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海が傍にいるから、心配はないと思うけど……。
「ど、どうすれば……」
雪村先生が慌てていた。
「落ち着きなさい、あぐり」
ビッチ先生が雪村先生に声をかけて、僕らを見た。
「どうするの? クラス全員で行くのかしら」
「そうします」
僕は言った。
「でも、海ちゃんが近くにいるから助かったよぉ。あかりちゃんもきっと無事だよ」
「ところが、そこが問題なのよ」
「どういうこと?」
海がいると、何の問題があるのだろうか。むしろ、安全だとは思うけど。
「あなたたち、海に聞いてないの?」
「何を?」
「海の弱点よ」
弱点?
☆
指定された洋館に着いた。
「ここであってんの?」
「でも、犯罪するにはうってつけに見える……」
そう、だね。
指定された洋館は、蔦が絡まっていて、それに森の中にあるし。不気味さが漂っていた。カラスもそこかしこで鳴いている。
「これで月が赤かったらさらに不気味よね」
不破さんがそんなことを言っていた。
洋館の中へは、すんなり入れた。中は薄暗く、窓から差し込む月の光を頼りにして、僕らは2つの班にわかれて行動を開始した。
「どどどどど、どこに何が潜んでいるか、わわ、わかりませんからねっ。慎重に、慎重に、いきましょう……」
そう言っている殺せんせーが1番びくびくしている。雪村先生も隣でびくびくしながら、次々と手当たり次第にドアを開けていく。
「ここでもない……」
「いったい、どこに?」
そのとき、僕のスマホが震えた。
「海さんからです」
律の声に、僕らの間を流れている空気がさらに緊張してきた。僕はスマホの通話ボタンを押して、それを耳にあてた。
「海?」
「残念でした。違います」
おおかた予想はしていたけれど、やっぱり犯人からだったか。
「君らは今、もしかしなくとも洋館の中へ着いたのかい? 足音も何もしないから、ちょっとびっくりしたよ」
「どこにいるんですか?」
「ロビーにもう一度来てみなさい。そこで落ち合おう」
☆
ロビーに着くと、烏間先生とビッチ先生の班についていった他のみんなと合流した。
「いったい、どういうつもりなんだろう」
「さぁね」
突然、ロビーの天井にあるシャンデリアが光り始めた。そのまぶしさに目をこらしながら、3メートル先にある階段に目をやると、そこには。
「海、あかりっ!」
「お姉ちゃん!」
海と雪村さんが、いた。
ただ、後ろには2人をさらった黒マントがいた。海と雪さんが両手を背中に回しているあたり、おそらくは縛られているのだろう。
「よく来たね」
「すぐに2人を解放しなさいっ!」
殺せんせーは相手の出方をうかがっていた。
僕らは僕らで、いつでもやれるだけの準備はできている。
「解放してやってもいいけど……」
すると、海がジャンプをして、黒マントに頭突きをした。そして、そのまま回し蹴りをして黒マントを床にたたきつけた!
「あかり、逃げてっ!」
「⁉」
雪村さんは一瞬驚いたような顔をして、でも、慌てるようにして階段を駆け下りた。僕は思わず走り寄って、彼女をかばった。
「海も早く!」
「ダメ。多分、私は……」
黒マントが起きあがり、黒い布の向こうから腕が伸びてきて海の首にまわした。
「海っ!」
「チッ」
「残念だねぇ。雪村あかりをかばってまで助けようとするなんて、もしもそんなことをしなければ、君も助かったのかもしれないのに」
黒マントの顔は、相変わらず見えない。でも、これだけはわかる。
今、あいつはすごい不敵な笑みを浮かべているということは。
「今日のところはこれで勘弁しといてあげよう」
「待ちなさい!」
殺せんせーがマッハのスピードで2人に近づこうとしたけれど、次の瞬間。2人はまるで手品のようにその場から消えていた。
「消え、た……?」