの三つだ。やまだぬきは肩に居た。かんわいいなおい! 俺は人間とたぬきのハーフだー! ふははははー!
そうなると、残りの二人がどこにいるのか謎だ。二人で顔を見合わせれば坂田がハッとしてから「俺ら今金あるじゃん」とポツリと呟く。おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいまさかまさかまさかええーマジかええーっ。
「まさか、坂田っ、お前……!!」
「ふっ、そう、そのまさかだ!!!!」
「そうか、なるほど分かったぞ! それなら!! レッツゴー」
「万事屋!」
二人で厨二なノリで茶番を起こしてから、バタバタと動きにくい着物で俺たちは勘を頼りに万事屋へと向かった。
.
『wwww』表現あり。
俺達が万事屋に着いたのは出発してから三時間後だった。動き始めたのは良いものの、あれだ、やっぱり勘を頼りにしてはいけなかったらしい。結論から言おうめっちゃ迷った。それもこれも……全部さかたんのせいだ!!!
美味しいものや珍しいものを見つけてはあっちへふらふらそっちへふらふら。どこいくんだよお前!!! 万事屋行くんじゃねーのかよ!!! とかそういうやり取りをしてようやくたどり着きました『万事屋銀ちゃん』。
俺たちは今玄関の前で立ち止まってます。なぜかと言うと。
「すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー」
「おいっ! いつまで深呼吸してんだようらさん!」
「いやだって緊張するじゃん!! しちゃうじゃん!!! さかたんしないの!?」
「めっwちゃwwしwてるwwww」
「ほらぁー!! ほらほらー!!」
めっちゃ緊張するじゃん。なにこれすげー緊張するじゃんしちゃうじゃん。そんなこんなで五分経過。
「いやーやっぱり? 最初の印象で全部決まるじゃん? 何かする?」
「チャイム押したら歌うww?」
「えっwwいwいwwwけど」
「なにする?」
「……バレリーコ?」
「でぃんでぃんだーんさーあおーどりまっしょー! っておいおい駄目じゃんこれは流石に駄目じゃんおいおい真面目に考えろよさかたー」
「んー、虎視眈々?」
「絶対却下って言われるって分かれw魅惑ワンツースリーとか行きなり言い出したら驚くだろ引くだろwwwww」
「歌ってる時点で心配要らなくね?ww……あー、聖槍爆裂ボーイとか?」
「いーねそれでいこう!」
「あっ、虎視眈々駄目なのにそれ行けちゃうんだ!? なんで!? むしろそっちのがダメでしょうらさん!」
「そういう曲ばっか振ってくるお前もお前だろーがww」
「それもそうか」
意を決してピンポーンとチャイムを押して、さあ扉を蹴破って__
「たのもぉぉぉぉおうぉぉぉぉぉおらぁあぁあ!」
「うらさんうるっさいな!? てか歌は!? てかうらさんどうしたのうるぁぁあ! って! 気でも触れたの!?」
「うるぁぁあ! とは言ってねーよ気が触れたとかそんな扱いすんなよ見ろやまだがこんなにしょぼーんって」
「なってねーじゃん! やまだぬきちゃん無言で大丈夫かって顔でうらたさん見てんじゃん!」
「…なん、だと……?」
「なん、だと……? じゃねーよ!!!」
「たのもおおおおおおおおお! 依頼だあああああ!」
「だからうらたさんうるさい! 勝手に扉開けちゃダメでしょ! って蹴破ってるけどね!」
そう言いつつも坂田よ、ずけずけと入ってってるぞ、律儀に靴を脱いでいってるぞ偉いぞ坂田。
そんなこんなで奥に視線をやれば迷惑そうな顔した銀髪天パとチャイナ少女。あっ、すいません。
「……ちょっとそこの二人、やかましいんですけど。扉壊れてんですけど」
「弁償ネ」
「「ごめんなさい」」
.
なんやかんやで客間に通してもらい、依頼の内容を説明した。おっと、その前に自己紹介か。
「えーっと、うらたぬきです、はじめまして」
「俺はアホの坂田です、よろしく」
「君たち良いのそんな名前で」
自己紹介をすれば速攻で返答が返ってきた。良いのって……なぁ。と坂田と顔を見合わせて「動画配信してるので……名前をバラすととんでもないことに」と坂田が話す。そこでまた止まってくれないのが銀さんたちだ。
「おいおい君たちぃ、夢見るのは良いんだけどね? 他人を巻き込むのはどうかと思うよ? たとえイケメンだとしても」
「はっきりと、はい嘘です言うアルヨロシ?」
「いやいやいやいや、嘘じゃないですって」
「よしリーダー、証拠動画をつきつけろ!」
「今すぐやってやんよ!」
「うらたさん流石!」
隣に座る坂田がきゃんきゃん喚くが俺はスマホを取り出してとりあえず千本桜をかけてみた。恋色花火とかそこら辺でもよかったかも。
ニコニコにて再生画面にしたそれをやまだぬきへと渡せばとてとてとそれを抱えて銀さんの方へと歩き、画面をそちらに向けて再生した。
「こんなもん見せられても……ん?」
「歌アルか?」
流れ出す曲と同時に静かになる二人。浦! 島! 坂田! 船! のとこ好きだわやっぱ。
名前変えました。
唐突に書きたくなったシリーズの奴(の設定)。ポケモン。あれです、学パロです。にょた化注意、嫌な方はおすすめできません。ハーレム? かな? そうなのかな。男主。出てくるのはマメツキの知識にある子達だけ。ポケスペ要素はない、筈。多分。
晋夜(しんや)
黒髪黒眼鏡の隠れオタクな高校三年。身長はだいたい180前半ぐらい。デンジとマツバ、ゲンで行動することが多いが基本女の子に絡まれてる。天然タラシ。行動はわりと男前。鉄の理性を持つ(時々揺らぎそうになる)。幼馴染みが二人。二人とも女子。知能は中の上寄りの中。言わば平均。そう平均。アウトドアに見えてインドア寄り。目はかなり悪い。近視とちょっとだけ乱視。女子から人気があって男子とも仲良しな世にも珍しい隠れオタク。
レッド
幼馴染み1。ピクレに近いかも。黒髪のセミロング。さらっさらでくくったりはあまりしない。赤い瞳。身体能力が規格外。鋭いつり目の無愛想で無口な方なので冷たい印象を持たれがちと言うか現在進行形で持たれてたり。でも寡黙系美少女。晋夜好き。グリーンも好き。でも二人に対する好きがちょっと違う。後輩も好き。でも負けない。貧乳。無いわけではない。基本晋夜にくっついてる。黒タイツ。グリーンよりちょっと小さい高校三年生。意外と大胆。晋夜が初恋。そりゃそうなるか。
グリーン
幼馴染み2。一軍系な女子だが、ただ元気なだけ。ちょっと高飛車。でもそれに似合う頼れる系美少女。茶髪ショート。前髪にアメリカンピンを五つ付けてる。緑の瞳。運動神経が良いのでよく部活の助っ人へ推参する。ミニスカなのによく動き回るので晋夜とレッドをいつもハラハラさせている。晋夜も好きだしレッドも好き。でも二人に対する好きは違うベクトル。晋夜は好き、レッドは大切、的な。後輩可愛いよね。でも負けない、後輩には負けない。ガンガン攻めよう! 気づくまで! 昔から抱き付いていたのが仇になるとは……。な残念子。なんでもやれば出来ちゃう爆豪くん型コミュ力爆発女子。ハイソックス。普乳を気にする恋する乙女。レッドよりマシかと思う辺りちょっとひどい。身長は女子にしては低くレッドよりちょっと高い。意外にもウブ。晋夜が初恋。レッドがそうならそりゃこうなる。
ゴールド
晋夜達の後輩1。高校二年生。無邪気な元気爆発娘。黒髪で前髪爆発。後ろ髪は引っ張って高いところで括ってる。下ろしたら肩ちょっと下。元気系美少女。動くことが大好きで時々体育の時に男子に混ざったりしてシルバーに連行される。シルバーは頼れる大好きな親友ポジ。スカートはミニスカだがその下に黒のスパッツ。晋夜が関わると無邪気に見えて計算してたり。身長はグリーンより数センチ大きい。巨乳。自分の武器を理解している新星バカの子。勉強より運動したい。と言うか勉強なんかくそくらえ。晋夜もシルバーも好き。でもシルバーにも負けたくない。レッドやグリーンも好きだがやっぱり負けたくない。でもシルバーと一緒に晋夜と居たい。意識してもらえるまで抱きついてやる。レッド先輩が可愛いのでまもってあげたいと思ってる。元気っ子。シルバー離れが出来ない。グリーン先輩なんか経験多そう(そんなことはない)
シルバー
晋夜達の後輩2。高校二年生。頼れるお姉さん的ポジのツンデレ俺っ娘。デレの度合いが半端なく低く、もはやただのツンと化している。但し晋夜は除く。鈍い。ので晋夜が好きかも気付いてるか怪しい。実は初恋だったり。お金持ち。クール系美少女。ゴールドがお転婆なので中学の最初からずっと面倒を見ていたからかゴールドが離れてくれない。ちゃんとゴールドも好きだが恥ずかしくて口にはしない。ミニスカにニーソの絶対領域要員。身長はゴールドよりちょっと高い。頼るより頼られていたので甘やかしてくれる晋夜にたじたじで真っ赤になる。髪は原作よりちょっと長い。晋夜と話したいときはゴールドが頼り。持ちつ持たれつ的な。美脚。イエロー並みに極貧だが成長途中らしい。ほんとか。一般常識がぶっ飛んでる節がある。金銭感覚とか。
晋夜くんです
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早朝、俺の朝は起こされるところから始まる。母さんが「晋夜ー、起きなさいよー」と言うところから始まり、幼馴染みの腹への直接攻撃で終わる。
ぐへっ、なんてつぶれた悲鳴をあげながら、布団から身を起こせば俺の上に跨がってにやにやしているグリーン。お前スカートなんだから位置的に考えろよ太股柔らかそうですねハイ。
『……お前なんで居んの、ねえなんで居んの』
「おばさんが入れてくれたの! ほら起きてよ!」
『退け馬鹿野郎! 起きれねーし見えるぞ!』
「短パン履いてるもん」
『モラルを考えろ! 女だろ!』
まったく、と呆れたように呟きながらバッと掛け布団をはげば、ころりと転がり落ちて「んきゃ!」と声をあげるグリーン。それを横目にボゥとする頭を左右に振って無理矢理覚醒させる。いかんいかん、二度寝しそう。
「こんな美少女に起こしてもらって無反応とか……」
『倫理的に考えなさい、倫理的に』
「アンタは私のお母さんか!」
『誰がお母さん!? お前の母さんは隣の家にいんだろーが!』
ぎゃんぎゃんと床に座り込んで喚くグリーンを見て今のうちにとさっさと着替えを済ませてから『降りるぞー』とか声を掛けて扉を開けると、どんっと誰かにタックルをかまされた。グラッとよろめくも扉の縁をガッと掴んでバランスを取って確認すれば俺に寄りかかっているレッド。ちっさい。
『なにレッドお前ずっと扉の外にいたの』
「……居た」
『タックルかまされたように思うんだけど』
「……気のせい」
気のせいなわけあるか、とか思いつつレッドを腰にくっ付けたまま引き摺って階段を降りる。危ない。レッドが落ちないように慎重に階段を降りれば途中でグリーンが背中に飛び付いてきたからもう踏んだり蹴ったりだ。お前ら美少女なんだからもうちょっとおしとやかにしなさい。俺に対する嫌がらせか。
『おはよ、う!?』
「ふふふ」
二人を引っ付けたままリビングに入れば母さんが気持ちの悪い笑みを浮かべていた。正直鳥肌立った。すまん。
とある日の昼休み、俺はほとんどグループ化しているデンジ、マツバ、ゲンと教室の一角で昼食を取っていた。
『デンジ今日も菓子パンかよ』
「悪いか」
『悪いに決まってんだろ馬鹿野郎! もー、まったくこの子はー、もー』
「うるせぇオカン」
『馬鹿野郎、誰がオカンだ馬鹿野郎』
「うるせーよ馬鹿野郎馬鹿野郎って」
どうしようデンジが反抗期なんだが、とかゲンに言えば「構ってくれて嬉しいんだろう」と笑ってた。おいおい笑い事じゃないんだぞ。あ、デンジがゲンの座ってる椅子蹴った。マツバは苦笑いしながら一人で重箱(二段)をもくもくと食しているし何ここカオス? カオスなの?
「ところで」
『ん?』
ごちそうさま、と柏手を合わせていたマツバが思い付いたように俺を見た。俺はと言うとデンジの菓子パンを奪い取り、俺の弁当のおかずを詰め込むのが終わったところだ。ただいまデンジはエビフライをくわえて俺を睨んでいる何これ怖い。デンジ目が鋭いから怖いんだよなー、とか言いながらコーラを飲めば「晋夜って最近女の子とどうなの?」とマツバの好奇心にブッとコーラを吹いた。げほげほと蒸せて背中を撫でてくれるのはゲンしかいない。
『いきなり何!? なんなの!?』
「いや、最近どうなのかなって」
『どうなのとか言われてもな!? 俺彼女いない歴=年齢だからな!? 公言したくなかったわ馬鹿野郎!』
「「「えっ」」」
『えってなに!? みんなしてなんなの!?』
みんなぶつぶつと「四股ぐらいかけてると思ってた」とか好き勝手言いやがって。誰だ今シたい放題とか言ったのデンジか! デンジだな! 俺まだ童てげふんげふんチェリーボーイだぞ! 偏見! 失礼!
.
上記の連載の主人公の設定をそのままにヒロアカの連載。レッドとグリーンはそのままですが、ゴールド、シルバー、新たにブルー、クリスタル、ルビー、サファイアが登場し、この六人はポケスペ設定になります。シルバーはあまり変わらない。にょた注意。
予告でした。多分すぐ書く。
。
やっぱりネギまの男主夢です。上記のものはいずれ。
実は前々から考えていた連載ネタ。やりたかったけど原作コミックがマメツキの本棚の中に埋もれて見つからなかったのです。やっと発掘できた……なくしたかと思った(冷汗)。では、いってまいります(笑)(`∀´ゞ。
男主。
緋影 伊織(あかかげ いおり)
イメージ画
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赤い瞳のつり目が特徴的な寡黙かつクールな少年。一応魔法使いだが、魔法剣士の部類に入る。魔法拳士でもある。「アホか」が口癖。得意な魔法の属性は炎。実力もちゃんとある。
そのせいというかなんというか学園長に「男子校満員になっちゃったから女子中等部通ってね」とわざとらしくただ一人女子の中に放り込まれた苦労人。鋼の理性を持ち合わせており、学園では硬派なのも相まってかなり有名。イケメンである。空手四段。ネギに同情の念を抱いており、何かと世話を焼く。何が起こっても動じない。
長瀬より少し高いぐらいの身長。声低い。クラスのネギ至上主義に呆れているのだが、同時に自分にもそれが向いているとは思っていない。ネギのようにおおっぴろなアピールはないが、同級生な為みんな恥ずかしがってアピールは控えめ。
イメージ画の刀は相棒の『アヴァタール』。熱くなれと意思を込めれば刃がめっちゃ高温になって高層ビルぐらいなら溶けてすぱーん。普通の状態でも切れ味は抜群。
明日菜のように固有能力を持って生まれているただの人間。向こうの世界出身ではない。能力は『身体炎化』、攻撃には使えないものの、移動速度は瞬間移動に近く、相手の攻撃はすり抜ける。ネギの雷化の劣化ver。人間に危害は加えない比較的優しい能力。
のどかが気になっているものの行動に移す気は無い紳士。但し無表情。温厚派。両親は既に他界。
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イラストが出なかったのでもう一回
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今日から三学期が始まる。寮を出て駅に着いて電車乗って降りて駅を出てそこから学校へ運んでくれる路面電車の後ろに着いている取っ手を握り、スケボーでそのまま進む。これは走って体力が減るとかがないのですごく楽だ。
早いとこさっさと教室に行って教師を待とう。俺のクラス、先生が代わるみてェだから。高畑先生、結構好きな先生だったんだけどな……。巷じゃデス・メガネ高畑とか言われてるけど。
ヘッドフォンの奥で響くボカロに合わせてふんふんと上機嫌に鼻唄を歌った。
**
教室に着くと、人はまばらにしか居なかった。それぞれに「おはよう」と返しながら、ちらちらと受ける視線に気づかないふりをして自席に伏せる。いい加減慣れて欲しいものだ、男子が珍しいのは分かるけど、もう二年近く同じクラスなのだから。
その視線の真意に気付くことなく流れる音楽を聞きながら俺は眠りにつくのだった。
**
ネギside
魔法の修行として『日本の学校で先生をやること』と課せられた僕、ネギ・スプリングフィールドは学園長に言われてしずなさんと共に2-Aの教室の扉の前に立っていた。流石と言うように女子中学校だからかクラスは女の人ばかりで少し緊張するなぁ。
そこでふと、一番後ろの席で伏せて寝ている男の人を見つけた。
「あれっ、なんで男の人……?」
「彼はね、男子校に空きがなかったからこちらに入ったの」
大変だなぁ、と思いつつ先程渡されたクラス名簿を慌てて開けばタカミチ(高畑先生)の書き込みがたくさん。
えぇっと……出席番号二番、緋影 伊織、空手部。わ、かっこいい人だなぁ。
顔写真を見つつ、タカミチの書き込みは『頼りになるから安心しなさい』『空手四段』と書いてあった。タカミチが言うなら多分そうなのだろう。
同性がいたことに安堵しつつ、僕は扉を開くのだった。
.
「キャアアア! か、かわいいー!!」
何やら突然騒がしくなった教室の女子の騒ぎ声で目が覚めた。なんだなんだとむくりと体を起こせば教卓の方で子供がクラスメイトに囲まれていた。
その様子を傍観していれば飛んでくる先生と言う声。どうやらあの男の子が俺たちの担任のようだ。すげーとか感心しながら眠たい頭を働かせていると「いい加減になさい!」といいんちょ__雪広あやかが机をバンと叩いて立ち上がった。
「皆さん席に戻って。先生がお困りになっているでしょう? アスナさんもその手を離したらどう? もっとも、あなたみたいな凶暴なおサルさんにはそのポーズがお似合いでしょうけど」
雪広の言葉に感化され神楽坂を見てみれば確かに、神楽坂はネギ先生とやらの胸ぐらを掴みあげ、教卓の上へと座らせてメンチを切っていた。神楽坂ェ。
「なんですって?」
「ネギ先生、先生はオックスフォードをお出になった天才とお聞きしておりますわ。教えるのに年齢は関係ございません。どうぞHRをお続けになってください」
「は……どうも……」
妙にキラキラした雰囲気の雪広にそういわれ、ネギ先生は唖然としたように返事を返した。返事したのは偉いぞ先生。俺が彼を眺めていればネギ先生がふと俺を見たので手をひらひらと振っておいたらずいぶんホッとしたように溜め息を吐いていた。同性が好意的で安心したのだろう、聞けばまだ10歳だと言う。それは仕方ない。
雪広と神楽坂に視線を戻せば既に取っ組み合い手前、まあ、互いの胸ぐらを掴み合い怒鳴り散らし始めていてまたかと呆れた視線を飛ばして席を立った。
「言い掛かりはお止めなさい! あなたなんてオヤジ趣味のくせにぃぃ!」
「なっ!?」
「わたくし知ってるのよ、あなた高畑先生のこと……」
「うぎゃーーー! その先を言うんじゃねーこの女ー!」
『雪広、神楽坂、お前らそこまでにしとけ』
ばっと殴りかかろうとしていた二人の間に腕を滑らせ引き剥がし、見下ろしながらたしなめる。二人はハッとしたようにそのままの形でかたまり、引き下がる。キッ、と睨み合いをしているからきっとまたやるだろう。
『見ろ、ネギ先生困ってんぞ。時間押してんだし、とっとと席戻れ。喧嘩すんのは悪いことじゃねェが、授業中じゃ迷惑が掛かること……分かってるよな?』
「……すみません」
「……ごめん緋影」
『分かれば良い。次からやめような』
「はいはいみんな、席に着いて〜ありがとねぇ緋影くん。ではネギ先生、お願いします」
「は、はい」
その後、席について授業を開始したのは良いが、再び神楽坂と雪広が本格的な取っ組み合いの喧嘩をおっぱじめてしまい、英語の授業が消えたのはすぐの事だった。あの二人俺のいってたこと聞いてなかったのか。
.
やっと一段落ついた頃、やかましい教室を出校舎を出、俺はてくてくと散歩をしていた。
音楽をシャカシャカヘッドフォンの奥で聞きつつ鼻唄を歌っていれば、前方に本を大量に持つ本屋ちゃん__宮崎のどかを発見した。ぐらぐらとバランスが危うく、進む先には手すりなどもない階段、なんと言うか、足を捻って落ちそうで怖い。
『宮崎』
後ろから声を掛ければ彼女は立ち止まり、振り向く。不思議そうに「緋影くんー……?」と呟く彼女に落ちそうで怖かった、と伝えて本を宮崎の腕から取り上げた。宮崎はいいのに、とは言っていたが心配だっただけだと告げれば大人しくなった。好意は素直に受けとるに限るぞ。
そのまま二人で階段を降りていけば視界の端に俺たちをぽけっと見上げているネギ先生がうつりこんだ。別に意識することも無いだろうとそのまま進んでいけば、一冊の本が滑り落ち、そのまま階段を外れて落下していく。そのまま落ちたら一瞬でお陀仏だろう。なんせこの学園の本はやたら古いのが多いし、劣化も激しい。価値は希少なものも多い。やべ、と思ったときには本はもうすぐ地面のそこ。気付いたときにはネギ先生が杖をふりかざし、ふわりと本が浮いた。
バカ、なに魔法使ってんだよ、と思う暇もなく少年はそこへ飛び込み本を抱えて転がる。とりあえず感謝の意は示しとくか。
「は、はいこれ……落としましたよ!」
『おー、ありがとうネギ先生……ってうわ、っ、!?』
感謝を述べた瞬間ネギ先生は神楽坂にさらわれていた。俺の手元にはあのとき落とした本だけが残っていて目が点になりそうだ。どんなときでも動かない表情筋はなにかと役に立つ。……見てたな、神楽坂の奴。
『まあ、とりあえず。傷がつかなくて良かった』
「はいー……後でお礼をしないとー……」
『確かこのあとネギ先生の歓迎会やるんだったか。俺は行かねェけど、その時に図書券とか渡せばいい』
「緋影くん来ないの……?」
『俺、新学期でもう疲れててな、先生にもよろしく言っといてくれ』
「あ、うんー……」
**
翌日、ネギ先生もとっととホームルームを終わらせて一時間目の英語の授業を開始した。すらすらと英文を読み始めた先生は笑顔で「今のところ、誰かに訳して貰おうかなぁ」と微笑む。
それと同時にさっ、さっ、と目線を背ける。神楽坂が一番目をそらしていたにも関わらず当てられ、ぎゃんぎゃんとわめき出すが読んで、大失敗。仕舞いにネギ先生のくしゃみで服が飛んで下着になる神楽坂を見まいとサッと俺は教科書を立てて視界を遮ったのだった。
放課後、とっとと返ってきた俺は女子寮の一番隅の部屋、他の部屋よりもずっと広い俺にあてがわれた部屋へと帰宅していた。だがしかし、帰ってきたのも束の間、シャンプー等は向こうにあるよな、と呟き桶とタオル、そして着替えを持って部屋を出た。
前々から学園長に頼んでいたのだ。月イチで大浴場貸し切り。女子風呂なので気が引けるが、ずっとあの部屋についている風呂ではなんか俺が嫌だ。
いそいそとやって来た大浴場の札を『緋影入浴中』のものに掛けすたこらと準備をして中へと入った。
『……何回見てもすげェよなァ…ここは』
どこぞの温泉施設のようだ。俺は一番オーソドックスな湯へと浸かりふへーと間抜けに息を吐き出す。やっぱり風呂はガス抜きだよなー。
ずるずると滑っていき、肩が浸かる位まで体勢を崩し、枠に腕を引っ掻けてリラックス。そのまま防水加工のしてあるイヤホンをつけて濡れたタオルを目に掛けた。
.
何やらぎゃいぎゃいとやかましい。タオルを取って辺りを見れば神楽坂がネギ先生の頭を洗っていた。……俺、札掛けといたよな……気付かなかったのか?
すいすいと泳いで二人に近付き声を掛ける。
『おい』
「わひぃっ!?」
「なっ、な、緋影!? なんでここに……!」
『なんでって……札掛けといたろ。『緋影入浴中』っての。見てねェのか?』
「嘘っ、今日だったの!? ごめん!」
パッと謝れる神楽坂はいいやつだ。わざとじゃないならいい、洗い終わったらとっとと出な。と告げて俺は背を向け再び枠に腕を掛けた。
と、そこで。脱衣所の方からきゃっきゃと女の声が聞こえてきた。今日は厄日か。ちら、と二人へ視線を送れば既に身を潜めており、ハァと息を吐く。なんなんだ今日は。
入ってきたのは雪広、宮崎、早乙女__早乙女ハルナ、お嬢__近衛木乃香、綾瀬__綾瀬夕映。札、見てねぇのかよオイ。
入ってきた五人はまず悲鳴をあげて俺が居ることに驚いた。
「なっ、なな、なんで緋影さんがここにいらっしゃって!?」
「あっ、もしかして……」
『そのもしかしてだよ。今日は俺の貸し切りの日だ。とりあえずタオル巻け』
「っうわ!」
「きゃあ!」
そう俺が言えばみんな札見てなかった……と唖然としタオルを体に巻いた。こんなに来てるし、もうそろそろ良いだろう。
「す、すみません……すぐ出ますです」
「すまんなーイオリくん」
『いや、いい。俺が出る。もうそろそろ出るかと思ってたところだった』
タオルを腰に巻いてざぱりと立ち上がり、彼女らの横を通り抜け俺は風呂から上がったのだった。
.
一方の風呂場side
「それにしても……なんですのさっきのは! 何であの暴力的で無法者のアスナさんの部屋にネギ先生が」
「あー、それはウチのおじいちゃんがそうするよーに言ったんよ」
雪広あやか、もとい『いいんちょ』の言葉にこのかがすかさずそう返した。学園長先生が? と聞き返すいいんちょたちとは別に綾瀬が宮崎に話し掛ける。
「それにしても、緋影さんには悪いことをしてしまいましたね」
「あうぅ……そうだねユエ」
綾瀬、もといユエの言葉に同意した宮崎、もといのどかは気まずそうな表情を浮かべる。このかはそれに「ホンマ優しいやんなぁ、イオリくん」と微笑んだ。コクコクと一同が同意するなか、早乙女、もといハルナが「っていうか、私達の裸すら見ようとしてなかったよねぇ、緋影くん」とのびをしながら呟く。
「普通、ガン見するなり鼻血出すなり変なこと考えたりするのにさ」
「なっ、緋影さんはそんなこと致しませんわ! あの方は常識をわきまえておりますのよ! 今日だってアスナさんが突然下着になったときも咄嗟に教科書で見ないように……!」
「チキンかヘタレなだけってことも有り得るよねー」
「……いや、それはないと思いますよハルナ。私達を『女の子』として尊重してのことです。ですよね、のどか」
「う、うんユエー……今日だって私が大量の本、運んでるときに階段から落ちそうだったからーって、代わりに本を持ってくれたしー……」
「あーいうん硬派って言うんやなぁ」
「流石緋影さんですわー!」
「麻帆良の堅物は伊達じゃないってねー!」
その会話を聞いていたアスナとネギ。湯船の中で葉に隠れたアスナにネギが小声で問い掛けた。
「緋影さんってそんなにすごいんですか?」
「そりゃそうよ。緋影の理性は鋼より固いの。そうじゃないとあんな場面で顔色が一切変わらなかったりなんてしないし、あんたにみたいにデリカシーが無いことなんてしないわ」
「あうー」
「わりと有名なのよ、緋影は。『麻帆良の堅物』って呼ばれてんの。クールでイケメンだから女子人気もかなり高いし。ウチのクラス、そんなに騒いだりしないけど水面下争いしてるわ」
二人がそんな会話をしているとは露知らず、五人の会話はヒートアップしていく。
「ネギくん来たから人気が二分しそうやなー」
「な! ネギ先生も緋影さんも死守しますわ!」
「頑張るですよ、いいんちょさん」
「話を戻すけど、私達もネギくんか緋影くんと相部屋になれるようこのかのおじーちゃんに頼んでみよっかなー。ネギくんか緋影くんが一緒だと嬉しいよねー」
「なっ!?」
「えっ」
「そうですね」
「あっ、のどかは緋影くんの方が嬉しいかー!」
「はっ、ハルナー……!」
そこで影から聞いていた二人はなんのはなしだと首をかしげ、いいんちょは声をあらげる。
「勝手に決めないでいただけます!? ネギ先生と同居し立派に育てるにはもっとふさわしい人物がいると思いますわ!」
「緋影くんは?」
「あっ、緋影さんは……ああっ、そんな……二十四時間一緒だなんて!」
「いいんちょ、なに考えたんや……?」
「でも緋影くん断りそうだよねぇ。こう、自分から告白して彼女が出来るまで同居とかしなさそう」
「誠実な方ですからね」
「はうう……」
.
