ぱちり、と目を開けた。朝日がきらきらしたまぶしい目覚め、ならロマンチックだけれど、実際、日光はカーテンに遮られて弱々しい光の筋を掛け布団に落としている。もぞもぞ、と布団の中で寝返りをうつけれど、二度寝をする気分では全くない。そもそも、今日はわたくし、朝一番からパァルと一緒にご飯を作らなければいけない筈。でもこうやって、何も考えないままぼうっと生ぬるい布団に包まれているのは朝の始まりにふさわしい。誰もがきらきらした一日の始まりを送るわけではないもの、そう思うでしょう?
三十秒ほどそうしていた後、むくりと目を擦りながら身体を起こした。カーテンを開けて布団を畳んだら、顔洗って歯磨きして髪梳かして整えて、寝巻きから着替えてちゃんとエプロンつけて、あとそれから――あとそれから、パァルを起こしてあげないと。
支度を終え、朝の光に満ちた部屋をあとに、わたくしはパァルの部屋へと向かう。パァルはいつも朝に弱い。本当に、全く、起きない。本能のままに生きてるような子だけれど、本能って、朝の光を感じたら起きるものじゃないのかしら。そういうことじゃなくて、睡魔に本能を委ねるってことなの?
そんなことを考えながら歩き、彼女の部屋の前で足を止めた。かふり、と欠伸を噛み殺して、こんこんとパァルの部屋のドアをノックする。
「パァル、起きてるの?」
案の定、返事はない。ぴと、と耳を扉につける。室内で人が動いているような気配も感じられない。廊下には誰も人がいなくて、しんとした時が流れる。もう一度、少し強めにドアを叩いた。「パァル?」
この時点で彼女が起きたことは、自分のの覚えている限り一度もなかった。まったく、本当に起きないのよ。えい、と決め込むと、がちゃんとドアノブを回して彼女の部屋に踏み入れる。
「パァル」
朝日が眩しくて、わたくし、思わず目を閉じたけれど、またすぐに開ける。いつもと同じく、窓とカーテンが開けっぱなしだ。そよ風にカーテンがたなびき、きらきらした日光が部屋を満たしている。膨らんだカーテンのもと、彼女はミルクティー色の布団にくるまれてすやすやと寝ていた。
「パァル」
わたくしはパァルのベッドに近づく。一歩進むごとに、彼女の小さな寝息が大きく聞こえる。いつも思うけど、これってわたくし、忍者みたいじゃないかしら。
「パァル」
膝をついて屈んだのは彼女のベッドの横。彼女の寝顔は綺麗だ。何か、変なことを言うようだけれど、パァルの寝ている姿というのは生命というのが感じられるような気がする。巣で母鳥に抱かれて安心しきって眠る、まだこの世界を何も知らない雛鳥のようで。
「ねえ、起きなさいよ」
ちょっとだけ、彼女の肩を揺する。ん、と言う声さえも彼女は漏らさなかった。寝息に合わせてお腹のあたりを上下させながら、深く、深く、眠ったまま。ほんと、こんなに起きないんだから、毎日大好きな何かでも夢見てるのよ、きっと。
>>391-393 は ひなぱる だよ
>>391からひなぱるはっじまってっるよー