2190年2月23日のことだった。警察官のハワード・マッケインは、久しぶりに休暇を貰ったので、一日中テレビを見て過ごそうと考えた。
彼はさっとリビングへ出ると、テレビの電源を入れた。すると、ニュース番組が出てきた。
「ニュースなんて暗くなるだけだよ……」
と彼は呟いて、チャンネルを回そうとした。しかし、その時流れたニュースのせいで、リモコンを取る手が緩んでしまった。
「アメリカの科学者ダニエル・クラーク氏のチームが未来を予知する装置の作成に成功しました……」
アナウンサーが淡々と説明をし始めた。どうやら、犯罪の未然防止に役立てる積りらしい。
「へえ、死刑執行しなくて済むなら大歓迎だけどな」
いつのまにか見入っていた彼は側の封筒を見ながら呟いた。死刑執行手当だ。こんなもので心が癒えると思っているのか。お陰でどれだけ酒を煽っても、胸が荒縄で縛られるような感情は消えない。彼はため息をついた。
しばらく画面に注目していなかったから、もうアナウンサーの説明は終わっていた。つまらなそうな先生方がつまらない討論を始めていた。奴らは、
「現実的ではない」「悪用されるに違いない」「未然防止は不可能」
と夢も希望もないことを言いやがる。こいつらは夢を叶えてしまったから、夢を見ようなんて思わないんだろうな。と彼は薄く笑った。
現実に引き戻されて、嫌になったところに、突然電話がかかってきた。胸が持ち上がった。電話の音がいつになく威圧的だ。
「はいはい、今出ますよっと」
彼は呻き声を上げながら体を起こして、ゆっくり受話器を取った。そして、すぐに取り落とした。
最悪だ。相手は上司だった。すぐに来いという事らしい。彼は椅子を蹴飛ばして、準備に取り掛かった。
フィクションとはいえ妙にリアリティがあって面白そうです
更新楽しみにしています
>>4
ありがとうございます。励みになります。
10日ほどでやっと説明書を読みきることができた。彼にとって、人生最悪の読書であったことは、紛れもない事実だ。余りにも内容が複雑で、いちいちメモを取らねばならなかった為、疲労が半端ではなかったのだ。しかし、嫌々読んでいたことと、内容の複雑さ、そして未来予知理論の説明という余計なサービスのせいで最初の、
「本製品はロシア、日本などの技術者とアメリカの研究チームとの共同開発によるものです」
という一文しか覚えていない。きっと、一般向けに売るつもりがないから無駄に難解なのだろうと彼は思った。特に未来予知理論の説明なんて完全な自己満足に過ぎない。そんなことは学会なりなんなりでやればいい。
その後、彼はメモを整理する作業を終えて、暗記に取り掛かった。いちいちメモと睨めっこしたくはないのだ。
だが、虐待のような10日間の疲れのせいで、30分と経たないうちにそばの小型テレビの電源を入れてしまった。
今度は、討論番組だった。つけたと同時に男女のヒステリックな声が聞こえた。どうも、有力な死刑廃止論者の一人らしい。「討論」というよりは、どちらの陣営も感情論ばかり吐いているように見える。死刑が大嫌いになった彼も全く賛同できなかった。彼が嫌なのは、あくまでも自分が死刑執行の大役を命じられることだ。実際、彼は昔から、凶悪犯罪を起こすような糞たれ連中には一刻も早く地獄行きの片道切符を渡してやるべきだと考えている。
あまりにもうるさいから、消して仮眠を取ろうかと思った時、彼はふとリモコンを置いた。次の議題に移ったのである。「なぜ凶悪犯罪が急増したのか」というものだった。これにも一杯意見が出た。何十年も昔の戦争での放射能のせいだとか、軍需産業が停滞したからだとか、人類のおつむが悪くなったからだとか。
どれもこれも信用できなかった。もっとも、B級ドラマのような事が現実になっている事自体が、嘘のような事である以上、まともな結論など出るわけがなかった。
だが彼はこの不毛な争いに注目していた。疲れた目を擦ることもしなかった。
討論が一段落ついた頃、司会者が犯罪の件数と傾向についてまとめた表を出した。先程まで犬のように吠えていた者達も徐々に黙り始めた。
その表によれば、21世紀中盤以降犯罪が増加したが、理由のない犯行は増加どころか減少しているらしい。また、初めて犯罪が急増したのはメリーランドとヴァージニアのようだ。
21世紀中盤といえば誰もがピンとくる。朝鮮半島の方と争いがあった。その時、新型のミサイルが合衆国上空まで来たことは誰もが知っている。念には念をという事か、複数のミサイルを撃ってきたが、優秀な軍隊がほぼ全て撃墜し、迎撃網を擦り抜けた唯一のミサイルも原因不明の爆発を起こした。当初は放射能による被害が懸念されたが、破片で若干の負傷者が出たのみで、放射能濃度は若干増加しただけだった。ヒロシマやナガサキのような悲劇は起こらなかったのだ。ただし合衆国のやった原爆よりも批判されたが。
だが、それと犯罪と何の関係があるか、誰にもわからない。
一通り説明が終わるとまた討論が再開された。だが、誰も自論を曲げず、説明前と同じように吠えるだけだった。それだけ、自分の正しさに自信があるのだろうか。
彼は耳を塞ぎながら電源を消して、仮眠を取ろうと思い、片付けを始めた。すると、ドアの方から忌々しい音が聞こえた。ノックの音だ。
「エッ……なんでこんな時に!」
彼は持っていた荷物を乱暴に置いて、ドアを開けた。言うまでもなく、そこに居たのは署長だった。
「署長、一通り読み終えました。準備はできています」
彼は心の中で、早く仕事をしたのだから休暇を返してくれと懇願しながら言った。しかし、署長の返答は望んでいたものと正反対であった。
「そうかそうか。じゃあ、任務に取りかかれるな。休んでいる暇はないぞ」
とニッコリ笑って言いやがったのだ。彼は髪の毛を掻きむしって、
「分かりました……すぐにやります」
と言った。馬鹿正直に「できません」と返答して評価を下げるよりはずっとマシだ。数日の休暇より、出世コースの道の方が100倍大切だ。
彼は、所長についていくことになった。一度も見たことがない道を通った。勿論、案内された部屋も知らない。部屋に入ると、所狭しとモニターやパネルの類が並べられていた。コンピュータらしいものもある。
「マッケイン君、安心してくれ。犯人はすぐに見つかる」
「何ですか! これは」
彼は、目をキョロキョロさせながら言った。目の前の状況が把握できないのだ。すると、署長は微笑して、
「ここではすべての国民の情報を管理している。勿論、位置情報と氏名生年月日くらいまでだがね。合衆国の最高機密さ。シェリフでも大半は知らないさ」
とさらっと危険なことを言い出した。この22世紀に社会主義国のようなことをやっているのだ。悪用されかねない。
「私なんかにバラしていいんですか?」