ネギ先生が来てから5日が経過した。昨日はバカ五人衆(レンジャー)の居残り授業など麻帆良は恐ろしくやかましかったが、まあ退屈はしないので良いだろう。
昼休み、俺が校内の一階の廊下を歩いていると、ばたばたと佐々木と和泉が駆けてきた。
「あっ、いおりくーん!」
「緋影くんやぁぁっ」
『え、なんだなんだ。どーしたお前ら怪我してるじゃねェか……』
とりあえず手持ちの絆創膏を和泉の額に貼り、佐々木の手の甲にも貼る。聞くところによると高校生が場所を横取りしようとバレーで暴行を仕掛けてきたらしい。
『……とりあえず、俺が行ってくるからお前らネギ先生呼んでこい』
「ありがとーいおりくーん!」
「絆創膏もありがとなぁ!」
ぱたぱたと駆けていく二人を見送りさて、行くかと俺も廊下を走り出した。まったく、高等部の人たちも大人気ないな。
**
俺が校庭に到着すると話とは違い、神楽坂や雪広の二人、あとネギ先生もそこにいた。「誰が譲りますかこのババア!」と雪広が怒鳴ったのが鬨の声となり、中高生が殴り合いになろうする寸前。雪広、お前意外と口悪いな。やれやれ、とあたふたしているネギ先生を一瞥して俺は静かに声を掛けた。
『なにやってんすか、先輩方』
俺の声に全員がぴたりと動きを止め、俺を見つめる。
『元気なのはいいんすけど、後輩相手にちょっと大人気なくないっすか』
「それは……」
『まぁでも、ウチにも非があったみてェなんで、あいこってことで場はおさめましょうか』
後ろから神楽坂と雪広の両名に肩を組んでリーダー的存在の先輩を見つめれば「そ、そうね……」と引き下がっていただけた。去り際鼻を鳴らしていたのは頂けないが、まあ良いだろう。二人から腕を退けて先輩の方を見ながらため息を吐いた。
「でも緋影! 悪いのはあいつらよ!?」
『手ェ出しゃ一緒だ神楽坂。そもそも、お前ら美人なんだから取っ組み合いなんかすんな。みっともないぞ』
「うぅー……!」
「あ、緋影さんっ、そもそものところ、続きをなんとおっしゃいましたか……!? 私たちがどうの……」
『? 美人なんだから?』
「はうっ!」
くら、と立ちくらみを起こした雪広を怪訝に見つめてから俺はそのあとの処理をネギ先生に丸投げしたのだった。
.
女子side
「ねえねえ、やっぱ緋影くんってすごくない?」
「……うん」
「確かに頼りにはなるかにゃー」
「……そのあと来た高畑先生もね」
上から、和泉亜子、大河内アキラ、明石裕奈がそう会話していた。アキラの言った高畑は、あの騒動のあとの場を収束させてくれたのだ。その会話を聞き、このかがアスナに問い掛ける。
「なにかあったん?」
「高等部と場所の取り合い」
「えー、またですか?」
「みんなやられてるよ」
アスナの言葉に不安そうに呟いたのは鳴滝双子だ。上から妹の文伽、姉の風香。見た目は小学生だが立派な中学生である。
「ネギくんはちょーっと情けなかったかなー」
「でも十歳だししょーがないじゃーん」
明石__ゆーなの言葉に返答したのは佐々木まき絵。いいんちょが「なんですの皆さんあんなにネギ先生を可愛がっていらっしゃったのに!」と憤慨を露にする。そのままきゃっきゃと会話をしながらバレーをするため屋上のコートへと足を運んだ。……運んだのだが。
「あ!」
「あら、また会ったわねあんたたち。偶然ね♪」
「むっ」
「高等部2ーD!!」
なんと、自習の先程の高校生たちがコートを占拠していた。そしてそこで捕まっているネギ先生。体育の先生が来れなくなったので代わりに、と言うことらしい。それで呆気なく捕まったわけだ。
**
俺が体操服の長ズボンを吐き、ジャージを腰に巻いて屋上へやって来た頃にはなぜかあのときの高校生とうちのクラスはドッチボールをしていた。
制服姿で明らかにやる気がないエヴァンジェリンに手招きされ、俺は彼女の隣に腰を下ろした。
エヴァンジェリン・A(アタナシア)・K(キティ)・マクダウェル。小学生の見た目だが、金髪に白い肌、西洋人形(ビスク・ドール)のような美少女だ。だがしかし、その実態は齢三百年を生きる吸血鬼の真祖だ。『闇の福音』『ダークエヴァンジェル』『魔王』等と呼ばれる三百億の賞金が掛けられた悪の大魔法使い。実質最強に位置するのだ。
どうやら俺は彼女に気に入られているようで、俺が胡座を掻けば彼女はその上にトスンと座る。側にはうちのクラスの天才二人__葉加瀬 聡美(はかせ さとみ)と超 鈴音(チャオ・リンシェン)が産み出したアンドロイドの絡操 茶々丸(からくり ちゃちゃまる)もいた。高身長だがこう見えて二歳らしい。頭いいけど。
「やっと来たか、いおりよ」
『おう。で、なにこれ』
「高等部がわざわざこちらに来て勝負をしにね。自分たちが勝ったらあの坊主を教生に寄越せと我が儘を通しに来たのさ。ついでにお前もな」
『普通に考えて無理だろ。学園長が素直に頷くとは思えねェ。そもそもそんな勝手な人事異動他が認めねェ筈だ。』
「ああ。それをあのクラスのバカ共が本気にしたのさ」
『みんなネギ先生大好きだな』
「(それだけじゃないと思うが)」
エヴァ嬢の呆れた視線を受けつつ俺はそれをボケッと観察する。どうやら彼方さんは大会でも優勝したことのあるチームらしく「トライアングルアタックよ!」とあのリーダー格の人が叫んでいた。トライアングルアタックて。そこで立ち上がったのは雪広だ。
「ネギ先生気をつけて! 私が受けてたちますわ!」
『頑張れよ雪広ー』
「はうっ、緋影さんっ! ……ふっふっふ! さあ来なさいオバサマ方! 2-Aクラス委員長雪広あやかがネギ先生と緋影さんをお守りいたしますわ!」
『(気合い入ってんな雪広)』
「(こいつ……)」
エヴァ嬢の冷やかな視線をなぜか一心に受けつつゲームの行く末を見守る。雪広? トライアングルアタックにやられてた。きゃ、とか、あん、とかビビりながら。やはりそこは雪広財閥の次女だというところか。よく頑張ったよ雪広。
そして太陽を背にした先輩に神楽坂がやられ、一気に諦めモードに入ったがネギ先生の先生らしい言葉にみんなが気を持ち直し、無事勝利を納めた。ネギ先生、服が破ける程の威力のボールは投げないでください。
.
ネギ先生達他が魔法書を取りに行った期末テストも初めての学年クラス最下位を脱出しあまつさえトップを取れた。これでネギ先生も正式な先生として授業ができるはずだ。と言っても、もう終了式は終わっていて、ネギ先生は正式な先生としてこの学園で生活している。労働基準法はこの学園都市じゃ通用しないぜ。
……あぁ、今日は雪広のあの日だった。春休みで実家に帰省すると言っていたから、出向こうか。
俺と雪広、神楽坂は小学校からずっと同じクラスで所謂『幼馴染み』に当たる。まあ、小1からの付き合いだ。神楽坂と雪広は出会って一時間目が終わったあとから喧嘩をし出し、それを俺が止めに入る。それが七年も続いたものだから、あの二人が喧嘩をし出すと俺が止めに入るのがデフォルトになってしまっていた。小さい頃は雪広、神楽坂両共に「いおり」くんや呼び捨てだったのだが、いつの間にか名字になっていた。神楽坂が高畑先生に好意を抱いてからだろうか。雪広も神楽坂につられるように呼ばなくなった。それが少しさみしいとも思うが、俺は最初から名字呼びしかしてなかったので当然と言える。関係は悪くないから気にしていない。
そうしてやって来た雪広邸。相変わらず豪邸で広い。チャイムを押せば「どなたでしょうか」と執事さんの声が聞こえてきて『緋影です』と返答すれば、快く門を開いてくれた。
だだっ広い前庭を相変わらず綺麗だなぁと感心しながら邸内へ足を踏み入れればメイドさん達が「ようこそいらっしゃいました、緋影様」と歓迎してくれる。それが幼い頃と変わらず少しくすぐったくなった。
『今どこに居ます? 雪ひ……あやかちゃんは』
「只今、ネギ先生とアスナ様、近衛様達とプールの方に居られますのでご案内いたましす」
『あざます』
俺を見て懐かしそうに微笑むこの人たちの優しさに触れて、相変わらず雪広は恵まれていると素直に羨望できる。ここはとても暖かい。忘れずに今日、ネギ先生を連れてきた神楽坂も大概雪広想いだ。
水着に着替えるかと聞かれたが、そこまでしてもらうわけにもいかないので断った。入るつもりはないが、プールサイドにでも居よう。
.
プールサイドの椅子に座っている雪広とネギ先生に『邪魔してるぞ』と声を掛ければ二人は驚いたように俺を見た。
「緋影くん!?」
「緋影さん……!? ど、どうして……!」
『遊びに来た。久しぶりに、執事さんたちにも挨拶したかったからな』
「まぁ……!」
笑顔の雪広に大丈夫そうだな、と安堵してから、雪広が「私の手作りクッキーですの」とサッとクッキーの入った篭を取り出した。綺麗に焼けたそれはさすがと言うかなんと言うか、焼き具合が絶妙で酷く美味しかった。
そこからまた水着姿の神楽坂が飛び込んで来て二人は大喧嘩。神楽坂のショタコン女と言う言葉がトリガーとなり、雪広が「もー怒りましたわ! 帰って! この家の敷地から即刻出てってくださいまし!」と叫び、売り言葉に買い言葉、「ハイハイわかったわよ出ていきます!」と神楽坂が背を向けた。お互いことを大事に想っているくせに、本当に不器用な幼馴染み達だ。俺が引き留めようとした瞬間、神楽坂が告げた。
「さっきのショタコン女は取り消しとく。今日だけは。ゴメン」
なんだ、言えるじゃないか。俺はほっと息を吐き、落ち込んだ様子の雪広とそばにいるネギ先生を見つめた。
「ごめんなさいネギ先生、みっともないところを。アスナさんと私、本当に本当に仲が悪くて、いつもケンカばかり……」
「それは違いますよ。アスナさんは今日、いいんちょさんを元気付けようとして、僕にここに来るよう頼んだんですよ」
「え?」
「いいんちょさん、弟がいたんですよね。僕と同じくらいの」
「あ……!」
そう、雪広には長男となる弟が居たのだ。結局、雪広はその弟に会えなかったが。今日は雪広の弟の誕生日であり命日だ。幼い頃、もうすぐ弟が生まれるんですのと嬉しそうに話していた。いつ生まれても良いようにと部屋まで作っていた。それらが全て実現が不可能となったときの雪広の落ち込み具合は半端が無かったのだ。毎日ショックが抜けきらず、綺麗な目は赤く少しばかり腫れていたのを覚えている。それを一番に元気付けたのは神楽坂。その頃、一等無口だった神楽坂は「元気出せ」の短い言葉と蹴りを一発。なにするんですの! とおいかけっこをして少しばかり元気を取り戻した雪広にホッとしたのも覚えてる。そのあといつものように俺が止めに入ったのだっていい思い出だ。
「そっか……今日は弟の誕生日でしたわね……」
そこまで呟いてパッと俺を見た雪広は俺を嬉しそうに見つめる。俺は照れ臭くなって視線を逸らした。
「ありがとうございます、いおりくん」
『……! ……別に、大したことじゃない』
そうして背を向けた雪広は「本当に、幼い頃からあの女は……」と震えた声で言葉を紡ぐ。
「暴力的で無法もので……とんでもないクラスメイトですわ……」
.
それから。ネギ先生のパクティオーがパートナーだあーだこーだだの、前々から知らされていた学園都市一斉電力調査で停電だの、その間に桜通りに出るだの言われていたエヴァ嬢がネギ先生と対決して負けただの、なんかもういろいろ濃い。何この一学期超濃い。あ、あと神楽坂の誕生日である4/21にはちゃんとプレゼントを渡してきた。新しいスニーカーである。神楽坂には両親が居らず、学費などは学園長が負担して返済など要らないと言っているのに律儀に毎朝新聞配達をしている。だからか、革靴ではないプライベート用のものはボロボロだった。喜んでくれたことには酷く安堵した覚えがある。
そしてとうとうやって来た修学旅行。京都に行くらしい。京都といえば、お嬢の実家があるところか。今回俺は学園長からお嬢の護衛は頼まれていないので、ほとんど桜咲に任せるつもりだ。
桜咲 刹那。京都神鳴流派の女剣士。半デコ少女だ。小柄なのだが『夕凪』と言う鐔のない太刀を使用するこのかの幼馴染みで専属護衛。このかとは距離を取っているようだ。幼い頃は仲がとてもよかったと聞いている。
荷物を持って駅にやって来れば、ほぼ全員が集まっており「遅いよー」と口々に文句を垂れられた。なんてこった、一番はしゃいでいるのはネギ先生じゃねーか。
**
新幹線に足を踏み入れてすぐ、俺と桜咲、ザジ__ザジ・レイニーディはネギ先生の元へと歩む。
エヴァ嬢はネギ先生の父親、『世界を救った英雄』『赤毛の悪魔』『千の魔法を持つ男(サウザンド・マスター)』と呼ばれる20年前に世界を救った大英雄、ナギ・スプリングフィールドに登校地獄と言う中学生を延々やりつづける呪いを掛けられ、学園から外に出られないのだ。ちなみにもう15年中学生やってる。それの訳はどうやらエヴァ嬢がナギにしつこくアプローチしていたかららしい。女の子だったわエヴァ嬢。と言うわけで、エヴァ嬢は学園を離れられないから来ていない。茶々丸は主人と共に居ることを望んで不在。そのおかげで俺達六班は三人だ。流石に駄目だろうと先生に声を掛けた。
俺達は他の班に入れてもらうことになり、一番親しい神楽坂のいる班になった。桜咲も。ザジは雪広のところだった。
俺は席に着くなり班員__早乙女、宮崎、綾瀬、お嬢、神楽坂に挨拶をしてからイヤホンを装着し、アイマスクをしてから眠りについた。五時起きだぞコノヤロー集合はええよ。
**
俺が早乙女に揺さぶられ、起こされたのは降りる直前だった。どうやら車内で蛙が大量発生する事態があったらしい。俺、どんだけ寝てたんだ……?
京都に着くなり、清水寺で集合写真を撮った。鳴滝双子が「これが噂の飛び降りるアレ!」「誰かっ! 飛び降りれ!」と騒いでいた。
その他、恋占いの石に雪広と佐々木が挑戦して、なぜか蛙がいる落とし穴にはまったり地味に宮崎が挑戦して無事辿り着いていたり。音羽の滝の恋愛側に酒が盛られていてクラスメイトの大半が酔い潰れたり。
まあ、生徒指導の新田先生にばれなくてよかったよかった。やっぱり女子って恋のためならなんでもするんだな……。
そしてやって来た旅館、嵐山。和風と言うか、風流で空気が澄んでてもう俺ここに住みたい。
修学旅行二日目。俺はネギ先生と同じ部屋にあてがわれていたのだが、ネギ先生が10歳と言うだけあって幼く、ずいぶんと仲良くなった。
俺は男なので、一応班には組み込ませてもらったものの自由行動は基本一人で許可されている。特例だ。女ばかりに囲まれてちゃ息苦しいだろうって。新田先生、正直感謝です。
二人して服を着替えて共に階段を降りていく。一階の大広間で朝食だ。
「それにしても、昨日は疲れました……」
『あー、酒飲んで大変だったみたいっすね。蛙が出てどうだのこうだの』
「それもありますが昨日の夜……いえ、なんでもないです!」
『(まだ俺も魔法使いだってこと分かってないのか。桜咲は無事判明したようだが)』
「朝御飯楽しみですねー! なんだろう!」
『っすね』
「緋影くん身長高いですもんね」
『成長期なんすよ』
「何センチぐらいですか?」
『あー……185越えたっけな……。まあ、心配しなくても先生もすぐ来ますよ、成長期』
「僕、どれくらい身長伸びるんだろう」
そんな他愛ない会話をしている間、ネギ先生のそばにいるオコジョは俺を見つめていた。カモミール・アルベール。下着泥棒で有名だったあのオコジョ妖精だ。どうしてネギ先生の使い魔としているのか謎だが、ネギ先生のそばにいれば捕まる心配もないからか。打算的だな、コイツ。噂じゃパンツ神だとか。男として有り得ないだろコレは。
**
朝食を食べ終え、ネギ先生と神楽坂と共にロビーを歩いていたときだった。宮崎がやって来たかと思うと佐々木が飛び込んで叫ぶ。
「あのー……」
「ネギくーん! いおりくーん! 今日一緒に見学しよー!」
「ちょ、まき絵さん! ネギ先生といおりくんはうちの3班と見学を!」
「えー! いいんちょずるーい! 先にうちが誘ったのにー!」
「あのー……」
「だったらぼくらの班もー!」
ごちゃごちゃと争奪戦になっているネギ先生の頭をぽんぽんと撫でて視線で頑張れよ、と送るもののネギ先生は泣きそうな顔して訴えかけてきた。いや、そんな顔されても。その時だった。
「あ、あのー! ネギせんせー! 緋影くん! よ、よろしければ今日の自由行動……私達の班と一緒に回りませんかー……!?」
宮崎にしては大きな声が出て、辺りは騒然とする。ネギ先生は少し考えたあと、あっさりと許可してしまった。あれか、お嬢が関西呪術協会の陰陽師一部に狙われてるからだろうか。
『俺はー……』
「緋影くん……!」
やめろ、先生、俺をそんな目で見るな。同性で仲良くなったからだろうか。こっちに来てほしいオーラが半端ない。仕方ない。俺もいくとしよう。
『わかった、わかった先生。俺も一班に行くからそんな顔して俺を見るな』
「やったー!」
『(手放しのネギ先生の笑顔プライスレスェ……)宮崎も誘ってくれてありがとう』
「あー……いえー……」
周囲が本屋が勝っただのなんだの言っているがなんのことかさっぱりな俺は首をかしげるしかなかった。
.
女子side
やって来た東大寺に、ネギ、いおりを引き連れた一班はやって来ていた。初めての鹿を見て大興奮のネギを神楽坂がたしなめる。いおりを含む周囲もそれを微笑ましそうに眺めるなか、のどかはその後ろで幸せそうに微笑む。いつもと違って髪を揺ったのどかは前髪を少し切ったこともあり可愛い女の子だ。
「えへへー……緋影くんー……♪」
そこへ弾丸のごとくのどかに蹴りを入れたのはハルナとユエだった。
「キャー!?」
「見直したよアンタにそんな勇気があったなんて!」
「感動したです」
「えへへ……うん、ありがとー……。緋影くんと奈良を回れるなんて幸せー……今年はもう思い残すことはないかもー」
そこへのどかに「ばかぁ!」と頬をひっぱたく真似をしたのがハルナだ。
「この程度で満足してどーすんのよ!? ここから先が押しどころでしょ!
告るのよのどか。今日ここで緋影くんに想いを告白するのよ!」
「えーーー!? そ、そんなの無理だよぅ!」
「無理じゃないわよ! いい!? アンタはもう二年も片想いしてるのよ! そして修学旅行は男子も女子も浮きたつもの! 麻帆良恋愛研究会では修学旅行期間中の告白成功率は87%を越えるのよ!」
「ははははちじゅうなな……」
ハルナの熱気をユエは表情を崩すことなく「ファイト」とでも言うような顔をして立っている。のどかはと言うと目をぐるぐると回しておりそこまで気が回らないようだ。
「しかもここで恋人になれば明日の判別完全自由行動日は二人っきりのラブラブ私服デートも……?」
ハルナのその言葉にのどかは顔を赤く染めてくるくる目を回しつつ考える。(ラブラブデート……緋影くんと……)ここら辺やはり乙女である。
「そっそそそ、そんなこと急に言われてもー……」
「大丈夫! アンタなら行ける!」
「ファイトですのどか」
.
「アスナー! ネギセンセー! 一緒に大仏見よーよ!」
「へぶぇっ!?」
「ぶふぅっ」
「せっちゃんお団子買ってきたえ一緒に食べへんー!?」
「えっ」
そうして連れ去られた俺と宮崎の他のメンバー。なんだよ置いてくなよ。
唖然とする宮崎にとりあえず二人で回ってしまおうかと誘えばおずおずと頷いてくれて、拒絶されなくてよかった。と表情には出さずにホッとする。
「あっあのっ、緋影くん! 私、大、大、す、好き……大仏が大好きで!」
『へェ。渋い趣味だな、良いよな。大仏。俺たちも綾瀬の仲間だな』
「あのっ、そのっ、私、緋影くんは大、大吉で!」
『ああ、みくじでも引くか』
「いえっ、じゃなくてー……大吉が大好き、いえっ、大仏……!」
『(……うわ、大凶ェ)』
今日の宮崎はどうしたんだ。何かを伝えたいみたいだが、どうもうまく言えていない。東大寺へとやって来て周囲を見回し、良いものを発見する。
『宮崎、ホラ。大仏の鼻と同じ大きさの穴があるぞ。くぐり抜けられたら頭が良くなったり願いが叶ったりするみてェだ』
「えっ、願いが!? やります! くぐりますー!」
『(……小動物みてェで可愛いな)』
とまぁごそごそと入っていったは良いものの、どうやらポシェットがつっかえたらしい。それを俺が引っ張り出せば、宮崎は申し訳なさからか泣きっ面で走り去ってしまった。
『……俺、なんかしたっけ』
その後ふらふらと徘徊しながら宮崎を探しつつ見学する。どうしようもう足がパンパンだ。膝いたい。そこで再び宮崎が姿を現した。
「緋影くん! あのっ、実は私……大、根おろしも好きで……」
『落ち着け宮崎、深呼吸だ。大根おろしも旨いよな。急かしてねェから落ち着いて話せ』
「あ、ありがとー……!
あ、あの、緋影くん……! 私、緋影のこと、二年前からずっと好きでした! 私、私……緋影くんのことが大好きです!」
背後で桜咲、神楽坂、オコジョが俺を見ていることに気が付きながらも、俺はピシリとその態勢と表情のまま俺は硬直した。たらりと冷や汗が俺の頬を伝う。実を言うと、人生初の告白を受けたのだ。
「あ、いえー……わ、分かってます。突然こんなことを言っても迷惑なのは……ごめんなさい。でも私の気持ちを知ってもらいたかったので……失礼するね緋影くんー!」
『……!? ……! ……っ!!!?』
走り去る宮崎を引き留めることも出来ず、一人棒立ちのまま唖然とする。どさりと尻餅をつけば神楽坂とネギ先生が慌てて此方へ駆けてきた。
ガシッと神楽坂の腕を掴んで顔を上げる。
『か、かかかっ、神楽坂っ、俺はどうしたらいい!? 断ればいいのか!? 受け入れりゃいいのか!? なんなんだ!? 俺が言えばいいのか!? どうすりゃいい!?』
「はぁっ!? あんたこれまでも告白されたことあるでしょっ!?」
『馬鹿言えっ、人生初だ! 告白なんてされたことっ、』
「嘘でしょ!?」
「無いんですか緋影くん!?」
「(いつも無表情の緋影さんがこんなに取り乱している……)」
『桜咲ェ……!』
「(心を読まれたっ!?)」
**
夕暮れになり、旅館へと帰還した俺はロビーのソファに座って膝に肘を置き、前屈みになって深刻な顔をしていた。
『……(宮崎に、告白された。告白までされたなら、それなりに責任を……!? でも俺宮崎のこと何も知らねェ……確かに宮崎は可愛い。以前まで前髪が長くて気付かなかったが、相当……)いやいやいや、いや、でも……ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙っ。あ゙ー、駄目だ駄目だ。どうすりゃいいんだ俺は……』
うんうんと唸るなか、雪広と佐々木が「いおりくん、どうされたんですの?」「昼の奈良公園で何かあったの? いおりくん」と俺に聞いてくる。
『いや、……告白されたらどう返したら良いのか……』
「えええ!? こ、告白!?」
「えーそれホント!? いおりくん告白されたの!?」
何!? と騒ぎ出すコイツらにやべ。と頬を掻く。騒ぎ出したコイツらにバレるとヤバイので俺はその場をすたこらと逃げ去ったのだった。
.
「五番、和泉亜子。三月卒業する三年に告白するもフラれ彼氏なし。気が弱くお人好しだが運動能力は高い。六番、大河内アキラ。彼氏なし。運動能力高し。水泳部エース、高等部からも期待の声。寡黙。十八番、龍宮真名。彼氏不明学園内の神社で巫女のバイトをしている模様。十九番、超 鈴音。天才その一。勉強スポーツお料理なんでもござれの無敵超人。二十四番、葉加瀬聡美。天才その二。研究以外に興味なし。あだ名はもちろんハカセ」
そこまでオコジョ妖精のカモに説明したのは麻帆良のパパラッチ娘、報道部の朝倉和美だった。つい先程までいおりに誰が告ったのか調べ、宮崎と言うことが判明し宮崎の健気さに証拠を撤去したのち、ネギが魔法使いだと知ったのである。最初こそ朝倉は魔法使いを世に広めようとしたがカモの説得兼熱意に当てられ一旦その考えをよした。キスからなる仮契約に二人してネギとやらせようと言う思考を会わせ持っている二人は何やら怪しげな作戦を今夜決行しようとしていた。
一方、ロビーではネギがアスナと刹那に早速朝倉に魔法がバレたと報告していた。それを聞いたアスナは「はあ!?朝倉に魔法がバレた!?」と怒鳴り声をあげる。なんでどうしてと問い詰めてくるアスナに酷く落ち込んだ様子のネギ。
「もーだめだ、アンタ世界中に正体バレてオコジョにされて強制送還だわ」
「そんなぁー!一緒に弁護してくださいよアスナさん桜咲さんー!」
『なにしてんだ?』
そこへ偶然立ち会わせたのは緋影伊織だった。やって来た彼にアスナとネギが慌て出す。何も聞いてないわよね、なにか聞いてませんよねと詰め寄る二人に圧倒されたいおりは困惑した顔で刹那に視線で助けを求めた。
「実は、朝倉さんにネギ先生の魔法がバレてしまって」
「なっ!?」
「何言ってるんですか桜咲さん!」
『待て。朝倉にバレた?なにしてんすかネギ先生ェ』
「えっ」
「緋影アンタ、もしかして!?」
『そうだ、俺も魔法使いだ』
緋影の突然のカミングアウトにえっと叫びを挙げたネギとアスナ。刹那は知っているようで、気付いてなかったのかと嘆息していた。
「彼は全盛期のエヴァンジェリンさんをも凌ぐ程の実力者、あのナギの実力に最も近いと言われています」
『俺そんな実力ねェよ桜咲』
「え!父さんに最も近い!?」
『だから…』
若干ふて腐れたような顔のいおりの後ろから現れたのは朝倉。彼女が言うにカモの熱意にほだされネギの秘密を守るエージェントとして協力してくれるらしい。
夜、騒ぎ過ぎたA組は新田先生に自分の班部屋から出たものはロビーで正座を命じられ、それにA組の大半が落胆したのも束の間。朝倉が彼女らにゲームを持ち掛けた。
「名付けて『くちびる争奪!修学旅行でネギ先生、緋影くんとラブラブキッス大作戦』!ネギくんのマネージャーの許可も取ってあるよ」
「え!?」
「ネギくんかいおりくんとキス!?」
叫び声をあげる彼女等に朝倉は「こらこら大声出すなって!新田がまた来るぞ」と小声でたしなめた。
「ルールは簡単、各班から二人ずつを選手に選び、新田先生方の監視を潜り、ネギ先生かいおりくんの唇をゲット!妨害可能!但し武器は両手の枕投げのみ!上位入賞者には豪華景品プレゼント!なお、新田先生に見つかった者は他言無用朝まで正座!死して屍拾う者無し!」
「きびし! 見つかった人は助けないアルか!?」
「豪華景品ってなんだよ!?」
「ひみつ♪ でも期待して良いよ」
「いいね面白そう!」
「ゴールがどちらか二人とキスってのもいいかも」
「でも見つかったら正座だよ?」
「そのくらいの方が緊張感があって良いよ!」
「おー!」
そこで朝倉の名前を呼んだのはいいんちょだった。やっぱりダメか、と朝倉が冷や汗を流したとき、「やりましょう。クラス委員長として公認しますわ」と許可が出た。
「よーし各班10:30までに私に選手二名を報告! 11:00からゲーム開始だー!」
<オオー!>
乙女たちは知らない。朝倉とカモの真の目的がパクティオーカードだと言うことを。
11時となり、乙女達(大半がネギ狙い)が血気盛んに盛り上がっていく頃、一方のいおりは外へと涼みに来ていた。和服があまりにも似合わないと思って自嘲した彼は持参のワイシャツにカーゴパンツ姿。酷く涼しげである。
途端、ふるりと背を這うような悪寒と、何かしらの執念を感じとり、小麦色の肌に鳥肌を立たせて旅館を振り返った。
『……なんだ?』
訳もわからずに眉を潜めるいおりは地面に光るものにやっと気が付いた。足元に電球でも埋められているのかと思っていたが、どうやらソレは仮契約用の魔法陣。魔法陣はぐるりと旅館を囲っており、ようやくいおりはカモミールか、と人相悪く舌打ちをかました。
成功すれば仮契約は一人につき五万円を協会が支払うことになっているのだが。大方、金に目が眩んだか、か弱いネギ先生が多くの女子にモテるところをにやにや見ていたいのか。どちらとも取れるその行動にいおりは再び舌打ちをひとつ。
妙にカモミールと仲が良かった朝倉の事だ、アイツも参加していると考えていい。そしてこの異様な執念。恐らく朝倉に焚き付けられて何か仮契約、言わばキスに関するゲームでもやっているのだろう。まったく、ロクなことをしてくれないバカたちだ。しばらく外にいる方が安全だと思い、ベンチに座って月夜を見上げる。綺麗だと思うと同時に、あの夜を思い出した。
……や、やめっ、やめてくれ、俺を……
[……嫌だぁっ、死にたくないっ、死にたくない死にたくないっ! 嫌だあああああ! あああああ!]
