>>659
私は一晩、色々と考えてみた。
私が千葉に対して抱いている罪悪感とか、そういうものを。
でも、考えれば考えるほど、ますますわけがわからなくなっていった。気づいたときには、朝になっていた。
どれだけ考えすぎたのだろうか、私は。
それに、寝不足に等しいから気分も悪い……。
「凛香、入るわよ」
「うん」
母さんが部屋に入ってきた。
「顔色悪そうね。大丈夫?」
「平気」
すると母さんはため息をついた。
「あなたはそうやって、いつも本心を隠そうとするのよね……」
え?
いきなりそんなことを言われるとは思っていなかったから、ぽかんとした。
「今日は休みなさい。母さんは午後からちょっとでていかなきゃいけないから、とりあえずお昼はコンビニでなんか買っておいてあげるから」
母さんはそう言って私の部屋からでていった。
私はすぐにLINEで矢田に連絡した。
「体調が悪いから学校を休むことにします」
すると、すぐに返信がやってきた。
「平気なの? 昨日からずっと変だったけど……」
「別に行ってもいいんだけど、母さんに『休め』って言われたから」
「そうなんだ。それじゃ、体に気をつけてね」
「ありがとう」
会話を終えると、私は急に襲ってきた睡魔に勝てず、ゆっくりと目を閉じた。
家じゅうに鳴り響くドアフォンの音で目が覚めた。
うん。さっきより冴え冴え(さえざえ)としてる。どうやら寝不足だったみたい。
私は午後になったら母さんが家にいないことを思いだし、慌てて玄関へ行ってドアを開けた。
「すみません、待たせました……」
「よっ」
「千葉……」
学校から帰ってきたばかりという出で立ちの千葉が、そこには立っていた。
私は慌ててドアを閉めた。
「速水?」
千葉がドアをどんどん叩く音が聞こえる……。
というか、なんで来てるの⁉
いきなり来るから何をどうすればいいのかわからない。服はパジャマだしっ。
「な、何か用⁉」
思わず声が上ずった。
「……中村たちに頼まれたんだ。今日、学校で配られた手紙とか、色々」
なんだ、お使いか。
私はゆっくりとドアを開けた。
「いらっしゃい」
「え、入っていいのか?」
「平気だよ。今、親いないから」
私は千葉を家に招いた。
「そこに座ってて」
千葉に席に着いてもらって、私は冷蔵庫を開いてお茶を取りだし、自分用と千葉用にお茶を用意した。
「はい」
「ああ、ありがとう」
席で向かい合ってから気づいた。
や、やっぱり気まずいっ‼
昨日、あんなこと言っちゃったし。何しろ、今、パジャマだしっ‼
もうちょっと普通の私服で出迎えればよかった。
「じゃあ、俺はこれで」
「え、もうちょっとゆっくりして……あ、いや。なんでもない……」
なんでそんな言葉を口に出そうとするのよ。
千葉はお使いで私の家に来ただけなんだから。
「明日、来られるといいな」
「大、丈夫……。ちょっと今日は体調悪かっただけだから」
「そうか」
不意に千葉の手がのびてきて、私の頭の上に乗った。
「待ってるから」
私は視界がぼやけた。
ううん、ぼやけたんじゃない。涙が……。
「うっ……」
「え、速水⁉」
私、色々考えて。きっと煮詰まりすぎたんだ……。
だから、こんなに……。
「おい、大丈夫か?」
千葉が心配してる……。
答えたいのに、何か言っておきたいのに、何を言えばいいかわからない。
「私、千葉に……嫌われたくないっ」
「え?」
言ってから気づいた。
そうか、嫌われたくないってことは。
「私、千葉のことが好きっ……」
言葉に、なっていた。
「昨日、ひどいこと言っちゃってごめん……。私、怖かったの。千葉に、嫌われるんじゃないかって……。今日、会うの気まずくて。だから……」
だから……。
体が不意に温かくなった。
「俺さ、昨日。速水が渚と歩いてるとき、ちょっと心の中がモヤッとしたんだ。なんでかはよくわからなかったし、結果的に速水を傷つけてたことに気づいたんだ」
千葉が、私を抱きしめていた。
「今日、中村たちに頼まれたってあれ。嘘なんだ」
私は驚いた。
う、そ……?
「速水が来なかったから心配して、それで渚に思わず聞いたんだ。昨日、何を話してたんだって。そしたら、『僕からは何も言えないよ。本人に会いに行ったらいいと思う』って。そう言われて、俺も気づいたんだ」
不意に、唇がふさがれた。