と質問してみた。こんな危険なものを平然と教えるのだから何か裏があると思ったからだ。すると署長、得意げに笑って、
「実はね、例のオモチャを使って、君に見せても大丈夫か調べたんだよ。注意事項には違反しているが、仕方なかったんだよ」
たしかに、注意事項欄には、
『自己や他人の未来の予測について乱用しない事。また、未来を無理に変えようとしない事』
とあった。犯罪など重要事項は勝手に判別してくれるとも書いてあるから、乱用に当たるはずだ。
「でもまあ、未来を無理に変えてはいかんのに犯罪の防止とは変だと思わんか? 全く、学者というのは訳がわからん」
と戯けたように言った。署長の発言に彼は怒った。別に、冗談がつまらなかったとか、注意事項に違反したからではない。やり方を知っているなら、お前が全てやれよと思ったのである。
「はい。それで、誰が対象ですか?」
「ああ、5日後、7:00に本州最大都市のA銀行で店長と次長以下数名が殺害される。犯人は同店舗の銀行員のジョナサン・クレイグ。動機は店長、次長以下数名の不正や他の行員へのパワハラに義憤を感じたから。銃を乱射する。巻き込まれてターゲット以外も死傷する。ここまでわかっている。だから君は犯行直前に捕まえてくれ」
無茶苦茶を言うなと思いつつ、彼は了承した。
それは任務が5日後だからである。5日後だと言うので、休暇が貰えるかと期待していたのだ。しかし、あっさり裏切られた。この機械のことも含め、色々と応用的な学習をするらしい。署長は、休みを悪魔だと思っているのか。日本人じゃあるまいし、と思ったが、定時に帰してくれるというので渋々承諾した。
さて、この応用的な学習というのは何のことはなかった。次のターゲットを探すだけだった。出来るだけ簡単だが防止効果のある事件を探したため、結構時間がかかった。二人目、三人目ぐらい用意しておいてほしいものだ。
それでも、この機械がある程度優秀なお陰で3日で終わった。だが、休暇は生まれなかった。署長は、次のターゲット選別の手際が悪かったから、残りの時間で説明書を良く理解せよと言ってきたのだ。だったらお前がやれよと思わずにいられなかった。パズルのピースを埋めていくようにこの署長は暇な時間を埋めてくれるのだ。
そうして早くも事件当日となった。犯行直前に捕まえよとの指示があったから、日も登らない内から待ち伏せを強いられる事となった。何時間も待っているのに、眠気は全くない。背中はじっとりとしている。寒風が当たるたびにゾクっとする。準備不足と極秘任務であることが祟ったのだ。もう一人用意してくれていたらもっと楽で危険でもなかった。二人なら監視時間も死ぬ率も半分になるというのに。
「バカ署長……」
彼は寒風に向けてそっと呟いた。
時計を見ると事件発生まであと15分だった。いよいよかと思ったが、未だに犯人は見つからない。犯人の写真は受け取っているが、特徴が少ないせいで分かりにくいのだ。取り逃がして仕舞えば、もう終わりだ。あの機械には未来予知はできてもタイムマシンではない。
いよいよ焦りが増してきて、周囲をキョロキョロ見回したが、見当たらない。長針が12に近づくにつれて、背中が冷えてくる。
「さっさと来いよ! クソたれ!」
と彼はくしゃみをした後に言った。もう針は11をさそうとしている。遅刻でもしやがったかと彼は心の中で愚痴った。こんなにギリギリに来るなら、教えてくれたらよかったのに。彼は何度も何度も何度も足踏みをした。不規則なリズムで音もうるさくなってきている。
あんまりターゲットが来ないので、今度はイライラより不安を感じた。足踏みを止めて、ずっとそわそわしている。
すると、目の前を地味な服装をした男がサーっと通って言った。その男の息は荒かった。彼は男の通った瞬間を見逃さなかった。その男の顔は多分ターゲットと同じだ。なんという天佑だろうか。彼はこの機会を逃すまいと、
「おいっ、待て!」
と叫んで男を追いかけた。男はそれほど足が速くなかったから、すぐに追いついた。彼はやや乱暴に押し倒すと、銃口を押し付けて怒鳴った。すると男は、
「離せ、俺がやらないとダメなんだ!」
と喚き、暴れた。彼は、この男があんまり暴れるものだから、この場で撃ち殺してしまおうかと思ったが、流石にそれは忍びないと思った。だが、彼を説得することは不可能に近い。だから彼のとる行動は1つだった。
「すまない……」
と小さく詫びて男の急所を殴った。すぐに男はぐったりとしてしまった。
「全く、手こずらせやがって……」
彼は男に手錠をかけて、すぐに連行した。男がぐったりしているので、担ぐ事になったが、男が小柄で軽かったので苦労しなかった。
男に対する捜査はすぐに終わった。男が潔く認めた事、彼が必要以上に火器を所持していた事、機械の予知のおかげだった。もっとも、彼にとってはどうでもいい話だったが。
ともかく、任務を無事成功させたことで署長は上機嫌だった。別に昇進も賞与もない。死刑執行のように手当てすらない。あったのは飲み会だけだ。しかも、勝手に行きたくもない飲み会に行かされた上に、割り勘にされた事で、彼には嫌な気分しか残らなかった。
さて、逮捕から一定期間が過ぎたので犯人は裁判所の方へ身柄を引き渡されることになった。男は殺人未遂であるということになるだろうが、通常なら未遂で死刑になった判例はほぼないので、死刑にはならないだろう。問題は、未来予知による逮捕だった事だ。裁判所の人間は、今頃頭を抱えているだろう。
すでにネット上では色々な意見が交わされている。極端なものには、犯人を英雄視するものや出来るだけ残虐に殺せという意見があった。ただ、未来予知という要素が、ネット論客を少なからず悩ませる要素になっているようだ。それはテレビの論客たちも一緒だった。テレビをつけてみると、いつも以上にうるさく怒鳴りあっていたからだ。
3日後、犯人の男が裁判にかけられた。軍法会議並みのスピード裁判だなと彼は感じた。きっと犯人がすぐに認めたのだろう。
「で、どうなるんだろう?」
と彼は思わず呟いた。自分が捕まえたのにも関わらず、署長が証人として呼ばれる事になっているからだ。これも機械のおかげだ。面倒ごとはなるべく避けたい。
画面の中では既に検察側がウダウダ何かを言っていた。機械を使ったことによる予測、機械の信頼性の高さから殺人未遂とするには妥当である事、警察に呼び止められたにも関わらず走り出した事の問題性も指摘していた。そしてこれらを併せて終身刑を求刑していた。これを聞いて彼は胸を撫で下ろした。執行しなくてはならない可能性が0になった。
弁護側は、機械が絶対的に信用できるわけではない事、機械を使って事前に予測していたなら逮捕以外の方法も取れたはずだとして、無罪を主張した。
