>>523
ヘリポートに着くと、そこには2本のナイフが落ちていた。1本は1メートルくらい離れたところに置いてある。
何をするつもりなんだ?
鷹岡先生は、僕らが上っていった梯子を爆弾で破壊した。
鷹「足元のナイフ、俺のやりたいことはわかるな? この前のリターンマッチだ」
僕は唾を飲みこんだ。
渚「待ってください、鷹岡先生。戦いに来たわけじゃないんです」
鷹「だろうなぁ。この前みたいな卑怯な手はもう通じないし」
海「言っとくけど、私はいつでもできるよ」
鷹「あ、そうそう。本郷海。お前はこっちに来い」
海は厳しい表情をしながら、何がしたいのかよく分からない目で鷹岡先生を見ていた。
鷹「早く来いっ! クラスメイトを見殺しにしたいのかぁっ⁉」
海「チッ」
海は鷹岡先生に近づいた、慎重に。いつでも鷹岡先生を殺れるように。
鷹「背中を向けろ、両手を背中の後ろに組んでな」
海は怪しそうに鷹岡先生を見ながら、背中を向けた。
瞬間。
ガシャン
海「⁉」
鷹「ハハッ」
一瞬、大きな音がしたのに何が起きているのか理解ができなかった。
海「何を、した……」
鷹「なぁに、簡単さ。お前の腕に爆弾つきの手錠をはめた」
茅「そんなっ!」
鷹「これでお前は、俺と渚くんの戦いを邪魔できねぇな。渚くんがやられるところを黙って見てろ。なぁに、大丈夫だ。すぐにお前も渚くんと同じ場所に連れてってやるさ」
海からふつふつと、怒りのオーラみたいなものがでていた。
鷹「さて、渚くん。戦う前にやることやってもらおうか」
何を……。
鷹「謝罪しろ、土下座だ。実力がないから卑怯な手で奇襲した。それについて、誠心誠意、な」
僕はスーツケースを見た。それから、心配そうに僕を見ている海を。
正座をして……。
渚「僕は……」
鷹岡先生が足を踏み鳴らす。
鷹「それが土下座か、バカガキがぁっ‼ あったまこすりつけて謝んだよっ‼」
もう一度、スーツケースと海を見た。
頭を地面につけて。
渚「僕は、実力がないから卑怯な手で奇襲しました。ごめんなさい」
鷹「おうおう。それから言ったよな。『出ていけ』とか。ガキの分際で、大人に向かって。生徒が、教師に向かってだぞっ‼」
鷹岡先生が僕の頭を踏みつける。
渚「ガキのくせに、生徒のくせに。先生に生意気な口をたたいてしまい、すみませんでした。本当に、ごめんなさい」
みんなの悔しがる声が耳に届いた。
鷹「おうおう。ちゃんと謝ってくれて、父ちゃんは嬉しいぞ。褒美に、いいことを教えてやろう」
僕は鷹岡先生を黙って見ていた。
海からは、サインがでてこない。いや、だせないんだ。
鷹「あのウィルスにかかった奴らがどうなるか、スモッグの奴に画像を見せてもらったんだが笑えるぜ? 全身デキモノだらけ、顔がブドウみたいにはれあがってな。見たいだろ、渚くん」
⁉
僕は鷹岡先生に手を伸ばした。
海は驚いた表情をして、走りだした。
烏間先生の、「やめろ!」という声が響いた。
鷹岡先生が、スーツケースを空に向かって放り投げた瞬間、スイッチが押され。
スーツケースが、爆発した。
渚は絶望的な表情を浮かべながら、寺坂を見た。ウィルスに感染してつらそうな表情をしている、寺坂の顔を。
鷹岡はそんな渚の表情を見て、笑いをこらえきれない様子で下卑た(げびた)笑い声を発しながら言った。
鷹「そう、その顔が見たかったんだぁ。夏休みの観察日記にしたらどうだぁ? お友達の顔がブドウみてぇに化けていくさまをよぉ〜」
海「ふざけ、るな……」
海は下唇をかみしめながら、なんとか耐えていた。
カラン
海は異様な音と殺気に気付き、反射的に身震いした。恐る恐る顔をあげると、そこには。
海「なぎ、さ……」
渚「殺、してやる……」
皆「⁉」
ナイフを両手に持ちながら、鷹岡をにらみつけている渚の姿があった。
片「渚、きれてる……」
吉「俺らだって殺してぇよ。あんなゴミやろう。けど、渚の奴。マジで殺る気か」
海は思わず叫んでいた。
海「やめて、渚っ! 復讐から生まれる殺しはっ……、相手が憎いと思って生まれる殺意はっ……、決していい結果を残してくれないっ! だから、頼むから、渚。殺さないで……」
海は、泣いていた。
茅野はそんな海の姿を見て驚いた。
茅「海ちゃんが、泣いてる……」
カ「………」
茅野の腕にいた殺せんせーは言った。
殺「渚くんの頭を冷やしてください。君にしかできません、寺さ……」
殺せんせーが最後まで言い終えないうちに、寺坂は渚に向かってある物をぶん投げた。
寺「ちょーしこいてんじゃねぇぞ、渚ぁっ‼」
渚はその言葉に振り向いた。
寺「薬が爆破された時よぉ、お前。俺を憐れむような目で見たろっ! いっちょ前に他人の気づかいしてんじゃねぇぞ、もやしやろぉっ! ウィルスなんざな、寝てりゃよゆーで治せんだよっ‼」
磯「寺坂、お前!」
寺坂は磯貝の言葉を無視して続けた。
寺「そんな奴でも息の根とめたら殺人罪だ。お前はたった1回の殺意で100億のチャンスを棒に振るのかっ⁉」
殺「寺坂くんの言う通りです、渚くん。その男を殺しても何の価値もない。その男の言葉と寺坂くんの言葉、その男の命とせんせーの命。それぞれにどのくらい価値があるのか、考えるんです」