とりあえず平和なのと迷ったけど。
結局平和なのって難しいよね。というわけで。
周りが書いてるから便乗しちゃった人です。
〈注意!〉
・書き手は気まぐれです。ちょいちょい失踪するかと。なるべく頑張るんで読んでくださるという方は気長に待ってほしいです。
・唐突な思いつきで書くので展開がおかしくなるかも。その際は指摘して欲しいです。
・アドバイス、感想などは喜びます。
・長さがどうなるかは未定。
あ、あと断り入れておきます。
文章書きたいだけなので名前が本当に雑です。
人名にせよ、地名にせよ、です。
>>13
アドバイス、感謝します
(まだ1ヶ月しか小説書いt )
どこも吸血鬼って運命操るんですね
それとも吸血鬼と言ったら運命なんでしょうか?( -_・)?
>>14
いえいえ、参考になったなら幸いです。
はて、どこの吸血鬼様ですかね。
そこから拝借したとか内緒ですよ?
全然違うものにするつもりです。ご安心を。
はい。やっぱり1日目しか頑張れないですね。
とりあえず書きますよ。
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しかし、狂いに気づけなかったのも無理はない。ベルディアと過ごす日々はエマにとっては勿論、ヴィクターにとっても楽しいものだったからだ。
街へ出かけたり、草原を駆け回ったり、庭を散歩したり。無論、日差しの強い日は吸血鬼のハーフのベルディアの肌がボロボロになってしまうらしく、一日中を室内で過ごしていた。それでも彼女といる日々は少し気味が悪いほどエマたちにとって楽しいものだったのだ。
「やあ久しぶり、エマ、ヴィクター。…そこのお嬢さんははじめましてだよね?僕はセフェリノ、度々ここに侵入してくるんだ」
「侵入だと率直に言うな」
「そうだねぇ、じゃあヴィクター達に密かに歓迎されている、でいいかな?」
「ほとんど変わってないだろう。結局は公の客ではないと自称してるじゃないか」
呆れた顔でヴィクターはため息をつく。セフェリノははは、と軽い笑いをこぼしてそういえば君の名前を聞いていなかったよ、と話を戻した。
ベルディアは深々と一礼してからベルディアよ、よろしく、と名乗った。
「ベルディア、か。いい名前だね。さて、君は一体どこから来たんだい?この街で見かけたことはないが…」
「そうねぇ、貴方達も知らない遠いところ、かしら。吸血鬼について調べているの。彼らにはその手伝いをしてもらっているの」
「そうかい。いい情報が見つかるといいね」
エマもヴィクターも少しばかり違和感だった。
屋敷の外でも彼らは出会うことがある。
そう、街でだ。セフェリノは街のことなら大抵のことはなんでも知っており、顔も広い。エマたちと言葉を交わさなくとも彼らのことを一方的に見かけた、という話もよく聞く。
なぜベルディアが現れてからの二週間ほどは一切見かけなかったのだろうか?話を聞いていてもいつも通り過ごしていたようで体調を崩して寝込んでいたわけでもなさそうだった。出会わなかったとしても彼の知り合いが何かしら話をするだろう。二人ともそう思っていた。
だが、二人はただの考えすぎだと思ったらしい。ここでもし、どちらかが違和感に気付けていたら。考えすぎだとさえ思わなければーーー。
しかし、結局後悔したところで過去は変わらない。
変えられるのは、未来だけなのだ。
ほうほう
17:御守:2020/06/17(水) 18:52ハーフと言っても血は飲むんですか?(飲んでたらもうハーフじゃないですね((  ̄▽ ̄)笑)
18:遥架◆/RIeTN.:2020/06/18(木) 17:23
>>17
ですねぇ(笑)
まあその辺りも追々書いていくんでね、
よろしくお願いします!
ちょっと展開が思いつかないので遅れそうです。
ごめんなさい。
ほい、わかりました
20:遥架◆/RIeTN.:2020/06/20(土) 17:06
お待たせいたしました、依然思いついてないのでかなり適当です((
ここからなんとか話を持って行けたらいいかな。
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ある日。
エマはバタンっ、とドアが勢いよく開いたことに気づいて飛び起きる。ただ事ではない気がしたからだ。
案の定真っ青な顔でヴィクターが部屋に入ってきて窓からでもお逃げください!と叫ぶ。よく見ると彼の服の袖が大きく裂けているのが見えた。黒い服であるためはっきりとはわからないが、薄ら赤黒くも見える。
「ヴィクター!?どなたに切られたのですか!?」
「お気になさらず!早く、逃げて…」
言葉を遮るように先ほどヴィクターが開けた勢いで閉まったドアが静かに開く。部屋に入ってきたのは口元を赤く染めたベルディアだった。
「べっ、ベルディア…?何を、しているの…?」
手には血のついた包丁が握られている。服には返り血なのか、血で赤く染まっていて、真っ白なワンピースにはよく映えていた。
「何って、教えるわけないでしょう?」
そう言って抗う間も無くエマはグサっと、左胸の辺りを刺される。みるみるうちにヴィクターの顔色が変わっていったが、ベルディアは彼はいない人間の如く部屋を出ていこうとする。
「おい、待て!」
「何?貴方まで殺されたい訳?」
キッと睨みをきかせるとベルディアはそのまま去っていく。
「…エマ様」
急展開ですねΣ(゜Д゜)凄いワクワクしますよ〜!
月光の第三楽章を聴きながら読みました
なんかクラッシックが合うストーリーでとてもいいですね〜
作者さんもクラッシックを聴きながら描いたらかなり物語の想像出来る用になりそう……(意味.中の人物達と同じ気持ちになるのが大事なのでその場に合った雰囲気、空気の曲を聞くとかなり想像が出来る用になりますよ)私は何時も曲を聴きながら書いてます(クラッシック縛りではありません)
小説下手からのアドバイスで申し訳ありませんが(´Д`)
>>21
ありがとうございます!ワクワクしてもらえたなら良かったです!なるほど、むしろ音楽は聴いてたらなんも思いつかなかったんですが世界観にあってなかったのかもしれませんね。ちょっと試しにやってみます。
全く、気まぐれって怖いですね。5日も空けたくせに今日は更新するらしいです。この次は本気で決めてない。あとネーミングセンスの無さはご了承下さい。そしてほぼ説明会。ごめんなさい。
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「…去った、のか?急がなくては…!!」
そう言ってヴィクターはエマに両掌を向け、何かを念じ始める。時間が経つにつれて頭を抱えたり、体がフラフラすることが増えていっているように見える。
「…ヴィク、ター?」
すると心臓を刺されたはずのエマが起き上がる。代わりにヴィクターの方は彼女が目覚めたことを確認すると力尽きたかのようにフラッと倒れこむ。
エマの心臓の傷はいつのまにか消えていた。
「…またあの能力を使ったのですね。私の為に無理をしたというわけですか」
彼の能力は生命力を分け与えることで相手の傷を回復する能力である。ヴィクターの生命力は人より少し多く、回復も少し早いのである。これはヴィクターに限らず、誰しもが少なからず持っている「魔術適合体質(まじゅつてきごうたいしつ)」と呼ばれるもので、体質で向いている魔術が決まるというものだ。勿論、体質に向いている魔術しか使えないというわけではないが、大抵の人間は体質に向いた魔術を駆使する。
エマは体格が良いヴィクターを軽々しく持ち上げ、自室のベッドに寝かせる。気を失っているヴィクターを連れて歩くわけにはいかないと判断したからだ。
ベルディアの返り血がついた姿をヴィクターを治療しながら思い返す。ヴィクターの傷だけではあんなに多くの血の量にはならないだろう。それに、自室に誰かが駆けつけてくる気配もない。つまりは…
「っ、お父様、お母様ぁ…」
エマはおそらく殺害されてしまった母と父の姿を思い浮かべて涙を浮かべる。使用人が大切でないわけではなかったが、肉親を失った悲しみは何よりも大きかった。
治療を終え、一人涙を拭うエマの耳に足音が響いた。誰かが廊下を歩いているらしい。
お母様とお父様だわっ!