[ぎゃああああっ! いやっ、熱いっ! 熱いよおおおおお! 何で、何であんただけっ!]
[助けてっ、助けていおりくんんんんん! 熱いのっ、痛い、溶けそうなの! ずるいずるいずるい! アンタずるいんだよ! ひぎっ、熱いいっ、あつ、ああああああ!]
……また、死んだ。一人二人、三人四人、大勢が俺に助けを求めて死んでいく。積み重なる屍に俺は涙を流すのみだった。鉄格子から覗いているのは漆黒の闇とそのときの俺を嘲笑う化のように爛々と輝く綺麗な月。残っているのは、俺と__。
ハッとして目をぱちりと見開く。周囲はあまり変わっていないが、時計を見ればもう11時半。寝てしまっていたようだ。俺の体は汗がぐっしょりで、はあ、と息が上がっていることに気が付く。ずいぶんと昔の夢を見た。気分の悪い夢だ。気持ち悪い。
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突発的シリーズその一。知識有転生トリップ傍観前世アイドル男主。enst→はじあく。前世では夢ノ咲学院出身の人気アイドル。羽風や瀬名等の三年生と同い年だった。当時はアイドル一の色気を誇っていた色男アイドル。声がエロボ、仕草が色っぽい。但し本人にそんな気はない。眼鏡。常識人。隠れオタク。はじあくも本誌とコミックスを読んでいたサンデー派。しかしマガジンも読む。ジャンプはあまり読まなかった。あくまで傍観、ジローたちとはただの友人。高校生にしてアイドルしてるので学校は休みがち。超人気。オカン気質。名前は『最原伊織』、ニックネームは「イオ」や「いおり」。
**
俺は生まれたときから少々他人とは違っていた。前世の記憶があるのだ。まあ待て、ふざけてるわけじゃない。俺は至って正常だ。
俺の前世はまあ、大変輝かしいもので、その世界でもアイドルをしていた。この世界とは違い、アイドルを出せば出すほど売れる世の中だった。もちろん人気が出ず終わるところもあったが。
俺は前者で飛ぶように売れたアイドルだった。周囲に『UNDEAD』や『流星隊』『紅月』その他もろもろなどの数人が集まったユニットの中で俺はソロでよくやった方だと思う。夢ノ咲の暗黒時代のせいで他の人が変わっていった中で俺はよくやった方だと思う。転校生のプロデューサーのあんずが来て暗黒時代も脱したが。トリスタ万歳。
俺はそんな数々の人気アイドルを輩出してきた名門夢ノ咲学院のアイドル科出身で、まあ順風満帆に仕事を行ってきたと思う。
本題はここからだ。俺、死んだ。死因なんてそんな大したことじゃなくもなかった。大変なものだった。妄想に取り付かれ、俺の彼女だと言い張った女の子のファンに否定を入れたら逆上して刺されて死んだ。このポジション……薫とかじゃないのか普通。
まあ悔やんでいても仕方がなく第二の人生を歩んでいたら大変なことに気がついた。お隣さんが『渡』さんなのだ。まあ渡なんて名前はよくいる。そう思っていたが、どうにもそう思いきれない。俺が通う高校は『三葉ヶ岡高校』、お隣の渡さんは同級生で同じクラスの『渡恭子』。その友人は通称ユキの『東雲雪路』、アキの『中津川秋穂』そして先日このクラスに編入してきたのが自分を悪の組織の科学者で次期首領だと名乗るマントを羽織った男『阿久野ジロー』。これはもしや、というかもしやどころではない。サンデー屈指のギャグラブコメディの『はじめてのあく』ではなかろうか!? そう、あの壮絶なバトルとギャグとラブコメと貧乳の悩みが対立せず均等に存在するあの!
超関わりたくないが、まあ大丈夫だろう。だって俺はお隣と言うだけで渡ちゃんとも仲良くないし、中津川ちゃんや東雲ちゃんとも話したことはない。小学校からずっと一緒だがここまで関わりがないのはすごい。ぐっじょぶあの頃の俺。しかも俺自体が口下手でコミュ障。お陰でテレビでも普段でもクールで通ってます畜生。俺も普通の青春したい。でもアイドル楽しい。そんな俺にも友人がいますよええ。
俺はスマホ片手にとある人物に電話を掛けた。
『緑谷ェェエイ……!!!』
「ど、どうしたの最原くん、いきなり……」
『なんなんだアイツェェェエ!!!』
「ああ、阿久野くんだよね」
『そうソイツ。何あれ怖い。渡ちゃんファンクラブに潰されろ』
「あ、でも前に中津川さんの家でみんなで勉強会したんだけど、良い奴だったよ。ファンクラブの人たちも認めてる」
『緑谷ェェエイ!!! 羨ましいんだよこんにゃろーめが! 失せろ! お前らだけ青春しやがって! お前は俺を置いてかないと思ってたのに!』
「ごめん」
『俺こそごめん、取り乱した』
じゃあまたな、と電話を切る。とりあえず緑谷は今後東雲ちゃんを好きになるので全力で応援してやろうと決めた。
.
まあ、あれから月日が流れるのは長いもんで、もう三年生だ。彼らは彼らで順調に物語を進んでいるし、俺は仕事でちょくちょく抜けたり。彼らはキルゼム部とやらを作って仲良しだ。元ファンクラブの会長の赤城さんとはちょくちょく連絡を取り合う仲である。ただしいまだにメイン勢と絡んだことはない。俺の人見知りなめんな。
だがしかし、今回は違う。俺は高校に入って初めて、部活動とやらに入ることになった。そう、かのキルゼム部である。阿久野に「入ってくれええええ」と土下座されたので流石に可哀想になり、受けたのだが。なぜ俺が三年にもなって彼らの話題に上がっているのだ。現在教室の外の壁に張り付いてます。
「あの寡黙な最原くんがアンタのたのみごと聞いてくれるなんて奇跡じゃん」
「ああ、俺も受けてくれるとは思わなかった」
「よく受け入れてくれたよねー、最原くん」
「ほんとにな。アイドルやってて近寄りがたかったんだけど、いいやつかもな」
「えっ、お前らアイツと話したことねえの!?」
女子三人組と阿久野の会話を聞いていた黄村がすっとんきょうな声をあげて驚いた。やめて驚かないで。緑谷も苦笑いしないで。
「あいつって……アンタまさか最原くんと話したことあんの!?」
「ファンクラブに殺されねーか!?」
「あの女子に人気の眼鏡エロイケメンくんと、黄村くんが!?」
「東雲辛辣じゃね?」
黄村に同意。それ俺も思った。
「アイツ超話しやすいぞ、話題吹っ掛けるとベラベラ喋ってくれる。めっちゃ笑うし」
「うそお!? 話しかけても「ああ」か「おう」か頷くしかしないのに!?」
俺のハートにぐさりと何かが刺さったぞどうしてくれる渡ちゃん。
「あー、アイツ超のつくほど人見知りだからな。最近彼女欲しい青春したいって言ってたぜ。そこら辺は多分緑谷の方が詳しい」
「!? そうなのか緑谷!?」
「うわっ、ジローくん唾飛ばさないでよ! まあ確かに、僕多分彼と一番仲がいいと思うよ。友達欲しいって言ってたのを高1の時からずっと聞いてたし」
もうやめて、俺のライフはもうゼロよ。って感じなんだが。死ぬ。恥ずか死する。
.
短編。黒バス洛山。※この男主は超短気である。
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バスケ等の運動部の古くからの強豪校、洛山高校。この伝統ある高校には、とある噂が……というか出来事がある。ある男子生徒が異常に女子生徒にモテているというものだ。屋上の扉がギィと開いてやって来たのは黛千尋。洛山高校のバスケ部所属の三年生である。今日も今日とてラノベを読破しようとやって来た訳だが、男女の話声が聞こえてくるのでどうやら先客が居たようだ。まったく、と背を向けるも、くぐもった唸りの様な男の声は聞き覚えのあるものだった。
黛は真顔で思う、またかよ。大きく溜め息をはき、給水タンクの裏に回ればそこには一人の眼鏡の男を囲む五、六人の女子。男の方は腕を後ろ手に縛られており、口には布で猿轡とさんざんな格好だ、めちゃくちゃ怒鳴り散らそうとして猿轡のせいで唸るしかない。そして黛にとってそれはもう見慣れたものである。
「はぁ、最原くんカッコいいよ最原くんぅへ……、ふへっ」
「いやもうホントエロイケメンいおりくんhshsprprしたいカッコいいエロいもう好き! 抱いて!」
「そうよもう抱いて!? 今日は教室に帰さないよぉっ! 散々私達のことイかしてぇっ!」
「うへ、ふへへへへ、いおりくんのぉ、いおりくんと……」
「はいじゃあ脱ごうね! 上半身のボタンは既に外してあるからね!」
『ん゙ん゙ん゙!? ん゙ん゙ー!』
めちゃくちゃキレてる最原の前全開のワイシャツに躊躇なく手を伸ばしそのワイシャツは彼女らの一人にガッチリホールドされている。どたばたと足を暴れさせて抵抗する最原だが上に女子生徒が一人馬乗りになりそれも出来なくなる。
見ていた黛も流石に駄目だと判断して止めに入った。
「おい、お前その辺にしとけ」
『ん¨!(狂喜乱舞してる)』
「うわ、黛くん来ちゃった!」
「え、もーおわり? おっと、最原くん次は頼むよ!」
「つまんない、あ、いおりくん今度会おうね!」
「いおりくんまたね!」
「いおりくん好き! また今度!」
『ん¨ぅ¨!? ん¨ん¨ぅ!』
走り去る女子に汚い罵声を浴びせていく最原だが、それすらも恐らく彼女らにとっては至福の一言だ。乙女の脳内補正怖い。黛が拘束を解いたとたん意味不明単語を怒鳴り散らしながら周囲の壁や地面に八つ当たりを開始する最原。これだって((ry
『最近の女子どないなっとるねんクソボケカスどもが!』
「いや、お前のこととなるとこの学校の女子はほとんどが肉食系女子になるから、その中でも突出した奴らだ」
『何冷静に分析しとるんや黛! っちゅーか女子こわ! なんやそれ怖! 俺軽く貞操の危機やったやん女子積極的すぎてホンマこわ!?』
「でもお前童貞卒業してんだろ」
『それ小学四年生の時に姉貴の友達の高校生のおねえさんに襲われてやからな!? 逆レ(ピー)やからな!?』
「はえーよ」
『好きでやったんちゃうわ!』
そう、最原いおりという男は、異性から異常に好意を抱かれるのだ。普段はこんな風にかなり短気ですぐ怒鳴り散らす短細胞の塊のような男だが、顔よし頭よし運動神経よし面倒見よし、そして短気だが紳士と来た。以前、階段につまずいて降ってきた隣のクラスのミスコン優勝者を咄嗟に片手で抱き止めその場で彼女に告白されたのは記憶に新しい。その前は体育の授業で倒れた女子をお姫様抱っこで運び保健室で襲われ、曲がり角でぶつかった後輩に手をさしのべればストリップを始めようとされ、なんかもういろいろとヤバイのである。体育の時に制服が無くなり、困っていれば数分後扉の前に「いおりきゅんの制服良い匂いだったよ! ネクタイはちょっと部長がいただきますしたから後日返すね!」と言うメモと共にネクタイを除いたブレザー一式が綺麗に折り畳まれていたり、シャープペンシルや消しゴム筆箱挙げ句鞄すらなくなったこともあった(基本ちゃんと返ってくる)。今回のように襲われているところも、少なくはない。そんな女子を見て男子の間では俺たちの友人の最原は死守しなければならないと言う謎の義務感を背負っているのである。親しい友人の黛もその一人だ。
「今回は派手だな」
『後ろからスタンガン浴びせられてやー、気ぃついたらワイシャツのボタンは全部外れとるしなんやらでびっくりやで』
「びっくりで済ませられるお前にびっくりだっつの」
今日も今日とて黛は思う、コイツホントにラノベの主人公より可哀想だなと。
あんスタ夢。逆ハー狙い撃退のお話。あんずちゃんと夢主は同一人物ではありません。メインストーリー終了後。所謂革命後。
夢主の名前は『最原 いおり』。設定↓
学年・クラス:二年B組
身長:157cm
誕生日:4/12
星座:牡羊座
血液型:A型
あんずと同じ時期に夢ノ咲学院アイドル科にやって来たデザイン科テスト生。普通科とは学科が違うので気まずいだろと言うことで同時期にやって来た女子一人のあんずの為にもとアイドル科に設置された。傍観しない傍観主。
オタク。容姿は平凡。巨乳。絵が上手い。キャラから背景や風景画までそつなくこなすイラストに関してはハイスペック夢主。衣装のデザインやポスターレイアウトまで請け負う。逆ハー狙いに目の敵にされている。UNDEADと一番仲良し。
肘に大きな古傷のあと。あと背中にも。黒タイツ。
脳内はあんずちゃんマジホンマかわええマジリスペクト。会話するなどおこがましい。というか女神。かわいい(あんずは仲良くしたい)関西弁。
性格はネガティブでとうらぶの山姥切国広の性格をちょっと軽くした感じ。自尊心は人並み。「どうせこっちなんて劣等生……」。言いたいことはズバッと言う派。逆ハー狙い主を見て逆ハー狙いとかリアルにおったんやすげえ。そしてうざいキモい。的な。逆ハー狙い怖い。声は低い。基本自分を下婢して自分自身を嘲笑している。何かあれば頼るのは大神。人間不信ぎみ。
黒髪黒目。ショートカットで前髪はセンラさんみたいな。肩上の毛先は少々外に跳ねている。ブレザーは腕捲り。前はキツくて閉められない。
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夢ノ咲に転校してきて、S1だのB1だの見てこれは酷いと思って、思ったものの何もせずクラスの人たちとは程々に打ち解けUNDEADとかなり仲良くなりあんずちゃんの可愛さに撃沈し衣装のデザインがほしいと頼まれたのでササッと書いて手渡しエンジェルスマイルの残されトリスタがドリフェスで帰ってきた皇帝を負かし、ほぼ八百長だったB1などに革命を起こして平和になった夢ノ咲。相変わらずあんずちゃんは人気者でもうこっちには雲の上の人。コミュ障のこっちには些か声をかけるにはレベルが高い。だからせわしなく駆け回るあんずにお疲れ様も言えず仕舞い。ホンマこっちは死んだらエエ。
『そう思うやろ大神……』
「話見えねぇよ」
『ホンマにこっちクズやなって』
「……コイツめんどくせえ」
『めんどくてホンマすまん、ホンマこっち存在意義が分からへん死にたい』
「だあああああああ! うぜええええええ!」
席から立ち上がって苦悩の声をあらげた大神はこっちに本気のチョップを一発浴びせて叫びながら教室を出ていった。なんだあいつ。ホームルーム始まるんやけど。やけに騒がしい教室の中で話し相手も居なくなったから音楽プレーヤーで曲を選らんでイヤホンを填めた。
案の定担任に引きずられてあやつは帰宅。おかえりわんこ。そういったらわりと真面目に殴られた。
ホームルームが開始されて、早速聞かされたのは教室がざわめいていた理由と言うか根元と言うか。
どうやらA組に転校生が来ているらしい。遅れてきたプロデューサー科のテスト生のようだ。
『……ガミくんどう思う、プロデューサー科にテスト生がもう一人やで』
「……知らね〜よ。あんず居んのになんでもう一人とは思うけどな、ど〜せほとんどあんずに依頼殺到だろ」
『あんずちゃん女神ヴィーナスマジ天使』
「真顔きめぇ」
『ホンマすまんキモくてすまん生きる価値なくてすまん……』
「うぜ〜」
翌日、鳴上ちゃんから聞いた話ではその新たな転校生はミーハーだと言うことが判明した。やな予感する。
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※今後捏造が多かったり。
翌日、教室でヘッドホンをつけながらアイポットで曲を聞きつつタブレットでブッ快感がテーマの爽快パネル破壊スマホゲームをしていたら、あんずちゃんがB組に駆け込んで来た。あ、涙が見えとる。かわゆす……とか言っとる場合ちゃう。何があった。
伊更や鳴上が必死に宥めている光景を見ていれば、大神が軽音部から帰室していたらしく後ろの席にどさりと腰を下ろす。めっちゃイライラしとんやけど、目付きが凶悪なんやけど。こわ。
『……どないしたん、オオカミ』
「クソ気持ちワリ〜女に絡まれた、ってオオカミじゃなくて大神だっつの。役に立たねぇあんずに変わってプロデュースしてやるだとよ、何様だアイツ。腕に絡まってきやがったキモい」
『……その子は死んだらエエ』
「お前マジいい性格してわ、同感だけど。その女、例の新しいプロデューサーだぜ」
『クソもへったくれもないなクソ女死んだらエエ。上よく通したな』
「死んだら良いって二回言ってんぞ」
二人でぐちぐちとこっちは未だ顔を拝見したことのないその二人目のプロデューサー、『姫野 愛(ひめの めぐむ)』について罵り合う。顔はずいぶんと可愛らしく美少女らしい。見るとこカスですねごめんなさい。
二人で駄弁っているとあんずちゃんと鳴上が側に寄ってきていて、あんずちゃんが泣いていた理由は姫野が大神に言っていたことを偶然聞いていたからのようだ。説明ありがとう鳴上ちゃん。タイミング悪いな、そして姫野許すマジ。
「私そんな風に見えてたのかなぁ……」
泣きながらそう呟いたあんずちゃんにこっちはぴしりと固まり、周りは真剣にそんなことはないと理由を述べる。
あんずちゃんは作曲を月永先輩に頼みに行き作詞をしレッスン場を借りステージを用意しドリフェス企画をいくつも立ち上げとる敏腕プロデューサー。正直ちょっと前まで素人だったとは思えんぐらいにはすごい。
そのあんずちゃんを役立たず言うんやから姫野は多分目ェ悪い。いや、こっちも眼鏡やから目ェ悪いんやけど。それか自分がそれ以上にデキル子なのか。多分ありえへん思うけどな。
そうつらつら自分の考えを喋ればあんずちゃんが号泣した。びっくりしてあんずちゃんの脇に居た伊更に目をやればめっちゃ目をキラキラさせてて再び驚く。鳴上ちゃんみたら涙ぐんでた。なんでや。三人の反応が怖すぎて大神に視線で助けを求めれば渋々うんうん頷いてた。コイツはぶん殴りてぇ。
『な、んで泣いとるかは知らんけど、まぁ、気にせん方がエエと思う……んやけどガミくんこれ正解? なぁコレ正解なん?』
「知らね〜よ俺様に聞くんじゃねえ」
「イオちゃんありがとぉ……」
『……こっちなんかに礼言う前に鳴上ちゃんと伊更に言うたってや……』
とりあえずあんずちゃんを二人に任せて大神連れてA組行こう。どんな子か見たいし、弟の方の朔間さん探しにいこう。
一刻も早くここから逃げたかったこっちは大神の腕を引っ張って教室を出た。
「っ、どこいくんだよ」
『A組』
「帰る!!!」
『A組行くだけやって』
「ぜって〜帰る!!!」
掴んだ方の腕を大神がぶん回すので抱え込んで再び引っ張っていざA組へ。途中最後の抵抗と思わしき大神の拳骨はわりと痛かった。一部始終何やら怒鳴っていたけど聞く気にはならん。うるさい。
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到着した隣のクラスを後ろの扉から覗き見れば、そこには氷鷹の腕に絡みついて遊木、明星と楽しげに談笑する姫野愛がそこにはいた。トリスタの三人は揃って隠してはいるが嫌悪感に濡れた顔をしている様子。
こっちの上から覗いてきた大神は「マジきめ〜あの女」と苦々しくぽそりと呟いた。こう見えて人のいいわんこがここまで他人を嫌うとは……なにやつ姫野愛。
「おいいおり。気づかれる前に帰るぞ」
『せやな、帰ろか。すまんトリスタ三人しばらく犠牲になってくれ』
そそくさと二人でその場を去り、教室に帰ってくるとみんながどうだったと聞きにやって来た。
「ど、どうだったイオちゃん!?」
「様子を見る限りは……」
「あ、やっぱりー?」
『ホンマに姫野気持ち悪かったわ』
「「「ん?」」」
『A組行ってきてんけど、姫野が氷鷹の腕に絡み付いて猫撫で声あげとってびびったわ。大神とさっさと退散してきた』
「えー……」
「……マジなのね」
「大神、お前ってやつは……」
「こっち見んなてめ〜ら!」
大神が暴れとったのをスルーしてこっちは席につき毅然と再びゲームを開始した。今日からジューンブラインドフェスやねん!
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アドニスくんの喋り方がよくわからん……ごめんねアドニス……。
今日はUNDEADに衣装案を考えてほしいと言われ彼らの元にやって来た。学院でこっちが一番安心する顔ぶれである。学院一背徳的なユニットと名高い彼らは存外優しいのだ。好き。
今回も五人で顔を付き合わせてこっちの持ってきた幾つかの案にあーだこーだとわーぎゃーと意見を出していた。
「この案6の衣装ならここにシルバーのアクセントを入れた方がいいんじゃない? いや、衣装案全体にシルバーアクセント入れる? シルバーかゴールドのコサージュとか。俺達のイメージぴったりじゃん」
『そうっすね……でも案6やと全体的に灰色っぽいんで目立たんのとちゃいます? いっそ黒にしますか? 今回はどれもスーツに似せたんで』
「そうじゃな……黒は今までと被るから灰色のままで、アクセントにブルーシルバーやヴァイオレットシルバーを入れるのはどうじゃ? あと我輩は帽子も欲しいように思う」
「それならジャケットは裾を伸ばして黒色も良くないだろうか。……いや、それだと大神には似合わないな」
「そこは個人の意見でいいじゃね〜か。俺は腰巻きにする」
『ああ、それなら大神のイメージっぽいな、ちょうどエエし。どうします? これでいきはりますか?』
「ふむ、そうじゃなあ。元々の原案に不満は無かったし、これで行こうか」
「お、マジで! やったね!」
衣装決めが終了し、隣の羽風さんがはあああああと長い息を漏らしながら椅子の背もたれへと倒れ込む。こっちは決まった案を避けて原案を纏めてファイルに突っ込み一息吐く。
その間もあああと言い続けてる羽風さんはわりと異常だ、なにかあったのだろうか。みんなして不思議そうに羽風さんを見つめるものだから視線に気づいた彼は「ああ、いや……」と体を起こし煮えきらない態度だ。いつもの憎たらしいほどスパッと爽やかにサボるねーだのカフェ行こーだの饒舌に回る口にしては珍しい。彼は疲れた顔をしてこう言った。
「あのさー、聞いてよー。新しい転校生ちゃん来たじゃん?」
『察しましたわぁ……』
「おー……」
「……言いたくはないが、まぁ、俺にもわかった」
「あぁあの噂の」
「そーそー。っていうか朔間さんまだあの子と会ってないんだ……」
「探しておるようじゃがな」
「まあ、その姫野ちゃんさー。そのときみんなの言ってた噂知んなくて、偶然見かけてお茶でもどー? って誘ったんだよ」
『女好きが仇になった』
違うよーもーとか言いながら頬をその長い指でつんつんつついてきたので頭を叩き、続きを促す。
「誘ったは誘ったで良いけど、その態度が自分は誘われて当然、みたいな? そんな風でちょーっと感じ悪くてねー。しかもうるさいし」
「薫くんはうるさい子が苦手だったかのう」
「そうそう。だから誘ったは良いけどこの子ダメだってなってね。ちょうどそのときレッスンある日だったからさ。忘れてたふりして理由つけて戻ろうとしたんだよ」
「てめ〜最低だな」
「あんずが羽風先輩が来ないとその日嘆いていた」
『あんずちゃんに嘆かせるやなんて……羽風さん』
「ひどい! まあ、その転校生ちゃん、転校初日に誘ったんだけど、その子がいきなり「薫はレッスンよくサボるからそんなわけないの!」とか言い出して困っちゃったよ」
「……どういうことじゃそれは……」
『不気味っすね』
「……ああ」
姫野愛って何者だよ。
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あんずちゃんに対してマメツキはそんなこと思ってません。きっといい子。姫野の頭が破綻してるだけ。
姫野side
私の名前は姫野愛(めぐむ)、愛称はめご。唐突にいっちゃうと私には前世の記憶があって、神様に御願いしてこのあんさんぶるスターズの世界にトリップさせてもらったの!
死因は通り魔に刺された出血死。本来死ぬ予定のなかった私が死んじゃったから残りの寿命をこの世界で過ごすことになったの。もちろん三つの特典だってあるわ、だって私は愛されているもの!
美少女補正に頭脳、そして運動能力! 逆ハー補正も欲しかったけど、この世界で一番彼らを理解している私はきっと自然に愛されるから心配要らない。
でもあんずが同じクラスにいるしで鬱陶しいのよね。私的にはB組が良かったと思うのに。それに何よ! もうメインストーリー終わっちゃってるじゃない! これじゃ記憶の意味ない! とか思うけどこれからのイベントを楽しめばいいわ。この前だって一番推しのUNDEADの薫にお茶に誘われたし、晃牙ともお喋りしたし、アドニスは優しい! 零さんにも早く会いたいな!
そして一つ、気掛かりがあるの。
「んー、次のドリフェスの衣装案、これでもいいけどさー、やっぱりダントツこれだよねウッキー!」
「そうだね! いいよね二人とも!」
「あ、デザインなら私がするよ! 任せて!」
スバルと真が一枚の案を握り締めながら真緒と北斗に聞くものだから、私がデザインすると申し出てあげた。だってそれはきゅうごしらえなんでしょ?
キラキラした視線で問えば四人とも首を振った。
「いおりはUNDEAD以外のデザインを滅多に作らないからな。今回、乙狩に頼んでそのツテで書いてもらったのだ」
「そういうわけで、アイツの書いたデザインは貴重なんだ。出来るだけ使いたいって訳だ!」
「レアだよレア〜! UNDEADのメンバーが同じクラスにいてくれてホントよかった〜」
「そうだよね! 絵に関しての才能有りまくりと言うか、とにかく鬼才なんだよなあ!」
「ウッキーの言う通り〜」
そう、いおりとか言う訳のわからない女。一体何者なのよ。フルネームは知らないけれど、あんずと同じ時期に転校してきたデザイン科テスト生らしい。現在は晃牙と一番仲が良くて、アンデPらしい。あんたプロデューサーじゃないじゃない! と思ったところ、UNDEADの強い希望らしくUNDEADでのみプロデュース可能、それ以外はレアと言われる少数の衣装のデザイン、ポスター等を担当しているらしい。噂で聞くと巨乳眼鏡のようだ。何狙ってんのよ! どうせトリッパーでしょ! 絶対その女を学院から追い出してアンデPの座についてやるんだから!
