貴女に沈丁花を

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1:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/14(木) 21:11

>見切り発車の小説<
>わずかな百合<
>表現能力の欠如<
>失踪しないようにがんばる<
>感想だけなら乱入どうぞ<



私より皆、儚い。
儚いから、美しい。
人って、そういうもの。
なら、私はーー、人じゃないね。

私はいつから存在していたんだろう。
老いもせず、死にもしない、存在。
あの人を見送ったのは、大体20億年前だったかな。
ーーーー最後の、人。

本当に、儚いね。
ああ、
良いな。

また、愛に触れられたらな。
なんて。私より長生きする人は、居ないのに。



少女は誰も居ない広野を歩く。
誰も居ない大陸を走る。
誰も居ない地球を眺める。
誰も居ない、この星系を。

そのまま、何年も、何年も。

2:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/15(金) 07:42

何年も過ぎた。

ある時、少女は建物の残骸の影に、沈丁花が咲いているのを見つけた。
······数億年も経っているのだから、何も残っているはずがない、 と思ったのは一瞬のこと。
数億年もあれば、一つ二つは文明が誕生してもおかしくはない、と。
完全徒歩移動だったため、最近は(と言っても数千万年単位だが)この大陸から出るのが面倒になったせいだ。
どうやら少女は今の自分にとって最大の娯楽──人、もしくはそのような存在の隆盛、そして衰亡を、幾多にわたり見逃したらしい。
そして──この星系には自分だけ、と一種の自己陶酔に陥っていたようだ。

しばらく少女は沈丁花の上で泣き続けた。
歓喜、後悔、絶望、自嘲。
それらを溶かし混んだ涙が、沈丁花に落ち続ける。
花が落ちても、少女はずっとそこにいた。

3:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/17(日) 10:03

(毎日が目標だったのにぃ)

また、長い時が過ぎた。
最初の沈丁花の木はもう枯れたが、その代わり、ある島の至るところに花が咲き乱れるようになった。
そう、少女が悠久の時を過ごす為に見つけた、大きな島。

少女には花の知識はほとんど無かった。せいぜい、雑草を抜いたりどこかから流れついたジョウロで水をやるだけ。流石に海水はやる訳にはいかず、ほとんど雨水であるが。

なんやかんやで、少女はこの暮らしを気に入っていた。
外の文明に興味は有るが、第一ここに来る為に不死身の力で海底を歩いてきたおかげで気力はもう無かった。
だから、このまま、肥大しきった太陽が地球を呑み込むまで。
ずっと、静謐に生きるつもりだった。

しかし、そんな時。
変化は流れ着く。

4:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/18(月) 17:23

······

「何処だ、此処は?」

突然、そんな声が少女の耳を刺激する。
数億年の間、自然の音、動物の鳴き声ぐらいしか聞いてこなかった耳に、明確に入る。
数百年前にサメに食べられたのとは別の方向で、時を止める。
そして、その者たちは現れる。

「······誰か居るぞ」
「まあ、ここまで手入れされた島が無人な訳ないですよね」
「女?······まだ子供じゃねぇか」
「あら、珍しいですねブロウさん?あの見境なしはどこに行ったんです?」
「皆、そこまでだ。僕にはわかる。こいつは、ただ者じゃない」

少女は、突然現れた剣やら杖やらで武装した集団に訳がわからず、何か言おうとして──

「······ぁ······ゲホッッ!?」言えなかった。
当然である。この少女は、なんと数億年も口を利いていない。
鉄の味がする。口から血が溢れる。
しかし──倒れることは、身体が許さない。例え死んでも、死.ねない不死身だからだ。

5:子猫:2020/05/18(月) 17:25

すっ凄い!!語彙力高!!

6:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/18(月) 17:28

ありがとう!
頑張ります!
(目標は1日一回投稿)

7:子猫:2020/05/18(月) 17:31

頑張ってください!!

8:水色瞳◆hJgorQc トリックだよ:2020/05/18(月) 19:04

>まさかの今日二回目<


>>4
少女が突然吐血したことで、まさに近づこうとしていた者たちは思わず思考を止めた。
ここで少女は痛みを無視して彼らを観察する。
手も足も二本。何やら耳の形が違う者も居るが、それもはるか昔に見た『人』と同じようにあるべき場所にある。体型も似ている。顔も。······

そして、少女は断定する。
ああ、人だ、と。
そして──思いもよらず、涙が溢れる。

「······っ、リリー、回復魔法だ」
「えっ、」
「僕には、この『少女』が敵には見えない」
「惚れたか?」
「誰が。······ああ、食べ物もあげよう。確か船に······」

その後、落ち着いた少女は彼らから様々なことを聞いた。
彼らは『勇者』のパーティーであること。
魔物の元凶である『魔王』を倒す為に旅をしていること。
この島には1日休むために立ち寄ったこと。

