>>331
放課後の教室で、本郷海は数学のテキストを解いていた。
以前、殺せんせーに数学が苦手だと話したら、「ではこのテキストを1日2ページ解きなさい」と言われて渡されたのだった。
海「うーん、やっぱ数学は苦手だなぁ。せんせーに聞いてこよっかなぁ」
そう思い、席を立った。
職員室
ビ「あぁ、もうメンドくさいわ。授業なんて」
烏「その割には生徒のウケはいいようだぞ」
ビ「私は殺し屋よ? あのタコを殺すために仕方なくここにいるの。その肝心のタコはといえば…」
イリーナの視線の先にはピンク色に顔を染めている殺せんせー。
ビ「私の胸を景色に見立てて、優雅にお茶飲んでるし‼」
ビッチは席を立ち、殺せんせーにナイフを突きつけるが、余裕でかわされる。
烏「あせるな、そういうターゲットだ」
ビ「Fuck! やってらんないわ‼」
イリーナはそう言って職員室から出て行った。
入れ替わりで入ってきたのは、海だった。
海「殺せんせー、またわかんないとこができちゃった。教えて〜」
殺「おや、海さん。いいですよ」
廊下
ビ(こんなところで足止め食ってるわけにはいかない…⁉)
首元に違和感。気づいたときには体は宙に浮いていた。
ビ(ワ、ワイヤートラップ⁉ 何故)
?「驚いたよ、イリーナ。子ども相手に楽しく授業。まるでコメディアンのコントを見ているようだった」
ビ「せ、師匠!」
烏「おい、何してる」
烏間が目にしたのは、ワイヤートラップに引っかかったイリーナと謎の男性だった。
烏「女に仕掛ける罠じゃないだろう、放してやれ」
?「心配ない。この程度のトラップから抜け出せる方法くらい、教えてある」
ワイヤーが切られ、イリーナは床に落とされる。
烏「お前は何者だ」
?「イリーナ・イェラビッチをこの教室に斡旋した者。といえばわかるか」
烏(殺し屋ロヴロ‼)
ロ「イリーナ、お前にはこの仕事は向いていない。今すぐ手を引け」
ビ「そんな⁉ やれます、やらせてください、師匠…!?」
今度はイリーナの首にロヴロの親指が食いこんだ。
ロ「ならお前は、こういう動きができるか?」
烏(速い!)
海「ねぇ、なんの騒ぎ?」
そこへ、海が職員室から顔を出した。
イリーナのところにいる男を見て、驚いたように目を見開いた。
海「ロヴロ、先生…」
ロ「⁉ 海か。2年ほど行方不明だったと聞いていたが、まさかここにいたとは」
海は警戒態勢に入った。
ロ「いや、今はそんなことはどうでもいい。
イリーナ、お前は正体がバレない暗殺ならひけをとらない。だがひとたびばれてしまえば、ひと山いくらレベルの殺し屋だ」
殺「半分当たって、半分は違いますねぇ」
そこへ、顔が半分紫、半分オレンジの殺せんせーが現れた。
烏「何しに来た、ウルトラクイズ」
殺「ひどいですねぇ、いい加減殺せんせーと呼んでください」
そう言って、ロヴロとイリーナを見る。
殺「たしかに、彼女は殺し屋としては恐るるに足りません。クソです」
ビ「誰がクソだ!」
殺「ですが、彼女こそ。この教室には必要です。殺し比べてみればわかりますよ」
渚side
渚「で、こういう結果になったんだ…」
海「そゆこと」
今、ビッチ先生は烏間先生を殺そうと躍起になっている。
なんでも、殺せんせーの提案で、烏間先生を殺せたらビッチ先生は残留。殺せなかったらロヴロさんと帰ってしまうらしい。
僕らとしてもビッチ先生には勝ってほしいんだけど…。
カ「で、どうして海まで参加してんの?」
海「あはは…」
昨日のことだった。
殺せんせーが烏間先生暗殺ゲームを提案したら、海は「だったら自分も参加する」と言ってきたらしい。
