>>360
その夜
寺坂はプールに続く川に薬品を流しこんでいた。
?「助かったよ、寺坂くん」
声のした方を向くと、そこにはシロとイトナがいた。
シ「何せあのタコは外部の人間に対しては鼻が敏感だ。君のように内部の人間に準備をしてもらった方がたやすい。ありがとう。はい、報酬の10万円」
寺(こっちのほうが居心地いいな)
寺坂はシロから報酬を受け取り、それをポケットにつっこんだ。
樹上で様子を見ていたイトナが寺坂の前に降り立って言った。
イ「お前の目にはビジョンがない。目の前の草を漠然と食っているノロマな牛は、牛を殺すビジョンを持った狼には勝てない」
寺坂の頭の中に、昼間の光景が映し出される。
カルマの挑発的な言葉に思わずビビってしまった自分を、思い出す。
寺「んだと、てめぇ!」
シ「まぁまぁ。では明日、頼んだよ寺坂くん」
次の日
………。
なんと言えばいいんだろうか。
ビ「何よ、意味もなく涙流して」
そう。殺せんせーは泣いているのだ。それをハンカチでおさえているものの、とめどなくあふれている。
殺「いいえ。これは涙ではなく鼻水です。目はここにあります」
ビ「まぎらわしい!」
なんだ、鼻水だったのか。
今はお昼休みの最中。みんなで机をくっつけあってお昼ご飯を食べていた。
何故かカルマくんと海の姿が見えなかった。カルマくんは例のごとく授業をサボったまま帰ってこないんだけど、海のほうはどうしたんだろう。
そこへ、教室のドアがガラリと開いて、寺坂くんが現れた。
殺「おぉ! 寺坂くん。今日はなかなか来なかったので心配しました」
殺せんせーは鼻水で顔をベチョベチョにしながら、寺坂くんのもとへやって来て、さらに鼻水で寺坂くんの顔をもベチョベチョにさせた。
寺坂くんは殺せんせーを押しのけ、殺せんせーのネクタイで自分の顔を拭くなり言った。
寺「おい、モンスター。聞いたぜ? 弱点なんだってな、水が。おい、お前らも手伝え! 俺たちで協力してこいつを殺すぞ」
一方的すぎない?
僕がそう思っていると、隣の席で一緒に昼食を食べていた前原くんが立ち上がった。
前「寺坂さぁ、お前。ずっと俺たちの暗殺には協力してこなかったろ。それを今更お前の都合で『はい、やります』なんてみんなが言うと思うか?」
寺「やりたくないならやらなくてもいいぜ? その場合、俺が100億を独り占めだ」
寺坂くんが教室をでていくと、みんながざわつき始めた。
吉「もう正直ついていけねぇわ」
村「ああ」
倉「私行かな〜い」
岡野「同じく」
殺「みなさん、行きましょうよ〜」
わっ!
殺せんせーの鼻水が教室じゅうに広がっていき、僕らは身動きがとれなくなった。
殺「寺坂くんがやっと私を殺る気になったんです。これを期に仲直りして、みんなで気持ちよくなりたいです〜」
木「まずあんたが気持ち悪い!」
やっと粘液地獄から抜け出せた。
僕は校舎からでると、寺坂くんを追いかけた。
渚「寺坂くん」
寺「んだ、渚」
渚「暗殺をするって、具体的にどうするの? ちゃんとみんなに作戦を教えないと、思い付きでやれるほど殺せんせーは甘くはないよっ」
寺坂くんが僕の胸倉をつかんだ。
寺「っるせぇな。俺はお前らとは違うんだよ。本気で殺すビジョンもないくせによ」
寺坂くんは僕を突き飛ばすなり、どこかへ行ってしまった。
それにしても、寺坂くんは計画に自信を持っているように見えたけど、自分に自信があるようには見えなくて。
ちぐはぐさに、胸騒ぎがした。
プール
寺「よぅし、そうやって全体に散らばっとけ」
木「すっかり暴君だぜ、寺坂の奴」
菅「ああ。あれじゃあ1、2年の頃と同じだ」
僕らは寺坂くんに言われた通り、プールにやって来た。そして、彼の指示に従っていた。
竹「納得いかないな。君に人を泳がせるほどの器量があるのかい?」
寺「っるせぇ、竹林。とっととお前も行け」
寺坂くんは竹林くんをプールに突き落とした。
殺「なるほど。みんなに武器を持たせてプール内に散らばらせる。それで君はいったい、どうやってせんせーを落とすんです? ピストル一丁ではせんせーは落とせませんよ」
たしかに、どうするんだろうか。
寺「俺はずっとお前が気に入らなかった。ずっと消えてほしいと思っていた」
殺「わかっています。この暗殺が終わったら、私と話しましょう」
少し離れた場所にて
シ「寺坂くんにはあのピストルは合図のためだと言ってあるが、それだけであのタコを落とせるわけがない。少し工夫させてもらったよ」
プール
寺(来い、イトナ!)
寺坂くんがピストルをせんせーに向けて放った瞬間!
ドゴーーーーーーーーーーン
⁉
プールがっ!
裏山
カ「あれ、海。何してんの?」
海「カルマじゃん。そっちこそ、さっきの授業サボってたでしょ」
カ「まぁね〜。で、何してんの?」
海「ああ。これ? ちょっとした実験だよ」
カ「実験?」
海が見ていたのは角砂糖に群がるアリたちだった。
海「角砂糖を置けばどのくらいの時間でアリがやって来て、角砂糖をすべて回収するのかっていう。地味〜な実験。今度陽菜乃とやろっかなぁって思ってんだよね」
カ「ふぅん」
そこへ、爆発音が響いた。
海「何、今の音」
カ「行ってみよう」
海とカルマは音のした方へ走りだした。