「おやすみ、お父さん」
文乃は寝る前に、必ず俺の部屋にそう言いにくる。随分と素直な娘に育ったな、と悦に浸るのも、毎晩のことだった。
「ああ、おやすみ」
俺の返事を聞くと、文乃はにっこりと笑いドアを閉めた。つぼみと幸助と修哉はもう寝ている。赤煉瓦のこの家の中で、目覚めているのは俺だけだ。
机に積み上げられた書類の前で、コツコツと平坦な秒針の音に身を委ねる。時折車やバイクの音が、遠くから聞こえてきた。
まだあいつは来ない。机の引き出しから一冊のファイルを取り出す。彩花の失踪についての記事や情報をスクラップしたものだ。
――昨日、○○山で土砂崩れが発生し、研究の為に現場付近で採掘をしていた研究者2人が巻き込まれるという事件が発生した――
――楯山研次朗さんは救出されたものの、楯山文乃さんの遺体は未だ見つかっておらず――
「……」
目の前を土砂が覆い尽くす景色がフラッシュバックする。一つの化け物となったそれは俺たちを塞ぎ込み――それからの事はよく覚えていない。意識を失っていたのだろう、目が覚めた時には白いベッドの上で、彩花の失踪を知った。
彩花は何処にいるのだろうか。何故、跡形もなく消えてしまったのだろうか――
ふっ、と思考が止まった。時間だ。
「またあのスクラップを見てたのか」
夢というには余りにもお粗末な、闇だけで作られた世界。あの日からずっと、俺はその中で此奴の声を聞いている。
此奴については、実のところよく解らない。喋る蛇であること、自らを『冴える』といっていること、俺が寝ている間に身体を勝手に借りて目醒めていること――くらいだ。
更に何故か、彩花の失踪について、かなり深い所まで知っているようだ。だからこそ毎晩こうして聞き出そうとしているのだが、勿体ぶってなかなか話してはくれない。
「……解らない事だらけだ」
「そうだろう、お前の妻の失踪には、人知を超えたものが関わっている」
「いい加減教えてくれないか! お前は誰だ! 彩花について何を知っている! 俺は……俺はどうすれば!!」
いつもなら有耶無耶にされるだけの俺の叫び。だがその日は違った。
「……そろそろ潮時かもな」
意味あり気に『冴える』は呟く。
「なんだ、潮時ってんは」
「いいか、これから話す事は……お前にとって有益な情報だ。だが忘れるな、甘い話には毒があるってもんだ」
そいつは俺の眼を睨みつけている、何も見えないというのに、はっきりと判った。目を逸らしたら負けだ、本能がそう俺に呼びかけていた。
「……聞くか?」
「当たり前だろ」
(双同じことかな?)とりあえずよろ!
>>180、>>181
望うまくない!?私ってksでbkでahでgmだね!あははは………(同感(殴打撲)否定しろ!ゴラァ!(そういうからだろ…;;)