ロ「⁉ 海、お前は参加しなくてもいいだろう。何せお前は」
海「私は直接参加はしないよ。ただ、もし先輩が烏間先生を殺せなかったら私もこの教室から去ると言ってるんだ」
前「で、ビッチ先生には勝算があんのかよ?」
前原くんの問いかけに海はきょとんとした。それから大きな声で笑い出した。
海「あるわけないじゃん」
前「ないのかよ!」
海「だって相手は烏間先生だよ? 勝てるわけないじゃん。彼が手加減しない限りさ」
たしかに…。
海「でも、きっと先輩は勝ちにいける。私はそう信じてる、だから彼女に全てを任せたんだ。それに、どうやらさっきロヴロ先生が怪我をしたみたいだし」
茅「怪我⁉」
プロの殺し屋が怪我をするなんて、いや。プロも怪我をするなんて当たり前だけど、いったいなにが…。
海「どうやら烏間先生がやっちゃったみたい。さすが防衛省の人間だよね!」
カ「あぁ、なるほどね。ようするにロヴロさんが烏間先生を暗殺しようとして、反撃にあっちゃった的な」
海「そうそう」
昼休み(三人称でいきます)
ビ「カラスマ、私はどうしてもここに残りたいの。だから、ね」
海はその様子をE組のみんなと一緒に見ていた。
いったい彼女の暗殺が成功するのかどうなのか。それは海にもわからなかった。ただ、信じるより他ない。
烏(この調子だと、ナイフを奪って終わりだな)
少し離れたところで殺せんせーとロヴロは烏間とイリーナを見ていた。
殺「彼女の授業は挑戦と克服の繰り返し。そんな彼女がこの教室に来てから何もしていないとお思いですか」
そう言い、大きめのカバンをロヴロに渡す。
ロ「これは!?」
ビ「じゃ、そっち行くわね」
瞬間、ワイヤートラップが発動した。
烏「!?」
イリーナは烏間の上をとった!
殺「彼女は私の殺し方を自分なりに考え、挑戦と克服をしているのです。あなたならこのバッグを見るだけで彼女の見えない努力が見えるでしょう」
カバンの中身はワイヤーや殺せんせーの人形など、暗殺の練習に必要な道具がそろっていた。
ビ「もらった!」
ナイフが振りかざされる、が。
烏「くっ、危なかった」
烏間は振りかざされたナイフをがっちりつかみ、なんとか回避した。
ビ(!? まずい、力勝負になったら打つ手が… )
「烏間、殺りたいの。ダメ?」
烏「殺らせろとすがりつく暗殺者がいるか!! …あー、もういい。諦めの悪い奴に、今日一日付き合えるか!」
ナイフが烏間の上にポトリと落ちる。
杉「すげぇ」
前「ビッチ先生、残留決定じゃん」
海「フゥ…」
海は心の底からホッとした。
茅「海ちゃん、ホッとしてるの?」
海「あはは、まぁね」
海は窓からそのまま外へ出ていく。
今、ロヴロとイリーナの会話が終わったところだ。きっと、励ましの言葉でもかけてもらったのだろう。イリーナは嬉しそうな顔をしていた。
海「先生」
ロ「…海か」
海「お疲れ様です」
ロ「お前はわかっていたのか? イリーナが勝てると」
海「さぁ、どうでしょうね」
ロ「……海、どうしてお前がまたこの世界に戻ってきたのかはわからない。ただ…」
海「ロヴロ先生」
海はロヴロの言葉をさえぎった。
海「そのことはいづれ、私の口からみんなに伝えます。ただ、今はその時じゃない。それに、私はどうしてもやらなきゃいけないことがある。だから、あそこにいるんだ」
海は校舎の方を見た。
彼女の目の中にはみんなが映っていた。
海「じゃあね、先生。私は私で頑張るから、そっちも達者で」
ロ「フッ、体には気をつけるんだぞ。イリーナにもそう伝えておけ」
海「はーい」
海は微笑むと、教室へと戻っていった。