#1 銀と、朱。
年老いた街灯が不気味に点滅する、あぜ道。か細い灯の元、それだけが月の光を帯びて、不自然に鈍く輝いていた。
百舌はいつも通り、学校の裏山で趣味に没頭した後、帰路に着こうとしていた。それは、何ら変わりない日常の断片。其処に突如現れた非日常。それが百舌の眼前にたたずむ、1年3組の山田 環……通称マッキーだ。
マッキーはバスケ部らしい長身をわずかに強ばらせて、警戒するような視線をぶつけてくる。百舌も同様に、強ばった固い表情でマッキーを見つめていた。理由は明白だ。お互い、夜中の21時に誰かと遭遇することなど、想定外だったからだ。そしてお互いの右手には、中学生が持ち歩くには、余りにも異形なモノを握りしめていた。
百舌は渇いた唇を軽く舌で湿らせてから、おもむろに口を開いた。
「こんな時間に、何してるん? ナイフなんて持って、さ……」
そう言われて、マッキーは右手に握りしめた得物を横目で見て、一瞬隠すような素振りを見せたが、すぐに開き直った様に百舌の右手を見て、切り返した。
「お前の斧なんて随分汚れてるな。血だろ、それ」
「じゃあ、何の血だと思う?」
「狸だな」
百舌はわずかに口角をあげて「せーいかい」と言った。
>>2続き
百舌の趣味というのは、動物を殺すことだった。他人のペットを殺すのは犯罪であるし、飼い主を悲しませるのは胸が痛む。ならば所有者の存在しない、山の動物なら殺しても構わないはずだ。そう考えた百舌は、六ヶ月ほど前から時々裏山に斧を持って入り、動物を追いかけ回しては、殺した。死骸は土に埋めて隠していた。
しかし、2週間ほど前から異変が起きたのだ。殺した後、埋め忘れた動物の死骸が、腹を切り裂かれて、臓器を引きずり出されていたのだ。胃袋も切り裂かれて、中身が溢れていた。明らかに人の手が加えられていて、自分の作った死骸に手を加えられるのは、何処か腑に落ちなかった。それと同時に、そんなことをする誰かの正体を、ただただ、確かめたいと思っていた。
百舌もマッキーも、強ばらせていた表情を和らげて、それから笑いあった。
きっと、マッキーも動物殺しの犯人を探し求めていたのだろう。動物の死骸を通して出来ていた、不思議で歪な関係の正体を。