今のエマに冷静な判断は出来なかった。母と父だと思い込んだエマは即座に廊下に出ていく。そこにいたのは母でも、父でもない。
ーーーベルディアだった。
最近忙しい時期ですもんね(´Д`)仕方ないですよ
疲れている時とか、気持ちよくわかります
>>23
まあ最近6時間授業始まったんでね、確かに少々疲れてますね…。でも書けないほど忙しいことはなくってですね、本当に、ただただ続きが思いつかないんです…(笑)
さて、1日空きましたが書きます。
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「やっぱり生きてたのね。通りで貴女の魔力に反応が強いと思ったら…」
屋敷の庭で発見されたどこか怪しく、どこか弱々しい雰囲気は失せていた。ただただ禍々しいだけの狂気を纏って静かに近づいてくる。なんとも言えないその空気感にエマは一歩ずつ、一歩ずつ下がる。廊下も永遠に続くわけではなく、ついに端までたどり着いてしまう。
「さあ、ここで終わりよ、エマ・ルシエンテス」
口角を上げて、まるで今から遠足にでも行くかのように楽しそうに近づいてくる。溢れんばかりの狂気と抑えきれない愉快な感情に満ちた笑顔。それは間違いなく、この状況を、エマを殺そうとしている状況を楽しんでいるからだ。
今にも飛びかかってくるかもしれない、なんて怯えながらこれ以上下がることもできず、エマは壁にもたれかかる。エマが手に握った包丁を振り上げた瞬間。
「やっぱりか。初めて会ったときからおかしいとは思ってたんだよ」
エマの足元の影から黒い影が伸びてくる。やがてそれは実態を伴い、見慣れた銀髪と少し濁った赤目の姿に変わる。
「僕に君の情報が一切入ってこなかったのは君のせいだったというわけか、ベルディア。さあ、怪我をしていないのは幸いだ。エマを怪我させてヴィクターに怒られるのは僕なんだからさ?やめてほしいね」
先ほどまでの緊迫した空気を溶かすようにセフェリノは続ける。ベルディアもさっきまでの狂気が嘘だったかのような余裕そうな表情を浮かべる。
「…貴方じゃ分が悪いわね。出直すわ」
そう言って軽々しく近くの窓から飛び降りて姿を消した。無論、ここは普通の人間が飛び降りて無事な高さではない。が、ベルディアは普通の人間ではないのだからそう軽々と死ぬわけがないのである。
「大丈夫かい?エマ」
先ほどの張り詰めるような殺意は消えて、セフェリノはこちらを見て優しく問いかける。微笑むとまではいかないものの、穏やな表情だ。
しかし、彼の穏やかな表情を見ても、エマは動揺したままだった。親を殺された上に自身も殺されそうになったからだ。当然のことだろう。
「落ち着いてからでいいから何があったか話して?」
少し気を使った側面があったのだろう、セフェリノは優しく微笑んで、そっとエマの腕を引き、彼女の自室の方へと向かう。セフェリノが握った腕からは微かな震えが感じ取れた。
自室へ戻るとセフェリノの目にはすやすやと眠るヴィクターが目に入った。目立った傷がないことから大方何があったかを察する。震えたままのエマをそっとヴィクターの隣に座らせて、セフェリノは一旦廊下に出る。
敵がいないことを確認すると、念のために足音を忍ばせ、息を潜めてゆっくりと歩く。想像通りではあったが、誰も生き残っている者はいないようだ。しばらく進んでいくと、エマの両親の部屋へたどり着く。
そこに広がっていたのは、セフェリノの予想を裏切るものだった。部屋は血に塗れているどころか、むしろ彼らの生前と変わらぬほどに綺麗だった。横たわるエマの両親の死体は動脈を切断されていたが、ほとんど血液は溢れておらず、所々血痕が残るだけだった。
先ほどのベルディアの返り血、切られた動脈…これらを見れば彼女が彼らの血液をどうしたかなんて一目瞭然だ。
「これは…色々知る必要がありそうだね」
俺も洋風ぷんぷんさせたStory書いてるからお互い頑張ろうw
27:遥架◆/RIeTN.:2020/06/28(日) 09:29
>>26
はい、がんばりませう!ありがとうございます!
なんか皆様頑張ってるので私も頑張ります!(しかし私の小説は朝から読む話ではない)
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セフェリノはまずルシエンテス家の書庫へと向かった。二人が戦えない以上あまり遠くへは行けないからだ。敵襲があってもいいようにゆっくりと歩を進め、息を潜める。書庫にたどり着くと少し気を抜くように、はあ、と一息ついてセフェリノは書庫の本を漁り始めた。
三十分ほど探してみたが、吸血鬼に関する資料は見つからなかった。ルシエンテス家の書庫はそこまで大きくない。故に吸血鬼に関する資料がないのも無理はないだろう。二人の意識が戻った時に改めて探すことにしようと考え、セフェリノは元来た道を戻っていく。
部屋の前まで戻ってくると、何やら違和感を感じる。そっと扉を開いて、中を覗き込む。そこにいたのは意識を取り戻したらしいヴィクターと、ベッドの側にぼーっと立っているいつもと雰囲気の違うエマだった。
「エマ…じゃないね、誰だい?」
『ほう、中身が別人だと気付かれてしまいましたか。隠すつもりはありませんでしたがね。はじめまして、私はロイダです。簡単に言ってしまえば吸血鬼の情報の管理者、まあ情報に意思があるくらいに思ってください』
エマの姿、声をしたロイダという人物は彼女の可愛らしい声で淡々と語る。それでも中身が違うのだから、雰囲気というのも変わるものである。
『安心してください、私はあなた方の味方です』
「…そう、まあ今はそういうことにしておくよ」
セフェリノは半信半疑でロイダの言葉を受け入れた。なんせ謎が多すぎるのだ。なぜ情報に意思があるのか、なぜエマの体に意思である彼、もしくは彼女が宿っているのか、そもそもなぜ彼らを味方するのか。考え込む彼にロイダは
『何から聞けば分からないって顔ですね。とりあえずエマさんの体に私がいることの説明から始めましょうか』
と、エマの姿で微笑んだ。しかし、彼女が微笑んだ時の可憐さとはうって変わって、どこか読めない怪しい笑みだった。
『そういえば貴方はいらっしゃいませんでしたが…実は屋敷でベルディアが見つかった時、エマさんは能力を使ったのです』
確か彼女の能力は魔力から魔法の特性を読み取るというものだったはず、とセフェリノは脳内で整理する。続けて、とセフェリノが言うとロイダは椅子に腰掛けて続ける。
『その時彼女は魔法の特性を読み取ると共に、吸血鬼の情報も読み取ったのです。結果、莫大な情報量と私を受け入れたことで彼女は倒れてしまったというわけです』
「つまりあの時エマ様が倒れたのは…」
『ええ、彼女の実力不足もありますが…根本的な理由は吸血鬼の情報量を受け入れられなかったことによるものなのです。私が彼女の中に入り込んで、情報を整理し、彼女に馴染んだことで彼女は意識を取り戻したってところです』
ロイダは足を組んで、少し誇らしげに語る。ヴィクターもセフェリノも納得したような表情で頷いた。
「なるほど。それで…君が表に出てきたことには何か理由があるんだろう?何故かってこと、答えられるかい?」
壁にもたれかかったセフェリノが尋ねるとロイダはふふふ、それも気になりますよねぇ、と笑う。ロイダは再び立ち上がって
『貴方達を手伝いに来たのです。彼らから守るためにね』
と意味深長に笑った。
「…彼ら、か。つまり君はベルディアの他の敵について知っているということかな?」
セフェリノの疑問にロイダはふふ、と上品かつ怪しげに微笑み、その辺りは内緒ですよ、と笑う。それなりに切れ者であるヴィクターにもセフェリノにも彼女の思考は読めなかった。
『さて、そろそろエマさんに体を返してあげないと。彼女、とても怯えていますもの』
「っ、貴様ぁ!!!」
「ヴィクター、やめなよ。まだこの人が敵なのか味方なのか分からないんだから」
『やめてください、疑われたら表にでてきにくいじゃないですか。その点については嘘じゃないですから。そうそう、運命に逆らうことのできた貴方達には『アスピヴァーラ家』を訪ねて頂きましょうか。それでは、またいつか』
