闇に差し込んだ光 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
ふと、真弘は目を開けた。目の前に広がるのは黒。その一色のみ。
口から空気の泡が流れていく。
真弘は、静かにその空間を下へ、下へ沈んでいっていた。
(……ああ、そうか)
――俺は、鬼切丸の生贄として捧げられたのか。
そうであるならば、この場所にも納得がいく。ここは、きっと鬼斬丸が封印されている沼の中なのだろう。
あんな邪なものがあるせいか、沼の水もどこか濁っている。光が一切刺さないほどに。
どこまで続くかわからないその黒を、真弘はぼーっと見つめた。
(……わかってたことだ)
あの日、自らの宿命を言われた時からこうなることはもう既にわかっていた。もう、諦めるしかないのだということも。
己の命一つで、世界が、大切な人が、ものが、全て助かるのならば安いものだろう。
沼の水は、重たく真弘の上にのしかかり、下へと引っ張っていく。何かに引き寄せられるかのように。
(後悔も、何もない)
意識が遠くなる。これが氏ぬということか
これが運命なのだと、抗うこともせず、瞼を閉じかけた真弘。
――本当か? 本当になにも後悔はないのか?
しかし、その彼に心の内の己が声を上げた。
(うるせぇ……もう、どうしようもねぇんだ)
未だ無様に足掻き続けようとするもうひとりの自分を押さえ込むかのように、真弘は胸に手を置いて、拳を作る。
声は帰ってこない。今度こそ、目覚めることのない闇に身を委ねようとしたとき、耳にす、と声が聞こえた。
――…ぱい、……ろ先輩。……真弘先輩っ!!
初めはノイズがかかっているような微かな声。しかし、次第にはっきりしたその声は、確かに、己を呼んでいる。意識が一気に覚醒した。
聞こえてきた、その声は悲痛そうで、苦しげで。でも、いつも聞いていたような気がした。そう、戦いで傷ついて、地に伏せていたとき、ごめんなさいと謝り続けながら耳元で聞こえていた小さな声。
一筋、――真弘に光が差す。それは、真弘ただひとりを照らしていた。太陽でもない、月でもない、ましては人工の光でもない。暖かい光。
(……いや、そういえばあったな心残り)
真弘は、思い出した。泣き虫で、頑固で、でも決して立ち止まらず、前を向き続けたお姫様のことを。――己が一番好いていた女性を。光と呼べる存在を。
そうだ。自分は氏ねない。彼女がいる限り、彼女が自分を求めてくれる限り。だって、彼女は――。
「……俺がいなくちゃ何にもできねぇんだからよ」
体に力をいれ、手を使って沼の水をかいて上へ浮上する。まとわりつく、重たい水に押されながらも、もがいてもがいて、そして、その光に手を伸ばした。
▽真弘×珠紀
・膝枕 / ・闇に差し込んだ光 / >>31-32
・君の愛が欲しい / >>33-36
・強くなりたい。その理由 / >>37
・タイトル未定(無印真弘ルートで、蒼黒) / >>38-40
・タイトル未定(転生パロ) / >>27-28 ※未完
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アンカーってつけすぎはよくないのね…、もうしないわ