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いおりside
ぞくりと背筋に悪寒が走る。ふるりと肩を震わせれば零さんが「どうしたいおり」と声を掛けてくれた。
『……や、ちょっと悪寒が』
「風邪か? それなら肉を食べて寝るといい」
『乙狩……心配してくれるのは嬉しいけどな……』
乙狩の反応に若干引きつつ感謝を述べる。隣の席で横から「あのとき声かけなきゃよかったー、いおりちゃーん慰めてー」と後悔しまくりの羽風さんが引っ付いてきてよしよしと宥める。あ、零さんが叩いた。
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レッスン終わりの帰り道。校門を出るまでUNDEADの面々と共に歩いていたのだが、何者かが後ろから突き飛ばして来て、ぐらりとバランスを崩す。とりあえず建て直して、転けると言う事態にならなかったのは助かったが。なんで今押されたんこっち。
後ろを振り返ってみれば、さっきまでこっちが居た場所で、大神と羽風さんの腕に絡まるあの逆ハー狙い。とりあえず四人とも何が起こったかわからないと言う顔をしている。こっちも流石に唖然。ここまでするか普通。逆ハー狙い魂やべー。
『……ガミくん、今こっちなんで突き飛ばされたん』
「知らね〜よ! つーか離せマメ女! 気持ち悪ぃ!」
「ひっどぉい大神くーん! めごがせぇ〜っかく! 来てあげたのにー!」
「誰も頼んでね〜っつーの! はーなーせー!」
必死に腕を振り回す大神と引っ付く姫野の激しい攻防の隅で、がっちり腕をホールドされている羽風さんが震えていた。ちらちらこちらに助けを求めるんやめてもらってエエですかね。
零さんと乙狩? 二人は姫野のド迫力についていけず既に此方の側で待機してます。おじいちゃんは「な、なんじゃこの子は」と訳のわからない生態にわりとビビってる。とりあえず肩を握りしめるのやめてもらって良いですかね、結構痛い。
「どーして私はダメなのにデザイン科の……えーと、最原? さんだけ良いの!? そんなの不公平!」
「不公平以前の問題じゃよ、転校生や。我輩たちはお主とあまり仲がよくないじゃろう」
おじいちゃんの精一杯のどっか行けアピールは「これから仲良くなればいいもん!」と言う発言で論破された。カワイソス。
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上記連載は一旦停止。ここで連載しているほとんどをネタだと思って読んでください。
次は唐突に書きたくなった地縛少年花子くん連載。八尋寧々ちゃんポジションの記憶なし夢主。オチは恐らく花子くん。いずれ絵もあげますが今まで通りのショートカット眼鏡に関西弁巨乳。気だるげ。名前は小原一織(コハラ イオリ)。
次の更新からスタート。
__ねえ知ってる? この学園にある七不思議の話。全部の正しい話を集めると、何かが起こるんだって。知らないの? じゃあひとつだけ教えてあげる。一番有名なお話ね。
“七不思議の七番目 トイレの花子さん”
旧校舎三階女子トイレ、奥から三番目。
そこには花子さんがいて、呼び出した人の願いを叶えてくれる、でも引き替えに何か大切なものを取られてしまうんだって。
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七不思議の噂を聞いた一織は恐る恐ると言ったように旧校舎の三階の女子トイレの扉を開いた。わりときれいなトイレの中で一織はきょろきょろと気だるげな表情で鋭い目の奥の瞳を慌しなく動かす。こくりと小さく息を飲んだ彼女は奥から三番目のトイレのドアをノックした。
「……花子さん花子さァん、居らはりますかァ?」
独特のイントネーションをそのままに、彼女の敬語が響く。そのまま視線をトイレへと集中砲火させていると、ドアがひとりでにギィと開き、そこから手が出てきた。
「はーあーいー」
先程の問い掛けの答えのようで、間延びした声が返ってくる。これには流石の彼女もびくりと肩を震わせ、ばしんと彼女はためらいなく少し青くなった顔でドアを開けた。だが、そこには何もない。
『……なんや、気のせいか』
ほっと息を着いた瞬間、後ろから肩にポンと手を置かれ、「こっちだよ」と囁かれる。思わず『ひっ、』と言う声が溢れた一織を恐怖に歪んだ顔で素早く振り向きその威力を殺さぬまま、遠心力の回し蹴りを叩き込んだ。スカートの中が見えるとかそんなのに構ってなどいられない。だが。ふっとすり抜けたそれに、とうとう悲鳴をあげてしまった。
『うおおおおおっ!?』
「くっ」
色気のない悲鳴をあげると同時に、先程の場所からくすくすくふふと堪えた様なかわいらしい笑い声が聞こえてくる。明らかに少年の声。不思議に思った一織が振り向くと、すぐそばにはくりっとした大きな瞳、左頬に『封』とかかれた紙を引っ付けている一昔前の学ランに学帽の格好をした少年がいた。状況を把握した彼女はキョトンとしたまま眉を寄せ、どうして男子が女子トイレに居るんだと思いながら、彼をよく見てハッとする。
『透ける体、人魂、昔の制服……お前は……』
若干震えた声の一織に少年はにこりと笑い、「俺は怪異さ」と軽く告げ、ひらりと三番目の個室のトイレの貯水タンクに腰を下ろす。
「七不思議が七番目、「トイレの花子さん」。はじめまして」
そう言って彼、『トイレの花子さん』はへらりと笑って帽子のツバをクイ、と下げた。
上はもうネタと認識してくださって構いません。
通り魔に刺されて死んで転生して弱ペダのにょた化した荒北さんに成り代わった女がその世界で健やかな一生を終えてから復活に転生するややこしい話。
とりあえず復活での容姿はにょた北さん。ロングヘアの巨乳にょた北さん。名前は『荒北 いおり』。中学生。行き帰りはもちろんロード、愛車のビアンキちゃん。ソロで大会にも出ており『運び屋』『野獣』などと通り名がついている。一人称『あたし』の喋り方荒北さん。逆ハー主を傍観する感じ。かつ原作終了後の中学三年生のお話。にょた北さんに成り代わる前がオタクだったため知識は健在。てか弱ペダにもあったし。っていうにょた北得設定。クールな美人。京子ちゃん花ちゃんとはお友達かつツナたちとは関わりのないただのクラスメート。前世の影響を受けロードはずっと大好き。
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あたしが通り魔に刺されて殺され目を覚ませば夢小説でありがちな転生してて、転生した世界が大好きな弱ペダで傍観しよーっと、とそう考えていたらあたしは大好きな荒北さんになってて、かつにょたでみんな女の子で戦って年とってようやく安らぎを得られると思ったら再びの転生。絶望したわ。超超絶望的に絶望的で絶望的だったことにとても絶望した。循子チャンは天使。安らかに寝かせろよマジで。
そんなこんなで悟りを一瞬開いた今回は成り代わることもなく再び荒北いおりとして生きていたあたし。しかし中学校が『並盛』で御近所さんに沢田さんいりゃ凍り付いたわ。復活じゃねーかって。とりあえずツナとは関わりなかったし、京子チャン花チャンと仲良くしてりゃいいやと過ごしてロードに勤しむ傍ら、見れるとこだけ原作傍観して特に巻き込まれることなく原作終了。泣いて喜んだらアキチャンに吠えられた。悲しみ。
なんだかんだ有りつつ自分には一切何もなく身構えさせんじゃねーよって内心怒鳴りながらもやっと安寧を得た荒北さんですどうも。いやぁどうもどうも、歓声をどうもありがとう。は? 歓声? 脳内補正だ馬ァ鹿チャンが。
「え、どうしたのいおり?」
『あァ? なァに京子チャン』
「あんた凄むのやめなさい」
『凄んでねーヨ……。で、なァに』
「ううん、いおり、すごく満足そうな顔してたから!」
『マジかヨ』
二人といるときは脳内補正だやいのと騒ぐのやめよ。ばれるわ。こえーマジこえー。
朝の教室の一角(京子チャンの席)に集まってそんな会話を繰り広げていたら、花チャンがそうそう、と思い出したように言った。
「私、聞いたんだけど。今日このクラスに転校生来るみたいよ」
「古里くんの時みたいな人かな?」
『さァ? どーだろうネ。あたしあんま転校生とか興味ナァイ』
「はー。流石『野獣』。やっぱり狼は狼でも一匹狼ね」
「他にも『運び屋』って呼ばれるんでしょ?」
『いやそれチャリの話だからァ』
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転校生云々の話をし始めたら後ろの方の席のボンゴレトリオがバッとこちらを向いた。ちなみにクローム髑髏チャンは一緒に行動する友人である。現在四人で談笑中だ。クロームチャンもむもむパン食べてて可愛い。てか教室のみんなは黒いスーツの赤ん坊いることに疑問抱かんのね。まったくもってわけわからん。見えてないのか。
そんな今年も仲良く何かしらの陰謀すら感じるメインキャラの代わり映えしないクラスでトリオを無視しつつ原作終了しているがゆえのアクシデントに巻き込まれないように花チャンから話を聞く。
「なんでも、女の子のイタリアからの帰国子女らしくて」
「へー! 仲良くなれると良いなぁ」
『そーだネー』
口では京子チャンに同意しつつ、脳内でこれ逆ハー狙い主のトリップじゃね? と目星をつける。目の前で呑気に微笑むメインヒロインとそのお兄さんと交際している黒髪美女を絶対出来る範囲で守り抜こうと傍観に徹することにした。原作終了して先が読めないから巻き込まれたくない。やっぱり可愛いのは自分の身だ。どうだ驚いたか。情けない。前世の荒北さんどこいった。当事者だからか、納得。
そしてやってきた朝のホームルーム。先生の合図と共に入ってきた転校生はツインテの髪と瞳があたしたちの目に痛いドピンクなショッキングピンクの女だった。これ絶対決定じゃナァイ、逆ハー狙い主ジャン。顔付きは普通、体型ちょっと肥満気味のドピンクチャンはめっちゃぶりっこして猫撫で声で告げる。「私ぃ、両親が日本人なんだけどぉ、生まれも育ちもイタリアの帰国子女なのぉ。日本語もちゃんと喋れるから安心して! よろしくねぇ!」まず名前を言え名前を。一番後ろの席の窓際に着席しているあたしが内心即座に突っ込んだのはご愛嬌だ。
固まる教室で引き気味な笑みの担任が「名前名前!」と言うと彼女はこう言った。
「やだぁ、私ったらうっかりぃ〜。私、姫野麗子! 麗子って呼んでねえ!」
きゃぴっとした動作の彼女に一言もの申そう。めっちゃ痛い子だよ。気付こうよ。そしておっちょこちょい狙ってんのか狙えてねーよばーか。
とりあえず、掴みが最悪な彼女は京子チャンをキッと睨んだあと、密集するボンゴレトリオに蕩けるような視線を送る。とりあえずコイツ逆ハー狙い確定だな。
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案の定というかなんというか。代理戦争で吹っ切れたのか、最近ボンゴレ十代目の自覚をし始めた沢田やその部下の獄寺、山本に早速絡んでいた彼女はあの子馬鹿かと横目に流しながら花チャンとクロームチャン下校するため下駄箱に居た。京子チャンは少しツナたちと話をするらしく、校門で待っていてほしいと頼まれた。今日はロードもないし、久々に歩いて帰る。
沢田綱吉。一年や二年の時の様に彼を『ダメツナ』と呼ぶものはもうこの学校には居ない。身長も割りと伸び、元々可愛らしく整っていた顔は成長に連れ逞しく、プリーモの面影を移すまでのイケメンになっていた。それに獄寺や山本の言う『ボス』や『十代目』の呼び名。雲雀さんもわりと話し掛け会話する。
こんなこともあり、沢田に話し掛ける人はあまり居ない。なのでいつものメンツと何ら変わりなく過ごしているのだ。本人はまだダメツナだと思っているようだが。京子との恋路を影で見守っている。頑張れ。
それ故に転校生は奇行種だ。だからと言って関わる気はないが。
あ、京子来た。
「待たせてごめんね!」
『いーよ別にィ。花チャンは知らねェけどあたし急いでねーしィ』
「私もよ」
「よかった〜……あ、ハルちゃんとも待ち合わせしてるの! いおり今日は自転車持ってこないって聞いてたから! 久々に五人でナミモリーヌ行こっか!」
「……!」
「そーね」
『あたし最近行ってねェし、行こっかァ』
「よかったー!」
.
ハルチャンを交えて五人でナミモリーヌに入ると、みんなが一様にショーケースを見つめるので、あたしは『先選んで来いヨ』と彼女ら四人をその場に、あたしは席取をした。
ガラス張りの奥の商店街の景色を眺めていると、ちょっと不安そうな四人が帰ってきた。どした。
『え、みんな不安そうな顔してどーしたヨ。あたしわりと困惑してんだケドォ』
「え、いや、いおりがノリ気じゃなかったらって思っちゃって……」
全員が頷くもんだから笑ってしまった。そんなことナイからァとヒィヒィ笑うあたしに安堵したのか、選んで来なよと背中を押された。とりあえずご厚意に甘えてとミックスベリータルト、ラズベリームースケーキの二つを選んできた。視線を釘付けにして離さなかったのである。くっ。
席に戻ると始まる女子トーク。みんな可愛いなァと眺めていると、不意にハルチャンがあたしを話題に出した。
「それはそうとですね! ハルはいおりちゃんはとてもすごい女の子だと思います!」
「あ、分かるよその気持ち!」
「私も」
「……私も」
『は、いきなりナァニ』
「だっていおりちゃんは気遣いも出来て勉強も出来て運動も出来ますよね! 美人ですし! そして自転車の大会でも必ずトップ! 運び屋や野獣なんて通り名までついてて格好いいです!」
「なんでアンタうちのチャリ部入んなかったのよ? 入部頼まれてたでしょ?」
『……ロードってさァ。一見個人競技に見えて、団体競技なんだヨ』
「えっ、そうなの?」
「そうなんですか?」
『うん、そーなのォ。言っちゃなんだけど、ロードは努力した分報われる訳じゃなくて、生まれ持つ才能的ななんかが必要なわけェ。ペダル回した方が強ェ。でも、仲間との信頼関係とか、時には敵と協力しつつ切磋琢磨して、でも絶対自分が優勝するって想いながら望むんだヨ。でもなんか今は、女子特有の部内の蹴落とし合いみたいのあんじゃナァイ? 部品壊したり盗んだり。あたしそれが嫌なんだよネェ』
「あー」
そう同意する彼女らにわかって貰えたと言う感動的な? なにかが胸を占めるがケーキ食って誤魔化す。『まぁ実力は個人なんだけどネ』と告げるとまぁそうだよねと苦笑いされた。解せぬ。
とりあえず話の途中で店に来ていたボンゴレトリオはもう無視だ。話したことねーし。
『とりあえずあたしの愛車のビアンキチャンは色も形も軽さもオールラウンダー向きでさァ! あたしはビアンキチャンに乗ると、こう! なんつーのォ!? 匂うんだヨぞくぞくすんだヨ! ゴール手前になると、テレビの車も前の自転車もコース取りも邪魔でさァ! どけ邪魔だ道塞ぐんじゃねェって叫びながら足が千切れるぐらいペダル回してスピード落とさず相手に体当たりしてガードレールとか車のミラーに体引っ掻けて威嚇して攻撃して、そんで最後周りに誰も居ないめっちゃ気持ちいいゴール! これ味わうともう嫌でもやめらんねェな! 何回も何回もって体がそのときの興奮を欲するんだヨ!』
「アンタの生傷が絶えないのはそのせいか!」
『っだ!?』
ゴール時がいかに気持ちいいか説明すると花チャンに頭を叩かれた。他三人がキラキラした笑顔であたしを見てるのに、花チャンの目が絶対零度だ。怖い。
「まあ、アンタが『野獣・荒北』って呼ばれるのはよくわかったわよ。アンタは優勝求めて大会出てるし」
『かれこれもうずっと優勝してるヨ』
「すごいですー……。あ、じゃあいおりチャンが運び屋って呼ばれるようになったのはなんでですか?」
『……さァ? 時々あたし、気に入った奴見つけると引っ張ってゴール前まで連れてってあげるんだよネ。引っ張る時も全力で相手のこと考えてなくてついて来れる奴だけついてこいって感じだケドォ。結局優勝はあたしが取るけどそれじゃナァイ?』
「……すごい」
『クロームチャンうちに来ない?』
「やめなさい。まあ、そんなとこじゃないの?」
「いおりすごい!」
『実感はないケドネ』
.
翌日、四人で昼休みに談笑していると、ボンゴレトリオと姫野に京子チャンとクロームチャンが呼ばれ、京子チャンに引きずられるようにしてその場にご参加させていただいた。
『……そー言やァ、三年間クラス一緒なのに今まで沢田チャンたちと話したことなかったよなァ』
「あっ、えっ、うんっ! そうだね!」
あたしがそう言うと沢田が思いきりキョドって目を逸らした。なんだ? と首をかしげると花にこら、と怒られた。
「いおり、睨むのやめなさい」
『マジかヨ。あー、沢田チャンごめんネ。目付きわりーの生まれつきなんだわ、別に睨んでる訳じゃないからァ』
「あっ、そうなんだ」
パッと笑った沢田チャン可愛い。獄寺睨んでくるけど。山本笑ってるけど。姫野射殺さんばかりの視線送ってきてるけど。リボーンが視界の端で笑ってんだけど。
とりあえず、スマホ鳴ってるから見てくるわ、と一旦その場を離れる。突き飛ばそうとしていた態勢の姫野はポカンとしたあとまた睨んできた。別に怖くナァイ。
鞄からスマホ取り出してディスプレイ見てみると、見知らぬ番号。いや、見覚えは有るが、この世界には無いものだ。唖然とディスプレイをつったって眺めていると、一旦切れる。そしてまた鳴り出す。しばらくそれを眺めて、苛立ってきたので通話ボタンを押した。もしもし、よりも早くに。
『さっきから誰か知んねェケド音ぴーぴーうるせェんだヨ! 何回も掛けんな! 痛電してェなら他所でやれっつっーのうっぜえ! マジうぜェ!』
そうしてぶつりと通話を切る、んでから綺麗なフォームで地面に叩きつけた。予想通りなら、相手は前世のうざいアイツだろう。あいつなら、絶対もう一度かけ直してくる筈だ。
周囲が唖然としてるのを横目に、再び鳴り出すスマホを冷静に手にとった。
『もしもォし』
「うざくはないな!」
『やっぱりお前かヨ鬱陶しい』
「鬱陶しくもないぞ! わっはっはっはっは!」
『お前もう超めんどくせェ、クソやかましいんだケドォ。このナルシスト女が』
「ふッ、嫉妬しているのか荒北! 私が美形なのは事実だ!」
『うっぜ』
「登れるうえにトークも切れる! そしてこの美形! 天は私に三物を与えた! 山神、東堂八子とは私のことだ! はーっはっは!」
『自己紹介頼んでねーし耳元で叫ぶんじゃネーよ、このでこっぱち。切るヨ』
「あっ!?」
ぶちっ、と容赦なく電話を切ったあと、思い直して電話を再び掛ける。とりあえず騒がしくなってしまったので屋上に行こう。京子チャンたちに教室を出るとレクチャーすると唖然としたまま手を振られた。
全部東堂のせいだ。
.
また新しいのを書きます。
以前に、多分ここかトリップの方でゲムポケの男主人公たちのにょた化ハーレムのネタを乗せた気がします。それに女の子主人公を混ぜ、舞台を復活の並中にしてーって言うのを唐突に書きたくなりました。ネタです、嫌だと言う人はUターン!
レッド、グリーンはシブレ、シブグリで以下の六人はポケスペでブルー、ゴールド、シルバー、クリスタル、ルビー、サファイアまでが登場。みんな適当に漢字にしてます。レッドなら『頂 赤色(いただき あかいろ)』、グリーンなら『大木戸 翠(おおきど みどり)』など。
ブルーは『色盗 蒼衣(しきとう あおい)』、色っぽいし盗みは得意な女の子なので。ゴールドはゲムのヒビキから取って『黄金 響(こがね ひびき)』。
シルバーは『榊 銀(さかき しろがね)』。親がサカキなので。しろがねはしろがねでも白銀と銀に迷った。
クリスタルは『栗水 晶(くりみず しょう)』、クリスとクリスタル(水晶)から。
ルビーが、ルビー……コイツむずい……。『紅玉 悠季(こうぎょく ゆうき)』でどうでしょう、ユウキはゲムポケから借りました。女の子にユウキは有り。有りったら有り。多分ユウキだったはず……コウキだったかな……? それはシンオウの子か……? 紅玉はそんままのルビーです。
サファイアが『織田巻 藍(おだまき あい)』。これしかないと思いました。
みんなニックネームがレッドやグリーンなどの元のものです。
そして男主。黒髪黒目。眼鏡は無いですが名前は『最原いおり』。名前またおんなじかよと思われた方もおられるでしょうが、暇なときに見てやって下さい。
並盛中学校三年生の柔道部の部員。わりといけめん。気付かないハーレム体質。レッド、グリーンとは同い年の幼馴染み。一個下の後輩にゴールド、シルバー、クリス(三人とも沢田と同じクラス)がいて、その下の学年にルビー、サファイアがいる。みんな美少女なのでそんな友達がいる俺勝ち組とか思ってるクソ鈍感。実は雲雀とおともだち。雲雀はおともだちなどとは決して認めないが、応接室でレッド、グリーンも交えてお茶する中。
見た目怯えてしまうほどの近寄りがたいぐらいクールなのに、喋るとわりとフレンドリー。
笑顔で柔道の投げ技する人。
時間軸は原作終了後。
**
朝、そう朝。小鳥のさえずり、小川のせせらぎ、そんなものがあれば俺は不気味で飛び起きるだろう。なんたって俺は白と黒でシックに纏めた普通の部屋で睡眠を取っているのだから、万が一にもそんなもんない。あってたまるかこのやろう。
そんなわけで俺はいつも通り、腹に重みを感じながら目を覚ます。そして目の前にはちょっと焦ったような、咄嗟に作った感じの美少女の笑顔。ギャルゲーならここで慌てたりするもんなんだろうが、悲しきかな、もう慣れたわ。
『……おはよう、グリーン』
「えっ、反応うすっ!」
極限まで顔を近付けていたらしいグリーンは俺の顔の横についていた手をのけ、俺に跨がった態勢のまま「つまんなーい、もうちょっと楽しい反応見せてくれると思ってたのにー」と俺の腹に手をついてゆさゆさと揺れる。おお、胸が揺れる揺れる。絶景かな絶景かな。あいた、頭を叩かれた。なんて理不尽な。
そしてなんで俺の部屋に居るんだとか色々言いたいがどうせ母さんが入れたに決まってる。とりあえず短いそのミニスカートで跨がると見えるぞと注意すると「短パン穿いてるし!」とスカートを捲った。思わず残念な視線を送ったのは仕方ない。なんで下穿く、なんで下穿いた。
『もうちょっと学校のさ、お前のこと気になってる男子にサービスしてやれよ、俺じゃなくて。プロポーション抜群の美少女なんだから』
「見せてあげる義理なんてないもーん」
コイツ幼馴染みだからって俺のこと絶対男として見てないわ。
グリーンをそのままにむくりと起き上がるとグリーンが転がってベッドの下に落ちる。なにすんのとかほざいてるが知らん。そのまま制服へと着替えを済ませるとグリーンが「女子の、女子の目の前で着替えなんて……!」と目を両手で押さえながら指の隙間からこちらを見ていた。見てんじゃねーかよ。まぁ毎度のことである。ほっとこう。
そんなことを考え、荷物を持って部屋の扉を開けた。
.
開けた瞬間、ゴッと扉の奥で何かにぶつかる音がした。見ると額を押さえて震えるレッド。え、レッドごめん。
数秒その場で震えた彼女はおもむろに俺へと抱きつく。相当痛かったらしい、ううと唸りながらぐりぐりと黒髪ロングを揺らして頭を押し付けているのでとりあえず撫でる。キューティクルサラサラ過ぎかよレッド。後ろでグリーンが「レッドどしたの!? 大丈夫!?」と俺の背中をどついている、いてててて。本気のグーで殴るな本気のグーで。どけってことかおいこら。相変わらずグリーンの中のヒエラルキーは俺よりレッドの方が上らしい。いや、同じか……?
パッと顔をあげたレッドはグリーンに「……大丈夫」と告げた。あ、どつくのがおさまった。
『さっきすげえ音したしな……でこ赤くなってるな、レッド』
「……大丈夫」
ふるふると顔を横に振って大丈夫を表現するレッドにそうかと苦笑いしてから、どうして扉の前になんて居たのかを聞くと、俺が着替えを始めたかららしい。なんだこのいい子。律儀か。
レッドが俺の着替え途中の上半身裸の写真を隠し撮りしていたことに気付かずに頭を無言で撫でる。レッドがグリーンと親指をたてあいサムズアップしていたことには気付かなかった。
レッドが抱き付いて離れないのでそのまま歩き出し、階段に差し掛かると後ろからグリーンが突撃してきて危うく落ちるところだった。咄嗟に手すり掴んで良かった、ほんとよかった。
幼い頃から可愛いな綺麗だなと思っていた幼馴染み二人だが、中学に入ってからその頭角をぐんぐん見せ始めた。レッドは大和撫子的なおしとやかなしかし目付きの悪さと無口さからか近寄りがたいミステリアスな雰囲気を放ち、なんかもう俺たち幼馴染みとよく知る友人にしか近付かない人見知り。
グリーンは化粧をバッチリ決めてくせっけの地毛である茶髪をポニーテールにしている。すっぴんでも可愛いが。こちらはめちゃくちゃ明るくやればできてしまう天才型なので常に周囲に人がいる。
対照的な二人だが、お互いがお互いのことをめちゃくちゃ大切に思っているので基本二人で一組と言うか、どこにいくにも一緒だ。そこになぜか俺も含まれているのだが。ううむ。
家を出て二人に挟まれながら歩く。家は学校に五分で到着する距離、急ぐ必要は皆無。そして周囲の生徒からの羨望の視線なんてもう慣れたもんだ。どうだ羨ましかろう。
校門に差し掛かると、風紀委員の草壁が見張っていた。それに三人各々おはようと言うとおはようございますと仰々しく頭を下げられた。レッドがビビって跳ねるように腕に飛び付いてきたので早足でそこを抜ける。グリーンお前もか。
教室に入ると流石に席が近いわけでもないので離れる。レッドとグリーンはお互い隣の席で、通路側の一番前の席。俺は窓側の一番後ろの席。先生あれですか、美少女二人に囲まれてる俺を妬んだんですか。すいません言ってみたかっただけです。くじ引きは運でした。
がたりと席に着くと前の席のデンジが振り向いた。
「……うざい」
『は、俺が?』
「マツバ……」
『マツバちょっとこっち来い、デンジがなんかほざいてるから』
「ほざいてねーよ」
レッド、グリーンの後ろの席の春夏秋冬マフラー巻いてる金髪にバンダナのイケメンを呼ぶ。最初は首をかしげていたが、デンジのことだと分かると笑顔でパタパタとこちらにやって来た。
『マツバお前、今度はどんな話をデンジに聞かせたんだ』
「うん、えっとね。僕の家に置いてある髪の毛の伸びる日本人形の僕の家に渡ってきた経緯をね」
『……お前なんでそんなもんしってんだよ』
「あはは」
へらりと笑ったマツバにぞわりと鳥肌が立つ。一体誰に教えてもらったんだよぉマツバよぉ。全部聞かなくて良かったと思うと同時にデンジに少し同情した。お前いっつもこんなんきいてんのかよ……。
.
noside
翌日にレッドとグリーンは2年のとある教室を訪れていた。もちろんゴールド、シルバー、クリスにとある写真を渡すためだ。
とある写真とは。以前にグリーンがイオリの気を引き、レッドが隠し撮りをしたことがあっただろう。それだ。
「おーいゴールド、シルバー、クリスー」
「……写真、出来た」
元気に笑顔で彼女ら三人を呼ぶグリーンと、そのグリーンの服を摘まんで後ろに隠れるように姿を表したレッド。何度でも言おう、二人は美少女である。そして今から来る三人も群を抜いて美少女だ。
身長も三人の中では一番高く、今後出てくる女の子の中でも一番胸の大きな爆発している前髪でショートカットのゴールド。
髪を二つ括りにしつつもその毛先は真上をみている、委員長が似合う真面目なタイプのクリスタル。
二人の幼馴染みであり、一人称が拙い「おれ」でありレッドと同じ程度の貧乳のセミロングの赤い髪が特徴のシルバー。
三人のうち一人は嬉しそうに、うち二人は複雑そうに二人のもとへ行くのだから教室は静かになる。沢田綱吉らボンゴレトリオ、シモンの炎真もそこに釘付けだ。
五人は静かになっていることなど気にせずにきゃいきゃいと会話をしだす。
「……前に言ってた、写真」
「えっ、マジスか!? もしや!?」
「そうそう! 成功したんだよね!」
嬉しそうな表情の二人と少し緩んだレッドにみんなが耳を傾けるのは当たり前と言える。
そんな三人にクリスタルとシルバーが物申した。
「……でも、イオリさんに悪いんじゃあ……」
「いくら男と言えど、バレたらヤバいだろ」
「……要らないの?」
「「いりますけど……」」
物申した時の顔のまま平然と言ってのける二人にやっぱりな、とゴールドが腕を組んでうんうん頷く。やっぱり好きな人の写真は欲しいのである。
そうして三枚の写真を手渡したグリーンたち二人は、一年の教室へと向かっていった。
三人はというと達成感溢れる顔で京子たちの元へと戻っていった。
「ねえねえゴールドちゃんたち、さっきの三年の頂先輩と大木戸先輩だよね?」
「おう! そうだぜ!」
「一体……先輩になんの写真貰ったのよ」
花の言葉に三人は顔を見合わせ、「イオリ先輩」と口を揃える。驚いた顔の二人は「なんで?」と問う。
「あー? 何でって言われてもなぁ? なぁクリス、シル公」
「そうねぇ……そんなの決まってるわね」
「ああ。おれ達五人、イオリ先輩が好きなんだ、仕方ない」
腕を組んで平然と言ってのけるシルバー達に、目を見開いた二人は五人って、と思いつつ「最原さんって、ガード固いんじゃなかったっけ?」と疑問をぶつけた。
「……そんなことはない」
「おうよ。イオリ先輩自体、ガードガバガバだぜ? すげー無防備だな。前に先輩のお母さんに挨拶して家に入ったときもイオリさん「え、ゴールドいらっしゃい」で終わったしな」
「まぁそんなイオリさんだから、主にレッドさんとグリーンさんが片っ端からガードしてるのよ」
「ああー……」
.