それだけ言い残してロイダ、もといエマの体は力なく傾く。まだ動くことが困難なヴィクターに代わって、セフェリノが倒れようとする彼女の体を支えた。少しばかり焦った表情を見せたヴィクターもほっとした顔で、悪い、と一言だけ零した。
「アスピヴァーラといえば山に住むと言われる魔術師の一族か何かだったかな。とりあえず、僕は一旦街の人たちに聞いてくるよ」
「…悪い、頼む」
「君、本当にエマ以外にはありがとうって言えないんだね」
そう嫌味っぽく耳元で囁くと、セフェリノはお大事に、とドアを閉めて去って行った。
セフェリノが去ってから、ヴィクターは意識を失ったエマの方をただただ見つめていた。早く目覚めてほしい一心だったからだ。もしかするとあのまま彼女は目覚めないかもしれない、なんて不安も混じってなかなか落ち着くことはできなかった。できることならベッドに寝かせたいが、彼の体は全く彼の言うことを聞かなかった。それを分かった上でセフェリノも仕方なく、彼女をソファーの上に乗せていったのだろう。
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『お嬢さ…』
『やめてください!私はお嬢様ではありません、エマ・ルシエンテスですわ!エマでいいですわ」
『ですが…』
「ならばエマ様とお呼びください」
『…エマ、様?』
「そうです!ありがとうございます」
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彼女とのそんな懐かしいやりとりを思い出す。ヴィクターが執事としてこの家で務めはじめた頃、10年ほど前のことだっただろうか。それ以来彼はエマのことを「エマ様」と呼ぶようになったのだ。理由は未だに知らないが、彼女がそう言うなら仕方ない。そう思ったからだ。
「う、ん…?私、また…?」
「エマ様っ!!」
ばっと飛び起きることはできず、反動でベッドに戻される。エマの方はゆっくりと椅子に腰掛けてから、ふふ、とお淑やかに笑ってヴィクターの方を見つめた。
「貴方の能力は当分動けなくなるんですから…無理しないでくださいな」
聞こえてくる声、それは間違いなく主の声。口調も、笑顔も、全部全部、エマのものだった。少しの間の話だったのになにがこんなにも恐ろしかったのだろうか。それはヴィクター自身にも分からなかった。
一方、セフェリノは彼の家の近くに住むある男のもとを訪ねていた。コンコン、と軽くノックすると中から誰だ?と低く、太い声が聞こえてくる。
「やあ、僕だよ。ちょっといいかい?」
「ちょっとだぞ?」
はいはい、と軽く受け流してセフェリノは中から出てきたガタイの良い男の家の中へずけずけと遠慮なく入っていく。
「…で、何の用だ?リノ」
「アスピヴァーラ家について尋ねたくてね。バルタ、そういうことに詳しいだろう?」
バルタと呼ばれた男、もといバルタザールは話の趣旨を理解したらしく、あいつらに関わるのはよせ、と顔を強張らせてさらに低いトーンで言う。
「いいよ、僕は彼らについて知る必要があるからね」
「…なにがあっても知らんぞ」
ごほん、と咳払いをして、バルタザールは話を始めた。
「あいつらは吸血鬼たちを絶滅させた一族の末裔なんだよ」
「…え?」
セフェリノは思わずその場で絶句してしまった。バルタザールは絶句する理由をいまいち掴めず、どうした?と端的に尋ねた。
「それじゃあ今は吸血鬼が存在しない、ってことだよね?」
「そうだぞ。お前、絶滅の意味もわからないほどのバカだったのか?」
バルタザールの茶化す言葉なんてものは一切聞こえず、セフェリノはただただ今突きつけられた現実に思考を張り巡らせることとなってしまった。吸血鬼が、絶滅…?そしてある一つの結論にたどり着く。
じゃあ、ベルディアは一体何なのだ…?
「…ごめんよ、話の途中で。それで、アスピヴァーラ家は現在どこに住んでいるんだい?」
しばらく時間が経って、思考を落ち着かせると、セフェリノは再び説明を求めた。バルタザールも落ち着いたセフェリノの姿を見て落ち着きを取り戻したらしいことを察して説明を再開した。
「この街の端、方角で言えばあの山の見える方だな。子供の頃に聞いたことないか?あの屋敷の噂とかよ」
「確か…『アスピヴァーラの屋敷に足を踏み入れし者は運命を狂わされ、未来を歩むことができなくなる』だっけかな。子供ながら死ぬことができないなんて恐ろしい、とか考えてたよ」
「それは子供の発想じゃねえだろ…なんにせよあの屋敷になにがあるかは分からねぇ。気をつけて行ってこいよ」
バルタザールは引き止めることを諦めたのか、少し心配そうにセフェリノの方を見て言った。セフェリノは何も言わなかったが、重々承知と言わんばかりに彼の方を見つめてから立ち上がり、玄関の方まで歩いていった。バルタザールが玄関まで見送りに来ることはなかった。彼のことだ、おそらくは「絶対に帰ってこい」といった意味合いなのだろう、とセフェリノは悟った。
とりあえずちゃんと読んでくださっている方ももしかしたらいるかもしれないので。そして気づいたのが今更でごめんなさい。
今回謝罪したいのはエマが倒れた理由についてです。本当のところは実力不足が見せかけの理由で、情報量でぶっ倒れたのが真の理由です。つまりは>>9の段階で真の理由を出してしまっていたのに>>28で真の理由をはじめて出したかのようになってます…。
行き当たりばったりで書いててこんなことになりました。ごめんなさい。この小説に関しては同じようなミスがまだあるかもしれません…次作以降はこうはならないように対策致しますのでどうか寛大な心で読んでいただけるとありがたいです。
とりあえず今から書きます。しばしお待ちくださいまし。読んでくださる方がいるかは分からないけど…
小説のミスの説明レスとか見たことない…
ほんっとうにごめんなさい。
ルシエンテス家の屋敷に戻ったセフェリノはエマとヴィクターにアスピヴァーラ家についての説明をした。
「なるほど…それは急いだ方がいいこと、ですよね?」
「そうだね、なるだけ急ぐべきかな」
そう言うとエマは悩ましい顔をしてからヴィクターの方を見つめる。そう、まだ彼は能力を使った反動が回復しておらず、やっと手の指が少し自由に動くようになったくらいなのだ。そんな彼がまだ歩けるはずもないのである。
「エマ様、私は車椅子で行きます」
「…誰が押すと思ってるんだい?」
「私にエマ様を放っておいて寝てろというのか」
ヴィクターからのなんとも言えない、強い圧力を感じたセフェリノは渋々頷いて、どこにあるの、と一言尋ね、奥様の部屋の隣の部屋だ、という返答を聞いてから部屋を出て行った。
5分くらい経つと、車椅子を押しながら嫌そうな顔をしているセフェリノが帰ってきた。彼の布団をめくり、自分より体格のいいヴィクターを軽々と持ち上げて車椅子に乗せた。
「では、参りましょうか」
未知への好奇心なのか、エマはどこか嬉しそうに笑いながら言った。
あらかじめ呼んでおいた馬車に乗り込み、ほら、たいして押すことはないだろう?とヴィクターはセフェリノに向かって言う。セフェリノは気に食わないような表情で馬車にヴィクターを乗せると、彼の向かい側に広々と座った。よっぽどヴィクターの言い回しが気に食わなかったらしく、彼らしくないむっとした表情で外を見つめる。エマはそんな二人の様子をそっと見守りながら、今から起こることに少しの恐怖を覚えながらも、楽しみと言わんばかりに笑っていた。
「到着いたしました」
15分くらい経ってから、馬車が止まり、御者のそんな言葉が聞こえる。外に出ると噂に違わぬ不気味な屋敷が彼らの視界に広がった。そこで好奇心で心が満たされていたエマの心にも恐怖がじわり、じわりと広がった。が、立ち尽くしているわけにもいかないので門番のいない門を開き、一歩一歩ゆっくりと歩を進める。
「…お邪魔します」
屋敷に足を踏み入れると、エマはそう一声かけた。誰もいない真っ暗な玄関ホールだった。そして誰かが出てくる気配もない、そう思っていた矢先だった。
ビュッ、と何かを振りかざすような音が聞こえて反射的にエマは軽く身を捩らせる。戦闘向きの能力でない上、護身術を少し心得ただけのエマにはおそらく戦闘慣れしている相手に歯が立つはずもなく、反撃することはできなかった。
真っ暗な玄関ホール故にセフェリノの能力もまともに機能するはずがなかった。が、実は彼の能力は一つではなかった。
