貴女に沈丁花を

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1:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/14(木) 21:11

>見切り発車の小説<
>わずかな百合<
>表現能力の欠如<
>失踪しないようにがんばる<
>感想だけなら乱入どうぞ<



私より皆、儚い。
儚いから、美しい。
人って、そういうもの。
なら、私はーー、人じゃないね。

私はいつから存在していたんだろう。
老いもせず、死にもしない、存在。
あの人を見送ったのは、大体20億年前だったかな。
ーーーー最後の、人。

本当に、儚いね。
ああ、
良いな。

また、愛に触れられたらな。
なんて。私より長生きする人は、居ないのに。



少女は誰も居ない広野を歩く。
誰も居ない大陸を走る。
誰も居ない地球を眺める。
誰も居ない、この星系を。

そのまま、何年も、何年も。

201:水色◆Ec/.87s:2022/10/20(木) 16:59

「······」
ここはドラム公爵領、臨時王城。臨時、とは言っても200年である。ここでは既に3世代もの王が生まれ、そして死んでいる。
大理石で出来た白亜の城もいい、と当代の王······いや、女王は言うのであったが、それを耳にする度、元の王都にあったという城の素晴らしさを語り聞かせる王女がいる。無論彼女は実際に城を見たことはない。長命種の人族から聞いた話の受け売りだった。
······彼女は不安だった。生まれてからずっとこの城で生活をしてきた母親から、捲土重来の気概が少しづつ失われている事を。······女王は生来病弱であった。魔法が発達したこの世界でも、治せない病気は多い。······病魔に蝕まれる身体を支えてきたのが、先祖代々の王都をいつか奪還するという意思であったのだが、それも最近はほとんど感じられないのである。
仕方のない事だとは思う。王族を保護している公爵の気が変わって、自分達が殺害されないとも限らない現状なのだ。ただ······

「女王様······あ、姫様もいらしたのですね。シスター・アリサが訪ねてきておりますが······」
その時、彼女達が居た部屋の扉が開き、軽装の鎧に身を包んだ青年が入ってくる。歳は王女とほぼ同じだろうか。
王女はそちらを振り向いて何とも言えない顔をした。
「······用件は聞いた?」
「とある人を王家の······まあ女王様と姫様に会わせようとしてるみたいですが」
「何よ······それなら会う必要はなさそうね」
彼女は青年の返答を聞き、特に取り合わずまた元の方を向こうとする。······しかし、その彼女に次のような言葉が届いた。
「いや······そんな簡単に片付けてもいい相手ではないらしく······片方は6代前のユノグ王の知り合いにして、当時の勇者の一員だそうですが」
「······!?」
王女は表情を変える。6代前の王の知り合いという部分は彼女にとってはどうでもいい事だったが、勇者という言葉は大きな感銘を引き起こしたらしい。
「······母上はどうします?」
彼女は女王にそう尋ねた。······見れば、その女王も心持ち姿勢を正している。
「······そうね。まずは······アイン。貴女が会ってみなさいな。貴女は私と違って気力も強さもある······未来もある。きっと何か起こしてくれるに違いないわ」
「······わかりました。······それじゃ、行ってきます。······謁見の間に通しておいて」

王女────アインは母の許可に応えた。青年に命令して、ゆっくりと歩き出す。······まずは服装を整えなければ。
······レイヴン朝の生き残りとして、相応しい振る舞いを。

202::

削除

203:水色◆Ec/.87s:2022/11/24(木) 22:46

「······姫様。······いえ、アイン・レイヴン様。お目通りを許可して頂き······」
「御託はいいのよ。それに普段と随分態度が違うじゃない······どうしたの?」
やや質素で簡素だが威厳のある椅子に座る、悪戯っぽい表情を浮かべる王女────アイン。ここは臨時王城の謁見の間である。
どうやら常に似合わないらしい慇懃な態度を取ったアリサの表情にも少しばかりの緊張が伺える。······後ろからそれを眺める2人も、この少女はどことなく『違う』と実感したのである。

「······実はですね。この2人が今の王族にお会いしたいと申しておりましたので······」
「······ああもうやりにくい!いつも通りでいいよいつも通りで!······それで、後ろに居るのがその2人?」
ぴしっ、と音がしそうな程に言い切ったアインはアリサの後ろに顔を向けた。スミレとネアである。
「そうですよ。ちょっと返答が遅かったので受理してくれないのかと思ってました」
ふっとアリサの纏う雰囲気が和らいだ。僅かな緊張の面持ちは変わらないものの、それだけでどことなくやりやすくなるのである。
まずネアが一歩前に出る。
「······ネアです。数世代前の勇者でしたが、色々あって何百年も生きてます」
ネアの服装はパステルカラーを基調としている。それでアインは彼女にどことなく淡い印象を抱いたらしい。
「ふぅん······貴女がイヴァンが言っていた『勇者』の一員なんだ······」
感心したかのように呟く。······どうやらこの王女には、人を外見で判断する傾向があるらしい。なら、下手したらスミレは相手にもされない可能性があるのでは無いだろうか。
······スミレはいつもと変わらない肌色のワンピース姿であり、そしてまあ実際そうなのだが、およそ戦闘も魔法も出来ないような容姿でもある。
彼女は実際、反抗の為の大きな役割を担っている、らしい。······だが知らない者からしたら、何の為に来たのか疑問を抱かない事はないだろう。


だがスミレは踏み込んだ。
「あの。アインさん。······今、『こんな女の子が』って思いましたよね?」
「······へ?」
予想外の所から横槍を入れられたからか、脳内を大体言い当てられたからか、ともかくアインは一瞬硬直した。スミレはそれを逃さず追撃を入れる。
「そんな風に人を見掛けで判断するのは······良くないですよ!」
「······っ!だって!どう考えても胡散臭い!何百年か前の勇者なんて······それに貴女は一体何なのよ!」
「······ネアの、パートナーです」
アインの追求に対して、一呼吸置いて応じる。······そこに嘘偽りはない。真実である。真心である。
アインはその返答にいささか毒気を抜かれたような形になった。······そして、僅かに項垂れつつ呟く。
「そりゃ不快にもなるか······ごめん。これでもこの悪癖······直そうとしてるのよ······」

「······落ち着きました?」
期を見計らってアリサがそこに割り込んできた。······このシスターこそ虚弱そうで、アインが本当に外見で人を判断しないように努力していなければ、きっと面会もままならなかっただろう。
だが少しばかり傷ついたのは確かである。······アリサが何やら話をしている間、2人はこっそりと手を触れ合わせていたのだった。

204:水色◆Ec/.87s:2022/11/30(水) 22:55

「だいたいわかった!」
「······何がですか?」
突然アインが叫び、アリサが条件反射でそれに応じる。
「スミレ······だっけ?と、ネア!宝玉持って行っていいよ!」
「!?」
と、予想外の言葉である。
またもや真っ先に反応したアリサは絶句してしまった。それも当然である。祭りに必要な宝玉、と2人に説明した手前、まさかこのような形でそれがへし折られるとは思ってもみなかったのだ。
「······今回の祭りに関わってくる、という話を聞いたんですけど」
スミレは少し躊躇しつつもアインに向けてそう質問する。
「でも急ぐんでしょ?世界を救うために······必要なんでしょ?」
面倒くさいなぁという表情をしつつもアインは答えた。確かにこう言われれば一言もない。
「で、でも、宝玉がないと分かったら······」
「その時はアリサが何とかしなさい。ちょうど宝物庫にそれっぽい玉があるから······あの魔法を使って覆えば絶対バレない筈よ」
アリサは抗弁を試みたものの、どうやら既に様々な手段を描いていたらしきアインに封じられる。······そこまで言われたら、彼女も動くしかない。
「······わかりました。すぐに取り掛かります」
一礼して、恐らく彼女が出せる最速の駆け足でアリサは謁見の間から出て行った。
······後に残された3人は、しばらく沈黙の波に身を委ねていた。




「お待たせしました!」
10分程経っただろうか。出て行った時と同じくらいの速度でアリサが戻ってきた。その後ろには、急な事で目を白黒させている、オレンジベルとシルバーベルの姿があった。
「も、もう引き返すの······?」
「さすがにここまで早くなるとは思わなかったよ」
などと言い合う彼女らを見て、最初は怪訝な顔をしていたアインも少しだけ笑顔を浮かべた。
「なるほどね。······その2人が誰なのかは知らないけど······一緒に来たんでしょ?」
「そうみたいです。······お願いしても宜しいでしょうか」
彼女の言葉に応じた後、続けてアリサがオレンジベルとシルバーベルに言う。······その頃にはもう2人は冷静さを取り戻していた。
「勿論。アクアベルのところまで、すぐにでも」
「はーい!」
スミレとネアも最初は驚いたが、瞬く間に進む話に何とか順応していた。

「えっと、では······こちらが宝玉になります」
綿で包まれた丸いものが、アリサの細い手からスミレに手渡される。
受け取ってすぐ、彼女は隙間から漏れる『灰色の光』としか表現出来ない光景にぎょっとした。これは間違いなく、重要な物である、と────気持ちが一挙に引き締まる。
「······ありがとうございます」
「······では、お願いします。······貴女方に、神の御加護があらんことを」
アインの期待、アリサの祈り。その二つだけで十分だった。
受け取る物を全て受け取った一行は、薄暗くなり始めたドラム公爵領を後にする。

205:水色◆Ec/.87s:2022/12/03(土) 20:13

【???】【phase9】>>199

「王子の護送······」
次第に慌ただしさが増してくる王都を駆けながら、7班のシスターのうち一人が呟く。その声音は畏れ多いというか、面倒なことを押し付けられたというか、こんな状況以外では間違いなく表に出ないであろう感情が混じっていた。
不思議なことに恐怖はない。元々シスター達は神に仕える身。死を伴う恐怖には、例えそれがどうにもならないと分かっていても、強いのだ。
「まず王城で王とアリシア様に面会して、そこからすぐに出立しますよ。先程ネム枢機卿も言っていましたが、恐らく······もう王都には戻れないでしょう。やり残したことはありますか?」
コトミが走りながら全員に向かって呼び掛ける。内容の深刻さに比して、その表情はあまり深刻でもなかった。
「やり残した事······仮にあったとしても、やる時間がないような······」
そんな苦笑交じりの声が返ってくる。一行はしばし暖かい雰囲気に包まれた。