俺は今、右頬に湿布を貼りながら2年の教室に訪れている。こんな俺でも一応保健委員の委員長として活動しており、同じく保健委員のクリスにプリントを届けに来たのだ。
俺が来たことで多少二年生の教室がざわめいたが見慣れない三年生が来たからだろう、慣れたわ。
中を覗くとクリスがちょうど側に居たので助かった。その奥でゴールドがそわそわしてたが後でかまってやるからじっとしてな。あ、男子三人が側にいる。茶髪の重力に逆らった髪型のかわいい顔の子と銀髪の不良イケメンと有名な山本だ。このクラスだったのか。
『クリス』
「んきゃ!? えっ、イオリさん!? あ、だからそわそわしてたのねゴールド!」
「えー」
『クリス、ゴールドは一旦ほっといて俺を見ろ』
「えっ、えっ」
「ちょ、先輩酷くないっすか!?」
ぱたぱたと寄ってきて俺の腕に飛び付いて「ねー先輩そこんとこどーなんすかー」とやかましいゴールドをとりあえずそのまま放置し、クリスと向かい合いながらプリントを取り出してそちらに視線を向ける。
『これ今日配って明日回収な』
「……え、あ、はい! でも早くないですか? 今日配って明日提出なんて……」
『俺が忘れてた』
「えっ」
『俺がもらってそのまま一ヶ月忘れててな。昨日回収だったみたいでいつ出すんだってヒバリに殴られた』
「ああ、それで頬を」
『その話に触れてくれるなよ……。まぁ明日までにしてもらったから、早めにな。頼むわ』
一時もプリントから視線を逸らさず言い切り顔をあげるとクリスがこくこくと勢いよくうなずいた。クリスえらい。超えらい。
『そんじゃ、俺次で最後だから行くわ』
「えっ、あたしに関しては本当にスルー!? 酷くないすか!? えっ、マジで!?」
「最後……? 誰ですか?」
「あれっ、クリス!? あ、あたしも気になるんすけど!」
『最後はブルーだ』
「「えっ」」
クリスとゴールドが「そう言えばあの人保健委員の副委員長だった」と思い出したらしい。まぁぴったりだよな、ブルーは。アイツホント中学生かよ、ってな色気っつーかフェロモン出すから生殺しだわ。逝ってくる。
あれ、そう言えば。
『……シルバーは?』
「男子からの呼び出しー。シル公ってばモテるんだから! さすが、血は繋がってないけどブルー先輩の妹、モテる、モテるわー。いつか彼氏作ってきそー」
「二人揃って美人ですもんね」
『はー、あそこの義理姉妹ヤバいな』
「その点あたしは? シルバーと違って? うん……あ、や、その、えーと、うん、あーっと、い、いお、イオリ先輩ひとす「イオリさん時間大丈夫ですか?」クリスてめえこのやろ」
『あ、ホントだヤバいな』
目の前でゴールドとクリスが「人がせっかく……!」「抜け駆けさせるわけないでしょ?」と会話しているが二人ともシルバー大好きなんだな。
それはそうと時間もヤバいな……。早く行かねば。と思った瞬間ケータイ鳴るとかどうなってんの? 絶対ブルーだ。出ないと言う手もあるがそれはあとが怖いからやめとこう。渋々出る。
『もしも』
<イオリーーー!? 今どこーーー!?>
『うるっさっ!』
あまりの声量に咄嗟に耳から限界までケータイを離す。
<全くー、早く来なさいよね! レッドとグリーンカンカンよ!? イオリイオリってうるさいんだから!>
『待てなぜそこに必死で撒いたそいつらが』
<……てへっ☆>
『ブルーてめこのやろ』
<早く来ないとアンタの寝顔写真ばらまくわよ>
『おいいつ撮ったてめえ。いつ俺の部屋に侵入した、この詐欺師』
「……うふっ、二分ね♪」
ぶちっと連絡を切る。アイツあれだ、やる気だ。
『……二分で保健室来いって言われたから逝ってくる』
「死なないでくださいね」
「イオリ先輩とブルー先輩が保健室!? ダメだダメだ! あたしも行く!」
『目的は?』
「寝顔写真っす! あ、やべ」
元気よく挙手して答えたゴールドの返答に、瞬間俺は真顔でその場を飛び出した。
現在、俺とグリーン、ブルーはヒバリを抱えて猛スピードで逃げるレッドを追い掛けていた。
『おいこらレッド!! 待てって!』
「……や」
気を失っているヒバリを小脇に抱えて全力疾走して尚息切れすらせず涼しい顔の小柄なレッドはその黒く長い髪をなびかせながら首をふるふると横に振った。
『とりあえず廊下は走っちゃいけません!』と二年の教室に向かう階段を駆け降りながら言うと、レッドは神速のごとき速さで姿を消した。
追い付けるわけない。実はレッド、運動神経等はもう人間の域を越えていると言って良いほど素晴らしい。もうオリンピック出ろお前。足も速く、俺が追い付けるわけもないのだ。
隣で激しく息を切らすグリーンは「ここ、廊下じゃな、階段!」と絶え絶えに言い切る。ブルーは隣でへたりこみながら天井を仰ぎ、「グリー、ン、問題は、そこじゃない、わよ」と突っ込む。
俺も中腰になり膝に手をついてぜえぜえ言ってると、背中にどんっと衝撃が襲った。しかも柔らかいものもおまけと言うように二つ。
しかし反応できるほど俺今元気じゃない。そのままどべしゃと倒れるとグリーンとブルーが「「イオリーーー!?」」と叫び声をあげた。
ちなみに俺の背中に突撃してきた本人はというと。
「あ、ちょっとちょっとせんぱーい? こんくらいでへたってちゃダメじゃねぇすかー、ほらイオリ先輩頑張って!」
『……ゴールド』
倒れた俺の首に腕を絡めて顔をぐいと近付けたゴールドに本当なら何か言うべきなのだろうが、もう俺疲れてるんだ。
そのとき、「し、知らない先輩がゴールドちゃんに襲われてるー!?」と少年の声が響く。俺がそちらに顔を向けると、俺を指差し驚愕している少年三人と何考えてるか全く分からん赤ん坊とわなわなと震えるブルー、シルバー、クリス。そして無表情で腕を組んで俺を見下ろすグリーン。威圧感ぱないんだが。とりあえずゴールドをどうにかしてくれ。
『……誰か、ゴールド退けてくれ……重い……』
「おもっ、あたしそんなに重くねぇんすけど!!!」
『どうせあれだ、栄養が脳みそに行かなくてただひたすらむn』
「い、イオリ先輩の変態! 鈍感! 黒アスパラ!」
バシンと頭を叩かれ、駆け出したゴールドを見る間もなく、バンと叩かれた反動で地面に叩き付けられた俺の顔。
最早顔を上げる気にもなれずそのままでいると、何か俺を中心に赤い液体が広がっていく。それを見たクリスとシルバーが慌てて助けに来てくれた。
「きゃあ! イオリさん鼻血で顔が血濡れに!!」
「あら、保健室かしら?」
「ねえさん、やめてくれ。この人委員長だ」
「そうだったわね!」
『俺もう立ち直れない』
なんだコイツら、とクリスに貸してもらったタオルで顔を拭っているとグリーンがぱんぱんと場の雰囲気を戻すように柏手を打った。
「そんなことより!」
『……あれ、俺そんなことよりで終わる存在だったか?』
「レッド優先なの分かってイオリ、ヒバリさらわれてんのよ」
『うっす』
マギにFTのジュビアがトリップする話。シンドリア中心。原作前。煌帝国の原作前の白雄さんたちが生きてた頃の話もいずれやるはず。
なぜシンドリアかと言うとあれです。ヤムライハ居るじゃないですか。あの子水魔法得意なのでジュビアはわりと気が合うんじゃないかなって。安直か。
ジュビアはフェアリーテイルは完結後。つまりグレイと良い感じ。フェアリーテイル無事にハッピーエンドで終わって良かった……ありがとうフェアリーテイル。ありがとうヒロ先生。最終話の大団円は笑った。感動をありがとうヒロ先生。グレジュビのもどかしい恋愛模様をありがとう。神かよヒロ先生。
ジュビアの一人称は「ジュビア」ですが、ジュビア視点の時は「わたし」となります。ジュビアの服のイメージはタルタロス編から一年後のアヴァタール教団の時のもの。
それは突然だった。相変わらずヤムライハが研究に没頭し、実践し、煙をあげた時。
「けほっ、けほっ」
ヤムライハはこの時生物を召喚する魔法の試運転を行っていた。水蒸気のような煙が部屋を包み、蒸せ返る彼女に、轟音を聞いて光の速さで訪れたジャーファルと興味本意で着いてきたシンドバッドはまたかと片や眉をつり上げ、片や快活に笑う。
「まったく……! ヤムライハ! あなた、今回は何をしでかしたんですか!」
「まあまあ、落ち着けジャーファル」
ぐちぐちと言い出すジャーファルを笑顔で宥めたシンドバッドにヤムライハは「すみません」と一言謝罪した。
「生物を召喚する魔法陣で……今回もやはり失敗してしまいました……」
はあ、と意気消沈とばかりに肩を落とすヤムライハに「また挑戦すればいいさ!」と爽やかに笑ったシンドバッドはふと、煙の晴れたその魔法陣を見て動きを止めた。
続けてジャーファル、ヤムライハと続けて視線をそちらにやると、そこには実践前にはいなかった水色の髪に帽子をかぶった女が横たわっていた。
**
温かな光に当てられ、不意に意識を浮上させた。ぱちりと伏せていた目で瞬きすれば、そこは消毒液の匂いがする医務室で、慌てて体を起こす。
どうやらここは窓際のベッドらしく、柔らかな日射しが差し込み、少し目を細めた。
ふとどうしてここに居るのかと考えだし、意識を失う前の記憶がまったく無いことに気が付いた。一気に不安になるも、まぁとにかく今のところ害はないし大丈夫だろうと安堵する。フェアリーテイルの人間ならではの思考である。
わたしが起きたことに気が付いたのか看護師さんが血相を変えて「ここで待っていてくださいね!」と部屋を飛び出していった。せめてここがどこなのか聞きたかったのだが、まあいい。
しばらくしてから姿を見せたのは、身に纏う七つの金属の部類を日に反射させる紫色の髪の男とクーフィーヤをかぶったそばかすのある男、そしてわたしより明るい水色の髪の女性だった。
「いきなりすまないね。体は大丈夫かな?」
『……え、あっ、はいっ。大丈夫です』
紫色の髪の男性に優しく微笑まれながらとう問われ、こくこくと顔色も変えずに頷く。
とりあえず、これは一体どういった状況なのでしょう。そう問い掛けると、そばかすの男性が少し目を逸らし、紫色の髪の男性が少し真面目な顔つきで話を切り出した。
「その前に、自己紹介をしておこう。と、なると……まずはお前からだな!」
「……ジャーファルと言います。ご紹介に預かりまして、私はここ、シンドリア王国の財務官をしております」
「私はヤムライハよ、よろしくね」
「そしてこの俺が、『シンドバッド』だ」
『……ジャーファルさん、ヤムライハさん、シンドバッドさんですね。わたしはジュビア・ロクサーともうします』
浅く上体を倒してお辞儀をすると、彼ら三人は目を見開き、「やはりシンの仮定はあっていたのですね」とジャーファルさんがヤムライハさんと耳打ちをする。
少し首をかしげて疑問を口に出す前に、シンドバッドさんが言葉を発した。
「唐突ですまないが、どうやら君は異世界からやって来たようだね」
『……えっ』
「実はね、ヤムライハが生物召喚魔法の試運転を行った際、君が現れたんだ」
『はあ……』
「それもあるが、第一に俺の名前を聞いて反応しないのがまず可笑しいんだ」
ますます訳がわからなくなってクエスチョンマークを飛ばす。いや、何となくは分かっている。ヤムライハさんの魔法に巻き込まれてここにいると言うことだろう。しかしなぜこのようなことが言い切れるのか。
「俺はここ、シンドリア王国の国王にしてかの有名なシンドバッドの冒険書の本人、『七海の覇王』と呼ばれている」
『っ!? お、王様だったのですか!?』
慌てて失礼しました、と頭を下げると焦ったように頭をあげてくれと返ってきた。
確かにそうだ。そこまで有名な人なら、知らなければ異世界から来たと認識するはずだ。フィオーレのことを聞いても知らないようだし、決定的だろう。
いつもの飽き性発動……。
次はネギま!→マギです。
ネギま!(マギのパラレルワールド的な存在と思ってくれていい)のシンドバッド♀が煌帝国にトリップ。
ネギま!は三年卒業原作終了のすぐあと。高校生に上がったよ。っていう
設定↓
七海 シン(Shitikai Shin)
麻帆良学園高等部一年。元3年A組18番でネギ先生の教え子。クラス一の巨乳で男前。ネギのようにおおっぴろげではなく水面下の戦いがクラス内で繰り広げられる程度には人気。
生まれた瞬間いきなり天変地異が起こった。二歳から魔法と触れ合う。五歳で父を亡くし、翌年母を病気で亡くした。その年に近衛学園長に引き取られ麻帆良学園都市にやって来た。11の時に完全独自呪文(オリジナル・スペル)((所謂『魔装』))を完成させ、友人のエヴァのよしみで別荘を使わせてもらい、12で完全習得した。マギア・エレベアをエヴァから会得。基本マギア・エレベアしか使わず、水、雷、炎をメインウェポンとして使っている。ネギに使い方を教えたのはこの人。メインウェポンに水があるからか名字と掛けてか『七海の覇王(ななかいのはおう)』と言う呼び名がある。
ヘマしてネギに惚れたが、手を出すつもりは一切なく、想いを伝える気すらない。クラスで村上に続き唯一ネギとキス、又はパクティオーしていない。
敵からは『第一級特異点』として見られている。
髪の色は紫。原作のシンドバッドの髪型に近いが肩に着くか着かないか程度の長さ。目は金色。身長はわりと高く、いんちょよりちょっと高いくらい。クラスNo.1の胸の大きさ。ちょっとむちっとしてる。顔はきりりと凛々しく艶めかしく整った美人。眉毛は太め。喋り方はシンドバッド。
.
シンドバッド♀主。イメージ画。服装は制服ではなく私服設定。
https://ha10.net/up/data/img/21452.jpg
私、七海シンは現在見たこともない町中に居た。
先程まで私は、世界を救った英雄として飛び回るネギくんと共に護衛と言う名目で……ああ、思い出した。ネギくんと共に魔法界のいろんな政治的場所をネギくん、あやかちゃん、アスナちゃんたちと顔を出していたら不意に私めがけて魔法が放たれて、後ろにネギくんたちもいたから避けるわけにもいかず、そのまま……。なるほど、わけのわからない魔法でどこかに飛ばされたと。そういうことか。整理してみると潔く納得出来た。
とりあえず異空間から認識阻害ローブを取り出し、バサリと頭まで羽織る。よく見るとみんな中華風の服を来ていたので全然違う服装は目立つだろうと言う理由だ。なんだか中3の最後の夏休みの出来事のようで懐かしい。
一体ここはどこなのか、皆目検討もつかない。今までネギくんたちと現実世界、魔法世界と様々な場所を巡ったがこんなところは初めてだ。
「おっ、お嬢ちゃん! 見たとこ異国から来たね? 桃まん一個サービスだ!」
『ああ、ありがとう』
なぜか言葉も通じるし。桃まんを受け取り、受け取り様『改めて聞きますが、ここの国名はやっぱり……』とあたかも確認のように聞いてみる。
店員はニコニコ笑って「そうさ、ここは世界に轟く軍事国家、煌帝国だよ!」と快く教えてくれた。なん……だと……?
『やっぱりか! 教えてくれて感謝しよう店主!(……聞いたことがないぞ)』
「ああ! 楽しんでってくれよ!」
『ああ! 言われずともさ!』
店主と別れ、桃まんをかじりながら先程聞いたことを考える。煌帝国……世界に轟く程の軍事国家なら麻帆良にもその名が聞こえているはずだが、私は全く聞き覚えがない。となると、ここは現実世界でも魔法世界でもない、異世界ということになる。なんだ、帰るのが難しそうだな……。
ぱくぱくと予想以上に美味しかった桃まんを食べきり、さてこれからどうしようかと言うとき、何かにつけられている気配がした。
はあと溜め息を吐いてから、近くの森を目指す。
「あらお嬢ちゃん、観光かしら?」
『はい、ここは良いところですね』
「そうでしょー?」
すれ違い様に声をかけてきてくれる人が大勢で頬が緩む。さて、そんなことはさておき、近くの森へ出た。パッと後ろを振り向いて声を掛ける。
『コソコソしていないで、早く出てきたらどうだ? それ相応の場所に連れて来てやったんだからな』
ローブで顔を隠しながらそう言うと、パッと出てきたのは、全体的に黒い男。黒く長い髪はたっぷりとした三編みにされ、黒いアラビアンな服装に身を包んでいる。そして、周りに飛ぶ鳥のような蝶のような黒いそれ。
男は愉悦の笑みと真剣な表情をないまぜにした顔をして気付いてたのかよと頭を掻き、私に「なあ」と口を開いた。
「……お前、なにもんだ?」
『どういう意味だ』
「お前の気配、俺の知ってる奴とそっくりなんだよ」
それに顔をかしげてどういう意味だと本格的に分からなくなってきた。
首をかしげたため揺れるローブの中で腕を組む。さて、どうしたものか。
『私の気配とそっくりな人物が居るのか?』
「……ああ。『七海の覇王』と呼ばれる男、シンドリア王国のシンドバッド王にな」
『……へえ』
口の中でなるほどな、と言う言葉を転がす。ここは異世界で、この異世界にも『私』と言う別人がいると言うわけか。分かりやすく例えるなら、ハルナちゃんに読まされたフェアリーテイルのジェラールとミストガン的な。
「もう一度聞くぜ、女。お前、なにもんだ?」
『……私は』
ぱさりとローブを下ろし、それにより驚愕に染まる彼の顔を影なく見る。
『七海 シン。君の知る男とは別人だ』
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とりあえず載るかテスト。
載らなかったので普通に
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黒い彼はジュダルと言うらしい。彼は言った、顔もわりと似ていると。髪の色とか、太い眉とか凛々しさとか。
本当に苦笑いしか浮かばない。二つ名の『七海の覇王』まで同じとは、まったく訳がわからずに理解ができてしまう自分が恐ろしい。あれ? おかしくね?
「そんだけそっくりだと、間違えられて命狙われてもしゃーねぇぞ」
『マジでか!?』
背を向けていたジュダルに思いきり振り向いてもしかしてローブ正解!? と問い掛けるとにやにや笑われ頷かれた。気付かぬうちの最善策……!
教えてくれてありがとう、と伝えて去ろうとしたら「バトルやろうぜ!」と好戦的な顔をされた。
『は?』
「行くぜ!」
『うわっ、来るな!』
空に浮かびながら氷の柱をいきなり降らせてきた彼になぜ私が戦えると言う根拠があるのか。疑問に思ったがシンドバッドとやらと似た戦闘力だと理解したのだろう。うわ、こいつ鋭いぃ……。
降ってきた氷柱をバク宙やバク転でかわし、舌打ちしてからその氷柱を蹴ってジュダルの所まで飛び上がる。そのまま腕を引いて拳をぎゅっと握る。
『悪く思うなよ、ジュダルくん』
「っ、」
私は長いと自覚している自分の足を振り上げ、ジュダルの顎を蹴りあげた。拳はフェイクだ、関係は皆無。ひゅるると風を切りながら落ちていくジュダルくんの体を抱え、そのまま着地する。とりあえず近くの木の幹のところに寝かせておこう。
『さて』
シンドバッドに興味を持った。シンドリアに向かおうか。うんそうしよう。もとの世界に戻る術を探しながらのんびり旅をしようか。
結局、ジュダルくんが何者か分からず仕舞いだったがいずれどういう立場かを理解できるときが来るだろう。
よし、となれば出発だ。もとの世界に戻る前に一目でいい、こちらの世界の私を、シンドバッド王を謁見してやる。
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先に言っておこう……これは『シンドバッド夢』である……!
そうして旅を始めた私は、ローブを被り、顔を紙で隠した。顔を隠す種族とでも言えば大抵は詮索せずにしてくれる。
時にキャラバンにのり、馬車に合いのりさせてもらい、マギア・エレベアを使って空を旅し、現在シンドリア行きの船に乗っている。
シンドリアとはいわゆる島国らしい、年中暖かい気候で貿易国。現れる南海生物をシンドバッド王かその部下、八人将が倒し、『謝肉祭(マハラガーン)』と称して海の恵みに感謝し国をあげての祭りを行うらしい。よく考えれば国民に南海生物への恐怖をなくさせるためだと言うことがわかる。良い王だ。そして、私と性格まで似ているのなら、私の場合はクラスの友人たちやその他の仲間を守るためなら、彼ならきっと国を守るためなら汚い手だって使うのだろう。そう、守るためなら、他国だって殺人だってなんだってする筈。彼はきっと善悪の分かる人間だ。私は、もう守るために人間を棄てたからなあ……。ネギくんよりもエヴァ嬢に近い存在だろうな。先祖が魔法世界のとある巫女国の王で良かった。アマテルじゃないけど。
「シン! シンドリアが見えたぞ!」
『!』
名前が呼ばれてパッと海の方を見ると、うん、確かに見えたな、シンドリア。王とはそうそう出会えるものでもないようだが、シンドバッド王は国民と近しく楽しげに酒を飲みに来ることが多いようだ。運が良ければ一ヶ月と滞在することもないだろう。ただの観光客が似た顔だった、とも言えるが似た顔がいれば成り代わろうとする輩とも理解はできる。シンドバッドの冒険書に書いてあったジャーファルと言う男は確実に後者と考える筈。出る杭は打つに限るからね。
『おお……!』
鮮やかな青い海、白い砂浜、ここからでも賑やかだと伺える海辺の商店街。とても移民国家だと思えないもど、様々な種族が笑顔で生活をしている。アリアドネーも多種多様な種族がいたが、女子のみで一歩そこを出たら奴隷として狙われることも多かったらしい。ここはなんて天国だ。『夢の国シンドリア』とはよくいったもんだ、ぴったりじゃないか。南国の楽園だろう。
その瞬間、視界が揺らぐ。がったんと大きな音を立てて船が揺れたらしい。船の端にちらつくタコのような触手になるほどこれが南海生物か、と宙に放り出されながらふむふむと感心する。
ごうごうと風を切って落下する先は運良く海だ。この高さなら常人は死ぬだろうが私はきっと死なない。いざとなればマギア・エレベアを使うがこれは本当に最終手段になるだろう。きっと怪しまれてここに居れなくなる。
落ちていると言うのに冷静な思考回路は本当に、昔からの父との別れとエヴァ嬢の特訓とあの夏の出来事でこういうことに慣れてしまった。嫌な慣れだ。
片手でばさばさとはためくローブのフードを押さえて衝撃を待っていればバッと気持ちの悪い浮遊感が無くなった。そう、これは、誰かに横抱きにされた時のそれだ。
その瞬間、ドクリと心臓が大きく跳ね、不自然な衝動を体が襲う。
ハッとして見上げれば、そこには私と同じ菫色の髪が私と違い長くはためき、私より太い眉は凛々しく、黄金に輝く瞳は全くの同じもの。
見つけた、コイツがシンドバッドだ。本能が激しくそうだと主張して少し苦しい。
彼も、訳のわからない衝動に襲われたらしく、大きく目を見開いて驚いたように私を見つめた。
ゆっくりと収まるそれに息を吐いて、彼に安全な地に下ろしてもらう。
『すみません、ありがとうございました』
「……君は」
「シン様!」
彼は私に何かを言おうと口を開くも、緑のクーフィーヤを被った青年に呼ばれて行ってしまった。
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※原作五年前。
『謝肉祭(マハラガーン)』と言う宴が始まった。今回現れた南海生物はアバレオオダコと言うらしい。倒したのはヤムライハと言う艶やかな水色の髪と惜しげもなく出された眩しい肌色と綺麗な美しいに一瞬「ほう」と目を煌めかせたものだ。可愛い女性と綺麗な女性と美しい女性は正義。
良質なタンパク質を含むらしい南海生物を渡され、それを隅で頬張りながら明るい周囲を見渡し、再び料理に目を向けた。
隣に誰かが座ったがもう誰だって構わない。人も多いし、隣だからって気にしないだろう。騒がしくなった気はするが誰かが芸をしたとかそんなものだろうと推測する。
『……(目的のシンドバッド王をもう謁見してまったし、あと一週間でもしたらここを出ようか)』
渡された酒を避けてパパゴレッヤジュースを飲み、『お、美味い』と言葉を漏らす。料理も五月の腕前には劣るものの普通に比べれば絶品だし、なんだここ天国か。
『……良い国だなあ』
「お、そうだろうそうだろう!」
思わず飲んでいたジュースをぶっと吹き出した。隣を見れば私を見てにこにこしている美形の男。頬がほんのり赤くなっているシンドバッド王がいた。
驚きに蒸せ返り、げほげほと席をして口元を拭いながら目を見開いて『な、なぜこんなところに王が……』とぽろりと言葉が口から溢れる。
ローブも暑苦しいが被って髪の色も見えないし、顔も額から頬にかけてを特徴的な眉と瞳の色を見せないために紙で隠しているしバレない筈だ。よし、冷静に冷静に。
彼は酒を片手に「いやなに、君を安全な場所に下ろしてから無事か心配になってね!」と笑顔で言い切ってくれた。彼の目は笑っていて一見何も考えず本当に心配してくれているように思えるが、あの時の衝動がなんだったのか知りたいと教えてくれている。
内心、目は本当に口ほどにものを言う、と微笑ましくなりながら口元に、バレない様に笑みを浮かべる。
『シンドバッド様、あのときは本当にありがとうございました! お陰で助かりました。突然のことで唖然として助けていただいた時のことはあまり覚えていませんけど』
「……そうか! ふむ、怪我がなくてよかったよ、謝肉祭で怪我人なんか出せないからね」
『あの高さから海に落ちていれば確実に私は死んでいました、あなたは命の恩人です』
本当にありがとうございました、と伝えるとそうかい、と笑みを作ったシンドバッドに片眉を上げる。コイツ、私が覚えてないと言った瞬間に興味を無くしたな、ダメじゃないか、そんなにあからさまに見せてしまうと。いつか、バレるぞ。
『まぁ、男性に横抱きにされたことなんて今までありませんでしたので、少々衝撃で記憶に深く残っていますが。少し恥ずかしかったです』
真っ赤な嘘である。魔法世界でネギくんと小太郎くんに何度かあるのだ。ここは王を立てておこう。なぜ別世界の己にこんなに優しくしてるんだ私。
「おや、そうなのかい? 君ぐらいの年ならそれくらいあると思っていたが」
『シンドバッド様、私を幾つと仮定しておられて?』
「そうだな、不躾なことを言うが、20から25辺りか?」
『っふふ、あははは!』
「おや、違ったかい?」
『ぶっふふ、はい、くくっ、』
「……笑いすぎだろう」
『っはは、すみません。外れです、私、まだ16ですよ』
「16!?」
ガタッと体をこちらに向けて驚いたシンドバッドにこれは不味い、と笑みの裏で舌打ちした。しまった、興味を持たれた。しかし失礼な男だな、私はそんなに老けて見えているのかおいこら。アンタは今25か24くらいだったか。同年代くらいに思われてたのか。
にこにこしてシンドバッドにさぁどうぞ綺麗な女性が貴方の後ろで待っていますよ、と促すと彼は笑顔をそちらに向けて手を振ってから再びこちらに顔を寄せてきた。いや、行けよ。行けよ、綺麗な女性に優雅に手を振るなよ行けよこの酔っ払い。
「なぜ顔を隠しているんだい? 何か怪我でも?」
『いえ、顔を隠すのはそういう風習の一族なのです』
「俺の前でも外すのはダメかい?」
『はい、王の前でも外すのはダメです』
むしろアンタの前が一番駄目だな。
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未だにどこかに行ってくれない王に辟易しながら、掛けられる質問に顔の上半分は見えずとも笑顔で返答していく。まったく、何に興味を示したんだ王様。いつの間にか彼の瞳の奥に甘い熱があることなど知らないふり、気付かないふりをして。
「君は今日この国に来たのかい?」
『はい、観光目的でここへ。国に来た初日で謝肉祭が体験出来るなんて思いもしていませんでした』
「そうだな、運が良かった。宿は決まっているかい?」
『近くのホテルです。ほら、あそこの』
「なるほど。あそこは設備が良いから安心していい。それにしても、しばらく経つと君はここを発ってしまうのか」
憂いに満ちた顔で目を伏せて、酒が回ったのか熱くなった手の平でそっと私の右手を取ったシンドバッドはちらりとこちらに視線をやった。その時だ、私の悪い癖が出たのは。
『大した用事もないので、ここに本腰を置いても良いかと考えておりますが』
やってしまった。相手にたいして妥協を許してしまうことが有るのだ。交渉事や戦いでは絶対に無いのだが、こういう緩んだ会話では稀に出てしまう私の癖。ネギくん相手によくやってしまったなあ……。
あーやってしまった。シンドバッドの顔が輝いた。
「! 本当か!?」
『手続きが面倒そうなので、一応は断念しましたよ』
直ぐ様否定すると、シンドバッドは「目の前を男を誰だと思っているんだ?」とドヤ顔をかました。くそ、なんかムカつくぞ。様になってて。イケメンのドヤ顔ムカつくぞ。頬がひきつりそうなのを堪え、『この国の国王様です』と返答する。
こうしてシンドバッドにより、私はシンドリアに腰を据えることになってしまったのだ。
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翌日、比較的装飾の少ない部屋にて私は目を覚ました。ここはホテルではなく、王宮だ。なぜここにいるのかと言うと昨日の謝肉祭へ遡る。
『それでは、料理も食べ終えたので私はそろそろホテルに戻らせていただきます』
「待て待て、話を聞いていなかったのか?」
ええ聞いていましたとも。シンドバッドは私をここに住まわせる手続きをする間、王宮で生活してほしいと。そして手続きを終えたあと、王宮で食客として私を招く。
それでいいだろう! と胸を張るこの世界の私に頭を抱えたくなった。
『お言葉ですがシンドバッド様。私はただ観光しにここへ来た身、食客として招かれてもなんの利益もシンドバッド様に献上できません』
「かまわんよ、俺が許そう」
『シンドバッド様が許そうと、貴方の部下が許さない。違いますか?』
ぐ、と言葉に詰まったシンドバッドは「納得するさ! ジャーファル!」と誰かを呼びつける。そんなすぐに八人将たちが来るわけないだろう。なんて鷹をくくっていた私が馬鹿だった。私の目の前に座っていた男ががたりと立ち上がりシンドバッドの側による。緑色のクーフィーヤを被ったそばかすのある銀髪の男が。
「お呼びですか、シン様」
「ああ。ちょうど良いところに居たもんだな、ジャーファル。それがだな」
「話は目の前で聞いていましたよ、シン」
『嘘だろ……信じられん……』
シンドバッドの愛称がシンだとかにそう言葉を呟いたのも有るが、第一に彼の部下が私の目の前に座って宴を楽しんでいたとは。思わず敬語が吹き飛んだ。
今度こそひきつった笑みが浮かび、冷や汗がたらりと垂れる。あろうことか目の前のジャーファルはシンドバッドと私の会話を聞いていて、そして害は無いと判断したのか食客として招くことを許可したのだ。嘘だろマジかよ……。
とりあえず私の横で「それが素か! よし、今後敬語はやめろ!」とカラカラと笑うシンドバッドを全力で殴りたい。ジャーファル、同情するなら逃がしてくれ。
と言う訳だ。とりあえず、シンドバッドに名前すら名乗っていなかった私はそのあとすぐに自身の名を名乗ると彼らは目を見開き、「俺の愛称と同じだな」「ですね」と言っていた。止せ、照れる以前に疲れる。
窓際に寄って、空を見上げた。昨日はあのあともシンドバッドに顔を見せろとせがまれたが全力で拒否した。だって絶対敵対視されるだろう。いやだろ、今後この世界でお世話になる人に嫌われるのは。
視界の端で、ジュダルとは違う、白い鳥のようなそれがピイピイ鳴いて羽ばたいていく。それをぼんやり見つめながら、ノックされた扉にゆっくりと振り向いた。
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私が扉を開けると、そこにはシンドバッドとその後ろに控えるジャーファルが居た。
「おはよう! シン! いい朝だな!」
『おはようございます! シンドバッド様、今日はいいお天気ですね! お互いシンとややこしいので私の事は『七海(しちかい)』とお呼びください』
正直まだ眠い。眠気から倒れないように目を細めるも、どうせシンドバッドたちに見えちゃいない。うん、笑顔が素敵だなシンドバッド。
口と頬だけの笑みを作り、シンドバッドにそう対応してからジャーファルにも『ジャーファル様もおはようございます』と挨拶をする。ジャーファルさんは柔和に微笑み「はい、おはようございます」と返してくれた。なんだこの人は! 天使か!