「っ!?」
攻撃を仕掛けてきた無表情だった少女の表情が少しばかり歪んだ。セフェリノのもう一つの能力、それは「人の闇を増幅させる能力」だった。つまりのところはトラウマを実際よりも大袈裟に蘇らせる能力であり、ある一定の値まで増幅させることができるのだ。
しかし、彼女には大したトラウマがなかったのか、少し顔を歪ませるだけで攻撃に衰えは見られなかった。こうなったら実力行使か、あまり女性相手に手出しをしたくないセフェリノであったが、仕方ない。そう心に決めた瞬間だった。
「もうやめるのじゃ、レリア」
はい、私またミスを見つけまして。
街の端に住んでるって書いたり、
山に住んでるって書いたり…
山の近く、かつ街の端って認識でお願いします。
ごめんなさいミスの多いアホで…
では、ここからは本編をお楽しみくださいまし。
また少し間が空きまして申し訳ありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暗くてよく見えなかったが、声の主はどうやらホールの奥の方にいるらしかった。カツ、カツとこちらにゆっくり歩いてくる音がホールに響く。
「ご主人様…!!」
近くまで来て声の主の顔がはっきりとエマ達の目に映る。声の主の髪は白く、顔はしわくちゃで目尻や口元にもシワができていることが暗い玄関ホールでも分かった。
「その方達はお客様じゃ。君は下がってなさい」
申し訳ありませんでした、と頭を下げて謝るとレリアは足早に何処かへと消えていった。彼女が去ったことを確認すると、
「私はこの屋敷の主、ハインツ・アスピヴァーラじゃ。よくいらっしゃった、君達が吸血鬼の運命に逆らったという方々じゃな?さあ、どうぞこちらへ」
ハインツと名乗った老人は軽く手招きをした。3人はハインツが向かう方へと静かについていく。ホールから向かって左側に続く廊下をしばらく歩いていくと、シャンデリアが飾られ、本棚の立ち並ぶ部屋にたどり着いた。玄関ホールとはうって変わって明るく、どうやらこの部屋からベランダに出ることもできるらしかった。ハインツの座りなさい、の声を聞いて、3人はソファーに腰掛ける。
「ところで一つ質問よろしいですか?」
「なんじゃ、私に答えられることならなんでも聞きなさい」
ソファーに腰掛けると一息つかせる間も与えずエマがハインツに質問を投げかけた。
「どうして私達が吸血鬼の運命に逆らったことを知っていたのですか?」
エマがそう尋ねるとハインツはにっこりと優しい笑みを浮かべて、そうじゃなぁ、長くなるぞ?と返事を待たずに質問を投げかける。
「ロイダという名に聞き覚えはあるかのう」
「ロイダ…ええ」
ヴィクターとセフェリノも静かにうなずく。それを確認すると、やはりな、とぼやいてまた一つ質問をだした。
「吸血鬼が絶滅していることも知っておるな?」
「はい」
「なら分かるだろう。ロイダ…いや、ロイダ・アスピヴァーラ様は吸血鬼を絶滅させた張本人であり、その当時の当主を務めていたお方だ」
瞬間、動揺の空気が流れる。当然だろう、エマの姿を借りていた吸血鬼の情報の管理者、ロイダの正体がアスピヴァーラ家の当主だと、目の前の現当主が言うのだから。そんな空気感のまま、少し沈黙が流れる。
「…なぜ吸血鬼は滅ぼされたのでしょうか。そもそも吸血鬼の絶滅はいつ頃の話ですか?」
沈黙を破ったのはヴィクターだった。ハインツはまた微笑んで、話を続ける。
「そうじゃな…私が生まれる30年ほど前、だった筈、だから100年ほど前の話じゃ。吸血鬼は運命を定めることができる。おそらくは未来を支配される前に彼らを支配しよう、といった考えからの差別だったのじゃろう」
当時の人々の心境を3人とも理解できないわけではないが、少し違和感を覚えていた。そう、実害は一切なかったのだからそこまでする必要はあったのだろうか、と感じたのである。当時を生きていない以上なんとも言えない故に口に出せず、3人ともどこか難しい表情をしていた。ハインツはそれを感じ取ったのか、たしかに今の私達には理解に苦しむことだろう、と説明を続けた。
「その通りなのじゃ。変に刺激しない方が良いことだってある。差別が始まって数十年、ちょうど100年前じゃな。おとなしくしていた吸血鬼も耐え難くなったのだろう。人々が恐れていたように未来を自分たちの都合の良いものにする者が現れ始めたのじゃ」
3人の表情はさらに険しくなる。
そして、その先の物語の結末も見えた。
「自分勝手を許されることはない、と当時の当主であったロイダ様はアスピヴァーラ家の人間と共に吸血鬼達を絶滅させたというわけじゃ」
「待ってください、何故吸血鬼だけが滅ぼされることになるのですか?先に傷つけられたのは彼らだったのに!!人間だって自分勝手だったのに!!」
エマはつい感情的になって少し声を荒げる。ハインツは勿論のこと、普段の彼女を知っているヴィクターやセフェリノまでが驚いた表情で彼女を見つめた。
「…お嬢さん。気持ちは分かるがな、仕方のないことなのじゃ。確かに全ての原因は人間達による勝手な行動だろう。しかしな、世の中お互いのためを思っているだけでは生きていけないのじゃよ。お互いの自分勝手をぶつけ合って吸血鬼は負けてしまった、ということなのじゃ」
ハインツの語り口調は落ち着いていたが、言っていることそのものに対してエマはやはり納得がいかなかった。人間の自分勝手のために吸血鬼は滅ぼされたのか。そんな思考ばかりがぐるぐると巡る。皆仲良くというのが綺麗事だということをエマも分かっていた。それでも世界を知らなかった彼女に対しては厳しい現実だったのである。またもや気まずく、静かな時間が流れた。
「…それじゃあ、他の質問いいかい?」
先ほどよりも長い沈黙を破ったのはセフェリノだった。私に語れることならなんなりと聞いてくれ、というハインツの返答を聞くと
「何故ロイダ・アスピヴァーラはいまだに情報の管理者としてこの世にとどまることができているのか、教えてくれるかな」
と、先ほどとは全く違った趣旨の質問をした。
ほう、そうきたか、とハインツはどこか期待通りだったような、そうでないような曖昧な返事をする。
「簡単じゃよ、魔力を消費してこの世に止まっているのだ」
「…噂には聞いていたけど。本当にそんなことができるんだね」
「そうじゃ、レリアのような風属性、その他火属性、水属性、地属性の術師は自身の魔力で10年。君達の能力なら50年は生きることができるだろう」
セフェリノに関しては落ち着いて話を聞いており、話をつなげることもできているが、エマとヴィクターは声にならない声を出そうとせんばかりの表情で呆然と立ち尽くしている。当然だろう、単純にロイダは魔力量で100年生きているということになる。そして消える兆候たるものも窺えないことからまだ魔力量に余裕はあるということになる。
「ロイダさんの魔力量ってどのくらいなんですか…?」
思わずエマが尋ねるも、ハインツはさあ、それは私にも分からんのう、とどこかはぐらかすように言う。
「長くなったがつまりのところじゃな、ロイダ様に聞いたという訳じゃ」
本当に長かったな、と言わんばかりにヴィクターはそっぽ向いている。この従者はエマに関わること以外は一切興味がないのである。それにしても露骨ではあるが、一応彼は怪我人だ。彼の意思を尊重してここは早く去るべきだろう、とエマは立ち上がって
「それではそろそろ失礼いたしますわ」
と微笑んで言った。
エマの挨拶でハインツも立ち上がり、どこからともなくレリアも現れて玄関まで共に進んでいく。2人が深々とお辞儀したのを確認するとエマは外に出てから丁寧に扉を閉めた。
直後ーーーズザザザァッ、とセフェリノがヴィクターを抱えてエマの方へと飛んできた。何事かと顔を上げるとそこにはベルディアが紅い瞳をキッ、と光らせて立っていた。人数ではこちらが勝っているものの、各々の状況を考えるに不利なのはこちらだろう。
奇襲を仕掛けてきたベルディアの容姿は以前の美しさはなく、痩せこけて目元には真っ黒な隈が浮かんでいる。どうも以前武器として使っていたナイフも持ち合わせておらず、どうやら己の身体を張って戦うらしかった。