王城は静かだった。普段からいい意味で賑やかとは程遠いい場所なのだが、今日はそこに鉛のような重苦しさが混じっていた。
一応門番は居たが、恐らくシスター達が出てくる頃には居なくなっているだろう。王自身の布告のおかげでもあるが、もはや逃げる以外の事は頭にない────そんな様子であったので。
「······どこに行けば良いのでしょうか?」
「とりあえず謁見の間に直行しません?」
ヒナが誰へともつかない問いを投げかける。クリスに受け取られたようで、真面目に言っているのか怪しい返答があった。
「······まあ、そうですね。まだ居らっしゃるみたいですけど······逃げるにしても急がないと駄目でしょうし。······皆さんはここで待っててもらえますか?」
コトミはそう自分の見解をまとめ、誰も連れずに、謁見の間へと駆け足と早歩きの半分くらいの速さで向かう。大所帯で押しかけても迷惑だろう、との考えからだった。


「あぁ、来たか······シスター・コトミ。用件はだいたい把握してる。今アリシアが連れてくるから少し待っててくれ」
「お手数おかけします」
ユノグは入ってきたコトミを見ると、用件も問いも告げもしなかった。結論だけを言われたコトミも儀礼的に応じる。時間がないのだ。
とはいえ僅かな間があったので、コトミはユノグと会話を試みる。
「ユノグ様は······これからどうなさるおつもりです?」
「どうって。······まあ、ドラム公爵領に行くさ。勿論国民皆の避難を確認してからだがな······」
「そう······ですか」
いわゆる殿である。······君主が殿を務めるというのもおかしな話だが。
コトミが続けて何か言おうとした時、アリシアが専用の籠に入れた王子を運んできた。
「コトミさん。······いえ、皆さん。王子を······私たちの息子を······お願いします······!」
見れば、王子は寝息をたてながらこんこんと眠り続けている。魔法でも掛けられているのだろうか?
「······お任せください」
この年齢の幼児の重さは、おおよそ4kg。コトミはそれを抱えて、シスター達と一緒に王都から脱出し、そして王子をドラム公爵領に届けなければならない。
困難な仕事になりますね、と彼女は思った。しかしそれは諦めたり投げ出す理由にはならない。諦められない。投げ出せない。場合によっては────彼女が運ぶのは、レイヴン朝の運命にもなりうるのだから。

206:水色◆Ec/.87s:2022/12/04(日) 18:41

【???】【phase10】


王城の窓から、一塊となって駆けてゆくシスター達の姿が見えた。ユノグはそれを見送って、深いため息をつく。
「······アリシア」
「······お茶ですか?」
彼は王妃であるアリシアを呼ぶ。勿論、すぐ側にいる。
「そうじゃない。······本当にいいのか?」
「はい。死ぬ時は一緒と。誓いを立てた通り······です」
「······そうか。ありがとうな」
ユノグの問いには主語が欠けていた。しかしアリシアは、その意味を完璧に理解している。
微笑んだユノグは軽くアリシアの頭を撫でると、王座から飛び降りた。────そして、背にした壁に飾られている大宝剣を手に取り、勢いよく、引き抜いた。




その少し前。シスター達が王都へ繰り出すと、既に機械が街への侵入を始めていた。
「······!」
「ちょっと強引に通り抜ける必要がありそうですね······!」
彼女らはそれぞれ思い思いに魔法を放つ。────7人もいると流石に強い。あっという間に機械の一塊を粉砕し、敗走してきた王国兵達と合流する。
「ぐぅ······申し訳ない······」
兵士達のリーダーはヴァンスだった。所々に深手を負っているが、まだ魔法で回復できる範囲である。
「いいのです。ここまで食い止めて下さり誠にありがとうございます······」
他の兵士と同じくシスター達の介抱を受けるヴァンスの、悲鳴にも似た声にコトミは応える。軽く周囲を見回して、
「それより······住民の避難は終わりました?」
「······やれる範囲は。でもまだ······」
明らかにヴァンスはまだやる気である。コトミはそれを止めて、
「後はユノグ様が何とかしてくれると仰りました。私たちは······この子を護りながら逃げなければなりません。それに、貴方には······配偶者がいるでしょう」
「······」
「さあ、······もう走れるでしょう。行きますよ!」




その頃になると、大聖堂にも機械が侵入し始める。
「窓を厳重な結界で覆いなさい!右、火力集中!そこに機械が固まってます!」
もはやこうなっては残った者も逃げ遅れた者も構わず指揮系統に組み込むしかない。······元々指揮官向きとは言えないネムには頭の痛い作業である。
「うっ、中に人が入ってる機械もいますよ······!?」
「······今は目の前のことに集中してください!第1波を凌いだら丁重に弔いましょう!」
ぞっとしない報告を受けたものの、ネムの声はまだ鋭さを保っている。今は大聖堂中の全てが彼女の双肩にかかっていると言っても過言では無い状況である。我を失う暇など皆無だった。
しかし、そんな彼女にも気がかりな物がある。
「(······どこか、タイミングを見つけて······宝玉を······)」
そう、大聖堂に安置されている二つの宝玉である。
機械がそれらを狙うかどうかは分からない。が、もし破壊されたら、どのような結末をもたらすか。およそ今の絶望が数倍にまで増幅されることだろう、と彼女は読んでいた。
この状況を打開するにはどうすれば良いのか。いや打開とまでは行かなくても、宝玉を安全な場所まで運ぶのはどうすればよいだろうか。······ネムの脳内で、それらの声がネズミのように増え始めている。

────大聖堂は今や包囲されつつあった。

207:水色◆Ec/.87s:2022/12/09(金) 22:21

>>204

数時間前に来た時と同じ道を通りながら、4人はドラム公爵領を離れていく。恐らくまた来る機会はあるだろうが······それでもこの滞在は流石に短すぎた。
「次来る時は······どうなってるのかな······」
気丈なシルバーベルですらそう呟く程である。何しろ今までの展開は全て急だった。次の自分たちの目的は固まってはいるものの、その過程で何が起こるのか、どのような結果がもたらされるのか、まるで見当がつかない。
全知で全能である筈の神は居ない。今や明確な敵の側が、文字通り最も大きな知と能を得ている。······ネアですら燃えてこなかった。


幸い抜け道はその名に恥じない活躍をした。全員が欠片も油断していないとはいえ、なるべく会敵はしたくないのが人情である。
荒原に出ると、遠くに機械の姿が見える。結界を出た瞬間ネアが全員に認識阻害魔法を付与したため、こちらに気付いている様子はない。
「早いところ通り抜けよう。ここは見通しが良すぎるからねー」
ネアは快活に一行に指示を出す。
────ひたすら無言、全員が集中している復路だった。
道を間違えることもなく、不用意な行動を取ることもない。ここまでスムーズに行って本当にいいのか、とスミレが思う程に。




次第に建物がまばらに見え始める。────王都に戻ってきた。
ここで一行は進路を少しだけ調整した。このまま直進すると色々と気まずい事になりそうなので、······即ち、レジスタンスの地区を避けるように、少しだけ回り道をする。
「海にさえたどり着ければ大丈夫だよ」とはオレンジベルの言だった。
────だが、ここで初めて────
「······微細索敵魔法に反応。近くに何かいるぞ」
明確な敵が、やって来る。

208:水色◆Ec/.87s:2022/12/09(金) 22:58

『······っ!?』
4人はほぼ同時に身を壁に押し付ける。
姿は見える範囲にない。声は壁の向こう側から聞こえてきた。つまり、敵はまず間違いなく壁1枚隔てた向こう側に居るということになる。
オレンジベルが音もなく右手を刃に変形させる。ネアが何かの魔法を構築する。シルバーベルは銀の銃を取り出す。
足音が聞こえてきた。
「······奴隷か?」
声は男のものが一つだけ、足音も一つ。奴隷という単語が気にかかったが、今はその事よりも逼迫した危機を片付けなければならない。
『敵はあんまり強くない。オレンジベル、好きなようにやっていいよー』
ネアの念話魔法が全員に届く。この4人の中では先頭に居るオレンジベルに向けてのものだった。
『わかった』
オレンジベルがそう応えた瞬間、まさにその目の前に男が現れた。

彼は抵抗を想定していたらしく、棒を携えていたが────流石にここまでの敵が居るとは想像もしていなかったらしい。
オレンジベルがかけた速攻によって、男は無惨にも右手を切断された。棒と共に飛んでいく腕の撒き散らす赤が、壁の灰白色によく映えていた。
「な······」
「ふん!」
衝撃で姿勢を崩した男に追い打ちが飛ぶ。オレンジベルの足を刃に変形させた飛び蹴りによって────心臓がある部分を、蹴り抜かれる。
倒れた彼の胸部から大量の血液が流れ出してくる。もはやピクリとも動かなかった。
「······こんなもん?」
刃を肉体へと戻しつつ、オレンジベルが呟く。
「······尋問とかしたかったんだけどなぁ······」
やや顔を顰めながらシルバーベルが言った。体を預けていた壁から離れ、男が倒れている場所、つまり角のところまでやって来る。
「······まあ、いいよ。怪我とかしてない?」
彼女の問いにオレンジベルは無言で首を振る。その頃にはスミレもネアも追いついてきた。まさに惨事と言っていいこの状況に、敵とはいえ一瞬だけ男に黙祷を捧げる。
「······ということは、この先は······」
『奴隷』がいるかもしれない、とスミレは呟く。男の独り言の調子からして、その可能性はかなり濃厚だった。
「行くしかないよねー······どっちにしても······こっちの方が海に近いから······」
ネアの声もやや沈んでいる。今更にして、ここからが正念場だと理解したかのように。
シルバーベルはオレンジベルの、スミレはネアの手を握る。
頼りになる仲間、伴侶を、少しでも鼓舞するために。

