>>353
海が突然のボイコット宣言。
海「やる必要ないっしょ。だから私は抜ける」
鷹岡先生はにこりと笑って……
渚「海!」
殴られる!
僕は思わず目をつぶったけど、海はすれすれでよけていた。
よ、よかったぁ。
茅「海ちゃん!」
海「大丈夫だよ。じゃ、そういうことで」
海はバカにしたように笑うと、校庭を去っていった。
鷹岡先生は肩をいからせていたけど、やがて普通に戻ると僕らのほうを振り向いた。
鷹「さぁ、授業再開だ」
ここで逆らうと、きっと僕らは殴られるだろう。
僕らは互いの顔を見合わせて、仕方なくやることに決めた。
殺「彼には彼なりの教育論がある。でも、だからこそ烏間先生。あなたの力で彼を否定してほしいのです」
烏(俺が奴を否定?)
岡「スクワット300回とか……」
菅「ぜってー死んじまうよ」
倉「か、烏間先生……」
鷹「おい」
倉「ひっ」
倉橋さん!
鷹岡先生は指をぽきぽき鳴らしながら、倉橋さんに歩み寄っていた。
鷹「烏間は俺たちの家族じゃないぞ。おしおきだなぁ、父ちゃんだけを頼ろうとしない子はっ!」
倉橋さんが殴られる!
がしっ
皆「烏間先生!」
烏「そこまでだ。暴れたいなら、俺が相手をつとめてやる」
鷹「烏間ぁ、横槍を入れてくるころだと思ってたよ」
倉橋さんはとりあえず無事だ。
数人の女子が倉橋さんを取り囲んでいる。
鷹「いいか、烏間。お前とやりあう気はない。やるならあくまで、教師としてだ」
烏「………」
鷹「烏間。お前が育てた中でいちおしの生徒を一人選べ。そいつが俺と戦い、俺に一発でもナイフを当てられれば俺より優れていると認めて、でていってやろう。ただし、使うナイフはこれじゃあない」
鷹岡先生は自分が持ってきた大きめのカバンから対せんせーナイフを放り投げて、代わりに……。
皆「⁉」
ほ、本物のナイフ⁉
鷹「殺す相手は俺なんだ。使う刃物も、本物じゃなくっちゃなぁ」
烏「待て。この子たちは人間を殺す訓練も用意もしていない!」
鷹「大丈夫だ、寸止めでも当たったことにしてやる。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろう? さぁ、烏間。一人選べよ。嫌なら無条件で俺に服従だ」
投げ出された、本物のナイフ。烏間先生は地面に刺さったそれを抜き取る。
烏(俺はまだ迷っている。地球を救うためなら、奴のような容赦ない教育こそ必要なのではないかと。俺はまだ迷っている。わずかに可能性がある生徒を危険にさらしていいものかも……)
「渚くん、できるか」
渚「え?」
杉「なんで渚を⁉」
烏「俺は、地球を救う暗殺任務を依頼した側として君たちとはプロ同士だと思っている。そして、プロとして支払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だから、このナイフは無理に受け取る必要はない」
僕は、この人の目が好きだ。こんなに目を真っ直ぐ見て話してくれる人は家族にもいない。立場上、僕らに隠し事も色々あるだろう。なんで僕を選んだのかもわからない。でも、思った。
僕は差し出されたナイフを受け取る。
それに、神崎さんと前原くんのこと、許せない。
渚「やります」
鷹「烏間ぁ、お前の目も狂ったなぁ」
ビ「カラスマの奴、気が変になっちゃったんじゃないの? なんで渚なのよ」
殺「見てればわかります」
海「人がいない間に、とんでもないことになってんね」
ビ「って、ウミ。あんたどこ行ってたのよ」
海「別に。心配になったから戻ってきただけだよ」
本物のナイフを前にして、僕はどう動けばいいか迷った。
烏「いいか、鷹岡にとってこれは見せしめのための戦闘だ。対して君は暗殺。大きな力を見せつける必要もなく、ただ1回当てればいいだけ。だが、この勝負の真の意味。それはナイフの有無ではない。わかるか?」
鷹(そろそろ気づいたな、ナイフを持つとはどういうことか。『本物のナイフで人を刺したら死んじゃうよ。こんなもの、本気で使えない』と、俺はな。それに気づいてビビりあがる人間を見るのが大好きなんだ……)
烏間先生のアドバイス。それは「暗殺である」ということ。
あれ、でも……。
「ナイフの有無ではない」……。
そっか、そういうことなのか。
殺せば、勝ちなんだ。
だから僕は笑って、普通に歩いて近づいた。通学路を歩くみたいに、普通に。
鷹岡先生に歩み寄り、彼の腕によりかかるようにする。
そして、そのまま。
鷹「⁉」
ナイフを振り、獲物の顔すれすれまで持っていく。
誰だって、殺されかけたらギョッとする。殺せんせーでもそうなんだから。
獲物はギョッとして態勢をくずした。重心が後ろに偏っていたから服を引っ張ったら転んだので、仕留めに行く。正面からだと防がれるので、背後に回って確実に。
渚「つかまえた」
烏(なんてことだ。予想をはるかに上回った。戦闘の才能でもなく、暴力の才能でもない。暗殺の才能! これは、咲かせてもいい才能なのか⁉)
渚「あれ、みねうちじゃ駄目なんでしたっけ?」
殺「そこまでです。ですよね、烏間先生。まったく、本物のナイフを生徒に持たすなど、正気の沙汰ではありません。怪我でもしたらどうするんですか」
烏(フッ。怪我でもしたらマッハで助けに入っただろうに)