······だが、少女は物凄く久々に食べるパンや肉に夢中で、大体のことは聞き流していた。
魔法、勇者、魔王のことも、聞けなかった──否、聞かなかった。理解できる話ではなさそうだったからだ。

1日が明けて、彼らは旅立つ。
その時、少女はある贈り物をした。

「この花は一体?」
「······ゴールデンロッド、です。励ましと、感謝を込めて。」

勇者たちは微笑み、去ってゆく。また来ることを誓って。

9:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/18(月) 21:50

>>1
批評も受け付けています❗
(まだまだ続きますよ)

10:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/19(火) 12:49

>>8
次に勇者たちが島に来たのは、あれからおおよそ9ヶ月後だった。
時間感覚が長すぎる生のせいで破綻している少女にとっては、「もう来たんだ」という感想しか無かった。
だが、さすがの少女も彼らの顔つきの変化を感じ、認識を改めることにした。
勇者エイン以外、顔に傷が増えている。

少女が僧侶たるリリーに質問してみたところ、「あの人の戦闘センスは、天才です。」という。
だかその後盗賊のブロウに質問したら、「リリーのおかげさ。惚れてやんの」という答えが返ってきた。
それでいいのか、と思った少女だったが、勇者パーティーの士気は常に高いようだ。つまり、心配いらず見守れば良いだけだ。

勇者たちが去るとき、少女はまた花を贈った。
するとその返礼というべきか、魔法使いのネアが、
「実はねー、この近くにダンジョンが見つかったのー。だから、多分次からはもっと来れると思う!」と少女に話した。
「······だんじょん、?」
「あれ、知らないー?···うーん、じゃあ、今度いろいろ教えてあげるー」

お前勝手に、という視線がネアに集中するが、少女にとっては願ったり叶ったりだった。少し、この世界に興味を持ち始めていたのだ。
少女の瞳が輝きだすと、誰も何も言えなかった。
無論、ネアは片目を閉じた。

「じゃあ、またねー」
「······はい。また」

少女は勇者たちが去った後、鼻歌を歌い始めた。

11:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/19(火) 21:58

その後、2ヶ月。
時間感覚が正常になりかけてきたおかげで、少女がやや待ちくたびれてきた時だった。
勇者のパーティーが到着した。

「あー、いたいた。元気してたー?」真っ先にネアが声をかけてくる。
「元気以外になりようもないですが元気です」
「······??なら良いけど」

今回は、ネアが世界について色々教えてくれるということなので、少女は何処から持ってきたのかノートを用意している。

「ネア先生ー」
「いやー、てれるぜー」
「こいつに任せて良いのか」ブロウが割って入ってくる。
「魔法は私の専門だよー。それに歴史はアルストがいるしー」ネアは今まで一言も発していない盾使いに視線を向ける。
「······呼んだか?」
「じゃ、そういうことで。まず、魔法についてだけど······」

解説はとても分かりやすくなっていた。少女が要約したところによると、記録上の魔法の始まりは、数万年前の遺跡の陰から見つかった最高純度の『魔素』によって魔法の力が散りばめられた、ということだそうだ。またその時、負の感情によって作られた魔素が魔王を、そして魔物を生み出した。
魔法についてはあまりに複雑だったため、また少女がそのちしきを全く持たなかったため、ネアは三回に分けて解説することにした。···つまり、アルストの一人損である。

「ごめんねー、ー······あ、えっと、名前···」ネアが謝ろうとしたところ、今更だが名前を聞いていないことに気がついた。
「名前···ですか。『人類最後の悪ふざけ』ですよ」
「長い。···私が決めていい?」
「えっ?······いえ、こんな私に」
「ねぇ、何で貴女は自分をそんなに下げるの?···私たち、もう友達なんだからさ。···それに、名前ないと、不便じゃん」ネアの瞳が、言葉が少女の心を射抜く。照れ隠しなど、必要ないくらいに。

12:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/20(水) 18:49

少女がうなずくと、ネアは「えへー」と聞こえてきそうな笑みで、
「スミレ。どう?いい名前でしょー」
と、これからの少女の名前を言った。

「良いんじゃないかな?」エインが微笑む。
「同じくです」リリーも肯定する。
「悪くないな。まあ決めるのは本人だが」ブロウはあくまで彼らしく言う。
「······なるほど」アルストも呟く。

「······それって」少女は、ともすると泣き出しそうになる心を抑えて言う。
「うん。この前さ、いろんな花の意味教えてくれたでしょー。だから、私は···」
そうしてネアは笑顔のまま、「貴女に、この名前を授けるよ」。

スミレの花言葉は、「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」。
少女は──スミレはこの時、花が好きで良かったと、心から思った。





[ちょっとあとがき]
今回短くなりましたね。仕方ない、次回急展開だもの。


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