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海が渡してくれた暗視ゴーグルのおかげで、暗いはずの道のりはだいぶ楽だった。
「どこに何があるのか、すぐにわかるな」
「でも、油断はしちゃダメ……」
瞬間、僕らの横に何かがすり抜けるような、空を切るような、鋭い音が響いた……と思ったら。
「こんな風にね」
海の手には一本の矢があった。どうやら僕らの横を通り過ぎていったのは、それだったみたいだ。
先がけっこう尖っている。もしもあたっていたら、一発でやられていただろう。
「もしかしたら、ブービートラップとかあるかもしれないから気をつけて」
「うん……」
互いが互いにサインをおくりながら、慎重に歩を進める。
「みんな、止まって」
岡野さんが声をあげた。
「んだよ、岡野」
「黙って」
岡野さんは耳をすませていた。僕らもそれにならうけれど、特に何の音もしない。海だけが唯一、反応を示した。
「もうすぐみたいだね」
「うん」
「茅野が見つかったの?」
「だいぶ先だとは思うけど、近づいてると思う。話し声が聞こえたから」
「ただいま、B班が犯人と交渉している最中です」
律がB班の実況中継をしてくれた。
「なら、奇襲を仕掛けられるってことは、ほぼないに等しい?」
「油断はしないほうがいいと思うけどね。海、俺が指揮とってもいい?」
「いいよ」
カルマくんがにやりと不敵な笑みを浮かべた。
カルマくんが早速、僕らに指示をだした。
「なるべくなら、相手に気付かれないうちに茅野ちゃんを助けておきたいんだけど」
「それなら任せなさいって」
「何をするつもり?」
海はにやにやしながらウェストバッグを漁っていた。
「まさかとは思うけど、本物を使うわけじゃないよね?」
「いやいや、そんなのじゃ面白くないって。使うのは、これだよ」
そこからでてきたのは、缶だった。
海はそれを慎重に振りつつ、前へ前へと進んでいく。僕らは顔を見合わせながら、とりあえず彼女の後ろをついていった。
「あ!」
僕は小さく声を上げた。
暗視ゴーグルのおかげで、わかる。
茅野と、その傍にいるのはおそらく犯人のグループだ。
「よし、準備完了!」
海はそう言って、缶を放り投げた。
足に装備していたらしい拳銃をとりだし、缶に向けて弾丸を5発ほど放った!