209:水色◆Ec/.87s:2023/01/14(土) 22:53

4人はまだ見えない海を目指して急いだ。
「······左手に見えますのが、あの敵の本拠地······『魔戦車』でございます、ってね」
「シルバーベル?」
途中、来た時も見えた謎の要塞が、今度はより近く、大きく4人の目に映った。
少しでも緊張を緩めようとしたのか、ガイドのように呟いたシルバーベルの言葉でスミレはあの建造物の名前を知った。
『魔戦車』。近付いた今なら分かる。下部に、大量の車輪────と言うより履帯が取り付けられている。
「あれ······どうしようー?」
「ネア、吹き飛ばせたりしない?」
「うーん······師匠ならともかく······私はあんまり大規模な魔法構築したことないんだよねー。いけるかなぁ」
そう言って構えようとしたネアをスミレは慌てて止めた。結果の是非に関わらず、この距離だと即座に捕捉されそうである。
······というより、もう既に、四人は捕捉されていた。


その時だった。
「!」
魔戦車の最上部、屋根に相当するであろう場所の一点が、光った。
宝石に光を当てたかのような、その鋭い光は────彼我の距離を一瞬で詰める、弾丸の前触れであった。
スミレの額は、寸分違わず撃ち抜かれていた。
「!?······っ······!?」
彼女は不死身である。額を撃ち抜かれたからと言って死にはしない。数秒後に復元されるまで、血が弾痕から溢れ、脳がめちゃくちゃになるだけである。
「なっ······」
スミレが倒れ伏して我を取り戻すまでの数秒間に、ネアは状況と敵の位置と相手の武器を全て把握する必要があった。
声こそ混乱していたが、彼女はほとんど本能でそれをやってのけ、遠距離用の火球を数十発程も撃ち返していた。

撃ち合いが始まった。
風を切って飛んでくる敵の弾丸を、2回目はやらせじとシルバーベルの銀板が防ぎ、その間を縫ってネアの火球が群れを成して光の元へと突進する。
巻き起こる轟音に、近くに居た機械も次第にその場所へと集まってきた。最初はうろうろしていたオレンジベルも、横っ腹を突こうとする機械を殲滅する為に駆け回る。

騒ぎは光が消えるまでの2分半ほど続いた。

210:水色◆Ec/.87s:2023/01/21(土) 00:28

その2分半が過ぎた。
いつの間にか魔戦車からの光が消え、冷静さを取り戻した一行は、気付けば周囲を機械に取り囲まれていた。
「······なるべく減らそうとしたんだけど······」
今まで群がっていた機械兵を相手取っていたオレンジベルは気息奄々といった様相である。身体の各所に傷を負い、額に浮いた汗を拭いながら全身で息をしている。
「······」
数分とはいえ、途切れもせずに魔法を撃ち続けていたネア、一対多の戦闘力はさほどないシルバーベル、手傷を負ったオレンジベル、そして戦闘は得意ではないスミレ────四人の状態を知ってか知らずか、囲む機械兵はじりじりと包囲の輪を縮めてくる。


「······まあ、何とかしなきゃだよねー」
ネアは疲れた様子も見せず、軽い調子で言いながら魔法の構築に取り掛かった。
「······『ホワイトランス』······」
魔法名を詠う。ゆるく纏まった四人の上に、光を放つ大槍が形成されていく。
「······『ジャッジメント』!」
そう彼女が叫ぶと、大槍がまるで意思を有するかのように飛ぶ。
何かを構えようとしていた機械兵に向けて、正面、単純にして最大威力の破壊。────槍の太さはネアの背丈程もある。光魔法が故の効果だろうか、直撃したであろう敵はほぼ全てが消滅していた。
「今構えようとしてたやつ、見えた?······あれはあの穴から石とかとにかく硬いものをすごい速さで撃ち出してくる兵器。スミレならわかるよね」
ここでシルバーベルの解説が入った。ネアの服の裾を摘みながら様子を伺っていたスミレに話が振られる。
「あ、えっと、······わかる。わかります。ガトリング銃みたいなものですよね」
しどろもどろになりながら彼女は答えた。······銃。まだこの世界には紛れもなく存在しないものであるが、ネアはその話題についていった。
「神殺しのー······特殊機能がなくなって殺傷力が落ちて連射できるようになったやつ?」
「そういうこと。話が早くて助かる。······当たったら痛い筈だからなるべく······」
────彼女の的確な返答を聞いたシルバーベルが言葉を結ぼうとした、その時だった。

自分たちの遥か後方、機械による包囲網の端の部分。
そこが、轟音と共に崩れ始めた。

211:水色◆Ec/.87s:2023/01/25(水) 22:31

────4人はほぼ同時に振り向いた。
崩れた包囲網が、彼女たちの目からはっきりと視認できた。
「(······今っ!)」
ネアはその機を見逃さない。彼女が腕を振るうと、浮かぶ光の大槍が宙を乱れ飛ぶ。
先程の衝撃も回復しておらず浮き足立つ機械兵の集団に向け、破壊と消滅を叩きつけていく。
······直撃した敵は消滅、あるいは割れ散り消えていく。また別の方向へ槍が舞うと、そこにいた機械はまるで木の葉のように千切れ飛んでいった。
「す、すごい······」
「あんまり長時間はできないけどねー。······さ、今のうち!『マッハスピード』!」
スミレの呟きにネアは心なしか上気した頬を掻きながら応じる。
続いて行使するのは、身体強化魔法の上級、それも速度に重点を置いた魔法。いつぞやかにブルーベルが使っていた、あれである。
包囲が大崩れした部分に再び一撃を叩き込んでおいて、4人はそこから足早に脱出する。────彼女らの背中を、いくつかの機械と小石弾が追ったが、捉えられる筈もなかった。




そこから数分。彼女達は、旧────物寂しい言い草である────王都の郊外にある建物で小休止をしていた。
コズミックからの供給が止まっているので回復が進まないオレンジベルを一旦休ませる為であり、また現状の整理をする為でもある。
「回復魔法いる?」
「んー······」
ネアの問いにオレンジベルは首を傾げる。彼女が負っている傷はそう凄惨でもないが······回復をせずに放置していると悪化しそうである。少なくとも、スミレとネアはそう捉えた。
「······じゃあお願い。あんまり魔力使わせても悪いから程々でいいよ!」
「りょうかーい。てんてこ舞いだー······」
現状魔法のスペシャリストはネアしか居ないのである。スミレはどうも魔力が上手く練れない。シルバーベルはむしろ魔力を消す側である。
霧を少し濃くしたかのような白色光が、オレンジベルの全身を覆っていく。


「······ところで、さっき包囲網を崩したのは······誰なんでしょうか」
待ち時間の間、スミレは記憶を頼りにしてシルバーベルに疑問をぶつけてみた。
「誰なんだろう······イリスが察知したとは思えないし」
どうやら彼女も分からないようである。それなら、
「ネアって索敵魔法張ってるよね。分かったり······しない?」
「んー······」
話を振られたネアはというと、オレンジベルの傷を粗方回復し終えて、一息ついているところだった。
「あの時はー······ホワイトランスを操作するのに夢中だったから、索敵魔法がちょっと弱くなってたよー」
だが、誰なのかは分からない、とは言わなかった。
彼女はかつてカルトナがしたように、壁に索敵魔法を投影した。3人はそれに目を向ける。
すると、
「これー。この青い点。ちょっとづつこっちに近付いてきてる」
インクをそこに一滴垂らしたかのような青が、二つ。連れ立って、自分たちが今いる建物目指して、歩いてきている。
「······多分、さっき会った······アレクとペレアかなー?」


世間は狭い。そして滝のようである。
数時間前に邂逅した相手と、また邂逅する事になるのだ。

212:水色◆Ec/.87s:2023/01/29(日) 21:45

それからさらに数分後。


「······驚いたな。こんな所に居たのか」
シルバーベルの声かけによってこちらに気付いたアレクとペレアが、建物の中へと入ってくる。
「誤解しないでねー。行って帰ってきたんだよ」
「というと?」
「ドラム公爵領で用事を済ませて、引き返してきたんだよ」
アレクは訝しげに問い質してきたが、ネアはそれをものともせずに答える。
······しかし、その答えが悪かったらしい。彼の表情が一気に険しくなる。
「嘘つけ。こんな数時間で往復できる訳が無い······」
文字通り剣でも抜きそうな剣幕である。
が、こちらは実際に往復しているので弁解のしようもない。ネアが返答に迷っていると、今度はシルバーベルが間に入ってきた。

「私たちは身体強化魔法を使った。善は急げだからね。······あと一応これでも道には詳しいんだよ」
やや煽りの成分が含まれていた数時間前の会話と違い、これは比較的理路整然としている方である。多少言葉選びが刺々しいのは愛嬌であろうか。
アレクの方も身体強化魔法の有用性や地の利の重要性を理解しているらしく、それ以上は問い質さなかった。
彼は照れ隠しらしく話題を変える。
「······分かった。ところで、えーと、シルヴァンとオリオンだったか?」
前者はシルバーベルの偽名、後者はオレンジベルの偽名である。
「うん。何か······?」
「······鈴を首に付けてるのには何か理由でもあるのかな、と思ってな······」
名指しされた二人は顔を見合わせた。
······それだけでない。何が始まるのだろうか、と様子を傍から見守っていたスミレとネアも、思わず目を瞬かせていた。
考えてみればそうだ。〜ベルという名前だから、というだけではあるまい。




「······私たちの上司が最初に部下にしてた人の名前がね、『ベル』っていうんだ」
答えないという選択肢もあった。しかし、シルバーベルは滔々と話し始める。
「でも、そのベルさんはすごく強い魔物······モンスターに負けて殺されちゃった。······多分、上司はその人の事を忘れたくなかったんだと思う」
首に提がる銀の鈴を撫でながら、彼女は呟くように語る。
「そうだったんだ······」
「オリオンは比較的最近つ······入ったんだったね。まあこれも確証は取れてないんだけど······」

「分かった。軽々しく聞いてしまい申し訳ない」
彼女は言い終わるとすぐ、申し訳なさそうなアレクに直面した。
「別に頭下げなくても······」
困惑である。闇夜でも目立ちそうな金色の髪────紛れもない勇者の象徴が目の前にあるとなると、本来の立場は比べ物にならない筈なのだが、つい気後れしてしまう。
「まあ、いいよ。さっき助けられた分はこれでチャラってことで。いいよね?」
相変わらず変なところで入ってくるオレンジベルである。だが今回は、微妙になりつつあった空気がやや換気されるという役割を果たしているだけマシである。


