>>633
「まだ残ってたんだ」
「ああ」
な、なんか気まずい。
「これから自主練か?」
「え、まぁそんなとこ……」
私は千葉の近くを通り過ぎようとした。
瞬間、思い切り腕をつかまれた。
ちょっと、痛かった。
「何、千葉……」
「さっき、渚と裏山に行ったろ」
「うん」
私は自分の腕を見て、
「千葉、痛い」
と言った。
すると彼は「悪い」と言って慌てて手を放した。私はつかまれた腕をぼんやりと見つめた。
「それがどうかしたの?」
「何を話してたんだ」
どうしてそんなことを聞くんだろう。
「別に。千葉には関係のないことだから」
そう言ってからハッとした。
まずい、こんな言い方じゃ傷つけちゃう。
また、私は……。
「そうか」
千葉は普通だった。
「ごめんっ!」
私は急いで謝ると、居ても立っても居られなくて校舎でカバンを手に取ると走って帰った。
ごめん、千葉……。
「凛香、大丈夫?」
「うん、平気……」
私は家に帰ると引きこもってしまった。母さんが心配して様子を見に来るけど、どう言えばいいのかわからないから、とりあえず「大丈夫」や「平気」を連発するしかなかった。
すると突然、LINEの通知を知らせる音が鳴った。
「千葉⁉」
慌ててスマホを見ると、そこに表示された名前は矢田だった。
「やっほー、凛香」
私はちょっと落胆した。
「何?」
そう返信すると、矢田の返事は意外なものだった。
「なんか落ち込んでる? いつもより返信が短い気がする(・_・;)」
私は驚いた。
そんなに私、落ち込んでた?
「なんでわかったの?」
そう聞くと、
「わかるよー。だって1年くらい一緒にいるんだよ! 何かあったの?」
私は泣きたくなった。
「電話、してもいい?」
「え、いきなり⁉ 別にいいけど」
私は矢田に電話をかけた。
『大丈夫?』
第一声がそれだった。
「どうしよ、矢田……」
声が自然と涙声になっていた。
『えぇっ⁉ ちょっと、本当に大丈夫なの?』
「ダメ、かも……」
『え、え、どうしよ‼」
「いや、そんな慌てることない……」
『でも、ダメって』
私は流れていく涙を服の袖(そで)でぬぐった。
「私、今日。千葉に冷たくしちゃった……」
『あー。それで落ち込んでたのかぁ』
「どうしよう……」
渚は今日、私のことをすごいって言ってたけど、全然そんなことない。すぐに折れちゃうし。自分にやっぱり、自身がないんだ……。
『ねぇ、凛香』
矢田の声が耳に届いた。
『どうして、千葉くんに冷たくしちゃって「どうしよう」って思っちゃうのか。そんなに心が苦しくなっちゃうのか。もう一度よく考えてみたら?』
考える?