「今、彼女は噛みつこうとしてきた。吸血鬼の血は半分のはずなのに、行動は吸血鬼そのもののように思える。以前猫かぶっていた可能性も否めないけど…もしかしたらもうほとんど理性が失われてるのかも」
セフェリノは冷静に分析すると、ばっ、と手を差し出してきたエマに悪いね、とヴィクターを抱えさせて僕が相手するよ、と好戦的に笑った。
セフェリノから伸びた影はうねうねと蠢きながらベルディアの方へと伸びていく。ベルディアは素早くそれらを避け、徐々にセフェリノとの距離を詰めていく。噛みつこうとしているらしく、常に口は大きく開かれている。
「効き目はなさそうだけど…っ」
少し余裕のなくなった表情をちらつかせながらもセフェリノはもう一つの能力を発動させる。しかし、理性を失いつつあるベルディアには効果がないらしく、セフェリノはすぐ目の前まで詰め寄られてしまった。
それでも諦めまいと影を伸ばした彼の意思とは裏腹にベルディアは首筋に噛みつこうとした。するとーーー
「待ちなさい」
と、聞き慣れた少女の声が響いた。顔を上げて声の主の方を見る。やはり、「中身は違う」ようだ。エマ、もといロイダはベルディアの方をじっと見つめる。不思議とベルディアも動きを止めて彼女の方を強く睨んだ。
しばらく沈黙が流れてから、沈黙を破るようにベルディアがロイダの方にかかってくる。ロイダは微動だにせず、彼女を見つめる。そして少しだけ手を動かしてまた立ち止まるとベルディアはその場で立ち止まり、ガタガタと震え始めた。
あ、描写忘れちゃいましたがエマが抱えてたヴィクターはロイダにそっと床に置かれたってことで。ほんとごめんなさい。
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魔法の知識は最低限のヴィクターはもちろん、何に対してでも知識がそれなりにあるセフェリノまでがベルディアの身に起きたことを理解できず、飛び出しそうなほど目を見開いている。
『何がなんだか理解できない、って表情ですね。彼女の魔力に干渉して少し弄ったんです。魔力の性質を弄ると吸血鬼としての力も弱めることができるんです』
そう説明して、それじゃあ、とロイダはお辞儀して、体の持ち主をなくしたエマの体だけが力なく倒れる。主人の体を気持ちだけでも、とヴィクターが手を伸ばす。彼の意思を継ぐかのようにセフェリノがエマの体を受け止めた。
ガタガタと震えていたベルディアの震えは随分治まっていた。それでもまともに戦える様子ではなかったらしく、悔しそうにエマたちを睨みつけてから走って逃げていった。
ベルディアが去って、屋敷の中からハインツとレリアが飛び出してきた。どうやらハインツの年齢的な問題でそこまで全力で走ることができなかったことや屋敷の広さ故のことなのだろう。
「というか何故ベルディアはここに?」
セフェリノが静かに疑問についてぼやく。息を切らしているハインツの代わりにレリアがおそらくですか、と続ける。
「エマ様の能力はロイダ様からお聞きしました。彼女に対してどこかで能力を使ったのでは?」
「あっ、そういえば…」
声に出したエマは勿論、声に出さなかったヴィクターも思い当たることがあるらしい。そう、感じたことのない魔力を解析した時だ。エマの父親が意地として運び込まなかった故にエマが能力を発動したのである。
「あの時ですか…」
思い出して納得がいったらしく、エマはうんうん、と誰に頷くでもなく首を縦に振る。
「少しでも魔力が混ざり合えばお互いの居場所が分かるようになりますから…おそらくそうやって居場所を特定したのかと」
淡々と語る少女を尻目に、エマはこちら側からも特定できるのかと試してみた。方法こそ知らなかったが、案外にも考えることが苦手な彼女は念じればなんとかなるだろう、という信念のもと目を瞑って、念じることにすべての集中力を注いだ。
「見えましたわ…今はどうやら街で人混みに紛れてるみたいですわね…」
念じるだけでどうにかなるのか。その場にいた全員が同じことを感じていたことだろう。魔力から探知することが比較的簡単なこととは言えど説明もなくこなせてしまうのはおそらく彼女の能力が高い故のことなのだろう。
「…レリア、お主も分かっておるじゃろうが、この通り、居場所が分かってしまう以上彼女たちはいつ襲われてもおかしくない。彼女たちの護衛をしなさい」
「承知いたしました、主人。…よろしくお願いします」
レリアは律儀にエマたちにも挨拶をする。
エマたちもあまりの律儀さに戸惑いつつもこちらこそ、という意味で軽く会釈した。そしてハインツの方に向かって、ありがとうございます、とお礼を言うと、それじゃあ、と長居することなくその場を去っていった。
ルシエンテスの屋敷に戻ったエマたちはヴィクターをベッドまで運び、食堂から持ってきた3人分の椅子に座る。長時間話すことを想定してのことだろう。
「早速だけど…ロイダさんに質問いいかな」
『ええ、どうぞ』
どうやらいつのまにかエマと交代していたらしい。雰囲気に変化がなかったが故にヴィクターもセフェリノも少しばかり驚いたが、すぐさま落ち着きを取り戻す。
「結局のところベルディアが僕達のことを狙う理由って何なんだい?」
自分も気になると言わんばかりにヴィクターも首を振る。ロイダが少し考えるような素振りを見せてしばらく経って、彼女が口を開いた。
『おそらくはあなた方の能力の珍しさ、魔力の膨大さによるものでしょう』
『目的は分かりませんが強力な味方が欲しいのではないでしょうか。そして操り人形として自分たちの手元に置いておきたい。あなた方を操ることが彼らにとっての都合の良い未来への選択肢となっていた可能性もありますね』
存外存在する可能性にセフェリノもヴィクターもただ頷くことしかできなかった。なんにせよ操られてはならないということは誰の目から見ても明らかなことだ。
「…それと、もう一つ。絶滅したはずの吸血鬼が存在する理由について覚えは?」
『…私が吸血鬼を始末しきれなかった、ということなのでしょう。彼らの子孫がベルディアや他の吸血鬼たちなのかもしれません』
ロイダは申し訳なさそうに推測を披露すると、突然立ち上がって、
『こうなってしまったのは私のせいかもしれません。私の不始末にあなた方を巻き込んでしまって申し訳ない。ベルディアの始末には最善を尽くします』
と、頭を下げて謝罪した。
2人は貴女のせいではない、と言わんばかりの表情で頷くと、セフェリノが頭を上げてください、と声をかける。それからしばらく頭を下げ続けたロイダが頭を上げると表情を変えた。
『ありがとうございます。…ベルディアをなるべく早く始末するべきです。早速彼女を倒す手段を考えましょう』
翌日、ルシエンテスの屋敷付近にてエマたちはいつになく緊張感をまとってそこに佇んでいた。
そこで昨日、ロイダの言っていたことについて思い出していた。
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『まず居場所の問題は先程エマさんが感知できたので問題ないでしょう。ルシエンテスの屋敷にたどり着くなり襲ってくるに違いありません。なのでまずはエマさんがベルディアの力を抑制してください』
「その隙に僕とレリアさんが攻撃をして…」
「私が回復をする、ということだな」
『理解が早くて助かります…エマさんが抑制が使えるか不安だ、とおっしゃってます。レリア、協力してください』
「承知いたしました」
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あの後、ロイダが抑制の力を使っていたときのことを思い返すことでエマはそれとなく能力を使うことができた。あの実践で少しは自信がついたことは間違いない。それでも敵と対峙する以上、緊張感が解けることはなかった。
やがて5分ほど経った頃だろうか。不意に風を切るような音がして反射的に振り向くと案の定血色が悪い少女の姿が目に入る。ベルディアだ。ベルディアはセフェリノの方へと飛びつき、首に食らいつこうとする。セフェリノは噛みつかれまいと一步後ろに飛び、魔法を発動するために魔力を込める。形として現れた影は複雑な動きをしているものの、軽い身のこなしによってたやすく避けられてしまう。弱っているとはいえど吸血鬼、そうかんたんに倒れる相手ではないということだろう。
葉っぱで小説描いてたんやな!
