【地下アジト】
狼谷
「…………ッ!!
何でここに……三羽鴉がいるんだ………!?」
中川、紀、桜空の三人が最初の頃に生じていた破壊音や爆発が無くなり、アジト内には沈黙か戻りつつあった……
何故なら、狼谷は右腕を切断され、狼谷が率いていた攻撃部隊もその半数以上が倒れ、絶命してしまっているからだ……
狼谷は桜空の時にも見せたように、銃弾や斬撃が進行時に生じる衝撃と風圧を利用することで回避することが出来る鉄壁のような防御力がありながらも、眼前にいる相手には通用しておらず、邂逅した一瞬にして斬り飛ばされてしまっている。
剱鴉
「…………他愛もない。」
青い髪を後ろで一本にまとめ、片目に眼帯を付け、背中には剱鴉の身長よりも明らかに長く、2mにも及ぶ大太刀を背負った少女……八咫烏の最高戦力が一人であり、八咫烏の頂点に君臨する氷華の相棒である『剱鴉』がこの惨劇をもたらした。
狼谷の他にも十人以上も中川や紀程ではないものの高い戦闘力を持った異能者がいたのだが、その多くが反応することすら出来ずにその体を斬り伏せられてしまっている。
一つの困難を乗り越えたその先にあるのは更なる困難か……
>>603、604
「でへへへ、すいませんね」
全く反省の色はない。
「ああそうだ、デカブツ倒したことを旦那に報告しねえとな」
狼谷に連絡を入れる。
戦況が大きく変わったなら、仲間にそれを教えるのが定石だ。
「旦那ぁ、まだ忙しいだろうけど聞いてくれよ。ついさっき蜈蚣のデカブツを大将のお陰で倒せたんだぜ。そんでさぁ……っ!?」
そこで異変に気付いた。
静かだ、静か過ぎる。先程連絡した時は激しい銃声や爆発音がひっきりなしに聞こえていたのに、今回は水を打ったように殆ど物音がしない。
(これは……!?)
明らかな異常事態。早急に彼らと合流し情報の共有をすべきだ。
「成る程、こりゃ確かに急いだ方がいいみたいですぜ、大将」
それによく見れば紀の容態も芳しくない。ちょっとシャレにならないレベルに移行しつつある。
両足に一層の力が籠った。
「はい到着っと〜」
ドリルで掘り進み、その後ろを追いかけることで目的の部屋へと辿り着いた。
「!」
直後、隆次の顔から余裕の色が消えた。
「旦那! それに皆も!」
なんと狼谷は片腕を切断され、他の者達も血塗れで倒れ伏していた。
明らかにシャレにならない事態だ。急いで彼のもとに駆け寄る。
「しっかりしろ旦那。こんなところでくたばっちゃ、笑い話にもならねえぜ」
残った腕の先端部を、針金で縛り止血を試みる。何もしないよりはマシだろう。
「やったのは……アイツか。旦那、何か弱点とかねえかい? 他には攻撃の特徴とかよ」
視線を移せば、青髪の少女。規格外に長い太刀が嫌でも目を引く。
(成る程、あんなのブン回してりゃそりゃ傷だらけにもなるわな)
壁、床に切り傷が幾つも付いたことに合点する。
そして身に纏うただならぬ気迫。他とは別格の存在だ。ともすれば虫の男や水の男より上かもしれない。