片やシンドバッドは不服そうに口を尖らせ、腕を組んだ。
「別に『シン』で良いじゃないか。被ることはそうそう無いぞ?」
『……ソウデスネ』
ジャーファル頼むから苦笑いしないで。
**
どうやらシンドバッドは八人将に私を紹介したかったらしい。前置きが長い! とハルナちゃんならズビシと指を差して叫ぶだろう。
「昨日、俺が食客として招いた『七海シン』だ。俺の短称と同じ名前だが、ちゃんとシンと呼んでやってくれ」
『よろしくお願いします』
シンドバッドの隣でそうぺこりと頭を下げ、視界の端でローブが揺れるのが見えた。本当に、本格的にバレではいけないことになってきた。やべーよどうしよう。
直ぐ様解散と言う形で私はシンドバッドとジャーファルに着いていこうとしたのだが、くいとローブの裾が引っ張られ、そちらに目を向けると金髪の可愛らしい幼女が居た。うわ幼女可愛いっょぃ……。こんな彼女でも八人将だからすごいもんだ。そして側にヤムライハまで寄ってきた。胸の肌色が眩しい……!
「私ピスティ! よろしくね! シン!」
「私はヤムライハよ。仲良くしてね」
『あ、よろしくお願いしま』
「敬語禁止! 王様から聞いたけどまだ16なんでしょ!? 私より三つも上なんだから!」
「私も、理由は違うけど敬語、はずしてほしいわ」
天使の笑みと美人の笑みに勝てるやつっている? 居ないよな。快く即刻快諾しました。ええ、しましたよ。しかしシンドバッドの「じゃあ俺にも敬語は無しで」と言う申し出には速攻で断りを入れたが。
.
シンドリアの食客になって数日。ピスティとヤムライハの二人とはいい関係を築けていると思っている。
そんな仲良くなってくれた二人と共に、武官の訓練を見に行こうと言う話になったので演習場へと三人で足を運んできた。目の前にはカンキンと剣で打ち合う武官たち。それを横目に、先程から開始されたヤムライハとシャルルカンの魔法VS剣術の口論を眺める。
「剣術なんかより魔法の方がよっぽど役に立つわ!」
「なに言ってんだ!?剣術の方が偉大だろうが!」
白熱してるね、そうだななんて会話をピスティとしていたら、武官たちの方が何やら騒がしくなった。そちらに目を向けると、武官の手を離れた剣が回転しながらヤムライハに一直線に飛んできている。シャルルカンが素早く己の剣に手を掛けるも多分間に合わない。ヤムライハも驚きで硬直しているし……。
私は剣が私の目の前を通りすぎる直前。タイミングを見計らって腕を引き、足を振りあげた。ヒュオッと風を切りながら私の足の裏は剣の面と衝突し、当の剣はくるくると回って宙へと持ち上げられる。落ちてくるソレをなんなくキャッチして、唖然とする武官へと手渡した。
『ヤムライハ、怪我はないか?』
目を見開くヤムライハに声を掛けると、ハッとした様子の彼女は「シンってもしかして、強い?」とぽつりと呟く。それに答えあぐねていると、ピスティがすごかった! と感想をくれた。うーん。
とりあえず、怪我もない様子だし、大丈夫だろうと見切りをつけて見学に戻ろうとしたとき、シャルルカンの腕が私の肩を掴んだ。彼はにや、と笑って手合わせしようぜと私を強引にそちらまで連れていく。なんてこった。
「俺は剣だ! お前は何にする? 何でも良いぜ!」
『じゃあ、素手でいかせていただきます』
「なるほど素手か……。って敬語要らねえって! 同い年だろうが!」
え、ゴメン。と呟き、拳を構える。直ぐ様シャルルカンが飛び出した。隙のない構えにほう、と素直に感嘆。それから、突き刺すように一撃を放ったシャルルカンの剣を左手のひらでパン、と外側に避けてからスッと右の肘を振り抜く。しかし流石八人将、後ろに下がってうまく技をかわした。だが私はその隙を逃さず直ぐ様後ろ回し蹴りを浴びせ、戻ってきた剣を横目で確認してから彼の懐に潜り込んで右の手のひらでシャルルカンの腕をパシンと押し退ける。力は込めた。だからか、その衝撃でからんからんと彼方へ飛んでいく剣をぼんやり眺めてから『私の勝ちだな!』と不敵な笑みを浮かべた。
「……おいおい。マジかよ」
『マジだ! 紛れもないだろう?』
カラカラと笑うと、周囲から途端にわあ、と歓声が沸き上がった。どうやら注目を集めていたようだ。
シャルルカンにどかりと肩を組まれて「また今度一緒に飲みに行こうぜー!」と元気よく誘われた。何やら気に入られたらしい。直ぐ様ヤムライハが「剣術バカが移るわよ、シン」と言われ、シャルルカンがキレ出したのは言うまでもない。
*
シンドバッドside
シンとシャルルカンの手合わせがなぜか起こったので彼女の実力を見るために俺もそれを観戦した。彼女、七海シンを最初はアバレオオダコが投げた船から飛んできたただの女性だと思っていた。しかし彼女を助けて触れた瞬間、心臓がどくりと大きく跳ね、訳のわからない衝動に負われた。彼女を助けて別れたあと、謝肉祭で偶然にも見つけ、声をかけたのだ。
感じられる堂々とした雰囲気が普通のものではなかった。そして今。雰囲気と変わらず彼女は強かった。八人将のシャルルカンを軽く圧倒して見せたのだ。しかし、彼女の強さはこれではない気がしてならない。俺はどうやら当たりを引いたようだ。
「彼女、本気ではありませんでしたね」
「ああ!やはりシンを迎え入れて正解だった!」
ジャーファルの瞳は純粋に感心を示している。良いことだ。しかし、俺は違っただろう。妙に熱っぽい視線を向けている筈だ。
顔を見せないミステリアスさ、ローブの上からでも分かるその豊満な胸、話しやすい雰囲気に、先程の蹴りの時にローブがはだけて見えた、白く輝く艶めかしい太股や脚。そして色香を誘うような声。何もかもが俺を釘付けにして離してはくれない。
以前の手合わせのせいでよくシャルルカンやファナリスと言う戦闘種族のマスルールに誘われて武官たちとの試合に誘われることが多くなった。
試合なんて相手がいなくて久しぶりだったから楽しくて仕方がない。あまり放っておくと倦怠や技の鈍りが出て戦闘に支障が出てきてしまうからだ。
ドラコーンとスパルトスは落ち着いた性格、と言うのが印象深い。ドラコーンに最初、私が怖くないのかと聞かれたときは流石にハテナを浮かべたものだ。「以前、身近にドラコーンさんみたいな人が居ましたから」と伝えると大層驚かれた。どうやら向こうの世界で普通に存在していた亜人も竜人もこの世界には居ないらしい。そりゃそうか……。スパルトスは一緒にいて沈黙が苦にならない男だった。
ジャーファルは特殊な暗殺術を使うらしい。腕に巻かれた赤い糸の先に刃のついた暗具が武器のようだ。なるほど、うちには銃使いの真名や狗神使いの小太郎ぐらいしか暗殺術を持つやつが居なかったから少し新鮮だ。糸の、と言うのも珍しい。辛うじて似たやつはまき絵のリボンぐらいだけだしなあ。
「ここでの暮らしには慣れたかい?」
とある昼下がり、廊下を歩いているとこの世界の私であるシンドバッドに出会い、しばらく雑談をしてからそんな質問をいただいた。
目がとても微笑ましいものになってるぞシンドバッド。
『はい、大分。皆さん良くしてくださいます』
「そうかそうか! それは良かった!」
腕を組みながら豪快に笑うシンドバッドに笑みが浮かぶ。こちらの私は過去はどうだか知らないが現在は楽しく生きているらしい。ホッと安心するのも束の間、ニヤ。と笑ったシンドバッドは顔を寄せてきた。
「慣れた次いでだ、その顔の面符を外して素顔を見せてくれないか?」
『駄目です』
「……頑固だなあ」
色々憶測が飛び交っているんだぞー? とぶすくれるシンドバッドから聞かされるその憶測たち。
私の顔は醜い、だとか顔に傷がある、とか。素顔を見れたら幸福、または最厄に見舞われる、とか。どっから出てきたんだよ……。
しかしまあ、わかる。わりと日数を過ごしてそれでも顔を見せないのは少し不安になるだろう。最近ヤムライハとピスティがよく素顔を見せて、とせがんでくるのにも納得だ。しかしなあ……顔だけは、駄目なんだよなあ。
なんせ、目の前のシンドバッド王を女らしくしたような顔だ。かなり似てると言っていい。困ったな……。
『……王相手に失礼かもしれませんが、これで妥協してください』
決死の覚悟でローブのフードをぱさりと外す。久々に人前でこの菫色の髪を見せたかも知れない。何せ、前傾姿勢なアホ毛までそっくりときた。
肩より上ぐらいの短い髪は左右に少しばかり跳ねていて、その跳ね方すら似てると来たもんだ。悟らないでほしい。
目を見開いたシンドバッドは不意に言葉を口にした。
「……驚いたな、パルテビア人か?」
『(……え、パルナ? いや違うパルテ……ん? なんて言ったコイツ?)……いや、私は極東の小さな島国出身ですけど。色々な髪色や目の色は一部では珍しくないところでした』
金髪青目、桃髪緑目、深紫黒目等々。うちのクラスが代表的だ。銀髪も居たしな。
なんだ、違うのかと言ったシンドバッドには苦笑いが溢れた。
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ふと、夢を見た。
_うわっ、マスター! たっ、助けてくださいシンさん!
_はっはっは! ネギくん! 男ならそれくらいの波は読んで乗りきって見せろ! エヴァ嬢もそう思うだろう?
_まったくだ! 我が弟子ながら情けない!
_えええええ!? 助けてくれないんですか!? いてっ、マスター待っ、うわわわ!
ネギくんとエヴァのマギア・エレベア同士の激しき攻防と言う名の修行を、高台から胡座を掻いて見守るのが私。
幸福な時間だ。アスナやこのか、刹那にのどか、夕映、ハルナ、その他諸々も楽しげに笑顔を浮かべて私の周りにやって来る。あやかなんかは私に飛び付いてハァハァ言っていたが。君、ストライクゾーンはネギ位の年齢じゃなかったか? てかネギくんじゃなかったか?
そんな一面も砂嵐にさらわれて、次に見えたのは私の居た国が滅ぶところだった。原因は内戦。私の祖父の国だった。オスティアの近くの、南国の『夢の国』とまで言われた島国。
つまり私は、その王国の第二王子の娘だった訳だ。日頃から武力や魔法の訓練しかしていなかったから、変わり者扱いされていたが。
場面は父が私の目の前で、高い実力を誇った父は敵に切り捨てられた。奴等は手練を雇っていたらしい、父を切り捨てた男は私と病気の母を見て上玉だ、といやらしく笑う。幼くして苛立ちから舌打ちが出た。
そして助けに来たのは、かの英雄『ナギ・スプリングフィールド』一行。救われた私は父が切り捨てられた目の前で何も出来なかったことを悔い、力がほしいとナギにすがったのだ。今考えるとなんとも馬鹿らしい。しかし、ナギは笑顔で容認した。彼は馬鹿のように鳥頭で何も考えちゃいなかった。しばらくの修行ののち、母が亡くなってしまう。永くないのはわかっていた。
_後悔するなよ? ファーストキスが俺って、後で喚いても知らねーぞ、シンドバッド。
_力が手に入るなら私はなんだって構わない。復讐なんかじゃない、次こそ大切なものを守れるように。今の私にはアーティファクトが必要なんだ。
_幼い王女とは思えない覚悟ですねえ、ナギ。
_アルうるせえ。……六歳のクセに。
_歳は関係無いさ。ファーストキスが英雄なんてめでたいことだろ。それと、もう『シンドバッド』の名前は捨てたよ。アンタは私に『七海 シン』って名前をくれたじゃないか。とっとと終わらせよう。
ナギとパクティオーをして、アーティファクトを手に入れた。そのあとはなぜか現在のエヴァの持っていた別荘の真逆の性質『中で一日過ごせば、外では一週間が経過している』魔法球でナギ、アルビレオ、詠春と修行して、強くなって。三人は私を置いて行ってしまったけれど。魔法球は学園長に借りたらしい。なんと。
タカミチがアスナを連れてきて、私が七歳になって外に出るとあれからもう13年が経っていて、そのまま麻帆良に。それからは以前の通り、エヴァと友人になり、ナギのことを話しながら別荘でマギア・エレベアを教わってそのあと魔装を完成させた。
『……懐かしいな』
もう一ヶ月経った。
やたらと懐かしい夢を見て、目を覚ます。まだ深夜だった。南国のシンドリアは昼間より涼しくなっている。もう覚えていない私の国もそうだった気がした。それにしても、シンドバッドの名前まで同じとは恐れ入るなあ。
今更二度寝をする気にもなれず、私は顔に面符をつけて、彼と私が一時でも同じ時間を過ごしたと言う証のカードを持って、部屋を出た。
ローブは以前のフードを外した一件からもう着用していない。ここに飛んだとき、着ていたのが半袖で心底良かったと思う。
庭に出て、とすりと草の上に腰を下ろした。胡座を掻いて体を左右に揺らす。
『……ナギ』
アーティファクトカードを片手に見つめながら溜め息を吐く。
私のアーティファクト、『覇王の軌跡』は、私が一度見て聞いて喰らったことのあるアーティファクトを使用できると言うわりとチートな激レアカードのものだ。使用時には左の前髪が後ろに引っ張られ、服装も変化する。恐らくこれも、シンドバッドはしていたことのある姿なのだろう。カードにはそんな風貌の女が口の端を吊り上げて不敵に笑み、細身の太刀を手にしていた。太刀は亡国の国宝だ。契約の精霊はイラストが得意なのだろうか。
ああ、無性にネギくん筆頭に彼女たちに会いたくなってきた。
『……くそっ、駄目だ駄目だ! 私らしくもない。エヴァ嬢が今の私をみたら何を仕掛けてくるか……うん、考えないようにしようか。確実になにかしら首が胴体と離れる。それか書類整理……もうやめよう』
笑顔で精神的にも肉体的にもぼこぼこにされる気しかしない。ばふ、と背中から柔らかな草の香りがするそこに倒れて、吐き出した。とばかりに息を吐いた。途端に微睡み出してくる。先程までは眠くなんて無かったのに。
そこにとある男の陰が掛かった。誰かも暗くてわからない。しかし、私はその男と……ネギくんをどうしてか重ね合わせて憧憬を覚える。そんな誰かもわからない彼に、ぽつりと『この世界の私は、言葉にできないほどすごかったよ……』とか細く呟く。
『力を酷く貪欲に求めすぎた私と違ってなあ……。……なぁネギくん。どうしたもんだろうな、……見知った、長い間一緒にいた友人が居ないだけで、こんなにも不安になるらしい。や、恐らく……彼女たちの個性が強すぎたことも、有るんだろうが……この私がだ。……はは、こんな弱音を吐いた姿を、晒すのは久しぶりだ…。仕事はサボる、何を考えているかわからない、利用するだけ利用する、そんないつもの、仲間を守るためならどんな冷酷な手段だって構わず使う、ずるい、私らしくないと……君はきっと、言うんだろうな……』
思えば、君を一度たりとも『ネギ先生』と呼んだ事がなかったな、と言う言葉を最後に、意識が飛ぶ。その直前に私の唇は何かに塞がれた気がした。
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カードの絵は更新されていく捏造設定。
シンドバッドside
夜、目が覚めて適当に徘徊していたらシンの後ろ姿が見えた。それに着いていくと、庭に出る。彼女はふらりふらりと手に何かを持ってとすりと微かな音を立てて胡座を掻き、左右にゆっくりと揺れた。
まったく、女性なのだから流石に胡座はいけないだろうに。彼女の足は普段、太ももまでの長い靴下に包まれていて、それでもスカートと靴下の間の肌は魅力的だ。しかし今は靴下すらも履いていないから、真っ白で柔らかそうな脚が惜しげもなく晒されている。まったくこんな夜更けに。少し注意の意味を兼ねて声をかけようとしたのだが。
『……ナギ』
その言葉に近付いて声を掛けるのをやめた。彼女は先程持っていた何かを見つめ、溜め息を吐く。
何かを思案していたらしい、しばらくしてから『あー、駄目だ駄目だ!』と声をあげた。
『私らしくもない。エヴァ嬢が今の私をみたら何を仕掛けてくるか……うん、考えないようにしようか。確実に何かしら私の首と胴体が離れる。それか書類整理……もうやめよう』
一人言を呟いて少しげんなりした彼女に少し既視感が湧く。とす、と後ろに倒れた彼女に近付きながら俺は首をかしげた。
上を見た彼女を見下げるように側に腰を下ろす。微睡んでいるらしい。不意に彼女が苦笑した。
『この世界の私は、言葉に出来ないほどすごかったよ……』
誰かと勘違いしたようだ。俺はシンドバッドだ、と言うように口を開くと彼女は遮るように言葉を続けた。
『力を酷く貪欲に求めすぎた私と違ってな……。……なぁネギくん。どうしたもんだろうな、……見知った、長い間一緒にいた友人が居ないだけで、こんなにも不安になるらしい。や、恐らく……彼女たちの個性が強すぎたことも、あるんだろうが……この私がだ。……はは、こんな弱音を吐いた姿を、晒すのは久しぶりだ…。仕事はサボる、何を考えているかわからない、利用するだけ利用する、そんないつもの……仲間を守るためならどんな冷酷な手段だって構わず使う、ずるい私らしくないと……君はきっと、言うんだろうな……』
思えば、君を一度たりとも『ネギ先生』と呼んだことがなかったな。と呟く彼女の微笑みに思わず自分の唇で、シンの唇を塞いだ。
ハッとして顔を彼女から離す。これでは寝込みを襲うようなものだ。一体俺は何を。
そんな思考が巡り始めたとき、彼女の手のカードに目が行った。多分彼女が持っていたものだろう。悪いと思いながら見させてもらった。そこには。
『……昔の、シンドリア商会の時の俺、なのか……?』
いや、微妙に違う。俺にこんな豊かな胸の膨らみはない。
不敵で色っぽい笑みを浮かべるカードの絵の俺に似た女は控えめだが高価だとわかる装飾のされた太刀を手に、俺の16の時ほどの服に似たものを身に付け、白い足を短いズボンで晒し……。そこでぱっとシンを見た。なんで彼女が、こんなものを持っているのか。カードの字は読めやしない。
「……すまない」
彼女の薄っぺらい面符をゆっくり捲った。
仮説だが。このカードの絵の女がシンならば、シンの言った「この世界の私」とは……。
「……そう来たか」
俺のことか。
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アーティファクトカードイラストイメージです。カードに描かれてるのはこんな感じなんだなくらいに留めておいてください。
目が覚めると、私はあてがわれていた自室のベッドに横たわっていた。誰かが運んでくれたのだろう、衣服の乱れは無いし大丈夫な筈だ。ふと、やけに眩しい朝日に目を細める。はて、面符をしているのにこんなに眩しかったか。と目元に手をやるも、紙質はない。
『……嘘だろ』
鏡を見た。自分の姿が映っている。最悪だ。多分私を運んだ人だ、なんたる不覚。
何か代わりになるものは無いかと探していると、不意に扉がノックされ、カチャリとドアノブが回り出し『は、おい!? ちょ、待っ』と焦る私だが無慈悲にも扉は勝手に開けられる。そこには怖いくらいに笑顔のシンドバッドがいて、ひらりと面符を手にしていた。
「少し話そうか。聞きたいことがある」
参ったな、私を運んだのはこの男(私)か。さっと血の気が引いた気がした。自室にシンドバッドを招き入れ、人払いをしてから扉を閉めてシンドバッドに呆れたように視線をやる。この男、私のパクティオーカードを興味津々に眺めている。やめろ、わりと古いんだぞそれ。ドカリと備え付けの椅子に座ってシンドバッドと向き合うように腕を組む。シンドバッドはカードを私に返却してからにこやかに笑って言った。
「昨日の深夜、君の姿を見つけてね。声を掛けようと思ったんだが、独り言を言い出した。見に覚えがあるだろう?」
『…なるほどな、あの男の影は……』
「ああ、俺だ」
あっけらかんと名乗り出たシンドバッドにさらに深い溜め息がこぼれる。きっと『この世界の私』と言う言葉も聞いた筈だ。その独り言を聞いて私の顔を見たに決まっている。はあああ〜、と今までに吐いたことのないぐらい長い溜め息を吐き出して頭を掻いた。
『私と同じく理解の速いお前のことだ、もう気付いてるんだろうシンドバッド』
「ああ。……シン、お前は別の世界の俺なんだろう?」
『ドンピシャ正解、流石私だ』
ビシ、と真面目な顔でシンドバッドを指差したあと机に額を擦り付けるように倒れ込む。あーだのうーだの唸っていると、シンドバッドが急にカラカラと笑い出した。ビビるからやめれ。
「なるほどな、素は俺そっくりだ!」
『ほんとにな。ここまで一緒とは、とか思わなかったからな私は……仕事はサボる女好きで手癖は悪い、要らんとこまで全く同じだ』
「女性は美しいから仕方ないだろ」
『ほら見ろ同じだ』
ははは、とげらげら笑いあった。するとシンドバッドは急に真面目な顔を取り繕い目的を聞いてきた。なぜこの国に来たのかどうやってこの世界に来たのか。
『入国したのは本当に偶然だな、気が付けば煌帝国に居てシンドバッド王にそっくりだと言われて見に来たのさ。無論、拝謁したらすぐに帰ろうとは思っていたがまさか食客にするとは思わないだろ普通』
「それは俺が悪かったよ」
『本当にな。まあ、それで、どうやってこの世界に来たのか。って質問だが、私自身よくわかっていないんだ、悪いな。敵から攻撃を受けて、気が付けば煌帝国に居たんだ。帰る手掛かりを探しているんだが、どうせ出口は向こうからやって来てくれる。ま、気長に待つさ』
どうやらシンドバッド自身、私を手放す気は無いようだ。それもそうか、置いておけば別世界の自分なのだから戦力になるのは理解している。そこからは私の世界の文明の話をした。
私の世界では魔法ではなく科学が発達した高度な文明の栄えるところだと。魔法は一般人には認知されないよう隠されていて、万が一知られたら知った方の記憶消去、又は知られた方がオコジョになる重い罰。あとは歴史諸々。わりとシンドバッド頭いいから教えるのがとても楽……。
「そちらの世界の魔法はどうなんだ?」
『……まあ、まずルフはないな。己の体にある魔力を使うところは同じだが、命令式はないよ。詠昌があるけど。種類も様々だ。この世界で言う、六つの属性はあまり意味を持たない、使えるものは使えるし種類も抱負だからな』
「例えば?」
『魔法の射手(サギタ・マギカ)、最も基本的な攻撃魔法だよ、一本でもまあ小さな威力はある。こんなのでも199本あると極大魔法と大差無いが』
「他は?」
『……あまり好きじゃないが、「花風・武装解除(フランス・エクサルマティオー)」。相手の武器や武装を弾き飛ばす魔法だ』
「なんだ、便利じゃないか! なんで好きじゃないんだ?」
『脱げるんだよ。武装どころか服まで弾き飛ばすんだ』
「なん……だと……?」
『教えないからな』
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以前ストップしたネギま!男主の続き。
男主私服。https://ha10.net/up/data/img/21510.jpg
設定
緋影伊織
赤い瞳のつり目が特徴的な寡黙かつクールな少年。一応魔法使いだが、魔法剣士の部類に入る。魔法拳士でもある。「アホか」が口癖。得意な魔法の属性は炎。実力はエヴァと同等かそれ以上。
そのせいというかなんというか学園長に「男子校満員になっちゃったから女子中等部通ってね」とわざとらしくただ一人女子の中に放り込まれた苦労人。表向きは共学テスト生。鋼の理性を持ち合わせており、学園では硬派なのも相まってかなり有名。イケメンである。空手四段。ネギに同情の念を抱いており、何かと世話を焼く。何が起こっても動じない。
長瀬より少し高いぐらいの身長。声低い。クラスのネギ至上主義に呆れているのだが、同時に自分にもそれが向いているとは思っていない。ネギのようにおおっぴろなアピールはないが、同級生な為みんな恥ずかしがってアピールは控えめ。
イメージ画の刀は相棒の『アヴァタール』。熱くなれと意思を込めれば刃がめっちゃ高温になって高層ビルぐらいなら溶けてすぱーん。普通の状態でも切れ味は抜群。
明日菜のように固有能力を持って生まれているただの人間。向こうの世界出身ではない。能力は『身体炎化』、攻撃には使えないものの、移動速度は瞬間移動に近く、相手の攻撃はすり抜ける。ネギの雷化の劣化ver。人間に危害は加えない比較的優しい能力。
のどかが気になっているものの行動に移す気は無い紳士。但し無表情。温厚派。両親は既に他界。
**
11時となり、乙女達(大半がネギ狙い)が血気盛んに盛り上がっていく頃、一方のいおりは外へと涼みに来ていた。和服があまりにも似合わないと思って自嘲した彼は持参のワイシャツにカーゴパンツ姿。酷く涼しげである。
途端、ふるりと背を這うような悪寒と、何かしらの執念を感じとり、小麦色の肌に鳥肌を立たせて旅館を振り返った。
『……なんだ?』
訳もわからずに眉を潜めるいおりは地面に光るものにやっと気が付いた。足元に電球でも埋められているのかと思っていたが、どうやらソレは仮契約用の魔法陣。魔法陣はぐるりと旅館を囲っており、ようやくいおりはカモミールか、と人相悪く舌打ちをかました。
成功すれば仮契約は一人につき五万円を協会が支払うことになっているのだが。大方、金に目が眩んだか、か弱いネギ先生が多くの女子にモテるところをにやにや見ていたいのか。どちらとも取れるその行動にいおりは再び舌打ちをひとつ。
妙にカモミールと仲が良かった朝倉の事だ、アイツも参加していると考えていい。そしてこの異様な執念。恐らく朝倉に焚き付けられて何か仮契約、言わばキスに関するゲームでもやっているのだろう。まったく、ロクなことをしてくれないバカたちだ。しばらく外にいる方が安全だと思い、ベンチに座って月夜を見上げる。綺麗だと思うと同時に、あの夜を思い出した。
……や、やめっ、やめてくれ、俺を……
[……嫌だぁっ、死にたくないっ、死にたくない死にたくないっ! 嫌だあああああ! あああああ!]