何か設定がめっちゃ好き!また読むな!
>>47
ありがとー!!そうそう、ここで書いてました(笑)
設定好きだって!?が、頑張る!!
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しばらく互角の戦いが続いた。ベルディアの攻撃も、セフェリノの攻撃も、双方には当たらない。
が、その時。ベルディアがふらり、とふらついた。それをセフェリノは見逃さなかった。エマがうまく抑制したのだろう、と察したからだ。先程までの攻撃より魔力を多く込めて、これで決めると言わんばかりに影を浮かばせて、ベルディアの方へとまっすぐ飛ばした。
ーーーふいに、風の音が聞こえた気がした。
しかし、ベルディアに攻撃を当てることにすべての精神を注いでいたセフェリノは気にもとめなかった。
もう少しで影がベルディアに届くというその時。
ザシュッ、と肉を裂くような、生々しい、嫌な音がした。
激痛が走った自身の体を見ると、腹部から血が滴っている。
顔を上げて、意識を失いかけたその時に見えたのはーーー
にぃっと意地の悪い笑みを浮かべるハインツと、能力を発揮した張本人であろう無表情のレリアと、そんな二人を呆然と見つめているエマとヴィクターの姿だった。
力なく倒れたセフェリノに構う余裕もなく、二人はただただ立ち尽くした。
協力者であるはずのアスピヴァーラの人間であるレリアに攻撃された理由も、目の前でハインツが笑っている理由も。何もかも訳がわからなかった。しかし、彼らが味方ではなかった、それだけは不思議と二人の脳内にすっと入ってきた。
ほんの少しのような、そうでもないような沈黙を破ったのはエマだった。
ヴィクターには攻撃のための能力もない上に、彼は本調子ではない。
自分しか彼らには立ち向かえないのだ。
そんな使命感から、より強い魔力を感じるハインツの能力を抑制しようとした。
が、そううまくいくはずがなかった。
「っ、邪魔、しないでくださいっ…」
ヴィクターの目には映らないものの、何が起こっているかは容易に予想できた。
ロイダだ。彼女がエマの中で邪魔しているのだろう。
しばらく体の主導権はエマの方にあったように思えたが、やがて抵抗する様子はなくなっていき、静かにその場に倒れ込んだ。すぐに立ち上がったときには…
『さあ、それでは。…始めましょうか。』
エマの中身はロイダに変わっていた。
ヴィクターは抵抗しようかとも考えた。しかし、エマやセフェリノが敵わないような相手に自分が叶うはずもない。少し考えれば分かる話だ。降参だ、と素直に両手を上げて告げた。すぐさまレリアがヴィクターを縛り上げ、すっとその場に座らせた。
「さあ、いずれ死ぬ運命にある君にはすべての真実を聞かせてやろう」
意地の悪い笑みを浮かべたまま、ハインツは何を思ったのかそんなことを口走る。抵抗のしようも反抗のしようもなく、ヴィクターは興味なさそうに耳を傾けた。
「まずは…そうじゃな、私達がお主らに干渉した理由を教えてやろう。そのあたりに関しては少し自覚があるじゃろ?」
「…私達の能力の珍しさや魔力の高さに目をつけた、ということか」
「そのとおりじゃ」
何の誇りがあるのか、ハインツは終始誇らしげに語る。どうせろくでもないことであるのは話を聞かずとも分かることだった。
「お主らを魔術の研究に使って、用が済めばお主らをロイダ様の復活に取り込もうというわけじゃ」
案の定ろくでもない理由に、そんな立場ではないとわかっていながらもヴィクターは呆れた。
そんなくだらないことに主も友人も巻き込まれ、傷つけられたのだ。
そう思うのも無理はない。
「ほう、逆上するのかと思ったが…」
「逆上してどうにかなるならしてたよ」
遅かれ早かれ死ぬ運命にあるはずのヴィクターが落ち着いていることが気に食わないのか、ハインツの貼り付けたかのような薄気味悪い笑みは少し引いていた。が、しばらくするとまた同じような笑みを浮かべて
「さて、お主らが私達の研究材料になれと言っても抵抗されることは分かりきっている。抵抗させないようにどうするか、お主には推測できるのではないか?」
と、新たな問いを投げかけられる。興味のない結末を聞かされて、更に呆れつつも仕方なく、と言わんばかりに
「さあ…私にも分からんな」
と、適当に答える。考えていないことはお見通しだったらしく、もう少し考えてほしいものだがねえ、と残念そうな声を漏らす。分からないなら、と少し面白くなさそうに
「吸血鬼を使うのだよ」
とため息まじりに言う。やはり生きていたのか、と言うと厳密には違うな、と余裕を見せるように笑った。
「我々が疑似的に作ったに過ぎないのだ」
分かりきっていたようでそうでなかった、そんな答えにヴィクターは思わず戦慄した。
「当時吸血鬼は差別されていたという話はしたじゃろ?奴らが差別をなくすために運命を選択していたのは事実じゃ。しかしだな…」
少し、沈黙が流れる。少しの沈黙にすら居心地の悪さを覚え、早くしてくれと言わんばかりにハインツの方を睨みつけるとそれに答えるかのごとく
「都合のいいように運命を捻じ曲げた吸血鬼というのはいなかったのだよ」
とすんなりと言った。その先の想像はヴィクターにも容易に想像できた。彼の想像通り、吸血鬼は無実の罪を作り上げられ、アスピヴァーラに滅ぼされたのだという。滅ぼされた理由はアスピヴァーラの名誉のため、地位のためだという。もはや呆れて物が言えない状態だった。彼らの素性が割れてからはろくでもない人間だろうとはわかっていたが、まさかここまでだったとは…ヴィクターは素性を見抜くことのできなかった自分の無力さを今更ながら嘆いた。後悔してももう遅いとはわかっていながら。
「地位があれば色々と理由をつけて実験材料を用意できるだろう?この100年間、我が一族はあのときの名誉と地位を使って新魔術を実験してきたというわけじゃ」
自慢気に語るハインツの様子をヴィクターは見つめるでもなく、目を背けるでもなく、何気なく同じ場所に居合わせているだけのように意識することすら放置した。なんとかこの状況を脱出しなければならない。しかし、ヴィクターの能力では逃げ出したとしてもすぐに捕まるに違いない。どうするべきかと悩んでいたその時。
バッ、とハインツの体が吹き飛んだ。ハインツの方も何がなんだか理解の追いついていない様子であたりをキョロキョロと見回す。彼の目が捉えたのは痩せこけて、弱々しく変わり果てた金髪の少女、ベルディアだった。
おー!面白いし、めっさ文才ある……
本当に羨ましい……
てか、関係ないこと言ってごめんだけど
小説投稿したのほぼ同じ時刻って奇跡じゃね??