どちらの主張も尤もな用に聞こえた。だが、問題は陪審員がどう思うかだ。陪審員の多くが犯人を英雄視しているなら、甘い判決になるだろう。
果たして、判決は罰金と3年の懲役だった。罰金は警官の呼び止めを無視したこと。3年の懲役は殺人未遂について、未然に更生出来たこと、義憤によるものであることが認められて減刑されたのだ。
彼は欠伸をして動画サイトを閉じると、SNSを開いた。案の定、ネットは大荒れだった。
「はあ……すっかり悪口辞典になってやがる……」
と言って、彼は短く笑った。画面を見ると、
「俺が行ってあの野郎をあの世に送ってやる」
「陪審員も裁判官もポンコツだ。弁護士に至っては戦犯級だ。全員晒し上げろ。こいつらを許すな」
という犯人側を責めるコメントと、
「ジョナサンは22世紀の英雄。腐った銀行員を許すな」
「今度イリノイにできる汚職博物館には、反汚職を決行したジョナサンを讃えるコーナーを作るべきだ」
という銀行を責めるコメントがあった。と、いうよりも見た限りこの話題に関するコメントは、この二種類にしか振り分けられなかった。
こいつらがコンセンサスを結ぶなら、正義が何より正しいというコンセンサスしか得られないだろう。どっちも悪いなんていう東洋人的発想が出る余地などないのは昔からだが、少し激しい気がしないでもない。
ただ彼が犯人にも銀行にも怒らないのは興味がないからというだけだ。彼もアメリカ人だから、興味があれば一緒に半狂乱になっていたろう。
「あのクソ署長も汚職博物館に寄贈できないかな」
彼はネット記事を開き、戯けて言った。その記事には署長が表彰を受けたと書いてあった。そう、犯人逮捕の手柄は全て奪われてしまったのだ。あれだけ酷使しておいて、部下には飲み会という嫌がらせだけ。自分は勝利の美酒に酔いしれているのだ。殺意を通り越して呆れがきた。だからつまらない冗談が言える。
しばらくして、署長から連絡があった。彼はちょっと時間をおいてから端末を手に取った。
署長からの連絡を聞いて、彼は、もう嫌になった。また同じような任務を署長から任されたのだ。彼は端末を投げ捨てて、ふんずけた。もう、署長を着信拒否してしまおうかとも思った。今度はターゲット探しまでやらされるのである。
「お前がやれよ!」
彼は怒鳴った。捕まえるだけなら、まだましだが、探す作業もとなると前回以上も忙しさになることは明白だ。それで、手当も何もつかないのだから、やりたくなる訳がない。彼は、無駄に仕事をするアメリカ人は日系人くらいだと思っていたが、まさか自分もとは思っていなかった。
「ひょっとしたら、俺や署長の遺伝子に日本人かドイツ人のが混ざってたのかもな」
と彼は自嘲気味に言った。そして、そそくさと準備を済ませた。
翌日、早速空き時間を使って犯人の選別に走った。署長から、
「なるべく大きい事件を対象にしてくださいよ」
と釘をさされたからである。適当な事件で片付けてしまおうと企んでいたことがバレたようだ。と一瞬彼は思った。だが、すぐ違うと断定できた。署長にそんな洞察力があるわけがない。ジャンクフードばかり食べていたら肥るということすら見抜けなかった節穴ではないか。きっと、より名声を集めるために大きい事件を探させているのだろう。その貪欲さは中国人顔負けだ。
彼は機械にむかって、色々と必要事項を入力する単純作業を終えて、やっと本格的な選別に乗り出した。全米国民を監視……否、見守ってくれている例のコンピュータ室と連動しているから、楽なはずだと思ったが、これが以外と難しかった。先祖が、少子化対策だと言って馬鹿みたいに子作りをしたせいだ。それか難民が入ってきたせいだ。未来の犯罪者を探すだけでとても骨が折れる。
ある程度経ったところで、彼はいいことを思いついた。犯罪経歴のあるものを当たればいいのだ。きっと前科者の何割かはろくでなしだろうから、楽に見つかるはずだ。彼は口笛を吹いて、犯罪者履歴を漁った。
いざ犯罪者履歴を漁ってみたのはいいものの、これと言ったものは出てこなかった。釈放されているものの殆どが小物だったからだ。大物はみんな豚箱に閉じ込められている。あまりに見つからないので彼は、
「おかしい、ついこの前の裁判では、殺人未遂の男は軽い刑罰だったじゃないか!」
と言いかけたところで、口を塞いで、自分の顔を叩いた。うっかりしていた。この前の事件は未来予知装置を使っていたじゃないか。未来予知のせいで減刑されたところもあるのだ。第一、それ以前の事件ならば、実行直前に未遂になる事なんてほとんどないではないか。すっかり弱ってしまった。仕方なく彼は、普通に犯人を探すことにした。頬杖をつきながらであったが。
探し始めてから一週間。署長からの催促もしつこくなってきたところで、やっといい犯人が見つかった。無職の男で、15日後に汚職問題を有耶無耶にしたジョージ・フーヴァー議員を殺害している。動機は言うまでもなく、汚職を隠す卑怯者は生かしてはおけないと思ったから。であった。
議員の殺害ならば、大事だろうから署長も納得するだろう。彼は伸びをすると、椅子から飛び出して、署長の所へ行った。署長の答えは、勿論イエスだった。
早速、彼は署長と新しい任務に関して相談した。初め、署長は上機嫌だった。確かに、銀行員数人の命よりは議員一人の命を守った方が評価は高いだろう。しかし、犯人について話し始めると、態度が一変した。犯人は一人だと言ったところで、署長は机を叩いて、
「違う。三人だ。実は、密かに私も調べていたのだが、共犯者がいた。共犯者を探すのをサボったな?」
と怒鳴りつけてきた。その通り、彼は犯人一人を見つけたところで有頂天になり、共犯者を探すことを忘れていた。
そのことを正直に署長に伝えると、署長はため息ついて、何も言わずにどこかへ行ってしまった。一人残された彼はしばらく呆然としていた。
2日後、署長から突然連絡があった。犯人が多いから、動員人数を増やしてやるという事だった。さて、何人増えるだろうかと期待に胸を膨らませていたが、増えたのは一人だった。つまり二人で三人の犯罪者に向かえと言うのである。やはり、この署長は優しくなどなかった。真っ黒だ。何も楽にならない事が分かった彼は、がっくり肩を落とした。すると後ろから見知らぬ男が声をかけてきた。
「あの署長は勤労精神に満ち溢れているんじゃなくて、費用を切り詰めたいだけの守銭奴ですよ」
取りに足りない悪口であったが、彼はその一言を聴いただけで、確信した。
「君が新しい仲間だな」
[自分でも何書いてるのかわからなくなった。一応、プロット通りなんだが]
あと、あまりにも感想がないので、自分で感想書く。
伊藤ちゃん感想良い?
この小説すごく面白い❤キュンキュンしました! 署長かわいいーーー!新キャラどういう感じか気になるー!!!!!