[ぎゃああああっ! いやっ、熱いっ! 熱いよおおおおお! 何で、何であんただけっ!]
[助けてっ、助けていおりくんんんんん! 熱いのっ、痛い、溶けそうなの! ずるいずるいずるい! アンタずるいんだよ! ひぎっ、熱いいっ、あつ、ああああああ!]
……また、死んだ。一人二人、三人四人、大勢が俺に助けを求めて死んでいく。積み重なる屍に俺は涙を流すのみだった。鉄格子から覗いているのは漆黒の闇とそのときの俺を嘲笑う化のように爛々と輝く綺麗な月。残っているのは、俺と__。
ハッとして目をぱちりと見開く。周囲はあまり変わっていないが、時計を見ればもう11時半。寝てしまっていたようだ。俺の体は汗がぐっしょりで、はあ、と息が上がっていることに気が付く。ずいぶんと昔の夢を見た。気分の悪い夢だ。気持ち悪い。
再び周辺を歩き、汗を引かせた俺はようやく昼の宮崎の件を思い出す。告白されたのなんて人生ではじめての出来事でちょっとパニックに陥って神楽坂たちには無様な俺を見せてしまった。
返事返事と考えるも、よくよく思うと俺はあまり宮崎を知らないことに気がついた。あまり知らない子を振るのも受けるのも俺的には失礼だと確定しており、宮崎に言うべきことがきちんと決まる。
宿に戻ると奥からぱたぱたと宮崎と綾瀬が走ってきた。一体どうしたんだ。ゲームにしては騒がしい気がしたしなにがあったのだろう。
とりあえず、「宮崎」とだけ呟いてぴたりと面白いぐらい硬直した俺は少し動いてくれ。
「あ、緋影くん……」
『……あー、昼のこと、なんだが』
俺がそう切り出すと「いえー、あの事は良いんです、聞いてもらいたかっただけでー!」とあわあわと慌て出す宮崎に『良いから聞いてくれ』と落ち着くように促す。
そうは言ったものの、どうしようか。どこに行ったいつもの俺。
『……悪い宮崎、こう言っておいてなんだ、その、肝心の結論がまだ出てない。こう言い訳がましくなるのは俺の本意じゃないんだが、何せ、こうして好意を伝えられることが初めてで……困ったな……、こういうときに何を言えばいいんだ……。
……まあ、とにかくだ。考えてて思ったんだが、俺はクラスが二年とちょっと同じだったクセにお前のことをあまり知らない。これからは出来るだけ意識をするようにする』
頭を掻いて視線を逸らしながらそう言い切る。くそ恥ずかしい。初めてこんなに情けない姿を人前に晒した。明石と長谷川がそこにいると言うのに。正座で。お前らなにしたの……?
流石に今度はきちんと宮崎の目を見て告げた。
『……だから返事は……“二学期”になるまで待っててくれ。それまでに『宮崎のどか』が俺の中でどんな存在か、考えるて、返事をする』
そう言い切ると宮崎はしばらくきょとりとしてから、「はいっ」と微笑んで返事をする。ばきゅんと何かが俺を貫いた気がするのは気のせいか。気のせいか!? 大丈夫か俺!?
ふー、と緊張からかゆっくりと息を吐いて、『戻るか』と努めていつも通りを装う。
『新田に見つかるとまずいんだろ』
「あっ、そうだったっ」
「……」
ぱたぱたと先行する宮崎_のどかの後を追って足を踏み出すとガッと何かに足が引っ掛かった。宙に浮く体の先には宮崎が居て、恐らく虚空瞬動を使えば衝突は免れる筈だ。いやしかし、宮崎、綾瀬、そこで正座してる長谷川と明石は一般人。見られるとわりと不味い。
何かに気付いたのどかがぱっと振り向いた。綾瀬、足を引っ掻けたのお前か。お前なんだな。
『あ¨』
時すでに遅し。最早陰謀のような力すら感じるほど上手いこと重なるお互いの唇。しかし、それも束の間。185cmの身長の俺の体重に耐えきれなかったのどかはぐらりと後ろに傾き、そのまま勢いよく二人して倒れてしまった。
さすがに後頭部を打たせる訳にもいかないので咄嗟にそこに手のひらを滑り込ませていてよかったと心底思う。ナイス反射神経だ俺。
そしてハッと気付けば、宮崎の顔が至近距離かつ下に存在し、真っ赤に染まっている。一連の流れを見てみると、ああ、もう。わざとじゃないとは言え押し倒していることは明確。瞬間顔に集まる熱に珍しく表情筋が動いたのが分かる。
『っ、!』
バッと上体を起こして両手をあげる。横目で綾瀬を見ると、サムズアップ。長谷川を見ると唖然、明石を見ると口をあんぐりと開き、いつの間にか居た神楽坂と桜咲も似たような感じだった。あ、ダメだ。
『っ、せ、責任は取る! 悪かった宮ざ、っ、のどか……!』
頭はもうオーバーヒート仕掛けで、咄嗟にその場から離脱する。全速力で駆け出した。
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三日目八時半。気まずい気持ちを抱えて食堂にいくとみんながわいわいと騒がしい。聞くところによるとあのあと新田に見つかって朝まで正座させられていたようだ。だから早く戻れって言ったのに。
どうやら昨日のキスで仮契約が完全に成立してしまったらしい。これは由々しき事態だ。魔法を知らない彼女はこれで無理矢理その血みどろの世界に引きずり込まれたようなもの。アルベール・カモミールめ、この事態の重さを、きちんと理解しているのか。
ロビーにて、それをカモミールに問い詰めると、ビクビクしたようにコクコクと頷く。本当かよ、と言うようにキッと睨んでから腕を組んで居ると、隣の神楽坂が「まったくもー」とスカカード五枚とのどかのカードを持って怒鳴る。
「ちょっとどーするのよネギ! こーんなにいっぱいカード作っちゃって一体どう責任とるつもりなのよ!」
「えうっ!? 僕ですか〜!?」
ガミガミ叱る神楽坂から少し視線を逸らしてから『それは俺にも責任がある』とネギ先生を援護した。仮にも、先生が身代わり人形を使ったのであって先生に非は別にない。見回り言ってたようだし。
『ネギ先生ですら身代わり人形でスカだけだったのに、俺は、俺は……。のどかにああ言った後で、彼女に失礼過ぎる。死にたい』
「ちょ、言い方が悪かったわよ! ごめんって! 落ち込まないでよー!」
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そのあと、今日は私服の自由活動日だったので部屋にいって着替える。ワインレッドのワイシャツを腕捲りにし、濃い色のカーゴパンツ。それに肩掛けを背負えば準備は完了だった。
手の中にあるのどかのパクティオーカードのオリジナルを見て唸る。これは先程カモに押し付けるように渡されたのだが、やはり常備していた方が良さそうだ。
ロビーにて。オリジナルパクティオーカードを肩掛けに入れてさぁ行くか、と言うところでネギに呼び止められた。
「緋影さぁーん」
『ネギ先生。どうしたんですか、そんなに慌てて』
ぴたりと出入り口の自動ドアのところで振り返り、先生と視線を合わせる。先生は肩に忌々しいオコジョのカモを乗せて『お願い』をしに来たらしい。
申し訳無さそうに女子から見ると愛くるしいであろう顔を歪めた。
「……その、実は僕、学園長から関西呪術協会の長さんに親書を渡すよう頼まれているんです。あの、それで、僕一人じゃ不安なのでパートナーのアスナさんと一緒に行くんですけど……」
『馴染みのある同性の俺にも着いてきて欲しいってことですか』
こくりと頷いたネギを前に、ふむと少し考える。確かに、あのクソ親父の仲間だった英雄、ナギ・スプリングフィールドの子供とは言え、異性ばかりじゃ不安なのだろう。よく考えなくてもコイツは10歳で親元を離れて心細いのもあるだろう。俺自身先生には良くしたいと思っているし。
何より、その判断は正解だ。少なくとも、俺がいれば戦闘で負けることは有り得ないことが確立される。
『そういうことなら、全く構いませんよ』
「ほ、ほんとですか!? やったー!」
両腕を突き上げて手放しに喜ぶ先生は本当に弟のようだ。『姉』と『弟』と言う存在に酷く執着しているあやかの気持ちも分からないではないが、一人っ子の俺はそこまで執着したいとは思わない。……いや、本当は俺にも兄や姉、弟妹と言った存在が居たのかも知れないがいたとしても俺の所為で亡くなっているケースだろうなと今まで見てきた赤の他人を思い浮かべた。背中の大火傷は死ななかった代償というより、今までの犠牲者の怨念というのに近いかもしれない。
そんな後ろ暗い過去を思い出しながら裏口から外に出て、神楽坂と待ち合わせをしていると言う石橋までやって来たのだが。
「わぁー! 皆さん可愛いお洋服ですね!」
絶句した。まあ表情は相も変わらず無表情だろうが。なぜ神楽坂以外の五班のメンバーも勢揃いしちゃってんだおかしいだろなにこれドッキリかよふざけんなマジで。
神楽坂は早乙女にうっかりバレてしまったらしい。そういうとこホント成長してねえな。呆れの視線を神楽坂に送ると、バツが悪そうに顔を背けられた。おいこっち見ろコラ。
絶句した理由はもうひとつ。ネギ先生なんでそんなことサラッと言ってのけるんだ馬鹿かこのガキ。お兄さんネギ先生の将来が心配だよ。
のどかの持っている本も気になるがもう知らん、なるようになれ。
とりあえず親書渡しは途中で抜け出して届けにいくらしい。わりと呪術協会から嫌がらせを受けてるみたいだから慎重にやれよ。
「わー、宿の近くもすごくいい所なんですねー!」
「はい。嵐山、嵯峨野は紅葉の名所も多いので秋に来るのもいいですよ」
『……よく知ってるな、綾瀬』
「事前に調べてきましたから」
妙に手際の良い綾瀬も修学旅行を楽しみしていたということで良いだろうか。桜咲はお嬢に押しきられて連れてこられた様子が見られるから、事情は把握しているのだろう。
早乙女に目的地はどこかと聞かれたときのネギ先生の言い分はあっちの方だったかな、と下手くそだがまあ子供だから仕方ないさ。
「……ねぇアスナ、ちょっと聞いて良い?」
「ん? 何?」
「……あんた、ネギ先生と付き合ってないよねぇ?」
早乙女の質問に神楽坂がいきなり近くの信楽焼に頭をぶつけるもんだから驚いた。確かに、二人でこそこそしているのを見られるとそう思われるのも無理はない。神楽坂は10歳相手にそれはないと必死に弁明していたが、どうだかな。とりあえず、俺は先生と生徒とのそういう関係にある程度釘を刺す気で居るからそこのとこよろしく。
.
そのあと、早乙女が目敏くゲーセンを見つけて、プリクラを撮ろうと言い出した。それにみんなが同意してぞろぞろ動き出すから流れで俺も最後尾を着いていく。
「ぷ、プリクラー……?」
「そうそう! 伊織くんも一緒にね!」
「あ、え……」
なんだって。聞き捨てならないことが聞こえたが気のせいか。
ゲーセン内に入ってうろちょろしようと思ったががっちりと早乙女に腕を掴まれてのどかと放り入れられた。女子に手を挙げるつもりはないが、いっぺん叱るぞ早乙女。
プリクラ機内では隣でのどかが申し訳なさそうに俺を見ていた。
「ご、ごめんね……ハルナが……」
『……いや、いい。あいつらなりに気を遣ってるんだろ。それに俺には丁度いい機会だ、昨日の責任もある。こういうのは初めてだから楽しい』
そう言うとぱしゃりとプリクラ機が光る。撮れたのだろう、と外に出ると特定人数がなぜかにやにやと俺を見ていた。ろくなことはまず考えてなんてないだろうなと呆れた視線をお返ししてやった。
その他にも、先生が綾瀬と早乙女のやっているデータカードダスのプレイを見てやってみたり、地元のニット帽を被った学ランの少年と対戦して負けたりとか。
「ほなな、ネギ・スプリングフィールドくん」
「あー君、勝ち逃げはずるいよー!」
「えっ!? ど、どうして僕の名前を!?」
いや先生、ゲーム始めるときに自分で入力してたろうが。とそんなことを離れた場所から思う。そうこうしているうちに関西弁の少年は「ほな」とタッと駆け出した。
おっと。見た目はただの小学生だが、明らかに裏の仕事に着いているようだった。雰囲気もそこらの能天気な子供じゃないし、何より足音がない。
しかし、少年は俺より前に先生たちに近いところにいたのどかとぶつかってしまった。その時その少年から少し脱げた帽子から覗く黒い髪に紛れて、何かを見た気がする。
「あたた……」
「ナハハ、ごめんなお姉ちゃん」
しかし。去り際少年は「パンツ見えとるでー」と言い残し去っていった。
びしりと体が固まるのがわかる。どうしてかは知らないが、確実に驚いた。これが最近の子供、怖いもの知らずか。
そのあと、そのデータカードダスの関西限定カードを集めると言い出した早乙女、綾瀬、お嬢。
その隙に神楽坂は桜咲にお嬢を任せたと頼み、俺とネギ先生、神楽坂はその場から駆け出した。
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ネギま世界のシンドバッド♀のあの話を完結させたいなって……思って……その……。うん、上は一旦停止。先こっちだ。
**
そのあと、朝議にて改めて私の紹介を行う、とシンドバッドにニコニコされて告げられ、思わず立ち上がる。
『嘘だろやめろ私のばかっ!』
「知らせないといけないだろう? こんな重要案件は!」
『おま、だんだんと楽しんでるだろ!』
はっはっは、と私と似たような笑みを浮かべるシンドバッドに、私は左手で机に手を付き、胸ぐらをもう片手で掴みあげ、ガクガクと揺さぶる。
別に報告してくれても構わないが、一応こちらの記憶を見せるつもりでいる。それよりも目の前でハハハと爽やかに笑う私にムカつきすぎてヤバイ。私いつもこんなんだったのか……ごめんエヴァ嬢。
「あ、そうだそうだ」
『あ?』
ぐい、と胸ぐらを掴んでいた方の手を引かれ、態勢は机を挟んで崩れていく。気がつけば目の前には笑みを浮かべたシンドバッドで、狙いすましたように金色の瞳と友に目が細められた。零距離で広がる彼の整った顔といまだ感じる温もりに目をぱちくりと瞬かせるも、私の状況判断能力はとても優秀だ。生娘のように反応は遅くない。
力の抜けた左腕を建て直し、ぱっと上体を逸らした。
がたりと席につけば勢い余って椅子が前後にぎっこんと音をたてて揺れるもそんなことたぁ問題じゃない。大切なのは、今、私とシンドバッドがどうなったかと言うことだけだ。
『……私?』
「俺はお前を『俺』として、『自分』としてじゃなく女として、見ているよ」
『……は』
「それだけ言いたかったのさ」
『んん!?』
突然の奇行にまぶたを必要以上に瞬かせ、目の前で以前変わらずにこにこ笑みを浮かべる彼を見る。要するにそれは、そう言うことで。
『……くそっ、……そういうことか』
「そういうことだ」
ぐわっ、と上昇したと分かる己の額に手を当てて項垂れる。
言ってしまうが、私に男性へのこういう経験は皆無に等しい。そもそも、私の通う麻帆良は男女別だから仕方ないと言えば仕方ないし、麻帆良では専ら私が男性側だ。魔法世界のクルト総督に呼ばれた舞踏会だってエヴァが私のために作った性別転換薬を飲みまんま目の前のシンドバッドになってスーツを着て挙げ句女性と踊ったのだ。
目の前の私は私の反応に意外だったようで、ちょっと驚いたように私を見つめていた。
「免疫がありそうなのにな」
『お前男性に言い寄られたことがあるのか』
「俺はないな……あぁ、なるほど」
『お前がそうなら私もそうに決まってるだろうが』
.
また新しいの。
magi。全国一位の関西人剣道女子が転生したら練家の紅明双子姉になってた原作知識持ちのお話。ちょっと近親相姦。
練 紅影(こうえい)
煌帝国第一皇女。紅明の双子の姉。原作知識持ち。前世が関西人なので関西弁だが、禁城では最早紅影の喋り方になっている。上の白兄弟が生きていた頃は隣は白蓮、逆隣は紅明に貼り付かれていた。二人が死亡したあとは紅明が余計べったりになる。練家可愛いよ好き好きなブラシスコン。おとん(紅徳帝)は嫌い。白蓮に恋心を抱くも押さえつけ、彼が死ぬと同時に完全に断ち切った。紅炎は純粋に兄として上司として慕う。弟あいらいく。
原作を変えるつもりはなく、兄弟の流刑までついていくつもり。嫁にいく気も全く無し。
見た目は紅明に吹き出物がなくなって泣きボクロが追加。女らしい顔つきだが紅明そっくり。髪に関して、襟足は紅明と似たような感じだが髪は紅炎程の短さ。髪色は紅明と同じ。
腰もとに太刀程の大きさの日本刀所持。のち金属器になる。
幼少期から。
.
このお話の紅明さんは「姉さん!」な独占欲強し。姉さんはあはあ姉さんな人。姉さんはうはうなう。
**
どうもこんにちは君の分身ですなんてふざけてる場合でも何でもないぞ、どうした私。
気が付いたら双子として生まれていた私は今世では紅影と言う名らしい。いやいや全く意味がわからん。
前世じゃ交通事故に合って呆気なくお陀仏になった全国一位な私、実はオタク。夢小説とかそういうのも読んだから知ってる、これ転生したやつや。
「おはよう、紅明、紅影」
「おはようございます……兄上……」
マギに転生しとる。よりにもよって煌帝国の紅明の双子の姉に転生しとる。あかん、うちの兄さんと弟が可愛くてあかん。あかん、現実逃避に走っとるヤバい。
部屋から出てきた私に駆け寄ってきた紅炎兄さん。なんと実兄である。マジかよやだー超かっこいい一生ついていきます炎兄。まだ幼くて可愛い、兄さんマジ可愛い。
そして私の腕に引っ付いてへにゃっとした笑顔で兄さんに挨拶したのがマイエンジェル紅明。寝起きだからか余計可愛いこの子可愛い。本当はね、部屋は別々に用意してあったんですよ、寝室。しかし、紅明が私と離れたくないと駄々を捏ねたのである。MH5(マジで鼻血噴出五秒前)だった。耐えたけども。鍛練や勉強以外じゃ私にべったりで離れてくれんのですよ死んでしまう可愛い。
『おはよお、兄さん』
当時四歳、練紅影。長い長いお話の始まりである。
.
先に言っておくと、私と紅明は世にも珍しい一卵性異性双生児で、顔もそっくりなのだ。私の方には左目の下に泣きボクロが、紅明はちょっと肌が荒れてきてる。部屋に籠ってばっかやからやこの子はもー。
あれから六年、十歳になった私たち。わりと色々あった気がするなあ。
終始にやにやした笑顔で鍛練を名残惜しく終えたあとは、何やらそこら辺で毛玉になっている愛しの弟の元へと向かう。
『紅明ー』
もさあ、とどこに顔があるのかすらわからなかった紅明の髪を分けてやると、「……眩しいです」と顔をしかめられた。顔をしかめるでないぞ弟よ。
腕に巻いていた紐をしゅるりとほどき、見た目ほど多くはない紅明の髪を右に集めてサイドテールにする。視界が広くなりました、と呟く弟に『そらそうだろうよ』と苦笑いした。
そのまま二人でとてとてと廊下を歩くと言うより散歩していると、前方から白雄皇子、白蓮皇子が紅炎兄さんを伴って歩いてきた。
「おや、紅影、紅明」
「二人とも散歩かー!」
「『はい、散歩です』」
さっと二人して頭を下げると言葉すら重なって殿下二人と兄さんたちは微笑んだ。
楽にしなさいと白雄様に言われてようやく頭をあげる。すぐにぴたりと物理的に側にくっついてきた紅明はさておき、そのまま紅炎兄さんに声を掛けた。
『紅明が天使過ぎてどないしょう紅炎兄さん』
「気持ちはわかるが知らん」
二つ上の兄の言葉がとても冷たい。が、しかし、原作のギラギラした視線と表情は面影がなく、普通に笑っているので内情は暖かい人だ。わしゃわしゃと私たちの頭をかき混ぜるようにして撫でたこの人も大概ブラシスコンである。紅炎兄さん好き。隣で撫でられて嬉しそうな紅明は天使、好き。
途端、脇に手がさしこまれ、一気に目線が高くなった。私を持ち上げて満足そうにしているのは白雄様である。歩きながら持ち上げているからか、景色が流れて新鮮だ。白蓮様は紅明を持ち上げていた。ちょっと羨ましいぞ紅明。
「改めてみると大きくなったな、この双子も」
「紅影は将来きっとと言うか絶対美人になりますよ、兄上」
「大きくなって美人になると、他国からも引く手あまただろうな……」
白雄様がそういった瞬間ガンっと紅炎兄さんが足を滑らせて柱に額をぶつけた。あまりにいきなりなことなので歩みを止めて四人共ちょっと驚いて目を見開きながら紅炎兄さんを見る。額をぶつけても尚表情を変えない炎兄は流石の一言だ。額押さえて痛みに耐えてるのはとてもイイ。
「……そうか、紅影もいつかここを出るのか」
「なるほど、妹がどこかにいくのを思い出してか、わからなくもないぞ、その気持ちは」
「いや……まあ、そうなるのですかね」
「まあ、兄上も俺も、白瑛が嫁に行くってなると引き留めるだろうしな!」
「大きな声で言えたもんじゃないぞ白蓮」
地面に下ろされた私は何年先の話しとるんやと苦笑いしながらそれ光景を眺めていた。すると、ぽすりと紅明が私のそばで「姉上は、どこにも行きませんよね?」とやけに曇った瞳で見つめてくる。それにちょっとした恐怖を覚えながら、『行かへん行かへん』と笑い飛ばした。
「……本当に?」
『ほんまほんま』
「……本当ですか?」
『……疑り深いなぁ』
ならこうしよう! と声高々に腰の短刀を抜き、ざくりと左頬に深い傷をつけた。兄さんたちは目を向いているが、気にすることではない。じくじくと痛む頬とぽたりぽたりと滴る鮮血に口の端が釣り上がった。
『これでもう傷物やからどこにもいかれへんよ』
このあと兄たちに物凄い形相で叱られたのは仕方ないと言えば仕方ない。
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マギコミックス巻末のオマケ漫画をご存知だろうか。あれや、番外短編的な。オマケペーパーも然りやで。
なぜ突然そんな話を持ち出したのかと言うと、現在、紅覇の話が始まったからである。
紅覇を産んだあと、紅徳に見向きもされなくなった紅覇の母は気を病み幼児化、現在紅覇が母の代わりとして行動し、近くに近付くと刃物で切りつけたりしているようだ。
そして私は紅明、紅炎兄さんと共に紅兄弟三男の様子を見に行った訳だが。
兄は切りつけられ、弟は殴られ、てんで散々な目に遭っている。私はというと「ど、どっぺるげんがー!!!」と大声を挙げられた。心に深い傷を負ったんだが可愛い弟よ。
まぁ結局は紅炎兄さんに頭を撫でられてほだされたのだけど。可愛いなあもう。
それから数日、ようやく私達に気を許したのかにこにこしながら紅炎兄さんにベッタリな紅覇は、兄さんの服の袖をギュッと握りしめながらふと疑問を口にした。
「ねー、なんで明兄と影姉はいつも一緒なの? べったりだー」
仲良しだねえと笑う紅覇は天使か。その隣でちょっと顔をしかめたのが兄さんである。
「……紅明はいつになったら姉離れするんだ」
ちょっと呆れを滲ませた兄さんに紅明は俄関せずと言ったようにいつも通り私と手を繋いで指を絡ませ、所謂恋人繋ぎをしてぎゅうと握る。ちょっと満足げなのは如何なものか。達成感満載なんだが。可愛い。
紅明は握った手から視線を逸らし、「……何がいけないのですか?」と兄さんを見つめてきょとりとした。
「それだ」
繋がれた手を指差し全く、と項垂れる紅炎だが、紅明は直す気がないらしくぎゅっと腕に抱き付く。まだ身長が一緒だからか顔が近いがとにかく可愛い。
すると紅覇が「僕もやるー」と兄さんに抱き付いた。えへへと笑う紅覇を見て少し頬を緩ませた紅炎兄さんはさっきまであんなにお小言を漏らしていたクセに見る影もない。アンタも大概だな。
へらりと頬を緩ませて、真似をするように私も紅明に抱き付いた。
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最近、胸が出てきた。以前まで着ていた服は胸回りがぐっとキツくなってきてヤバイ。ぱつぱつである。まぁとにかく、ぐんぐん大きくなっているのだ。ぐんぐんヨーグルかよ。別の漫画だっつーの。前世で全く色気のなかった貧乳の私と同程度にまで大きくなっている。まだ15にもなっていないこの年で。前世の私ぐっない。
あれか。練家の血筋的なあれか。いやあれってどれだよ。まあ白瑛もでかかったしな。いや、あれは玉艶の家系の血筋か? それなら私の母がでかいのか? 謎やわー。前世で読んだネ○まの女の子たちも一部かなりでかかったし、そんな感じのあれか。だから別の漫画だっつーの。
とりあえず、ぽよぽよと揺れるそれが鍛練のときに邪魔で仕方ないという話だ。練家の定めか。そうなのか。嫌だな。
そしてこの年になっても双子揃って一緒に寝るってどうよ。紅明、お前夜伽はどうしたんだ。原作白龍から聞く限り皇族男児は流れ作業なんだろ、流れ作業。とっとと卒業してこいよ。
私はと言うと、顔に大きく傷を負ってしまっているので嫁には出れない。好都合である。ずっと煌に居たい。それが出来ないのは分かっているが。将来将軍か兄弟の護衛を勤めたいな。まぁ必要なのは金属器だ。金属器欲しい金属器寄越せジュダル。
とりあえず、鏡の前に立ち、ぽつりと胸を見ながら呟いた。
『……将来どないな大きさになるんやこれ』
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紅明side
凛とした佇まいからかもし出される雰囲気は気だるげだが威圧感を纏って色気を伴い、腰の太刀が無骨な装飾ながら花である彼女をいっそう引き立たせる。今の時点で兄上や殿下達すら退け煌帝国内一番と謡われる程の剣の腕を持つ彼女は私の双子の姉、紅影だ。
最近彼女は胸が出てきたと気にしていたが、今は成長期だし、寝静まった頃に私が揉んだりしているのも原因のひとつだろう。変態じゃないですよ。
と言っても私、何を隠そう彼女を愛している。要するに恋愛的好意を実の姉に寄せているのだ。
『姉さん』
「お、どないした紅明」
最近私の方が高くなってきた身長に少し感謝しつつ、後ろから姉へと抱き付く。姉は嫌がるでもなんでもなくただ笑って私を享受するのだ。
姉に惚れたのは簡単だ。私の為に頬を盛大に切り裂いてくれた時から、私は彼女に惹かれて仕方がない。
『紅明』
「嫌です」
『まだなんも言うてへんわ。本読みたいから資料室行こ』
「……むう」
『ほら』
渋々と、私は紅影姉さんの首に巻き付いた腕を外し、差し出された右手を取った。
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ヒロアカ転生トリップ。爆豪の二つ上の雄英ヒーロー科兄主。
一人称『俺』
個性は『爆発火』。弟みたいにニトロのような汗を手のひらから出し、手のひらで爆破したり、そのニトロ汗が付着したものを意識的に爆破できるガチの爆弾。時間差。
面倒見は良い。頭は普通、運動神経が良い。弟が天才肌過ぎていつか抜かれそうで内心怖い。
髪の毛は跳ねてるけど爆発はしてない。名ばかりいけめん。中身のが男前。前世の記憶があるからかかなり達観しているクラスのお父さん。下手したら自分のお父さんよりお父さん。
ビッグ3に並んで『帝王』なんて呼ばれてるヤバイ人。中身は普通。
顔の左側ガチめの火傷跡。自分のせい。
**
記憶持って転生して、爆豪とかヒロアカじゃんマジでこんな名字あんだなとか呆けてたら個性やヒーローオールマイトがうんちゃらかんちゃら、まっさかー、みんなよってたかって騙そうとするのはいただけねーなーなんて冷や汗掻いてたら二歳の時『勝己』なんて名前の弟が生まれた。おいおい。そして四歳で爆発火の個性が出た。おいおい。マジでどうした俺の手のひら。ちょっと甘い匂いすんだけどこれニトロ? ニトロなの?