軽く咳払いが挟まれた後、話題が転換した。
「······で······これからどこに行くつもりなんだ?」
「海岸に出てそのまま海に」
「「海······?」」
なんとここでペレアも呟くのである。アレクの声と重なっていたが、一度聞けば忘れそうにない声だ。······間違えようもない。
しかし、その呟きだけでは事は終わらなかった。アレクが、一瞬の戸惑いの後────腰に差していた剣を引き抜き、シルバーベルの胸に擬したのである。

「······っ!?」
「悪いな。お前らは俺らの敵ということが確定した。ここで死んでもらう」

────彼の目は、使命感に燃えていた。

213:水色◆Ec/.87s:2023/01/31(火) 20:22

このような展開、予測できる筈がない。
……突然の出来事に場が硬直する中、真っ先に動いたのは────
「やっ!」
オレンジベル。
彼女は咄嗟に指先を小さな刃に変化させ、アレクの剣を弾くべく、飛んだ。……今さっき治療されたばかりの病み上がりであると言うのに。
「なっ!?」
だが効果はあった。奇襲を察知できなかったアレクは剣こそ取り落とさなかったものの、大きく弾かれて仰け反ってしまう。
その隙に、
「起きて!」
性別相応に尻餅をついてしまったシルバーベルを助け起こし、頬を軽くぴしゃりと叩く。
……そのお陰で、直後に体勢を立て直したアレクによる攻撃が、銀の盾で防がれた。


「な……」
片手でスミレを後ろに庇いつつ、半ば叫ぶようにしてネアは尋ねる。
「なんで私たちに……!?」
「簡単な話だ!分からないのか!お前らが魔王の手先だと……今ので知れた!もう隠しても無駄だ!」
話が通じないな、とネアは直感する。
……無論、彼女らは魔王の手先ではない。アクアベルやコズミックも、魔王等では断じてない。
目の前の青年は洗脳されているのかもしれない、と思いつつ……彼女は読心魔法の準備に入った。
その間にも、
「ええい鬱陶しい……くらえぇっ!!」
裂帛の気合と共に剣が振り下ろされる。
対峙していた2人は反射的に身を引く。……その眼前では、剣が火花を散らして銀の盾と激突し、後者が石で出来ている筈の床にめり込んだ。
アレクはどちらかと言うと細身である。使っている剣も、長剣ではあろうが大剣とはいえない。恐ろしきは勇者の力である。


「……えいっ!」
────その時だった。ネアが後ろから、アレクの顔面に向けて椅子を投げた。
何の変哲もない、ただの木材でできた、やや古ぼけた椅子である。目標を達成する遥か前に、正確無比な剣撃で叩き落とせれるのはむしろ当然のことであった。
……しかし、隙が生まれた。4人にとってはそれで十分だった。
「アレク!どこをどう曲解したかは分からないけどー……私たちは魔王の敵だよ!魔王は私たちの敵だよ!!」
ネアが代表でそんな事を言って、すぐ横の大窓から外に飛び出していく。……逃げるのである。




「……逃がした……くそ、あの魔法使いめ……!」
「……」
アレクの悲憤にペレアが気の毒そうな表情で応える。2人は出来うる限りあの4人を追ったが、ついには見失ってしまったのであった。
「あいつらドラム公爵領にも行ったとか言ってたな······あぁ、このままあそこも機械に占拠されるのか······」
彼の嘆きは絶えない。先程の諸々も演技ではなく、どうやら本気のようであった。
「······その事だけど······あの様子からして、魔王の配下って決めつけるのは早いと思う······」
ペレアは控えめに反駁を試みた。先程の乱闘で欠片も動いていないだけに、少々遅すぎる介入である。
「······いや······だが······」
それでも剽悍なる勇者の進路を迷わせる程度の効果はあったらしい。首を勢いよく振ろうとした、······その速度を少しだけ緩めさせたのである。
「······ともかく、明日はもう一度レジスタンス地区を訪れる。あいつらの爪痕······今日は気付かなかったが、探せば出てくる筈だからな······」
憎しみは深い。それも、多少なりとも信頼関係を築きつつあった間柄が変化した物なのである。反動は重かった。
ペレアはそれを聞いて、意味ありげに片目を閉じた。再び両目を開き、「それならそれで」と勇者の考えに従う旨を述べる。
今日はこれ以上進まないようである。彼女が今日の終着点はここだということを、欠伸と伸びで示したからであった。

······夜は次第に深まっていく。

214:水色◆Ec/.87s:2023/02/13(月) 23:10

【!!!】【phase2】


とある場所。黒、と言うより褐色や灰色、濃緑色を基調とした風景が広がる廊下を有する────つまるところ、魔王の居城たる『魔戦車』だった。
そこをピンク髪の女性が歩いていた。無論、この前見出したのと同じ女性である。
ただ、足取りは前と少しだけ違う。のんびり、ではなく、何かに苛立っているらしく、足音が音高く廊下に響く。


そんな折、彼女はふと一人の男とすれ違った。
「お、ガートルード。どしたん?」
「······デュロス。見ればわかるでしょ?イラついてるの」
男の名前はデュロス。そしてピンク髪の女性はガートルードという。
ガートルードの声は苛ついていると言われなくても明確に刺々しい。デュロスは軽く肩を竦める。
「そんなに苛立たなくても。もう俺らの優位は確立されてるんだ、じっくり叩き潰してけばいいんだよ」
「実戦で真っ先に突撃して叩き潰しにいくデュロスには言われたくないんだけど······」
「そうか。で、どうしたんだ?」
軽く言葉の応酬を交わした後、元の質問を繰り返すデュロス。それも、先ほどよりかは丁寧に。
これにはガートルードも少しだけ頭を冷やした。口調に僅かばかりの平常心が戻ってくる。
「······実は、さっきあの辺を通った若葉色の髪をした······人間?を狙撃したんだけど」
「あ、魔王様に報告してた奴らか?」
「そうそれ。まさか数時間で引き返してくるとは思わなかったけど」
「ドラム公爵領から拒絶でもされたんじゃないか?閉鎖的な空間は大抵そんなもんだからな」
彼女らの行路が彼の予想とはまるっきり逆になった事まではデュロスも知らなかった。とはいえこれについては彼の悪意ある見方も問題だろう。
······というより、悪意がなければ、この場には留まることすら出来ないのだ。今は、そんな時代だった。


「······で、額の真ん中を確かに貫いた筈だったのに、倒れるだけで死ななかったんだよそいつ」
「なんだそら。龍人族ではないよな?」
「体弱そうな真人族······っぽい奴隷だったよ。そもそも銃弾受けたらどんな種族でも死ぬでしょ」
勿論撃たれたのはスミレである。となると、ガートルードが彼女を狙撃したことは容易に想像がつく。
「ほーん。俺がちょっと行って捕まえてくるか?」
「んー······守ってた鈴も魔法使いもかなりの手練だよ。いくらデュロスでも······」
「無理だって?······まあやらないがな。めんどくせぇ」
ガートルードは、目の前に居る相手が本当にやる気だと思っていたらしく、面倒くさいとの返答を受け取ると絶句してしまった。
そのまま立ち去っていくデュロスの背を見送る彼女の表情からは、呆れが多分に含まれる苦笑が見て取れた。

215:水色◆Ec/.87s:2023/03/13(月) 01:08

>>213


蒼の城。······の、跡地。
心なしか、スミレ達が来た時より足場が狭くなっている。────たった半日のうちに。とはいえアクアベル1人ではまだまだ持て余しそうな程である。そんな歪な円形をした足場の端の方に、瓦礫を椅子にして、アクアベルは座っていた。
手にはいつもの杖。嵌められている碧色の鈴が、宵闇の中で微かに音を奏でている。
────彼女の目は閉じられている。だから海を見ているのか、それとも別の何かを何処か見ているのかは分からない。そもそも何も見ていないのかもしれない。無限に続く、暗闇以外は。


「······無限だった方が良かったかもね」
アクアベルが立ち上がる。その時杖が瓦礫の一つに当たり、微かな不協和音を奏でた。
「······その方が、諦めもつくから」
それでも、独語は止まらない。
全てを諦めたかのような静かな声調からは、表面上は何も感じられない。しかし、裏を返せば虚無なのである。希望も絶望もない、平坦な────平淡な、未来が······彼女には見えるのだろう。
しかし彼女にはまだ仕事が残っている。それは、その未来を破壊するための芽を育むこと。即ち────
「あった!······蒼の城!」
「······っ!」
今朝語ったばかりの事を、こんな早いうちに実行してくれた、4人を迎え入れ────
「······来たね。待ちくたびれたよ······っ!」
────予め作っておいた然るべき手段で、反撃の狼煙を上げることである。




およそ1時間強かけて大陸から戻ってきた4人は、今や大量の機械兵に捕捉され、全力の逃走劇を繰り広げていた。アクアベルからしたら、もはや蒼の城が殲滅済みと看做されなくなるので文句の1つでも言っていいところだが、そんな場合では無い。
計画の第2段階の時点に至っては、実行されたら後は比較的どうにかなるのである。それこそ、この後アクアベルが捕まりでもしない限りは。
杖を床に打ち付け、4人を瞬時に足場へと転送する。ネアに抱えられていたスミレを除き全員が走っている姿勢のままだったので、転送した後にすごい音がしたが気にしない。
そして、猛スピードで迫ってくる機械兵を引き付け────下からの一撃を食らわせた。

「あれは······蒼の城の構造物······!?」
あんな使い方もできたのか、といち早く現状を把握したスミレが目を瞬かせる。
彼女の目には、およそ5cm程に分割された構造物が、物理法則を無視した速さで下から機械兵を襲い、その装甲を次々と打ち破っていく光景が映っていた。
無人の機械兵が辿る運命はバランスを崩したことにより海の底に沈むか、核を撃ち抜かれ動きを止めて海の底に沈むか、その2つに限定されていた。しかしごく一部ではあるが、中に人が入った機械兵もいる。遠目でも、そして薄暗い中でも、肉が裂け血が噴き出す様がぼんやりと目視できる。
4人はどうしても陰鬱にならざるを得なかった。