致命的なミスをしていたので直しておく。誤解を招いてしまう恐れがある。
>>15について
誤 15日後に汚職問題を有耶無耶にしたジョージ・フーヴァー議員を殺害している。
正 15日後に、汚職問題を有耶無耶にしたジョージ・フーヴァー議員を殺害している。
あと自分で自分の作品にああいう感想書くとすごく虚しいな。
(>>16のつづき)
「あっ、そうです。ジョン・ケニーと言います。よろしく」
と言って、ケニーは彼の肩を叩いて、奥の方へ行った。彼は叩かれた肩に手を置いて、奥の方をまじまじと見ていた。
その後、何度かケニーとマッケインは私的に会うようになった。話す内容は殆どが悪口だ。ケニーも、もしかしたら署長の無茶振りに悩まされていたのかもしれないなと、マッケインは思った。だから、仕事の話も、必要最小限しかしなかった。
そして、犯行当日。二人はフーヴァー議員の乗るタクシーを待ち続けていた。それも真夜中である。また、真夜中である。
「なあケニー、こうしてみると俺たちが犯人みたいだな」
マッケインは互いの服装を見ながら言った。二人とも暗闇に紛れるように地味な服装にしているが、かえって違和感しかない。
「どっちかというと変質者……かな」
とケニーが言った。確かにこんな真夜中に路上でコソコソしている男二人組などロクなものではあるまい。
「大昔は電柱とかなんとか、隠れるものがいっぱいあったらしいぜ」
とマッケイン。
「なんで無くなったんだっけ?」
「酔っ払ったフロッギーが勢いそのまま地中に送ったのさ。景観を守るためだとよ。まあ、デモ行進が景観を覆い尽くしちゃったけどね。なんかそれで、みんな真似したんだ」
話しながら、二人は周囲を眺めた。歴史的建造物なんて存在しない。マンション、一軒家の類が所狭しと並んでいる。どこにも電気が灯っていて、目が痛くなった。
二人とも目を拭って、下を向いた。流石に地面にまで照明を埋め込むほど、人類は変態ではなかった。
二人はしばらく、何も話さずに議員の車を待った。例のポンコツが予想した通り、車外で殺されるかどうかはわからないが、現状そうするしかない。議員の乗ったタクシーを追いかけ回すなんて事は、署長から禁じられている。
日付が変わってから数時間経つが、未だに議員は現れない。二人とも手を擦り合わせながら、静かに待っていたが、限界が来てしまった。
「一体どこで呑んだくれて居やがるんだ!」
とケニーが吐き捨てた。マッケインが彼から乱暴な事を聞くのは初めてだ。マッケインは少し言葉に詰まってから、
「金塊を運ぶのに大忙しなんだろう」
とテキトウな冗談を言った。
「前回もこんなに待たされたんですか!?」
とケニーが鬼気迫る表情で言ってきた。彼は身体中を摩って、身震いしている。
「そうだよ。でも、ここまで寒くなかった」
とマッケインは白い息を吐きながら言った。
「前より、足元が賑やかになっているし」
と、今度は足元を指差して言った。前は殆ど黒だったが、今回は真っ白だ。雪もチラチラというどころか、ドカドカ降っている。2人は、早く来いと心から念じた。
願いが通じたのか、十分と経たないうちに、議員はやってきた。彼はタクシーからふらふらと降りてきた。2人は議員に近づいて、警察官であることと、議員の命が危ないことを伝えると、議員は、
「おう、こんな寒い中ご苦労さん」
と呑気な事言って、二人にカイロを手渡した。自身の命の危険など、耳にすら入っていなさそうだった。泥酔している議員にとってはどうでもいい事なのだろう。だが、二人にとっては大問題だ。なぜなら、この千鳥足の議員を安全に守らねばならないからだ。最早、ため息しか出なかった。
ただ、二人にとって幸福だったのは、犯人をいぶり出すために、この議員から距離を取らねばならなかった事だ。密着して守るよりはいくらか楽だ。
2人は、犯人が早く現れる事を願った。仕事は、短い方がいいからだ。すると、運がいい事に、待ち伏せ地点から五分ほど経ったところで、銃声が聞こえた。銃弾は頓珍漢な方向へすっ飛んで行った。下手くそである事は、一目瞭然だった。
2人は議員の前に立って、銃声が聞こえた方へ銃を構えた。暗くて良く見えなかったが、持参したライトで照らすと、3つの人影がぼんやり写った。2人は、人影を滅茶苦茶に撃ちのめした。だが、相手は用意周到であった。すぐさま停めてあった車の後ろに隠れたのだ。しかし、2人の目の前には、歩きにくいだけで、隠れるには物足りない雪しかなかった。素早く接近して撃つことも、隠れて撃つこともままならないのだ。二人とも、人生で初めて帯に短し襷に長しという言葉を噛みしめる事になった。人数も3対2。圧倒的に不利だった。
数分撃ち合ったのち、一人の男が絶叫した。野次馬たちは言葉を失った。咄嗟に、相棒の男はやられた仲間を抱きかかえた。撃たれたのは、ケニーだった。
マッケインは、抱きかかえたケニーに呼びかけた。だが、返事はなかった。血ばかりを流していた。
「おい、冗談だろ!?」
ケニーの返事はなかった。
「死んだふりだろ? 起きてくれ!」
ケニーの返事はなかった。彼が何を叫んでも、ケニーの口からは血しか出てこなかった。血を撒き散らして、ひどい死に様だった。この真白い雪がケニーの経帷子になった。
「フーヴァー議員、ケニーを頼みます」
マッケインは口元を震わせながら言った。そして、ケニーの亡骸を優しくフーヴァー議員に託そうとした。犯罪者3人はまだ撃ってくる。あくまで議員を殺るまで帰らないつもりのようだ。尚も銃弾がケニーの亡骸を貫く。だが、もう彼の銃槍から血は流れてこなかった。ただ肉が飛び散るだけだった。
「クソ野郎、ぶっ殺してやる」
とマッケインは叫んで、再び殺人者達を撃ち始めた。これが、さっきとは打って変わって、面白いように当たった。犯人が倒れるたびに、野次馬は歓声をあげる。だが、それはケニーへの鎮魂歌にはならないし、マッケインを慰める事にもならない。無数のカメラのフラッシュが犯人とマッケインを照らした。
やがて、全ての犯人が地に伏した。野次馬たちは、「フラー! フラー!」と叫んでいる。写真を取っているものもいる。マッケインは耳を塞ぎながら、犯人の車の方へ向かった。犯人たちを逮捕するためだ。しかし、犯人の多くは、無残な姿に成り果てていた。
のちに、ケニーと辛うじて生きながらえていた犯人は病院へ緊急搬送された。しかし、ケニーはすでに息絶えていた。だが、生きながらえていた一人の犯人は、助かってしまった。入院中であるから、逮捕されることはない。