手のひらじっと見てたら左目めがけて大爆発が起こって顔半分マジで火傷あとになった俺の時間はその時から正常に動き出した。とりあえず顔の左側に消えない火傷跡が残った。最悪すぎかよ。
そして悟る。あ、これ、ヒロアカだわって。
それから。構って構って遊んで遊んで兄ちゃん個性かっこいい見せて見せてと喧しい原作の面影のおの字も見えない弟、爆豪勝己をそれなりに仲良く構い、日々庭先でバンバン個性爆発させて伸ばしに伸ばした。なんか検証の結果俺のニトロ汗は遠距離でも意思ひとつで爆発が起きるらしい。マジの爆弾人間だ俺! やべえ!
なぜ日々訓練しているのかだと? 決まってんだろ死にたくねぇからだよ。だって誰でも個性持ってんのよ? 敵なんて見えないところで近くに居たりすんのよ? 怖すぎるわ!
ということで個性の免許取るためにとりあえず雄英ヒーロー科目指すことにした俺。……アッ、アッ、待って待ってビッグ3と同期とか霞むじゃんやめろください。
「兄ちゃん遊ぼーぜ!」
『おうぅっ、締まってる締まってる! 勝己俺の首クソ締まってるやめろバカ!』
「遊べよ!」
『ついに命令系だと!?』
ちょっと弟の未来が心配になってきた今日この頃。
……え? 俺の名前? 『爆豪 壱己(かずき)』だけど。
.
小学校に入学した頃、勝己が年中になり、勝己の幼馴染みの出久が無個性だと罵られ始めた頃。
俺はこの世界の人々がちょっと心配になってきた。
「壱己くんその痕触っていーい?」
「壱己ー! 火傷痕かっけーからちょっと触らして!」
何 が ど う し て こ う な っ た 。
火傷痕とか絶対なんか周りから言われんだろ幼き俺の馬鹿野郎とか思っていた俺の憂いを返せ小学生ども。なぜそんなに興味津々なんだよ! もっと怖がれよ! いや別に怖がられたい訳でもないがな!? 個性あるし許容せにゃならんこともあるだろうよ! それにしたって普通の子は怖がるもんだろ!
俺の常識がおかしいのか? なんて思ってたけどこの世は超常が常識なんだから俺の常識がおかしいのかと考えを改めた。いや何でだよ! 前世The・普通! な人で職業は警視で普通に家庭築いて普通に家族円満だった俺からしちゃこんなもんパニくるわ! 死んだ覚えないけど転生しちゃったんだぞ俺! せめてめちゃくちゃ出来た嫁と中学生なのになぜか全く反抗期が来なくて不思議な娘に一言言いたかったわクソが! 明日は遅くなるけど待っててくれよとか、とっとと反抗期迎えた方が後が楽でいいんだぞ! とかな! 俺は父親か! 父親だったなそう言えば! ダメだ一旦落ち着こう、錯乱している。餅つけ俺。ぺったんぺった……何餅ついてんのちげーだろうよ落ち着くんだ俺。
まぁこれも一応過ぎたこと。案外あっさりしてんねとか言うなよ。割りきってんの俺は。伊達に前世40後半も生きてねーよ。……おっさんとか言ったら怒る、クソ怒る。ブチギレるからなおうこら。
半年も経てば火傷に興味示すやつなんざ居ねーわな。
『なぁ夜久』
「ん? 何?」
『小学生って残酷だよな、あ、俺も小学生だったわ』
「何言ってんだお前頭大丈夫か?」
『親友の唐突な毒舌に俺は今戸惑いを隠せないでいるんだが』
「なあ、戸惑ってんだよな? 本当に戸惑ってんだよな? 表情変わってねーよ? 本当に戸惑ってんの?」
『実を言うとそこまで戸惑ってねーよ』
「要らん嘘つくなよ……」
親友、影山 夜久(かげやま よるひさ)との無難な掛け合いにここの一角既に高校みてぇな掛け合いしてんなとぼんやり考える。
影山夜久。個性『操影』と言う影を操る個性を持っている。相手を拘束したり、鋭利な刃物になったり需要の高い良い個性。本人は自分は動かずに色々物取れるから楽だと言う勿体無い使い方しかしていない。馬鹿だなコイツ。
夜久なげーし819に夜久って名字居たよなと思いだし「夜久(やく)」と言うあだ名で呼んでいる。本人は別に嫌がってないようなので多分このままだ。
『あ、夜久。次理科室だとよ』
「ファイルファイル」
パタパタと席を立ち後ろのロッカーに向かった夜久に俺のも取ってよるひさちゃーんと声を掛けると「ちゃんヤメロ!」と叫ぶ。ファイルが回転しながら飛んできて角が当たって額でスコンと良い音が響いた。
『ってぇんだよこの夜久!』
「取ってやったんだろ!? ってこの夜久ってなんだよ!?」
『サンキュー』
「俺もうお前のテンションがわかんねーよ、この夜久ってなに」
『いくぞー』
「だからこの夜久って何!!?」
.
時が経つのって本当はえーな。なんやかんや紆余曲折あってもう俺中学生だよ。中一だよ中一。
身長もぐんぐん伸びて筋肉もわりとついて、何て言うか……細マッチョ? そんなんになった。肉体美だろ、見ろこの肉体美。頼まれたって見せねーよ。
そろそろ雄英への入学入試のために赤本買うかとか学校の帰り道に呟いたら夜久に「早くね?」とぼやかれた。
『雄英に早すぎなんてことねぇんだよ。倍率約300だぞ勉強しねーと死ぬわ』
「あー、お前雄英行くんだっけか。言ってたなそう言や」
『夜久は?』
「俺別にヒーロー目指すつもりねぇしな。とりあえず雄英の普通科受ける気。つっても二年も先だけど」
『あと二年だぞ馬鹿かお前。あ、馬鹿か。馬鹿だもんなお前。知ってんだぞ前の小テスト0点取ったこと』
「何で知ってんだよ!!! 俺はバカで結構! 俺は地道にやるし!」
『ウンソウダナ』
「めんどくさがりやがった……」
それにしても雄英とは。夜久お前俺のこと大好きかよ。と呟けばガチトーンで「キモッ」と言われる。ちょっと傷付いたぞ……。
とは言え、雄英目指すのは分かる。たとえ普通科でも雄英は雄英に違いはない。就職便利だろうな。
**
『たでーまー』
帰路すがら本屋寄って赤本買ってコンビニで勝己用にオールマイトが付録だった新発売のお菓子買って帰宅すると、母さんから「おかえりー」と元気よく返ってきた。そしてどたどた聞こえる廊下を駆ける音に身構えた。
「兄貴っ」
『うぶっ。ぐ、流石の俺の素晴らしい腹筋も勝己の頭突きには耐えらんねぇわ……いてえ』
ずどんと音がしそうなほど頭突きぶちこんできた勝己に多少ふらつくも、まだまだ軽いその体を抱き上げる。「……おかえり」と最近見せるようになったブスくれる顔に苦笑いして『ただいま』と返した。
そっと下ろしてからリビングに入ると後ろからとたとたと勝己もついてくる。
「何壱己もう赤本買ってきたの? 二年先よ?」
『まーなぁ。雄英だし用心するに越したことねーよ。高校範囲まで分かるから、一応確認みたいな』
「こうっ……どこでそんな知識身に付けてくんのよアンタは」
驚愕を声に滲ませる母にからから笑って、勝己に「新しいの売ってたから買ってきた」とお菓子を渡すとサンキューと叫んで早速机で袋を開けていた。
お菓子開けるとききちんとテーブルの位置につくとこは母さんの教育行き届いてるよな……。外じゃブイブイ言わせてるけど、基本礼儀正しいもんな勝己は。
学ラン脱ぎながら母と目線がカチ合い、きっと同じこと考えてたであろう。お互いにへらりと笑みを浮かべた。
.
時間って経つのクソ速ぇなとつくづく感じる。今や小学生だった勝己も出久も中二になり、俺は雄英ヒーロー科入試を無事に通った。
いや、まぁ前世県警で働いてたし赤本とか復習してたしで入試問題はかなり簡単だった。拍子抜けしたと言えば実技かな。コミックスの時みたいな設定の対ロボット仮想敵。ぼこぼこのフルボッコにしたら一般入試一位取って入学したわ。
そう言えば夜久。アイツ普通に普通科受かってた。ヒーローなんねーのと聞くと「俺万能個性だし本当に心配して言ってるみてーだけど、本当にヒーローに興味沸かねーの。お前も同じ目ぇしてるけど」と返された。
まぁそうだね。認めよう。俺別にヒーローなりてー訳じゃねえわ。個性使える免許目当てだ。グラントリノとかそんな感じの動機だったし俺もそんなんでいいだろ適当だよ悪いか。オールマイトにはなんの魅力も感じねーしな。見てりゃただの2mのムキムキなおっさんだよ。いやまあ憧れるの分かるよかっこいいし。
俺が惹かれなかっただけだ。
「じゃあまた放課後な【王様】」
『誰が王様だ夜久コルァ』
朝、登校して廊下のヒーロー科と普通科で教室が分かれているので、それぞれのクラスに向かって進む去り際そう言われて思わず罵声を返す。本気で王様ってなんなんだよ。
がらりとクソでけえ扉を開けて入ると教室に将来のビッグ3がいた。……うそーん。
天喰は名前順の関係かすぐそばに居た。通形も天喰の机に寄ってきている。うわ、マジモンだ。
一瞬硬直するも、流石にここに立つのは邪魔かと思い「よろしくな」とだけ声を掛けて指定の席に着席する。……後ろの席が波動ちゃんだった。
……ちょっと囲われ気味なのは気のせいか?
**
やって来ました雄英体育祭。
ここまで来るのにかなり紆余曲折。入室時に天喰と通形に声を掛けたからかなんか仲良くなった。わりと三人で行動したり。俺が夜久と行動したりするから抜けたりするけど。意外なのはわりと天喰がちゃんと話をしてくれるところだなうん。人見知り発動かと構えてたから拍子抜けした。そして波動とは後ろの席と言うことで話しかけられるのなんの。ねぇねぇその左の顔の火傷どうしたの個性ってなに等々。つきることないな疑問! 可愛いから許すけど! まぁよく話す仲だ。そして他のクラスメイトには顔の火傷が原因で話し掛けて貰えない。小学生だった頃のあの感性今こそカムバックの日だろおい……。
ギャラリーからの凄まじい歓声の中、クラス委員に従ってぞろぞろ歩いていくと、通形に「大勢居るな! 凄い!」と話し掛けられた。
『マジそれな。やべー心臓爆発でこえー』
「爆豪でも緊張したりするんだな……」
『わり真に受けないでさっきの嘘だから。周囲なんて騒音くらいにしか思ってないから』
「爆豪得意の意味のない嘘だな!」
「なぜ嘘を……っ!」
『緊張解けたろ』
ポカンとする二人ににやァ、と笑ってやると二人して顔を見合わせて笑ってから通形に背中を叩かれた。おいやめろなにをする。とりあえずその場繋ぎの嘘で誤魔化せたから良しとする。別になんにも考えず嘘ついたからな俺。結果論だけど緊張溶けてよかったよかった。
.
そして選手宣誓の時。この役目は入試一位、つまりは俺の役目だ。
「爆豪壱己!!」と叫ばれた自分の名前に呼ばれるまま壇上に立ち、背筋を伸ばしていすまいを正す。
『宣誓!! 今年の一年体育祭は』
ぎらぎらと光る眼光のままに舌なめずりをしたあと、にやっと口角をあげて、カメラに人差し指をつきつけた。
『俺が、一位だ』
一切の迷いなく断言。その一言に他クラスは唖然、俺のクラスはクスクス笑ってアイツやりよったとばかりの雰囲気を出している。一気に沸き立つオーディエンスと実況席にほくほくした気分で列に戻ると通形に肩を組まれ、天喰に「お前はヒーローに向いてるよ……」と苦笑いされた。マジか俺ヒーローむいてんの。
今まで一定の距離を保ってきていたクラスメイトたちにわっと囲まれ、「よく全国中継で断言するわ」「コレ一位になれなきゃ超はずいやつな」「さすが私らの王様ね」「むしろ帝王だろ」「「ああー」」『てめーらばかにしてんのか』と軽口を叩き合う。今までの距離どうした。
「ねえねえ一位なれなきゃ恥ずかしいの知ってる? 知ってた?」
『全部承知の上だ。俺が纏めて蹴散らす』
ひょこひょこ近付いてきた波動にそう返すと「ねえねえ爆豪! コレが王様、もとい帝王って呼ばれる由縁なんだよ! 知ってた?」としたり顔をしてきた。この態度だった……だとぅ?
**
結果から言おう。俺、完膚なきまでの一位を取った。最初の競技はやっぱり妨害オッケー障害物競争。言葉通りに自分のクラス纏めて全てを蹴散らし圧倒的大差をつけてゴール。まぁ途中足捻挫して転けそうになった女子抱えて一時走ったけど、すぐ担架に乗せた。捻挫のとこ真っ青だったしあれはやばい。そして次の種目も圧倒的一位。昼休憩はクラスの奴等に誘われたが、夜久と約束していたので断って二人で飯食った。ランチラッシュの飯最高。
トーナメントも体術と爆発火を最大限駆使し無傷で駆け上がった。
「マジで一位取ったアイツ……」
「チェックチェック!」
「カメラ! 早くしろ! 彼映せ!」
ざわめく観客席がめちゃくちゃ気持ちいい。世に知らしめた俺と言う存在に叫びたい衝動に駈られるが、隣の通形にぱっと口を手で塞がれた。もがむごと意味のない言葉が漏れてクラスがクスクスと笑みを溢す。
そう、これ。こういうの。こういうの俺は望んでたの。和やかなクラス。ヒーロー科の時点で個性的すぎる奴等ばっかだけど、こういうクラスで楽しむって奴! 俺好きこの雰囲気。
一位の壇上に上がってメダルを首に下げると、直ぐ様マイクを向けられた。え、なに。ちょっと困惑なんだけど本当に何?
<宣言通りに一位を取った爆豪くんに一言お願いしたいと思います! どうぞ!>
『嘘だろ聞いてねぇよ!? なんだこれ!? いやまぁ当然かうん待って待ってちょっと待ってね今言うこと考えてるから超テンパってるから。だっせーとこ映すのやめろください』
多分会場のみんな思ったろう。なんだこのギャップと。しまりねーの分かってるよ! しめるよ今から!
『……来年も完膚無きまでに圧倒的な一位をもぎ取ります。王様だ帝王だとかクラスメイトから変なあだ名つけられてるけど、それに対して恥ずかしくないように、実力と自身と風格的等を身に付けれて行ければと思ってます』
その日以降、俺は王様ではなく『帝王』と呼ばれることが増えた気がする。
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すみません!小説のリクエストとか出来るでしょうか?
常闇とカカシの絡みとかいうの、見てみたくて。
はい、出来ますよー! いつになるか分かりませんが、とりあえず短編になるので
【正味】ジャンル様々【短編やで】
の方で書かせていただきますね。リクエストありがとうございます!
今まで若干の距離があったクラスメイトとも打ち解け達成感に満たされながら学校から帰宅した俺は、リビングを抜けたところにテレビの前でいつの間にか原作元祖爆豪になった弟が居座っていた。
ちら、とこちらに目をやってから、モゴモゴ口を動かして、最終的に「チッ」と舌打ちをかまして自室に戻って行く。
なんだあいつ。いや、なんだあいつ。舌打ちて。酷くね?
「壱己お帰りー。「俺が一位だ」なんて大口叩いて一位で優勝してきたねアンタ、すごいわ」
『ハッ、俺が一位以外とか有り得ねーし』
「またそんなこと言う」
呆れる母さんにからからと笑ってから俺は今日一日の汗を流すため風呂場に向かった。
**
休日を挟んだ登校日には、職場体験の為の指名が発表された。俺の獲得票よ。五千越えて。そしてそれに伴い、ヒーローネームを決める授業が取り込まれた。判定はミッドナイトらしい。
うわ俺なんも考えてねぇ。
通形が「ルミリオン」、天喰が「サンイーター」などなど抜けていく中、俺は、なかなか思い付かなくて頭をうんうん言わせて捻らせる。
みんな頭をふり絞れ! 知らねぇ?有名な魔王の子連れ番長の不良漫画。
あー、だのうー、だの意味のない言葉しか出てこない。ミッドナイトが呆れた視線を俺に向けた。そんな目で見ないでください。
「ねえねえ爆豪決まんないの? イメージないの? これねぇ世に認知されるからちゃんと考えないとだよ! あれ、これ知ってたっけ?」
『知ってます……重々承知しております』
「爆豪がおります! ねえねえなんで敬語? どうして? 不思議! 爆豪って不思議!」
ど こ が !?
ウンソウダネソウカモネと適当に波動をあしらいながら、ふと頭に浮かんだのをサラサラとボードに書いていく。そのペンはゆどみなくボードを滑って、きちんと綺麗な字で書かれていた。ああ、これわりとしっくり来るかも。
「書けた?」
『おー、書けた書けた』
「どんなの? 何? 不思議!」
『発表するから落ち着けよ』
がたりと席を立って、教壇にドドンと公開する。ミッドナイトは「グッド! かっこいいわ覚えやすいし! ……でもなんでそれにしたの?」と笑顔だった。
『誕生月だから』
【如月】。これが俺のヒーローネームだ。そして誕生日は2月1日である。ぴったりだな。師走とかになると俺的にヒーローネームとしてイマイチだから。
.
俺、今かなり超絶級に困ってます。
「ねえ。ちょっと爆豪くんのパンツ貸してくれない?」
『丁重にお断りさせていただきます!!』
俺は隣のクラスのヒーロー科の女子に俺の下着を要求されてます。
こうなったのは少し前に遡るんだが。林間合宿二日目にて、訓練もそこそこに、みんなで作った夕飯を美味しく食べたあとだった。テーブルにてA・B組ほとんどのクラスメイトが居るなか、俺とは別のクラスの女子が声を掛けられる。見覚えが有ると思えば、体育祭で足怪我して運んだ子。
霧崎 零(キリサキ レイ)。個性『結界』の子だ。防御力が高く、そしてまた、結界の形は自由に変えられるので攻撃力も高い。そんな個性の女の子。
さらさらとたなびく腰までの長さの綺麗な黒髪は光に当たって天使の輪を作っており、また、その涼しげに整った顔は所謂クールな美少女。胸も大きなスタイル抜群ときた。なんだこのクールビューティ。これは多分既にクラスの複数の男子から好意寄せられてんなと確信する。この時の俺はめちゃくちゃ美少女じゃねーかこの子なんで体育祭でよく見なかったんだよ馬鹿とか思ってたよ、ええ思ってましたとも。
お礼か、やっぱりいいことすると気持ちいいわそれも美少女からなんてひゃふーとか茶番を繰り広げてたら。
「体育祭の時に一目惚れしたの、好きです爆豪くん。付き合ってください」
そんなこと言われてきょとんとした。もちろん今世の俺に耐性等ない。そうですよ、前世はともかく今世は全くないですよ! 今は精神がわりと肉体に引っ張られてるからホントこういうの慣れない。今世で初じゃね? 告白されるとか。怖い。なんだこれ天下の爆豪くんが情けない。
oh? 俺は微かな笑顔を称えたまま首をかしげる。
シン、と静まる周囲になんか喋ってくれ聞くな聞くなと思いながら、沈黙に耐えた。耐えたよ俺。
スッと彼女のたおやかな両手が俺の無骨なかくばった手を取った。
うおおいきなりなんだ。……あれ、え、ちょま、え、体動かねえんだけど。
「だから」
『は、』
表面上硬直してというかマジで動けないでかなり狼狽えている俺の胸板にそっと左手を置いた彼女はそれを支えに背伸びし、俺の左頬に右手を添えてから__。
「唾液くれない?」
『ふぐっ』
聞いといて採りに来たこの子。柔らかな感触を唇に感じながら、滑り込んできた舌が唾液をさらっていく。
周囲が沸いた。沸くな! 誰だ口笛吹いたのは!
互いの唇から銀糸が引かれ、俺よりずっと身長の低い霧崎の口の端に垂れた。離れた彼女の顔は恍惚として、俺の唾液を飲み込み、端についたそれすらも舐めとる。
唖然とした。
硬直が解けた俺が第一に思ったのはこの場に先生居なくてよかった、だ。絶対反省文とか書かされるやつだこれ。
次は色々なワードが頭の中を駆け巡っては消えてまた浮かんでくる。そろそろ脳がキャパを越えそ……
『う…』
くるりと回った視界にあっキャパオーバーとどこか冷静な頭で考え、意識はプツリと途切れた。最後に見たのは俺を見て頬赤く染めてはぁはぁ言ってる霧崎だった。
それ以来なんかこうして度々変態的要求をされるのだ。あの付き合ってくださいの返事は『お前のその変態的要求が収まってからだ!』と告げている。天喰にちょっと失礼じゃないのかと言われた。そうかもしれないけどな、我慢ならんのよ。
「じゃあキスしたい」
『じゃあってなんだ!? やだわ! つか俺のファーストキス持ってったの誰でしたっけ!?』
周りに変態が増えた。
.
それから。まぁ二年経ちました。俺ももう高3で、天喰や通形、波動、霧崎さん、そして我が親友夜久と決まった面子でワイワイしてましたよ。インターンとかな。
そして夜久が一年の林間合宿後にサポート科に転向してた。実用的価値が他のサポート科の生徒と見ても圧倒的だった夜久のアイテムは基本俺が使っている。というか夜久が俺専属みたいになってる。
夜久が熱に反応して溶ける防水性の布やガラス、プラスチックとか開発したので、俺の攻撃の幅がグンと増えた。だって俺遠距離意思型でもある。布に飴玉大に包んだニトロ汗を投げると意思ひとつで爆発可能。まじもんの爆弾人間になった。ガラスのは地面に叩き付けて染み込ませて相手をそこに誘導すれば疑似噴火なんてのも可能。設置型かよ。技もいろいろあるが割愛。
何だかんだ夜久のお陰で俺の攻撃手段が多彩になりつつある。お前にこんな才能があったなんて知らなかったよ俺ぁ。
高二の時に弟の勝己がヘドロ事件で被害者としてテレビに出たのを無事だって分かっててもガチで心配した。だって身内だもん。めっちゃうざがられた。「兄さんうぜえ失せろ」って言われた。これが世に言う兄離れってやつか。わりと辛い。俺のブラコンの気があったのに驚きつつ、まぁ弟も雄英の一般入試をトップで合格した。お兄ちゃん嬉しいよ。意外にも勝己が俺のこと「兄貴」呼びではなく「兄さん」呼びだったのにびっくりした。
ま、とうとう原作が始まった訳であるが。
「ねぇ壱己くんちょっと精えk」
『言わせねーよ!?』
とんでもないものねだってきた霧崎さんの口を片手で慌てて塞ぐ。なんちうこと平然と口にしてんだこの子は!
二年経った今でも俺と霧崎のこの曖昧な関係は続いている。そろそろ返事してやれよとヒーロー科からの視線が痛い。確かに待たせ過ぎだとは思ってんだけど。コイツも二年でかなり成長したからな。容姿しかり性格しかり。ワガママボティになってくれちゃってやがる。男子としてそういう目で見てしまうのは仕方ないと言うか。でも絶対言わない。言うと調子のって脱ぐ。確信が俺にはある。まあ、なんだかんだ言って多分きっと恐らく俺もコイツ好きだから、変態的欲求なくなったら、うん。収まるところに収まるはずだ。最早なくならないかも知れないと思っている今日この頃。
ぺろりと舐められた手のひらにぞわわと背筋に何かが走る。肩を跳ねさせた俺は、はふはふと息を荒げて笑う霧崎の頭をべしりと叩いた。
俺はというと、なんか知らんがビッグ3と別枠で雄英の『帝王』の座についている。認知度高過ぎて最早あれだ、雄英じゃあ俺=帝王みたいな方程式出来てるから。原作こんなポジションなかったよなぁと悩み中だ。
もうすぐ時間だから戻るわね、と凛々しく去っていく雄英一のクールビューティにどうしてそういう態度を俺の前で出来ねぇのとしょぼくれながら教室に入ると通形や天喰がハアとため息を吐いていた。やめろ。
「…ま、いっか! それより壱己、お前の弟、ヒーロー科入学したらしいね!」
「俺も聞いた。ヘドロの…」
『合ってる合ってる。俺に対してめちゃくちゃ絶賛反抗期な弟が入学した訳だ』
「「壱己に対して」」
『俺と比べられていらいらしてるっぽい』
ああ、と言った風な二人に俺は哀愁漂わせてため息を吐いた。
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ありがとうございます。楽しみにしてますね。それでヒロアカ以外に好きなアニメや漫画は好きですか?
300:マメツキ◆A.:2018/02/08(木) 23:46 ID:4z. 週刊少年漫画全般です! 全部好きなんですけど、特に完結したのが好きですね。
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USJで敵がやって来たと学校側から通知されて臨時休校になった今日。俺は休みだから遊ぼうぜ、と誘ってきた夜久が家まで迎えに来るのを待っていた。
勝己はなんか釈然としなさそうにトレーニングに励み始めたので声を掛けるのは止した。本当になんか大変だな、今年の一年A組。
ぴんぽんと鳴るチャイムに、あぁ夜久が来たのかと母さんに「行ってくるわ」と声を掛けて玄関を開けた。
「こんにちは壱己くん」
『……霧崎さん、こんにちは、挨拶って大事だしな、うん、大事。夜久、説明』
「偶然会った。から誘った」
「そうよ」
『……あー! わかっとるわ! 誘われたらしゃあないわな! しゃーねーな!』
玄関を出て、ボディバッグを背負い直して歩き出す。誘ってしまったのなら仕方ない、仕方ないのだ。
「イケメンで俺様なくせして優しいからモテるんだよなコイツムカつくわー」「流石私の壱己くん」聞こえてんぞクソ夜久。俺は今は誰のでもありませんけど。
嘆息した俺の両隣に、顔を見合わせて当たり前と言う風体で並んできた二人に頬が微かに緩む。……この配置は悪くない。
目的地である大型ショッピングモールに向かいながら他愛もない話を三人でしていたら、夜久が不思議そうな顔をして俺達を見た。なんだよ視線クソ鬱陶しい。
「……なあ。なんで霧崎は「壱己」なのにお前は「霧崎さん」なんだよ、気になんねえ? お前がさん付けとか珍しいけどさ」
『気にしたことねーわ』
「私は常々いつ名前で呼んでくれるのか待ってるのだけど」
「ほら」
『ほらじゃねえんだよ』
不意と夜久から視線を背けて前を見つめると「呼んで」「呼んで」と両隣からコールが聞こえてきた。呼ばねーよ。
「零って呼んでほしい」
「ほら壱己」
『……』
「零って呼んでほしい」
「ほらかず『エンドレスかっ!!』
黙ってやり過ごそうとした俺にエンドレスコールし出した二人に思わず突っ込む。これたぶん言わないとずっと言うやつ。『しつこい』、これは夜久と12年、霧崎さんと2年半過ごしてわかったことの中の一つだ。こんなとこで二人揃って発揮すんなよ。
言葉を口で転がす俺に二人して期待の目を向けてくるからやりにくい。夜久は別に関係無ぇと思うのは俺だけか。俺だけなのか。多分二対一で俺の負けだわ。
『……零、』
「!」
「おお」
『…さん……』
「!」
「うわ」
『文句あんのかコルァ』
なにしてんだコイツと言うような目に変わった夜久に余計なお世話だと二、三発ぶちかました。余計なお世話だバカヤロー! こんな曲なかったっけ。
それより霧崎さんである。そろっ、と振り返り、ちょっと唖然とした彼女と目があった。途端にぼっと音がしそうなほど真っ赤になる。どういうわけかマジの素で照れてらっしゃる。どうした、いつもの変態的要求のがはずいの知ってるか。後ろでボソッと「このリア充どもめ」と呟いた夜久を振り返らずに叩いた。
「まさかさん付けされるとは思わなかった……! 次から霧崎さんって呼んでも反応しないことにするわね」
『零さん呼び強要かよ。素直に名前が良いって言えやそれくらいしてやるから』
「サラッとこのかっこいい発言どう思います未来の奥さん」
「流石私の壱己くんね」
『ちょっとお前らマジで黙ってくんねーかな』
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