>>436
岡野「おいてくよ〜」
岡野さんは崖をひょいひょいと登っていく。
木「身軽だな、岡野は」
磯「ああ。こういうことをやらせたらクラス1だ」
木「一方で、うちで動ける先生が3人中1人とは」
烏間先生はこの急な崖をビニル袋に入っている完全防御形態の殺せんせーと、ビッチ先生を背負って登っている。
菅「てか、海は着物なのによく身軽に動けるな」
海「あはは。こう見えて私、殺し屋時代……というか、E組に来る前か。そのときはずっと着物で仕事してたんだ」
茅「へぇ」
海「洋服より動きやすいんだよねっ」
頂上に到達。
烏「律、ホテル内のマップは表示できるか」
律「はい、警備の配置図も。私たちは正面玄関を使用できません。なので裏口から入ります。本来、専用のカードキーがなければ入れませんが、私の合図で開けられるようロックは解除済みです」
ロビーに着いたはいいけれど。
菅「げっ、あんなにたくさん見張りが」
木「どうやって通る?」
ビ「何よ、普通に通ればいいじゃない」
菅「はぁ⁉ 状況判断もできねぇのかよ、ビッチ先生」
木「あの警備の中、どうや……海?」
木村くんが話している途中で、海が木村くんの肩をつかんで止めた。
海「先輩、頼んだよ」
ビ「フッ。ねぇ、カラスマ」
烏「なんだ」
ビ「ストッパーの役割、頼んだわよ」
?
ビッチ先生は僕らがあっけにとられている間に、ロビーへ足を踏み入れた。
ビッチ先生は言葉巧み、行動巧みにロビーの警備をうまく導き、僕らを先に進ませてくれた。
それにしても、ビッチ先生のピアノ。上手だったなぁ。いや、上手ってもんじゃない。もうあれは次元が……。
烏「普段の彼女から甘く見ないことだな。君らに外国語を教えているのは、世界でも1、2を争うハニートラップの達人なんだ」
殺「私が動けなくても、さすがですねぇ」
経験と知識を兼ね備えたプロはさすがだ。殺せんせーが動けなくても、大丈夫だった。
でも、僕らは知らなかった。敵もまた、経験と知識を兼ね備えたプロだということに。
ホテル廊下
烏「さて、ロビーを抜けてしまえばあとは客のフリができる」
菅「え、俺らくらいの年ごろの客なんているんすか?」
烏「聞いた限り、けっこういるそうだ」
そうなんだ。
烏「ところで、海さん。一ついいか」
海「何ですか」
烏「さっき、イリーナが言っていたが。ストッパーとはなんだ」
海「ああ、あれね」
海はウェストバッグを肩に持ち替えた。
いつも思うんだけど、あれの中にはいったい何が入ってるんだろうか。
海「うーんと、私が二重人格って話はしましたよね? それで、そのストッパーっていうのはカイのこと……あ、カエデ。ごめん」
茅「ううん、大丈夫」
そうか。
カイは転校初日に茅野を襲ったことがあったんだっけ。
海「カイは優しいけど、好戦的なんだ。口より先に手が出るタイプ……ってやつかも。だから、あいつが暴れずに済むようにストッパーの役割が必要なんだ。ストッパーの合図がない限りは、カイはでてこない。この前はたまたまだったんだけどね」
そうなんだ。
海「にしても、先輩ったらさぁ。なんで先生に任すかなぁ。生徒だったら楽だったのに」
カ「俺だったら今すぐに呼び出すけどね」
海「ははは」
カ「海はプロだけど、ビッチ先生みたいなことはできないの? 実践的なこと」
海「うーん……、私こう見えて情報収集とかの方が得意でさ。戦闘には不向きなんだよね」
片「そのわりにはナイフも銃も成績いいのにね」
海「基本はとりあえず、一通りかじってるからね」
しばらく歩いているけれど、敵らしい敵らしいがいないなぁ。
寺「ヘンッ、中に入っちゃこっちのもんだな。とっとと先に進もうぜ」
烏「こら、待て」
寺坂くんと吉田くんが走りだした。
正面からは人が歩いてくる。
不「⁉ 寺坂くん、そいつ危ない!」
不破さん?
僕らがあっけにとられていると、烏間先生が走りだした。
あっと思う間もなく、正面から歩いてきた人がポケットに手をやり……。
ブシュッ