[もっとケニーのエピソードを詰め込んだ方が良かったわ]
26:伊藤整一:2019/08/04(日) 01:46 翌日、マッケインは家にいた。本来は休みではないのだが、署長が、
「君はちょっと病んでいる。少し休みなさい」
と言ったからである。彼には、署長に反発する気力がなかったので、言われるがまま、帰宅したのだ。彼は、家に帰ってからというもの、ずっとベッドの上で体育すわりしている。何度も寝ようと、ベッドに入ったが、ついに眠れなかったのだ。
彼のベッドの上には地元新聞の切り抜き記事が置いてあった。昨日の銃撃戦についてだった。マッケインは、テープでくっ付けられたカーテンを見ながら、その記事を握り潰した。外には、記者たちがいるのだ。「銃撃戦に撃ち勝った勇敢なる警官」として取り上げようとしているのだ。先程、握り潰した記事にはケニーが「銃撃戦で殉死した悲劇の英雄」として祭り上げられていた。ネット上にはケニーの死体が投稿されていた。投稿者は、
「画像は警察官のケニー氏。合衆国からの汚職追放を目的とするテロリスト達と闘い、殉死された。私達は彼の勇敢さを敬い、残虐なテロリストを糾弾すべきです」
と言っていた。このコメントは多数の高評価を集めていた。誰もがこのコメントを讃え、そしてケニーやテロリストに言葉を送っていた。マッケインは、コメントを1つ1つ見ていくうちに、顔がどんどん紅くなっていった。終いには、端末を投げ捨てて頭を抱えた。昨日の銃撃戦の動画や画像を多くのユーザーが投稿していた。彼が思っていたよりも多くだった。そしてその全てが、ケニーを弔い、テロリストを攻撃するようなコメントを書いていた。だが、マッケインはこれらに憤りを……否、憤りしか感じなかった。共に闘おうだとか、尊敬するだとか言っているくせに、昨日の銃撃戦では、誰も助けに行かなかったし、誰も悲しんでいなかった。彼らは西部劇でも見るかのように喜んでいたではないか。ネットの上でだけ、神父牧師のように振る舞う彼らに憤りを感じるのは無理もないことだった。ただ、おかしいのは、彼以外に誰も「投稿者に対して」憤りを感じなかったことである。
彼が物思いに耽っている間も、外には何人かの記者が居座っていた。しかし、日付が変わって、朝になるともう居なかった。取れ高がないと確信したのだろう。この隙をついて、マッケインは署へと向かった。署長に掛け合うためだ。
署に着くと、彼が呼ぶ間も無く署長が現れた。そして、開口一番、
「悪いが君には任務から外れてもらう」
と言われたので、
「何故ですか?」
と彼は抗議した。
「昨日、君の今後の行動について予知したのだが、よくない未来が見えた。だから、三ヶ月間は余計なことをするな、考えるな」
署長の言葉を聞いて、マッケインは落胆した。自分が邪な考えを持っていたことが、知られていたからである。つまり、未来予知を利用して、生き残った犯人をリンチすることはできない。彼はトボトボ歩いて、帰宅した。
帰宅後、彼はリビングに座り込むと、力なくリモコンを握った。未来予知が使えない以上、自力で情報を得るしかない。映ったニュース番組では、運良く入院中の犯人の情報が表示されていた。彼は、その内容を復唱するかのように呟いた。
「銃撃戦に倒れたのは、元下院議員のマーク・ギルモア氏。重症。退院後に起訴する予定で、退院は三ヶ月後。ん? 三ヶ月後?」
少し、戸惑ったが、その意義を理解した彼は、手を叩いて喜んだ。署長は三ヶ月何もするなと言った。それは三ヶ月後に彼がやらかすと分かっていたからだ。つまり、三ヶ月後彼の復讐は成功するのである。理論上は。
彼は復讐できると信じて、無邪気に喜んだが、署長はそこまで甘くはなかった。署長は、次の準備をしていたのである。まず、休み明けに、彼を呼び出した。そして、隙をついて彼を気絶させると、自家用車に乗せてどこかへと連れて行ってしまった。
このまま上手くいくと思った署長は、微笑したが、運の悪い事に目的地に着く前にマッケインは起きてしまった。
「署長、何をするんですか!」
彼は署長を睨みつけながら言った。声は尖っている。
「私にもどうしたらいいか、わからないんだ……」
と署長は寂しげな声で返した。その声を聞いた彼は、小さく頷いて、大人しくした。
時間が経つにつれ、車内の揺れは小さくなっていき、やがて完全になくなった。ついた場所は、薄暗い駐車場であった。
「ついたぞ、降りろ」
署長はマッケインを車から降ろすと、目隠しをして、目的地へ連れて行った。
連れていかれている間、マッケインは自動ドアの開く音や、エレベーターの音を何度か聞いた。だが、視覚情報が何もない以上、自分がどこに連れていかれているのか全くわからなかった。ただ、消毒液のような匂いをずっと感じていた。エレベーターと階段とを何度か歩いたところで署長が、
「さあ、目隠しを外してやる」
と言って、マッケインの後ろに回ると目隠しを外してくれた。目の前には古びたドアがあった。周囲は真っ白で綺麗なだけに、異様だ。ドアを開けると、今まで以上に強烈な薬の臭いがした。
「一体何を?」
マッケインは尋ねた。室内は割と清潔だった上、ベッドと椅子1つづつと、見たこともない薬が並べてあるだけの部屋だったからである。違和感しかなかった。
「先生が来るまでじっとしておくんだ。いいね?」
と署長は素っ気なく言う。マッケインが先生とは何ぞやと疑問を抱く間も無く、白衣を着た高齢の男がやってきた。白衣の老人は、マッケインに質問をさせる時間すら与えず、彼の腕に強引になにかを注射した。
オッスオッス今日も自演かんそうぶんいくぞ!
わっ、新展開ですね! 楽しみ! もう目が離ないよー!!!
批判コメント自演なら虚しさもないんじゃないかな?
これ、三人称のくせに視点ブレブレじゃん。何人もの人間の気持ちを直接表現すんなよボキャ貧、無能。
密かに読んでました 好きです(直球)
>>26の話でケニーが撃たれた後で、メディアやSNSに対する風刺が効いてて痺れました……こういう小説はあんまり葉っぱにないので何だか新鮮です。これからも応援しています。
クソ細かいとこで悪いんだけど、未来予知システムがある22世紀の割には
一般の生活が妙に現代臭いのが気になる
地の文だけどチャンネルを回すって表現は今ですらあんま使わないので余計に気になった
>>32
ご高欄ありがとうございます。感激しすぎて涙が出、出ますよ…
今後も色んなことを風刺する(全方位に喧嘩売っていく)のでよろしくぅ!