216:水色◆Ec/.87s:2023/03/14(火) 02:22

途中からネアが魔法で参戦したこともあり、無数に居た機械は次第に数を減らしていった。ただし、
「そろそろ残弾も打ち止めだよ。まあ結構減らしたから後は何とかなると思うけど」
とのアクアベルの警告が入る。「必死にかき集めてた構造物の欠片が······」とのぼやきも併せて。
「······このために?」
「どうだろうね?······でもここで役に立ったのは事実だし······」
城を復旧させずに土台や足場を野ざらしにしていたのはこの為だったのか、と言わんばかりにスミレはアクアベルの方を見て質問する。若干躱される形にはなったが。
······元の城の大きさを考えると、構造物の破片はもっと多くなる筈である。更に遠くへ吹き飛ばされたか、粒子レベルまで粉々になったか。それはなかなか頭が痛い疑問であった。




出し惜しみか本当に無いのかは分からないが、途中から途切れがちであった欠片が途絶えた。それと同時に、ネアが放った氷魔法が最後の敵の腕を凍りつかせ、バランスを崩した機械兵が海の底へと消えていく。
「お疲れ様ー。みんな怪我は無い?」
「こっちの台詞だよ。······大丈夫、だよね?」
「2人ともそこまで。まずやることを終わさないと······」
早速2人の世界に突入しそうになったスミレとネアをアクアベルが引き戻す。······相手が相手なら叩き直すという表現が使われていたかも知れないが、それはともかく。
懐に仕舞っておいた2つの宝玉が、スミレからアクアベルに手渡される。
「暴発······しなかったみたいだね。よかった」
渡された側がそんな軽口を叩く。しかしスミレはやや本気にしてしまったらしく、不安そうに、
「······4つ一緒に置いておくと暴発、って言ってませんでしたっけ······?」
「実は4つ未満でも稀に暴発するんだよ。勿論確率は結構低いけど」
2つだったら無いに等しいから大丈夫、とアクアベルが付け足す。······果たしてそれは本当なのか、不安を払拭させる為の嘘なのか。
────ともかく、無事に運べたのである。スミレはそれ以上考えないことにした。


「じゃあいくよ。ちょっとだけ離れてて────」
気付けば、アクアベルは宝玉を並べ終わっていた。四角形か、円形か······等間隔に、それぞれ違う光を放つ玉が鎮座している。
······奇妙なものである。白、黄色、緑は勿論、灰色でも、光としか言い表せない光景が目の前にあるのだから。
ふと目線を逸らすと、シルバーベルとオレンジベルがいつの間にかアクアベルの傍に寄ってきていた。何かしらの力でもやり取りしているのだろうか、後者2人は触れ合いそうなほど近付いたきり、動きを止めてしまった。呼吸で僅かに動く胸のみが、彼女らが動いている証拠だった。




幻のような時間は終わる。
「······さぁ!起きて!もう一度······勇者達よ!!」
敵に居場所が悟られていることなど気にされなかった。
大袈裟な程の身振りと共に、呼び声が海の彼方まで響いていく。

217:水色◆Ec/.87s:2023/04/20(木) 20:32

「みんなー。起きてる?」
と、声が降ってきた。
どこまでも続く草原の中、『彼』は我を取り戻す。いや、そこにいる『彼女』も、同様に。
そこには、アクアベルがいる。4つの光球の中心で、いつもの杖を持ち······不思議と、傷も憔悴した様子もない姿で。
彼女以外の声はなかった。いや、人の姿形すらなかった。光球しかない。ここはそんな空間なのだろう。


「起きてる······かな。うん、そうに決まってる······じゃなくても、もう時間ないから······」
容姿こそ綺麗であったが、アクアベルは普通に追い詰められている。恐らくこっちの世界に入る時間すら惜しいのだろう。その時間を犠牲にしてまで、彼女はここで多少の仕事をしなければならない。
────ここで、『彼』がこの空間を認識した。同時に、光球だった『彼』の姿が変化する。金髪の凛々しい勇者······エインの姿へと。
他の光球も彼の姿を認めたようだった。そしてそれぞれ、各々の姿へと戻っていく。変わっていく。
勇者エインは元より。聖女リリー。盗賊ブロウ。盾使いアルスト。先代の勇者達が────この空間に、揃い踏みした。


「······完璧!みんな違和感とかないかな?」
「それよりも······軽くでいいから現況を教えて欲しいんだが」
アクアベルが勇者達を見て満足気に頷く。そんな彼女に対して真っ先に問いを投げたのはブロウであった。
「そうだね。まず······本来ここに来るのはコズミック様な筈だった」
「······なるほど?」
時間が無いのに回りくどい言い方をするアクアベル。やはりというか、エイン以外は皆要領を得ない顔をする。
「でもコズミック様はここにはいない。新魔王に捕まっちゃったんだよね」
彼女は結論までさらっと繋げた。なるべく衝撃を和らげようとする努力なのだろうか。
「······え、それって」
「そう!神様はいなくなった!······今、色々な人に頑張らせてるけどこのままじゃジリ貧なんだよね」
最も衝撃を受けたらしいリリーに対して、両手を広げて大仰に話すアクアベル。しかし続く言葉はややトーンが落とされた。ふざけている場合ではないのである。
「魔王にあの神が捕まったことまでは分かった。······僕はそれで復活されることには異論はない。······」
ここで、エインが初めて口を開く。他の3人も、エインが賛成するなら致し方ない、という風に────実際はそこそこ興奮していたが────姿勢を整える。
しかし。
「······だが、一つ聞かせてくれないか?」
「ん。なんなりと、勇者様?」
早速勇者を現世に戻すための何かに取り掛かろうとしていたアクアベルが、その動きを中断する。集まりかけていた光が、その勢いを弱めた。
────真正面から受け止めるには、何もかもが足りなかったのである。彼女はわざとふざけるようにして、真剣な質問に相対した。




「魔王が全てを握っても······『世界』としてはそれで良いのではないだろうか?」

アクアベルは少しだけ微笑んだようだった。そのまま左手で握った杖を掲げ、光を集める。そうしてようやく彼女は口を開いた────と思えば。
周囲は瞬く間に、白に塗り潰されていた。

218:水色◆Ec/.87s:2023/06/24(土) 11:54

途端に。
元の世界にも、光が溢れ出した。
「わっ······」
「······成功したかな?それとももう暴発したかな······?」
思わず悲鳴をあげたスミレと、やや不謹慎な事を言うアクアベル。言っている事が本当にしても嘘にしてもやめて欲しい所である。
どこから光が飛び出しているか分からない。言葉を聞くに、アクアベルは戻ってきたのだろうが、そこで何が起こっているのかも分からない。
だが不思議と、目が潰れるということはなかった。その光は──優しかった。




「······光だ」
そう、誰かが言った。
いつの間にか閉じられていた目を開く。
青。────どこまでも続くかのような海原と、人の姿。
光は消えていた。しかし宵闇の中でも、魔法を使っている訳では無いのに、何故だかそれは鮮明に見えた。
「······あ······!」
「······」
「成功したみたい。よかったよかった」
「やったあ!これで100人力!」
「まあまあ。······"勇者達"。異常はない?」
先代勇者、4人────ネアを除く────全員が、ここに蘇る。


······迎えた者がそれぞれ違う反応をする中、当の本人達は。
「······色々聞きたかったことはあるけど······まあ、仕方ないか」
「······まさかもう一度甦れる措置があるとは思いませんでした」
「やれやれ。······で、状況は?」
「······よう。久しぶり」
こちらもバラバラであるが······ともかく、復活される事に異論はないようだった。
そして何より、
「······スミレと、ネア。元気そうだな」
この二人を前にしては、彼らは動かないという選択肢を取れないのである。
「······皆さん、本当に······本当にぃっ!」
「あっ、······泣かないでください!私たちは、大丈夫でしたから」
泣き出してしまったスミレの肩を軽く押さえながらリリーは言う。······視線は表情が暗いネアに向けて。······むしろ、そちらの方が本題であろう。

「······色々葛藤はあるかもしれないけど······その辺説明してる時間はないんだ」
アクアベルの杖の音が響く。いつの間にか大規模索敵魔法を起動していたらしく、床を叩く音と共に、まるで波紋のように地面へとそれが投影された。
「第二波だよ。疲れてるかもしれないけど······こんな狭い足場じゃいつか圧殺される。打ち破りつつ大陸に向かってほしい」
「······あいつらは人なのか?」
「操り人形みたいなものだよ。まあだいたい鎧は空洞だけど······中には人が入ってることもあるからね」
「傷はどのくらいまで耐えられるんですか?」
「うーん······宝玉のエネルギーで動かしてるから······」
アクアベルはやや軽装なリリーの胸元を指差す。見れば、そこはじんわりとした光を放っている。
「っ······」
「心臓さえ壊されなければ死にはしないよ。まあでも自然回復は遅いから······回復魔法が大事だね」
「······分かったからその指を下ろしてくれ」
少し恥じらいの表情を浮かべたリリーを見かねてエインが間に入る。
「(心臓······)」
スミレは心の中で呟く。······そう、だいぶ頑丈になったとはいえ······彼女とは違い、勇者は死ぬのである。
あまり負担はかけられない。······が、頼りになってしまう。
安心感と不安感に挟まれつつも、彼女は数分後に訪れるであろう出発に備えるのだった。

219:水色◆Ec/.87s:2023/06/30(金) 22:12

「······さて······あれか」
蒼の城跡地を飛び出してから、1分もしなかった。全員が舟よりも早い水上走行を選んだため、仕方ないのだが────少し向こうに、まるで蟻の群れのような機械兵達が現れたのである。······しかし、その邂逅は一瞬の事だった。
まずエインが呟く前に、いち早く察知したブロウがダガー投擲でいくつかの機械兵を刈り取っていた。
次に、一歩前に出たネアが、先程の葛藤もどこへやら、炎弾やら氷弾やらを出して次々と機械兵を屠ってゆく。
弾丸が飛んできたとしても、アルストの盾魔法が受け止める。傷を負ったとしても、リリーが瞬時に回復できる。そして接近戦になれば────ただでさえ万能なエインの独壇場である。

