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次の日の朝になり、私は早めに家をでた。学校に着くと早速練習場所へやってきた。
まだ、来てないのかな。
「わっ」
ちょっと、びっくりした。
千葉が木の下で寝ていたから。それとも、寝ているんじゃなくて集中しているのかな。前髪で目が隠れているからよくわからないんだけど。
私は恐る恐る近づいた。隣に座ってみる。
な、なんか恥ずかしい……。でも、悪くない気がする。
空を仰ぎ見ると、青く澄んでいた。
うん、悪くない。
私は心地よい思いのまま、千葉に体を預けようと……。
「ん……」
⁉
私は慌てて千葉から離れた。
「お、おはよ……」
「ああ、おはよう。悪い、寝てたみたいだ」
「だ、大丈夫。今来たところだから」
私は走って的の用意を始めた。千葉も隣に来て、的の用意をしていた。
「今日はいい天気だな」
「そ、そうね」
さっきの気まずさが残って、どうも話がうまく続かない。
額が、急に冷たくなった。
「ちょっ!」
私は驚いて後ずさった。
「あ、ごめん」
今、千葉が私の額に手をやったのだ。
「熱はないみたいだな。さっきから返事がおかしいけど、大丈夫か?」
「え……」
「いつもどおりじゃないっていうか、俺もうまくは言えないんだけど」
そんなに、私。おかしかったのかな。
「あ、悪い。気を悪くしたか。ごめんな」
「ううん、そういうわけじゃない」
ふと、昨日の矢田とのLINEのやりとりを思いだした。
「凛香はもうちょっと、自分に素直でいればいいと思うよ」
素直、か。
「ねぇ、千葉」
「なんだ」
「……私、千葉のこと尊敬してる」
千葉は首をかしげた。
「いきなりどうした? やっぱりどっか悪いんじゃ」
「そういうわけじゃなくて、その……」
私は千葉の顔を真っ直ぐ見た。
「私はまだ、スナイパーとしては半人前だから、迷惑かけるところがあるし、千葉が不安に思っていても何もできないかもしれないと思う。でも、これだけは言わせて。
千葉は昨日、自分とあのガストロとかいう殺し屋とを比べてたけど、比べる必要。ないと思う」
私は銃を手に持った。
いつもとらわれる、不思議な感覚。この銃の引き金を引いた瞬間、全ての緊張から解き放たれ、自由になれる。
「ためらうとか、ためらわないとかってたしかに大事だと思う。それでも、千葉には千葉らしいところがあるよ。私は千葉のこと、尊敬してる。そういう千葉らしいところが好きだよ」
ち、ちょっと待った。
思わず「好き」とか言っちゃった。
「え、あ、あの……。好きっていうのは千葉のこと、尊敬してるからって意味で。べ、別に深い意味は……」
「ありがとな」
いきなりお礼を言われたから、私はぽかんとした。
「俺、自分にやっぱりちょっと自信がなかったのかもな。これじゃあ必殺も何もないよな」
千葉がこっちを見て微笑んでくれた。私も嬉しくなって笑った。
「やろう、練習」
「そうだな」
私たちは銃を手に持ち、歩きだした。
必殺の一撃を探すため、最高のパートナーと最高の暗殺を成功させるために。
〜END〜
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お、終わったぁ。終わらせ方がイマイチどうすればいいのかわからなかったけど、これでいいのかな。
楽しんでくれてたら嬉しいです。
普段あまり話さないキャラって感情表現をどうすればいいのか悩んだ……。ふぅ……。
キーンコーンカーンコーン
「あ、今何時?」
私の問いかけに千葉が自分の腕時計を確認した。
「⁉ やばい、もうそろそろ朝のHRだ」
え、ウソでしょ。
私たちは大慌てで的と銃を片づけて校舎に急いだ。
教室に滑りこむようにして入ると、クラスメイトは全員そろっていた。普段遅刻の常習犯であるカルマまでいた。
「あっれ〜、2人そろって遅刻とかなんかあったの〜?」
カルマがにやにやしながら聞いてきたけど、私は「別に」と答えるだけにした。ここで何か余計なことを言ったらカルマだけでなく、そこでやはりにやにやしながら私たちを見ている中村まで参加してくるだろう。
「朝練してたんだ。でも、まだ殺せんせー来てないし、ぎりぎりセーフだろ?」
千葉はそう言って私の横をすり抜けると、自分の席に座った。私も自分の席まで歩いていく。
隣の席の岡島が私に聞いてきた。
「なぁなぁ、何かあったのかよ?」
「だから、別にって言ったじゃない」
「気になるなぁ」
しつこいな。
ガラガラ
「おはようございます、日直の人は号令を」
殺せんせーが入ってきた。
今日の日直は……茅野か。
「起立!」
茅野の号令で私たちは立ち上がり、銃を手にした。
でも、なんだか不思議。
隣に千葉がいないってだけで、銃を持つ自分に違和感を感じる。
どうしてだろう?
休み時間になると、矢田が私を引っ張って廊下にでた。
「ちょっ、ストップ。矢田、止まって」
私が声をあげると、矢田はぴたりと止まった。そのまま勢いでこちらを振り返った。
「どうしたのよ、凛香っ! 昨日のLINEでなんか変だなぁって思ってたけど、いきなり展開が急すぎない?」
「何の話よ……」
私は矢田の言葉にあきれてしまった。
「……朝練って口実?」
矢田が周りを気にして小声で聞いてくるもんだから、さらにあきれてしまった。
「朝練は本当のことよ。実際、さっきまでやってたし。気づいたら朝のHR前だったから慌てて教室に駆け込んだだけ」
「なぁんだ」
いったい何を期待してるのよ。
「あ、そうだ矢田」
「だーかーらー! 私のことは桃花って呼んでって言ってるじゃない」
私はその言葉を無視して続けた。
「昨日は、アドバイス。ありがとう」
「え? 何のこと?」
「ほら、自分に素直になれって言ってくれたじゃない。それ参考になった。だから、ありがと」
すると矢田は嬉しそうに微笑んだ。
「お礼なんていいって」
矢田は私の手を引っ張って教室に戻った。
今日の体育の授業内容は射撃だった。
「まずは速水さん、やってみなさい」
烏間先生に言われて、私は前に立った。
深呼吸をして、的に狙いをしぼった。
パン、パン、パンッ
3度撃った弾は3回とも的に命中した。
「よし。次に千葉くん」
「はい」
私はさがって千葉の射撃を見ていた。
千葉の狙いは正確かつ、速かった。
やっぱり、尊敬できるなぁ。
「おーい、はーやーみーちゃんっ」
「!」
中村に後ろからいきなり抱きつかれて、私はかなりびっくりした。
「な、何よ、中村……」
「いやぁ、よく千葉のこと見てるなぁって思ってさ」
「そ、そんなことないわよ」
「どうかなぁ」
うっ……。
中村の表情が怪しくなっている。だいぶ離れたところでやっぱりカルマがにやにやしている。
この2人、苦手……。
「そんなことより、ほら。中村。烏間先生に呼ばれてるよ。的当て、順番からいって次は中村でしょ」
「あ、ほんとだ。じゃ、行ってきまぁす」
中村がスキップをしながら行ってしまった。
はぁ、なんとか解放された。