>>352
ビ「ねぇ、あんたはいいの? あの男、なぁんかわざとらしいのよね」
烏「空挺部隊にいた頃の俺の同期だ。教官の腕は俺より優れていると聞いている」
ビ「カルマなんて、とっととサボり決め込んでんだけど。ま、一方で海は何を考えているのかしら」
体育の授業
鷹「頑張ったらまた上手いもん食わせてやるからな」
中「とか言って、自分が一番食べたいだけなんじゃないの?」
鷹「ハハッ、おかげさまでこの横幅だ」
皆「アハハッ」
鷹岡先生、なんだか良い人そうだなぁ。
鷹「さて、これを期に授業内容を変更しようと思う。時間割を配るぞ」
まわされた時間割。
⁉ これって。
不「10時間目⁉」
渚「夜九時まで訓練⁉」
鷹「こうすればお前たちの能力は飛躍的に上がる。では、早速……」
前「待てよ、できるわけねぇよこんなの! 勉強もあるし、遊ぶ時間だって」
前原くんが抗議のために立ち上がった。鷹岡先生は困ったような顔をしながら、前原くんの頭をつかんで。
磯「なっ!」
前「がはっ」
海「前原!」
鷹岡先生が前原くんの腹を蹴ったのだ!
磯貝くんと岡野さん、海が前原くんに駆け寄った。
鷹「できないじゃない、やるんだよ」
職員室
烏間は職員室でパソコンを開いた。
鷹岡に関するデータが画面上に映し出されている。
烏「これはっ!」
校庭
鷹「お前たちは俺の家族だ。家族みんなで地球の危機を救おうぜ、な」
鷹岡先生はこちらへやってきて、三村くんと神崎さんと肩をくんだ。
海「お前……」
茅「海ちゃん」
海が怒っている。
鷹「な、お前は父ちゃんについてきてくれるよな」
神「あ、あの、私は……いやです。烏間先生の授業を希望します」
瞬間、鷹岡先生は神崎さんの頬を平手打ちした。
海「有紀子!」
烏「やめろ、鷹岡!」
そこへ烏間先生がやってきた。神崎さんに駆け寄ってくる。
烏「大丈夫か、首の筋に痛みはないか」
神「大丈夫です」
烏「前原くんは」
前「へ、へーきっす」
鷹岡先生が微笑みながら言った。
鷹「俺は父親でお前たちは俺の家族だ。世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」
殺「いいや、あなたの生徒ではありません。私の生徒です」
殺せんせー!
鷹「なんだ、殺るのかモンスター? 多少教育論が違うだけでお前に危害を加えていない俺を攻撃すんのか?」
海「それ以前に、これは体罰だと思うけどな」
茅野が心配そうな顔をしながら海の腕をつかんだ。
殺せんせーは何も言い返せないようで、黙るよりなかったみたいだ。
たしかにここで鷹岡先生を攻撃しては、僕らに納得のいく説明ができない気がする。きっと鷹岡先生はそれを分かったうえでこんなことを言っているのだろう。
鷹「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その場合、俺の権限で新しい生徒を補充するだけだからな」
海「だったら抜ける」
海⁉
海が突然のボイコット宣言。
海「やる必要ないっしょ。だから私は抜ける」
鷹岡先生はにこりと笑って……
渚「海!」
殴られる!
僕は思わず目をつぶったけど、海はすれすれでよけていた。
よ、よかったぁ。
茅「海ちゃん!」
海「大丈夫だよ。じゃ、そういうことで」
海はバカにしたように笑うと、校庭を去っていった。
鷹岡先生は肩をいからせていたけど、やがて普通に戻ると僕らのほうを振り向いた。
鷹「さぁ、授業再開だ」
ここで逆らうと、きっと僕らは殴られるだろう。
僕らは互いの顔を見合わせて、仕方なくやることに決めた。
殺「彼には彼なりの教育論がある。でも、だからこそ烏間先生。あなたの力で彼を否定してほしいのです」
烏(俺が奴を否定?)
岡「スクワット300回とか……」
菅「ぜってー死んじまうよ」
倉「か、烏間先生……」
鷹「おい」
倉「ひっ」
倉橋さん!
鷹岡先生は指をぽきぽき鳴らしながら、倉橋さんに歩み寄っていた。
鷹「烏間は俺たちの家族じゃないぞ。おしおきだなぁ、父ちゃんだけを頼ろうとしない子はっ!」
倉橋さんが殴られる!
がしっ
皆「烏間先生!」
烏「そこまでだ。暴れたいなら、俺が相手をつとめてやる」
鷹「烏間ぁ、横槍を入れてくるころだと思ってたよ」
倉橋さんはとりあえず無事だ。
数人の女子が倉橋さんを取り囲んでいる。
鷹「いいか、烏間。お前とやりあう気はない。やるならあくまで、教師としてだ」
烏「………」
鷹「烏間。お前が育てた中でいちおしの生徒を一人選べ。そいつが俺と戦い、俺に一発でもナイフを当てられれば俺より優れていると認めて、でていってやろう。ただし、使うナイフはこれじゃあない」
鷹岡先生は自分が持ってきた大きめのカバンから対せんせーナイフを放り投げて、代わりに……。
皆「⁉」
ほ、本物のナイフ⁉
鷹「殺す相手は俺なんだ。使う刃物も、本物じゃなくっちゃなぁ」
烏「待て。この子たちは人間を殺す訓練も用意もしていない!」
鷹「大丈夫だ、寸止めでも当たったことにしてやる。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろう? さぁ、烏間。一人選べよ。嫌なら無条件で俺に服従だ」
投げ出された、本物のナイフ。烏間先生は地面に刺さったそれを抜き取る。
烏(俺はまだ迷っている。地球を救うためなら、奴のような容赦ない教育こそ必要なのではないかと。俺はまだ迷っている。わずかに可能性がある生徒を危険にさらしていいものかも……)
「渚くん、できるか」
渚「え?」
杉「なんで渚を⁉」
烏「俺は、地球を救う暗殺任務を依頼した側として君たちとはプロ同士だと思っている。そして、プロとして支払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だから、このナイフは無理に受け取る必要はない」
僕は、この人の目が好きだ。こんなに目を真っ直ぐ見て話してくれる人は家族にもいない。立場上、僕らに隠し事も色々あるだろう。なんで僕を選んだのかもわからない。でも、思った。
僕は差し出されたナイフを受け取る。
それに、神崎さんと前原くんのこと、許せない。
渚「やります」
鷹「烏間ぁ、お前の目も狂ったなぁ」
ビ「カラスマの奴、気が変になっちゃったんじゃないの? なんで渚なのよ」
殺「見てればわかります」
海「人がいない間に、とんでもないことになってんね」
ビ「って、ウミ。あんたどこ行ってたのよ」
海「別に。心配になったから戻ってきただけだよ」