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銃使いの殺し屋との戦いに勝利した僕らは、やっとの思いで最上階に到達した。
僕らは烏間先生の指示のもと、個々の役割を確認していた。
そこで僕は気づいた。
渚「寺坂、くん?」
思わず彼に声をかけて、そして彼の首に手をのばした。
熱いっ!?
渚「すごい熱だよ⁉ まさか、ウィル……んっ」
寺坂くんは慌てた様子で僕の口をおさえてきた。
寺「黙ってろ。俺は体力にだけは自信があんだからいんだよ」
渚「そんな、無茶だよ‼」
ウィルスで苦しんでいた中村さんたちの姿が浮かんだ。
あんな苦しそうな彼らを見てなんていられなかった。
寺「烏間の先公が麻痺ガスを浴びちまったのは、俺がヘタに前にでたからだ。それ以前に、俺のせいでクラスみんな殺しかけたこともある。こんなところで、足手まといになってたまるかよ……」
渚「寺坂くん……」
烏間先生が出発の号令を下し、僕らは出発することになった。
本当に大丈夫なんだろうか、寺坂くん……。
最上階の部屋の見張り役をしていた男から、すでにルームキーは奪ってあった。
烏間先生がそのキーでドアを開ける。
実はさっき、律から最上階の部屋の監視カメラに潜入してもらっていた。今回の事件を引き起こした張本人と思われるその人は、僕らが泊まっているホテルにいる、ウィルスで苦しんでいるみんなが映っている映像を見ていた。
この状況を楽しんでいるのが、カメラ越しでもわかった。
殺せんせーがさっき言っていた。
殺「黒幕の人は殺し屋ではありません。殺し屋の使い方を間違っています」
間違ってる?
殺「彼らの力はフルに発揮されれば、恐ろしい威力を発揮します。たとえば、カルマくん。あの殺し屋が廊下ではなく、日常的に忍び寄られていたら瞬殺されていたでしょう」
カ「そりゃね」
千「たしかに、さっき相手にしたあの銃使いも狙った的は1センチたりともはずさなかった」
殺「そうですね。では、海さん。たとえばあなたが私たちの敵であったとしたら、あなたはどうしますか。どうやって私たちを殺し尽しますか?」
海「殺し尽すって……。うーん、そうだなぁ。さっきせんせーが言ったように日常的に忍び寄るかもね。たとえば、ロビーで普通の客のフリをして、すれ違ったところを皆殺し、的な」
怖っ。
僕らの大半はそう思った。
殺「おそらく私がこのような姿になったので、彼らを見張りと防衛にまわしたのでしょう」
烏間先生から指示がだされる。
取り押さえられれば、ベスト。
烏間先生の責任で、さっき奪った銃を使って犯人の腕を打つ。ウィルスの入った治療薬が入ったスーツケースについているのは爆弾。その起爆スイッチを押されないようにするためだ。
殺(おぉっ、ナンバ! 忍者も使うと言われていた歩法。どうりで、最近の暗殺は物音がたっていなかったわけです。決してあせらず悲観せず、皆さんは私の自慢の生徒です。だからこそ、目の前の敵に、決して屈してはいけませんよ)
?「かゆい……」
⁉
?「でも、そのせいかなぁ。傷口が空気に触れるから、感覚が鋭敏になるんだ」
この、声は……。
烏「どういうつもりだ、鷹岡‼」
椅子に座っていた犯人が、こちらを向いた。
その顔は、見間違うはずがない。
鷹岡、先生だった……。
鷹「屋上へ行こうか。ついてきてくれるよな? お前らのクラスは、俺の慈悲で生かされてるんだからな」
……僕らは、鷹岡先生に言われたとおり屋上のヘリポートまで行った。
烏「気でも違ったか」
鷹「おいおい、俺はまともだぜ? 第一お前らが黙ってそこのチビ2人を差し出していれば、俺の暗殺計画はスムーズに仕上がってたのになぁ」
みんなが僕と茅野を見た。
鷹「計画ではな、えーっと茅野とか言ったっけか。その女。そいつを使う予定だった」
海が舌打ちをしたと同時に、茅野の前に立った。
鷹「対せんせー弾がたっぷり入ったバスタブの中に、賞金首と一緒に入ってもらう。その上をセメントで生き埋めにする。対せんせー弾に触れずに元の姿に戻るには、生徒ごと爆裂しなきゃいけないって寸法だ。生徒思いの殺せんせーは生徒にそんなひどいことしないだろう? おとなしく溶かされてくれると思ってなぁ」
悪魔……。
海「てめぇ……」
鷹「こう見えて人道的なほうさ。お前らが俺に対してした、非人道的な方法にくらべりゃあな」
そう言って鷹岡先生は、自分の頬に爪跡をつける。
鷹「だまし討ちで突きつけられたナイフが頭ん中ちらつくたびに、夜も眠れなくってよぉっ。落とされた評価は結果で返す。落とされた屈辱はそれ以上の屈辱で返す。特に潮田渚! 俺の未来を汚したお前は、ぜってーに許さねぇ‼」
僕は驚いて、鷹岡先生を見た。
カ「渚くんを呼ぼうとしたのはそのためか。俺ならもっと楽しませてやれるけど?」
寺「第一、お前が渚との勝負で勝手に負けただけだろうが。どの道、てめぇがあんとき勝っていようが負けていようが俺ら、お前のこと大嫌いだからよぉっ‼」
鷹岡先生が怒りの声をあげた。
鷹「ジャリどもの意見なんて聞いてねぇっ! 俺の指一つでジャリが消えるってこと忘れんなっ!」
⁉
鷹「それから、もう一つ。お前、本郷海だったな」
海「………」
海が僕に対してサインを送っている。
「ナイフ、帯の下。いつでも殺れる」
そんな指示、急にされてもどうすれば。
鷹「お前も、俺の顔に泥。塗ってくれたよなぁ?」
海「塗った覚えはないよ」
鷹「うるせぇっ‼ 俺の額に思い切りキックをくらわせたのは誰だと思ってんだよっ‼」
「足にもナイフ、1本ずつ。腕にも仕込みナイフ、1本ずつ」
海の、さっきの言葉を思いだす。
海「口を動かすことで、その人物にしか注意がいかないように仕向けるんだ」
そうか。
僕は海の背後に立つ。
たしか、帯の下。
鷹「おい」
⁉
鷹「潮田渚、お前。何をしてる」
気づかれた!
僕は慌てて海の手に自分の手をおいてサインを送る。サインを送るなんて初めてだけど、きっとこうすれば彼女は気づいてくれるはずだ。
「ごめん、失敗」
「気にしないで」
海はこんな状況にも関わらず、冷静沈着だった。
鷹「ふんっ、まぁいい。どの道お前たちが何をしようがもう終わりだからな。来いよ、渚くん。あぁ、本郷海。お前もだ」
⁉
海「渚、私は何もしない。君の判断に任せる」
渚「え、あ、うん」
海「烏間先生、ストッパーのほうはいつでも準備万端ですから」
茅「え⁉ ダメだよ、渚、海ちゃん。行ったら……」
渚「行きたくないけど、行くよ」
僕は殺せんせーを放り投げて茅野に渡した。
ヘリポートでは鷹岡先生が「早くしろ!」と怒鳴っている。
渚「あれだけ興奮していたら、何するかわからないし。大丈夫、話して落ち着かせて、なるべく穏便に薬を渡してもらえるよう、交渉してみるよ」
海が僕の背中をたたいてきた。
僕らは、歩きだした。