>>53
ありがとー!いやいや、私もまだまだよ(笑笑)
え?ってなって見に行ってみたらガチだったwwwたしかに奇跡かもしれんねwwwww
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ヴィクターの方も意味がわからなかった。ベルディアがハインツを攻撃した意味が。本物の吸血鬼が存在しない今、ベルディアもアスピヴァーラの操り人形でしかないはずなのに。操っている元であるはずのハインツ、もといアスピヴァーラの人間を攻撃した意味が。ハインツの方はやっと状況を理解したのか
「…まだ意思が残っていたとは。計算外だったのう…」
と、立ち上がってぼやく。ベルディアの方は体当たりしただけであるにも関わらず、すでに疲れ切っているかのごとく息を切らしていた。その姿を見たハインツは嫌な笑みを浮かべて、
「まあもう限界が近いようじゃな。そいつはもう長くないだろう。そもそもそいつだけは魔術面においても平凡だったからのう…少し酷使しすぎたようじゃな」
と、物のように語る。息も絶え絶えになりながら、ベルディアはハインツの方に襲いかかる。よくはわからないがおそらくは自分たちの味方なのだろう。今は彼女に頼るしかない。それならヴィクターのすべきことは決まっていた。
自身の魔力をセフェリノとベルディアに注ぎ込み、回復させた。一人なら微力でも二人なら勝率は上がると考えたのだ。消えそうになる意識を保とうと持ちこたえるも、やはり身体的な負担は大きく、ヴィクターは思わず倒れ込んでしまう。全快したセフェリノは彼の意図を察してか、ベルディアにレリアを頼めるかい?と尋ねた。言葉はわかるらしく、反応はなかったものの、すぐさまレリアの方へと飛びかかっていった。
「さあ、それじゃあ僕は貴方と戦おうか」
宣戦布告して、すぐさまセフェリノは自身の体から影を伸ばした。相手の能力は未知数。勝機があるかもわからない。それでも今は戦うしかないのである。
「…貴女に意思があったとは、私も驚きです」
その場に静かに佇んでいたレリアが初めて口を開く。と同時にベルディアの方に向けて勢いの強い風を発生させ、飛ばす。それを打ち消すようにベルディアは水の壁を築いて、時間を稼ぎ、風の当たらない場所に逃げる。その後も容赦なく風を生み出しては飛ばし続け、更に息切れはひどくなっていた。やっとの思いで避けていた攻撃もついには避けきれず、風の渦に飲まれ、切り刻まれてしまう。
ここで負けるわけにはいかない、と持ちこたえ、自分の余力を使い切ってベルディアはレリアとの距離を詰める。レリアの方もベルディアが飛びかかってくるのを見てさっきよりも遥かに規模の大きい風を生み出す。それを見たベルディアは同じように水を発生させ、レリアの方に向けた。
発生した風はベルディアの体を切り刻み、水の方もまた、レリアを切り刻む。二人分の血が舞い、二人が戦っていた付近の地面はおびただしい血液で埋め尽くされた。血液の中に二人は倒れ、倒れた反動で少し血が飛んだ。どうやら相打ちだったようだ。
何かどんどん暗黒っぽくなって来てる?
続き気になるわ……!
>>54
いやいや、何か例えの表現とか、描写の仕方とか
めっちゃ文才あると思う!
でしょ?wwwほぼ一致だよねw
♪あーしーたーきょーうよーりもーすきにーなーれーるー
>>56
続き気になる?嬉しいなあ(笑)
マジ?でももっとすごい人がいるのはほんまやし…まあでもありがとう!!
♪あふれるおもーいがとーまーらーなーい
はい、本編の空気と違いすぎるだろってね()本編始まります。
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一方、セフェリノもまた、ハインツを相手に苦戦していた。能力は至って普通の地属性の魔法であり、能力の珍しさや威力、魔力の高さなどの面においてはセフェリノのほうが圧倒的に有利だった。が、長年の経験によってハインツは自身の能力の特性、弱点などを知り尽くしており、実戦経験がエマやヴィクターに比べて多いセフェリノであっても歯が立たないのだ。ハインツはセフェリノの行く先行く先の地面を操る。攻撃が飛んでこないように計算しているのだろう。長年の経験もあってか勘も鋭く、セフェリノの次の足場にする先を見事に当て、攻撃する隙を与えようとしなかった。
少し荒くなってきた息を整えようにも、ハインツは休ませる気など更々なく、容赦なく地面を操り、更には地面から得体の知れない、長いツタのようなものを伸ばしてセフェリノを締め付けようとする。余裕のない中、セフェリノはハインツに対抗しようと、影を伸ばす。が、その影がハインツのもとまで届くことはなかった。影はツタのようなものに打ち消され、影の消えた反動でセフェリノの体も軽く吹き飛んだ。
「所詮若造にできることなどない。レリアはまだまだ弱かった、それだけのことであって、君たち自身は無力なのだよ」
こんなときですら、ハインツは余裕の表情で微笑む。長年の経験による余裕から生まれる笑みなのか、それともただの悪趣味な笑みなのかを判断するほどの余裕はセフェリノのはなかった。
ーーーふと、セフェリノの脳裏に一つの手段がよぎった。失敗すれば間違いなく自分は敗北して、命を落とすことになる。それだけならまだいいものの、ヴィクターやエマ、ベルディアまでもが命を落としてしまうことも考えられるのだ。それでも今は僅かな可能性にすがるしかない。
ハインツにも、わずかに隙が生まれるくらいに激しいトラウマがあるという可能性に。
わずかに地面に足を飲まれながらも、セフェリノは落ち着いて、的確に魔術を当てようと集中する。ハインツはセフェリノが諦めた程度にしか捉えておらず、まだ余裕そうな笑顔を浮かべている。魔力が変化していることにすら気づかなかったようだ。ふと、ハインツの視界が暗転する。暗闇で視界がかき消されると、今度は頭の中に激しい痛みと、彼の中の忌まわしい記憶がぐるぐると駆け巡る。
「ぐぅっ…」
声にならない声が耳に入ると、セフェリノはすかさず影を伸ばした。勢いよく伸びた影はハインツのもとまで届き、うずくまるハインツを貫く。貫いた影はセフェリノの足元へと静かに帰っていき、ハインツの体もまた、静かに倒れる。運任せではあったものの、なんとかセフェリノは勝利を収めた。
『いやぁ、お見事です』
長らく黙っていたエマ、もといロイダは手拍子にも似た軽い拍手をする。そしてセフェリノの方にニタニタと笑って近づき…
パキッ、と音を立てて何かをぶつけようとしてきた。嫌な予感がして反射的に後ろに飛ぶ。すると、ロイダは勘はよろしいようですね、とあの怪しい笑みで言う。彼女がそういった直後、地面がパキパキと音を立てて徐々に凍り始めた。どうやら音の正体は氷だったらしい。凍った面積が広がるにつれて辺りの空気は冷やされ、うっすらと寒さを感じる。
『氷の魔術…水の魔術の上位互換とでも思っていただければ。少なくとも一族の中で唯一平凡な能力しか持ち合わせてなかったベルディアさんよりは強力ですよ。まあ、私の能力はこれだけではないのでね』
ベルディアの方にそっと視線を向け、見下すようにロイダは言った。これだけではない、という言葉が気になるが、彼女の本領発揮を待っていれば間違いなくセフェリノもやられてしまうだろう。ならば本領を発揮する前に始末してしまえばいいだけのこと。そう簡単に敵うはずもないことは薄々感じながらもセフェリノは影を伸ばした。
ーーーロイダがうつむき加減に笑ったことにヴィクターもセフェリノも気づかなかった。
