>>827
渚side
海と雪村さんがいない。
「ねぇ、海たちがどこに行ったか知らない?」
「さっき、海岸のほうで花火の片づけをしているのを見たけど……」
神崎さんにお礼を言って、僕は海岸へ向かった。
「さ、下がれ、あかりっ!」
海の切羽詰まった声が聞こえた。僕は慌てて走って向かった。
「お前、誰だっ⁉」
黒いマントを羽織った人が、海と雪村さんの目の前にいた。
海は日本刀を構えながら、雪村さんを自分の後ろで守っていた。
「海、雪村さんっ!」
「⁉ 渚、来るなっ!」
騒ぎを聞きつけて、何人かがホテルからでてきた。
その、一瞬のスキをついて。
「⁉」
黒マントは海の後ろにいる雪村さんをつかまえ、反撃をしようとした海の首の後ろに手刀をくらわせると、2人をかかえてどこかへ走り去っていった……。
あまりのスピードの速さに、僕らは茫然と成り行きを見ているしかできなかった。
「今、あきらかに拉致られたよな?」
誰かの言葉に、僕はハッとした。
「お、追いかけ……」
僕が走ろうとすると、僕の手を中村さんがつかんできた。
「追いかけるって言ったって、どこに行くのよ」
「うっ……」
そうだ、黒マントが行った方向はわかるけど、どこへ行こうとしているのかはわからない。
「まずは、せんせーに言わなきゃでしょ」
中村さんは冷静に言って、ホテルへと走り始めた。
「殺せんせー!」
「おや、どうかしましたか? みなさん」
殺せんせーは雪村先生、烏間先生、ビッチ先生と一緒にお茶を飲んでいた。
こ、この異常事態のときに!
「海と雪村ちゃんが拉致されたのっ!」
中村さんの言葉に、雪村先生の顔が青ざめた。
「中村さん……。それ、本当なの?」
「目の前で、黒マントの変なヤツに拉致されたの。見間違えじゃない……」
雪村先生は青ざめた表情のままだった。殺せんせーは雪村先生の肩に手を置き、僕らの方を向いた。
「それで、犯人はどこへ?」
「わかんない……」
どうして、いきなり2人が拉致されなきゃいけなかったんだろうか。狙いはいったい……?
そのとき、僕のスマホが音を鳴らした。
こんなときに誰だろう。半ばイライラして電話にでると……。
「渚か?」
「海っ!」
まさか、電話にでてくるなんて。
僕の周りにみんなが集まってきた。烏間先生が胸ポケットからペンとメモ帳を取りだし、メモに「ハンズフリー」と書いた。僕はうなずいて画面にあるハンズフリーボタンを押した。
「無事なの?」
「ああ、なんとかな」
「雪村さんは?」
そう聞きつつ、僕は雪村先生を見た。先生は不安そうな顔を僕のスマホに向けていた。
「大丈夫。隣にいるよ。声を聞かせてあげたいところだけどさ、ちょっと今。たてこんで……⁉ おい⁉」
海の声が遠ざかる。
「やぁ、聞こえるかい?」
「⁉」
これは、犯人の声?
「うん?」
「聞こえて、います……」
「今、雪村姉妹の片割れの……海さんだっけ? 彼女に電話をかけてもらうように頼んだんだよ」
海が簡単に相手の注文に答えるものだろうか。海だったら、もっと抵抗するはずだ。
「雪村あかりさんを殺されたくなければ、私の注文に忠実に答えろと」
「⁉」
僕はスマホを握りしめた。
「お前の注文には答えただろっ⁉ 早くあかりを放せっ!」
海の声が遠くで聞こえた。犯人はその声を無視して続ける。
「今から私の指定する場所へ来なさい。時間は1時間後以内。場所はそこから離れた場所にある洋館だ」
不破さんが律と一緒に調べ始めた。すぐに発見したらしく、僕らに画面を見せてきた。
「もし、時間内に来なければ雪村海の命も、雪村あかりの命もないと思え」
そして、通話は途絶えた。
海が傍にいるから、心配はないと思うけど……。
「ど、どうすれば……」
雪村先生が慌てていた。
「落ち着きなさい、あぐり」
ビッチ先生が雪村先生に声をかけて、僕らを見た。
「どうするの? クラス全員で行くのかしら」
「そうします」
僕は言った。
「でも、海ちゃんが近くにいるから助かったよぉ。あかりちゃんもきっと無事だよ」
「ところが、そこが問題なのよ」
「どういうこと?」
海がいると、何の問題があるのだろうか。むしろ、安全だとは思うけど。
「あなたたち、海に聞いてないの?」
「何を?」
「海の弱点よ」
弱点?
☆
指定された洋館に着いた。
「ここであってんの?」
「でも、犯罪するにはうってつけに見える……」
そう、だね。
指定された洋館は、蔦が絡まっていて、それに森の中にあるし。不気味さが漂っていた。カラスもそこかしこで鳴いている。
「これで月が赤かったらさらに不気味よね」
不破さんがそんなことを言っていた。