>>157
そこへ。
浅「なっ」
A組の棒に食いつくようにしてやってきたのは、村松と吉田だった。
浅(こいつら、序盤で吹っ飛ばされた……!)
吉「受け身は嫌ってほど習ってっからな」
村「客席まで飛ぶ演技だけが苦労したぜ」
さらに磯貝の号令が響き渡る。
磯「今だ! 全員、音速っ!」
攻撃部隊が一斉にA組の棒に食らいつく!
吉「どうだっ!」
浅野はE組の生徒を見下ろしながら、次の瞬間、次々と棒から彼らを蹴り落とした!
吉「ぐっ」
村「うぉっ」
浅「君たちごときが、僕と同じステージに立つ。蹴り落とされる覚悟はできているんだろうねぇ」
あのラスボス感、やっぱり理事長の息子!
殺(浅野くん、1人で戦況を変える決定的なリーダー。君がA組を指揮している限り、A組は負けない。磯貝くんは、そういうリーダーにはなれないでしょう。何故なら、君は1人で決めなくてもいいのだから)
僕ら守備部隊は磯貝くんを台にして、A組の棒に食らいついた。
そして……。
磯「来い、イトナ!」
イ「ああ」
殺「ヌルフフフ、秘密兵器は最後までとっておくものですねぇ」
イトナくんが磯貝くんをめがけて走ってくる。磯貝くんは両手の平を組んでイトナくんがかけた足を思い切り持ち上げる要領で、A組の棒まで飛ばした! イトナくんはA組の棒へと足をかけ、あとはもう、僕らが棒を押し続けることで、棒はあっけなく倒れてしまった。
しばらくの間、校庭内では沈黙が訪れた。
磯「E組の、勝ちだーっ!」
皆「ぃよっしゃーーーーーーー‼」
体育祭 終了後
浅野くんは磯貝くんのバイトについて、目をつぶることを約束してくれた。それから、一応。海が榊原くんの家に奉公に行くという件も……。
僕らはそのあと、体育祭の後片付けをしていた。
渚「あれ、カイは?」
さっきから姿が見えない。
片「さっき体育館裏に行くのが見えたわよ」
渚「僕、ちょっと見てくるよ」
僕は体育館裏に足を運んだ。
海「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
渚「カイ⁉」
カイは激しくせき込んでいた。僕は慌てて彼女の……彼の背中をさすった。
海「あ、潮田か」
渚「大丈夫?」
海「へーき、もう慣れた」
カイは手で口をぬぐうような動作をした。
それにしても、海はよく風邪だって言ってるけど、薬の話もよく聞くし。飲んでるところも何回か見てるけど、どうして咳が止まらないんだ?
渚「ねぇ、カイ」
海「うん?」
渚「もしかして海って、僕らに何か隠し事をしてるの?」
海「さぁね」
カイは体育館の壁に背中を預けて言った。
僕は、意を決した。
渚「ねぇ、カイ。君が知っているだけの範囲でいい。教えてほしいことがあるんだ」
海「教えてほしいこと?」
僕はカイの問いかけにうなずいた。
どこかから、僕らを呼ぶ声が聞こえてきたけれど、僕らは互いに黙ったまま。その声に反応しなかった。
渚「例えば……、海があの時僕にしたこと。あれは、一体……」
あの時とは、僕が海に誘われてカフェ店に行った、あの時だ。(「part4 590,636」)
海「そのことについては、俺には何も言えねぇよ。それに、俺が持っている思いや行動の決定権は俺じゃなくて海。俺は口出しできるほど偉い立場にはない」
渚「………」
僕はずっと気になっていた。海はもしかしてって、ここ最近。何度も何度も思うことがあった。
雨の日は体調が悪くて、プールや海で泳げなくて、甘い物が大好きで……。
考えすぎなんじゃないかって、思われるかもしれないけど……。正直、聞くのも怖いし。
海「なぁ、潮田」
渚「何?」
海「お前、海のこと好き?」
僕は何を聞かれているのかわからず、ぽかんとした。それから、しばらく色々考えて……。
渚「ま、ままままま待った。それ、どういう意味⁉」
海「どういう意味って……、あぁ、そういうことね。別にどの好きでもいいよ。友だちとしてでもいいし、異性としてでもいいし」
そ、そういうことか。
渚「好きだよ」
海「昔と変わらず?」
僕はうなずく。
だって今、ここに僕がいられるのは、海のおかげでもあるんだから。
海「そ。なら、約束をしてほしい」
渚「やく、そく?」
今度はカイがうなずいた。
口が、動く。
とまることなく、スラスラと。
まるで、朝に「おはよう、いい天気だね」と言う日常会話のように……。
彼の口が止まった時、僕は驚愕のあまり何も言えなかった。
海「……それが俺の、俺たちの願い。お前への約束だ」
僕は、胸が苦しくなるのを感じた。
なんで、どういう意味? 何がしたいんだ。
わからない、わからない、わからない……。彼が、そして海がどうしてその結論に至ったのか。どうして、その選択をしているのか。
そして、そのとき。僕に何ができるって言うんだ……。
そこへ。
カ「……渚くーん、カイー」
渚「カ、カルマくん」
海「おー、お疲れ」
カ「お疲れじゃなくてさ、もうみんな集まってんだけど、そろそろ帰ろうぜ」
海「え、もうそんな時間⁉ やっば、俺そろそろ寝るわ。おやすみ」
渚「え⁉ 寝るって……」
僕は驚いてカイに声をかけたけれど、彼はすでに寝ていた。
その寝顔を見て、僕は逆にとても安心感を覚えてしまうのだった。