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海「教えてほしいこと?」
僕はカイの問いかけにうなずいた。
どこかから、僕らを呼ぶ声が聞こえてきたけれど、僕らは互いに黙ったまま。その声に反応しなかった。
渚「例えば……、海があの時僕にしたこと。あれは、一体……」
あの時とは、僕が海に誘われてカフェ店に行った、あの時だ。(「part4 590,636」)
海「そのことについては、俺には何も言えねぇよ。それに、俺が持っている思いや行動の決定権は俺じゃなくて海。俺は口出しできるほど偉い立場にはない」
渚「………」
僕はずっと気になっていた。海はもしかしてって、ここ最近。何度も何度も思うことがあった。
雨の日は体調が悪くて、プールや海で泳げなくて、甘い物が大好きで……。
考えすぎなんじゃないかって、思われるかもしれないけど……。正直、聞くのも怖いし。
海「なぁ、潮田」
渚「何?」
海「お前、海のこと好き?」
僕は何を聞かれているのかわからず、ぽかんとした。それから、しばらく色々考えて……。
渚「ま、ままままま待った。それ、どういう意味⁉」
海「どういう意味って……、あぁ、そういうことね。別にどの好きでもいいよ。友だちとしてでもいいし、異性としてでもいいし」
そ、そういうことか。
渚「好きだよ」
海「昔と変わらず?」
僕はうなずく。
だって今、ここに僕がいられるのは、海のおかげでもあるんだから。
海「そ。なら、約束をしてほしい」
渚「やく、そく?」
今度はカイがうなずいた。
口が、動く。
とまることなく、スラスラと。
まるで、朝に「おはよう、いい天気だね」と言う日常会話のように……。
彼の口が止まった時、僕は驚愕のあまり何も言えなかった。
海「……それが俺の、俺たちの願い。お前への約束だ」
僕は、胸が苦しくなるのを感じた。
なんで、どういう意味? 何がしたいんだ。
わからない、わからない、わからない……。彼が、そして海がどうしてその結論に至ったのか。どうして、その選択をしているのか。
そして、そのとき。僕に何ができるって言うんだ……。
そこへ。
カ「……渚くーん、カイー」
渚「カ、カルマくん」
海「おー、お疲れ」
カ「お疲れじゃなくてさ、もうみんな集まってんだけど、そろそろ帰ろうぜ」
海「え、もうそんな時間⁉ やっば、俺そろそろ寝るわ。おやすみ」
渚「え⁉ 寝るって……」
僕は驚いてカイに声をかけたけれど、彼はすでに寝ていた。
その寝顔を見て、僕は逆にとても安心感を覚えてしまうのだった。
カルマside
ったく、あの2人どこ行ったんだよ。
「渚くーん、海…でいいんだったかな」
たしか片岡の話だと、体育館裏にいるって言ってたよな。
俺はそこに行くことにした。
そこで。
渚「好きだよ」
⁉
そっと、のぞくようにしてそちらを見た。
そこには渚くんとカイがいた。
もしかして告白か?
これはからかいのネタになりそうだ……。
海「そ。なら、約束してほしい」
渚「やく、そく?」
うん?
告白した割に、空気がイマイチ暗くない?
カイの口が開いた。
海「海はいつか、クラスメイトの誰かを殺す」
⁉
渚「何、言って……」
渚くんが驚くのも無理はない。俺も、驚くよりほかない。
クラスメイトの誰かを殺す、だって?
海「そのとき、お前は海の助けになってほしい。海が、誰も殺さないで済む方法を。海が、幸せになれる方法を。それが俺の、俺たちの願い。お前への約束だ」
そろそろ、でるときか?
カ「……渚くーん、カイー」
海「カ、カルマくん」
渚くんが青ざめた顔をしながらこちらを見た。
☆
渚side
海「ふぁーあ、よく寝た」
渚「おはよ、海」
海「あれ、ここどこ?」
カ「体育館裏だよ。てか、もうみんな帰り始めてるから早く帰ろうぜ」
僕らはみんなと合流した。
茅「あ、来た」
前「ったく、どこ行ってたんだよ」
海「ごめんごめん」
磯「じゃ、帰るか」
僕らはうなずいてE組の校舎めがけて歩きだした。
その道すがら、僕は海の言葉を思いだしていた。
夏休み
海「あ、そうだ。渚。これだけは教えておかないと分が悪いかも」
渚「え?」
僕が不思議に思っていると、海は、僕の耳もとにそっと自分の顔を近づけてきた。
え、何してんのさ!
僕は慌てて身を引こうとしたけれど、海の言葉で、思わずとまってしまった。
海「君には、あの教室の真実が見えていない」
体育館裏
渚「やく、そく?」
海「海はいつか、クラスメイトの誰かを殺す」
海「どうしたの、渚」
海がこっちを向いてきた。
渚「……ううん、何でもない。行こう」
カ「………」
この教室で、何が起きているのか。僕にはまだわからない。
でも、たとえどんな未来が待っていても。
僕らは……。