>>522
鷹「屋上へ行こうか。ついてきてくれるよな? お前らのクラスは、俺の慈悲で生かされてるんだからな」
……僕らは、鷹岡先生に言われたとおり屋上のヘリポートまで行った。
烏「気でも違ったか」
鷹「おいおい、俺はまともだぜ? 第一お前らが黙ってそこのチビ2人を差し出していれば、俺の暗殺計画はスムーズに仕上がってたのになぁ」
みんなが僕と茅野を見た。
鷹「計画ではな、えーっと茅野とか言ったっけか。その女。そいつを使う予定だった」
海が舌打ちをしたと同時に、茅野の前に立った。
鷹「対せんせー弾がたっぷり入ったバスタブの中に、賞金首と一緒に入ってもらう。その上をセメントで生き埋めにする。対せんせー弾に触れずに元の姿に戻るには、生徒ごと爆裂しなきゃいけないって寸法だ。生徒思いの殺せんせーは生徒にそんなひどいことしないだろう? おとなしく溶かされてくれると思ってなぁ」
悪魔……。
海「てめぇ……」
鷹「こう見えて人道的なほうさ。お前らが俺に対してした、非人道的な方法にくらべりゃあな」
そう言って鷹岡先生は、自分の頬に爪跡をつける。
鷹「だまし討ちで突きつけられたナイフが頭ん中ちらつくたびに、夜も眠れなくってよぉっ。落とされた評価は結果で返す。落とされた屈辱はそれ以上の屈辱で返す。特に潮田渚! 俺の未来を汚したお前は、ぜってーに許さねぇ‼」
僕は驚いて、鷹岡先生を見た。
カ「渚くんを呼ぼうとしたのはそのためか。俺ならもっと楽しませてやれるけど?」
寺「第一、お前が渚との勝負で勝手に負けただけだろうが。どの道、てめぇがあんとき勝っていようが負けていようが俺ら、お前のこと大嫌いだからよぉっ‼」
鷹岡先生が怒りの声をあげた。
鷹「ジャリどもの意見なんて聞いてねぇっ! 俺の指一つでジャリが消えるってこと忘れんなっ!」
⁉
鷹「それから、もう一つ。お前、本郷海だったな」
海「………」
海が僕に対してサインを送っている。
「ナイフ、帯の下。いつでも殺れる」
そんな指示、急にされてもどうすれば。
鷹「お前も、俺の顔に泥。塗ってくれたよなぁ?」
海「塗った覚えはないよ」
鷹「うるせぇっ‼ 俺の額に思い切りキックをくらわせたのは誰だと思ってんだよっ‼」
「足にもナイフ、1本ずつ。腕にも仕込みナイフ、1本ずつ」
海の、さっきの言葉を思いだす。
海「口を動かすことで、その人物にしか注意がいかないように仕向けるんだ」
そうか。
僕は海の背後に立つ。
たしか、帯の下。
鷹「おい」
⁉
鷹「潮田渚、お前。何をしてる」
気づかれた!
僕は慌てて海の手に自分の手をおいてサインを送る。サインを送るなんて初めてだけど、きっとこうすれば彼女は気づいてくれるはずだ。
「ごめん、失敗」
「気にしないで」
海はこんな状況にも関わらず、冷静沈着だった。
鷹「ふんっ、まぁいい。どの道お前たちが何をしようがもう終わりだからな。来いよ、渚くん。あぁ、本郷海。お前もだ」
⁉
海「渚、私は何もしない。君の判断に任せる」
渚「え、あ、うん」
海「烏間先生、ストッパーのほうはいつでも準備万端ですから」
茅「え⁉ ダメだよ、渚、海ちゃん。行ったら……」
渚「行きたくないけど、行くよ」
僕は殺せんせーを放り投げて茅野に渡した。
ヘリポートでは鷹岡先生が「早くしろ!」と怒鳴っている。
渚「あれだけ興奮していたら、何するかわからないし。大丈夫、話して落ち着かせて、なるべく穏便に薬を渡してもらえるよう、交渉してみるよ」
海が僕の背中をたたいてきた。
僕らは、歩きだした。
ヘリポートに着くと、そこには2本のナイフが落ちていた。1本は1メートルくらい離れたところに置いてある。
何をするつもりなんだ?
鷹岡先生は、僕らが上っていった梯子を爆弾で破壊した。
鷹「足元のナイフ、俺のやりたいことはわかるな? この前のリターンマッチだ」
僕は唾を飲みこんだ。
渚「待ってください、鷹岡先生。戦いに来たわけじゃないんです」
鷹「だろうなぁ。この前みたいな卑怯な手はもう通じないし」
海「言っとくけど、私はいつでもできるよ」
鷹「あ、そうそう。本郷海。お前はこっちに来い」
海は厳しい表情をしながら、何がしたいのかよく分からない目で鷹岡先生を見ていた。
鷹「早く来いっ! クラスメイトを見殺しにしたいのかぁっ⁉」
海「チッ」
海は鷹岡先生に近づいた、慎重に。いつでも鷹岡先生を殺れるように。
鷹「背中を向けろ、両手を背中の後ろに組んでな」
海は怪しそうに鷹岡先生を見ながら、背中を向けた。
瞬間。
ガシャン
海「⁉」
鷹「ハハッ」
一瞬、大きな音がしたのに何が起きているのか理解ができなかった。
海「何を、した……」
鷹「なぁに、簡単さ。お前の腕に爆弾つきの手錠をはめた」
茅「そんなっ!」
鷹「これでお前は、俺と渚くんの戦いを邪魔できねぇな。渚くんがやられるところを黙って見てろ。なぁに、大丈夫だ。すぐにお前も渚くんと同じ場所に連れてってやるさ」
海からふつふつと、怒りのオーラみたいなものがでていた。
鷹「さて、渚くん。戦う前にやることやってもらおうか」
何を……。
鷹「謝罪しろ、土下座だ。実力がないから卑怯な手で奇襲した。それについて、誠心誠意、な」
僕はスーツケースを見た。それから、心配そうに僕を見ている海を。
正座をして……。
渚「僕は……」
鷹岡先生が足を踏み鳴らす。
鷹「それが土下座か、バカガキがぁっ‼ あったまこすりつけて謝んだよっ‼」
もう一度、スーツケースと海を見た。
頭を地面につけて。
渚「僕は、実力がないから卑怯な手で奇襲しました。ごめんなさい」
鷹「おうおう。それから言ったよな。『出ていけ』とか。ガキの分際で、大人に向かって。生徒が、教師に向かってだぞっ‼」
鷹岡先生が僕の頭を踏みつける。
渚「ガキのくせに、生徒のくせに。先生に生意気な口をたたいてしまい、すみませんでした。本当に、ごめんなさい」
みんなの悔しがる声が耳に届いた。
鷹「おうおう。ちゃんと謝ってくれて、父ちゃんは嬉しいぞ。褒美に、いいことを教えてやろう」
僕は鷹岡先生を黙って見ていた。
海からは、サインがでてこない。いや、だせないんだ。
鷹「あのウィルスにかかった奴らがどうなるか、スモッグの奴に画像を見せてもらったんだが笑えるぜ? 全身デキモノだらけ、顔がブドウみたいにはれあがってな。見たいだろ、渚くん」
⁉
僕は鷹岡先生に手を伸ばした。
海は驚いた表情をして、走りだした。
烏間先生の、「やめろ!」という声が響いた。
鷹岡先生が、スーツケースを空に向かって放り投げた瞬間、スイッチが押され。
スーツケースが、爆発した。