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倉橋side
磯貝くんからの電話から5分後、私のスマホに非通知がかかってきた。
「どうする?」
「うーん、でるべきだとは思うけど……」
「磯貝さんがおっしゃるには、矢田さんか倉橋さんがでるべきだそうです」
交渉のスキルを使えってことかなぁ。
「私がでるわ」
桃花ちゃんが私のスマホをとろうとして、私は慌てた。
「わ、私のだから私がでるよ!」
私は急いでスマホの通話ボタンを押した。そのあと、すぐにハンズフリーも押しておいた。
「もしもし?」
「こんばんは。って、あれ? 女子の声だね。たしか潮田くんのスマホに電話したはずなんだけど……」
「A班の皆さんにかかってきた非通知はB班に行くように調整しておきました」
律が小さな声で言った。
ありがと、律。
「カエデちゃんを返して」
「そのことなんだけど、僕がさらったのは雪村あかりさんだよ? 茅野カエデではない」
「どっちも同じことよ。茅野さんも雪村さんも私たちの大事なクラスメイトよ!」
メグちゃんの言葉に私も、みんなもうなずいた。
「いいや、違うね。茅野カエデはそこの教室にいるけど、雪村あかりはいないだろう。いない存在だろう」
たしかに、そうだけど……。
「それでも2人とも私たちの大事な仲間だもん」
なるべく会話を長引かせるんだ。
電話の向こうで、何かが破壊される音が聞こえた。
「おやおや、もう見つかっちゃったか」
やってくれたんだ、A班のみんな!
☆(渚side)
僕らは急いでみんなを呼び集めた。
「今思ったんだけどさ、これって器物損壊じゃないかな」
海が自分で破壊した壁を見ながら言った。
「いいじゃん、そんなの。だって向こうは人を拉致してんだし」
カルマくんがフォローを入れつつ、破壊された壁の向こうをのぞいた。そこは真っ暗で、まるで地獄への道のようだった。
「何も見えないから、何があるかわからないね」
「あ、そこは心配しなくていいよ」
そう言って、海はウェストバッグからゴーグルをいくつも取りだした。
「何それ」
「暗視ゴーグルだよ」
毎回思うんだけど、海のウェストバッグってなんでも入ってて不思議なんだけど。この前は救急箱も入ってたし、あと、ノートパソコンも入ってた。あんな、中くらいの大きさのウェストバッグに、果たしてどのくらい物が入るんだろうか。まるでドラ○もんの四次元ポケットみたい……。
「ま、その前にみんなは超体育着に着替えなよ」
「海は着替えないの?」
中村さんが海に聞いた。
「この格好の方がやりやすいから、これでいく。大丈夫。仮に撃たれても防弾チョッキを中に着こんでるから、問題ない」
そ、そう。
海が渡してくれた暗視ゴーグルのおかげで、暗いはずの道のりはだいぶ楽だった。
「どこに何があるのか、すぐにわかるな」
「でも、油断はしちゃダメ……」
瞬間、僕らの横に何かがすり抜けるような、空を切るような、鋭い音が響いた……と思ったら。
「こんな風にね」
海の手には一本の矢があった。どうやら僕らの横を通り過ぎていったのは、それだったみたいだ。
先がけっこう尖っている。もしもあたっていたら、一発でやられていただろう。
「もしかしたら、ブービートラップとかあるかもしれないから気をつけて」
「うん……」
互いが互いにサインをおくりながら、慎重に歩を進める。
「みんな、止まって」
岡野さんが声をあげた。
「んだよ、岡野」
「黙って」
岡野さんは耳をすませていた。僕らもそれにならうけれど、特に何の音もしない。海だけが唯一、反応を示した。
「もうすぐみたいだね」
「うん」
「茅野が見つかったの?」
「だいぶ先だとは思うけど、近づいてると思う。話し声が聞こえたから」
「ただいま、B班が犯人と交渉している最中です」
律がB班の実況中継をしてくれた。
「なら、奇襲を仕掛けられるってことは、ほぼないに等しい?」
「油断はしないほうがいいと思うけどね。海、俺が指揮とってもいい?」
「いいよ」
カルマくんがにやりと不敵な笑みを浮かべた。