「通す訳にはいかないんだよなぁ?」
「ダンジョンの位置バレたらまずいからねー」
「······弱いな······」
「傷を受けないのが一番ですけど······私が居ますので。安心して戦ってください!」
「まだ僕の出番はなさそうかな。いいことだ」
勇者達がそれぞれ色々なことを喋りつつ、敵を殲滅していく。
「す、凄い······」
スミレは実のところ、勇者達が共闘している様子を直で見た事がない。魔王を倒す、ということの凄さはなんとなく分かっているが────最低限の連携でも、機械兵を楽々葬れるという所を見せつけられれば、嫌でも実感せざるを得ない。
シルバーベルとオレンジベルが、後ろをちらりと見る。そこには、もはや影も形もなくなってしまった蒼の城と、ダンジョンがあるはずであった。
『私はダンジョンに隠れるよ。あそこはまだ見つかってないし────外から索敵魔法は通らないからね』とのアクアベルの声が思い出される。
彼女のお墨付きならば恐らくは大丈夫であろう。ただ、どちらにせよ時間はかけられない。────勇者たちも、同じ気持ちだった。
機械兵が視界から消えると同時に、一行は再び走り出す。来ないのが一番ではあるが、第3波は地上で迎えたいものである。

220:水色◆Ec/.87s:2023/07/03(月) 08:47

【!!!】phase3


とある場所。······もう察しはつくだろうが、魔戦車、その一室である。
「ガートルード」
「はい」
ピンク髪の女性────ガートルードが、彼女より身分も立ち位置も2段ほど上の相手に向けて跪く。
「あれから200年だ。体調に変わりはないか?」
「えぇ。そもそも我々は魔人族ですし······魔王様から力を受け取っていますから」
「そうか。そうだったな。······おっと、本題はそこじゃない。これを見てくれ」
どうやら、その相手というのは魔王らしい。彼はガートルードに向けてある黒い塊を差し出してきた。
その黒い塊というのが、
「······これは······?」
「ガートルードが使っている銃を短くしたものだ。······外見はな」
ガートルードはいわゆる狙撃銃のようなものを使っている。勿論銃弾ではなく、小石を超高速で撃ち出すものだ。とはいえ、スミレの頭を貫いたことから、威力は申し分ないことがわかる。
魔王はガートルードにその拳銃のようなものを握らせる。
「······あの魔法使い、カルトナと言ったか。かけてあったロックの底の底にある物を取り出すことにようやく成功したんだ」
「はあ······」
ガートルードはいつぞやかと同じような薄笑いを浮かべた。どうもこの件に関しては信頼していないらしい。
「ロックの何段か目で見つけた······銃?のデータで十分だと思うんですけどね······」
どうやら機械兵の装備である小石機関銃、そしてガートルードが持っている狙撃銃はカルトナを解析したが故の産物なようである。
······だが、カルトナはただの魔法使いではない。
「そうじゃない。これはな······世界の管理者や不死身の者を殺せる武器らしい」
誇るかのように魔王は言う。そしてその銃から手を離し、
「これをどう使うかは任せる。もう1000年は保つ力は吸収したからな······」
「······!」
その言葉が意味するところをガートルードは理解した。······単に奴隷の威圧には留まるまい。
解散、と言わんばかりに去っていく魔王の後ろ姿に向けて、彼女は一礼したのだった。

221:水色◆Ec/.87s:2023/07/04(火) 20:07

>>219
「さて。まずは何をすればいい?」
砂浜。蒼の城跡地から、大陸まで一直線の場所である。最短距離かどうかはともかくとして────水ではないし、狭くもない。腰こそ下ろせないものの、ちゃんとした足場なのだ。
落ち着いた所でエインが口を開く。その目線の向こうには、魔戦車がうっすらと見える。······心なしかライトアップされているようにも見えた。悪趣味である。
「ええと、まず······レジスタンスの所に向かいましょう」
恐らくこの中では一番の穏健派であろうスミレが答えた。魔戦車から意識的に視線を逸らしながら、彼女は続ける。
「勇者の皆さんの姿を見れば······きっと生き残りも奮い立つはずです」
「レジスタンスか······アクアベルから聞いたが、結構危ないんだろ?」
「はい。だからなるべく急がなきゃ······」
ブロウの問いに答えると、彼女は小さく欠伸をした。······やはり疲れているようである。その他、一日中駆け回っていた3人も同様に。
「······疲れは魔法で癒せますが、精神的な疲れは癒せませんからね」
リリーがズレているのか真っ当なのかよく分からない発言をした。魔法世界でも科学者みたいな事を言う人はいるらしい。
それよりも、
「······なるほど。生き残りが奮い立つかはともかくとして······一旦休める場所があるのに越したことはないな。行こうか?」
今日のうちに何が起こったかほとんど知らないのにも関わらず、全てを諒解しているかのようにエインが頷く。
大所帯。意見の統一は難しい。そしてこの状況においてはそれこそが何よりも重要であるが、不思議と意見の相違は起こらない。
機械兵が集まってこないうちに、一行は王都の方へと向かってゆく。




「······酷い有様だな······」
無口なアルストがそう呟いた。逆に、それ以外の者は皆黙っている。
スミレとネア、シルバーベルとオレンジベルは知っている。破壊は中途半端なのが一番悲惨だ。修復できる範囲だったり、新しい物を作った方が早いだろう更地であったりしたら心のダメージは多少なりとも抑えられる。
家の上半分が吹き飛んでいたり、外見上は辛うじて残っていたり、はたまた完全に瓦礫と化していたり。かつて勇者達が歩いた光の王国、それを象徴する王都はまさに崩壊の2文字を体現していた。
「······創造を伴わない破壊に、価値などない」
入れ代わり立ち代わりやって来る機械を片付けつつ、前へと進んでいく。

222:水色◆Ec/.87s:2023/07/05(水) 23:59

人間であればとっくに寝静まる時間帯。
レジスタンスを運営しているのは、その人間である。······しかし彼ら彼女らはどうしても休めない。休むことを許されない。
「索敵魔法よし!北から3体、南から5体!」
「了解!他には?」
「他······ああ、難民らしき人が何人か」
「はい。······うーん、やっぱり念話魔法が使えないのは痛いですね」
「······イリス様。前々から気になっていたのですが、そのネンワ魔法というのは」
「あ······ええと、その······」
「今日という今日は教えてもらいますよ!古代の失われし魔法だか何だか知りませんが!」
「い、いいから迎撃です!北は私が片付けるので、動ける方は南をお願いします!!」
いつもこんな感じです、とでも言うかのような騒がしさである。これで絶望感を上書き出来ていたら良いのだが、
「······っ!」
────屋根の上に上がってきたのは3人。人的不利は免れ得なかった。
瞬時の交差で、イリスが機械のうち1体の頭を斬り飛ばす。レジスタンス本拠地への襲撃を優先したらしき2体には、まず片方に追い付いて至近距離からの風の刃。きっちりと胸元を貫き、更に急所となる妖しい宝石も砕いた。
もう1体はというと、俊敏にイリスに銃口を向けて発射したところを、
「『リフレクト』!」
イリスの正面に展開された、攻撃を問答無用で反射する板が、弾を完璧に発射主の元へと送り返す。······建物を破壊できるくらいに威力を調整していたのだろう、機械兵の体はそれだけで木っ端微塵になった。
「······」
あれを受けていたら、と一瞬ぞっとするも、彼女は再び駆ける。
不利な状況下にあるであろう味方を救うべく、平和な時代であれば苦情不可避な高速屋根走りを行う。────慣れとは凄まじいもので、ある程度派手な動きをしても彼女は全く危なげがない。
屋根と屋根の間を一回転して飛び越し、そして風魔法の補助も受けつつ、まさに先ほど味方が飛び出てきた場所に着地し、



「君がここのリーダーかな?」
「······はい?」
光を、見た。

223:水色◆Ec/.87s お久しぶりです:2023/08/29(火) 23:08

「な、」
突然現れた男に対し、イリスは一瞬警戒心を抱いたようだった。
「······誰ですか!こっちは忙しいの······」
やや激しい口調で詰め寄ろうとするが、その向こうの方からやってくる数人の人影を認めると、彼女は黙ってしまう。何を隠そう、その中にはスミレ達が居るのだ。そして勿論、突然現れた男というのはエインのことである。
「この方向に来てた機械は全て倒したよ。こっちにも······勿論お仲間にも被害はなしだ」
「それは······どうも」
エインの言葉に、イリスは深く頭を下げる。レジスタンス内で機械兵3体を単独で処理できるのは彼女だけであり、即ち5対3という状況であれば突破されてしまう公算が大きかったのだ。
「······なるほど、こういう······」
呟く。彼女はほっとしたような表情のスミレを見た。それで宝玉を集めていた理由と、宝玉が集まったことと、そしてそれを用いた『何か』が成功した事の全てがわかったようだ。
「······貴方達について、深くは聞きません。ただ、滞在するのなら、防衛に参加して頂けると······」
イリスの目はまだスミレ達の方にあった。スミレとネア。そしてベルシリーズの二人に疲労を見て取ったようだ。
「勿論。そのつもりで来たからね」
「······助かります。元は宿屋に使われていた建物に案内しましょう」




イリスは少し大きめの建物の前に一行を案内した。······看板と明かりこそ無いが、確かに宿屋らしい構えである。
「ありがとうございます······」
「いえいえ。状況を変えてくれる······そんな気がするのです」
スミレの感謝の言葉にイリスは首を軽く振る。本心なのだろう。
「······それじゃ、僕は早速行ってくるよ。女性陣はしっかりと休むように。······あぁ、リリーは来なくていい」
「ええっ!?······まあ、確かにそうですけど······」
「そういうこった。······そうだ、それならそこのリーダーさんをここに押し込んでおけよ」
「「······はい?」」
戦闘狂でもないのに早速エインが反対方向へと歩き出す。ブロウがそれに続くが────何やらとんでもない一言を残していった。リリーとイリスが同時に間抜けな声を発する。
「そ、それはどういう······」
イリスは無言で去っていくアルストの背中に問いかけるが、当然返答は無い。······そればかりか、
「······た、多分こういうことなんだと思います······失礼しますよ!」
彼女を宿屋の中に引き込もうとするリリーが右手を掴み、その動きを止めた。
「私も助太刀します」
「えっ、ちょっと待って離してくだ、私にはやることが······あれ、力が······ぬけ······て······」
抵抗しようとするイリスであったが、シルバーベルが反対側の腕を掴んだ途端、気が抜けたようにへたり込み────そのまま、眠ってしまった。