>>33
ご高欄ありがとうございます。
それはですね、作者が頭共産主義者であることと、あまりちゃんと考証しなかったせいです。今後は、できる限り、考証を行います。貴重なご意見ありがとうございました。
彼は意識が遠いていく中で、必死にもがいたが、気休めにもならなかった。見る見るうちに彼は動かなくなってしまった。だが、脳は起きていた。
「君はフーヴァー氏を狙う刺客を倒しに行った時、何人だったかね?」
聞いたことのない、嗄れた声が直接彼の脳に語りかけた。声の主は白衣の老人であった。即座に彼の口が勝手に動いた。催眠術のように。
「フタリです。フタリ」
彼の唇と舌がキビキビと動いていた。
「相方は誰かな」
彼はその問いに答えなかった。ずっと歯をくいしばっていた。すると、老医師はニヤリと笑って、
「相方との初対面はいつですか」
彼は答えない。歯ぎしりの音が聞こえるようになった。
「相方とは何をしていましたか」
ギリギリという音しかしない。
「相方はどんな人でしたか」
まだギリギリ言うだけだった。
「相方はどうなりましたか」
「死んだ! 殺された!」
彼は答えると同時に、腕を振り回して暴れ始めた。狂った彼を前に老医師は顔色1つ変えず、さらに注射した。そして老医師は、
「さっきまでの話は、全て嘘です。あなたは一人で行って、一人で勝ちました」
とだけ言って、出て行ってしまった。署長は後ろめたそうに、ベッドに力無く横たわる彼をチラリとみた。だが、すぐに署長は目を逸らし、手で顔を覆って、俯いた。署長の目は死んでいた。しばらく署長は立てなかった。
こんにちは、猫又と申します。
あくまでも実験、読ませていただきました。
読んでみての感想ですが、
今の所、何とも言えない。というのが正直な感想です。
逆に言ってしまえば、現状、パーフェクトで言うことがあまり無いのです。
あえて今の時点で質問のあった3個についてコメントするのであれば
「主人公がクズなのだが、それでいいのか」
→マッケインがあの性格じゃないと風刺が効かない気がします。
ちょっと国に偏見がある感じはしますが、あっさりしてるので自分は鼻に付かなかったです。
「場面切り替えや展開に難はあるか?」
見たところ難無く場面展開できていると思います。
「風刺やジョークが不快なものになっていないか」
不快ではないのですがまだよくわからい部分も多く、何とも言えない感じです。
全体的にこれからの展開によって伏線も、意味合いも変わってくるかと思います。
とりあえず小説としてはかなりの完成度と言うことは断言できますが、
また完成した時に、よければお邪魔させてもらえたらなと考えています。
こんなコメントですが、応援してます。それでは
「署長、どうしたんですか? なんですか、ここは?」
その声はマッケインのものだった。署長には、合成音声に聞こえた。署長はすぐに答えられなかったが、精一杯の笑顔を作ると、
「健康診断さ。勝手に付き合わせて悪いね。さ、戻ろう」
と言って、強引に彼を引っ張り、部屋から飛び出ると、「精神科、記憶修正室」の紙が貼られたドアから逃げた。あまり勢いがすごいから、マッケインは、
「なんで走るんですか?」
と言えなかった。署長の目が真っ赤になっていたからである。
それからというもの、マッケインはすっかり穏やかになった。だが、彼を避けるものが多くなった。突然、態度が変わったから、妙な感情を抱いてしまったのかもしれない。そして、その周囲の態度が彼を傷つけた。だが、ダメージを受けたのは彼だけではない。彼が他人に白い目で見られたり、避けられるところを見るたびに、署長は胸を鷲掴みにされるような気分になっていた。
>>36
ご高覧ありがとうございます。
>現状、パーフェクトで言うことがあまり無いのです。
そんな、もったいないです!
>ちょっと国に偏見がある感じはしますが、あっさりしてるので自分は鼻に付かなかったです。
安心しました。
>不快ではないのですがまだよくわからい部分も多く、何とも言えない感じです。
まだちょっと起承転結の転に入るかどうか程度なので、今後ちょっとわかってくるようになると思います。本当は序盤の時点でバレてないか気になっていたので、ホットしてます。
完結まで、この調子を維持(できればより良く)していきたい思います。今回は、感想、ありがとうございました。
だが、マッケインに降りかかる災難は、同僚から向けられる白い目だけではなかった。彼の公休日に遺族がやってきたのである。葬式へ参列しないかと言うことと、ケニーの遺品を見せに来たのだ。だが、ケニーのことなど全て忘れてしまった彼にとって、ケニーは赤の他人だ。だから、遺族たちの事をキチガイとしか思えなかった。彼は、勝手に人の家で、知りもしない人間のことを話し出す遺族を邪険に扱った。すると遺族たちは絶句して、そのまま逃げるように帰ってしまった。
すでにネット上には、ケニーの話をするものは居なくなってしまったが、署内にはケニーをよく知る人が沢山いる。マッケインは彼らをいっぺんに敵に回すことになってしまった。言うまでもなく、マッケインへの周囲の対応は悪化した。避けるだけに収まらなくなった。陰口に始まり、彼に対する直接的な攻撃も行われるようになった。今までは、「ちょっと危ないけど友人思いなやつ」という評価だったのが、あっという間に「人の死を何とも思っていない冷血漢」というものに変わってしまった。
署長は、マッケインが嫌がらせにあっていることを少なからず耳にはしていたが、種明かしをしようとはしなかった。ただ、マッケインのことを申し訳なさそうな目で、チラッと見るだけであった。マッケインへの周囲の当たりが強くなるにつれて、署長は彼と目が合うたびに目をそらし、挨拶に応えることもしなくなった。
ある日、マッケインは、余りにも「ケニー」の名を聞くので、調べてみることにした。だが、遺族の発言はキチガイの妄言くらいにしか思っていなかったから、ほとんど覚えていない。周りから言われたことも、はっきりしないものばかりだった。だから、「ケニー」という名字しか当てにならなかった。
彼は早速、SNSを使って調べようとしたが、よくわからない「ケニー」という名字の芸能人の話ばかりだった。念のためにその芸能人を調べてみたが、死んだという話はなかった。今度は、キーワードを変えて調べてみたが、ページが残っていなかったり、訳のわからない口論や主張で埋め尽くされていた。ニュースサイトのアカウントならちゃんとした記録を残しているだろうと思ったが、他の投稿に埋もれていて発見できなかった。何も情報を得れなかったので、彼は端末の電源を切って、仮眠をとることにした。
伏線回収できる気がしない……
41:Dreadnought:2019/08/19(月) 23:32(´・ω・`) 実は書き溜めてた分を誤作動で消してしまったんじゃ。現実はうんこじゃのう。
42:新見川すみれ◆96:2019/08/19(月) 23:45 ハイ、この伊藤整一様の「あくまでも実験」を拝見させて頂いたので、早速感想を言いたいと思いますが....
今のところ、完璧過ぎて特に突っ込めるところがない....というのが本音でごぜぇやす!
主人公であるハワードだけではなく、その他の登場人物も設定や地盤がキチンとしているので、読み進めていて疑問に思うところが特に見当たりません!無駄に小煩い設定厨の私も驚くレベルのクオリティで、語彙がないんで上手く言葉で尊敬の意思を表現出来ませんが、本当に尊敬します!個人的に私は社会風刺モノやブラックジョークモノ、皮肉モノが大好きなのでよくソレ関係の小説を読ませて頂いてるのですが、今まで沢山見てきた同ジャンルの小説の中でも最高レベルに位置する文章力、引き込み力、ッス....
