>>343
前「なんか、またメンドくさいのが来やがった!」
カ「ねぇ、イトナくん。今外から入ってきたよね。外、ずぶ濡れの雨なのにどうしてイトナくん。一滴たりとも濡れてないの?」
茅「あ…」
イトナくんは教室中をキョロキョロ見回し、それからカルマくんに向き直って言った。
イ「お前は、このクラスで1番強い。けど、安心しろ。俺より弱いから、俺はお前を殺さない」
そう言って、イトナくんはカルマくんの頭をなでた。
カ「いやいや、俺より強い人なんていくらでもいるっしょ。例えば、海とかさ」
たしかに、彼女は殺し屋だ。
まだ殺し屋として日の浅い僕らとは、勝負にならないほど強いはず。
そう思い、彼女を見ると。
カ「海?」
海「……」
カ「おーい」
カルマくんは海の肩をトントンとたたいた。
海「ふぇ⁉」
カ「どうかした?」
海「え、何が?」
カ「いや、ボーッとしてたから」
?
なんか、上の空だ。
そんな僕らを無視して、イトナくんはしゃべり続ける。
イ「俺が殺したいと思うのは、俺より強いと思うやつだけ、この教室では殺せんせー。あんただけだ」
殺「強い弱いとはケンカのことですか、イトナくん。ただの力比べではせんせーには勝てませんよ」
イ「勝てるさ。だって俺たち、血を分けた兄弟なんだから」
⁉
皆「兄弟ーーーーーーーーー!?」
イ「兄弟同士、小細工はいらない。放課後、この教室で勝負だ」
そう言って、イトナくんは教室からシロと共に立ち去った。
僕らはそれを呆然と見つめ、それから。
片「ちょっとせんせー、兄弟ってどういうこと⁉」
菅「そもそも人とタコだぜ⁉」
ドサッ
海は床に倒れていた。となりにいる律を支えにしながら、なんとか立ち上がっていた。
僕は慌てて海に駆け寄った。
渚「海、大丈夫?」
海「あ、うん。平気…」
殺「海さん、本当に大丈夫なんですね」
海「うん…。ごめん、心配かけて」
彼女はよろよろと立ち上がりながら、思いついたように言った。
海「あのさ、せんせー。今日は早退してもいいかな」
殺「!? やはりどこか具合が…」
たしかに、顔は青白かった。
海「平気だよ。ただ、ちょっと今日は…あ、でもどうしよう。今日は数学あるんだっけ。だったら…」
渚「休むべきだよ」
海「…そんなにヤバそうに見える?」
僕はうなずいた。
他のみんなもうなずいている。
殺「数学はあとでどうとでもなりますよ。問題は今日の授業が受けられるほどの体調ではないことです。大事をとって、今日は帰りなさい」
海「う…、はい」
海はゆっくりと立ち上がった。
茅野が海のカバンに教材などを入れて、彼女に手渡した。
海「ありがと、カエデ」
茅「ううん」
海はふらついた足取りで帰っていった。
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思ったより、長くなってしまった。
イトナくんは触手持ちだった。最初は殺せんせーを追い詰めていたのだけれど、結局は殺せんせーの勝ちとなった。
何はともあれ、今日は球技大会の話し合いだ。
きっかけは、僕とカルマくんと杉野で帰り道である本校舎を歩いているときだった。
?「あれ、杉野じゃないか」
杉「! 進藤」
野球部の練習場で杉野はかつての仲間と長話をしていた。
僕とカルマくんはそれを見ていた。
部員「にしてもいいよなぁ、杉野は。E組だから毎日遊んでられるだろ。俺ら、勉強も部活もだから大変でさぁ」
‼
僕は顔をしかめた。
E組はあらゆる分野で差別を受けるクラスだ。
部活禁止というのも、その一つだ。
進「やめろ、傷つくだろ。勉強と部活の両立。選ばれた人間でなければしなくていいことなんだからな」
カ「へぇ、すごいね」
カルマくん……。
カ「その言い方じゃあまるで、自分らが選ばれた人間みたいだね」
進「うん、そうだよ。なら、君たちに教えてあげるよ。選ばれた人間とそうでない人間、この年で開いてしまった大きな差ってやつを」
で、現在に至る。
寺「俺ら、さらしもんとか勘弁だわ。お前らでテキトーにやっといてくれや」
寺坂組は教室から去っていった。
球技大会は、男子は野球、女子はバスケなのだけれど、E組はそもそも除外されているため、代わりにエキシビション・マッチにでなければいけない。
三「要するに見世物さ。男子は野球部と女子は女子バスケ部とやらされるんだ」
殺「なるほど。いつもの、ですね」
片「そ」
男子は男子で、女子は女子での作戦会議が開始された……んだけど。
前「で、なんで海がここにいるんだ?」
海「ひどいなぁ。私は一応、この学校では男子って扱いになってるんだけど」
岡「修学旅行のときは男子部屋にいなかったろ」
海「それとこれとは話が別だよ。仮に私が女子の所にいったら人数多くなっちゃうし、男子は少なくなっちゃうよ」
磯「でも、大丈夫なのか。相手は男子だぞ?」
海「平気、平気」
千「それにこの前、倒れただろ」
海「大丈夫だって、もう治ったし。いやぁ、あのときはお騒がせしました。寝不足だったんだ、あはは」
寝不足って……。
僕らは顔を見合わせてあきれるより他なかった。
殺「君たちは変わりつつある。やりたい、勝ちたい。そういう思いが日に日に強くなっている。それもふまえて、殺監督が勝てるアドバイスをあげましょう」
男子「うっわ……」
そして、超生物との地獄の猛特訓が始まったのだった。
球技大会当日
菅「そういや、殺監督どこだ」
渚「あそこだよ」
僕はグラウンドの外野あたりを指さす。
渚「殺せんせー、烏間先生に正体をバラすなって言われてるから遠近法でボールに紛れてるんだ」
カ「やっほー、せんせー」
カルマくんがふざけて声をかけると、殺せんせーは慌てて地面に身を隠した。
僕はベンチに入っている海に声をかけた。彼女はグローブを珍しそうに眺めながら自分の手にあわせるために、握ったり離したりを繰り返していた。
渚「海は平気なの?」
海「うん? 何がさ」
渚「こんな男子だらけの場所で、緊張とかしないのかなぁって」
海「ハハッ、何言ってんのさ渚。僕は男子だよ」
僕は目を白黒させた。
海は僕の耳元に口を寄せてささやいた。
海「一応、私は男子ってことになってるんだ。だから、みんな。なるべくあわせてほしい。一応、私も国家規模とはいえないまでも、それなりに秘密持ってんだからさ」
皆「おっけ」
こうして、試合は始まった。