( 掛けられた言葉を聞いてやっぱり一人でいることを心配されている…?と思った。
大丈夫であることを伝えようと口を開こうとした。その時視線を合わせようと屈んでくれた少女の目と正面から目が合い、思わず息を呑み、口をつぐんだ。)
( どうして言葉が出てこなかったんだろう、と璃乃は思う。それは研究施設では誰もこんな風に璃乃と正面から目を見て話してくれる者はいなかったからだ。だがそれを璃乃は気づくことが出来ない。)
( コロコロと変わっていく少女の表情や仕草を見ていてなんだか楽しい気分になってくる。それがどうして楽しい気分になったのかわからなかったが、直感的にこの人は、このお姉さんは、優しい人なんだろうな、と理解した。)
( 再び掛けられた言葉に「私で良ければ喜んで、楽しんでいただけるかわからないですけど…」と返事をしようとしたときだった。ヴーと片腕に抱えていた黒ウサギの人形越しに振動が伝わる。それは携帯端末にメッセージが入った知らせだった。)
ごめんなさい。ちょっと待ってください…。
( 楽しい気分に水をさされた気持ちになって、背中のチャックを開け、人形の中に入っていた端末を取り出す。受信したメッセージを確認した時その表情が強張った)
『目の前の人物は粛清対象だ。速やかに任務に移行せよ』
( それだけの短い文章。だが璃乃にとっては絶対的なものだった。"粛清対象"それは悪事に手を染めている存在であることを表す言葉。そしてその対象を動けなくなる状態にしなければならない言葉。そのやり方はとても荒い。手に掛けることも辞さなければならない。)
( このお姉さんが…?でもお姉さんは優しくて…。じゃあ、あの人達の方が間違っている…?ソンナハズハナイ、ソンナハズハナイ、ソンナハズハナイ……。
大量の言葉と感情の渦が頭の中で渦巻き処理しきれなくなり、頭を抱えて屈む。その時丸まった背中から大量のモヤが発生し、それが人の上半身のように集まると、はっきりとやたらと筋肉質な、黒い全身タイツに身を包んだような人間の上半身のようになり、しかも璃乃の背中から生えたようになっている。その顔には大きく裂けて牙が並んだ口だけが存在し、)
『 テメェはゴチャゴチャうるせえんだよッ!! 要はこの眼の前の女をぶっ飛ばしゃいいッ。それだけだろうがッ!!』
( とその口が叫ぶ。突如上げられた怒声と少女の背中から真っ黒な上半身が生えているという、異様な光景に周囲の人間は離れていき、"異能者だ!"の声が上がる。)
やだ……。そんなことしたくないよ……。
『 ダアアアアアアッ、テメエはもう引っ込んでろッ!!』
やめ…て…。
( その場にへたり込む。黒い上半身が再びモヤに戻り更に璃乃の体から大量のモヤが発生していく。それは完全に体を覆い隠し、3mにも迫ろうかという巨大な人型になっていく。モヤがはっきりとした輪郭になるとただでさえでかいのに、その上、全身筋肉質で立っているだけで高圧的な存在感を放つ、真っ黒な人型の存在になる。それは一言で化け物と言っていい存在だった。)
『ヒャハ…久々のシャバだァ…。』
(笑ったことを示すように口が歪に曲がる。眼はないがその顔は綴の方に向けられている。そして品定めでもするかのように無言で少しの間そうしている、しかしその直後に、)
『ミンチになっちまいなァッッ!!』
(と、突然叫びながら、その豪腕に依る打ち下ろしの右ストレートを綴の顔中心に向かって繰り出す。その威力はコンクリートを粉砕することのできる威力を持っており、そんなものが人体に当たったならば、その光景は言葉にするのにも憚られる惨状になってしまうだろう。)
>>15 姫宮様
っ 、大丈夫ですか ? 何処か具合で 、も …… ッッ
( 一緒にいてくれそう。そう胸を高鳴らせたのも束の間、着信音に我に返って。それもそうよね、こんな時間帯だもの。きっと心配している人からの連絡ね。安心したような、けれど少し寂しそうに笑みを零せば少女を見つめたまま暫し待機。けれど、相手が頭を抱え始めたため慌てて背中を摩ろうとして。然し、黒いモヤに気付けばその声は徐々に小さくなっていき。周囲の叫び声で全身に力が入ったのか、咄嗟に手のひらを返せば大量の桜が舞い上がり。攻撃を防ぐ為の其れは、量任せで完全な防御とは言えないもので。多少の力は吸収したものの、弾けるように桜は散り、当の操り主は後方へ飛ばされて。)
__ ぅう 、かはッ
( 何人かを巻き込んでしまったこともあり、そこまで大きな怪我はせずに済んだようで。数回咳をしては上半身を起こし。周囲には犇めき合う人。こんな場所で異能をぶつけ合うなんて危険過ぎる。ゆらゆらと指揮者のように指を振れば自身の座り込んだ場所だけにインクがちゃぷちゃぷと溜まり始め。確か、人気のない場所にインクを塗っておいたはず。そこまで移動しなければ。相手からまた攻撃されるかもしれない。ちゃぷん、と水の中へ入るかのように体はインクの中へ沈みつつ。)
>>16 阿笠さん