無論、初手は氷で薙ぎ払われる。氷で薙ぎ払うとロイダの方も氷柱のような尖った、鋭い氷の棘を無数に飛ばしてくる。その大きさゆえに動けなくなるほどの傷になることはないだろう。しかし、距離を詰めることも難しければ、視界も不安定で、セフェリノの方が圧倒的に不利である。涼しげな顔で氷を放ち続けるロイダをどうすればよいものか、とセフェリノは被害が最小限になるよう薙ぎ払えるだけの棘を薙ぎ払い、懸命に、冷静に策を練った。トラウマの再起には集中力が必要であるために使えない。あまり最善ではなかったが、セフェリノは近くの木陰に体を同化させ、一時的に考えることに集中しようとした。自身の体を影に変形させることは魔力の消費が激しい。あまり長くは考えられないのだ。
攻撃を避ける必要がない分、今なら集中力を保てる。ロイダのトラウマを再起させることもできるだろう。さっきほど時間を稼げなくてもいい、とにかく今は厄介な氷の棘の雨を止めて隙を作ることが最善だ。
ーーーしかし、そううまくはいかないのである。
棘の雨が止まった。次の手はなんだ、と静かに構えていると…
ザシュッ、と自身の体を貫く音がする。激しい痛覚と冷たい感覚も同時に襲ってきた。
ああ、さっきもこんなことがあったな。
せっかくヴィクターが傷を癒やしてくれたというのに。
…やっぱり僕じゃ敵わなかったな。
意識が薄れゆく中、セフェリノの目には自身を貫いた鋭利な氷が、あらゆる方向に飛び出している光景が焼き付いた。
わずかに意識を保っていたヴィクターは今起きた惨劇に目を見開き、朦朧としていた意識がはっきりしたことを感じた。3人の中で一番実戦経験も豊富で魔力の高いセフェリノが負けてしまったのだ。そもそも彼の敗北した光景を見たことがなかったのだから意識がはっきりとしてしまうのも無理はない。むしろ今意識がはっきりすることは都合がいいとも言える。いや、実際に自分の体が元気になったわけではないので意識がはっきりとしたところでどうしようもないわけだが。
『どうしても貴方は残される運命なのですね。それでは貴方にあなた方の運命を私が教えてあげましょうね』
子供に語りかけるようにロイダは言って、本当に彼らの運命を語り始めた。
『と、その前に。ベルディアさんについても少しお話しておきましょう。彼女がエマさんのご両親を殺したのはあなた方の操られる運命から逃そうとしたからですよ。まあ結局偽物といえど吸血鬼が選択した運命は絶対的なものだったみたいですね』
あははははははっ!!と辺りに響き渡るようにロイダは高笑いした。
『私達が選んだ未来…それはあなた達が最終的には破滅するということ。もちろんベルディアさんも含めてです。それがアスピヴァーラに永遠の栄光が与えられるという未来に繋がっていたのですよ…!!』
「…栄光を得てまで新魔術の実験がしたいか」
『勿論ですとも、いずれ私も永遠の存在となって、永遠にこの世界を支配する者として君臨するのです…そのための準備ですよ、新魔術の実験は!!』
高ぶった様子のロイダに、ヴィクターは呆れを通り越したのか笑っていた。ロイダはそれが気に入らないのか、むっとしてヴィクターの方を見つめる。何が面白いんですか、と尋ねると
「そんなこともわからないやつが世界を支配するなんてできっこないさ」
と笑った。バカにされたと思い込んだロイダはついになにがおかしいんですかっ、と怒りを顕にした。それを見てヴィクターは更に笑い、あろうことか咳き込み始めた。元々体の調子が全快でないことも要因してのことだろうが、それにしても尋常ではない。
「貴様は我々が破滅すると言ったな?しかしそうはならない。させないんじゃなくてならないんだ。先程も申した通り貴様にこの世界の支配者なんて大層なことはできない。運命の示す通りに行動すれば自身の求める未来が待ち受けていると信じ切っているのだからな。もしもこの先も生きていられるなら、一生、この言葉だけを覚えてろ。
ーーー全部が全部、お前が過信している運命のご示し通りにはならないとな!」
そう言い切るとヴィクターは最後の力を振り絞り、セフェリノとベルディアの回復に全力を尽くした。己が持ち切る魔力のすべてを注ぎ込んで。体のあらゆる場所から血が吹き出ようと止まることはせず、本当に全力を尽くしたのである。
「さあ、私はここまで、だ…」
そう言って血みどろの地面にヴィクターの体は倒れ込んだ。
「…やるじゃないか。と、その前に。ありがとう、ヴィクター。君にこの先もしぶとく生きてられるだけの悪運があればいいね」
「すごい…これ、呪いまで回復してるの…?」
「正確には呪いの分の負傷をヴィクターが背負ってる、ってところだね。さあ、こうしちゃいられない。早くそこの化け物を退治しよう」
「でも中にはエマが…」
「生憎僕はヴィクターのように甘っちょろくないものでね」
そう言って早速セフェリノは影を伸ばそうとするが、瞬時に先程の二の舞になるのでは、という考えが浮かび、トラウマを再起しようという考えに転換した。ロイダのいる方向に魔力を向け、勢いよく放つ。確かに魔法は彼女にぶつけられた。…しかし、ロイダがトラウマに頭を痛める様子も、苦しむ様子も見受けられない。平然と立っているのだ。魔法をぶつけられてしばらくするとにっ、と急に口角をこれでもかと言わんばかりに引き上げて笑って、狂ったように氷を放ち始めた。先程のような棘だなんて可愛いものではなく、一度貫かれてしまえば回復すら間に合いそうもない。間違いなく即死してしまうような大きさだ。
「こんなの…!!」
「いや、これくらいならなんとか避けられるよ」
セフェリノもベルディアも自衛を怠ることなく無我夢中に避け続ける。ただ逃げるだけでは無駄だと分かりきっていたし、トラウマの再起が効かない訳も、急に氷が大きくなった訳も、なんとなく想像がついていた。しかし、どうにも打開策が思いつかないまま、ただ逃げ続ける時間が続いているのである。
攻撃を当てようと二人はそれぞれ、がむしゃらに影を伸ばし、水の粒を放ち、刺し切り刻むことを繰す時間が続いた。そのうち、数回に一度だけロイダもといエマの体が影や水を掠めることにセフェリノが気づいた。理由はなんとなく察しがついた。けれどまだ、その時ではない。ベルディア同様、無心に影を伸ばし続ける。
ーーその時だった。ガクッ、とエマの体が傾いた。
「邪魔しないでくださいっ!!!」
ロイダが声を荒げた。ロイダの方も必死に抗おうとする様子が伺えた。刹那、抗う動きが止まり、エマの体は少し重たげに、低木にもたれかかりながら意識を取り戻した。
「私が今から全力で彼女の力を抑制します!その間にありったけの魔力を私の体にぶつけてください!」
「で、でもそれじゃあ君も」
「いいんです、そのくらいしなきゃ彼女は私から消えない。さあ、あなたたちの手で、そして私の手で。彼らが決めたくだらない運命なんて壊してやりましょう」
伯爵令嬢らしくない、不敵な笑みを浮かべた。いや、そうは言ってもやはり少しばかり可愛げを含んだ、悪戯めいた笑みだった。
「さあ!!!今です!!!」
その声は屋敷で声を荒げた時よりも、先程ロイダが声を荒げた時よりも遥かに大きい、勢いのある声だった。いつになく張り上げた声を合図に、ベルディアが勢いの強い水を放ち、セフェリノが鋭利な影をロイダの方へと伸ばした。無論、両者の本気の攻撃にいくら魔力の有り余ったロイダといえど反応できなかった。
青と黒が混ざり合って、彼女を包み込むよう周りに取り巻いた。二色が消えた時、地面に倒れこむエマの体が二人の視界へと入った。きっと軽傷では済まない。きっと、エマはこの街を守れるならなんでも良かったのだろう。それが自身を犠牲にすることになったとしても。
「……疲れたねぇ。僕達も、ここまで、か……」
「ええ……我ながら、よく、やった、わ……」
ドサドサッ。二人分の倒れる音がした。