フィクションなのに妙なリアル感を彷彿とさせる表現力からしても、「現実風刺」というジャンルなのに偶に未来的な要素が入ってきても違和感を感じさせない組み立て力からしても、登場人物達の魅力を最大限まで引き出す応用力からしても、小説のお手本として博物館に提示したいくらいッス!
あえて言わせて貰うとすれば、理詰めっぽい、癖の強い文章の書き方ではあると思うんですけど....皮肉のスパイスが良い具合に効いているので、全然読んでいても気になりません!
私の感想はこのくらいです。今のところ言えるのは、「非常に完成度の高い小説である」。という事だけですね。ですが、今後の展開によって評価もまた変わると思いますので、またお邪魔させて貰うことになるかもしれません。
批評コメントでのスペース感謝します、それでは失礼。
マッケインがケニーについて調べていることを知った署長は、事の真相を知られては困ると思い、非番の日に彼を呼び出した。マッケインは、表情こそ固かったが、武者震いして、駆け足で署長の元へ向かった。彼が挨拶すると、署長は無言で敬礼し、椅子に座ることを進めた。マッケインは、出された椅子に浅く腰掛けた。
「君は最近、ケニーという人物について、調べているね?」
と署長は尋ねた。彼ははっきりと、返事をした。彼の返事には、熱がこもっていた。署長は、彼の勢いがすごいので、何かを不安に思ったか、手汗が止まらないようだった。
「そうか。では、ケニーについて教えようか……」
署長の声は低く、ゆっくりだった。署長は、マッケインから目線をそらして、ケニーのことを説明し始めた。
「ケニーは、君と同じ、この署の警察官だったが、ある日の銃撃戦で死んだ。その銃撃戦は犯人も警官も多く、その中で彼は活躍した……だから、皆はそれを知らない君をバカにするのさ」
言い終えると、署長は彼の肩を強く叩いて、
「ま、気にするな。そのうち良くなる」
と言うと、彼を退出させた。マッケインは、どうも腑に落ちないという表情で、頭を書きながら元の場所へと戻っていった。
>>42
ありがとうございます。詳しい返信は、申し訳ありませんが後で書きます
>>42
ちゃんと風刺になってるか心配だったので、そう言っていただけて、安心です。
ありがとうございました。
マッケインがどうしても納得できなかった事とは、ケニーという関係のない人物のことで、自分が非難されているということだ。関係ない人のことで、執拗に攻撃するなんて、いくらなんでも短気すぎるだろう。時間が経つにつれて、その疑問は彼の脳内で膨らんでいった。
そして、ある日、ついに疑問を溜め込んでいることに堪え兼ねた彼は、署長に尋ねることにした。すると、署長は顔を蒼くして、少し頭を抱えた後に、端末をいじり始めた。署長は、「よし……あったあった」と言うと、表示されたページをマッケインに見せた。そのページには、
『携帯端末が原因か。脳過労の増加』
と書いてあった。日付は数ヶ月前のものだった。だが、マッケインは最新の記事だと思っていた。
「つまり、脳過労の増加によって、感情を抑える機能が弱まる。だからみんな、君へ過剰に怒っている……」
と署長が落ち着いた様子で言った。マッケインは一度深く頷いたが、すぐに顎に手を当てた。周囲の対応が過剰であることについては、合点が行った。しかし、彼らが感情が抑えられないなら、なぜ自分は強い感情を抱くことがないのかという疑問が生じたからである。だが、二つ目の疑問が解消されることはなかった。
時間の流れとは非情なもので、彼の疑問に答えてくれる者が異動となってしまったのだ。それは、署長であった。任期満了による異動であった。署長は、延長を要請したが、一署長の言い分など到底認められるわけがなく、後任のアーネスト・ハウとの交代が決められた。そのため、署長は引き継ぎの際に、後任の目を見つめ、やや険しい表情で署内のややこしい事情を説明した。後任が署内の事情を把握し、うまくまとめることを期待したのである。しかし、肝心の後任は表情こそ真剣そのものでメモもとっていたが、引き継ぎが終わると、悪い冗談だと言って、せせら嗤っていた。
そして、信任のハウ署長は、署内の特別な事情のメモのうち、未来予知のメモ以外は、破り、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。
ハウ署長は早速、未来予知装置を積極的に活用することを決めた。そして、彼は未来予知装置を用いた捜査の経験がある警察官を探した。経験者にやらせた方が、遥かに確実だからである。そして彼は、ある一人の警察官に目を止めた。彼はこの捜査を二度も経験した大ベテランであったのだ。署長は即座に、メモ帳に「ハワード・マッケイン」と記した。
ハウ署長は、着任して間もないうちから、未来予知捜査を行うことを決定した。これは、彼がせっかちであることと、自己の功績を求めた事による判断である。さらに、彼はできるだけ大きな事件を捜査させようと思った。また、現場の人間に事件まで選ばせるときっと楽な方に走るだろうと思ったのか、自分で事件を探した。しかしながら、ハウ署長は前任者から説明を受けたとはいえ、素人である。事件の選び方も杜撰なものであった。事件の規模と犯行人数、被害者数、場所、時間などの基本的な事項の調べ方は理解していたが、より踏み込んだ事項については調べ方を知らなかった。早速彼は説明書を引っ張り出したが、辞書のような分厚さと読みにくさからさっさと閉じて放り投げる。こんなものを読んでいたら先を越されると思ったのだろうか。彼はやむなくできる範囲で機械を操作することにした。
そして、一時間ほど経ったときであった。彼は突然手を叩いて歓声を上げた。他の事件とは比較にならない大事件を発見したのだ。被害者数は2名死亡、負傷者多数。犯行人数も多数、事件発生までそれほど日数もなく、発生場所も近くの病院であり、問題ない。まさに最良の事件であった。
そして、捜査にはマッケインが当てられた。ハウ署長は前任者から、マッケインは精神的ダメージを負っているからなるべく選ばないように忠告されていたが、冗談にしか聞こえなかったので無視した。
尤も、ハウ署長が忠告を無視した理由は、「忠告を悪い冗談だと感じたから」だけではない。他の警察官はケニーのことを殆ど覚えていないから、マッケインも思い出すことはないだろうと判断したという事も理由の一つだ。署長が、他の者はケニーのことを忘れたと判断した根拠は、周囲のマッケインへの攻撃が止んだことである。マッケインへの攻撃が止んだ本当の理由は、興味の対象が「ケニーの死」から「政府の緊急発表」へと変わったからなのだが。
早速、ハウ署長はマッケインを呼び出した。ハウ署長は、マッケインが来るや否や、早口で説明を始めた。マッケインは、もう三ヶ月以上も前に一度経験しただけだから、最近経験した者に回した方がいいと言ったが、そんなことは無視された。仕方なく、彼は捜査を承ったが、事件発生日を言ったところで、やや表情を曇らせた。ハウ署長は、この微妙な表情の変化を見逃さなかった。
