「センパイ、そろそろ彼女出来ましたよね?」
からかうつもりで訊いてみた。センパイのことだから彼女出来てないだろうなあ、顔怖いし。そんな、軽い感じで。だから、ちょっと照れたように顔を背けられた時は、ものすごく驚いた。
「まあ、な」
ショックだった。センパイは彼女が出来なくて、これからもずっとそうだろうと思ってたから。センパイの顔をよくよく見ると、ちょっとだけ、大人になってた。相変わらず、視線は冷たい、けど。……というか。あのセンパイが、照れている。ずっと一緒にいたあたしだって、引き出せなかった、表情なのに。
「センパイに彼女、かあ……その人、とんだ物好きなんでしょうね」
「失礼だな」
そう言って、センパイはあんまり痛くないデコピンをかましてくる。大袈裟に額を抑えると、頭を撫でられた。「お前は変わらないな」って、そんな優しい笑顔、ずるすぎる。
「というか、センパイ」
「なんだ」
「彼女さんいるのに、あたしと会って大丈夫なんですか」
ちょっと沈黙があった。それから、「大丈夫だろ」
「はあ。なんで」
「お前はちんちくりんだから」
「理由になってませんよお!」
悔しいけど、ちょっと安心した。彼女が出来ても、こうしてあたしと会ってくれるんだ。……ええと、ちんちくりんだから。でもセンパイとあたしは、高校時代の先輩と後輩に他ならなくて。それ以上にはなれなくて。そう思うと、なんだか、つらい。センパイは、去年のバレンタインのこと、覚えてないのかな。覚えてないだろうなあ、多分。
「じゃ、そろそろ帰るか」
――あ。そっか、もう帰らなきゃいけないんだ。そしたら、センパイと次に会えるのはいつ? ちんちくりんだからって、あたしなんかといつまでも会っていられない。彼女さんとだっていつかは結婚――うわあ、あたし、結婚式に呼ばれちゃうかなあ。
「なに、暗い顔してんだ」
「別に、なんでもないですけど」
「あっそ」
あの時、みたいだ。もう、戻れないけど。あの時、告白しとけば良かったな。そしたら、今頃、あたしとセンパイはラブラブだったかも。
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