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初代巫女
「恐怖…差別……」
魔咲美の言葉の内、特に強い負の感情が込められている二つの単語を繰り返し自分に言い聞かせるように呟く。
初代巫女
「そう……アンタも色々と苦悩していたみたいね……
少し経緯が違うけど……集落の人達から距離を置いたと言うのは私も同じ。」
再び魔咲美の方へ振り向くと、集落から距離を置いたと言う自分と似た境遇である事を口にする。その顔には、悲しみや憎しみは勿論、自分を追い出した集落の人々に対する怒りでさえも感じられなかった。
初代巫女
「だけどね?集落から出て……世捨て人同然の暮らしをしてわかった。
この世界は美しい、朝に輝く太陽、夜を照らす月、移り変わる雲、木々のざわめきに、小鳥達の囀ずり…人々の賑やかな様子、日々を生きる妖、獣達の遠吠えに地を駆けるその姿……」
初代巫女は魔咲美から目線を外し、周囲を静かに見渡し、この世界の美しさについて話す……これまで人と話した事など殆ど無かったからか、ますます上機嫌になって語っている。
初代巫女
「さっきの質問の私の応えを教えるとね?
私はこの世界が大好き、この美しい世界に生まれることが出来ただけでも幸せだと思っている。」
まるで太陽のように清みきった優しい笑顔をして、自分はこの世界が心の底から大好きであると言う。
自分を追い出し集落の人々や、自分に襲い掛かる凶悪な妖怪達でさえも大好きな存在の一つであると言う辺り、彼女の底無しの優しさを備えている。
魔咲美「・・・・・アンタの言う通りだな、生まれることが出来ただけでも幸せ、か・・・・・」
(境遇こそ似ているが、自分は初代巫女のように穏やかに笑みを浮かべたり、生まれることが出来ただけでも幸せという風に考えたことが思い返してみればほとんどなかったように思う・・・・・
森の奥、自然が豊かな場所に住んでいても、いつも思うのは何故自分は周りと溶け込むことが出来なかったか、集落の人間達に差別されたことから湧き上がってくる怒り、悲しみ、そして自分がいなくなったことでやっと皆平和に暮らせるようになったのだろうかという、複雑な感情・・・・・
初代巫女と出会ったことで、心が洗われるような気持ちになる・・・・・)
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