「何か不服か?」
と問い詰めるように言った。
「いいえ。ただその日は政府の緊急発表の日ですから、万が一があればと思っただけです。すみません」
とマッケインが頭を下げると、
「お前にとっては数日後の事件よりも大昔のミサイルの方が大事なのか。そんなものは端末で見ればいいだろう。……呆れた」
と、ハウ署長はマッケインを睨みつけ、嫌味ったらしく言った。彼のマッケインへの評価は落ちたが、それでも時間がかかるから担当者を変えようとは考えなかった。
なんか気持ち悪い構成になってるなあ
50:Invincible:2019/08/29(木) 20:17 事件当日、マッケインは、端末に政府発表のライブ動画のページを表示させると、イヤホンを両耳に入れて、動画を再生した。そして、端末をポケットに入れた。今から担当している犯行時間も場所もわかっているのだから、病院前でベンチにでも腰掛けてゆったり聞いても良いのだが、せっかちなハウ署長が、現行犯逮捕に見せかけてほしいと言ってきたので、あくまで巡回として動いているということになっている。
いつも通り、巡回をこなしていくうちに、病院がうっすら見えるようになった。時間も、丁度いいぐらいになっている。だが、マッケインは足を早める。病院での大事件の防止を任されているため、不安が隠せないのだ。少しでもタイミングを逃せばどうしようもなくなってしまう。もうすぐ本番なのだと思うと、体が硬直して、手慣れたはずの巡回も少し手間取るようになってしまった。
病院が目の前に見えるようになったところで、マッケインはイヤホンをさらに押し込んだ。先ほどまで、結論に関係のない事か、専門的すぎる内容ばかりだった政府発表が、核心をついた内容になったからだ。耳に少し力が入る。ここを聞き逃しては損をすると思ったのだ。すぐに、政府の高官が話し始めた。騒いでいた記者たちは一人残らず静かになり、張り詰めた空気が立ち込めた。
「それでは、第三次太平洋戦争において、合衆国本土上空で撃墜されたミサイルの詳細とその影響ついて発表します」
と高官が一言言っただけで、シャッター音が沢山鳴った。一度は静まり返ってた会場も、再び喧騒に包まれた。
「k国から発射されたミサイルには核弾頭は搭載されておりませんでした。よって、放射能汚染の可能性はありません……しかし」
今度は静寂に包まれた。核弾頭は搭載されていないと聞いて、記者たちは一瞬、歓喜に沸いた。だが、「しかし」という不穏な単語を聞いて、話すことはおろか、呼吸すら止めた。誰もが早く続きを言うことを望んだ。しかし、高官はもったいぶって、すぐに話そうとしない。
「おい! 早くいえよ!」
記者たちと同じく、興奮と不安に脳内を締められていたマッケインも、ポケット内の端末に向かって怒鳴った。すると、怒りが通じたのか、強く息を吸う音が聞こえた。すかさずマッケインはイヤホンに手を当てた。その時だった。突然、向かいから走ってきた男にぶつかられたのだ。イヤホンが耳から抜け、マッケインは転倒した。相手の男は、振り向いて、マッケインを睨み付けると、
「邪魔だ! 馬鹿野郎!」
と怒鳴り散らした。相手の剣幕はすごかったが、マッケインは怯まず、ただじっと相手の顔を見ていた。
どうもその男の顔を見ていると、不思議にムカムカしてくる。そして、初めて会うはずなのに、どこか見覚えがあるからである。だが、転んで頭がぼんやりしているのと、近くではっきりと顔を見れないせいで、よくわからないでいた。
余りにもマッケインがジロジロと見てくるので、相手の男は首を傾げて、マッケインに顔を近づけた。すると、突然、呻き声あげ、顔を蒼白にして、冷や汗を垂らし、脱兎のごとくあちらの方へ駆け出した。その時、マッケインはゆっくりと立ち上がり、警棒を片手に握りしめた。そして、彼は眉間に皺を寄せ、男を凝視した。彼の脳内の、書き換えられていた記憶が元に戻ったのである。
男の足は、長い入院のせいか遅く、すぐに追いつくことができた。そして、マッケインは、男の後頭部に警棒を振り下ろす。男は悶絶し、頭を抱えて、這いつくばった。それでもマッケインは容赦せず警棒で何度も殴りつける。殴られるたびに、男は悲鳴を上げていたが、それもどんどん弱々しくなっていった。
「警官が民間人を殺そうとしているぞ!」
野次馬の一人が叫ぶ。すぐに、端末を片手に歩いていた通行人たちが一斉にマッケイン達の方をみた。そして、端末のカメラを一斉にマッケインたちの方へ向けた。しかし、マッケインは全く気にする素振りを見せず警棒を振り下ろし続けた。狙いは男の手である。男は、頭を手で覆って、必死に守っている。だから手を叩き潰して頭を直接殴ろうとしているのだ。二、三度殴りつけると、男の手は真っ赤に腫れ上がった。さらに何度か叩きつけると、鈍い音と共に男が悲鳴を上げ、手を頭から離した。このすきに、マッケインは無防備になった後頭部を、警棒が凹みそうになる程、殴りつけた。そして、男が一際大きい悲鳴を上げたところで、男は動かなくなった。マッケインは血まみれになった警棒を投げ捨てて、目を瞑った。殺された友人の為に黙祷を捧げたのだ。だが、それは長くは続かなかった。マッケインは突然殴られ、地面に打ち付けられることになったからである。マッケインを殴りつけたのは、警察官でも保安官でもなかった。どこにでもいそうな、一般人であった。彼らはマッケインを口々に罵り、リンチした。
マッケインの意識が遠のく中、政府発表をしていた高官は、一通りの発表をリピートしていた。
「……よって放射能汚染の可能性はありません。しかし……K国の開発したものと思われるウイルスが搭載されており、合衆国本土に散布されました。そのウイルスは、呼吸することにより、体内に入ると、すぐに脳内に至り、大脳辺縁系を活発化させることがわかっております。これは、人の感情、特に怒りの感情を増幅させる効果があります。また、21世紀より問題になっている脳過労の影響もあり、ウイルス本来の増幅効果以上の効果が出ていることが判明しました。今後も脳過労が進む場合は、全ての国民が感情に振り回されることになる事と思われます……」
完。
この後、後書き的なものがあります
後書きです。多分つまんないんで飛ばしてください。
本作は、元々ふつうのSF作品にする予定でした。未来予知装置が完成し、最初は犯罪防止に役立っても、次第に悪用される。というストーリーです。話も長編です。
ですが、後々になって、同じような作品があったような気がしたので、大幅に作風を変えることにしました。その結果が本作です。本作をご覧になって、色々考えてくださればと思います。
余談ですが、初期案から配役が変わっていないのは、主人公とケニー、初代署長、ダニエル博士だけです。また、ケニーはもっと長生きする予定でした。