224:水色◆Ec/.87s:2023/09/05(火) 07:58

「······やっぱり。魔法でずっと疲労とか眠気とか痛みとかを無視してたみたい」
宿屋のエントランス部分。いくつかの椅子と机が散乱とも整然とも表現出来ないほどに散らばっている空間。とりあえず石ではない床にいくつかの布を重ねて敷いて、その上に昏々と寝息を立てているイリスを寝かせている。
シルバーベルの呟きはほとんど正解であった。『金属』故の制約はあるものの、魔法や魔力のほとんどを消し去る彼女である。そんな彼女が触れるだけで倒れたというのは、相当厳重に魔法が掛けられていたのだろう。


「······さて」
リリーが咳払いした。
「まず、スミレさんとネアは休みましょう。ええと······シルバーベルさんとオレンジベルさんはどうします?」
どうやら前者2人が休むのは決定事項らしい。スミレはともかくとしてネアは頬を僅かに膨らませたが、この場にいる誰もがリリーの意見に賛成であった。
「私はまだ動けるよ。仮眠は必要かもしれないけど」「私に休息の二文字はなーい!」
冷静なシルバーベルと明快なオレンジベル。仮にもイリスがいないレジスタンスのこともあり、流石に否とは言えない一同であった。
「分かりました。とりあえず私はここで詰めてるので、怪我したりしたら遠慮なく寄ってくださいね。······あ、念話魔法でレジスタンスの皆様にも伝えておかないと······」
「あ、それなら私に任せてよー」
「え?いや、ネアは休むべきで────あぁ、なるほど······」
ここに来てようやく念話魔法が扱えないという現象にぶち当たったリリー。······だが彼女ならともかく、魔法使い、文字通り魔法の専門家であるネアならどうか?
『────レジスタンスの皆にお知らせだよ。今から数日間────』
だいぶ疲れているであろうに、いとも容易く強力な念話魔法を繋げる。双方向とまでは行かないものの······全員にアナウンスするには十分だった。

「こんな感じかなー。······それじゃ私達はそろそろ。行こっか、スミレ」
「うん!······何かあったら呼んでくださいね!」
「いやスミレは大丈夫だって。私が行くから」
一仕事終えたネアはスミレを連れて割り当てられた一室に引っ込んだ。そして同じような雰囲気を醸し出しながら、シルバーベルとオレンジベルが無言で外に出ていく。
リリーはそれに毎回軽く手を振って応じていた。しかし誰も居なくなった瞬間、周囲は猛烈な静けさに襲われる。────さすがに寂しいとは言えなかった。
明かりを一段弱める。薄暗さがエントランスに淡く影を落とした。

225:水色◆Ec/.87s:2023/09/11(月) 00:43

孤独の時間は長く続かなかった。
「な、何だ今のは!?」
まず兵士がそんな事を叫びながら入ってきた。しかしリリーの見立てでは彼は怪我した訳ではないらしい。
「······どうしました?」
「いや······脳内に声が······ここに行けと······」
「······?ええと······怪我していないならお引取りを」
まさか念話魔法の存在すら知らない者が居るとは思わなかったリリー。兵士が何を言っているのかよく理解できず、とりあえず帰ってもらうことにした。


薄く漂う瘴気の影響で、下手な念話魔法や読心魔法が使えなくなっている事は既に明らかになっている。しかしあくまでも『下手な』ということなので、ネア程の魔法使いの前ではその障壁は消え失せる。
────しかし逆を言えば、それ程の魔法技術を持った者でない限り、念話魔法や読心魔法が扱えないのである。衰退するのもむべなるかな、ということだ。
そしてその辺りの経緯をリリーは知らなかった。責める訳ではない。当然の事だ。今この時代では、いやそれ以前に平和な時代でも、使えもしない魔法に労力を傾ける程無益な事はないのである。


しかし、である。変化は想像以上に早くやって来た。
「······聖女様かぁ」
開いた入口から、無感情な声がリリーへと投げかけられる。
「······どなたです?」
「イエローベル。······あ、もう1人いるけど······いい?」
「ええ。勿論ですよ」
イエローベル。────黄色の少女が、首の鈴を揺らしながら入ってきた。そして、もう1人。彼女に肩を借りる形で入ってきたのは、赤色の少女。血濡れではあるが、それ以前に彼女の赤色は血液の赤とは少し違う。レッドベルである。
「私は後でいい。まずはレッドベルを見てあげて」
2人ともシルバーベルやオレンジベルの仲間なのだろう、と理解するリリー。しかし元々レッドベルがスミレ達に着いてくる予定だったという事までは知る由もなかった。
「······これは酷いですね。一体何が······?」
回復魔法をかけつつ、斜め後ろで様子を覗き込んでくるイエローベルに向けて彼女は問いかける。
「ちょっと色々あって。攫われたりしなくて良かったけど······」
「そうですか······」
深くは聞かないリリー。恐らくスミレとネア、そして橙と銀の2人が前にいる2人のことをよく知っている筈である、と彼女は治癒魔法を掛けつつも軽く思考を回す。
「そうだ。ちょっと確認するけど······」
「はい」
しかしその思考は相手からの問いによって中断した。一体なんだろう、と思って続く言葉を待ち受ける。
「聖女とは言っても、リリーで間違いないよね?」
「そうですが······」
「それなら良かった。······アヤメのことは覚えてる?」
「······忘れてる訳がないでしょう。実の娘なのですよ」
何を聞かれるのかと思えば、といった風にリリーは答えた。
「うん。······お義母さんと呼んだ方がいいのかな······」
「?」
イエローベルは満足気に頷いた後、少し顔を染めながら口の中で呟いた。しかしその理由と内容はリリーには伝わらなかったようである。

226:水色◆Ec/.87s:2023/09/19(火) 06:05

「······もしかして、アヤメは······まだ生きているのですか······?」
だいたいの治療が終わった頃、リリーは唐突に顔を上げた。その問いと勢いに少し面食らいつつ、イエローベルは簡潔に事実を伝える。
「生きてるよ」
「······そ、それは······えっと、今、どこに?」
なんで、という質問はしなかった。ネアが生きている以上、色々と察したのかもしれない。
「······言わない。というか言えない。知ったらがっかりするだろうし······」
「······まさか、敵に捕まって······」
「ある意味ではそう言えるかな······」
イエローベルは首を振った。そして治療は終わったものの未だ気絶しているレッドベルの頬をぴしりと打ち、
「ほら、レッドベル。······もう動けるでしょ」
と言った。やられた方の反応はというと、頬を打たれてから数秒して声にならない声を発し、やがて次のように呟いた。
「······もう起きられないのかと思ってた」
むくり、と音が出そうな調子で彼女は立ち上がる。そしてリリーの方を見、
「スミレ達は上手くやったのか。······戦力としては十分」
「あ、まだ動いたら危ないですよ────失血が」
「ふぶっ」
······ちょっとだけ格好つけたところで、バランスを崩して倒れてしまった。




その後、宿屋のエントランスはしばらくの間懇談室として機能した。
不思議と引き留められてしまったイエローベルと動くに動けないレッドベル、そして時々やってくる負傷者の治療を行いながら二人の語る諸々の話に耳を傾けるリリー。
リリー達が死んだ後の出来事、英霊としての祝福、蒼の城での激闘、そしてここまで······と、その他重要不要問わず様々な話を彼女は聞いた。しかしアヤメの所在と、イエローベルとの関係の話は語られなかった。
リリーはその辺りを知りたがったが、イエローベルは上手く躱し、レッドベルは語らない。そしていつの間にか"休憩"するのに十分な時間が経っていたようで、上からネアが降りてきたが当然ながら知っている筈もなく。
「戦況は今の所膠着状態みたいだねー。イリスが抜けた穴を他のみんなが十二分に埋めてくれてるよ」
大規模索敵魔法はリアルタイムの戦図として機能する。それで上から眺めると、質の差か数の差かはともかくとして、人々はよく戦って機械の侵攻を防いでいるようであった。
「······イリスさんはまだ目覚めないのでしょうか」
「······私が思うに、イリスはここ50年は寝ていないだろうし、まだ難しいんじゃないかな······」
リリーの問いにイエローベルが答えた。魔法の力恐るべしなのか、彼女の精神力恐るべしなのか。恐らく両方であろう。
「······」
昏々、という表現が似合う程の眠りに陥っているイリスを見て、リリーは何か考えている様子だった。

227:匿名 hoge:2023/11/18(土) 01:57

「······そういえば、リリー?」
欠伸を噛み殺しつつ、ネアがリリーに話しかける。
「なんでしょう」
「イリスが起きてからでいいけど······ここに変な二人組が来なかったか聞いてくれるー?」
変な二人組。言い方が悪いが、恐らくアレクとサロメのことであろう。
「変な······まぁ、ここに誰か来るという事自体が稀でしょうしね。わかりました」
リリーは軽く頷いてみせた。何故ネア本人が聞かないのか、という疑問は彼女の中には湧いてこない。降りて来るまでの時間からして、恐らく睡眠以外の事をしていただろうし、休憩さえできればネアは戦いに行くだろう。そのくらいの事ならわかるのである。
「······寝てませんね?」
「スミレが寝かせてくれなくてさー」
「逆では?」
「······そうかもしれない」
ふぁ、と彼女はもう一つ大きな欠伸をした。油断すれば今にも寝てしまいそうである。このまま惚気談義に花を咲かせるのも悪くはないだろうが、それよりもこのままだと悪影響が出るかもしれない、とリリーが動いた。
「それはそれとして、ネア。今の力なら余裕とか思っているのかもしれませんが······寝る時はちゃんと寝ましょうね?」
諭す口調。まるで母親か師匠のようであった。ネアはそこに聳え立つ氷山のような物を幻視して、素直に引き下がる。
「うん。······何かあったら呼んでねー」
また大きな欠伸をしつつ、ひらと手を振って彼女は二階へと戻っていく。展開・投影された大規模索敵魔法はそのままに。
「······」
リリーはその地図にも似たものを見上げる。右下の一角では赤・青・緑の三点が建物らしき物を挟んで対峙している様子が見えた。青・緑は味方、赤は敵である。恐らくその二人は、孤立した機械兵を二対一の条件で葬ろうとしたのだろう。······しかし、緑の点が回り込んで側面攻撃を仕掛けようとしたらしい所で────何が起こったのか、その二つの点は何の前触れもなく消えてしまった。
「······!」
思わず、眠っているイリスを見る。起きる気配すらない。口が動かなければ眼帯の関係上片方の目許から状態を判断しなければならないが······安らかとしか言いようの無い寝顔である。
「······そろそろ私達も出た方がいいかな?」
今まで黙っていたイエローベルが不意にそう言った。
「私達、と言うと······レッドベルさんも行くんですね」
「そうなるね。······失血がどうとか言ってたけど、実の所それも何とかできるんでしょ?」
それにリリーは答えず、おもむろに座り込んでいたレッドベルの頭へ手を触れたかと思うと、
「······『ブラッドリジェネ』。複製魔法の応用ですよ」
「これは?」
「失われた血液がゆっくりと複製されていく魔法です。······多分、最終的には現在量の1.5倍くらいになるかと」
「······なるほど。ありがとう」
憔悴からかレッドベルは素直に礼を言った。そして立ち上がる。今度はふらつかずに。
「よし、行こう。シルバーベルとオレンジベルに休む時間をあげないとね」
そしてそのまま、駆け足とまではいかないものの、小走りくらいの速度で外に出ていく。イエローベルもまた、それに五秒ほど遅れて出ていくのだった。
「······回復、まだほとんどされてない筈なんですけど······」
思い込みの力は凄いですね、とリリーは独りごちる。······そう、彼女はまた一人の時間に沈んでいくこととなった。

228:◆Ec/.87s:2023/11/20(月) 20:08

そしてまたしばらく経った。とは言っても、今度は数分程度で済んだ。リリーが無心で索敵魔法の投影図を眺めていると、入口の扉が開いたのである。······入ってきたのは誰だろうか。先程言われていたシルバーベル達だろうか?それとも単純に負傷者だろうか?
どちらでもなかった。長くも短くもない金髪を若干乱しながら入ってきたのは、リリーが敬愛する······どころか、文字通り愛する者、エインだった。


「!!······あ、どこかお怪我を······?」
「怪我じゃない。嫌な予感がしたから戻ってみたけれど······杞憂でよかった」
エインの無傷伝説は未だに継続中である。そうでなくとも、彼が怪我をしたかもしれないという思考は一瞬リリーを慄かせた。
「そう、······ですか。嫌な予感というのは······?」
「······」
エインはそれには答えずに、一瞬階段の方を睨んだ後、
「リリー、これから僕はしばらくこの辺りを巡回する。強い魔力を持つ人、もしくは魔力を消している人が来たら注意してくれ」
「······はい。でも何故?」
理由は聞くが、特に反論はしない。リリーは勇者パーティー時代の経験を思い返す。その性格故かエインは多くを語らなかったが、危機察知・回避能力の高さは勇者だという事を抜きにしてもリーダーを任せるのには十分だったのだ。
「遠くから、善の魔素の持ち主が近付いてきている。それも······僕によく似た性質の」
「······それってまさか、この代の勇者なのでは······」
「僕もそう思う。でも不可解なのは、魔力がやけに弱い事なんだ。仲間も一人しかいないらしい。······リリー、君の聖女の力はどの程度行使できる?」
「え?えーと······」
エインが身を乗り出してきた。よく真顔でこういうことをする、とリリーは考えるふりをして視線を逸らし、そして数秒した後、思い出したふりをして目線を戻す。その間エインの真摯な目は全く動かなかった。
「元の4割ほど。最大限頑張っても、蘇生魔法が限界です」
「悪の魔素を上書きするには足りないか······仕方ない。何かあったらすぐに呼んでくれ」
エインは返答を待たずに出ていこうとした。······そこで、リリーは思わず立ち上がり、ドアノブに手を掛けたエインの服の裾をきゅっと掴む。
「······リリー?」
「あの、······もうちょっと、ゆっくりしていきませんか、"あなた"」
「······」
「あ、······ご迷惑でしたら別に、っ!?」
リップ音が響く。本人達にしかわからない程小さい音だったが、その意味は大きかった。
「······いいよ。何かあるまで、ここでのんびりする事にしようか」
悪戯少年のような表情を浮かべつつ、エインはそう言う。
そして留まることを決めた彼が最初に行った事は、へたり込んでしまったリリーを助け起こすことであった。

229:◆Ec/.87s:2023/11/21(火) 01:24

>>227の地の文の『恐らくアレクとサロメの事であろう』は『恐らくアレクとペレアの事であろう』の誤りです。申し訳ありません。

230:◆Ec/.87s:2023/11/21(火) 08:24

一方その頃。
「あぁキリがねぇ!どこから湧いてくるんだこいつら!」
「大元から叩く必要がありそうだな」
盗賊のブロウと盾使いのアルスト。軽装と重装、速度と防御。これはこれで能力的にはなかなか相性のいいペアである。しかしそんな彼らは質では他の追随を許さないものの、所詮は二人である。ネアのような範囲攻撃の手段も乏しいため、圧倒的な数を誇る機械兵が相手では戦線を維持するのがやっとであった。むしろその面では、地の利があるレジスタンス解放区の兵士達の方が優秀である。
「とはいえ色気がないのは如何ともし難い所だよな······」
「······」
ブロウの呟きを丁重に無視しつつ、アルストは盾でひとまず最後の機械兵を潰す。
「来援感謝します······危ないところでした······」
「良いってことよ」
一人の兵士がそこにやってきて二人に深々と頭を下げた。······ともすれば、そのままの勢いでのめって倒れそうな程に疲労の色が濃い。休息すらまともに取れていないのだろう。
「······」
感謝の声に快く応えたものの、ふとブロウは押し黙ってしまった。間接的にではあるが、イリスが眠ってしまったのは彼が原因と言っても過言ではない。彼女の指導力と戦闘力でここまで保ってきたレジスタンスである。一時的にしてもその核が失われたとなると、影響は小さなものに留まらないのではないか?────そう考えたからで。
しかし目の前の兵士はそんな事を気にする視野も余裕も欠けていた。
「ええと······アルストさんはここに留まって頂けると。ブロウさんは王都中心部に繋がる抜け道の監視を」
「抜け道?」
「抜け道、というか······反攻作戦の際の通路でしょうかね。我々がここに入る時もそこを使ったものです······」
何だか要らない事まで語られている。この際過去の話が未来に役立つ保証は薄いので心の片隅にでも仕舞っておいて、ブロウは具体的な持ち場を聞き、足早にそこを後にした。




ブロウが言われた通りの場所までやって来ると、そこはやや広めの路地裏であった。砲撃でも受けたのだろうか、いやむしろ受けていないとおかしいのだが、崩れかかった建物や散らばる瓦礫がこの区域を陰の方向に彩っている。
ここには数人の兵士が詰めていた。彼らから会釈を受けつつ、ブロウはひとまず近くの石に腰掛け、疲れた足腰を癒しつつ軽い索敵魔法を起動する。······そう、軽い索敵の筈であった。
索敵範囲に何か奇妙な存在が映り、それが少しづつ近付いてくる事を理解するまでは。

【ちょっとあとがき】
●『魔素』とは?
魔力の素材、略して魔素。善・悪・中庸に分かれている。人族は生まれる際にその比率が決定されるのだが、特定の比率になると魔王・勇者・聖女など特殊な役割を持たされる(それぞれ数百年毎にしか生まれないようになっている)。

231:◆Ec/.87s:2023/12/31(日) 00:11

【???】【phase11】>>206

その時だった。
「······えーいっ!!!」
状況に見合わないほど元気な掛け声と共に、大聖堂の壁が一部吹き飛んだ。すわ突破されたか、とネムは一瞬固まったものの、その隙間から入ってくる少女達を見て軽く息を吐いた。
「······貴女達は······」
「ギリギリ間に合ったみたいでよかった。私はシルバーベル」
シルバーベル。······彼女を先頭にして、数人のベルシリーズが大聖堂の中に入ってきた。その色合いは十人十色である。文字通り十人いるかは不明だが、ともかく下手したら目に染みるほどの色彩の豊かさであった。
「はーい、ゴールドベルだよ。空けた穴は今塞ぐから待っててね」
最後尾で入ってきたゴールドベルが、金で空いた穴を塞ぐ。それだけでほとんど元通りになった。

「······その首元の鈴······聞いた事があります。神の遣いだとか······」
状況をどうにか呑み込もうと、色とりどりの少女達を見回しながらネムは呟く。
「神の遣いって言うと大袈裟だけど······まぁそんなものかな。それより!私達はただこの大聖堂を救いに来た訳じゃない。宝玉あるでしょ?」
シルバーベルの早口に、周囲のシスターのみならず他のベルシリーズも目を瞠った。
「ありますね。······もしかして、」
「うん。危なそうだから回収しに来た」
ネムは若干の期待を込めて問い掛ける。それに応じるのは冷淡なレッドベルであった。
「あぁ······ええどうぞ、こちらに!」
ネム自ら大聖堂の奥へと駆け出して行く。その姿をブラックベルや他2人が慌てて追いかける。


······後に残された面々が口を開かぬうちに、再び轟音が大聖堂の残ったガラスを震わせる。
「また来た······!援護、頼めますか?」
一人のシスターが背筋を伸ばし、レッドベルに問い掛ける。
「宝玉を回収できるまでは。ところで······ここ、人少なくないですか?」
「そうでしょう。シスターもモンクも関わらず王国中に駆り出されていますので」
もはや言うことはない、とばかりに彼女は魔法陣を展開し、そこから光線を撃ち出した。そしてまさにガラスを破って飛び込まんとした機械兵の胸元に寸分違わず命中させた。被害者はというと、撃たれた鳥のように墜落していった。
「······!」
戦いはまだ始まったばかりである。それを証明するように、数多の機械兵が大聖堂を取り囲む。それを見てレッドベルも、拾った棒を力強く握り締めた。

232:夏希 だっさ:2024/02/06(火) 18:16

痛い


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